車輌用バンパ及びその緩衝材
【課題】 衝突初期の段階で所定の衝撃荷重に達するA点、A点から衝撃荷重を一定時間持続させてから荷重が上昇するB点を有する車輌バンパ用緩衝材において、B点以後の荷重上昇勾配をコントロールする。
【解決手段】 緩衝材前部31と該緩衝材前部に連なる緩衝材後部32とからなり、緩衝材前部31は衝突当り部35から車輌内方向に複数の壁部36、37を有し、緩衝材後部32は少なくとも1つの壁部37の先端に該壁部よりも車輌上下方向の肉厚が大きく緩衝材前部31の長手方向に延びるブロック38を有している。ブロックの上下方向の厚みの和の大小によって、B点のタイミング及びB点以後の荷重上昇勾配をコントロールできる。
【解決手段】 緩衝材前部31と該緩衝材前部に連なる緩衝材後部32とからなり、緩衝材前部31は衝突当り部35から車輌内方向に複数の壁部36、37を有し、緩衝材後部32は少なくとも1つの壁部37の先端に該壁部よりも車輌上下方向の肉厚が大きく緩衝材前部31の長手方向に延びるブロック38を有している。ブロックの上下方向の厚みの和の大小によって、B点のタイミング及びB点以後の荷重上昇勾配をコントロールできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃が加わった際、材料自体の圧壊によって衝撃を吸収する緩衝材及び該緩衝材を組み込んだ車輌用バンパに関する。
【背景技術】
【0002】
車輌用バンパは、バンパリインフォースメントに、発泡成形された緩衝材を取り付け、これをバンパカバーで覆ったものが実施されている。該緩衝材は、自動車が歩行者と接触事故を起こした場合に、バンパが歩行者の脚部に衝突したことによって潰れて衝撃を吸収し、歩行者の脚部に加わるダメージを低減する。
【0003】
図14は、従来の緩衝材の一例を示しており、車輌の幅方向に長く延び、緩衝材の長手方向と直交する断面形状はW型である。
緩衝材(3a)に衝突荷重が作用すると、緩衝材(3a)の各凹条(33a)(34a)の上壁と下壁との間が開いて荷重を吸収する。
【0004】
図15の実線で示すグラフは、図14に示される従来の緩衝材による衝突荷重と圧縮率との関係を示したもので、衝突初期の段階で歩行者の脚部に重大なダメージを与えない程度の所定の衝突荷重に達し(図15のA点黒丸)、その後、該所定の衝撃荷重を一定時間保持(図15のA点黒丸とB点黒丸とを結ぶ線上の間)させ衝撃エネルギーを吸収する。
即ち、該緩衝材に作用する衝撃荷重が所定量に達した時点で、衝撃荷重の上昇を抑制するように緩衝材が大きく変形し、衝撃エネルギーの所定量を一定時間吸収することにより、歩行者の脚部に重大なダメージを与える危険性を回避できる(特許文献1)。
以下の説明の各グラフのA点、B点は、図15のA点、B点に対応する。又、A点からB点までをフラット領域、B点以後を勾配領域と呼ぶ。
【0005】
【特許文献1】特開2004−175338公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の緩衝材では、衝撃エネルギーの吸収量が一定であるため、歩行者がバンパに衝突した際の歩行者脚部の挙動も一定となるため、車輌の形状によっては適合しないものもあり、歩行者脚部のダメージを軽減する限界荷重を越えない範囲で、車輌の形状に合わせて歩行者脚部の挙動を最適な状態にコントロールできる緩衝材が望まれていた。
本発明は、衝撃エネルギーの吸収量を容易に調整することができる緩衝材を提供することを課題とする。
【0007】
以下の説明で、「内外方向」は車輌における車輌内方向と車輌外方向に対応し、「上下方向」は車輌における上下方向に対応する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
衝撃が加わった際に潰れて衝撃を吸収する車輌バンパ用緩衝材であって、緩衝材前部と該緩衝材前部に連なる緩衝材後部とからなり、緩衝材前部は、車輌幅方向に延びる複数の壁部と、隣り合う壁部の前端が繋がって形成された衝突当り部を有し、緩衝材後部は少なくとも1つの壁部の後端に車輌幅方向に延び車輌上下方向の肉厚が壁の肉厚よりも大きいブロックを有している。
【0009】
請求項2は、請求項1の緩衝材において、緩衝材後部には、緩衝材前部の壁部間に車輌内方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条が設けられている。
【0010】
請求項3は、請求項2の緩衝材において、緩衝材前部(31)に車輌外方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条(33)を有し、該凹条(33)の上下に緩衝材後部(32)の凹条(34)(34)が位置している。
【0011】
請求項4は、請求項2又は3に記載の緩衝材において、各凹条(33)(34)は緩衝材の長手方向と直交する断面が略V字状であり、緩衝材は長手方向と直交する断面はW字状である。
【0012】
請求項5は、請求項1乃至4の何れかに記載の緩衝材において、各壁部(36)(37)に夫々ブロック(38)(39)が繋がっている。
【0013】
請求項6は、請求項1乃至5の何れかに記載の緩衝材において、中央の2つの壁部(37)(37)は共通のブロック(38)に繋がっている。
【0014】
請求項7は、請求項1乃至6の何れかに記載の緩衝材において、発泡樹脂により一体成形されている。
【0015】
請求項8は、請求項6に記載の緩衝材において、発泡樹脂がスチレン改質ポリエチレン系樹脂である。
【0016】
請求項9の車輌用バンパは、 請求項1乃至8の何れかの緩衝材(3)をバンパリインフォースメント(2)に固定し、緩衝材(3)をバンパカバー(4)で覆っている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の緩衝材(3)は、衝突当り部(35)に衝突負荷が加わったとき、壁部(36)(37)に車輌内方向の圧縮力を加える。壁部(36)(37)に圧縮変形、曲げ変形が生じて所定の衝撃荷重に達し、更に該衝撃荷重がほぼ持続されたフラット領域に入る。
緩衝材前部(31)にて壁部(36)(37)が押し潰されて緩衝の働きがなくなると、荷重は専ら緩衝材後部(32)が受けることになり、フラット領域から急に荷重が大きくなる勾配領域に入る。即ち、衝突の瞬間から、フラット領域の終端に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1(図3参照)によって制御し、緩衝材後部(32)の複数のブロック(38)(39)の上下方向肉厚の和によって荷重勾配を制御できる。
これによって、所望の荷重上昇勾配を効果的にコントロールすることができる。
【0018】
請求項2の緩衝材(3)は、緩衝材後部(32)に、車輌内方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条(34)が緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)間に設けられているから、衝突当り部(35)に衝突荷重が加わったとき、外側の壁部(36)(36)は、“く”の字状に潰れる。この結果、緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)は車輌内方向に圧縮変形せず、衝突体(「歩行者の脚部」以下、同じ)が緩衝材(3)から受ける衝撃荷重の上昇を抑制できる。
【0019】
請求項3の緩衝材(3)は、緩衝材前部(31)の車輌外方向の中央に凹条(33)を有し、緩衝材後部(32)に該凹条(33)を挟んで凹条(34)(34)を有しているから、衝突当り部(35)に衝突荷重が加わったとき、外側の壁部(36)(36)は、“く”の字状に潰れる。この結果、緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)は車輌内方向に圧縮変形せず、衝突体が緩衝材(3)から受ける衝撃荷重の上昇を抑制できる。又、凹条(33)(34)(34)によって緩衝材前部(31)の潰れ残り代を低減させることができ、前記所定の衝撃荷重を越えて急速に衝撃荷重が上がるタイミング(図15のB点)を適正にすることができる。
【0020】
請求項4の緩衝材(3)は、緩衝材前部(31)は長手方向と直交する断面は、車輌外方向の中央に凹条(33)を有し、緩衝材後部(32)に該凹条(33)を挟んで凹条(34)(34)を有するW型であるから、衝突当り部(35)に衝突荷重が加わったとき、外側の壁部(36)(36)が“く”の字状に潰れる。この結果、緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)は車輌内方向に圧縮変形せず、衝突体が緩衝材(3)から受ける衝撃荷重の上昇を抑制できる。又、凹条(33)(34)(34)によって緩衝材前部(31)の潰れ残り代を低減させることができ、前記所定の衝撃荷重を越えて急速に衝撃荷重が上がるタイミング(図15のB点)を適正にすることができる。
【0021】
請求項5の緩衝材(3)は、各壁部(36)(37)にブロック(38)(39)が繋がっているから、フラット領域を越えて勾配領域の荷重を受けるバランスがよい。
【0022】
請求項6の緩衝材(3)は、内側の2つの壁部(37)(37)は共通のブロック(38)に繋がっているから該ブロック(38)の車輌上下方向の長さを大きく出来、他のブロック(39)(39′)の上下方向の長さを小さくして、緩衝材(3)全体の車輌上下方向の寸法を小さくできる。
【0023】
請求項7の緩衝材(3)は、発泡樹脂で一体成形するから量産に適し、低コストで生産できる。
【0024】
請求項8の緩衝材(3)は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂を用いているため、衝撃吸収性と成形性がより好ましい。
【0025】
請求項9のバンパは、上記した様に、好ましい衝撃吸収性を発揮する緩衝材(3)をバンパリインフォースメント(2)に固定し、緩衝材(3)をバンパカバー(4)で覆って形成されるから、緩衝材(3)の特性を損なわず、バンパ自体の好ましい衝撃吸収性を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の車輌用バンパ(1)を車輌の前部に取り付けた状態を、車輌左側から見た断面図で示している。
バンパ(1)は、車輌に固定された金属製のバンパリインフォースメント(2)の前面に緩衝材(3)を取り付け、緩衝材(3)及びバンパリインフォースメント(2)をバンパカバー(4)で覆って形成されている。
バンパカバー(4)は薄肉樹脂で形成され、衝突によって衝撃が加わった際に、変形または破断される。
【0027】
緩衝材(3)は、樹脂の発泡成形により、車輌の幅方向に長く形成されている。バンパリインフォースメント(2)上に、1つの長尺緩衝材(3)を取り付けてもよく、或いは複数の短尺緩衝材(3)を並べて取り付けてもよい。
【0028】
図2、図3に示す如く、緩衝材(3)は、緩衝材前部(31)と、該緩衝材前部(31)から内方向に連なる緩衝材後部(32)とからなる。
図3は衝撃試験のために緩衝材(3)を、荷重が上方から掛かる様に描いている(以下、「図7」「図9」「図11」「図12」「図13」も同様)。
緩衝材前部(31)は、緩衝材(3)の長手方向(車輌幅方向)と直交する断面形状がW型であり、外面に1つの凹条(33)、内面に該凹条(33)を挟んで2つの凹条(34)(34)を有している。
各凹条(33)(34)(34)は、長手方向と直交する断面が略V字型である。
緩衝材前部(31)の外向きの2つの頂部が衝突当り部(35)となっており、各衝突当り部(35)からは、夫々2つの壁部(36)(37)が内方拡がりに、V字状を成す様に延びている。即ち、車輌の上下方向に隣り合う壁部(36)(37)、(37)(36)の前端が繋がっている部分の外側面が、衝突体(歩行者の脚部)に当たる衝突当り部(35)となっている。
【0029】
各壁部(36)(37)の車輌側の先端は、断面矩形のブロック(38)(39)(39′)が一体に突設された緩衝材後部(32)を構成している。
隣り合うブロック(38)と(39)、及び(38)と(39′)は、前記凹条(34)の最大開口幅の間隔を存して隣り合っている。
緩衝材前部(31)の車輌内外方向の厚みL1は、各ブロック(38)(39)の車輌内外方向の肉厚L2より大きい。
中央部の2つの壁部(37)(37)は共通のブロック(38)に連続している。
中央部の2つの壁部(37)(37)の肉厚t2は互いに等しい。
図3において左右の2つの壁部(36)(36)の肉厚t1は互いに同じであり、中央部の壁部(37)の肉厚t2よりも小さい。
中央部の2つの壁部(37)(37)の夫々の傾き角度θ2は、左右の2つの壁部(36)(36)の夫々の傾き角度θ1よりも大きい。
右側のブロック(39′)は、右側の壁部(36)先端よりも更に右側に突出している。
左側のブロック(39)は、左側の壁部(36)の先端よりも更に左側に突出している。
2つの衝突当り部(35)の車輌外方向の前端面は、面が揃っている。3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌内方向の端面も面が揃っている。
中央ブロック(38)の車輌上下方向の肉厚h2を、車輌内外方向のブロック肉厚L2で除した値は1以上である。即ち、中央ブロック(38)は、断面が車輌上下方向に長い長方形に形成されている。
左右のブロック(39)(39′)の車輌高さ方向の夫々の肉厚h1、h3を、車輌内外方向のブロック肉厚L2で除した値は1以下である。
【0030】
緩衝材(3)は、公知の型内発泡成形で製造できる。
例えば、物理型発泡剤を含浸させた発泡性熱可塑性樹脂ビーズを5〜25倍に予備発泡して得られた直径1〜5mmの予備発泡粒子を成形型内に注入し、蒸気加熱によって発泡させて粒子間を融着させる。
予備発泡していない発泡性熱可塑性樹脂ビーズを型内発泡させてもよい。
発泡性熱可塑性樹脂ビーズを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン改質ポリエチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等を挙げることができる。特に、スチレン改質ポリエチレン系樹脂を用いると成形体としての衝撃吸収性と成形性がより好ましい。
物理型発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類等を挙げることができる。これらの物理型発泡体は、単体で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記バンパ(1)の作用を説明する。
車輌が歩行者と衝突事故を起こしたとき、歩行者の脚部からバンパカバー(4)に衝撃が加わって、バンパカバー(4)が変形または破断される。その際に緩衝材(3)に衝撃が加わり、先ず緩衝材前部(31)が図5に示す如く、外側の壁部(36)(36)が“く”の字状に潰れ、内側の壁部(37)(37)が外側へ倒れ込む。
単なる断面W型の緩衝材前部であれば、各壁部は車輌の内外方向に圧縮変形しないで、荷重を受けたときに傾いて開くことによって、歩行者の脚部が緩衝材から受ける衝撃荷重の上昇を抑える。これに対して、本実施形態の場合は、圧縮変形すると共に、図5に示す様に潰れて、衝突初期の歩行者の脚部に対するダメージを軽減する。
【0032】
緩衝材前部(31)が潰れて緩衝の作用がなくなると、荷重は専ら緩衝材後部(32)が受けることになり、フラット領域から急に荷重が大きくなる勾配領域に入る。即ち、衝突の瞬間から、フラット領域の終端B′点に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1(図3参照)で制御できる。L1を大きくすればフラット領域の終端に至るタイミングを延ばすことができ、歩行者のダメージを軽減する。
【0033】
緩衝材後部(32)のブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の肉厚の和(h1、h2、h3)は、勾配領域の荷重勾配に関係する。該肉厚の和が大きいほど、勾配が急になる。即ち、荷重が急激に上がる。
緩衝材前部(31)は長手方向と直交する断面はW型であり、車輌内外方向に凹条(33)(34)(34)を有しているから、緩衝材前部(31)の潰れ残り代を低減させることができ、上記所定の衝撃荷重を越えて急速に衝撃荷重が上がるタイミング(図15のB点)を適正にすることができる。
【0034】
緩衝材(3)は、各壁部(36)(37)にブロック(38)(39)が繋がっているから、フラット領域を越えて勾配領域の荷重を受けるバランスがよい。
緩衝材(3)は、上下に対称形状であるから、全領域での荷重を受けるバランスがよい。
緩衝材(3)は、発泡樹脂で一体成形するから、量産に適し、低コストで生産できる。更に、発泡樹脂は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂であるから、より好ましい衝撃吸収性と成形性を発揮する。
【0035】
以下に、実施例1乃至4の緩衝材についての衝撃試験について説明する。
衝撃試験方法は、試験片と圧子形状が異なる以外は、JIS Z0235の「包装用緩衝材の動的圧縮試験法」と同じである。
試験機:垂直自由落下形
重錘重量:25kg
落下高さ:1.02m
加速度計:衝撃加速度測定
変位計:試験体変位量測定
圧子形状:直径75mmの半円筒形(人体の脚部の太さを想定し、円弧面を下向 きにし重錘の下面に取り付けた)
【実施例1】
【0036】
実施例1における緩衝材(3)は、スチレン改質ポリエチレン系発泡樹脂(商品名:ピオセランPOOP 積水化成品工業株式会社製)を原料とし、10倍に予備発泡させた、直径2.5〜3.5mmの粒子を成形型内に充填し、蒸気加熱により発泡した粒子間を融着させて形成されている(以下、実施例2、3、4の緩衝材も同じ)。
緩衝材(3)の寸法は、図3において、( )内に記載された数字(単位mm)で表す。
図4の衝撃試験のグラフは、実施例1(実線で示す)と、従来例(二点鎖線で示す)(図14のW型緩衝材)の衝撃試験を比較している。
図4のA点、B点は、図15のA点、B点に対応するものである。
実施例1では、フラット領域の終点(B′点)に達するのは、従来例の緩衝材(3a)のフラット領域の終点(B点)よりもタイミング的に速くなる。
緩衝材の車輌内外方向の寸法が同じであるなら、扁平W状の緩衝材前部(31)の後部にブロック(38)(39)(39′)を設けた実施例1の緩衝材(3)の方が、従来のW型緩衝材(3a)よりも、フラット領域の終点(B′点)に達するもタイミングを速くできる。別の言い方をすれば、フラット領域の終端に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1(図3参照)で制御でき、L1を小さくすると、フラット領域の終点に達するタイミングは速くなり、L1を大きくするとフラット領域の終点に達するタイミングを遅くできる。
【実施例2】
【0037】
実施例2の緩衝材は、全体形状は図3に示す実施例1の緩衝材(3)と似ているが 3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の厚みの和(h1+h2+h3)を63.3mmとし、具体的には、h1とh2を夫々12.5mm小さくし、第1実施例のそれらの和である88.3mmに比べて25mm小さくした。
図6は、実施例2と上記実施例1の衝撃試験の対比を示すグラフである。A点荷重に達するのは上記実施例1とほぼ同じタイミングであるが、実施例2は実施例1に比べて、B点からの上昇は緩やかである。
緩衝材(3)のブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の肉厚の和は、勾配領域の荷重勾配に関係し、該肉厚の和が大きいほど勾配が急になる。即ち、荷重が急激に上がることが分かる。
【実施例3】
【0038】
図7に示す如く、実施例3の緩衝材(3)は、右側のブロック(39′)を右側に長くし(車輌上下方向に大きくし)、左側のブロックを省略し、左端の壁部(36)を他のブロック(39′)の車輌内方向の端面に揃う様に延ばした。
実施例1と同一部分については実施例1と同じ符号を付して説明を省略する(以下の実施例4乃至実施例7も同様)。
両ブロック(38)(39′)の車輌上下方向の厚みの和は、88.3mmであり、前記第1実施例の3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の厚みの和と同じである。
図8は、実施例3と前記実施例1の衝撃試験の対比を示すグラフである。実施例3の緩衝材は、第1実施例の緩衝材とほぼ同様の圧縮変形の過程を辿る。
【実施例4】
【0039】
図9に示す如く、実施例4の緩衝材(3)の全体形状は、前記実施例1の緩衝材と似ているが 3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌内外方向の厚みL2を20mmとし、実施例1のそれに比べて5mm小さくした。緩衝材(3)全体の車輌内外方向の厚みは、実施例1と同様にして55mmである。
図10は、実施例4と前記実施例1の衝撃試験の対比を示すグラフである。A点荷重に達するのは 実施例1とほぼ同じタイミングであるが、フラット領域の終点(B″点)に達するのは、実施例1(B′点)よりもタイミング的に遅れる。
ブロック(38)(39)(39′)の車輌内外方向の厚みが小さいほど、フラット領域の終点に達するタイミングを遅らせることができる。別の言い方をすれば、フラット領域の終端に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1で制御でき、L1を小さくすると、フラット領域の終点に達するタイミングを速くでき、L1を大きくするとフラット領域の終点に達するタイミングを遅くできる。
【実施例5】
【0040】
図11に示す実施例5の緩衝材(3)は、左右のブロックは存在せず、中央ブロック(38)の内方中央に、緩衝材(3)の長手方向の全長に亘って凹溝(38′)を設けている。
【実施例6】
【0041】
図12に示す実施例6の緩衝材(3)は、前記実施例1の緩衝材の4つの壁部(36)(37)を平行にして緩衝材前部(31)を形成している。
実施例1と同様にして、車輌の上下方向に隣り合う壁部(36)(37)、(37)(36)の前端が繋がっている部分の外側面が衝突当り部(35)となっている。
【実施例7】
【0042】
図13に示す実施例7の緩衝材(3)は、板状の衝突当り部(35)から内方向に平行に3つの壁部(36)(36)(37)を突設し、各壁部(36)(36)(37)の先端にブロック(38)(39)(39′)を突設している。
車輌の上下方向に隣り合う壁部(36)(37)(36)の前端が繋がっている部分の外側面が衝突当り部(35)となっている。
【0043】
実施例6、7の緩衝材(3)も、ブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の長さの和の大小によって、又、ブロックの車輌内外方向の厚みの大小によって前記同様の効果を奏する。
【0044】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る車輌用フロントバンパを車輌左側から見た断面側面図である。
【図2】実施例1の緩衝材の断面斜視図である。
【図3】実施例1の緩衝材の長手方向と直交する面での断面図である。
【図4】実施例1と従来例の緩衝材の衝撃試験のグラフである。
【図5】緩衝材の想定潰れ状態の簡略説明図である。
【図6】実施例1と実施例2の衝撃試験の比較グラフである。
【図7】実施例3の緩衝材の断面図である。
【図8】実施例1と実施例3の衝撃試験の比較グラフである。
【図9】実施例4の緩衝材の断面図である。
【図10】実施例1と実施例4の衝撃試験の比較グラフである。
【図11】実施例5の緩衝材の断面図である。
【図12】実施例6の緩衝材の断面図である。
【図13】実施例7の緩衝材の断面図である。
【図14】従来例のW型緩衝材の断面図である。
【図15】従来例の緩衝材と目標緩衝材の衝撃緩衝特性の対比グラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 フロントバンパ
2 バンパリインフォースメント
3 緩衝材
31 緩衝材前部
32 緩衝材後部
33 凹条
34 凹条
35 衝突当り部
36 壁部
37 壁部
38 ブロック
39 ブロック
4 バンパカバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃が加わった際、材料自体の圧壊によって衝撃を吸収する緩衝材及び該緩衝材を組み込んだ車輌用バンパに関する。
【背景技術】
【0002】
車輌用バンパは、バンパリインフォースメントに、発泡成形された緩衝材を取り付け、これをバンパカバーで覆ったものが実施されている。該緩衝材は、自動車が歩行者と接触事故を起こした場合に、バンパが歩行者の脚部に衝突したことによって潰れて衝撃を吸収し、歩行者の脚部に加わるダメージを低減する。
【0003】
図14は、従来の緩衝材の一例を示しており、車輌の幅方向に長く延び、緩衝材の長手方向と直交する断面形状はW型である。
緩衝材(3a)に衝突荷重が作用すると、緩衝材(3a)の各凹条(33a)(34a)の上壁と下壁との間が開いて荷重を吸収する。
【0004】
図15の実線で示すグラフは、図14に示される従来の緩衝材による衝突荷重と圧縮率との関係を示したもので、衝突初期の段階で歩行者の脚部に重大なダメージを与えない程度の所定の衝突荷重に達し(図15のA点黒丸)、その後、該所定の衝撃荷重を一定時間保持(図15のA点黒丸とB点黒丸とを結ぶ線上の間)させ衝撃エネルギーを吸収する。
即ち、該緩衝材に作用する衝撃荷重が所定量に達した時点で、衝撃荷重の上昇を抑制するように緩衝材が大きく変形し、衝撃エネルギーの所定量を一定時間吸収することにより、歩行者の脚部に重大なダメージを与える危険性を回避できる(特許文献1)。
以下の説明の各グラフのA点、B点は、図15のA点、B点に対応する。又、A点からB点までをフラット領域、B点以後を勾配領域と呼ぶ。
【0005】
【特許文献1】特開2004−175338公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の緩衝材では、衝撃エネルギーの吸収量が一定であるため、歩行者がバンパに衝突した際の歩行者脚部の挙動も一定となるため、車輌の形状によっては適合しないものもあり、歩行者脚部のダメージを軽減する限界荷重を越えない範囲で、車輌の形状に合わせて歩行者脚部の挙動を最適な状態にコントロールできる緩衝材が望まれていた。
本発明は、衝撃エネルギーの吸収量を容易に調整することができる緩衝材を提供することを課題とする。
【0007】
以下の説明で、「内外方向」は車輌における車輌内方向と車輌外方向に対応し、「上下方向」は車輌における上下方向に対応する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
衝撃が加わった際に潰れて衝撃を吸収する車輌バンパ用緩衝材であって、緩衝材前部と該緩衝材前部に連なる緩衝材後部とからなり、緩衝材前部は、車輌幅方向に延びる複数の壁部と、隣り合う壁部の前端が繋がって形成された衝突当り部を有し、緩衝材後部は少なくとも1つの壁部の後端に車輌幅方向に延び車輌上下方向の肉厚が壁の肉厚よりも大きいブロックを有している。
【0009】
請求項2は、請求項1の緩衝材において、緩衝材後部には、緩衝材前部の壁部間に車輌内方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条が設けられている。
【0010】
請求項3は、請求項2の緩衝材において、緩衝材前部(31)に車輌外方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条(33)を有し、該凹条(33)の上下に緩衝材後部(32)の凹条(34)(34)が位置している。
【0011】
請求項4は、請求項2又は3に記載の緩衝材において、各凹条(33)(34)は緩衝材の長手方向と直交する断面が略V字状であり、緩衝材は長手方向と直交する断面はW字状である。
【0012】
請求項5は、請求項1乃至4の何れかに記載の緩衝材において、各壁部(36)(37)に夫々ブロック(38)(39)が繋がっている。
【0013】
請求項6は、請求項1乃至5の何れかに記載の緩衝材において、中央の2つの壁部(37)(37)は共通のブロック(38)に繋がっている。
【0014】
請求項7は、請求項1乃至6の何れかに記載の緩衝材において、発泡樹脂により一体成形されている。
【0015】
請求項8は、請求項6に記載の緩衝材において、発泡樹脂がスチレン改質ポリエチレン系樹脂である。
【0016】
請求項9の車輌用バンパは、 請求項1乃至8の何れかの緩衝材(3)をバンパリインフォースメント(2)に固定し、緩衝材(3)をバンパカバー(4)で覆っている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の緩衝材(3)は、衝突当り部(35)に衝突負荷が加わったとき、壁部(36)(37)に車輌内方向の圧縮力を加える。壁部(36)(37)に圧縮変形、曲げ変形が生じて所定の衝撃荷重に達し、更に該衝撃荷重がほぼ持続されたフラット領域に入る。
緩衝材前部(31)にて壁部(36)(37)が押し潰されて緩衝の働きがなくなると、荷重は専ら緩衝材後部(32)が受けることになり、フラット領域から急に荷重が大きくなる勾配領域に入る。即ち、衝突の瞬間から、フラット領域の終端に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1(図3参照)によって制御し、緩衝材後部(32)の複数のブロック(38)(39)の上下方向肉厚の和によって荷重勾配を制御できる。
これによって、所望の荷重上昇勾配を効果的にコントロールすることができる。
【0018】
請求項2の緩衝材(3)は、緩衝材後部(32)に、車輌内方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条(34)が緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)間に設けられているから、衝突当り部(35)に衝突荷重が加わったとき、外側の壁部(36)(36)は、“く”の字状に潰れる。この結果、緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)は車輌内方向に圧縮変形せず、衝突体(「歩行者の脚部」以下、同じ)が緩衝材(3)から受ける衝撃荷重の上昇を抑制できる。
【0019】
請求項3の緩衝材(3)は、緩衝材前部(31)の車輌外方向の中央に凹条(33)を有し、緩衝材後部(32)に該凹条(33)を挟んで凹条(34)(34)を有しているから、衝突当り部(35)に衝突荷重が加わったとき、外側の壁部(36)(36)は、“く”の字状に潰れる。この結果、緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)は車輌内方向に圧縮変形せず、衝突体が緩衝材(3)から受ける衝撃荷重の上昇を抑制できる。又、凹条(33)(34)(34)によって緩衝材前部(31)の潰れ残り代を低減させることができ、前記所定の衝撃荷重を越えて急速に衝撃荷重が上がるタイミング(図15のB点)を適正にすることができる。
【0020】
請求項4の緩衝材(3)は、緩衝材前部(31)は長手方向と直交する断面は、車輌外方向の中央に凹条(33)を有し、緩衝材後部(32)に該凹条(33)を挟んで凹条(34)(34)を有するW型であるから、衝突当り部(35)に衝突荷重が加わったとき、外側の壁部(36)(36)が“く”の字状に潰れる。この結果、緩衝材前部(31)の壁部(36)(37)は車輌内方向に圧縮変形せず、衝突体が緩衝材(3)から受ける衝撃荷重の上昇を抑制できる。又、凹条(33)(34)(34)によって緩衝材前部(31)の潰れ残り代を低減させることができ、前記所定の衝撃荷重を越えて急速に衝撃荷重が上がるタイミング(図15のB点)を適正にすることができる。
【0021】
請求項5の緩衝材(3)は、各壁部(36)(37)にブロック(38)(39)が繋がっているから、フラット領域を越えて勾配領域の荷重を受けるバランスがよい。
【0022】
請求項6の緩衝材(3)は、内側の2つの壁部(37)(37)は共通のブロック(38)に繋がっているから該ブロック(38)の車輌上下方向の長さを大きく出来、他のブロック(39)(39′)の上下方向の長さを小さくして、緩衝材(3)全体の車輌上下方向の寸法を小さくできる。
【0023】
請求項7の緩衝材(3)は、発泡樹脂で一体成形するから量産に適し、低コストで生産できる。
【0024】
請求項8の緩衝材(3)は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂を用いているため、衝撃吸収性と成形性がより好ましい。
【0025】
請求項9のバンパは、上記した様に、好ましい衝撃吸収性を発揮する緩衝材(3)をバンパリインフォースメント(2)に固定し、緩衝材(3)をバンパカバー(4)で覆って形成されるから、緩衝材(3)の特性を損なわず、バンパ自体の好ましい衝撃吸収性を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の車輌用バンパ(1)を車輌の前部に取り付けた状態を、車輌左側から見た断面図で示している。
バンパ(1)は、車輌に固定された金属製のバンパリインフォースメント(2)の前面に緩衝材(3)を取り付け、緩衝材(3)及びバンパリインフォースメント(2)をバンパカバー(4)で覆って形成されている。
バンパカバー(4)は薄肉樹脂で形成され、衝突によって衝撃が加わった際に、変形または破断される。
【0027】
緩衝材(3)は、樹脂の発泡成形により、車輌の幅方向に長く形成されている。バンパリインフォースメント(2)上に、1つの長尺緩衝材(3)を取り付けてもよく、或いは複数の短尺緩衝材(3)を並べて取り付けてもよい。
【0028】
図2、図3に示す如く、緩衝材(3)は、緩衝材前部(31)と、該緩衝材前部(31)から内方向に連なる緩衝材後部(32)とからなる。
図3は衝撃試験のために緩衝材(3)を、荷重が上方から掛かる様に描いている(以下、「図7」「図9」「図11」「図12」「図13」も同様)。
緩衝材前部(31)は、緩衝材(3)の長手方向(車輌幅方向)と直交する断面形状がW型であり、外面に1つの凹条(33)、内面に該凹条(33)を挟んで2つの凹条(34)(34)を有している。
各凹条(33)(34)(34)は、長手方向と直交する断面が略V字型である。
緩衝材前部(31)の外向きの2つの頂部が衝突当り部(35)となっており、各衝突当り部(35)からは、夫々2つの壁部(36)(37)が内方拡がりに、V字状を成す様に延びている。即ち、車輌の上下方向に隣り合う壁部(36)(37)、(37)(36)の前端が繋がっている部分の外側面が、衝突体(歩行者の脚部)に当たる衝突当り部(35)となっている。
【0029】
各壁部(36)(37)の車輌側の先端は、断面矩形のブロック(38)(39)(39′)が一体に突設された緩衝材後部(32)を構成している。
隣り合うブロック(38)と(39)、及び(38)と(39′)は、前記凹条(34)の最大開口幅の間隔を存して隣り合っている。
緩衝材前部(31)の車輌内外方向の厚みL1は、各ブロック(38)(39)の車輌内外方向の肉厚L2より大きい。
中央部の2つの壁部(37)(37)は共通のブロック(38)に連続している。
中央部の2つの壁部(37)(37)の肉厚t2は互いに等しい。
図3において左右の2つの壁部(36)(36)の肉厚t1は互いに同じであり、中央部の壁部(37)の肉厚t2よりも小さい。
中央部の2つの壁部(37)(37)の夫々の傾き角度θ2は、左右の2つの壁部(36)(36)の夫々の傾き角度θ1よりも大きい。
右側のブロック(39′)は、右側の壁部(36)先端よりも更に右側に突出している。
左側のブロック(39)は、左側の壁部(36)の先端よりも更に左側に突出している。
2つの衝突当り部(35)の車輌外方向の前端面は、面が揃っている。3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌内方向の端面も面が揃っている。
中央ブロック(38)の車輌上下方向の肉厚h2を、車輌内外方向のブロック肉厚L2で除した値は1以上である。即ち、中央ブロック(38)は、断面が車輌上下方向に長い長方形に形成されている。
左右のブロック(39)(39′)の車輌高さ方向の夫々の肉厚h1、h3を、車輌内外方向のブロック肉厚L2で除した値は1以下である。
【0030】
緩衝材(3)は、公知の型内発泡成形で製造できる。
例えば、物理型発泡剤を含浸させた発泡性熱可塑性樹脂ビーズを5〜25倍に予備発泡して得られた直径1〜5mmの予備発泡粒子を成形型内に注入し、蒸気加熱によって発泡させて粒子間を融着させる。
予備発泡していない発泡性熱可塑性樹脂ビーズを型内発泡させてもよい。
発泡性熱可塑性樹脂ビーズを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン改質ポリエチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等を挙げることができる。特に、スチレン改質ポリエチレン系樹脂を用いると成形体としての衝撃吸収性と成形性がより好ましい。
物理型発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類等を挙げることができる。これらの物理型発泡体は、単体で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記バンパ(1)の作用を説明する。
車輌が歩行者と衝突事故を起こしたとき、歩行者の脚部からバンパカバー(4)に衝撃が加わって、バンパカバー(4)が変形または破断される。その際に緩衝材(3)に衝撃が加わり、先ず緩衝材前部(31)が図5に示す如く、外側の壁部(36)(36)が“く”の字状に潰れ、内側の壁部(37)(37)が外側へ倒れ込む。
単なる断面W型の緩衝材前部であれば、各壁部は車輌の内外方向に圧縮変形しないで、荷重を受けたときに傾いて開くことによって、歩行者の脚部が緩衝材から受ける衝撃荷重の上昇を抑える。これに対して、本実施形態の場合は、圧縮変形すると共に、図5に示す様に潰れて、衝突初期の歩行者の脚部に対するダメージを軽減する。
【0032】
緩衝材前部(31)が潰れて緩衝の作用がなくなると、荷重は専ら緩衝材後部(32)が受けることになり、フラット領域から急に荷重が大きくなる勾配領域に入る。即ち、衝突の瞬間から、フラット領域の終端B′点に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1(図3参照)で制御できる。L1を大きくすればフラット領域の終端に至るタイミングを延ばすことができ、歩行者のダメージを軽減する。
【0033】
緩衝材後部(32)のブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の肉厚の和(h1、h2、h3)は、勾配領域の荷重勾配に関係する。該肉厚の和が大きいほど、勾配が急になる。即ち、荷重が急激に上がる。
緩衝材前部(31)は長手方向と直交する断面はW型であり、車輌内外方向に凹条(33)(34)(34)を有しているから、緩衝材前部(31)の潰れ残り代を低減させることができ、上記所定の衝撃荷重を越えて急速に衝撃荷重が上がるタイミング(図15のB点)を適正にすることができる。
【0034】
緩衝材(3)は、各壁部(36)(37)にブロック(38)(39)が繋がっているから、フラット領域を越えて勾配領域の荷重を受けるバランスがよい。
緩衝材(3)は、上下に対称形状であるから、全領域での荷重を受けるバランスがよい。
緩衝材(3)は、発泡樹脂で一体成形するから、量産に適し、低コストで生産できる。更に、発泡樹脂は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂であるから、より好ましい衝撃吸収性と成形性を発揮する。
【0035】
以下に、実施例1乃至4の緩衝材についての衝撃試験について説明する。
衝撃試験方法は、試験片と圧子形状が異なる以外は、JIS Z0235の「包装用緩衝材の動的圧縮試験法」と同じである。
試験機:垂直自由落下形
重錘重量:25kg
落下高さ:1.02m
加速度計:衝撃加速度測定
変位計:試験体変位量測定
圧子形状:直径75mmの半円筒形(人体の脚部の太さを想定し、円弧面を下向 きにし重錘の下面に取り付けた)
【実施例1】
【0036】
実施例1における緩衝材(3)は、スチレン改質ポリエチレン系発泡樹脂(商品名:ピオセランPOOP 積水化成品工業株式会社製)を原料とし、10倍に予備発泡させた、直径2.5〜3.5mmの粒子を成形型内に充填し、蒸気加熱により発泡した粒子間を融着させて形成されている(以下、実施例2、3、4の緩衝材も同じ)。
緩衝材(3)の寸法は、図3において、( )内に記載された数字(単位mm)で表す。
図4の衝撃試験のグラフは、実施例1(実線で示す)と、従来例(二点鎖線で示す)(図14のW型緩衝材)の衝撃試験を比較している。
図4のA点、B点は、図15のA点、B点に対応するものである。
実施例1では、フラット領域の終点(B′点)に達するのは、従来例の緩衝材(3a)のフラット領域の終点(B点)よりもタイミング的に速くなる。
緩衝材の車輌内外方向の寸法が同じであるなら、扁平W状の緩衝材前部(31)の後部にブロック(38)(39)(39′)を設けた実施例1の緩衝材(3)の方が、従来のW型緩衝材(3a)よりも、フラット領域の終点(B′点)に達するもタイミングを速くできる。別の言い方をすれば、フラット領域の終端に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1(図3参照)で制御でき、L1を小さくすると、フラット領域の終点に達するタイミングは速くなり、L1を大きくするとフラット領域の終点に達するタイミングを遅くできる。
【実施例2】
【0037】
実施例2の緩衝材は、全体形状は図3に示す実施例1の緩衝材(3)と似ているが 3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の厚みの和(h1+h2+h3)を63.3mmとし、具体的には、h1とh2を夫々12.5mm小さくし、第1実施例のそれらの和である88.3mmに比べて25mm小さくした。
図6は、実施例2と上記実施例1の衝撃試験の対比を示すグラフである。A点荷重に達するのは上記実施例1とほぼ同じタイミングであるが、実施例2は実施例1に比べて、B点からの上昇は緩やかである。
緩衝材(3)のブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の肉厚の和は、勾配領域の荷重勾配に関係し、該肉厚の和が大きいほど勾配が急になる。即ち、荷重が急激に上がることが分かる。
【実施例3】
【0038】
図7に示す如く、実施例3の緩衝材(3)は、右側のブロック(39′)を右側に長くし(車輌上下方向に大きくし)、左側のブロックを省略し、左端の壁部(36)を他のブロック(39′)の車輌内方向の端面に揃う様に延ばした。
実施例1と同一部分については実施例1と同じ符号を付して説明を省略する(以下の実施例4乃至実施例7も同様)。
両ブロック(38)(39′)の車輌上下方向の厚みの和は、88.3mmであり、前記第1実施例の3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の厚みの和と同じである。
図8は、実施例3と前記実施例1の衝撃試験の対比を示すグラフである。実施例3の緩衝材は、第1実施例の緩衝材とほぼ同様の圧縮変形の過程を辿る。
【実施例4】
【0039】
図9に示す如く、実施例4の緩衝材(3)の全体形状は、前記実施例1の緩衝材と似ているが 3つのブロック(38)(39)(39′)の車輌内外方向の厚みL2を20mmとし、実施例1のそれに比べて5mm小さくした。緩衝材(3)全体の車輌内外方向の厚みは、実施例1と同様にして55mmである。
図10は、実施例4と前記実施例1の衝撃試験の対比を示すグラフである。A点荷重に達するのは 実施例1とほぼ同じタイミングであるが、フラット領域の終点(B″点)に達するのは、実施例1(B′点)よりもタイミング的に遅れる。
ブロック(38)(39)(39′)の車輌内外方向の厚みが小さいほど、フラット領域の終点に達するタイミングを遅らせることができる。別の言い方をすれば、フラット領域の終端に達するタイミングは、緩衝材前部(31)の車輌内外方向の長さL1で制御でき、L1を小さくすると、フラット領域の終点に達するタイミングを速くでき、L1を大きくするとフラット領域の終点に達するタイミングを遅くできる。
【実施例5】
【0040】
図11に示す実施例5の緩衝材(3)は、左右のブロックは存在せず、中央ブロック(38)の内方中央に、緩衝材(3)の長手方向の全長に亘って凹溝(38′)を設けている。
【実施例6】
【0041】
図12に示す実施例6の緩衝材(3)は、前記実施例1の緩衝材の4つの壁部(36)(37)を平行にして緩衝材前部(31)を形成している。
実施例1と同様にして、車輌の上下方向に隣り合う壁部(36)(37)、(37)(36)の前端が繋がっている部分の外側面が衝突当り部(35)となっている。
【実施例7】
【0042】
図13に示す実施例7の緩衝材(3)は、板状の衝突当り部(35)から内方向に平行に3つの壁部(36)(36)(37)を突設し、各壁部(36)(36)(37)の先端にブロック(38)(39)(39′)を突設している。
車輌の上下方向に隣り合う壁部(36)(37)(36)の前端が繋がっている部分の外側面が衝突当り部(35)となっている。
【0043】
実施例6、7の緩衝材(3)も、ブロック(38)(39)(39′)の車輌上下方向の長さの和の大小によって、又、ブロックの車輌内外方向の厚みの大小によって前記同様の効果を奏する。
【0044】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る車輌用フロントバンパを車輌左側から見た断面側面図である。
【図2】実施例1の緩衝材の断面斜視図である。
【図3】実施例1の緩衝材の長手方向と直交する面での断面図である。
【図4】実施例1と従来例の緩衝材の衝撃試験のグラフである。
【図5】緩衝材の想定潰れ状態の簡略説明図である。
【図6】実施例1と実施例2の衝撃試験の比較グラフである。
【図7】実施例3の緩衝材の断面図である。
【図8】実施例1と実施例3の衝撃試験の比較グラフである。
【図9】実施例4の緩衝材の断面図である。
【図10】実施例1と実施例4の衝撃試験の比較グラフである。
【図11】実施例5の緩衝材の断面図である。
【図12】実施例6の緩衝材の断面図である。
【図13】実施例7の緩衝材の断面図である。
【図14】従来例のW型緩衝材の断面図である。
【図15】従来例の緩衝材と目標緩衝材の衝撃緩衝特性の対比グラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 フロントバンパ
2 バンパリインフォースメント
3 緩衝材
31 緩衝材前部
32 緩衝材後部
33 凹条
34 凹条
35 衝突当り部
36 壁部
37 壁部
38 ブロック
39 ブロック
4 バンパカバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃が加わった際に潰れて衝撃を吸収する車輌バンパ用緩衝材であって、緩衝材前部と該緩衝材前部に連なる緩衝材後部とからなり、緩衝材前部は、車輌幅方向に延びる複数の壁部と、隣り合う壁部の前端が繋がって形成された衝突当り部を有し、緩衝材後部は少なくとも1つの壁部の後端に車輌幅方向に延び車輌上下方向の肉厚が壁の肉厚よりも大きいブロックを有している緩衝材。
【請求項2】
緩衝材後部には、緩衝材前部の壁部間に車輌内方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条が設けられている請求項1に記載の緩衝材。
【請求項3】
緩衝材前部には、車輌外方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条を有し、該凹条の上下に緩衝材後部の凹条が位置している請求項2に記載の緩衝材。
【請求項4】
各凹条は緩衝材の長手方向と直交する断面が略V字状であり、緩衝材は長手方向と直交する断面はW字状である請求項2又は3に記載の緩衝材。
【請求項5】
各壁部に夫々ブロックが繋がっている請求項1乃至4の何れかに記載の緩衝材。
【請求項6】
中央の2つの壁部は共通のブロックに繋がっている請求項1乃至5の何れかに記載の緩衝材。
【請求項7】
発泡樹脂により一体成形された請求項1乃至6の何れかに記載の緩衝材。
【請求項8】
発泡樹脂がスチレン改質ポリエチレン系樹脂である請求項7に記載の緩衝材。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかの緩衝材をバンパリインフォースメントに固定し、緩衝材をバンパカバーで覆った車輌用バンパ。
【請求項1】
衝撃が加わった際に潰れて衝撃を吸収する車輌バンパ用緩衝材であって、緩衝材前部と該緩衝材前部に連なる緩衝材後部とからなり、緩衝材前部は、車輌幅方向に延びる複数の壁部と、隣り合う壁部の前端が繋がって形成された衝突当り部を有し、緩衝材後部は少なくとも1つの壁部の後端に車輌幅方向に延び車輌上下方向の肉厚が壁の肉厚よりも大きいブロックを有している緩衝材。
【請求項2】
緩衝材後部には、緩衝材前部の壁部間に車輌内方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条が設けられている請求項1に記載の緩衝材。
【請求項3】
緩衝材前部には、車輌外方向に開口し車輌幅方向に延びる凹条を有し、該凹条の上下に緩衝材後部の凹条が位置している請求項2に記載の緩衝材。
【請求項4】
各凹条は緩衝材の長手方向と直交する断面が略V字状であり、緩衝材は長手方向と直交する断面はW字状である請求項2又は3に記載の緩衝材。
【請求項5】
各壁部に夫々ブロックが繋がっている請求項1乃至4の何れかに記載の緩衝材。
【請求項6】
中央の2つの壁部は共通のブロックに繋がっている請求項1乃至5の何れかに記載の緩衝材。
【請求項7】
発泡樹脂により一体成形された請求項1乃至6の何れかに記載の緩衝材。
【請求項8】
発泡樹脂がスチレン改質ポリエチレン系樹脂である請求項7に記載の緩衝材。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかの緩衝材をバンパリインフォースメントに固定し、緩衝材をバンパカバーで覆った車輌用バンパ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−123679(P2006−123679A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313724(P2004−313724)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
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