説明

車輌塗装代替フィルムおよびその製造方法

【課題】所定の車体色を提供することができ、三次元形状に対する形状追従性に優れた、低コストの車輌塗装代替フィルムを提供する。
【解決手段】透明材料層および着色接着剤層を含む車輌塗装代替フィルムにおいて、着色接着剤層が、(i)(a)アクリルポリオールと、(b)アクリルポリオールに分散している着色剤であって、有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、およびアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される着色剤とを含む着色剤プレミックスと、(ii)接着性ポリマーとを含み、接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比が25%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輌塗装代替フィルム(車体色フィルム)およびその製造方法に関する。より詳細には、本開示は、所定の車体色を提供することができ、三次元形状に対する形状追従性に優れた、車輌塗装代替フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車輌の車体色は、デザイン上の要求から、有機顔料、無機顔料、アルミ光輝材、およびマイカ光輝材のうち2種以上をブレンドして作成される。一般に、有機顔料および無機顔料は、有彩色を提供するか、あるいは白色もしくは黒色のベースとなり、アルミ光輝材はメタリック色を与え、マイカ光輝材はパール色を与える。例えば、車体色を黒色とする場合であっても、微妙な色調の違いを表現するために、カーボンブラックなどの無機顔料にわずかな量の有機顔料、アルミ光輝材、および/またはマイカ光輝材が添加されることが一般的である。
【0003】
車輌塗装代替フィルム(車体色フィルムと呼ばれることもある)は、スプレー法によって塗布される従来の車輌塗装用塗料の代わりに使用することができる着色フィルムであり、高い成形性を有することが望まれている。例えば、車輌塗装代替フィルムは、真空成形または真空圧空成形によって、深絞りされた三次元形状の部品およびパネルに接着可能であることが望ましい。あるいは、真空成形、加熱プレスなどにより予備附形してから射出成形金型のキャビティー内にセットして樹脂を射出することにより一体化するインモールド成形に使用できることが望ましい。いずれの手法においてもフィルムは120℃といったような高温の状態で延伸される。被着体の形状によって異なるが、浅絞り形状のものでも50%以上、通常は100%(2倍に延伸)以上、深絞り形状のものでは200%(3倍に延伸)以上といった延伸が必要とされる。
【0004】
車体の溶接部を隠すためのルーフモールディング、ドア枠のベルトモールといった部品または直接的に車両外板などに、常温にて手作業で圧着またはローラーで加熱圧着して使用される従来の車輌塗装代替フィルムは、透明材料層(トップ層)、着色層(カラー層)、および接着剤層から構成される三層積層構造を有している。着色層は、樹脂製バンパー用塗料として使用される、2液型のポリウレタン塗料組成物を用いて形成されている。透明材料層は、着色層の上に反応性ポリウレタン組成物などの透明材料をコーティングすることによって形成されている。
【0005】
自動車メーカーなどの需要者からは、車輌塗装代替フィルムの製品コストのさらなる低減が引き続き要求されており、車輌塗装代替フィルムの目標コストは、一般のスプレー塗装と競争できるほど低いものである。また、従来の車輌塗装代替フィルムに含まれる、2液型のポリウレタン塗料組成物を用いて形成した着色層は、比較的強靱であって特に高温では30%程度しか伸びない。そのため、このような三層積層構造を有する車輌塗装代替フィルムは、複雑な三次元形状に適用するのに十分な伸び・曲げなどの特性を有していない。
【0006】
特許第3500240号(特許文献1)には、「透明フィルムの一方の面に少なくとも1層の着色された接着剤層を設けてなる着色フィルムにおいて、上記接着剤層が顔料と分散剤とからなる着色剤によって着色され、上記分散剤が、モノマー成分として、芳香族ビニルモノマー、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー及び芳香族化合物で4級化されたアンモニウム基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーを必須成分とする(メタ)アクリル酸エステル系重合体からなることを特徴とする着色フィルム」が記載されている。
【0007】
特開2004−051753号公報(特許文献2)には、「白色顔料とガラス転移温度が−10℃以下のポリエステル系可塑剤とを均一に分散させて白色トナーを調製し、この白色トナーと粘着剤とを混合して得た白色粘着剤組成物によって、全光線透過率が3〜80%である着色フィルムの片面に、粘着剤100重量部に対して白色顔料が3〜150重量部含まれる白色粘着剤層を形成することを特徴とする装飾用粘着シートの製造方法」およびその製造方法に用いられる「白色トナー」が記載されている。
【0008】
特開2008−308646号公報(特許文献3)には、「カルボキシル基含有(メタ)アクリル系ポリマー、顔料または染料、及び芳香族ビニルモノマーを含まないアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーを含むアクリル系着色粘着剤」が記載されている。
【0009】
これらの従来技術はいずれも、有機顔料、無機顔料、アルミ光輝材およびマイカ光輝材の2種以上のブレンドから構成される車輌の車体色を有する車輌塗装代替フィルムを提供するものではなく、アクリル感圧接着剤以外の接着剤を用いたものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3500240号
【特許文献2】特開2004−051753号公報
【特許文献3】特開2008−308646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、所定の車体色を提供することができ、三次元形状に対する形状追従性に優れた、低コストの車輌塗装代替フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示によれば、透明材料層および着色接着剤層を含む車輌塗装代替フィルムであって、前記着色接着剤層が、(i)(a)アクリルポリオールと、(b)前記アクリルポリオールに分散している着色剤であって、有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、およびアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される着色剤とを含む着色剤プレミックスと、(ii)接着性ポリマーとを含み、接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比が約25%以上である、車輌塗装代替フィルムが提供される。
【0013】
また、本開示によれば、(a)アクリルポリオール中に、(b)有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、およびアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される着色剤を分散させて、着色剤プレミックスを調製すること、前記着色剤プレミックスおよび接着性ポリマーを混合して得られた着色接着剤組成物を用いて着色接着剤層を形成すること、形成された前記着色接着剤層の上に透明材料をラミネートまたはコーティングすることによって透明材料層を形成することを含む、車輌塗装代替フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本開示の車輌塗装代替フィルムは、あらかじめ色合せした着色剤プレミックスと接着性ポリマーとを含む着色接着剤層によって、様々な種類の所定の車体色を正確かつ簡便に提供することができる。また、車輌塗装代替フィルムを構成する層の数を、ルーフモールディングテープなどの従来の車輌塗装代替フィルムより減らすこともでき、引張伸びに優れ、三次元形状に対する形状追従性が高く、低コストの車輌塗装代替フィルムを提供することができる。
【0015】
被着体に応じて様々な種類の接着性ポリマーを選択し、その接着性ポリマーを着色剤プレミックスと混合することによって、着色接着剤層を形成するための着色接着剤組成物が得られるため、製造工程において、被着体に応じて製品を変更することが容易である。また、着色層が接着性を有しているため、透明材料層をラミネートおよびコーティングのいずれによっても形成することができ、製造工程の自由度を高めることができる。これらの製造工程上の利点は、本開示の車輌塗装代替フィルムの低コスト化にも寄与する。
【0016】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様および本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本開示の一実施態様の車輌塗装代替フィルムの断面を模式的に示す。
【図2】本開示の別の実施態様の車輌塗装代替フィルムの断面を模式的に示す。
【図3】本開示の別の実施態様の車輌塗装代替フィルムの断面を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0019】
「車輌」とは、トラック、バス、乗用車などの自動車、オートバイ、スクーターなどの二輪車、自転車、電車、遊覧船、ヨット、モーターボートなどの船舶などの移動体を意味する。本開示の車輌塗装代替フィルムはこれら移動体の本体(ルーフ、ドア、ボンネットなどを含む)もしくはその一部分、またはこれら移動体の構成部品(例えば、バンパー、ルーフモールディング、サイドガードモール、ピラーなど)に適用することができる。
【0020】
「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。
【0021】
図1に、本開示の一実施態様による車輌塗装代替フィルムの断面を模式的に示す。車輌塗装代替フィルム10は、透明材料層20と着色接着剤層30を含み、着色接着剤層30は(i)(a)アクリルポリオールと(b)アクリルポリオールに分散している着色剤とを含む着色剤プレミックスと、(ii)接着性ポリマーとを含む。ここで、接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比は約25%以上である。車輌塗装代替フィルム10は、着色接着剤層30を介して、自動車のルーフ、ドア、バンパーなどの被着体(図示せず)に適用することができる。透明材料層20は、外部からの衝撃、砂埃、雨、紫外線などから被着体および着色接着剤層30を保護することができる。
【0022】
透明材料層は、様々な透明材料から形成することができる。本開示において「透明」とは、可視光領域の波長の光の透過率が約50%以上であることを意味し、この透過率は、約70%以上、または約90%以上であることが有利である。透明材料層は、例えば、反応性ポリウレタン組成物などの透明材料を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって着色接着剤層にコーティングし、必要に応じて加熱硬化することによって、形成することができる。反応性ポリウレタン組成物は、耐候性および耐擦傷性に優れるため、本開示の車輌塗装代替フィルムの透明材料層を形成するのに有利に使用できる。
【0023】
反応性ポリウレタン組成物は一般にポリオールと架橋剤を含む。ポリオールとして、例えば、アクリルポリオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオールなどが使用できる。架橋剤として、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルイソシアネート)、それらのビュレット体、イソシアヌレート体もしくはアダクト体などのポリイソシアネート、ポリカルボジイミドなどが使用できる。反応性ポリウレタン組成物は、水系であっても非水系であってもよい。
【0024】
透明材料層をコーティングによって形成する場合、その厚さは、一般に、約5μm以上、約10μm以上、または約25μm以上、約500μm以下、約200μm以下、または約100μm以下である。高い形状追従性を必要とする場合、透明材料層は薄い方が有利であり、例えば、約200μm以下、または約100μm以下であることが望ましい。一方、車輌塗装代替フィルムの耐光性および/または耐候性を高めるためには、透明材料層が厚い方が有利であり、例えば約10μm以上、または約25μm以上であることが望ましい。
【0025】
本開示によれば、着色接着剤層が接着性を有していることから、あらかじめフィルムとして形成された透明材料層を着色接着剤層にラミネートすることによって車輌塗装代替フィルムを作ることもできる。通常1車種につき5〜10色程度の車体色が設定されるため、それらの色の塗装代替フィルムがその車種が製造される間に様々な量で必要とされかつ色間の使用量割合も刻々と変化してゆくが、この実施態様によれば、共通材料である透明材料層フィルムを予め大きなロットで製造しておいて、各色の着色接着剤層の製造工程の際に必要な分だけをラミネートすればよいので、製造工程をより簡略化して低コスト化を達成することができる。また、平坦性の高いフィルムを透明材料層とすることによって、より表面平坦性の高い車輌塗装代替フィルムを得ることができる。さらに、透明材料層を着色接着剤層にラミネートして得られる車輌塗装代替フィルムは、コーティングによって形成した透明材料層を有する車輌塗装代替フィルムと比べて、より高い破断伸度、および/またはより優れた延伸後の外観を示す場合がある。
【0026】
透明材料層に使用されるフィルムとして、以下に限られないが、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリル樹脂、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メチルメタクリレート/フッ化ビニリデン共重合体(PMMA/PVDF)などのフッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)、塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリウレタン、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの共重合体などから作製されたフィルムが挙げられる。自動車外装として用いられるための耐候性に優れている、アクリル樹脂、フッ素樹脂、PVC、およびポリウレタンが好ましく、廃棄物として焼却したり埋め立てたりする際の環境負荷も考慮するとアクリルおよびポリウレタンが特に好ましい。これらのフィルムは様々な厚さで使用することができるが、一般に、約5μm以上、約10μm以上、または約25μm以上、約500μm以下、約200μm以下、または約100μm以下である。高い形状追従性を必要とする場合、透明材料層は薄い方が有利であり、例えば、約200μm以下、または約100μm以下であることが望ましい。一方、車輌塗装代替フィルムの耐光性および/または耐候性を高めるためには、透明材料層が厚い方が有利であり、例えば約10μm以上、または約25μm以上であることが望ましい。
【0027】
透明材料層は、必要に応じて、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、Tinuvin(登録商標)292などのヒンダードアミン光安定化剤(HALS)などを含んでもよい。紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定化剤などを用いることによって、透明材料層の下にある着色接着剤層に含まれる着色剤の、特に紫外線などの光に対する感受性が比較的高い有機顔料の、変色、退色、劣化などを有効に防止することができ、その結果、車輌塗装代替フィルムの耐光性および/または耐候性をさらに高めることができる。ハードコート層を、車輌塗装代替フィルムとしたときに外側となる透明材料層の表面に形成してもよい。
【0028】
着色接着剤層は、(i)着色剤プレミックスおよび(ii)接着性ポリマーを混合して得られる着色接着剤組成物を用いて形成することができる。着色剤プレミックスは、(a)アクリルポリオールおよび(b)着色剤を含み、着色剤はアクリルポリオールに分散している。
【0029】
着色剤プレミックスに含まれるアクリルポリオールとして、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレートを含むアクリル系共重合体を使用することができる。水酸基含有(メタ)アクリレートと共重合させることができるモノマーとして、エチレン性不飽和基を有するモノマーが使用でき、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレンなどが挙げられる。アクリルポリオールは、重合開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤や、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物系開始剤を用いて、水酸基含有(メタ)アクリレートおよび上記エチレン性不飽和基を有するモノマーを重合させることにより得ることができる。重合時に、2−メルカプトエタノール、1−メルカプト−2−プロパノール、3−メルカプト−1−プロパノール、p−メルカプトフェノールなどの水酸基を有する連鎖移動剤を使用してもよい。
【0030】
アクリルポリオールの水酸基価は、一般に、約10mg/g以上、約20mg/g以上または約40mg/g以上であり、約1000mg/g以下、約500mg/g以下または約200mg/g以下である。アクリルポリオールの酸価は、一般に、約0.1mg/以上、約0.5mg/g以上または2mg/g以上である。アクリルポリオールの水酸基価および/または酸価を上記値とすることにより、アクリルポリオールに着色剤を良好に分散することができ、後述する接着性ポリマーとの混和性を高めることができる。アクリルポリオールの平均分子量は、一般に、約2000以上、約5000以上または約10000以上であり、約300000以下、約200000以下または約100000以下である。アクリルポリオールの平均分子量を上記値とすることにより、アクリルポリオールに着色剤を良好に分散することができ、後述する接着性ポリマーとの混和性を高めることができる。
【0031】
本開示の車輌塗装代替フィルムにおける着色剤は、自動車などの車輌に所定の車体色を提供するため、有機顔料、無機顔料、アルミ光輝材、およびマイカ光輝材の2種以上のブレンドである。言い換えると、着色剤は、有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、およびアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される。本開示の車輌塗装代替フィルムは、上記着色剤を使用することにより様々な種類の色調を示すことから、デザイン上の高度な要求に応えることができる。
【0032】
有機顔料として、従来から塗料に配合されている公知の有機顔料が使用できる。有機顔料の例として、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アゾレーキ系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドンレッドなどのキナクリドン系顔料などが挙げられる。
【0033】
無機顔料として、従来から塗料に配合されている公知の無機顔料が使用できる。無機顔料の例として、二酸化チタン、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、赤色酸化鉄、カーボンブラックなどの無機顔料などが挙げられる。
【0034】
アルミ光輝材として、従来から塗料に配合されている公知のアルミ光輝材が使用できる。アルミ光輝材の例として、アルミニウムフレーク、蒸着アルミニウムフレーク、金属酸化物被覆アルミニウムフレーク、着色アルミニウムフレークなどが挙げられる。
【0035】
マイカ光輝材として、従来から塗料に配合されている公知のマイカ光輝材が使用できる。マイカ光輝材の例として、フレーク状の、二酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物で被覆されたマイカおよび合成マイカなどが挙げられる。
【0036】
着色剤プレミックスは、添加剤として、例えば、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、フェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、シリコーンなどのレベリング剤、ワックス、有機ベントナイトなどの粘性制御剤、セルロースアセテートブチレートなどの増粘剤、沈降性硫酸バリウム、クレー、シリカ、タルク、カオリン、ベントナイトなどの体質顔料、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの有機溶媒をさらに含んでもよい。
【0037】
着色剤プレミックスの着色剤含量は、従来の三層積層構造の車輌塗装代替フィルムの着色層を形成するために使用される塗料組成物の着色剤含量と比べてかなり高い。本発明者らは、当業者の予想に反して、このように高い着色剤含量であっても着色剤がアクリルポリオールに分散することを見い出した。着色剤プレミックス中の(b)着色剤の量は、(a)アクリルポリオールと(b)着色剤の合計質量を基準として、約20質量%以上、または約30質量%以上であり、約80質量%以下、または約70質量%以下とすることができる。アクリルポリオールは全量を着色剤の分散に使用してもよいし、一部を着色剤の分散に用いてから残分を足し合わせてもよい。着色剤プレミックス中の着色剤の量を上記範囲内とすることで、所定の車体色を提供しつつ、着色接着剤層中に、後述する接着性ポリマーを十分な接着力を得るのに必要な量で配合することができる。本開示によれば、サンドミル、ボールミル、三本ロールなどの顔料分散用の特別な手段を用いても顔料を分散することが困難であった後述する様々な接着剤ポリマー溶液に対して、上記着色剤プレミックスを単純に混ぜ合わせるだけで均一な分散溶液を作ることができる。
【0038】
接着性ポリマーは、被着体に対する接着力を着色接着剤層に付与する。接着性ポリマーとして、アクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、様々な種類の接着性ポリマーが使用でき、市販の接着剤組成物をそのまま使用することもできる。接着性ポリマーとして、アクリル系、ポリオレフィン系、およびポリウレタン系の接着性ポリマーが有利に使用できる。必要に応じて架橋剤を用いて、接着性ポリマーを架橋することもできる。車輌塗装代替フィルムの作業性、接着力などの観点から、接着性ポリマーとして、感熱(熱活性化)接着性ポリマー、感圧接着性ポリマー、または熱硬化型接着性ポリマーを使用することが有利である。
【0039】
接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比は約25%以上、好ましくは約50%以上、更に好ましくは約75%以上である。ここでいう固形分質量比とは、接着性ポリマーおよびアクリルポリオールの乾燥質量に関するものであって、添加される架橋剤の質量は含まれない。接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比を上記値とすることにより、着色接着剤層の延伸性が高まり、その結果、車輌塗装代替フィルムの延伸性を高めることができ、また、延伸後でも優れた外観(例えば鮮映度、光沢保持率など)を保持することができる。
【0040】
着色接着剤組成物は、添加剤として、例えば、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、フェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、シリコーンなどのレベリング剤、ワックス、有機ベントナイトなどの粘性制御剤、セルロースアセテートブチレートなどの増粘剤、沈降性硫酸バリウム、クレー、シリカ、タルク、カオリン、ベントナイトなどの体質顔料、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの有機溶媒をさらに含んでもよい。
【0041】
着色接着剤層の厚さは様々であってよいが、一般に、約5μm以上、約10μm以上、または約20μm以上、約300μm以下、約200μm以下、または約100μm以下である。着色接着剤層の厚さを約5μm以上とすることで、十分な接着力を提供することができる。高い形状追従性を必要とする場合、着色接着剤層は薄い方が有利であり、例えば、約200μm以下、または約100μm以下であることが望ましい。
【0042】
真空成形または真空圧空成形でフィルムを貼り付ける用途においては、車輌塗装代替フィルムが透明材料層および着色接着剤層からなる2層積層体であると、従来の3層以上の積層体より少ない材料で製造が可能となり、また工程が少なく構造が簡素な分、フィルムの製造時においてゴミ付着・ブツ・スジ・ヘコミなどの不具合が発生する確率が低くなり望ましい。
【0043】
本開示の別の実施態様による車輌塗装代替フィルムは、被着体に対する接着性を高めるために、追加層として、着色接着剤層に隣接して配置された第2の接着剤層をさらに有してもよい。図2にこのような実施態様による車輌塗装代替フィルムの断面を模式的に示す。図2に示す車輌塗装代替フィルム10では、第2の接着剤層40が、透明材料層20とは反対側の着色接着剤層30の面に隣接して配置されている。第2の接着剤層は、上述の接着性ポリマーを用いて形成することができる。また、例えば、車輌塗装代替フィルムをインモールド射出成形用フィルムとして用い、ABS樹脂、AES樹脂などから構成される被着体をそのフィルム上で成形しつつ同時にその被着体の表面に車輌塗装代替フィルムを接着する場合、被着体と化学的性質の近いABS押出フィルムなどから構成される第2の接着剤層を使用することができる。この場合、第2の接着剤層は、このようなフィルムを着色接着剤層に貼り付けて形成する、またはフィルム上に着色接着剤組成物を塗布して形成することができる。第2の接着剤層の厚さは様々であってよいが、真空成形または真空圧空成形でフィルムを貼り付ける場合は、一般に、約5μm以上、約10μm以上、または約20μm以上、約500μm以下、約200μm以下、または約100μm以下である。第2の接着剤層の厚さを約5μm以上とすることで、十分な接着力を得ることができる。高い形状追従性を必要とする場合、第2の接着剤層は薄い方が有利であり、例えば、約200μm以下、または約100μm以下であることが望ましい。真空成形、加熱プレスなどにより予備附形してから射出成形で被着体樹脂と一体化するインモールド成形の場合は、附形した形状を保つため第2の接着剤層を硬く厚いものにすることが望ましい。この場合、第2の接着剤層の厚さは、約150μm以上、約3000μm以下、好ましくは約200μm以上、約1000μm以下、更に好ましくは約300μm以上、約700μm以下であることが有利である。
【0044】
透明材料層、着色接着剤層、および必要に応じて第2の接着剤層を含む車輌塗装代替フィルムの厚さは様々であってよいが、真空成形または真空圧空成形でフィルムを貼り付ける場合は、一般に、約10μm以上、約20μm以上、または約50μm以上、約1mm以下、約500μm以下、または約200μm以下である。高い形状追従性を必要とする場合、車輌塗装代替フィルムは薄い方が有利であり、例えば、約500μm以下、または約200μm以下であることが望ましい。真空成形、加熱プレスなどにより予備附形してから射出成形で被着体樹脂と一体化するインモールド成形の場合は、附形した形状を保つため車輌塗装代替フィルムを硬く厚いものにすることが望ましい。この場合、車輌塗装代替フィルムの厚さは、約200μm以上、約4000μm以下、好ましくは約250μm以上、約1500μm以下、更に好ましくは約350μm以上、約1000μm以下であることが有利である。
【0045】
本開示による車輌塗装代替フィルムでは、従来の高架橋の硬い塗料に比べ長い直鎖部分を多く持ち熱可塑的な性質を示す接着剤成分を含むものをカラー層とする。そのため、本開示の一実施態様による車輌塗装代替フィルムは、従来の車輌塗装代替フィルムと比べて高い引張伸びを有し、複雑な三次元形状に対する形状追従性に優れている。そのような車輌塗装代替フィルムの破断伸度は、JIS K7127:1999に準じて、フィルム幅30mm、つかみ間隔50mm、雰囲気温度120℃、引張速度200mm/分で延伸したときに、約50%以上、約100%以上、または約300%以上である。ここで、破断伸度は、フィルムを初期長から延伸したときに、フィルムを構成する全ての層のうちいずれか一つの層に破断またはクラックが生じた時点のフィルムの伸度として定義される。破断伸度の値(百分率)は初期長からの移動距離/初期長として定義され、例えば、破断伸度50%とは初期長50mmが75mmになった時に破断したこと((50−25)mm/50mm×100(%))を意味する。上記破断伸度は、透明材料層、着色接着剤層、および存在する場合は第2の接着剤層の、材料の種類および厚さをそれぞれ適宜選択することによって達成することができる。
【0046】
本開示のさらに別の実施態様による車輌塗装代替フィルムは、追加層として、着色接着剤層に隣接して配置されたライナーをさらに有してもよい。ライナーはシリコーンコーティングなどの剥離処理を有していてもよい。図3にこのような実施態様による車輌塗装代替フィルムの断面を模式的に示す。図3に示す車輌塗装代替フィルム10では、ライナー50が、透明材料層20とは反対側の着色接着剤層30の面に隣接して配置されている。
【0047】
また、車輌塗装代替フィルムの透明材料層の表面にキャリアフィルムを配置して、車輌塗装代替フィルムの取り扱い性を改善することもできる。キャリアフィルムはシリコーンコーティングなどの剥離処理を有していてもよい。キャリアフィルムは、車輌塗装代替フィルムを被着体に貼り付けるまでの間、透明材料層の表面を保護し、車輌塗装代替フィルムを被着体に貼り付ける前に、透明材料層から剥離して除去される。透明材料層をコーティングによって形成する場合、キャリアフィルムを用いて透明材料層の光沢度を制御することもできる。例えば、透明材料を着色接着剤層の上に塗布した後で硬化する前に、表面の光沢度を調節したキャリアフィルムを塗布した透明材料の表面に積層することによって、キャリアフィルムの光沢度を透明材料層の光沢度に反映させることができる。
【0048】
本開示の車輌塗装代替フィルムは、例えば、以下のようにして製造することができる。最初に、有機顔料および/または無機顔料を、サンドグラインドミル、ボールミル、三本ロールなどを用いてアクリルポリオール中に分散させて、顔料分散物を作る。アクリルポリオールは全量を上記顔料の分散に使用してもよいし、一部を上記顔料の分散に用いてから残分を足し合わせてもよい。車体色再現のために配合を調整することを考慮すると顔料毎に分散物を用意することが好ましい。アルミ光輝材および/またはパール光輝材は有機溶媒でウェッティングした後に上記顔料分散物と混合し、ペイントシェーカー、プロペラミキサーなどで均一になるまで攪拌する。このようにして着色剤プレミックスを調製することができる。分散工程中に、必要に応じて、上述の添加剤を顔料分散物および/または着色剤プレミックスに加えてもよく、分散工程後に有機溶媒の一部または全部を留去してもよい。
【0049】
次に、調製した着色剤プレミックスと接着性ポリマーを混合して、着色接着剤組成物を調製する。着色接着剤組成物は、例えば、プロペラミキサー、遠心攪拌機などを用いて、あるいは少量であれば手でガラス棒を使って、数分撹拌することで容易に調製できる。この着色接着剤組成物を、上述のライナーまたはあらかじめ形成された第2の接着剤層の上に適用し、必要に応じて加熱および乾燥することによって、着色接着剤層を形成する。その後、形成された着色接着剤層の上に、上述の透明材料をラミネートまたはコーティングすることによって、車輌塗装代替フィルムを製造することができる。製造後、ライナーは必要に応じて剥離して除去してもよい。
【0050】
車体色に対する色合わせは、例えば以下の方法によって行うことができる。目的の車体色を見積もった配合で着色接着剤組成物を調製して上記の手順でフィルムを作成し、車体色の見本と目視で見比べるまたは色差値を測定することにより、目的の車体色が再現できているか判断する。再現できていない場合は、着色接着剤組成物に足りないと思われる色の顔料分散物またはウェッティングした光輝材を加える、あるいは接着性ポリマーの溶液を加えて濃度を調整し、同様の手順でフィルムを作成し色を確認することを車体色が再現されるまで繰り返す。最終的に車体色が再現された時の配合から、着色剤プレミックス中の着色剤の配合量および着色剤プレミックスと接着性ポリマーの配合量を計算し、あらかじめ着色剤プレミックスを用意しておけば、いつでも着色剤プレミックスと接着性ポリマーの溶液を混合して所望の色を再現するフィルムを製造することができる。
【0051】
着色剤プレミックスに、アルミ光輝材、マイカ光輝材またはこれらの組み合わせが含まれる場合、着色接着剤組成物をライナーまたは第2の接着剤層などの追加層の上に適用することにより、着色接着剤層を形成することが望ましい。その理由は以下のとおりである。アルミ光輝材およびマイカ光輝材に含まれるフレーク状の粒子は、様々な配向で着色接着剤層中に分散して、メタリック色およびパール色の視覚効果をそれぞれ提供する。アルミ光輝材およびマイカ光輝材は、着色接着剤層のより深い部分、すなわち透明材料層からより遠い部分に多く分布することが、着色接着剤層に十分な量の光を入射させて上記視覚効果をより高めるのに有利である。一方、アルミ光輝材およびマイカ光輝材は、他の成分と比べて着色接着剤組成物中でより沈降しやすい。そのため、上述の製造方法のように着色接着剤組成物をライナーまたは第2の接着剤層などの追加層の上に適用すると、着色接着剤層の形成が完了するまでの間にアルミ光輝材および/またはマイカ光輝材の一部が沈降するため、アルミ光輝材および/またはマイカ光輝材を追加層に近い側、すなわち着色接着剤層のより深い部分に多く分布させることができる。
【0052】
本開示の車輌塗装代替フィルムは、被着体表面にスキージなどを用いて手作業で貼り付けることもできるが、真空成形法、真空圧空成形法などの機械的な方法で被着体に適用することもできる。本開示の一実施態様の車輌塗装代替フィルムは、曲面や複雑な部分形状を有する被着体に対する形状追従性に優れることから、真空成形法または真空圧空成形法によって、そのような三次元形状を有する被着体に接着する、あるいは真空成形法または真空圧空成形法により予備附形された後に金型に入れられ射出成形法により射出された被着体樹脂と一体化するのに特に好適である。
【実施例】
【0053】
本開示の車輌塗装代替フィルムを、以下の実施例を参照してさらに説明する。実施例において、量に関する「部」とは「質量部」を意味する。
【0054】
<透明材料>
MT:成形性を有する耐候性ポリウレタン(ポリカプロラクトンジオール/イソホロンジイソシアネートトリマー、特開平05−155976号公報を参照)
R985:成形性を有する耐候性ポリウレタン(ポリカーボネート水系ポリウレタン分散液/ポリカルボジイミド、特開2010−260942号公報を参照)
S001:成形性を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)主体の耐候性アクリルフィルム(住友化学株式会社製)
【0055】
<塗料(参考)>
以下の塗料は、車輌外装部品用のスプレー塗料をバーコーティング用に調整し、所定の車体色に色合せをした上で、従来の車輌塗装代替フィルム(ルーフモールディングフィルム)の着色層に使用されているものであり、カッコの中に記載したトヨタ自動車株式会社の塗装番号の色を再現している。本開示の車輌塗装代替フィルムの着色剤プレミックスは、これらの塗料と同じ着色剤を含有する。
ブルーマイカ塗料(8M6)
ダークグリーンマイカ塗料(6Q7)
スパークリングゴールドメタリック塗料(4P2)
【0056】
<着色剤プレミックス>
以下の着色剤プレミックスは、上記塗料から約80質量%のアクリルポリオールおよび約60質量%の有機溶媒を除いた組成物として調製した。これらの着色剤プレミックスは高濃度の着色剤を含有する。
ブルーマイカ着色剤プレミックス(8M6)
ダークグリーンマイカ着色剤プレミックス(6Q7)
スパークリングゴールドメタリック着色剤プレミックス(4P2)
【0057】
上記塗料および着色剤プレミックスの組成を以下の表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
<接着性ポリマー>
本実施例では以下の接着性ポリマーを使用した。
PUR−HAA(heat-activated adhesive):ポリウレタン感熱(熱活性化)接着剤(ベースポリマー:デスモコール(Desmocoll)530(住化バイエルウレタン株式会社製)、架橋剤:コロネート(Coronate)HL(日本ポリウレタン工業株式会社製))
PO−HAA:ポリオレフィン感熱(熱活性化)接着剤(ベースポリマー:ユニストール(UNISTOLE)P801(三井化学株式会社製)、架橋剤:コロネート(Coronate)HL(日本ポリウレタン工業株式会社製))
AC−HAA:アクリル感熱(熱活性化)接着剤(ベースポリマー:カルボキシル基含有アクリルポリマーおよびアミノ基含有アクリルポリマー(いずれも住友スリーエム株式会社製)、エポキシ系架橋剤:E−5XM(綜研化学株式会社製)、特開2009−035588号公報を参照)
AC−PSA(pressure-sensitive adhesive):アクリル感圧接着剤(ベースポリマー:イソオクチルアクリレートとアクリル酸の共重合体、架橋剤:アジリジン(いずれも住友スリーエム株式会社製))
PUR−TSA(thermo-setting adhesive):ポリウレタン2液硬化型接着剤(ベースポリマー:ニッポラン(NIPPOLAN)3124、架橋剤:コロネート(Coronate)HL(いずれも日本ポリウレタン工業株式会社製))
<比較用>
AC−Paint−2:タケラック(TAKELAC)UA−702(ベースポリマー:アクリルポリオール(三井武田ケミカル株式会社製)、架橋剤:コロネート(Coronate)HL(日本ポリウレタン工業株式会社製))
【0060】
<追加層>
ABS:厚さ0.4mmの押出ABSフィルム(信越ポリマー株式会社製、第2の接着層、ABS樹脂またはAES樹脂とのインモールド射出成形用フィルムの接着層として使用可能)
PP:厚さ0.06mmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製、ライナー)
【0061】
<フィルムサンプル作製>
カラー層(着色接着剤層または比較用の着色層)を形成するためのカラー溶液(着色接着剤組成物および比較用の塗料溶液)を、以下の表2に記載した配合量で、原料をカップで量り取り、遠心回転式ミキサーで1.5分間混合することにより調製した。
【0062】
【表2】

【0063】
カラー層は、追加層(ABSおよびPP)の上に上記カラー溶液をバーコーティングし、温度80℃のエアオーブン中3〜5分間溶媒を揮発させることにより、乾燥時の厚さ30μmで形成した。
【0064】
透明材料をカラー層の上にコーティングする、あるいは、購入した透明材料のフィルム(S001)、または透明材料を別のライナーにコーティングして形成したフィルムをカラー層の上にラミネートすることによって、トップ層(透明材料層)を形成した。このようにして作製された例1−31および比較例1−9のフィルムサンプルの構成を以下の表3(例1−28および比較例1−8)および表4(例29−31および比較例9、例24も合わせて記載)に示す。例24、29、30および31、ならびに比較例9について、表4に記載した接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比は、接着性ポリマーおよびアクリルポリオールの乾燥質量のみに基づくものであり、添加される架橋剤の量は含まれない。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
<量産性・外観の評価>
作成した各フィルムサンプルについてカラー層とトップ層の積層ができているか(量産性)を確認した。カラー層が着色接着剤組成物に由来するフィルムはトップ層の種類および積層方法を問わず全てきれいな多層フィルムを形成した。一方、塗料溶液に由来するフィルムはMTをコーティングした時のみ多層フィルムを形成したが、ラミネートではトップ層が接着しなかったため積層することができなかった。次に、積層できた各フィルムについて塗装と見比べることにより、目的の車体色を再現できていることを確認した(外観)。参考のため結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
<接着力の評価>
以下の表6に記載のサンプルをABSパネルに70℃で加熱積層し、80℃で0.5時間保持し、168時間後の接着力を測定した。同様のサンプルについて、自動車外装として使用した場合の耐久性を確認する試験項目として、40℃の水中に168時間浸漬した後の接着力、80℃で168時間加熱した後の接着力の測定も行った。比較例7は、トップ層(透明材料層)、カラー層(塗料溶液由来)、および着色していないポリウレタン感熱接着剤層(PUR−HAA)から構成される、3層積層構造を有する従来の車輌塗装代替フィルム(MT7000ルーフモールディングテープ、住友スリーエム株式会社製)である。接着力は25℃、180度ピール、300mm/分で行い、単位をN/25mmとして測定した。塗料溶液由来のカラー層とトップ層の2層で構成される比較例1は全く接着性を示さないが、ルーフモールディングテープ(比較例7)の接着剤層と同じ成分をカラー層が含む例1および例2は、2層でありながら比較例7と同等以上の接着性を有していた。接着剤層成分をアクリル感熱接着剤に変えた実施例7および実施例8もそれらに匹敵する高い接着性を示した。アクリル感圧接着剤を用いた実施例10および実施例11はそれらよりやや低いレベルながら実用に十分な接着性を示した。結果を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
<耐候性の評価>
以下の表7に記載のサンプルを日本の富士市の海岸から約1kmの場所で南面に向けて水平状態(0°)と水平から35°傾けた状態(35°)の2通りで1年以上屋外に置いて、色シフトを測定し、外観を目視で観察した。色シフトはSpectraflash SF−600(Data Color社製)を使って試験前サンプルに対する試験後サンプルの色差ΔE*を測定した。
【0072】
ブルーマイカ着色剤プレミックスは紫外線感受性の比較的高い有機顔料を含むにもかかわらず、当該着色剤プレミックス由来のカラー層を用いた実施例サンプルは、アクリルポリオールを用いた従来の塗料によるカラー層を持つ比較例4と同等の優れた耐候性を示した。結果を表7に示す。
【0073】
【表7】

【0074】
<破断伸度の評価>
表8の各サンプルを、恒温槽付き引張試験機で、フィルム幅30mm、つかみ間隔50mm、雰囲気温度120℃、引張速度200mm/分の条件にて延伸した。破断伸度は、フィルムを構成する全ての層のうちいずれか一つの層に破断またはクラックが生じた時点のフィルムの伸度として決定した。詳細には、延伸中に、カラー層にクラックが入る、全層が破断する、ABS層以外が破断するといったように、フィルムの種類によって破断の挙動が異なるが、いずれか一つの層に最初に破断またはクラックが生じた時点でフィルムとして実用性を失ったものとみなし、その時点の伸度を破断伸度(%)(=移動距離(mm)/50mm×100)とした。結果を表8に示す。
【0075】
【表8】

<延伸後の表面性(鮮映度・光沢保持率)の評価>
破断伸度の評価手順における延伸操作を同様に行い、移動距離10mm(20%延伸)、20mm(40%延伸)、50mm(100%延伸)の時点で装置を止めて延伸した状態のフィルムを取り出して、延伸前フィルムと共に平滑な板に貼り付けて以下の方法で表面性を測定した。
【0076】
鮮映度測定は、PGD−IV(東京光電株式会社製)を用いて各延伸率のフィルムおよび延伸前フィルムの鮮映度値(明度値)を測定した。数字が高いほど表面の平滑性が高く景色の写り込みがきれいに見えて好ましい。自動車のボンネットのような水平面のスプレー塗装面は塗料の垂れがなく非常にきれいであるとされ、鮮映度はおよそ0.4以上を示す。垂直面は吹き付けた塗料が垂れて面が荒れるため、鮮映度0.2前後を示すことが多い。結果を表9に示す。
【0077】
光沢保持率測定は、GMX−203(村上カラーリサーチラボラトリー株式会社製)を使って60°グロス値を測定し、光沢保持率(%)(=各延伸率のフィルムの光沢度/延伸前フィルムの光沢度×100)を求めた。塗装代替フィルムが成形による延伸で光沢度が大きく低下すると元の光沢の部分と見比べて異常と判断される。光沢保持率は約90%以上であれば、目視で見たときに外観の差異は判らず非常に好ましい。光沢保持率は約80%以上であれば実用上差し支えない。結果を表9に示す。
【0078】
【表9】

【0079】
表8および表9の結果から、従来の塗料溶液をカラー層に用いた比較例1、比較例4、および比較例8は、フィルムとしては約60%延伸するものの、約30%延伸時点でカラー層にクラックが生じる。カラー層のクラックによる外観の悪化は、40%延伸時に光沢保持率が大きく低下していることからも判る(比較例4および8)。さらにカラー層のクラックに至らない20%延伸時で表面の平滑性を表す鮮映度が非常に低下している。
【0080】
一方、本開示による着色剤プレミックスと接着性ポリマーを含むカラー層は、大きく延伸することができ、延伸性の高いトップ層と組み合わせることで高い伸び限界のフィルムを作製することができる。また、カラー層に接着性ポリマーを含む本開示のフィルムは、従来のカラー層を有するフィルムと比べて、延伸後の外観(鮮映度および光沢保持率)が優れており、高延伸成形に好適である。例24、29、30および31ならびに比較例9の一連の結果は、カラー層に使用する接着性ポリマーの量と外観向上効果の関係を示している。さらに、本開示により実現されたトップ層とカラー層をラミネートして得られるフィルムは、従来のカラー層にトップ層をコーティングして得られるフィルムと比べて、高い破断伸度および優れた延伸後の外観を示すことから、深絞り成形に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0081】
10 車輌塗装代替フィルム
20 透明材料層
30 着色接着剤層
40 第2の接着剤層
50 ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明材料層および着色接着剤層を含む車輌塗装代替フィルムであって、前記着色接着剤層が、
(i)(a)アクリルポリオールと、
(b)前記アクリルポリオールに分散している着色剤であって、有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、およびアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される着色剤と
を含む着色剤プレミックスと、
(ii)接着性ポリマーと
を含み、接着性ポリマー/(接着性ポリマー+アクリルポリオール)で表される固形分質量比が25%以上である、車輌塗装代替フィルム。
【請求項2】
フィルム幅30mm、つかみ間隔50mm、雰囲気温度120℃、引張速度200mm/分で延伸したときの破断伸度が50%以上である、請求項1に記載の車輌塗装代替フィルム。
【請求項3】
前記着色剤プレミックス中の前記着色剤の量が、前記アクリルポリオールと前記着色剤の合計質量を基準として20質量%〜80質量%である、請求項1または2のいずれかに記載の車輌塗装代替フィルム。
【請求項4】
前記接着性ポリマーが、感熱接着性ポリマー、感圧接着性ポリマー、または熱硬化型接着性ポリマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車輌塗装代替フィルム。
【請求項5】
前記透明材料層および前記着色接着剤層からなる2層積層体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車輌塗装代替フィルム。
【請求項6】
前記着色接着剤層が、前記着色剤プレミックスおよび前記接着性ポリマーを混合して得られた着色接着剤組成物から形成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車輌塗装代替フィルム。
【請求項7】
前記着色接着剤層に隣接して配置された、ライナーまたは第2の接着剤層より選択される追加層をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の車輌塗装代替フィルムであって、前記着色剤プレミックスが、前記アルミ光輝材、前記マイカ光輝材、またはこれらの組み合わせを含んでおり、前記着色接着剤層が、前記着色接着剤組成物を前記追加層の上に適用することにより形成され、前記透明材料層が、形成された前記着色接着剤層の上に透明材料をラミネートすることにより形成される、車輌塗装代替フィルム。
【請求項8】
真空成形法もしくは真空圧空成形法により被着体に接着可能なように適合されている、または真空成形法もしくは真空圧空成形法により予備附形された後に金型に入れられ射出成形法により射出された被着体樹脂と一体化するように適合されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の車輌塗装代替フィルム。
【請求項9】
(a)アクリルポリオール中に、(b)有機顔料と無機顔料の組み合わせ、有機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、有機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、無機顔料とアルミ光輝材の組み合わせ、無機顔料とマイカ光輝材の組み合わせ、およびアルミ光輝材とマイカ光輝材の組み合わせ、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される着色剤を分散させて、着色剤プレミックスを調製すること、
前記着色剤プレミックスおよび接着性ポリマーを混合して得られた着色接着剤組成物を用いて着色接着剤層を形成すること、
形成された前記着色接着剤層の上に透明材料をラミネートまたはコーティングすることによって透明材料層を形成すること
を含む、車輌塗装代替フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−39724(P2013−39724A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177916(P2011−177916)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】