説明

車載モータ用転がり軸受及びその製造方法

【課題】転がり疲労寿命や音響寿命に優れ、低トルク化を図ることも可能な車載モータ用転がり軸受を提供する。
【解決手段】粒径1μm以下のイットリア含有ジルコニア粒子と、粒径1μm以下のアルミナ粒子とを混合して球状に成形して焼結してなり、粒径2μm以下のジルコニア粒子及びアルミナ粒子からなる転動体を備える車載モータ用転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載されている車載モータ等のインバータ制御されるモータ用の転がり軸受に関し、特にその転動体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ制御モータや、高速スイッチング等の高周波電流が発生する装置の近くで使用されるモータには、軸電圧が発生して、ロータ軸とハウジングとの間に電位差が生じる場合がある。これに伴って、ハウジングやロータ軸からの漏れ電流が転がり軸受の転動体と軌道輪との間に流れ、軌道輪の軌道面および転動体の転動面に電食(電気化学的腐食)が生じる恐れがある。この電食が生じると、軌道輪の軌道面および転動体の転動面の精度が低下し、振動が上昇して、軸受の寿命が短くなる。
【0003】
この電食を防止するために様々な提案がなされており、セラミックスの溶射被膜や樹脂絶縁膜等の絶縁層を数μm〜数mmの厚さで軸受外径部に形成する等の対策がなされているが、コストが高く、取り扱いに注意を要する等の問題がある。特に、インバータの高周波による電食防止には厚い絶縁層が必要であり、絶縁層自体の低誘電率が求められるため、更に高コストとなる。また、経時変化による樹脂の劣化や、溶射被膜界面の劣化があり恒久対策にならない。
【0004】
また、転動体を絶縁材であるセラミックス製にすることにより、インバータの高周波による電食をほぼ完全に防止できる。しかし、転動体をセラミックス製にすることにより、当然コストは上昇し、その他犠牲にしなくてはならない性能がある。例えば,インバータ制御の車載モータでは、音響寿命が長いことが要求されるが、転動体を工作機械主軸等で広く使用されている窒化珪素製にすると、音響寿命が低下する恐れがある。
【0005】
ここで、音響寿命というのは、マクロ的な回転精度や起動・回転トルクに影響を与えない程度の軸受内部の損傷が発生し、その損傷が音響的にしか知覚されない状態になったものを言う。これは、軌道面や転動体の転動面に、回転精度や起動・回転トルクに影響を与えない程度の微小な損傷が発生することにより起こる。車載モータでは特に、音響寿命が重視される。
【0006】
また、省エネルギーの観点からは低トルク性能が不可欠である。低トルク化のためには低粘度の潤滑剤の使用が不可欠であり、軸受内部設計の最適化による低トルク化もあるが、低粘度潤滑剤を軸受に封入することの方が効果的である。しかし、低粘度潤滑剤を使用すると、起動〜低速回転時、あるいは、高温時に油膜の形成が不十分になることがある。特に車載モータは、インバータ制御により低速で長時間駆動されることがあるため、顕著になる。特に、転動体を窒化珪素製にすると、図18に表面状態を示すが、窒化珪素は最大長径が20μm程度で、アスペクト比(短径に対する長径の比)が2程度の大きな針状結晶が絡み合っているため、油膜厚さが薄くなったり、油膜が切れて摩耗が生じた場合、結晶粒の脱落の範囲が広く、針状であることから凹凸の深さも大きくなる。また、窒化珪素製転動体の表面は、元々、油の濡れ性が悪いため油膜切れが生じ易いという問題もある。
【0007】
窒化珪素自体は優れた材料であり、工作機械の主軸等のように潤滑の管理が十分になされている用途や、比較的大きなモータ等でメンテナンス(特に潤滑関係)の行き届いている用途、さらには音響的な寿命が問題にならない場合においては特段の問題なく好適に使用できるが、上記のような問題から、特に自動車に搭載されている車載モータのように細かなメンテナンスを要求することができない用途には不向きである。
【0008】
窒化珪素に代わる転動体材料も開発されており、特許文献1には、イットリアを2〜5モル%含むジルコニアからなるジルコニア−イットリア成分と、アルミナ成分とからなり、質量比でジルコニア−イットリア成分:アルミナ成分=100:5〜40となる割合で含有する微粉末を原料とした転動体を備える転がり軸受が記載されている。しかし、このような組成のジルコニア−アルミナ−イットリア製転動体には、転がり疲労寿命を長くするという点で改善の余地がある。また、音響寿命と低トルク化とを満足するための知見も得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−106570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、転がり疲労寿命や音響寿命に優れ、低トルク化を図ることも可能な車載モータ用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、下記の車載モータ用転がり軸受及びその製造方法を提供する。
(1)互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する車載モータ用転がり軸受において、前記転動体が、ジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックスからなることを特徴とする車載モータ用転がり軸受。
(2)前記転動体が、1.5〜5モル%のイットリアを含有するジルコニア50〜95質量%と、アルミナ50〜5質量%とからなることを特徴とする上記(1)記載の車載モータ用転がり軸受。
(3)前記転動体におけるジルコニア粒子及びアルミナ粒子の粒径が2μm以下であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の車載モータ用転がり軸受。
(4)前記転動体におけるSiO、Fe、NaOの各含有量が、何れも0.3質量%以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の車載モータ用転がり軸受。
(5)前記転動体のビッカ−ス硬度Hvが1300〜1700、破壊靭性値が4.5MPa・m1/2以上、抗折強度が1000MPa以上であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の車載モータ用転がり軸受。
(6)互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する車載モータ用転がり軸受の製造方法において、粒径1μm以下のイットリア含有ジルコニア粒子と、粒径1μm以下のアルミナ粒子とを混合して球状に成形した後、焼結し、研磨して転動体を製造する工程を含むことを特徴とする車載モータ用転がり軸受。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車載モータ用転がり軸受におけるジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックス製転動体は、電食防止作用を有するとともに、転がり疲労寿命や音響寿命に優れ、低粘度潤滑剤による潤滑を良好に行うこともでき、低トルク化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の車載モータ用転がり軸受の一例である玉軸受を示す断面図である。
【図2】試験1において使用した電食試験装置を示す概略図である。
【図3】試験2において使用した振動試験装置を示す概略図である。
【図4】試験2の結果を示すグラフである。
【図5】試験2において、振動試験後にSUJ2製玉を組み込んだ試験軸受の内輪軌道面を撮影した顕微鏡写真である。
【図6】試験3で得られたアルミナ含有量と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図7】試験3で得られたアルミナ含有量とビッカース硬さHvとの関係を示すグラフである。
【図8】試験3で得られたアルミナ含有量と破壊靭性値との関係を示すグラフである。
【図9】試験4で用いたスラスト軸受回転試験装置を示す概略図である。
【図10】試験4で得られたアルミナ含有量と疲労寿命との関係を示すワイブル図表である。
【図11】試験5で得られたFe含有量と疲労寿命との関係を示すワイブル図表である。
【図12】試験5で得られたFe含有量と振動値との関係を示すグラフである。
【図13】試験5において試験後に転動体(Fe含有量0.35質量%)の剥離部分を撮影した顕微鏡写真である。
【図14】試験5において試験後に転動体(Fe含有量0.5質量%)の剥離部分を撮影した顕微鏡写真である。
【図15】試験5において試験後に転動体(Fe含有量0.1質量%)の剥離部分を撮影した顕微鏡写真である。
【図16】試験6の結果を示すグラフである。
【図17】ジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックスの表面を撮影した顕微鏡写真である。
【図18】窒化珪素の表面を撮影した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の車載モータ用転がり軸受について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
本発明において車載モータ用転がり軸受には制限はなく、例えば図1に示すような玉軸受を例示することができる。図示される玉軸受は、内輪1、外輪2、転動体である玉3と、保持器4と、シール5とで構成されている。内輪1の外周面には軌道溝1aが、外輪2の内周面には軌道溝2aがそれぞれ形成されている。これらの軌道溝1a,2aが対向配置され、その間に保持器4を介して玉3が転動自在に配設されている。
【0016】
また、玉3は後述するジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックス製であるが、内輪1及び外輪2をSUJ2鋼、SUS鋼、13Cr鋼等の通常軸受に使用される金属で形成することにより軸受全体として安価にすることができる。また、内輪1及び外輪2の軌道溝1a,2a、好ましくは全表面に浸炭窒化処理等の硬化処理を施すことにより、耐摩耗性が向上して好ましい。保持器4は金属製でもよいが、軸受全体の軽量化や、転動体との衝突音を低減するために、ポリアミドやポリアセタール、PPS等の耐熱性の樹脂にガラス繊維や炭素繊維等の繊維状補強材を配合してなる樹脂組成物製とすることが好ましい。
【0017】
玉3は、原料粉末としてジルコニア粒子、アルミナ粒子及びイットリア粒子を用意し、混合して球状に成形した後、焼結して得られる。また、原料粉末としてイットリアを含有するジルコニア粒子と、アルミナ粒子とを用いることが好ましい。特に、1.5〜5モル%のイットリアを含有するジルコニア粒子を50〜95質量%、アルミナ粒子を50〜5質量%の配合比にすることにより、機械的強度及び転動体疲労寿命において窒化珪素と遜色のないものが得られる。ジルコニアにイットリアを固溶させると、構造中に酸素空孔が形成されて立方晶あるいは正方晶となり、室温でも安定または準安定となり、強度が向上する。但し、ジルコニア中のイットリア含有量が1.5モル%未満では正方晶からなる焼結体が得られず、5モル%超では正方晶が減少して立方晶が主体となるため、転移による高強度化が得られない。ジルコニア中のイットリア含有量は、3モル%がより好ましい。また、アルミナの含有量は10〜30質量%がより好ましく、さらに好ましくは20質量%である。
【0018】
また、原料粉末における不純物は少ない方が好ましく、特にSiO、Fe、NaOを極力減少させることにより、焼結性が向上してより緻密化することができる。SiO、Fe、NaOはそれぞれ0.3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下である。これらの不純物が0.3質量%を超えると運転時に転動体の表面からセラミックス粒子の脱落が起こり易くなり、転動体表面の粗さの低下、脱落したセラミックス粒子による軌道面の微細な損傷が発生し、振動が大きくなり音響寿命を短くするおそれがある。また、転動体の疲労寿命もこのような不純物が起点となり、早期剥離を引き起こす原因にもなる。
【0019】
特に、アルミナ粒子は、ジルコニア粒子より硬度が高いため、微小な粒子であっても脱落した場合に音響寿命に与える影響が大きい。そのため、原料中の不純物を極力少なくしないとジルコニア粒子とアルミナ粒子との結合力が弱くなり、アルミナ粒子が脱落し易くなる。そのため、不純物量を上記のように極力少なくして転動体表面からのアルミナ粒子の脱落を防止することが好ましい。
【0020】
原料粉末の混合にはアルコール中で湿式混合する方法が好ましいが、1μm以下の粒子を用いた場合は概ね24時間の混合で十分であるのに対し、1μmを超える粒子を使用した場合は概ね100時間以上の混合を擁する。そのため、本発明では、原料粉末には粒径1μm以下の微粒子を用いることが好ましい。
【0021】
成形には、金型成形あるいは冷間静水圧加圧(CIP)成形を行うことができる。
【0022】
その後、大気炉での酸素気流中で脱脂し、焼結を行うが、焼結には熱間静水圧加圧(HIP)焼結法が好ましい。また、予備焼結を行った後に、熱間静水圧加圧焼結してもよい。このとき、原料粉末として1μm以下の微粒子を用いることにより、ジルコニア粒子及びアルミナ粒子は粒径2μm以下の微細粒となり、より緻密な焼結体となる。より好ましくは500nm、特に好ましくは200nm以下の微粒子を原料粉末に用いる。これに対し、粒径1μmを超える粒子を用いた場合、空孔のない緻密な焼結体を得るためには、脱脂及び焼結温度は現行温度よりも200℃以上高い温度にする必要があり、保持時間も現行の2倍以上を必要とする。更に、脱脂及び焼結は常圧でなく、加圧焼結しないと空孔が残存する。そのため、脱脂及び焼結設備も大がかりになり、連続式でなくバッチ式の焼結にもなるため製造コストが高くなる。
【0023】
そして、焼結後に鏡面研磨して転動体となる。
【0024】
転動体の物性面では、車載モータ用転がり軸受での使用を考慮すると、ビッカ−ス硬度Hvが1300〜1700であることが好ましい。また、破壊靭性値が4.5MPa・m1/2以上であることが好ましい。また、抗折強度が1000MPa以上であることが好ましい。
【0025】
尚、ビッカース硬度H v はJ I S − R − 1 6 1 0 で規定された測定法に準拠し、試験荷重1 9 8 . 1 N で室温( 2 5 ℃ ) にて測定した値である。破壊靭性値 はJIS− R − 1 6 0 7 で規定されたI F 法に基づき測定し、N i i h a r a の式により算出した値である。抗折強度はJ I S − R − 1 6 0 1 で規定された3 点曲げ強さ試験に準じた測定法により測定した値である。
【0026】
上記の如く構成される車載モータ用転がり軸受には、潤滑のために潤滑油やグリースが封入されるが、何れも公知のもので構わないが、低トルク化を図るために低粘度の潤滑油、あるいは低粘度の潤滑油を基油とするグリースが好ましい。ジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックスは、窒化珪素に比べて油膜を形成しやすく、低粘度の潤滑油やグリースを使用しても音響寿命を向上させることができる。特にエステル油のような極性の大きい潤滑油を用いることにより、より音響寿命を向上させることができる。
【実施例】
【0027】
以下に試験例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0028】
(試験1:電食試験)
試験軸受として、呼び番号608ZZ(内径8mm、外径22mm、幅7mm、玉の直径:3.97mm(5/32インチ))の単列深溝玉軸受を用意し、玉をジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックス製、窒化珪素製またはSUJ2製として試験軸受を作製した。ジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックス製の玉は以下のようにして作製した。
【0029】
イットリアを3モル%含む一次粒子径が1μm以下のジルコニア粒子80質量部と、平均粒子径が1μm以下の高純度(99.99%)アルミナ粒子20質量部とを、アルコ−ルに投入し、アルコール中で24時間湿式混合を行なった後、パラフィンなどの有機バインダ−を1質量%となる量添加し、乾燥造粒工程を経て原料粉末を調整した。次に、得られた原料粉末を使用して球状になるように100MPaでCIP成形を行い、成形体を大気炉(酸素気流中)にて常圧、400〜700℃で1〜3時間処理して脱脂し、その後1気圧の酸素気流下、1400〜1700℃にて1〜3時間予備焼結した。その後、アルゴン気流中にて1300〜1600℃にて1〜2時間、1500気圧のHIP焼結法にて本焼結を行った。
【0030】
各試験軸受に、リチウム石けん−エステル油系グリースであるNS7を160mmg封入し、図2に示す構成の電食試験装置に組み込んで下記の条件で回転させ、軸受に流れる電流を調べた。尚、図示される電食試験装置は、インダクションモータ201,202と、両インダクションモータ201,202を回転させる3相200Vの電源203と、電源203とインダクションモータ202の間に接続されたインバータ204と、電流測定用CT205と、電流アンプ206と、電流計207とからなる。インダクションモータ201は転がり軸受105,106が取り付けられた回転軸104を回転させる。インダクションモータ202は、転がり軸受105,106の外輪と、配線208により電気的に接続されている。電流測定用CT205は、配線208を流れる電流(すなわち、転がり軸受105,106に流れた電流)を検出する。電流アンプ206は、電流測定用CT205で検出された電流を増幅する。
<試験条件>
回転速度:1800min-1(内輪回転)
アキシャル荷重:29.4N(3kgf)
軸受への付与電流:14mA
回転時間:1500時間
【0031】
試験の結果、試験軸受に流れた電流の最大値は、ジルコニア−アルミナ−イットリア製玉を組み込んだ試験軸受と、窒化珪素製玉を組み込んだ試験軸受では0mAであったのに対し、SUJ2製玉を組み込んだ試験軸受では13mAであった。また、1500時間回転後に各試験軸受に電食が生じているかどうかを確認したところ、ジルコニア−アルミナ−イットリア製玉及び窒化珪素製玉を組み込んだ試験軸受では電食は生じていなかったが、SUJ2製玉を組み込んだ試験軸受では電食が生じていた。
【0032】
(試験2:振動試験)
上記で作製した、ジルコニア−アルミナ−イットリア製玉を組み込んだ試験軸受と、SUJ2製玉を組み込んだ試験軸受とを用い、図3に示す試験装置を用いた回転試験を行った。図示される試験装置は、試験軸受70の外輪に対して通電しながら回転を行うものであり、モータ71と、絶縁カップリング72と、鉄製ハウジング73と、給電用の予圧バネ74と、ブラシ75と、振動計76とで構成されている。この装置を用いて下記の条件で回転させ、100時間毎に振動値を測定した。
<試験条件>
回転速度:1500min-1(内輪回転)
予圧:3.7N
アキシャル荷重:20N
外輪への付与電流:10mA
雰囲気温度:室温
回転時間:500時間
【0033】
結果を図4に示すが、SUJ2製玉を組み込んだ試験軸受では、図中の線cで示すように振動値が試験時間の経過とともに上昇しているのに対し、ジルコニア−アルミナ−イットリア製玉を組み込んだ試験軸受では、図中の線aで示すように振動値は500時間経過しても初期値から変化しなかった。
【0034】
また、図5は、SUJ2製玉を組み込んだ試験軸受の試験後の内輪軌道面を撮影した顕微鏡写真であるが、内輪軌道面には電食特有の縞模様の凹凸(リッジマーク)が形成されていた。これに対して、ジルコニア−アルミナ−イットリア製玉を組み込んだ試験軸受の内輪軌道面にはリッジマークは形成されていなかった。
【0035】
(試験3:アルミナ含有量の検証1)
イットリアを3モル%含む一次粒子径が1μm以下のジルコニア粒子と、平均粒子径が1μm以下の高純度(99.99%)アルミナ粒子とを、混合比を変えてアルコ−ルに投入し、アルコール中で24時間湿式混合を行なった後、パラフィンなどの有機バインダ−を1質量%添加し、乾燥造粒工程を経て原料粉末を調整した。次に、得られた原料粉末を使用して所定の形状になるように100MPaでCIP成形を行い、成形体を大気炉(酸素気流中)にて常圧、400〜700℃で1〜3時間処理して脱脂し、その後1気圧の酸素気流下、1400〜1700℃にて1〜3時間予備焼結した。その後、アルゴン気流中にて1300〜1600℃にて1〜2時間、1500気圧のHIP焼結法にて本焼結を行った。
【0036】
また、比較のために、窒化珪素製の試験片を用意した。
【0037】
そして、アルミナ含有量の異なるジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックス試験片及び窒化珪素製試験片について、(1)JI S − R − 1 6 0 1 で規定された3 点曲げ強さ試験に準じた測定法により抗折強度を求め、(2)J I S − R − 1 6 1 0 で規定された測定法に準拠し、試験荷重1 9 8 . 1 N で室温( 2 5 ℃ ) にて測定してビッカース硬さHvを求め、(3)JIS− R − 1 6 0 7 で規定されたI F 法に基づき破壊靭性値を求めた。
【0038】
図6にアルミナ含有量と曲げ強度との関係を示すが、アルミナ含有量が50質量%未満で窒化珪素(図中イで示す)よりも優れた曲げ強度を有することがわかる。特にアルミナ含有量が20質量%の時に最も優れた抗折強度が得られている。また、図7にアルミナ含有量とビッカース硬さHvとの関係を示すが、アルミナ含有量が5質量%以上で窒化珪素(図中ロで示す)よりも高いビッカース硬度が得られている。また、図8にアルミナ含有量と破壊靭性値との関係を示すが、アルミナ含有量が50質量%以下で窒化珪素(図中ハで示す)と同等以上の破壊靭性値が得られている。
【0039】
(試験4:アルミナ含有量の検証2)
原料粉末をCIP成形(約25℃に、100MPa、約60秒)にて玉状に成形した以外は試験3と同様にして、アルミナ含有量の異なるジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックス製の転動体を作製した。そして、この転動体を用いて呼び番号51305のスラスト軸受(SUJ2)を組み立て、図9に示すようなスラスト軸受回転試験装置を用い、下記の条件で回転させた。そして、転動体に剥離が生じるまでの回転時間を疲労寿命として測定した。
<試験条件>
・球径:3/8インチ
・回転数:1000rpm
・面圧:3GPa
・潤滑油:トラクション油「VG68」
【0040】
測定結果として、ワイブル図表にプロットしたグラフを図10に示すが、アルミナ含有量が5〜50質量%において理論値(図中Lcal)よりも優れた値が得られており、特にアルミナ含有量が20質量%の時に最も良好となっている。
【0041】
(試験5:不純物含有量の検証)
原料粉末として、イットリアの含有率が3.0モル%であるジルコニア−イットリア成分:アルミナ成分=80:20(質量比)で、Feの含有率が0.1、0.3、0.35及び0.50質量%である平均粒径1μm以下の微粉末を用意した。そして、試験2と同様にして転動体を作製した。
【0042】
この転動体を用いて呼び番号51305のスラスト軸受を組み立て、試験2と同様にして疲労寿命を測定した。結果を図11にワイブル図表にプロットしたグラフで示すが、AはFe含有量0.1質量%、BはFe含有量0.3質量%、CはFe含有量0.35質量%、DはFe含有量0.5質量%の結果である。図示されるように、Fe含有量が0.3質量%以下であると、理論値(図中Lcal)よりも優れた値が得られている。
【0043】
また、回転試験を開始する前と回転試験を開始してから100時間毎に、スラスト軸受を振動試験機にかけて振動値を測定した。結果を図12に示すが、Fe含有率が0.50質量%の転動体を備えたスラスト軸受では、試験時間が200時間以上になると振動値が急に上昇しているのに対し、Fe含有率が0.35質量%及び0.1質量%の転動体を備えたスラスト軸受では試験時間が500時間以内では振動値がそれほど大きく変化しないことが分かる。
【0044】
また、試験後の転動体の剥離部分を撮影した顕微鏡写真を図13〜15に示す。図13はFe含有量が0.35質量%、図14はFe含有量が0.5質量%、図15はFe含有量が0.1質量%の転動体であるが、図13及び図14には、不純物であるFeを起点とする剥離が明確に見られるのに対し、図15にはFeを起点とする剥離が見られない。
【0045】
これらの結果から、不純物であるFe含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましいといえる。
【0046】
また、SiO、NaOについても同様の結果となった。
(試験6:音響寿命試験)
試験1で作製したジルコニア−アルミナ−イットリア製玉を組み込んだ試験軸受と、窒化珪素製玉を組み込んだ試験軸受とを図3に示した試験装置に組み込み、油膜が形成されにくい条件として100℃で300rpmの低速回転を設定し、回転させながらアンデロン値(ミドルバンド)を測定した。
【0047】
結果を図16に示すが、ジルコニア−アルミナ−イットリア製玉を組み込んだ試験軸受は、窒化珪素製玉を組み込んだ試験軸受に比べて、低トルク化のために低粘度潤滑剤を用いても、優れた音響寿命を示している。
【0048】
また、ジルコニア−アルミナ−イットリア製玉の表面を顕微鏡で観察したところ、図17に示すように、粒径が2μm以下で、略球形のイットイア含有ジルコニア粒子及びアルミナ粒子からなる微細構造であることが確認された。
【符号の説明】
【0049】
1 内輪
2 外輪
3 玉(転動体)
4 保持器
5 シール
70 試験軸受
71 モータ
72 絶縁カップリング
73 ハウジング
74 予圧バネ
75 ブラシ
76 振動計
104 回転軸
105 転がり軸受
106 転がり軸受
201,202 インダクションモータ
203 電源
204 インバータ
205 電流測定用CT
206 電流アンプ
207 電流計
208 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する車載モータ用転がり軸受において、
前記転動体が、ジルコニア−アルミナ−イットリア系セラミックスからなることを特徴とする車載モータ用転がり軸受。
【請求項2】
前記転動体が、1.5〜5モル%のイットリアを含有するジルコニア50〜95質量%と、アルミナ50〜5質量%とからなることを特徴とする請求項1記載の車載モータ用転がり軸受。
【請求項3】
前記転動体におけるジルコニア粒子及びアルミナ粒子の粒径が2μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の車載モータ用転がり軸受。
【請求項4】
前記転動体におけるSiO、Fe、NaOの各含有量が、何れも0.3質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車載モータ用転がり軸受。
【請求項5】
前記転動体のビッカ−ス硬度Hvが1300〜1700、破壊靭性値が4.5MPa・m1/2以上、抗折強度が1000MPa以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車載モータ用転がり軸受。
【請求項6】
互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する車載モータ用転がり軸受の製造方法において、
粒径1μm以下のイットリア含有ジルコニア粒子と、粒径1μm以下のアルミナ粒子とを混合して球状に成形した後、焼結し、研磨して転動体を製造する工程を含むことを特徴とする車載モータ用転がり軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図16】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−17416(P2011−17416A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163739(P2009−163739)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】