説明

車輌通行構造の保全システム、及び、車輌通行構造の保全方法

【課題】疲労度の高精度予測。
【解決手段】車輌が通過する構造物体の構造部位に配置され交通実態データ(D1)を計測する計測器(3)と、交通実態データ(D1)に対応して構造部位の応力を計算する計算器(1)とから構成されている。交通実態データ(D1)は、通過車両の等価車輌数Nと、通過車輌の等価質量とを含んでいる。計算器(3)は、等価車両数Nと等価質量を変数とする疲労度を計算する。実測される応力により疲労度を計算しないで、軸重分布により疲労度が計算される。計測が容易でる実データにより、例えば、FEM解析により高精度に最適性の特定部位の余余寿命を予測することができ、点検・補修時期を適格に計画的に定めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌通行構造の保全システム、及び、車輌通行構造の保全方法に関し、特に、余寿命を予測して保全計画を立てる基礎データを得るための車輌通行構造の保全システム、及び、車輌通行構造の保全方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公共投資の負荷の軽減が求められる。そのような軽減の施策の一環として、鉄道、道路のような車輌走行構造物の保全コストの軽減が重要である。車輌走行構造物は、小型軽量車輌、大型重量車輌、二軸車輌、多軸車輌のように間断なく走行する多様な移動体を支持する構造物体である。建築・建設構造の特定部位、例えば、鋼床版のUトラフ構造に間断なく発生する応力は、その構造の特定部位を劣化させる。劣化が進んで生じる亀裂を発見して補修を実施することは重要であるが、より早期に劣化進展度を予測することは、安全性のコスト削減の両面でより重要である。劣化進展度は、特定部位の応力と頻度の2変数で記述される、劣化進展度は損傷度Rとして、下記式で記述される。
R=f(σ,N,X)
σ:応力
N:頻度
f:計算fは解析(例示:FEM解析のような構造解析)に対応
X:その他の変数又はパラメータ
このような損傷度の具体的表現は、ダイナミックに荷重がかかる構造物体に関して、理論的に又は経験則的に一般的に公知である。ここで、応力は歪み計により実測される。
【0003】
損傷度Rの計算の精度を高めるためには、車両数(等価車両数、又は頻度)Nと応力σをより高精度に計測することが重要である。その場合に、複数(損傷すると規定される構造物部位の総数に対応する数)の歪み計により応力を計測する必要がある。そのため、総数に応じて歪み計を取り付けることは、莫大な費用と時間を要し、また、長期的な監視を行う場合には、歪み計の総数に応じて、歪み計の保守・点検の費用と時間を更に要する。
【0004】
損傷度推定は、点検の適正時期を促す。点検の時期は、補修コストに強く影響する。補修のトータルコストと補修時期との対応は、非特許文献1で提案されている。
【0005】
損傷度の高精度の定量性を確立することが求められる。損傷度の確立により、補修コスト計算と損傷度との間の対応を確定することが重要である。
【0006】
【特許文献1】特開平9−243439号
【非特許文献1】土木学会誌、Vol.89 No.8、pp25
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高精度の損傷度の定量性を明確にする技術を確立する車輌通行構造の保全システム、及び、車輌通行構造の保全方法を提供することにある。
本発明の他の課題は、補修時期の適正化の技術を確立する車輌通行構造の保全システム、及び、車輌通行構造の保全方法を提供することにある。
本発明の更に他の課題は、計算のための基礎データとして適正な物理データを用いることにより予測の精度を向上させる車輌通行構造の保全システム、及び、車輌通行構造の保全方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による車輌通行構造の保全システムは、車輌(16)が通過する構造物体(8)の構造部位に位置的に対応して配置され交通実態データ(D1)を計測する計測器(1)と、交通実態データ(D1)に対応して構造部位の応力(Δσ)を計算する計算器(1)と、その他の構成機器とから構成されている。交通実態データは、通過する車輌(16)の質量M(軸重に対応)と、質量に対応する荷重が構造部位にかかる頻度Nとを含んでいる。頻度Nは車輌の通過回数に対応している。計算器(1)は、実測される質量Mに対応して任意の特定構造部位の応力σを計算により求めることができる。質量は単一次元の物理データであり、計測精度が著しく高いデータである。質量は、軸重として計測され、頻度が同時的に計測され得る。
【0009】
本発明では、任意の構造部位の亀裂発生時期を高精度に予測することができる。計算器は、その応力σと頻度Nとに対応する疲労度R(σ,N)を計算する。応力の頻度分布と疲労度の対応は、公知である。本発明では、頻度と応力との対応関係である応力分布は、実測によらずに構造解析により計算により求められる。応力と頻度の対応関係から疲労度を求める計算手法は公知であり、その疲労度の求め方は、理論的に周知であり、又は、経験則的に周知である。本発明では、任意の構造部位の疲労度により、亀裂発生時期を高精度に予測することができるので、点検時期の最適化が可能であり、点検時期から補修時期の最適化が可能である。
【0010】
軸重計測器から得られる通過回数と軸重は計算器に入力される。計算器は、軸重の頻度分布を自動的に計算する。その頻度分布により、応力分布が計算される。軸重分布は、平均化されて、等価軸重分布が計算される。応力分布は、平均化されて等価応力が計算される。疲労度は、等価応力と頻度により計算される。
【0011】
計測器として、軸重計測器が最適性である。軸重計測器は、通過軸の軸数と各軸に対応する質量を同時的に且つ高精度に計測することができる。歪み計と異なり、軸重計測器の高精度化は容易に行われるので、本発明システムの高精度化が容易である。
【0012】
既述の応力は、等価質量と構造物体の構造とに対応して構造解析により計算される。その構造の任意の部位の応力が1点又は少数点の軸重計測により間接的に求められ得る。
【0013】
本発明による車輌通行構造の保全方法は、既述の通り、通過車輌の質量Mを計測するステップと、前記通過車輌の通過数を計測するステップと、質量に対応する応力の分布を計算するステップと、分布に対応する疲労度を求めるステップを含んでいる。亀裂の観測の前に任意の構造部位の応力とその任意の構造部位の疲労度を高精度に予測することができ、点検・補修時期の最適化が実現される。点検時期が高精度に判断されるので、初期で亀裂を発見することにより、早期補修を可能にすることにより、補修の総工費を低減化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による車輌通行構造の保全システム、及び、車輌通行構造の保全方法は、点検・補修時期の最適化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による車輌通行構造の保全システムの実施の最良の形態は、図に対応して、詳細に記述される。車輌通行構造の保全システム10は、図1に示されるように、構造状態計算器1を含んでいる。構造状態は、時間とともにダイナミックに変化する。構造状態は、普通には、劣化の進展状態を示す。構造状態は、構造状態値として、表現され得る。構造状態値は、損傷度Rとして構造状態計算器1の中で記述されている。構造状態計算器1には、データベース2が付属している。データベース2には、3様のデータが取り込まれる。
【0016】
交通実態データD1は、交通実態データ計測器3により計測的に取得されてデータベース2に入力される。通行構造物データD2は、設計図記述器4から出力されてデータベース2に入力される。確認用物理データD3は、確認用物理データ計測器5により計測的に取得されてデータベース2に入力される。交通実態データD1は、通行構造物データD2と確認用物理データD3とともにデータベース2に貯蔵され、計算時にそれぞれに構造状態計算器1に取り込まれる。構造状態計算器1には、端末計算器6が付属している。端末計算器6は、損傷度Rに対応する保全計画情報7を作成して、プリンター又は表示画面に対して出力する。
【0017】
交通実態データ計測器3として軸重計測器が適正に用いられる。交通実態データ計測器3は、車輌の複数の軸に対応して、その軸を介して道路面、レール面に作用する重力又は重力対応量として表される軸重又は軸重換算値Mjを高精度に計測することができる。軸重Mjのjは、通過番目であり通過車両数又は全通過車輌の全軸数Nに一致している。j=1〜Nである。
【0018】
設計図記述器4には、道路、橋梁のような構造物体の原設計情報(原基本情報)が貯蔵されている。更には、補修された後の補修情報(追加基本情報)が経時的に貯蔵される。原基本情報は、橋梁形式、径間、設計図情報(形状データ)、材料データ、その他のデータの集合である。交通実態データ計測器3には、交通実態データ計測器3により計測される交通量の他に、過去の統計データ(例示:交通量、車種ごとの質量、経験則的に知られる軸重)が貯蔵されている。設計図記述器4には、更に補修データが貯蔵されている。その補修データは、補修時期、点検データ(亀裂位置、亀裂長さ、過去の疲労評価(損傷度R)の時系列データの集合である。
【0019】
3様のデータD1,D2,D3は、統一的に整理されてデータベース2で貯蔵され、構造状態計算器1の指示に従って、構造状態計算器1に転送される。構造状態計算器1は、R=f(M,N,X)・・・(1)
X:他の変数
を記述し、損傷度Rを計算する。fは、既述の基本情報と追加基本情報に対応する関数又は写像である。Mは、頻度がNであるときの軸重を示す。損傷度は、後述されるように応力に対応する。
R=F(f(M,N,X))・・・(1’)
Fは、1又は定数kであり得る。
R=F(M,N,X)=kf(M,N,X)・・・(1’)
【0020】
一般的には、
R=f(F(M,N,X))・・・(1”)
ここで、式(1”)のFは後述される応力又は等価応力である。
関数Fは、FEM解析のような構造解析により計算により求められる。応力変動と亀裂発生時期(又は、亀裂成長履歴)の関係は理論的に確定されていて、関数fと関数Fは理論的に確立されている。後述されるように、理論と実測の整合性が確認される。等価応力と頻度Nを変数として関数計算を実行することにより、損傷度の計算がリアルタイムに又は実質的にリアルタイムに実行され得る。
【0021】
図2は、高架道路構造8を例示している。高架道路構造8は、道路面構造9と、道路面構造9を支持する支持桁11と、その他の付随構造(例示:道路構造接合ジョイント12)とから構成されている。道路面構造9に支持されて、交通実態データ計測器3が道路面又は道路脇近傍に配置されている。
【0022】
図3は、交通実態データ計測器3の具体的な配置関係と計測の形態を示している。交通実態データ計測器3は、第1軸重計測センサ14と第2軸重計測センサ15とを含んでいる。第1軸重計測センサ14は、第2軸重計測センサ15に対して車輌16の通行方向に配列されている。軸重計測センサは、軸重を計測することができる。交通実態データ計測器3は、更に、第1車輌分離計測センサ17と第2車輌分離計測センサ18とを含んでいる。第1車輌分離計測センサ17と第2車輌分離計測センサ18はそれぞれに、レーザービーム発信受信器として適正に形成されていて、前後する2台の車輌を分離してその2台を2台として判定することができる。
【0023】
図4は、交通実態データ計測器3の回路構成を示している。第1軸重計測センサ14と第2軸重計測センサ15と第1車輌分離計測センサ17と第2車輌分離計測センサ18とが出力する信号は、制御処理器21に入力される。第1車輌分離計測センサ17と第2車輌分離計測センサ18がそれぞれに発信受信するレーザービームは、車輌分離信号17a、18aとして、制御処理器21のディジタル入出力部位22に入力される。第1軸重計測センサ14と第2軸重計測センサ15とが計測する軸重に対応する軸重換算信号14a、15aは、制御処理器21の第1アンプ24と第2アンプ25にそれぞれに入力される。軸重換算信号14a、15aは、その積分値が軸重(荷重)に比例する。軸重換算信号14aと軸重換算信号15aは、第1アンプ24と第2アンプ25によりそれぞれに増幅されて、制御処理器21のAD変換器26に入力され、ディジタル信号に変換されて、制御処理器21の制御処理部位27に入力される。車輌分離信号17a、18aは、ディジタル入出力部位22によりそれぞれにディジタル信号に変換されて制御処理部位27に入力される。
【0024】
図5は、図4の交通実態データ計測器3の制御処理部位27により処理される交通実態データD1の一例を示している。交通実態データD1は、通過車両数又は通過車軸数(計算のために実質的に用いられる車軸数)とその車軸に対応する軸重とを含んでいる。車輌16として、2軸中型車輌が示されている。図5(a),(b)の横軸は時間座標を示し、図5(a)の縦軸は空間座標を示し、図5(b)の縦軸は各センサの出力信号を示している。車輌16が第1車輌分離計測センサ17と第2車輌分離計測センサ18を通過する(この形態では、同時的に第1軸重計測センサ14と第2軸重計測センサ15を通過する)間で、第1車輌分離計測センサ17と第2車輌分離計測センサ18は第1オンオフ信号28と第2オンオフ信号29を出力する。第1オンオフ信号28と第2オンオフ信号29の時間差31は、車輌16が方向Aに走行していることを示している。車輌16が第1軸重計測センサ14と第2軸重計測センサ15を通過する間で、第1軸重計測センサ14と第2軸重計測センサ15は第1前方軸重32と第1後方軸重33と第2前方軸重34と第2後方軸重35とを出力する。
【0025】
制御処理部位27は、図5(b)の出力信号28,29に対応して、1台の車輌が方向Aに通過したことを計算により判定することができ、且つ、図5(b)の出力信号32,33,34,35に対応して、その1台の車両の前方車軸と後方車軸のそれぞれの軸重を検出することができる。信号34と信号32の組、又は、信号33と信号35の組は、方向Aに通過する1台の車輌の前方軸の軸重又は後方軸の軸重の計算を可能にする。時間軸方向が逆に表されているならば、方向Aと逆方向に通過する1台の車輌の後方軸の軸重又は前方軸の軸重の計算を可能にする。
すなわち、複数の軸重計測器(軸重計測センサ)と複数の車輌通過検出器(車輌分離計測センサ)との組合せにより、車輌の通行方向と通過車輌数Nを検出することができる。
【0026】
本発明による車輌通行構造の保全方法は、下記の手法により実現される。
ステップS1:
構造状態計算器1は、図6に示されるように、軸重分布に対応する重量(質量)分布Wを計測と計算とにより求める(慣用表現では、縦軸を頻度で表す頻度分布としてグラフ化される。)。重量分布Wを示すグラフの縦軸と横軸は、それぞれに、重量Wと頻度Nとを示している。ここで、頻度は既述の車輌台数又は軸数を表す。1台の車両の前後軸の間隔が十分に短く各軸の軸重Wが十分によい近似で同じであれば、質量が2Wである1台の車両が通過することとして計算が実行される。大型大重量トラックの通過では、4軸に対応する4つの軸重をそれぞれに有する4台の車輌が同時に間隔不変状態で通過することとして計算される。車輌の特性に応じて台数と軸数とが判定されるので、既述のNは軸数が考慮された上で判定される車輌台数として近似的に又は等価的に表され得る。従って、コンピュータの中では、Nは等価車輌通過台数として表現されている。より詳しくは後述されるように、実働荷重は等価実働荷重として表現される。重量分布Wは、図6に示されるように、頻度Nの関数として表されている。
【0027】
交通実態データ計測器3は、全区域の多数の地点で設置されているのではない。複数の構造が同一又は概同一であれば、同一構造の複数の道路部位の全てに関して軸重計測を実施する必要はない。交通実態データ計測器3に蓄積されている過去の道路交通統計データを用いて、等価実働荷重が算定され得る。
【0028】
等価実働荷重は、重量(質量)の平均化により求められる。そのような平均化として、単純軸重Wについて3乗根平均が適正である。3乗根平均の軸重は、等価実働荷重WRMCといわれる。
RMC=(ΣWi・Ni/N)1/3・・・(2)
【0029】
ステップS2:
図7は、等価応力計算ステップS2を示している。構造状態計算器1は、一方で、図7に示されるように、構造解析コードにより、高架道路構造8の特定領域部分の要素分解構造体8’の特定(指定)部位の車輌通過時の応力を計算する。単数又は複数の特定部位は、構造状態計算器1により指示され得る。特に問題とされる溶接部位は、特定部位として解析担当者により人為的に構造状態計算器1に入力される。又は、特に問題になる特定部位が計算器1により計算により求められ得る。図7に示される車輌16は3軸車輌であり、ある瞬間又はある時刻の近傍の応力時間分布が示されている。図7のグラフの横軸は時刻(コンピュータ上に設定される時系列時間)を示し、それの縦軸は応力(大きさ)を示している。1つの特定位置で、3車軸が通過する時刻を含むある時間範囲で、3車軸に対応して現れる特定位置の応力には、3つ又は4つのピークが現れている。等価応力Δσeは、レインフロー法により下記式で求められる。
Δσe=(ΣΔσiNi/N)1/3
レインフロー法は、1台の車輌が通過したときの応力範囲とその頻度を求める計算を可能にし、車輌1台当たりのΔσeが求められ得る。
【0030】
式(1”)の応力Fは、等価応力として下記式で表される。
F=F(WRMC,N,X)・・・(3)
等価応力Δσeが用いられる場合には、図7の3軸車輌の軸数は1として計算され得る。図7のグラフの縦軸は、1台の車輌が通過する際に現れる応力(軸重に対応して計算により求められる応力)の変動を示す。
【0031】
ステップS3:
図8は、損傷度計算ステップS3を示している。損傷度計算ステップS3は、疲労照査ステップS3−1を予備ステップとして含んでいる。高架、橋梁の近年の設計は、コンピュータ上で実行され、既に応力頻度に起因する劣化が取り込まれている。そのような設計(30年の過去の設計は現時点でコンピュータに入力されている。)では、発現応力の上限下限の幅である応力範囲は許容設計応力範囲Δσdに収められている。既述の等価応力又は等価応力範囲Δσeと許容設計応力範囲Δσdとの間には、下記関係が制約条件(拘束条件)として満たされる必要があり、その条件の充足性が照査される。
Δσe⊂Δσd・・・(4)
又は、
Δσeの要素である等価応力∈Δσd・・・(4’)
更に、安全化制約条件が付加的に課される。設計許容応力範囲Δσと安全率γが設定され、下記安全化制約条件が設定される。
γ(Δσdの要素)∈Δσ
【0032】
このような制約条件下で、損傷度計算ステップS3−2が実行され、既述の損傷度計算式(1)の計算が実行される。
R=f(F(WRMC),N,X)・・・(5)
このように、損傷度は応力Fと頻度Nにより任意の特定構造部位に関して計算される。
【0033】
ステップS4:
図9は、損傷度計算が推定により実行される損傷度推定ステップS4を示している。損傷度推定ステップS4は、損傷度計算ステップの代替手法として採用される。過去の構造物では、その使用開始時期から現在まで軸重の交通実態データD1は取得されていない。図10に示されるように、ある都市の地区A,B,Cの地区Aの幹線には、3つの構造物a,b,cが存在する。図11に示されるように、3つの構造物a,b,cの全てに対応して交通実態データ計測器3は設置されておらず、交通実態データ計測器3は構造物aの車輌接近側と構造物cの車輌接近側の2箇所のみに設置されている。構造物bが構造物a又は構造物cに同じであるか又は類似し、更に、構造物が車線中央線に対して対称であり、且つ、車輌の走行方向が応力分布に影響しない場合には、既述の2箇所のみの設置は他の構造物の劣化診断のためには不要である。
【0034】
図9は、現在時点より過去には交通実態データ計測器3が設置されておらず、交通実態データD1が存在しない場合の応力範囲(等価応力)の推定方法を示している。現時点で交通実態データ計測器3が設置され現時点からモニタリングが開始されて、将来予測が実行される。現在時点で、複数の仮定が有力である。1つは、点線36で示されるように、応力(応力範囲)一定であるとする仮定である。他の1つの仮定は、点線37で示されるように、応力増大率一定であるとする仮定である。車量通過数に対応する頻度は、多様な公的機関の過去の既知データ又は統計データから求められる。1つ目の仮定によれば、損傷度Rとして線形損傷度38が求められる。他の1つの仮定によれば、損傷度Rとして非線形損傷度39が求められる。両仮定で、損傷度Rは、式(5)により求められる。式(5)の関数Fとしては、既述の通り、経験則と理論との整合性が確認されている関数が用いられる。
【0035】
このような損傷度38,39は推定により得られたものであり、現実には、密点線で示される損傷度曲線(疲労確定により疲労損傷度曲線)41が求められるはずである。亀裂(本明細書では、顕微鏡的亀裂ではなく、主として肉眼観察的亀裂)が発生する前には、損傷度を確認することができない。モニタリング開始後に目に見える亀裂が発生すれば、損傷度が確定する。そのような確定時点の損傷度は、1.0で定義される。図9には、損傷度が1.0である時点とその時の応力の2次元座標位置が星マークの亀裂発生42で示されている。亀裂発生の確定により、損傷度関数R(=f(F,N))が確定する。亀裂発生の現実を踏まえて、補修が実行されることにより、応力は基準点(=0)にもどり、将来の損傷度は定率増加直線43として暫定的に推定される。将来の計測により、定率増加直線43は確定的に高精度である曲線として補正され続ける。
【0036】
ステップS5:
図12は、保全計画ステップS5を実施するための実施表を示している。幹線Xの構造物cの使用期間は20年であり、平均化等価車重(軸重WRMC)が18トンであり、頻度Nに対応する台数が2000(台/レーン・日)であり、推定的に又は確定的に(確定的とは使用開始時から軸重と頻度が計測されている場合には計算により求められることを意味する。)求められる損傷度Rが0.7である。図9のような損傷度曲線が過去から現在まで作成され、亀裂発生時点が高精度に推定される。その推定よれば、放置すれば、余寿命は9年と推定される。このように知られる余寿命に基づいて、点検補修の優先度が定められる。二重丸は余寿命が10年以内であることを示し、一重丸は余寿命が10年以上20年以内であることを示し、三角は余寿命が20年以上50年以内であることを示す。幹線Zの構造物gでは、1年以内の補修が必須であり、優先度は二重丸であり、直ちに補修開始することが望まれ、少なくとも、2年の後に補修が行われない場合には、通行禁止を回避することはできないと強く推定される。但し、後述される亀裂発生後の亀裂進展を予測することにより、補修開始時期の延長はあり得る。
【0037】
図13〜図16は、亀裂進展に基づく点検補修の時期に関して、保全計画ステップS5の改善を示している。図13は、鋼床版のUトラフの亀裂発生状況を示している。亀裂長さの度合いは、損傷度が1より大きい損傷度を示す。図14に示されるように、亀裂長さ(縦軸)の経年変化は、エキスポーネンシャルに増大することが知られている。ここで、亀裂長さは計算により得られる推定亀裂ではなく、検出器(例示:人の目、カメラ)により現実に知られる現実亀裂である。点検間隔T1で発見される亀裂の長さは点検間隔T2で発見される亀裂の長さよりはるかに小さい。小さい亀裂は、急速に大きい亀裂に成長する。図15に示されるように、点検間隔T1で補修が行われない場合には(縦軸は健全度を示す)、予測損傷度(亀裂進展度)は急速に進む急速曲線44を辿ることが理論的に且つ経験則的に知られている。点検間隔T1の2度の点検に対応する補修コストは、図16に示されるように、時間平均的表現(又は積分的表現)により斜線領域45で示されている。図15に示される点検間隔T2の1回の補修に対応する補修コストは、図16に示されるように、点線斜線領域46で表されている。点検間隔T2の2回の補修によれば、その補修は巨大化する。このようなトータルコストは、既述の非特許文献1の学会誌で述べられている試算モデルに依拠している。その試算によれば、点検間隔の短縮は点検回数の増大を招くが、点検間隔が長くて大規模補修を余儀なくされる大規模長周期補修コスト(LCC:life cycle cost)は、点検間隔が短くて補修回数の増大を招く小規模短周期補修コストより莫大に大きい。
【0038】
軸数検出のアルゴリズム:
本発明で、軸数検知は重要である。軸重計測器は2本が必須である。3本以上に配置される場合には、そのうちの2本が用いられる。本実施の形態では、レーザビームを用いた2本の車輌分離計測センサを用いているが、軸重計測センサの前後に配置される2つ以上のループコイルのような他の機器構成によっても通過車輌数が計測可能である。その通過検出の時間差から車輌数と通過方向が検出される。
【0039】
また、2つの軸重センサにより、車輌が停止して反対方向に引き返すことの検知が可能である。すなわち、2つの軸重センサの出力パターンを参照すれば、車両が2つの軸重センサを完全に通過せずに途中で引き返した後再度通過したとしても、その車両1台当たりの軸数を重複することなく正確に検知することが可能となる。軸数と軸重の計測により、1台の総重量(総質量)が検知され得る。
【0040】
レインフロー法:
構造物に作用する荷重は多様であるので、構造部位に生じる応力の変動波形は複雑である。このような変動振幅応力を形成する繰り返し応力の大きさ(Wj)とその繰り返し数(頻度N)の検出又は計算である応力範囲頻度分布を解析する応力範囲頻度解析法として、ピーク法、レンジ法、レンジペア法、レインフロー法が知られている。これは、現れる応力の極値として4つ(σ1>σ3>σ2>σ4)が例示される場合、レンジ(σ3−σ2)の波を計数し、σ2とσ3を振動振幅応力波形から除外する数学的処理方法である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明による車輌通行構造の保全システムの実施の好ましい形態態を示す回路ブロック図である。
【図2】図2は、本発明の適用対象を示す斜軸投影図図である。
【図3】図3は、本発明による車輌通行構造の保全方法の計測の形態を示す斜軸投影図である。
【図4】図4は、計測の回路を示す回路ブロック図である。
【図5】図5は、計測方法を示すグラフである。
【図6】図6は、頻度分布又は重量分布を示すグラフである。
【図7】図7は、FEM解析対象の計算結果を示すグラフである。
【図8】図8は、計算のプロセスの一部分を示す表である。
【図9】図9は、計算のプロセスの一部分を示すテーブルである。
【図10】図10は、都市の道路分布を示す表である。
【図11】図11は、道路構造の分布を示す表である。
【図12】図12は、補修点検表である。
【図13】図13は、応力計算対象を示す断面図である。
【図14】図14は、亀裂成長を示すグラフである。
【図15】図15は、疲労度又は健全度を示すグラフである。
【図16】図16は、トータルコストを示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1…計算器
8…構造物体
16…車輌
D1…交通実態データ
Δσ…応力
…等価質量
R…疲労度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌が通過する構造物体の構造部位に配置され交通実態データを計測する計測器と、
前記交通実態データに対応して前記構造部位の応力を計算する計算器とを具え、
前記交通実態データは、
通過する前記車輌の質量Mと、
前記質量に対応する荷重が前記構造部位にかかる頻度Nとを含み、
前記頻度は前記車輌の通過回数に対応し、
前記計算器は、前記質量Mを変数とする計算応力σを特定部位に関して構造解析により計算し、且つ、前記計算応力σと前記頻度Nとに対応する疲労度R(σ,N)を計算する
車輌通行構造の保全システム。
【請求項2】
前記計算器は、前記車輌質量Mに対応する頻度の分布を自動的に表現する
請求項1の車輌通行構造の保全システム。
【請求項3】
計測器として軸重計測器が用いられる
請求項1又は2から選択される1請求項の車輌通行構造の保全システム。
【請求項4】
通過車輌の質量Mを計測するステップと、
前記通過車輌の通過数を計測するステップと、
前記質量に対応する応力の分布を計算するステップと、
前記分布に対応する疲労度を求めるステップ
とを具える車輌通行構造の保全方法。
【請求項5】
前記質量Mは軸重として計測される
請求項4の車輌通行構造の保全方法。
【請求項6】
前記疲労度に対応して点検時期を定めるステップ
を更に含む請求項4の車輌通行構造の保全方法。
【請求項7】
前記点検時期に対応して亀裂の発見の前に補修を実行するステップ
を更に含む請求項4の車輌通行構造の保全方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−317413(P2006−317413A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143230(P2005−143230)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】