説明

車軸用軸受装置

【課題】異常負荷が作用し、軸が折損しても、軸受内輪とハブ軸が分離しにくく、車輪の脱落を防止することができる車軸用軸受装置を提供する。
【解決手段】内周部に複列の外輪軌道11a、11bが形成された外輪11と、外周に内輪軌道12aが形成された内輪12と、軸方向一方側端部にハブフランジ13b、中央外周部に内輪軌道13a、前記ハブフランジ13bと軸方向に反対側の端部に前記内輪12の嵌合部13hが形成されたハブ軸13と、前記外輪11の一方の外輪軌道11bと前記ハブ軸の内輪軌道13aの間、および、前記外輪の他方の外輪軌道11aと前記内輪の内輪軌道12aの間で転動する複数の転動体14を有する車輪用軸受装置1であって、前記ハブ軸13の軸方向の中心に中空部13dを有し、前記中空部に前記ハブ軸13の材料に比べ強度の高い材料からなる芯部材16を内嵌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車輪を支持する車軸用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の車輪を支持する車軸用軸受装置においては、過大負荷が作用しても、短寿命になるか、変位が大きくなるだけで、ハブ軸が折損するような負荷は想定されていない。また、一般道路においては、事故を除いて、ハブ軸が折損するような運転時の負荷はありえなかった。さらに、上記の短寿命や変位の拡大の場合、決定的な損傷が生じる前に運転者が感知でき、車を安全に停止させることができた。
【0003】
しかし、自動車普及の後進国においては、路面の陥没等の劣悪な道路状況に加え、過積載や、乱暴な運転による想定を超える異常負荷も考えられる。万一このような想定を超える異常負荷が作用したら、極端な場合、ハブ軸が折損し車両用軸受装置のハブ軸と内輪が分離するという決定的な損傷によって、車輪が車体から外れることも考えられる。
上述の車両用軸受装置の決定的な損傷によって、車輪が車体から外れることを回避するため、ハブ軸に鋼板をプレス加工によって円環状に形成した連結部材を内嵌した車軸用軸受装置がある。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007―331575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の鋼板をプレス加工によって円環状に形成した連結部材をハブ軸に内嵌した車軸用軸受装置においては、前記ハブ軸と前記連結部材の機械的特性が近似しており、また、形状的にも前記ハブ軸の肉厚を前記鋼板の板厚分だけ増加させたに過ぎない。
【0006】
この結果、前記連結部材をハブ軸に内嵌しても、前述の異常負荷が作用し、軸相当部材が折損した場合、前記連結部材とハブ軸は略同時に折損するため、ハブ軸と内輪の分離を回避する効果は非常に小さい。
【0007】
この発明の目的は、劣悪な道路状況、過積載、乱暴な運転によって、想定を超える異常負荷が作用し、万一、ハブ軸が折損しても、ハブ軸と内輪が分離しにくく、車両の運転者が軸受部の異常な振動を感知し車を停止させることにより、ハブ軸と内輪の分離という決定的な損傷を回避し、車輪が車体から外れることを防止でき、かつ組立てが容易な車軸用軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、内周部に複列の外輪軌道が形成された外輪と、外周部に内輪軌道、軸方向端部に内輪嵌合部が形成されたハブ軸と、外周部に内輪軌道が形成され、前記ハブ軸の前記内輪嵌合部に外嵌装着された内輪と、前記外輪の一方側の外輪軌道と前記ハブ軸の内輪軌道の間、および前記外輪の他方側の外輪軌道と前記内輪の内輪軌道の間で転動する複数の転動体を有する車輪用軸受装置であって、前記ハブ軸の軸方向の中心に中空部を有し、前記中空部に前記ハブ軸の材質に比べ強度の高い材質からなる芯部材が内嵌されていることである。
【0009】
上記構成によると、想定を越える異常負荷が作用し、ハブ軸が折損しても、芯部材はその高い強度によって折損が回避され、内輪とハブ軸を保持する。このとき、折損したハブ軸の剛性の大幅な低下によって前記ハブ軸が振れまわり、異常回転による振動が発生する。運転者はこの異常回転による振動を感知し、車を停止させることができ、車輪が車体から外れることを防止することができる。
【0010】
上記の課題を解決するため、請求項2に係る発明の構成上の特徴は、前記芯部材は一方側端部に前記中空部の直径より大きな外径のフランジを有し、他方側の端部を拡径することにより、前記芯部材と前記ハブ軸とが係合されていることである。
【0011】
上記構成によると、想定を越える異常負荷が作用し、前記ハブ軸が折損しても、前記芯部材はその高い強度によって折損が回避され、かつ、前記芯部材は前記フランジと前記によって、内輪とハブ軸を確実に保持する。このとき、折損したハブ軸の剛性の大幅な低下によって前記ハブ軸が振れまわり、異常回転による振動が発生する。運転者はこの異常回転による振動を感知し、車を停止させることができ、車輪が車体から外れることを防止することができる。
【0012】
上記の課題を解決するため、請求項3に係る発明の構成上の特徴は前記芯部材は一方側の端部に前記ハブ軸の前記中空部の直径より大きな外径の頭を有するボルトであって、前記ボルトの他方側端部のねじ部に前記中空部の直径より大きな外径のナットを螺合することにより、前記芯部材と前記ハブ軸とが係合されていることである。
【0013】
上記構成によると、想定を越える異常負荷が作用し、前記ハブ軸が折損しても、前記芯部材はその高い強度によって折損が回避され、かつ、前記芯部材は前記ねじ部と前記ナットの螺合よって、内輪とハブ軸を確実に保持する。このとき、折損したハブ軸の剛性の大幅な低下によって前記ハブ軸が振れまわり、異常回転による振動が発生する。運転者はこの異常回転による振動を感知し、車を停止させることができ、車輪が車体から外れることを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自動車後進国における劣悪な道路状況、過積載、乱暴な運転によって異常負荷が作用し、万一、ハブ軸が折損しても、内輪とハブ軸が分離しにくく、車輪が車体から外れることを防止することができる車軸用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置の軸方向の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置の作用の説明図である。
【図3】本発明の第2の実施形態の車軸用軸受装置の軸方向の断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の車軸用軸受装置の作用の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置の軸方向の断面図である。
図1において車軸用軸受装置1は、内周部に複列の外輪軌道11a、11bが形成された外輪11と、外周に内輪軌道12aが形成された内輪12と、外周部中央に内輪軌道13a、が形成されたハブ軸13と、前記外輪11の一方の外輪軌道11aと前記ハブ軸13の内輪軌道13aの間、および、前記外輪11の他方の外輪軌道11bと前記内輪12の内輪軌道12aの間で転動する2列の複数の転動体としての玉14と、前記2列の複数の玉14を所定の間隔で保持する2個の保持器15と内輪12に内嵌された芯部材16を有する。
【0018】
ここで、外輪11の外輪軌道11a、11b、内輪12の内輪軌道12a、ハブ軸の内輪軌道13a、2列の複数の玉14と、前記2個の保持器15とで軸受部2が構成されている。
【0019】
外輪11は環状で一方側端部に半径方向外方に拡径して、車軸用軸受装置1を車体18に取付けるための固定フランジ11cを有し、固定フランジ11cには固定用ボルト18aが貫通する複数の通し穴11dが設けられている。外輪11の固定フランジ11c側の内周部には、内輪側外輪軌道11a、軸方向反対側の内周部にはハブ軸側外輪軌道11bが設けられている
【0020】
内輪12はSUJ2等の軸受鋼からなる円環状で、外周部中央に内輪軌道12a、一方側の外周部に小外径面12d、他方の外周部に大外径面12cが形成されている。内周部に内輪軌道12aと同心の内径面12bを有している。また、内径面12bから半径方向外方に小外径面12dに向けて小端面12eが延在している。
【0021】
ハブ軸13はS55C等の合金鋼からなり、素材の引張り強さは800MPa程度である。ハブ軸13は軸方向中央の外周部に内輪軌道13a、軸方向一方側端部の外周面に半径方向外方に拡径して、車輪17が取付けられるハブフランジ13bを有し、ハブフランジ13bには車輪17を固定する複数のハブボルト17aが埋め込まれている。ハブ軸13の内輪軌道13aからハブフランジ13bと軸方向に反対側の外周面にはハブ軸外径面13eが形成されている。
【0022】
ハブ軸外径面13eの軸方向に内輪軌道13aと反対側の端部から径方向に縮径する内輪嵌合部側面13k、内輪嵌合部側面13kの内径隅部13gから軸方向に内輪軌道13aと反対方向に延在する内輪嵌合部13cが形成されており、内輪嵌合部13cには内輪12が小端面12eをハブ軸13の嵌合部側面13kに当接して外嵌装着されている。
さらに、ハブ軸13の端部には筒状の端部を直径方向外方に屈曲変形させて内輪12の大端面12fに押し付け、内輪12の抜け止めを行う、かしめ部13hが形成されている。また、中心部には、内輪軌道13aと同心の中空部13dが軸方向に形成されている。
【0023】
芯部材16はSUJ2等の合金鋼を熱処理により引張り強さ1600MPa以上に高強度化された鋼材からなる断面が円形の棒状である。芯部材16の中央部16aの直径はハブ軸13の中空部13dの直径より僅かに小さく、芯部材16の中央部16aはハブ軸13の中空部13dにすきま嵌めで嵌入されている。また、一方の端部に外径がハブ軸13の中空部13dの直径より大きなフランジ16bを有し、他方の端部は予め焼戻しによって塑性加工が可能な硬さに軟化されており、ハブ軸13の中空部13dに嵌入された後、塑性加工により拡径してフランジ16cが形成されている。
【0024】
図2は、本発明の第1の実施形態の車軸用軸受装置1の作用を説明するための説明図である。
車軸用軸受装置1は外輪11の固定フランジ11cが車体18に固定用ボルト18aで固定され、ハブ軸13のハブフランジ13bと車輪17がハブボルト17aとハブナット17bで固定されている。すなわち車輪17は車軸用軸受装置1を介して車体18に回転自在に取付けられている。
【0025】
劣悪な道路状況、過積載、乱暴な運転による、想定を超える異常なスラスト荷重やモーメント荷重は、路面から車輪17を経由して車軸用軸受装置1に作用し、ハブ軸13に過大な曲げ荷重が作用する。車軸用軸受装置1の最弱部はハブ軸13の嵌合部側面13kと内輪嵌合部13cの交差部である内径隅部13gである。
【0026】
想定を超える異常なスラスト荷重やモーメント荷重による曲げ荷重がハブ軸13に作用すると、最初に最弱部である内径隅部13gに円周方向の亀裂Cが生じ、亀裂Cはハブ軸13の中心方向に伝播しハブ軸13の中空穴13dに達する。このとき、芯部材16の応力も当然増加するが、芯部材16の強度はハブ軸13の強度より大きく、前記ハブ軸の亀裂Cがそのまま芯部材16に伝播することはない。すなわち分離したハブ軸13は一定時間芯部材16によって係止される。
【0027】
前記亀裂Cの発生によって、分離したハブ軸13は曲げ剛性が著しく低下し、前記曲げ荷重によって軸受部2に大きな振れまわりが生じる。また、前記曲げ荷重によってハブ軸13の芯部材16のフランジ16b、16cとの接触部13m、13nが変形し、軸受部2に軸方向の過大すきまδが生じ、前述の振れまわりはさらに大きくなる。この状態で車輪17が回転すると異常振動や、異音が発生する。
【0028】
この時、車両の運転者は前記異常振動や異音を感知し、車両を停車させることが可能であり、内輪12がハブ軸13から抜け落ち、車輪17が車体18から外れるという事態を回避させることができる。
【0029】
図3は、本発明の第2の実施形態の車軸用軸受装置20の軸方向の断面図である。
第2の実施形態の車軸用軸受装置は芯部材の形状、構成が第1の実施形態と異なる。第2の実施形態の車軸用軸受装置では、第1の実施の形態と同じものについては、第1の実施の形態と同一の符号を用い説明は省略する。また、第1の実施形態と共通の構成、作用効果については説明を省略することにし、第1の実施形態の車軸用軸受装置と異なる構成、作用効果についてのみ説明を行う。
【0030】
図3の本発明の第2の実施形態の車軸用軸受装置20において、芯部材26は一方の端部にハブ軸13の中空部13dの直径より大きな外径の頭26bを有し、他方の端部にねじ部26aを有する例えば六角穴付きボルト形状である。また、芯部材26は合金鋼からなり、ねじ部26a以外は熱処理により引張り強さ1500MPa以上に高強度化されている。芯部材26はハブ軸13の中空部13dに嵌入された後、ボルトのねじ部26aに中空部の直径より大きな外径のナット26Bを螺合することにより、芯部材26とハブ軸13とが係合されている。
【0031】
図4は、本発明の第2の実施形態の車軸用軸受装置の作用を説明するための説明図である。
想定を超える異常なスラスト荷重やモーメント荷重による曲げ荷重がハブ軸13に作用すると、最初に最弱部である内径隅部13gに円周方向の亀裂Cが生じ、亀裂Cはハブ軸13の中心方向に伝播しハブ軸13の中空穴13dに達する。このとき、芯部材26の応力も当然増加するが、芯部材26の強度はハブ軸13の強度より大きく、前記ハブ軸の亀裂Cがそのまま芯部材26に伝播することはない。すなわち分離したハブ軸13は一定時間芯部材26によって係止される。
【0032】
前記亀裂Cの発生によって、分離したハブ軸13は曲げ剛性が著しく低下し、前記曲げ荷重によって軸受部2に大きな振れまわりが生じる。また、前記曲げ荷重によってハブ軸13の芯部材26のボルト頭26bとの接触部13m、ナット26Bとの接触部13nが変形し、軸受部2に軸方向の過大すきまδが生じ、前述の振れまわりはさらに大きくなる。この状態で車輪17が回転すると異常振動や、異音が発生する。
【0033】
この時、車両の運転者は前記異常振動や異音を感知し、車両を停車させることが可能であり、内輪12がハブ軸13から抜け落ち、車輪17が車体18から外れるという事態を回避させることができる。
【0034】
本実施形態における車軸用軸受装置1は複数の転動体は玉であるが、本発明では、転動体が円すいころ等のころである車軸用軸受装置であっても良い。
【符号の説明】
【0035】
1、20 ‥ 車軸用軸受装置
11 ‥ 外輪
11a、11b ‥ 外輪軌道
12 ‥ 内輪
12a、13a ‥ 内輪軌道
13 ‥ ハブ軸
13b ‥ ハブフランジ
13c ‥ 嵌合部
13d ‥ 中空部
14 ‥ 玉(転動体)
15 ‥ 保持器
16,26 ‥ 芯部材(ボルト)
17 ‥ 車輪
18 ‥ 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部に複列の外輪軌道が形成された外輪と、
中央外周部に内輪軌道、軸方向端部に内輪嵌合部が形成されたハブ軸と、
外周部に内輪軌道が形成され、前記ハブ軸の前記内輪嵌合部に外嵌装着された内輪と、
前記外輪の一方の外輪軌道と前記ハブ軸の内輪軌道の間、および、前記外輪の他方の外輪軌道と前記内輪の内輪軌道の間で転動する複数の転動体を有する車輪用軸受装置であって、
前記ハブ軸の軸方向の中心に中空部を有し、前記中空部に前記ハブ軸の材料に比べ強度の高い材料からなる芯部材が内嵌されていることを特徴とする車軸用軸受装置。
【請求項2】
前記芯部材は一方側端部に前記中空部の直径より大きな外径のフランジを有し、他方側端部を拡径することにより、前記芯部材と前記ハブ軸とが係合されていることを特徴とする請求項1に記載の車軸用軸受装置。
【請求項3】
前記芯部材は一方側端部に前記ハブ軸の前記中空部の直径より大きな外径の頭を有するボルトであって、前記ボルトの他方側端部のねじ部に前記中空部の直径より大きな外径のナットを螺合することにより、前記芯部材と前記ハブ軸とが係合されていることを特徴とする請求項1に記載の車軸用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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