説明

車載通信システム

【課題】車載装置と、車載装置から受信したデータを記憶し、記憶したデータを車載装置へ分配する複数の分配装置とを備え、各分配装置が記憶するデータの信頼性を確保することができる車載通信システムを提供する。
【解決手段】分配装置2aが起動した場合、制御部20は、直前の動作停止時に正常に動作を終了していたか否かを判断する。異常終了していたと判断した場合、制御部20は、他の分配装置2bのDBに記憶してあるデータを他の分配装置2bから受信し、自身のDBに記憶させる。そして、制御部20は、第2記憶部25に記憶してある制御プログラムに従って通常動作を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載装置と、車載装置から受信したデータを記憶し、記憶したデータを車載装置へ分配する複数の分配装置とを備える車載通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車(車両)に搭載される機器の増加及び運転補助機能の増加に伴い、搭載機器又は運転補助機能を電気的に制御する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の数及び種類が増大する傾向にある。また、ECUの数の増大に伴いECUが接続される車内通信回線で送受信されるデータの量も増大する。
【0003】
車内通信回線はCAN(Controller Area Network)等に準拠するシリアルバスにECUがバス型で接続されて構成されることが一般的である。このため、いくつかのECUでしか使用しないデータも同一の車内通信回線に接続される全てのECUに送信される。従って、車内通信回線で送受信されるデータ量の増大はコリジョン(衝突)によるデータの遅延又は欠落を招く。データの著しい遅延又は欠落は、ECUによるブレーキ制御等の運転補助機能に対して致命的な場合がある。
【0004】
そこで、車内通信回線を複数に分け、異なる車内通信回線にECUをそれぞれ接続する構成が一般的である。データを共通に使用するECUをまとめることで車内通信回線の使用の無駄を抑えることができるからである。また、ECUの種類の増大に対して効率的に車内通信回線を利用するために、ECUの群を送受信するデータの種類で分別し、各群毎に通信速度の異なる車内通信回線に接続する構成もある。これらの構成では、異なる車内通信回線間はデータの送受信を制御するゲートウェイ装置により接続される。この場合、ゲートウェイ装置はECUから受信したデータを一旦記憶しておき、記憶したデータをそのデータが必要な車載装置へ分配送信する分配装置として機能する。
【0005】
特許文献1には、ECUを複数の群に分けて群毎に通信回線に接続し、車内通信回線を更にゲートウェイ装置で接続する構成とし、送受信されるデータに優先順位を識別するための優先度情報を付加し、ゲートウェイ装置が異なる車内通信回線間でデータを送受信する場合、受信したデータの優先度情報から優先度を判別して優先度が高いデータを優先的に送信し、車内通信回線の通信負荷が増加した場合でも優先度が高いデータの送信が大きく遅れないようにする技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−159568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、通信負荷が高い場合は優先度の高いデータを優先的に送信して大きく遅延させないことを目的としており、車載装置通信システムで送受信されるデータ量の増大を抑制するものではない。
【0007】
また、ECUを複数の群に分けて、各群の間をゲートウェイ装置を介して接続する場合、一の群の中のECUが更新するデータの内容は、更新された後にゲートウェイ装置を介して他の群のECUへ送信されるので、一の群と他の群とではデータの内容が一致しない時間が生じる。さらに、複数の群がゲートウェイ装置に直列的に接続される場合は、一の群と他の群とでデータの内容に段階的に時間差が生じる虞がある。この場合、車載通信システムにおけるデータの信頼性が担保されない。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、各分配装置から車載装置へ分配されるデータの内容の同一性を確保することができる車載通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車載通信システムは、データを送受信する車載装置と、該車載装置からデータを受信して記憶する記憶手段及び記憶したデータを前記車載装置へ分配する手段を有する複数の分配装置とを備える車載通信システムであって、前記分配装置は、正常に動作を終了した場合にその旨を示す情報を記憶する情報記憶手段と、起動した場合、前記情報記憶手段に記憶してある情報に基づいて正常に動作を終了していたか否かを判断する手段と、正常に動作を終了していなかったと判断した場合、他の分配装置に、該分配装置の記憶手段に記憶してあるデータの送信を要求する手段と、送信を要求したデータを他の分配装置から受信して前記記憶手段に記憶する手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、車載装置から送信されるデータを受信して記憶手段に記憶し、記憶してあるデータを車載装置へ分配する分配装置が複数備えられている。分配装置は、正常に終了した場合にその旨を示す情報を逐次記憶しており、起動した際に、正常に終了していたか否かを判断する。正常に終了していなかった場合、分配装置は、他の分配装置の記憶手段に記憶してあるデータを他の分配装置から受信して自身の記憶手段に記憶させる。
【0011】
本発明に係る車載通信システムは、前記分配装置は、記憶手段に記憶してあるデータを他の分配装置へ送信する手段と、他の分配装置から送信されたデータを前記記憶手段に記憶する手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、記憶手段に記憶してあるデータが分配装置間でそれぞれ送受信される。よって、複数の分配装置間で記憶手段のデータ内容が同期される。
【0013】
本発明に係る車載通信システムは、前記情報記憶手段は、不揮発性メモリ、又は、揮発性メモリと該揮発性メモリに電力を供給する電池とにより構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、正常に終了した旨を示す情報を記憶する情報記憶手段を不揮発性メモリ、又は、揮発性メモリと該揮発性メモリに電力を供給する電池とにより構成することにより、前記情報を確実に保持し続けることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、分配装置が正常に終了していなかった場合、起動時に他の分配装置の記憶手段に記憶してあるデータを受信し、自身の記憶手段に記憶させることにより、各分配装置の記憶手段に記憶してあるデータの同一性を確保することができる。よって、各分配装置から車載装置へ分配されるデータの信頼性を向上させることができる。
【0016】
本発明では、各分配装置が有している記憶手段のデータ内容が同期されるので、正常に終了しなかった場合であっても、各分配装置は、起動時に最新のデータを他の分配装置から取得することができる。よって、各分配装置から車載装置へ分配されるデータの内容が異なる等の問題の発生を防止することができる。これにより、車載装置は、必要なデータをいずれかの分配装置から取得すればよく、分配装置と車載装置との間で通信されるデータのデータ量を削減することができる。
【0017】
本発明では、正常に終了した旨を示す情報を確実に保持することにより、正常に終了しなかった分配装置は、起動時に、他の分配装置から効率よくデータを取得することができる。また、正常に終了した分配装置が他の分配装置からデータを取得する処理のような無駄なデータ通信を禁止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。図1は本発明に係る車載通信システムの構成を示すブロック図である。本発明の車載通信システムは、電子制御装置(ECU)を用いた複数の車載装置1a,1b,1cと、車載装置1a,1b,1cのそれぞれからデータを受信し、各車載装置1a,1b,1c及び他の車載装置(図示せず)へデータを分配する分配装置2a,2bと、車載装置1a,1b,1cと分配装置2aとを接続する車内通信回線3aと、車載装置1a,1b,1cと分配装置2bとを接続する車内通信回線3bと、分配装置2a,2b間を相互に接続する通信線4とを備える。なお、図1では、車内通信回線3aと車内通信回線3bとを区別するために、車内通信回線3bと、車載装置1a,1b,1c及び分配装置2bとの接続を破線で示している。なお、本実施形態では、図1に示すような構成を例に説明するが、車載装置の数、分配装置の数、車内通信回線の数等はこれらに限定されるものではない。
【0019】
車載装置1a,1b,1cは車内通信回線3aにそれぞれバス型で接続されており、車内通信回線3aに接続されている車載装置1a,1b,1c及び分配装置2aは、車内通信回線3aへ送信されたデータを共通して受信する。また、車載装置1a,1b,1cは車内通信回線3bにそれぞれバス型で接続されており、車内通信回線3bに接続されている車載装置1a,1b,1c及び分配装置2bは、車内通信回線3bへ送信されたデータを共通して受信する。
【0020】
車内通信回線3a,3bは、例えばCAN(Control Area Network)のプロトコルに基づく通信回線であり、車載装置1a,1b,1cは、車内通信回線3a,3bを介してCANに基づく信号を発生又は検知することによりデータの送受信が可能である。なお、本発明の車載通信システムで使用する車内通信回線3a,3bはこれに限らず、例えばLIN(Local Interconnect Network)、FlexRay(登録商標)等のプロトコルに基づくデータの送受信が可能に構成してもよい。さらに、送受信されるデータの種類に応じて送受信のスピードがそれぞれ異なる車内通信回線3a,3bで構成してもよい。
【0021】
車載装置1a,1b,1cは電子制御装置を用い、例えば接続しているセンサ(図示せず)が検知した温度、角度、速度等の測定値、演算により得られた計算値、制御値等の各種物理量の数値情報(データ値)を含むデータの送受信、又はエンジン、ブレーキ等のマイクロコンピュータによる制御が可能である。例えば、一の車載装置1aは車速を検知するセンサに接続され、センサが検知した車速のデータ値を含むデータを、接続してある分配装置2a,2bへ送信する。
【0022】
なお、CANでは、各種物理量毎にID(Identifier)が割り振られる。従って、本実施形態における車載装置1a,1b,1cと分配装置2a,2bとの間で送受信されるデータは、各種物理量毎に割り振られたデータID及びその物理量の測定値(データ値)を含む。車載装置1a,1b,1c及び分配装置2a,2bは、車載装置1a,1b,1c及び分配装置2a,2bのいずれかから送信されたデータに含まれるデータIDに基づいて、送信されたデータがいずれの物理量に対するデータ値を含むデータであるかを判断することができる。
【0023】
分配装置2a,2bは、データベース(以下、DBという)21a,21bとして使用する記憶領域を備えており、車載装置1a,1b,1cから送信されたデータをDB(記憶手段)21a,21bに記憶し、DB21a,21bから読み出したデータを車載装置1a,1b,1cへ分配する。分配装置2a,2bにデータを一元的に記憶させることにより、通信負荷の低減及び各車載装置1a,1b,1cへ分配されるデータの内容の同一性の担保の実現が可能になる。
【0024】
分配装置2a,2b間は通信線4で接続されており、分配装置2a,2bは相互にデータを送受信することが可能である。本実施形態では通信線4はパケット交換網で構成する例を示す。しかし本発明の車載装置通信システムの分配装置2a,2b間を接続する通信線4は、分配装置2a,2b間でデータの送受信が可能であればこれに限らずCANに基づく通信回線等でも構わない。
【0025】
また、車載装置1a,1b,1cと分配装置2a,2bとをそれぞれ接続する車内通信回線3a,3b、及び分配装置2a,2b間を接続する通信線4のトポロジーは、バス型、スター型、ディジーチェーン型等いずれの形態でもよい。
【0026】
分配装置2a,2bは、他の車内通信回線(図示せず)を介して他の車載装置(図示せず)とも接続されており、接続してある車載装置1a,1b,1cから受信したデータを他の車載装置へ送信してもよい。この場合、他の車載装置へ送信するデータは車載装置1a,1b,1cから送信されるデータ全てではなく、当該他の車載装置で必要なデータのみをDB21a,21bから読み出して送信する構成とすることにより、車載通信システムにおける通信負荷を削減する。
【0027】
またDB21a,21bに一元的に記憶されたデータが車載装置1a,1b,1cへ分配されることにより、車載装置1a,1b,1c及び他の車載装置群で受信するデータの内容の同一性が担保される。さらに、分配装置2a,2bから複数の群に接続している各車載装置へ一括してデータを送信することによりデータの同時性が担保される。
【0028】
更に、本発明に係る車載通信システムでは、各車載装置1a,1b,1cが分配装置2a及び分配装置2bの両者に車内通信回線3a及び3bを介してそれぞれ接続されており、両者にデータを送信する。例えば車載装置1aは分配装置2a及び分配装置2bの両者に車速のデータを送信する。他の車載装置群によって送信されたデータを含め、分配装置2a及び分配装置2bの両者に同一のデータが送信されて記憶される。これにより、車載装置1a,1b,1cは分配装置2aのみならず分配装置2bからもデータを受信することができる。
【0029】
従って、分配装置2aにおいてメモリ等のハードウェアの故障が発生してDB21aからデータを読み出すことができなくなる場合、又は分配装置2aと車内通信回線3aとの接続に障害が発生し、車載装置1a,1b,1cが分配装置2aからデータを送受信することができなくなる場合等、分配装置2aに支障が発生した場合であっても、車載装置1a,1b,1cは分配装置2bとの間でデータを送受信することができる。このように本発明の車載通信システムでは各車載装置1a,1b,1cと分配装置2a,2b、具体的にはDB21a,21bとの接続関係が二重化されることにより車載通信システム全体としてフェールセーフな状態で動作することが可能になり、システムとしての信頼性が向上する。
【0030】
図2は、本発明の車載通信システムを構成する車載装置1a及び分配装置2aの内部構成を示すブロック図である。なお、車載装置1b,1cは車載装置1aと同様の内部構成であるので詳細な説明を省略し、分配装置2bは分配装置2aと同様の内部構成であるので詳細な説明を省略する。
【0031】
車載装置1aは、以下に示す各構成部の動作を制御する制御部10と、各構成部へ電力を供給する電源回路11と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性のメモリからなる記憶部12と、車内通信回線3aとの通信を制御する第1通信部13と、車内通信回線3bとの通信を制御する第2通信部14とを備える。なお、車載装置によっては1本の車内通信回線を介して1つの分配装置に接続される場合もあり、この場合、第1通信部13及び第2通信部14のいずれか一方のみ備えればよい。また、車載装置によっては3本以上の車内通信回線を介して3つ以上の分配装置に接続される場合もあり、この場合、第1通信部13及び第2通信部14と同様の構成の通信部を、接続される車内通信回線の数だけ備えればよい。
【0032】
車載装置1aの制御部10は、車両のオルタネータ、バッテリー等の電力供給装置(図示せず)から電源回路11を介して電力の供給を受け、記憶部12に記憶されている制御プログラムを読み出して実行し、各構成部の動作を制御する。
【0033】
車載装置1aの記憶部12には、車載装置1aを本発明に係る車載通信システムの車載装置として動作させるために必要な種々の制御プログラムが予め記憶されている。また、記憶部12には、制御部10の処理により発生する制御値、計算値等の各種情報が一時的に記憶される。更に、記憶部12には、車載装置1aが車内通信回線3a,3bを介して分配装置2a,2bへ送信するデータに割り振られ、各データを識別するためのデータIDが記憶されている。記憶部12は揮発性メモリであるが図示しない電池を内蔵し、記憶しているデータを保持するようにしてある。
【0034】
車載装置1aの第1通信部13は、車内通信回線3aを介して接続されている分配装置2aとの間でデータの送受信を実現する。第2通信部14は、車内通信回線3bを介して接続されている分配装置2bとの間でデータの送受信を実現する。車載装置1aの制御部10は、記憶部12に記憶されている制御プログラムを実行することにより各種物理量のデータ値を取得し、取得したデータ値に、記憶部12に記憶してあるデータIDを付与したデータを、例えば10ミリ秒の一定時間毎に第1通信部13及び第2通信部14から分配装置2a,2bへ送信する。
【0035】
分配装置2aは、以下に示す各構成部の動作を制御する制御部20と、各構成部へ電力を供給する電源回路22と、DRAM等の揮発性のメモリからなる第1記憶部24及び第2記憶部25と、車内通信回線3aとの通信を制御する第1通信部27と、通信線4との通信を制御する第2通信部28とを備える。
【0036】
分配装置2aの制御部20は、車両のオルタネータ、バッテリー等の電力供給装置から電源回路22を介して電力の供給を受け、第2記憶部25に記憶されている制御プログラムを読み出して実行し、各構成部の動作を制御する。具体的には、制御部20は、車載装置1a,1b,1cから受信したデータに含まれるデータID及びデータ値を対応付けて第1記憶部24のDB21aに記憶する。
【0037】
なお、電源回路22は電池23を備えており、電力供給装置からの電力の供給が遮断された場合に、電池23からの電力を所定の構成部へ供給する。これにより、電力供給装置からの電力の供給が遮断された場合であっても、電池23から電力が供給される各構成部は動作を継続することができる。本実施形態では、電源回路22は、電池23からの電力を第2記憶部25へ供給しており、これにより、第2記憶部25は記憶している各データを保持し続けることができる。
【0038】
分配装置2aの第1通信部27は、車内通信回線3aを介して接続されている車載装置1a,1b,1cとの間でデータの送受信を実現する。第2通信部28は、通信線4を介して接続されている分配装置2bとの間でデータの送受信を実現する。なお、本実施形態では、分配装置2aの制御部20は、DB21aから読み出したデータを第2通信部28から分配装置2bへ送信するに際し、DB21aに記憶してあるデータのうちで、分配装置2bのDB21bに記憶してある各データに対して更新されたデータのみを第2通信部28から分配装置2bへ送信する。
【0039】
しかし、例えば、分配装置2aの制御部20がDB21aから読み出したデータを全て分配装置2bへ送信し、分配装置2bの制御部が、受信したデータと、自身のDB21bに記憶してあるデータとを比較し、更新されたデータのみをDB21bに記憶するようにしてもよい。ただし、この場合、各データには、いずれのデータがより新しいデータであるかを比較するための情報を付与しておく必要がある。
【0040】
分配装置2aの第1記憶部24には、制御部20の処理により発生する各種情報が一時的に記憶され、図3(a)に示すようなDB21aのための記憶領域が設けられている。分配装置2aの第2記憶部25には、分配装置2aを本発明に係る車載通信システムの分配装置として動作させるために必要な種々の制御プログラムが予め記憶されており、図3(b)に示すような送信情報テーブル26が記憶されている。
【0041】
図3は、DB21a及び送信情報テーブル26の登録内容を示す模式図である。図3(a)に示すように、DB21aには、制御部20が車載装置1a,1b,1c及び分配装置2bから受信したデータのデータID及び各データのデータ値が対応付けて登録されている。また、図3(b)に示すように、送信情報テーブル26には、各データの送信情報として、各データのデータID、各データを分配する際の分配周期及び送信先が対応付けて登録されている。なお、図3(b)には、送信先の欄に、各車載装置を識別するための情報として1d,1e,1fが登録された送信情報テーブル26を示したが、送信先としては、車載装置に限られず、車内通信回線を示す情報であってもよい。
【0042】
上述した構成の分配装置2aにおいて、制御部20は、第1通信部27が車載装置1a,1b,1cからデータを受信した場合、受信したデータに含まれるデータID及びデータ値を抽出する。そして、制御部20は、抽出したデータIDを、DB21aのデータIDの欄から検索し、検索できた場合、このデータIDに対応するデータ値の欄に、データから抽出したデータ値を記憶させる。これにより、分配装置2aは、車載装置1a,1b,1cから順次送信されてくるデータに基づいて、DB21aに記憶してある各データのデータ値を逐次更新することができる。
【0043】
ここで、本実施形態における車載装置1a,1b,1c及び分配装置2a,2bは、同期したタイマを有しており、共有の周期に基づき同期して動作する。このため、車載装置1a,1b,1cの制御部10及び分配装置2a,2bの制御部20はそれぞれ、図示しない内臓クロックに従ってタイマとして機能する。
【0044】
分配装置2aの制御部20は、送信情報テーブル26に登録されている各分配周期を計時しており、それぞれの分配周期が経過する都度、対応するデータID及び送信先を送信情報テーブル26から読み出す。そして、制御部20は、読み出したデータIDが示すデータのデータ値をDB21aから読み出し、データID及びデータ値を含むデータを、送信情報テーブル26から読み出した送信先へ第1通信部27から送信する。これにより、分配装置2aは、送信情報テーブル26に登録された各送信情報に従って、各データをそれぞれの分配周期で予め設定された送信先へ分配することができる。
【0045】
また、制御部20は、所定の周期毎に、他の分配装置2b間でDB21a,21bに記憶してあるデータを送受信してデータを交換しており、これにより、DB21a,21bのデータ内容が同期される。本実施形態では、DB21a,21bのデータ内容の同期の手順については限定しない。所定の周期毎に同期処理が実行された後は、分配装置2a,2bのDB21a,21bの内容は全て同期している。
【0046】
このように、車載装置1a,1b,1cから順次送信されてくる最新のデータに基づいて、分配装置2a,2bのDB21a,21bのデータが逐次更新され、また、DB21a,21bのデータは所定の周期で同期されるので、各分配装置2a,2bから各車載装置1a,1b,1cへ分配されるデータの同一性を確保することができる。
【0047】
ここで、本発明の車載通信システムにおいて、分配装置2a,2bの制御部20は、例えば車両のエンジンが切られ、電源回路22からの電力の供給が終了した場合、分配装置2a,2bの各構成部の動作を停止させるが、このときに正常に動作を終了できた場合、正常に動作を終了したことを示す情報を第2記憶部(情報記憶手段)25に記憶させておく。そして、例えば車両のエンジンが掛けられ、電源回路22からの電力の供給が再開されて起動した場合、制御部20は、分配装置2a,2bの各構成部の動作を開始させると共に、第2記憶部25に記憶してある情報に基づいて、直前の動作停止時に正常に動作を終了していたか否かを判断する。
【0048】
分配装置2a,2bの制御部20は、正常に動作を終了していた(正常終了していた)と判断した場合、第2記憶部25に記憶してある制御プログラムに従って通常動作を開始する。一方、正常に動作を終了していなかった(異常終了していた)と判断した場合、制御部20は、他の分配装置2b(又は2a)に、この分配装置2b(又は2a)のDB21b(又は21a)に記憶してある全てのデータの送信を要求する。制御部20は、送信を要求したデータを他の分配装置2b(又は2a)から受信し、自身のDB21a(又は21b)に記憶させた後、第2記憶部25に記憶してある制御プログラムに従って通常動作を開始する。
【0049】
なお、ここでの異常終了とは、分配装置2a,2bに何らかの障害が発生し、電源回路22から各構成部への電力の供給が瞬断又は遮断された場合に、制御部20が、上述したように、正常に動作を終了したことを示す情報を第2記憶部25に記憶させることなく動作を終了してしまったことを意味する。
【0050】
分配装置2a,2bの第1記憶部24は揮発性メモリにより構成されており、電源回路22からの電力の供給が短時間でも瞬断された場合、DB21a,21bに記憶されているデータの信頼性を保証できなくなる。また、制御部20がDB21a,21bへデータを書き込み中に、電源回路22からの電力の供給が瞬断された場合、そのデータは全て無効となる。
【0051】
従って、上述したように、分配装置2a,2bの制御部20が、起動した後に、直前の動作停止時に正常終了していたか否かを判断し、異常終了していたと判断した場合、即ち、DB21a,21bのデータの信頼性が保証できなくなった場合、他の分配装置2a,2bのDB21a,21bに記憶してある全てのデータを取得し、自身のDB21a,21bに記憶する。なお、他の分配装置2a,2bから取得するデータは、全ての情報に対する最新のデータのみでもよいし、DB21a,21bに記憶してある全てのデータでもよい。
【0052】
分配装置2a,2bのDB21a,21bには、車載装置1a,1b,1cのそれぞれから送信される最新のデータが順次記憶され、また、DB21a,21bに記憶してあるデータは所定の周期毎に同期されるが、異常終了した後に起動し、各車載装置1a,1b,1cから最新のデータを受信する前、又はDB21a,21b間での同期処理を行なう前に、DB21a,21bのデータを車載装置1a,1b,1cへ送信する必要がある場合、信頼性を有しないデータが車載装置1a,1b,1cへ送信される虞がある。従って、上述したように、異常終了した後に起動した場合、他の分配装置2a,2bのDB21a,21bのデータを取得することにより、DB21a,21b間でデータの同一性を確保し、分配装置2a,2bから車載装置1a,1b,1cへ信頼性の高いデータを分配することができる。
【0053】
また、分配装置2a,2bのDB21a,21bのデータの同期処理において、各DB21a,21bに記憶してある全てのデータ、具体的には、各データの最新の値だけでなく、DB21a,21bに蓄積された全てのデータを分配装置2a,2b間で送受信する構成の場合、異常終了した後に起動した場合であっても、初めての同期処理によって全てのデータをDB21a,21bに記憶させることはできる。
【0054】
しかし、同期処理において、各DB21a,21bに記憶してあるデータのうちの、更新されたデータのみを分配装置2a,2b間で送受信する構成の場合、異常終了した後に起動し、初めて実行した同期処理によっては、DB21a,21bに記憶しておくべき全てのデータを記憶させることができず、DB21a,21bのデータ間に不整合が生じる場合がある。このような場合であっても、上述したように、異常終了した後に起動した場合に、他の分配装置2a,2bからDB21,a21bのデータを取得することにより、DB21a,21b間でデータの同一性を確保できると共に、DB21a,21bに記憶しておくべき全てのデータを記憶させることができる。
【0055】
以下に、分配装置2aが所定の周期毎に行なう同期処理及び送信情報テーブル26の登録内容に基づいて行なうデータの分配処理についてフローチャートに基づいて説明する。図4は分配装置2aの通常動作の処理手順を示すフローチャートである。なお、分配装置2bも同様の処理を行なうので詳細な説明を省略する。
【0056】
分配装置2aの制御部20は、タイマとして機能しており、第1記憶部24のDB21aに記憶してあるデータと、他の分配装置2bのDB21bに記憶してあるデータとの同期処理を行なう際の所定の周期を経過したか否かを判断する(S1)。所定の周期を経過したと判断した場合(S1:YES)、制御部20は、同期処理を実行する(S2)。
【0057】
具体的には、制御部20は、DB21aのデータのうちで、他の分配装置2bのDB21bのデータに対して更新された最新のデータを他の分配装置2bへ送信する。また、制御部20は、他の分配装置2bから同様にして送信されてきた最新のデータをDB21aに記憶する。
【0058】
制御部20は、所定の周期を経過していないと判断した場合(S1:NO)、ステップS2の処理をスキップし、送信情報テーブル26に登録されている各データの分配周期を経過したか否かを判断する(S3)。分配周期を経過したと判断した場合(S3:YES)、制御部20は、対応するデータID及び送信先を送信情報テーブル26から読み出す(S4)。そして制御部20は、データIDに対応するデータ値をDB21aから読み出し(S5)、データID及びデータ値を含むデータを、送信情報テーブル26から読み出した送信先へ第1通信部27から送信する(S6)。なお、分配周期を経過していないと判断した場合(S3:NO)、制御部20は、ステップS4〜S6の処理をスキップする。
【0059】
制御部20は、電源回路22からの電力の供給が終了した場合等、上述した処理の終了が指示されたか否かを判断しており(S7)、処理の終了が指示された場合(S7:YES)、上述した処理を終了し、処理の終了が指示されていない場合(S7:NO)、ステップS1へ処理を戻し、処理の終了が指示されるまで述した処理を繰り返す。
【0060】
次に、分配装置2aの制御部20が電源回路22から第1記憶部24への電力の供給の瞬断を検出した場合に分配装置2aの制御部20が行なう処理をフローチャートに基づいて説明する。図5は第1記憶部24への電力の供給の瞬断を検出した場合の処理手順を示すフローチャートである。なお、分配装置2bが電源回路から第1記憶部への電力の供給の瞬断を検出した場合にも同様の処理を行なうので、詳細な説明を省略する。
【0061】
分配装置2aの制御部20は、電源回路22からの電力の供給が開始されて起動した場合、第2記憶部25に記憶してある情報に基づいて、直前の動作停止時に正常終了していたか否かを判断する(S11)。正常終了していなかったと判断した場合(S11:NO)、即ち、異常終了していた場合、制御部20は、他の分配装置2bに対して、分配装置2bのDB21bに記憶してあるデータを要求する(S12)。分配装置2bの制御部は、分配装置2aからの要求に従って、第1記憶部のDB21bに記憶してある各データ、具体的には各データのデータID及びデータ値を通信線4を介して分配装置2aへ送信する(S13)。
【0062】
分配装置2aの制御部20は、分配装置2bから受信したデータを、各データのデータID及びデータ値をそれぞれ対応させて第1記憶部24のDB21aに記憶させ(S14)、上述した処理を終了し、第2記憶部25に記憶してある制御プログラムに従って通常動作を開始する。一方、正常終了していたと判断した場合(S11:YES)、制御部20は、ステップS12〜S14の処理をスキップし、上述した処理を終了し、第2記憶部25に記憶してある制御プログラムに従って通常動作を開始する。
【0063】
上述したように、本発明の車載通信システムでは、各分配装置2a,2bは、電源回路22から第1記憶部24への電力の供給が何らかの原因によって瞬断又は遮断され、DB21a,21bに記憶してあるデータの信頼性が失われた場合に、他の分配装置2a,2bのDB21a,21bからデータを取得して、自身のDB21a,21bに記憶することにより、DB21a,21bのそれぞれに記憶してあるデータの同一性を確保し、分配装置2a,2bから車載装置1a,1b,1cへ分配されるデータの信頼性を確保することができる。
【0064】
上述した実施形態では、電源回路22を介した電力供給装置からの電力の供給が遮断された場合に、電池23からの電力を第2記憶部25へ供給することにより、第2記憶部25に記憶された情報の消失を防止するように構成された分配装置2a,2bを例に説明したが、第2記憶部25を不揮発性メモリによって構成してもよい。この場合、電力供給装置からの電力の供給が遮断された場合であっても、電池23からの電力を第2記憶部25へ供給することなく、第2記憶部25は記憶した情報を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る車載通信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の車載通信システムを構成する車載装置及び分配装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】DB及び送信情報テーブルの登録内容を示す模式図である。
【図4】分配装置の通常動作の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】第1記憶部への電力の供給の瞬断を検出した場合の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1a,1b,1c 車載装置
2a,2b 分配装置
21a,21b DB(記憶手段)
25 第2記憶部(情報記憶手段)
3a,3b 車内通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを送受信する車載装置と、該車載装置からデータを受信して記憶する記憶手段及び記憶したデータを前記車載装置へ分配する手段を有する複数の分配装置とを備える車載通信システムであって、
前記分配装置は、
正常に動作を終了した場合にその旨を示す情報を記憶する情報記憶手段と、
起動した場合、前記情報記憶手段に記憶してある情報に基づいて正常に動作を終了していたか否かを判断する手段と、
正常に動作を終了していなかったと判断した場合、他の分配装置に、該分配装置の記憶手段に記憶してあるデータの送信を要求する手段と、
送信を要求したデータを他の分配装置から受信して前記記憶手段に記憶する手段と
を備えることを特徴とする車載通信システム。
【請求項2】
前記分配装置は、
記憶手段に記憶してあるデータを他の分配装置へ送信する手段と、
他の分配装置から送信されたデータを前記記憶手段に記憶する手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の車載通信システム。
【請求項3】
前記情報記憶手段は、不揮発性メモリ、又は、揮発性メモリと該揮発性メモリに電力を供給する電池とにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車載通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−33406(P2009−33406A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194458(P2007−194458)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】