説明

車椅子用ウインチ装置

【課題】ドラムの牽引部材の巻き取り量に関わらず、牽引部材が小さく弛んだ時点で弛みを検出できる車椅子用ウインチ装置を提供する。
【解決手段】車椅子に連結される牽引部材と、牽引部材を巻き取り、送り出すドラムと、ドラムを回転駆動する駆動部と、牽引部材の方向転換部材とを有する車椅子を車室内へ引き上げ、車室外へ引き降ろすための車椅子用ウインチ装置であって、牽引部材の弛み検出手段が、方向転換部材の近傍に設けられていることを特徴とする車椅子用ウインチ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付けられ、車椅子を車室内へ引き上げ、車室外へ引き降ろすとき、ベルト等の牽引部材を用いて前記車椅子を牽引する車椅子用ウインチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、背面の開口より突出したスロープを通って車椅子を車室内へ引き上げ、車室外へ引き降ろすことができる車両が登場してきている。乗車者を乗せた状態の車椅子を、前記スロープを利用して前記車両の内部又は外部に移動する場合、多くは、介助者によってなされている。また、前記車両には車椅子を牽引するウインチ装置が備えられている場合が多い。この種のウインチ装置は、電動モータと、減速機と、ベルトと、ドラムとを備えている。前記ドラムは前記減速機を介して前記電動モータと接続している。前記電動モータの動力は前記減速機を介して前記ドラムに伝達されており、前記ドラムは回転する。前記ドラムには前記ベルトの一端が固定されており、前記ベルトが巻き取られている。前記ドラムが回転することで、前記ベルトは巻き取られる又は送り出される。
【0003】
前記ウインチ装置は、前記ベルトを前記車椅子に取り付けた状態で、前記ベルトを巻き取る或いは送り出すことで、前記車椅子が前記車両の車室の外部から内部に又は内部から外部に移動するときの補助を行うことが可能である。
【0004】
しかしながら、前記ドラムの前記ベルトの巻き取り又は送り出しの速度と、前記車椅子の移動速度がずれる場合があり、前記ベルトが弛む場合がある。前記ベルトが弛んだ状態で、前記介助者が前記車椅子から手を離すと、前記車椅子は前記スロープを下方に急激に移動し、前記車椅子の乗車者に恐怖感を与えてしまうことがある。そこで、特許文献1や特許文献2のように、ベルトの弛みを検知する弛み検知機構を備えたウインチ装置が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載のウインチ装置では、ベルトを巻き取る又は送り出すドラムを支持している軸に回転可能に支持された検知レバーと、前記検知レバーの先端に取り付けられ、前記ベルトと接触している検知部材と、前記検知レバーが一定角度移動したとき、前記ベルトが弛んでいると検知する弛み検知センサとを備えている。このウインチ装置では、前記検知レバーには、前記検知部材が前記ベルトを押圧する方向に付勢するばねを備えている。
【0006】
前記ウインチ装置において、前記ベルトが弛みなく巻き取り又は送り出しされているとき、前記ベルトの張力が前記検知部材を押す力と前記ばねによる前記検知レバーを付勢する力とがつりあっている。前記ベルトが弛むと前記ベルトの張力が低下し、前記検知レバーが前記ばねの付勢力によって回転する。前記ウインチ装置は、この検知レバーの回転を前記検知センサが検知することで、前記ベルトの弛みを検知している。
【0007】
また、特許文献2に記載のウインチ装置では、ベルトを巻き取る又は送り出すドラムの近傍に配置され上下に移動可能なローラと、前記ローラを下方に付勢するばねと、前記ローラが予め決められた位置まで移動したとき、前記ローラによって押されるスイッチとを備えている。
【0008】
前記ローラは前記ベルトが弛みなく巻き取り又は送り出しされているとき、前記ベルトの張力で上方向に押されており、前記ベルトの張力による前記ローラを上方向に押す力と前記ばねが前記ローラを下方向に押す力が釣り合って前記ローラは停止している。前記ベルトが弛むと前記ベルトの張力が低下し、前記ばねが押す力が前記ベルトの張力よりも大きくなる。これにより、前記ローラは、下方に移動し、予め決められた位置に到達したとき前記スイッチを押す。前記ウインチ装置では、前記スイッチが前記ローラに押されたことで、前記ベルトが弛んだことを検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−125532号公報
【特許文献2】特開2009−101125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記ドラムに前記ベルトを巻きつけている場合、前記ベルトの前記ドラムに巻き取られている巻き取り量によって、前記ドラムから前記ベルトが引き出される場所が異なる。すなわち、前記ベルトの前記ドラムによる巻き取り量が多いと、前記ベルトの前記ドラムから引き出される場所は前記ドラムの軸から遠く、前記ベルトの前記ドラムによる巻き取り量が少ないと、前記ベルトの前記ドラムから引き出される場所は前記ドラムの軸に近くなる。
【0011】
そして、特許文献1では前記検知部材が前記ドラムの近傍に配置されているので、前記検知部材の位置は前記ベルトの前記ドラムから引き出される位置に左右されやすい。そして、前記検知センサが前記ベルトの弛みを検知するまでの前記検知レバーの回転角度が大きく変化する。また、特許文献2に記載のウインチ装置でも同様に、前記ローラが前記ドラムの近傍に配置されているので、前記ローラの上下方向の位置は前記ベルトの前記ローラからの引き出し位置に左右されやすい。そして、前記ローラが前記スイッチを押すまでの距離が大きく変化する。
【0012】
すなわち、特許文献1や特許文献2のウインチ装置では、前記ドラムの前記ベルトの巻き取り量によって検知できる弛みの大きさが異なり、精度の高い弛みの検出をベルトの巻き取り量に関わらず行うことができないという問題がある。
【0013】
そこで本発明は、ドラムの牽引部材の巻き取り量に関わらず、牽引部材が小さく弛んだ時点で弛みを検出できる車椅子用ウインチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、車椅子に連結される牽引部材と、前記牽引部材を巻き取り、送り出すドラムと、前記ドラムを回転駆動する駆動部と、前記牽引部材の方向転換部材とを有し、前記車椅子を車室内へ引き上げ、車室外へ引き降ろすための車椅子用ウインチ装置であって、前記牽引部材の弛み検出手段が、前記方向転換部材の近傍に設けられていることを特徴とする車椅子用ウインチ装置。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明は、牽引部材の弛み検出手段が、方向転換部材の近傍に設けられているため、ドラムの牽引部材の巻き取り量に関係なく、小さい弛み量の時点でその弛みを検出することができる。
【0016】
(2)弛み検出手段が、方向転換部材の近傍に回動可能に設けられ、牽引部材を押圧する押圧部材と、押圧部材を牽引部材の押圧方向へ付勢する付勢部材と、押圧部材に操作されるスイッチとから構成される場合は、弛み検知手段の構成が簡易であり、省スペース化を図ることができる。
【0017】
(3)押圧部材が、スイッチのON操作部と、ON操作部に隣り合う位置に配置されたOFF操作部とを有する場合は、1つの部材で2つのスイッチ操作をすることができ、省スペース化を図ることができる。
【0018】
(4)ON操作部またはOFF操作部の一方と隣り合う位置に、ON操作部またはOFF操作部の他方と同じスイッチ操作を行う回避部が設けられている場合は、牽引部材の弛み検出に加え、牽引部材の逆巻きも検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(a)は本発明にかかる車椅子用ウインチ装置の平面図であり、図1(b)は同じく車椅子用ウインチ装置の正面図である。
【図2】図2は、図1に示す車椅子用ウインチに用いられる弛み検出部の概略配置図である。
【図3】図3(a)は図2に示す弛み検出部に用いられている押圧部材を上側から見た斜視図であり、図3(b)は同じく平面図、図3(c)は同じく正面図である。
【図4】図4は、図3(b)に示す押圧部材のIV−IV線で切断したときの断面図である。
【図5】図5は、図3(c)に示す押圧部材のV−V線で切断したときの断面図である。
【図6】図6(a)は押圧部材を付勢するバネの平面図であり、図6(b)は同じくバネの側面図である。
【図7】図7(a)はドラムに巻き取られている牽引部材の量が少ないときの弛み検出部の状態を示す図であり、図7(b)はドラムに巻き取られている牽引部材の量が多いときの弛み検出部の状態を示す図であり、図7(c)は牽引部材の弛みが発生したときの弛み検出部の状態を示す図である。
【図8】図8は、弛み検出部が逆巻きを検出した状態の弛み検出部の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明にかかる車椅子用ウインチ装置の図である。図1(a)は本発明にかかる車椅子用ウインチ装置の平面図であり、図1(b)は同じく車椅子用ウインチ装置の正面図である。車椅子用ウインチ装置は、車両等の開口部からフロア(道路、地面等)に渡されたスロープを用いて、車椅子を車室内部に又は車室外部に移動させるときに、車椅子を車室内部に向かって牽引する牽引装置である。
【0021】
図1に示すように、車椅子用ウインチ装置Whは、少なくとも、牽引部材1、ドラム2、駆動部3、方向転換部材4及び弛み検出手段5が備えられている。車椅子用ウインチ装置Whは、車椅子のフレームFrの左右2箇所を引っ張ることができるように、ドラム2、駆動部3、方向転換部材4及び弛み検出手段5はベースBsを介して左右に1つずつ備えられている。なお、車椅子用ウインチ装置Whは左右対称の形状及び構成となっている。従って、以下の説明では左側の構成について説明し、右側の構成についての詳細な説明は省略する。
【0022】
図1に示すように、牽引部材1は厚み方向に柔軟性を備えた帯状の部材であり、ドラム2に巻きつけられる部材である。牽引部材1の一方の端部はドラム2に固定されており、他方の端部は車椅子のフレームFrに連結するための連結フック11が備えられている。牽引部材1はドラム2から車椅子用ウインチ装置Whの外側に向かって引き出されている。そして、ドラム2から引き出された牽引部材1は方向転換部材4で方向が転換され正面側に引き出される。そして牽引部材1はベースBsに配置されている牽引部材通し7に形成されている貫通孔を貫通し、その貫通した部分よりも先端側が車椅子用ウインチ装置Whよりも外側に配置されている。なお、車椅子用ウインチ装置Whでは、牽引部材通し7がねじ止めでベースBsに取り付けられているものとしているが、ねじ以外の方法で取り付けてもよく、ベースBsと一体に形成されていてもよい。
【0023】
ドラム2は回転することで、牽引部材1の巻き取り及び送り出しを行う部材である。ドラム2はベースBsとカバー6との間に備えられたドラム支持軸61に回動可能に支持されている。図1(b)に示すようにドラム2は上下に牽引部材1をドラム2の上下方向中央にガイドするガイド部21を備えている。なお、車椅子用ウインチ装置Whでは、ドラム2は、ガイド部21がベースBsに対して、上下に並ぶように配置されているが、これに限定されるものではなく、牽引部材1の巻き取り及び送り出しを円滑に行うことができる取り付け方向、取り付け位置を広く採用できる。また、ドラム支持軸61はベースBsやカバー6と別部材で、ベースBsとカバー6とに固定されるものであってもよく、ベースBsやカバー6と一体に形成されるものであってもよい。
【0024】
図1(b)に示すように、駆動部3はベースBsを挟んでドラム2の下側に取り付けられている。駆動部3は電動モータ(不図示)と、電動モータの駆動力をドラム2に伝達する減速機(不図示)とを備えている。駆動部3によって、ドラム2は牽引部材1を巻き取る方向(図中a1方向)又は牽引部材1を送り出す方向(図中a2方向)に回転駆動される。このドラム2の回転は、電動モータの回転方向を変更することで行ってもよいし、減速機に回転方向を変更できる機構を設けておいてもよい。駆動部3は不図示の制御部からの支持によって駆動される。なお、減速機としては、複数枚の歯車を用いるもの、ベルトとプーリを用いるもの、チェーンとスプロケットを用いるもの等、電動モータの出力軸からの回転力をドラム2に効率よく伝達できる構成のものを広く採用することが可能である。
【0025】
また、左右の牽引部材1の巻き取り量又は送り量を一定に保つために、左及び右の駆動部3の減速機には、両方の減速機の動作を同期させるための同期シャフトSsが取り付けられている。この同期シャフトSsが取り付けられていることで、何らかの問題が発生し片方の駆動部3の動作の開始がずれたり、動作しなかったりした場合でも、左右のドラム2の回転を同期させることができる。これにより、左右の牽引部材1の巻き取り量又は送り量が異なる不具合の発生を抑制することができる。
【0026】
方向転換部材4は、ベースBsとカバー6との間に配置された円柱状の軸である。方向転換部材4はドラム支持軸61と平行で、カバー6をベースBsに取り付けたとき、ドラム支持軸61より外側(左側の場合、ドラム支持軸61より左側)となるように配置されている。ドラム2より左方向に引き出された牽引部材1は、方向転換部材4の曲面部分に架けまわされることで、正面側に引き出されている。そして、ドラム2の回転によって牽引部材1が巻き取られる又は送り出されるとき、牽引部材1は方向転換部材4の曲面部分を摺動する。
【0027】
なお、車椅子用ウインチ装置Whにおいて、方向転換部材4は円柱状の軸部材であるが、それに限定されるものではなく、軸部材の外側に牽引部材1が摺動するのを助けるように摺動部が形成されていてもよい。この摺動部としては、摩擦係数の少ない(例えば、フッ素樹脂)などの樹脂のコーティングや部材を取り付けるもの、或いは、回転可能な円筒状の部材が取り付けられる構成であってもよい。いずれの場合においても、方向転換部材4で牽引部材1に不要な負担をかけないような構成が好ましい。
【0028】
そして、方向転換部4から牽引部材通し7に到達する間に、牽引部材1は長手方向の軸周りに90度回転されている。牽引部材1の他方の端部に取り付けられている連結フック11を車椅子のフレームFrに連結する。このとき、牽引部材1は弛み無く張った状態であることが好ましく、車椅子用ウインチ装置Whでは、牽引部材1の弛みを検出するために弛み検出部5を用いている。図1(a)に示しているように、弛み検出手段5は方向転換部材4に回動可能に取り付けられている。
【0029】
本発明の要部である弛み検出手段5について、新たな図面を参照しつつ詳しく説明する。図2は弛み検出手段の概略配置図である。図1(a)及び図2に示しているように、弛み検出手段5は方向転換部材4の近傍に設けられ、方向転換部材4に回転可能に取り付けられる押圧部材51と、カバー6と押圧部材51とに係合し、押圧部材51を方向転換部材4周りに牽引部材の押圧方向へ付勢する付勢部材52と、押圧部材51によってON操作又はOFF操作されるスイッチ53(図1(a)等参照)とを備えている。
【0030】
まず、押圧部材51について詳しく説明する。図3(a)は図2に示す弛み検出手段に用いられている押圧部材を上側から見た斜視図であり、図3(b)は同じく平面図、図3(c)は同じく正面図である。また、図4は図3(b)に示す押圧部材のIV−IV線で切断したときの断面図であり、図5は図3(c)に示す押圧部材のV−V線で切断したときの断面図である。
【0031】
図3(a)に示すように、押圧部材51は上端部に円柱状の軸である方向転換部材4を摺動可能に外嵌する上側軸受け部511と、下端部に上側軸受け部511と対向して配置された下側軸受け部512と、上側軸受け部511と下側軸受け部512とを連結し、スイッチ53を操作するスイッチ操作部513とを備えている。そして、上側軸受け部511には、付勢部材52が係合される付勢部材係合孔514を備えている。なお、押圧部材51は、上側軸受け部511、下側軸受け部512及びスイッチ操作部513が一体で形成されているが、それに限定されるものではなく、2以上の部材を組み合わせて形成するものであってもよい。
【0032】
図3(b)に示すように、上側軸受け部511は方向転換部材4が貫通する貫通孔515を備えている。貫通孔515は方向転換部材4の外径よりも大きい内径を有する円筒状の孔である。また、図3(a)、(b)に示しているように、下側軸受け部512も同様の貫通孔516を備えており、上側軸受け部511の貫通孔515と下側軸受け部512の貫通孔516のそれぞれの中心を結んだ線は、上側軸受け部511及び下側軸受け部512と直交する。また、図3(c)に示しているように、スイッチ操作部513は上側軸受け部511及び下側軸受け部512のそれぞれと直交するように形成されている。さらに、図3(c)、図4に示しているように、スイッチ操作部513は外周部を囲む側壁である。
【0033】
図5に示すように、スイッチ操作部513は、押圧部材51を方向転換部材4に取り付けたとき、方向転換部材4の周方向に連続して形成された3つの部分を備えている。中央部には、スイッチ53をON状態にするON操作部5131、スイッチ53をOFF状態にするOFF操作部5132、OFF操作部と同様にスイッチ53をOFF状態にする回避部5133とを備えている。図5に示すように、回避部5133、ON操作部5131及びOFF操作部5132が右回りに順に隣り合う位置に配置されている。これにより、1つの押圧部材でONとOFFの2つのスイッチ操作をすることができ、省スペース化を図ることができる。詳しくは後述するが、押圧部材51において、回避部5133のON操作部5131と反対側の端部が牽引部材1を押圧している。また、付勢部材係合孔514は付勢部材52を構成している鋼線を挿入できる程度の内径の孔である。
【0034】
次に付勢部材52について説明する。図6(a)は押圧部材を付勢する付勢部材の平面図であり、図6(b)は同じく付勢部材の側面図である。図6(a)、(b)に示すように、付勢部材52は鋼線を巻いて形成したねじりばねである。付勢部材52は、コイル状に形成されたコイル部521とコイル部521の一方の端部よりコイルの接線方向に突出し、先端が折り曲げられ押圧部材51に形成されている付勢部材係合孔514と係合する押圧部材側係合部522と、コイル部521の他方の端部よりコイルの接線方向に突出し、カバー6に形成されている後述の付勢部材係合孔62に係合されるカバー側係合部523とを備えている。
【0035】
図2に示しているように、コイル部521は方向転換部材4に外嵌している。また、押圧部材側係合部522はコイル部521の中心軸と平行となるように折り曲げられており、カバー側係合部523はコイル部521の中心軸と平行に折り曲げられた部分の先端をさらにその部分と直交するように折り曲げられている。このように、カバー側係合部523を複数箇所折り曲げることで、カバー側係合部523が付勢部材係合孔62と係合するので、付勢部材52がカバー6からはずれるのを抑制することが可能である。
【0036】
次に、弛み検出手段5による牽引部材1の弛みを検出する手順について、新たな図面を参照して説明する。なお、スイッチ53についても同時に説明する。図7(a)はドラムに巻き取られている牽引部材の量が少ないときの弛み検出手段の状態を示す図であり、図7(b)はドラムに巻き取られている牽引部材の量が多いときの弛み検出手段の状態を示す図であり、図7(c)は牽引部材の弛みが発生したときの弛み検出手段の状態を示す図である。
【0037】
まず、付勢部材52の押圧部材51及びカバー6への取り付けと、スイッチ53について説明する。付勢部材52は押圧部材側係合部522とカバー側係合部523とを、コイル部521の巻き数が増える方向に縮めた状態で取り付けられている。図7(a)に示しているように、カバー6の付勢部材係合孔62はカバー側係合部523の長さよりも大きな内径の孔であるので、カバー側係合部523を付勢部材係合孔62に係合させやすい。
【0038】
これにより、付勢部材52は弾性的に変形された状態で押圧部材51及びカバー6に係合される。付勢部材52はもとの形状に復元しようと弾性力を発揮する。この弾性力によって押圧部材51及びカバー6のそれぞれ付勢部材係合孔514、62を押す。カバー6はベースBsに固定されているので移動しない。これにより、図7(a)に示しているように、押圧部材51は平面視反時計回り方向(矢印b1方向)に付勢される。このとき、押圧部材51のスイッチ操作部513を見ると、回避部5133のON操作部5131と連結しているのと反対側の端部で牽引部材1を押圧している。
【0039】
そして、カバー6の方向転換部材4の近傍にはスイッチ53が備えられている。スイッチ53はリミットスイッチであり、スイッチ53のON、OFFを行うレバー部531が方向転換部材4側に備えられている。なお、スイッチ53はレバー部531が押し込まれたときONになり、離れたときOFFになるリミットスイッチである。そして、スイッチ53はレバー部531の先端部が押圧部材51のスイッチ操作部513の回避部5133、ON操作部5131及びOFF操作部5132のいずれかと常に接触するように配置されている。このように弛み検知手段を構成することで、弛み検知手段の構成が簡易であり、省スペース化を図ることができる。
【0040】
図7(a)、図7(b)に示しているように、牽引部材1がドラム2に巻き取られている状態で、牽引部材1が弛んでいないとき、回避部5133の先端は牽引部材1のドラム2と方向転換部材4との間の部分と接触している。押圧部材51は付勢部材52の弾性復元力により、回避部5133を牽引部材1に押し付けているが、回避部5133は牽引部材1の張力によって押し返されており、押圧部材51は静止している。このとき、スイッチ53のレバー部531はON操作部5131に押されており、ON状態となっている。このとき、不図示の制御部によって、スイッチ53がONであることが検出されており、制御部は牽引部材1が弛んでいないと認識する。
【0041】
なお、図7(a)は牽引部材1のドラム2に巻き取られている量が少なく、牽引部材1のドラム2から引き出される位置が、ドラム支持軸61の近くになっている。一方で、図7(b)は牽引部材1のドラム2に巻き取られている量が多く、牽引部材1のドラム2から引き出される位置が、ドラム支持軸61から離れている。この違いによって、牽引部材1のドラム2から方向転換部材4までの部分の牽引部材1の方向転換部材4に対する角度が異なってくる。
【0042】
図7(a)及び図7(b)に示しているように、牽引部材1のドラム2に巻き取られている量が少なくても多くても、スイッチ53のレバー部531はON操作部5131に押されており、上述した制御部は牽引部材1が弛んでいないと認識する。なお、牽引部材1がドラム2に最も巻き取られているとき、或いは、ドラム2から最も送り出されている(牽引部材1のドラム2に巻き取られている量が最も少ない)とき、スイッチ53のレバー部531がON操作部5131に押されるように、ON操作部5131が形成されている。
【0043】
例えば、介助者がスロープ上で車椅子を押しているとき等、牽引部材1の巻き取り又は送り出し速度と車椅子の速度とがずれる場合がある。その場合、車椅子のフレームFrが牽引部材1を引っ張る力が弱くなり、牽引部材1の張力も低下する。このように牽引部材1の張力が低下すると、図7(c)に示しているように、付勢部材52の弾性復元力による押圧部材51を反時計回り(矢印b1)方向に押す力が、牽引部材1の張力が回避部5133を支える力(押し返す力)よりも大きくなる。これにより、押圧部材51は反時計回り(矢印b1)方向に回転する。
【0044】
押圧部材51が回転すると、ON操作部5131が移動し、レバー部531はOFF操作部5132と接触する。OFF操作部5132はON操作部5131よりもスイッチ53から離れるように形成されているので、スイッチ53はON状態からOFF状態に切り替わる。スイッチ53のONからOFFへの切り替わりにより、制御部は牽引部材に弛みが発生したことを検出し、モータを停止させて牽引部材1の巻き取り又は送り出しを停止させる。
【0045】
上述したように、本発明の車椅子用ウインチ装置Whでは、牽引部材1の弛みを検出する弛み検出手段5を方向転換部材4の近傍に配置している。そして、牽引部材1は必ず方向転換部材4の外面を摺動するように配置されているので、前記牽引部材1がドラム2から引き出される位置が変化しても、前記牽引部材1が押すことで、前記押圧部材51が移動する移動量は小さく抑えられる。すなわち、牽引部材1のドラム2に巻き取られている量が変化しても押圧部材51の位置はあまり変化しない。このことにより、牽引部材1が小さく弛んだときの押圧部材51の移動であっても、押圧部材51でスイッチ53のON/OFF切り替えを行うことが可能である。以上説明したように、弛み検出手段5が方向転換部材4の近傍に配置されていることで、ドラム2の牽引部材1の巻き取り量に関係なく、牽引部材1の小さな弛み量の時点でその弛みを検出することができる。
【0046】
車椅子用ウインチ装置Whでは、通常の牽引部材1の送り出しにおいて、ドラム2が牽引部材1を全てを送り出すことがないように、牽引部材1の長さに余裕を持たせてある。しかしながら、牽引部材1が別の部材に巻きついていたり、車椅子を車室から離れた位置に到達するまで牽引部材1を外すのを忘れてしまったりすると、牽引部材1が最も送り出された状態になる場合がある。この状態で、ドラム2をさらに送り出し方向に回転させると、ドラム2が反対の巻きつけ方向で牽引部材1を巻き取ってしまう(以下逆巻きという)。
【0047】
本発明の車椅子用ウインチ装置Whでは弛み検出手段5で逆巻きを検出できるようになっている。図8は弛み検出手段が逆巻きを検出した状態の弛み検出手段の状態を示す図である。牽引部材1が最も送り出されると、牽引部材1はドラム2の中央の筒状部分から直接、方向転換部材4に延びる。このとき、牽引部材1のドラム2から方向転換部材4までの部分の方向転換部材4に対する角度が最もきつくなる。図8に示しているように、方向転換部材4に延びる牽引部材1は下側から延びるようになる。このとき、牽引部材1は送り出されている最中なので、牽引部材1には張力が作用している。
【0048】
これにより、牽引部材1が下方から延びている分だけ、押圧部材51を時計回り(図8中b2)方向に押す。押圧部材51がb2方向に移動すると、スイッチ53のレバー部531はON操作部5131から離れ、回避部5133に押される。回避部5133はON操作部5131よりもスイッチ53から離れるように形成されているので、スイッチ53はON状態からOFF状態に切り替わる。スイッチ53のONからOFFへの切り替わりにより、制御部はスイッチ53がOFFになったことを検出し、牽引部材1に異常が発生したことを検出し、モータを停止させて牽引部材1の巻き取り又は送り出しを停止させる。
【0049】
押圧部材51の角度を検出できるセンサをさらに備えておき、その角度によってスイッチ53のOFFが弛みによるものか逆巻きによるものか判断するようにしてもよい。また、送り出し開始から終了までの時間を予め設定しておき、その時間に到達する前のスイッチ53がOFFに切り替わったのであれば、弛みによるものと判断するようにしてもよい。さらに、牽引部材1の送り出し長さを検出できるようにしておき、一定の長さが送り出される以前にスイッチ53がOFFに切り替わったら、弛みによるものであると判断するようにしてもよい。
【0050】
なお、時間による判断をする場合、制御部は、予め設定された時間を超えてもスイッチ53がOFFにならない場合、何らかの不具合が発生していると判断するようにしてもよい。牽引部材1の長さによるものであっても、同様に一定長さ以上送り出されたときは不具合が発生していると判断してもよい。
【0051】
さらに、上述の実施形態では、弛み検出手段5は牽引部材1が逆巻きされたことを検出するものとしているが、牽引部材1がドラム2にある程度巻き取られている状態で、スイッチ53のレバー部531がON操作部5131から回避部5133に移動し、スイッチ53がOFFになる構成としてもよい。この構成によると、ある程度の牽引部材1がドラム2に残るので、牽引部材1が実際に逆巻きされることを防ぐことが可能である。
【0052】
また、本発明にかかる車椅子用ウインチ装置Whにおいて、スイッチ53は、機械的な接触を行うリミットスイッチを用いているが、それに限定されるものではなく、磁石(永久磁石又は電磁石)とホール素子を用いて、ON/OFFを切り替えるものであってもよい。また、スイッチ53は、牽引部材1が弛まず、逆巻きされていない状態のとき(通常運転のとき)、ONであるものを例に説明しているが、逆に、通常運転のときOFFで、弛みや逆巻きが発生したときにONになるスイッチであってもよい。
【0053】
さらに、本発明にかかる車椅子用ウインチ装置Whでは、車椅子を牽引するための牽引部材としてベルトのような帯状の部材を例に説明しているが、これに限定されるものではなく、ワイヤ、チェーン等、ドラムで巻き取ることができ、押圧部材51で押圧することができる部材を広く採用することができる。
【0054】
また、本発明にかかる車椅子用ウインチ装置Whの弛み検出手段5では、押圧部材51を牽引部材1のドラム2から方向転換部材4までの部分に押し当て、押圧部材51の移動量で弛みを検出しているが、牽引部材1の方向転換部材4から牽引部材通し7までの部分に押し当て、その移動量の変化で弛みを検出するものであってもよい。この構成によると、牽引部材1のドラム2に巻き取られている量に関係なく、牽引部材1の方向転換部材4に対する角度が一定になるので、微少な弛みであっても正確に検出することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は車椅子を車室内へ引き上げ、車室外へ引き降ろすとき、車椅子を牽引し、介助者の補助を行う車椅子用ウインチ装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 牽引部材
2 ドラム
3 駆動部
4 方向転換部材
5 弛み検出手段
51 押圧部材
5131 ON操作部
5132 OFF操作部
5133 回避部
52 付勢部材
53 スイッチ
Wh 車椅子用ウインチ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子に連結される牽引部材と、
前記牽引部材を巻き取り、送り出すドラムと、
前記ドラムを回転駆動する駆動部と、
前記牽引部材の方向転換部材とを有する
車椅子を車室内へ引き上げ、車室外へ引き降ろすための車椅子用ウインチ装置であって、
前記牽引部材の弛み検出手段が、前記方向転換部材の近傍に設けられていることを特徴とする車椅子用ウインチ装置。
【請求項2】
前記弛み検出手段は、前記方向転換部材の近傍に回動可能に設けられ、前記牽引部材を押圧する押圧部材と、
前記押圧部材を前記牽引部材の押圧方向へ付勢する付勢部材と、
前記押圧部材に操作されるスイッチとから構成されることを特徴とする請求項1記載の車椅子用ウインチ装置。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記スイッチのON操作部と、
前記ON操作部に隣り合う位置に配置されたOFF操作部とを有することを特徴とする請求項2記載の車椅子用ウインチ装置。
【請求項4】
前記ON操作部または前記OFF操作部の一方と隣り合う位置には、前記ON操作部または前記OFF操作部の他方と同じスイッチ操作を行う回避部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の車椅子用ウインチ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−65838(P2012−65838A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212911(P2010−212911)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)