説明

車載式塩分濃度測定装置および塩分濃度測定方法

【課題】移動車両によって路面の塩分濃度を測定する場合、測定結果が不安定であった。
【解決手段】図1のように、塩水に直接触れる電極30を路面Aに対して接触させるのではなく、回転するタイヤ40の表面に略接触するように支持した。そのため、路面Aにおける塩水の溜まり具合の影響を受けることなく、電極30間に保持される塩水量が一定となった。その結果、電極30間の抵抗R2は、塩水量の変化による影響が排除され塩水の濃度の違いだけによって変動するようになり、同抵抗R2によって変動する電圧値を計測することにより、路面A上の塩水の濃度を正確に判定することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面上の水分中の塩分濃度を測定する車載式塩分濃度測定装置および塩分濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、凍結防止剤の散布に際して路面における残留塩分量を把握するために、測定端子を路面に埋め込むとともに、測定端子間に流れる電流値を測定して塩水の塩分濃度を測定する路面塩分濃度測定方法が存在する(例えば、特許文献1参照。)。
上記のように測定端子を路面に埋め込む場合、路面上の限られた観測地点毎の測定結果しか得られず、広範囲に続く路面を連続的にきめ細かく測定しようとする場合には不向きであった。
【0003】
上記文献1の如く測定端子を路面に埋め込む形態とは別に、水膜センサとしての正負一対の電極からなる電極対を、電極の先端部がタイヤ表面に露出するようにタイヤ内に埋め込んだ装置が知られている(特許文献2,3参照。)。
ここで、文献2,3のような、電極をタイヤに対して先端部を外部に露出させつつ埋め込んだ構成を用いて出願人が行った、塩分測定の実験結果(便宜的に、タイヤ埋め込み型測定方法と言う。)について説明する。当該タイヤ埋め込み型測定方法の場合、広範囲に続く路面において、連続的な測定を実行できる。
【0004】
実験の原理は以下のようにした。
測定端子として対の電極を用意するとともに、この電極を、測定用の車両が備えるタイヤに対して電極の先端部が当該タイヤの表面から露出する状態で埋め込んだ。当該構成とすることで、車両の移動すなわちタイヤの回転に伴い、電極はその先端を路面に対して繰り返し接触させることになる。一方、車両を移動させる路面上には、異なる塩分濃度(例えば、5%と1%)の塩水をそれぞれ散布した。具体的には、各濃度の塩水ごとに、路面が湿る程度に散布した領域(湿り領域)と水溜り状態となるまで散布した領域(水溜り領域)とを作り出した。
【0005】
かかる状況にて、路面上を車両を移動させた。移動中においては、電極間に所定の交流電圧を印加し続けるとともに、電極間の抵抗値の変化に応じて変動し得る電圧を計測した。つまり、電極の先端部間に存在する塩水の濃度が異なれば電極間の抵抗値も異なるため、かかる抵抗値に応じて変動する電圧値を計測することで、路面上の塩分濃度を判断するのである。
【0006】
図9は、上記原理による電圧値の計測結果を示している。
同図においては、グラフの横軸を車両の移動時間、縦軸を各時点で計測された電圧値としている。図中の2点鎖線は、濃度5%の塩水による湿り領域と水溜り領域の計測結果であり、1点鎖線は、濃度1%の塩水による湿り領域と水溜り領域の計測結果である。また、比較対象として、塩水を散布しない乾燥路面の計測結果を実線にて示している。
【0007】
同図から判るように、車両が湿り領域を通過している間の計測結果(電圧値)は、濃度5%と濃度1%との違いは見て取れるものの、各濃度における電圧値の変動が大きい。また、水溜り領域においては、濃度5%と濃度1%とのそれぞれにおいて電圧値の変動が大きいばかりでなく、両計測結果が交差を繰り返しており、濃度5%と濃度1%との違いが判りづらくなっている。
【特許文献1】特開平11‐337512号公報
【特許文献2】特開2001‐99779号公報
【特許文献3】特開平7‐179108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ある濃度の塩水を路面に散布して上記のような測定を行った場合、その濃度に応じた特定の電圧値が安定して検出されることが理想である。
しかし、上記の測定方法を用いた場合、一定濃度の塩水に対する計測結果が安定せず、かつ、湿り領域や水溜り領域というような路面上の水膜の厚さの違いによっても計測結果が変動していた。これは、路面と接触する電極の先端部間に保持される塩水量が、路面上の塩水量の違いなど路面状況に応じてその時々で大きく変動してしまうことが原因と考えられる。
【0009】
電極間の抵抗値Rは一般的に次式、
R=ρ×L/S
によって表される。ρは電極の先端部間に存在する塩水の抵抗率であり、抵抗率は塩水の濃度によって決まる。Lは、電極間の距離であり上記実験では一定である。そして、Sは、対の電極が相対し合う方向に対して垂直な断面による電極の先端部間に存在する塩水の断面積である。つまり、電極の先端部間に保持される塩水量が変動するということは、上記断面積Sも変動するということであり、この断面積Sの変動が原因となって電極間の抵抗値Rが塩水の濃度に応じた一定値とならないものと考えられる。
従って、上記タイヤ埋め込み型測定方法によっては、路面上の塩分濃度を正確に把握することができなかった。
【0010】
また、冬季など気温の低い環境においては、測定端子として用いる電極に付着した水分が凍結することにより正確な測定が不能となってしまう恐れもある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、路面状況の違いにかかわらず路面の水分中の塩分濃度を安定して正確に測定することができ、かつ、上記凍結による測定不能な状況を無くすことの可能な車載式塩分濃度測定装置および塩分濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明にかかる車載式塩分濃度測定装置は、車両本体と路面との間に介在して同路面上を回転移動する回転体の表面に対して、一部を略接触させた状態にて上記車両の所定部位から支持された対の電極を備えている。ここで回転体とは、一般的に車両のタイヤやローラが該当する。
つまり、車両の回転体が塩水を含む路面を通過する場合、路面上における塩水の溜まり具合によらず、回転体表面に形成される水膜は回転の遠心力によってほぼ一定の厚さに保たれる。その結果、回転体の表面に対して一部を略接触させた状態の電極間に保持される塩水量も一定となる。
【0013】
また、当該車載式塩分濃度測定装置が備える塩分濃度判定手段は、上記電極間に形成された水分膜の抵抗値に基づいて上記路面上の水分の塩分濃度を判定する。電極間の距離が一定という前提に立てば、電流の供給を受けた電極間における抵抗値を変動させる要素としては、塩水の濃度および電極間に保持されている塩水量が考えられる。上述のように、電極間に保持される塩水量は一定である。そのため、電極間における抵抗値は、塩水の濃度の違いだけに依存して変化すると言える。
【0014】
すなわち、本発明によれば、車両が通過する路面における塩水の溜まり具合にかかわらず電極間に保持される塩水量は一定となるため、電極間の抵抗値に基づいて、路面の塩分濃度を正確に測定することができる。
また、車両の移動中は、回転体の表面は路面との摩擦によって発熱している。そのため、回転体表面と略接触する電極周りおいて付着した水分が凍結してしまうことが防止される。かつ、車両の移動中は回転体は振動しているため、当該振動によって電極周りに付着した雪や泥が振り落とされ、同雪や泥が電極周りで凍結することが防止される。その結果、気温の低い過酷な環境下においても上記測定を確実に実行することができる。
【0015】
本発明においては、回転体と電極との相対的な位置関係は様々に考えられるが、一例として、電極は回転体の正回転方向に向かって同回転体に対して接近する状態で支持される構成とすることができる。
かかる構成とした場合、回転体表面の塩水が、同表面と同表面に接近して最後は略接触する電極との間に一定量溜まりやすい。
【0016】
電極をいずれの回転体に対して略接触させるかについても種々のバリエーションがある。一例として、上記電極は、上記車両の前方側の回転体に対して略接触した状態で支持される構成とすることができる。
車両は前後それぞれに回転体を備えているのが一般的であるから、電極を前方側の回転体に略接触させて路面上の塩分濃度を測定しつつ、同測定結果に応じて、同車両の後方から路面上に凍結防止剤等を散布することができる。塩分濃度の測定結果に応じた凍結防止剤の散布と言った場合には、所定のコンピュータが同測定結果に応じて適切な散布量を決定するとともに同決定した量の凍結防止剤を所定の散布用機器に散布させる、自動散布も含まれる。
【0017】
他の例として、上記電極は、上記車両の移動に用いるべく同車両が予め有する回転体とは別に取り付けられた電極専用回転体に対して略接触した状態で支持される構成とすることができる。つまり、車両が元々備える前輪後輪などとは別製品としての電極専用回転体を車両に取り付け、この電極専用回転体に対して電極を略接触させるとすれば、簡易な手間で一般車両を塩分濃度測定用の車両とすることができる。
【0018】
ここで、上記塩分濃度判定手段は、上記対の電極と直列に接続された抵抗の両端の電圧値を計測するとともに、同計測した電圧値の大きさに応じて上記路面上の水分の塩分濃度を判定する構成とすることができる。
つまり、電極間の抵抗値の変化に伴って変化する、同電極を含む回路中のある部位の電圧値を計測するとともに、予め定めた塩分濃度と計測電圧値との関係を参照することで、路面における塩分濃度を容易に求めることができる。
【0019】
これまでは、本発明にかかる技術的思想を実現するための装置として説明を行ったが、本発明は、これを実行する方法の発明としても把握することができる。すなわち、車両本体と路面との間に介在して同路面上を回転移動する回転体の表面に対して一部を略接触させた状態にて上記車両の所定部位から支持された対の電極に電流を供給するとともに、上記電極間に形成された水分膜の抵抗値に基づいて上記路面上の水分の塩分濃度を判定することを特徴とする塩分濃度測定方法としても発明を把握することができる。
当該方法の発明においても、上述の車載式塩分濃度測定装置と同様の作用及び効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
下記の順序に従って本発明の一実施形態について説明する。
(1)塩分濃度測定装置の概略構成
(2)塩分濃度の測定処理
(3)まとめ
【0021】
(1)塩分濃度測定装置の概略構成
図1は、塩分濃度測定装置及び同装置を搭載した車両を簡略的に示している。
同図は、測定に用いる車両60の右側前輪(タイヤ40)を中心に側方から示している。塩分濃度測定装置10は概略、対となった電極30と、電極30と電気的に接続した塩分濃度判定回路20とからなる。電極30と塩分濃度判定回路20とはいずれも車両60に搭載されるため、この意味で塩分濃度測定装置10は、車載式の塩分濃度測定装置と言える。
【0022】
車両60は、路面A上の水分に含まれる塩分濃度を測定する際に路面Aを移動する手段であり、塩分濃度測定装置10は車両60によって移動しながら路面Aの塩分濃度を連続的に測定する。本実施形態において塩分と言った場合には、NaClやCaCl2等を意味し、これらは路面に散布される凍結防止剤に含まれる成分である。
【0023】
電極30は、各片が棒状となった金属部材であり、その上端は、車両60のボディのうちタイヤ40の表面と相対する所定部位において電極支持部材31を介して固定されている。また、電極30は、上記電極支持部材31の位置から略下方に向かって延出しており、それぞれの片はその下端付近にてタイヤ40の表面に対して略接触している。ここで略接触とは、電極30の側面がタイヤ40に接触している場合と、若干の隙間をもって電極30とタイヤ40の表面とが相対している場合の両方を含む意味である。
図2は、タイヤ40と電極30とを車両60の前進側から見た場合を示しており、電極30の両片は互いに距離L2の間隔を保って相対している。
【0024】
図1のタイヤ40に記載した矢印は、タイヤ40の正回転方向を示している。電極30は、タイヤ40と相対する面をタイヤ40の正回転方向においてタイヤ40の表面に接近させていくように、上記電極支持部材31によって固定されている。
このような構成において、車両60が塩水が分布する路面Aを移動すると、電極30間に一定量の塩水が保持される。
塩分濃度判定回路20は、車両60内に設置され、車両60の搭乗者によって操作される。ここで言う操作とは、後述の塩分濃度測定処理をCPU24に実行させる際の同CPU24に対する指令操作等が該当する。
【0025】
(2)塩分濃度の測定処理
図3は、塩分濃度判定回路20の回路図であり、図4は、同回路中のCPU24が実行する塩分濃度測定処理の内容を示したフローチャートである。
塩分濃度判定回路20は、概略、抵抗R1(抵抗値一定)と、発振部22と、電圧計測部21と、A/D変換部23とを備える。また、発振部22とA/D変換部23は、上記CPU24とバス25を介して双方向通信可能に接続しており、さらに濃度判定部26と出力インターフェース27と入力インターフェース28とがバス25を介してCPU24などと接続している。上述した対の電極30は抵抗R1と直列接続されており、この意味で電極30は塩分濃度判定回路20の一部との見方もできる。
【0026】
上記構成においてCPU24が実行する塩分濃度測定処理について説明する。当該塩分濃度測定処理は、所定の塩分濃度の塩水を散布した路面A上を、車両60を移動させながら実行する。
まず、ステップS(以下、ステップの記載を省略。)100において、CPU24は、入力インターフェース28を介して入力される搭乗者からの塩分濃度測定処理を開始する旨の指令を認識したら、発振部22を制御し、直列となっている抵抗R1、電極30の両端に対して交流電圧を印加させる。発振部22は、例えば、10kHzの交流電圧(5Vp-p)を供給可能である。
【0027】
次に、CPU24は、電圧計測部21に、抵抗R1の両端の電圧V1を計測させる(S110)。電圧V1は電極30間における抵抗値R2の変化によって変化し、抵抗値R2は電極30間の塩水の濃度によって変化するものであるから、上記電圧V1を計測することにより間接的に塩水の濃度を把握することができる。
ここで、電極30間の抵抗値R2について説明する。抵抗値R2は次式によって表すことができる。
R2=ρ2×L2/S2
【0028】
ρ2は、電極30間に存在する塩水の抵抗率であり、抵抗率は塩水の濃度によって決まる。L2は、電極30間の距離であり、上述したように一定である。S2は、対の電極30が相対し合う方向に対して垂直な断面による電極30間に存在する塩水の断面積である。
本発明は、抵抗R2の大きさに基づいて路面A上の塩分濃度を判別するものであるから、抵抗値R2は塩分濃度のみに影響を受けるようにすることが望ましい。言い換えると、上記式を構成する各要素のうち、抵抗率ρ2以外の、距離L2および断面積S2が一定となる状況を作り出さなければ、正確な塩分濃度測定は実現できない。
【0029】
路面A上に塩水が存在するといっても、路面Aが湿っている程度や水溜りが形成されている場合など、その路面状況は様々である。しかし、路面A上を回転するタイヤ40表面に形成される水膜の厚さは、路面上の塩水量の違いによらず、回転の遠心力の作用によってほぼ一定となる。すなわち、図1に示したように電極30をタイヤ40の表面に略接触するようにタイヤ40の外側から支持することで、路面A上に塩水が存在する状態であればその量の多少にかかわらず、タイヤ40の表面と同表面に向かって接近する電極30の側面とに挟まれた空間50(図1において、斜線にて表示。)に溜まる塩水量は一定となる。その結果、電極30間に保持される塩水量も一定となる。
【0030】
このように、本発明においては、路面A上の塩水量の違いによらず電極30間に保持される塩水量は一定となるため、結果的に上記断面積S2も路面A上の塩水量の違いによらず一定となる。よって、電極30間の抵抗値R2は塩分濃度の違いだけに依存して変化すると言える。
具体的には、高濃度の場合に抵抗値R2は低下し、低濃度の場合に抵抗値R2は上昇する。対の電極30と直列接続されている抵抗R1の両端の電圧(電圧降下)V1は、抵抗値R2が低ければ上昇し、抵抗値R2が高ければ低下するという関係にあるため、塩水の濃度と電圧V1とは、濃度が高いほど電圧V1も上昇し、濃度が低いほど電圧V1も低下するという関係になる。
【0031】
図5〜7は、電圧計測部21による電圧V1の計測結果をグラフにより示している。各グラフはいずれも、横軸を車両60の移動時間、縦軸を各時点で計測された電圧V1の値としている。
図5は、路面Aへ塩水を散布する際の散布量を各位置において一様とした場合の計測結果である。同図中の鎖線は濃度10%の塩水を一様に散布した場合の計測結果であり、2点鎖線は濃度5%の塩水を一様に散布した場合の計測結果であり、1点鎖線は濃度1%の塩水を一様に散布した場合の計測結果である。また、比較対象として、塩水を散布しない乾燥路面の計測結果を実線にて示している。
【0032】
同図から判るように、計測を開始して5秒を経過した辺りから、濃度10%に対応する電圧値は2.7V程度、濃度5%に対応する電圧値は2.5V程度、濃度1%に対応する電圧値は2.0V程度というように、夫々に所定のレベルに安定するようになる。つまり、塩水の濃度が一定であれば計測される電圧値もほぼ一定となることが示されている。
【0033】
図6は、濃度1%の塩水によって湿り領域と水溜り領域とを作り、両領域上を連続して車両60を通過させた際の計測結果を示している。同図中の2点鎖線は塩水の散布直後に車両60を通過させた場合の計測結果であり、1点鎖線は、散布してから5分経過した後に車両60を通過させた場合の計測結果である。
同図からは、湿り領域を通過した際に計測された電圧と、水溜り領域を通過した際に計測された電圧との差が小さいことが見て取れる。
【0034】
つまり、路面A上の塩水量の違いにかかわらず、塩分濃度が一定であれば計測される電圧もほぼ一定となることが示されている。
また、散布直後の計測結果と5分経過後の計測結果は、少しの差はあるものの1.5〜2.0Vの範囲にいずれも収まっている。このことから、塩分濃度が一定であれば散布後の時間経過の影響もあまり受けることなくほぼ一定の電圧値を取得できることが理解できる。
【0035】
図7は、濃度5%の塩水によって湿り領域と水溜り領域とを作り、両領域上を連続して車両60を通過させた際の計測結果を示している。同図中の2点鎖線は塩水の散布直後に車両60を通過させた場合の計測結果であり、1点鎖線は、散布してから5分経過した後に車両60を通過させた場合の計測結果である。
同図からも、図6と同様に、湿り領域を通過した際に計測された電圧と水溜り領域を通過した際に計測された電圧との差が小さいことが見て取れる。さらに、散布直後の計測結果と5分経過後の計測結果は近いレベルとなっている。このことから、塩分濃度が一定であれば、路面A上の塩水量の違いや、散布後の時間経過の違いにかかわらず、ほぼ一定の電圧値を取得できることが理解できる。
【0036】
上記フローチャートの説明に戻る。
電圧計測部21において電圧V1が計測されたら、CPU24は、同電圧計測部21が計測した電圧をA/D変換部23に入力させてA/D変換させた後、A/D変換部23の出力を濃度判定部26に入力させる。そして、濃度判定部26においては、入力されたデジタルデータ(電圧値)のレベルに応じて塩分濃度を判定する濃度判定処理を実行させる(S120)。
【0037】
図8は、濃度判定部26が実行する濃度判定処理の内容をフローチャートにより示している。
濃度判定部26は、電圧A/D変換部23から出力された、電圧値を示すデジタルデータを入力し(S200)、この電圧値が第一のしきい値(2.7V)以上であるか判断する(S210)。電圧値が第一のしきい値以上である場合は、塩水の濃度は10%以上であると判定する(S240)。
電圧値が第一のしきい値より低い場合には、第二のしきい値(2.5V)以上であるか判断し(S220)、電圧値が第二のしきい値以上である場合は、塩水の濃度は5%以上、10%未満であると判定する(S250)。
【0038】
電圧値が第二のしきい値より低い場合には、第三のしきい値(2.0V)以上であるか判断し(S230)、電圧値が第三のしきい値以上である場合は、塩水の濃度は1%以上、5%未満であると判定する(S260)。
電圧値が第三のしきい値より低い場合には、塩水の濃度は1%未満であると判定する(S270)。
【0039】
図4のフローの説明に戻る。
上記のように、濃度判定部26において塩分濃度が判定されたら、CPU24はその判定結果を出力インターフェース27を介して外部に出力させる(S130)。例えば、出力インターフェース27が車両60に搭載されたモニターに接続している場合には、このモニターに上記判定結果を表示させることができる。その結果、搭乗者はかかる表示を見て、路面A上の塩分濃度を知ることができる。また、出力インターフェース27はモニター以外にも、塩分濃度の判定結果をデータとして取得することを必要としている他の電子機器に対して接続されていてもよい。
【0040】
これまでは、電極30を車両60の右側前輪の表面に略接触させて塩分濃度測定を実行する場合について説明したが、電極30は、車両60が有するいずれのタイヤに対して略接触させることも可能であることは言うまでも無い。ただ、一つの移動車両において路面の塩分濃度を測定しつつ同測定結果に応じた適量の凍結防止剤を路面に散布する場合には、測定結果を散布作業に正確に反映させると言う意味で、車両60の後方側よりも前方側のタイヤに電極30を略接触させて上記測定を実行する方が適している。
【0041】
また、電極30を略接触させるタイヤは、車両60が元々備えているタイヤではなく、別途外付けの専用タイヤを用意しても良い。つまり、車両60が前後左右に4つのタイヤを備える場合、第5のタイヤを用意し、これを路面に接して回転する状態にて車両60の所定位置に取り付ける。そして、電極30をその先端付近が当該専用タイヤに対して略接触するように固定し、かつ、電極30と車両60に積まれた上記塩分濃度判定回路20とを電気的に接続する。このように、専用タイヤを用いるとすれば、一般車両に対する簡易な取り付け作業によって塩分濃度測定が可能となるため、経済的である。
【0042】
(3)まとめ
以上説明したように本発明によれば、塩水に直接触れる電極30を路面Aに対して接触させるのではなく、回転するタイヤ40の表面に略接触するように支持した。そのため、路面Aにおける塩水の溜まり具合の影響を受けることなく、電極30間に保持される塩水量が一定となった。その結果、電極30間の抵抗R2は、塩水量の変化による影響が排除され塩水の濃度の違いだけによって変動するようになり、同抵抗R2によって変動する電圧値を計測することにより、路面A上の塩水の濃度を正確に判定することが可能となった。また、路面Aの塩分濃度の正確な判定結果は、凍結防止剤の適切な散布の判断に役立つ。
【0043】
また、車両60を移動させながら路面Aの塩分濃度を連続的に測定できるため、従来のように塩分濃度測定用の測定端子を路面に埋め込む場合と比較して、設備投資の面で大幅なコストダウンとなり、かつ広範な範囲における路面Aの塩分濃度をきめ細かく測定することができる。
【0044】
さらに、路面A上を回転するタイヤ40は振動するとともにその表面は路面Aとの摩擦により発熱する。つまり、電極30はタイヤ40と略接触状態であるため、上記振動を受けることにより、電極30に付着した雪や泥が振り落とされ、その結果電極30が凍結することが防止される。かつ、上記発熱によっても、電極30に付着した水分で電極30が凍結してしまうことが防止される。特に本発明は、冬季や寒冷地など気温の低い環境下で使用することが想定されるため、上記電極30の凍結を防止して測定可能な状態を維持することの効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明にかかる車載式塩分濃度測定装置の概略側面図。
【図2】タイヤおよび電極の正面図。
【図3】塩分濃度判定回路の回路図。
【図4】塩分濃度測定処理の内容を示したフローチャート。
【図5】電圧計測部による電圧の計測結果を示した図。
【図6】電圧計測部による電圧の計測結果を示した図。
【図7】電圧計測部による電圧の計測結果を示した図。
【図8】濃度判定処理の内容を示したフローチャート。
【図9】タイヤ埋め込み型測定方法による電圧の計測結果を示した図。
【符号の説明】
【0046】
10…塩分濃度測定装置
20…塩分濃度判定回路
21…電圧計測部
22…発振部
23…A/D変換部
24…CPU
26…濃度判定部
27…出力インターフェース
28…入力インターフェース
30…電極
31…電極支持部材
40…タイヤ
60…車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体と路面との間に介在して同路面上を回転移動する回転体の表面に対して一部を略接触させた状態にて上記車両の所定部位から支持された対の電極と、
上記電極間に形成された水分膜の抵抗値に基づいて上記路面上の水分の塩分濃度を判定する塩分濃度判定手段と、
を備えることを特徴とする車載式塩分濃度測定装置。
【請求項2】
上記電極は、上記回転体の正回転方向に向かって同回転体に対して接近する状態で支持されることを特徴とする請求項1に記載の車載式塩分濃度測定装置。
【請求項3】
上記電極は、上記車両の前方側の回転体に対して略接触した状態で支持されることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の車載式塩分濃度測定装置。
【請求項4】
上記電極は、上記車両の移動に用いるべく同車両が予め有する回転体とは別に取り付けられた電極専用回転体に対して略接触した状態で支持されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の車載式塩分濃度測定装置。
【請求項5】
上記塩分濃度判定手段は、上記対の電極と直列に接続された抵抗の両端の電圧値を計測するとともに、同計測した電圧値の大きさに応じて上記路面上の水分の塩分濃度を判定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の車載式塩分濃度測定装置。
【請求項6】
車両本体と路面との間に介在して同路面上を回転移動する回転体の表面に対して一部を略接触させた状態にて上記車両の所定部位から支持された対の電極に電流を供給するとともに、上記電極間に形成された水分膜の抵抗値に基づいて上記路面上の水分の塩分濃度を判定することを特徴とする塩分濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−57286(P2007−57286A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240693(P2005−240693)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(598021605)社団法人 雪センター (5)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】