説明

車輪のハブ軸用軸受装置

【課題】車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置において、ハブ軸に作用する軸曲げ方向荷重のうち、通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際にハブ軸の破損を抑制する。
【解決手段】ハブ軸1の軸部10の軸受は、内輪と、外輪部材45と、内外輪間に転動可能に配設される玉50、51とを有しており、外輪部材45の外周面には、支持体に取り付けるための支持体側フランジ部48が一体に形成されており、支持体側フランジ部48には、ハブ軸1に作用する軸曲げ方向に対する強度がハブ軸1の強度よりも弱い強度の補助ブラケット70(脆弱部)となる部位が周方向の少なくとも一箇所に構成されており、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際にハブ軸1より先に変形破壊する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車輪のハブ軸用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置が知られている。その内容は、例えば、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示の車輪のハブ軸用軸受装置は、ドライブシャフトの一部を構成する等速自在継手の外側継手部材と、車輪を取付けるための車輪側フランジ部をもったハブ軸と、複列転がり軸受とをユニット化したものである。この複列転がり軸受の複列の内輪軌道輪の一方は外側継手部材に一体に形成されている。また、外側継手部材の中空ステム部をハブ軸の貫通孔に嵌合させるとともにステム部を部分的に拡径させてかしめる拡径かしめ部によってハブ軸とステム部を一体に固定している。ここで、上記したドライブシャフトの最小径部分の強度は、拡径かしめ部の強度、ステム部の強度のいずれよりも弱い強度に設定されている。このドライブシャフトの最小径部分の強度が、拡径かしめ部の強度、ステム部の強度のいずれよりも弱い関係を成立することによって、過大なトルク入力があった場合にドライブシャフトが先行して破損することにより車輪のハブ軸用軸受装置の破損を防止する。すなわち、機械的な破損防止手段の構成を備えたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−320351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1における車輪のハブ軸用軸受装置は、駆動輪に適用可能な構成であるものの従動輪には適用できないという問題があった。そのため、従動輪にも適用可能な破損防止手段が求められている。また、特許文献1における車輪のハブ軸用軸受装置は、過大なトルク入力すなわち、ねじり方向荷重にのみ作用する構成である。そのため、車輪のハブ軸用軸受装置に対する軸曲げ方向荷重には作用しない構成である。そのため、ハブ軸に作用する軸曲げ方向荷重のうち、通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用するとハブ軸が破損するおそれがある。
【0005】
而して、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置において、ハブ軸に作用する軸曲げ方向荷重のうち、通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際にハブ軸の破損を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車輪のハブ軸用軸受装置は次の手段をとる。
先ず、第1の発明に係る車輪のハブ軸用軸受装置は、車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置であって、前記ハブ軸の軸部の軸受は、内輪軌道面が形成される内輪と、該内輪に形成される内輪軌道面に対応して外輪軌道面が形成される外輪と、前記内輪の内輪軌道面と前記外輪の外輪軌道面との間に転動可能に配設される転動体を有しており、前記外輪の外周面には、前記支持体に取り付けるための支持体側フランジ部が一体に形成されており、該支持体側フランジ部には、前記ハブ軸に作用する軸曲げ方向に対する強度が該ハブ軸の強度よりも弱い強度の脆弱部となる部位が周方向の少なくとも一箇所に構成されており、該脆弱部は、前記ハブ軸に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際に該ハブ軸より先に変形破壊することを特徴とする。
なお上記手段における軸曲げ方向とは、ハブ軸の軸部の軸線方向に対し、この軸部の径方向に作用する方向を意味するものである。
【0007】
この第1の発明によれば、脆弱部は、ハブ軸に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際にハブ軸より先に変形破壊することで、かかる荷重を吸収して和らげ、軸曲げ方向荷重に伴う応力がハブ軸に集中しない構成とすることができる。これにより、ハブ軸に作用する軸曲げ方向荷重のうち、通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際に、ハブ軸の破損を抑制することができる。また、脆弱部が構成される外輪は、駆動輪及び従動輪いずれにおいても構成されるものであるから、上記構成は駆動輪及び従動輪のいずれにも適用することができる。また、脆弱部が先行破壊することで支持体側フランジ部が変形する。そうすると、ハブ軸用軸受装置は、支持体側フランジ部との間で正規の取り付け位置を維持できなくなる結果、車輪が正規の取り付け位置を維持できなくなる。これにより、使用者が継続使用しようとしても車輪が正常な方向に向かず、軸受に異常が発生したことを容易に検知することができる。
【0008】
次に、第2の発明に係る車輪のハブ軸用軸受装置は、上述した第1の発明において、前記支持体側フランジ部に構成される脆弱部は、前記支持体側フランジ部の付根部の一部に構成されていることを特徴とする。
【0009】
この第2の発明によれば、脆弱部は、支持体側フランジ部の付根部の一部に構成するものである。ハブ軸に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が及ぶとその荷重に伴う応力が支持体側フランジ部の付根部に集中する。そのため、かかる付根部に脆弱部を設けることでより効果的に脆弱部をハブ軸より先に変形破壊させることができる。
【0010】
次に、第3の発明に係る車輪のハブ軸用軸受装置は、上述した第1の発明又は第2の発明において、前記支持体側フランジ部に構成される脆弱部は、相対的に前記外輪より高硬度かつ低靭性の部位が構成されることを特徴とする。
【0011】
この第3の発明によれば、脆弱部は、相対的に外輪より高硬度な特性を有する。そのため、脆弱部は、通常使用において車輪のハブ軸用軸受装置を支持する強度を有する。一方、脆弱部は、相対的に外輪より靭性の低い特性を有する。すなわち、脆性な特性を有するそのため、脆弱部は、ハブ軸に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際には、ハブ軸より先に変形破壊する構成とすることができる。
【0012】
次に、第4の発明に係る車輪のハブ軸用軸受装置は、上述した第3の発明において、前記相対的に外輪より高硬度かつ低靭性の部位は、前記支持体側フランジ部と別体の構成であることを特徴とする。
【0013】
この第4の発明によれば、脆弱部として構成される相対的に外輪より高硬度かつ低靭性の部位は、支持体側フランジ部と別体の構成である。そのため、脆弱部の構成を適宜所望の位置に配設することができる。
【0014】
次に、第5の発明に係る車輪のハブ軸用軸受装置は、上述した第2の発明において、前記支持体側フランジ部の付根部の一部に構成される脆弱部は、前記付根部を切り欠く溝部として構成されることを特徴とする。
【0015】
この第5の発明によれば、支持体側フランジ部の付根部の一部に構成される脆弱部は、付根部を切り欠く溝部として構成されるものでも良い。これによれば、新たな材料を要することなく脆弱部を設けることができる。また、溝部は、支持体側フランジ部の付根部の一部を切欠く構成であるため重量の増加にもつながらない。すなわち、車輪のハブ軸用軸受装置を構成する外輪に対し、材料変更、重量増加することなく溝部を構成することができる。また、支持体側フランジ部は外輪の外周面に構成される部位であるため、溝加工が容易である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記各発明の手段をとることにより、車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置において、ハブ軸に作用する軸曲げ方向荷重のうち、通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際にハブ軸の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車輪のハブ軸用軸受装置に車輪が装着された状態を示す軸方向断面図である。
【図2】図1のII部を拡大して車輪のハブ軸用軸受装置を示した軸方向断面図ある。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車輪のハブ軸用軸受装置に備えられる脆弱部の単体を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る車輪のハブ軸用軸受装置に備えられる脆弱部の変形例1の単体を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る車輪のハブ軸用軸受装置に備えられる脆弱部の変形例2の単体を示す斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る車輪のハブ軸用軸受装置を示す軸方向断面図ある。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る車輪のハブ軸用軸受装置を示す軸方向断面図ある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態を図1から図3にしたがって説明する。車輪60のハブ軸用軸受装置Aは、図1に図示されるように車両に構成される懸架装置(図示省略)に支持されると共に、ブレーキロータ55を介して車輪60を回転可能に支持するものである。車輪60には、タイヤ62及びホイール64が構成される。図2に図示されるように、車輪用ハブユニットとしての車輪60のハブ軸用軸受装置Aは、車輪60(図1参照)を取付けることのできる車輪側フランジ部21を一体に形成したハブ軸1が、軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41(軸受)とを一体状に有してユニット化されている。車輪60のハブ軸用軸受装置Aは、アンギュラ玉軸受41(軸受)を介して、図示を省略する車両の懸架装置に支持されたナックルに支承されている。なお、ここでは車輪60のハブ軸用軸受装置Aを説明するにあたり、ハブ軸用軸受装置Aの基本的な構成を説明したうえで、後述するハブ軸1の破損を抑制するために備えられる脆弱部の具体的な構成について説明する。
【0019】
[ハブ軸用軸受装置Aの基本的な構成]
図2に図示されるように、車輪60(図1参照)のハブ軸用軸受装置Aの基本的な構成は、ハブ軸1と、内輪形成環状部材42と、外輪部材45(外輪)と、玉50、51(転動体)と保持器52、53が主体として構成される。ハブ軸1と、内輪形成環状部材42と、外輪部材45(外輪)と、玉50、51(転動体)は金属製で構成されている。保持器52、53は、合成樹脂製で構成されている。このうち、軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41(軸受)は、ハブ軸1と内輪形成環状部材42のそれぞれ外周面に構成される内輪軌道面18、44と、外輪部材45(外輪)の内周面に構成される外輪軌道面46、47と、玉50、51(転動体)と、保持器52、53を主体として構成される。
【0020】
ハブ軸1は、図2に図示されるように軸部10と、嵌合軸部30と、フランジ基部23と、車輪側フランジ部21を一体に有する。
【0021】
軸部10は、図2に図示されるようにアンギュラ玉軸受41(軸受)が組み付けられる部位である。軸部10は、後述する車輪側フランジ部21側から先端側に向けて段軸状に形成されている。軸部10の車輪側フランジ部21側には、大径の大径部11が形成される。軸部10の先端側には、小径の小径部12が形成される。軸部10の大径部11の外周面には、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41(軸受)の一方の内輪軌道面18が形成される。内輪軌道面18の肩部と車輪側フランジ部21の隅部は、周方向に滑らかな曲面状のシール面19が形成される。このシール面19は、後述する外輪部材45(外輪)に嵌め込まれるシール部材56のリップ58の先端部が摺接する面である。軸部10の小径部12の外周面は、後述する内輪形成環状部材42が嵌め込まれる部位である。さらに、軸部10の先端部には、小径部12と同径の端軸部15が延出されている。端軸部15の端面中心部には軸端凹部16が形成されている。
嵌合軸部30は、図2に図示されるように軸部10の一端側に形成されかつ、軸部10よりも大径で車輪60の中心孔が嵌込まれる部位である。嵌合軸部30には、車輪側フランジ部21側にブレーキロータ55に対応するブレーキロータ用嵌合部31が形成され、先端側にブレーキロータ用嵌合部31よりも若干小径で車輪60(図1参照)に対応する車輪用嵌合部32が形成されている。
フランジ基部23は、図2に図示されるように軸部10と嵌合軸部30との間に位置し、車輪側フランジ部21の基部として構成される部位である。車輪側フランジ部21は、このフランジ基部23の外周面に外径方向へ放射状に延出された部位である。車輪側フランジ部21には、車輪60(図1参照)を締め付けるハブボルト27が圧入によって配置されるボルト孔24が貫設されている。
【0022】
内輪形成環状部材42は、図2に図示されるように内輪軌道面44を有する環状の部材である。内輪形成環状部材42の内周面43には、軸部10の小径部12の外径に嵌め込み可能な内径が形成される。内輪形成環状部材42の外周面には、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41(軸受)の他方の内輪軌道面44が形成される。上記した軸部10の内輪軌道面18と、この内輪形成環状部材42の内輪軌道面44によってアンギュラ玉軸受41(軸受)の内輪が構成される。
【0023】
外輪部材45(外輪)は、図2に図示されるようにハブ軸1の軸部10の外周に環状空間49を保って円筒状で構成される。外輪部材45の内周面には、ハブ軸1に構成される内輪軌道面18、44に対応する外輪軌道面46、47が軸方向に所定間隔を保って形成される。また、外輪部材45の外周面に外径方向へ放射状に延出された支持体側フランジ部48が一体に形成される。この支持体側フランジ部48は、図示を省略する車両の懸架装置に支持されたナックル、キャリア等の車体側部材(支持体)の取付面に締め付けるボルト82が圧入によって配置されるボルト孔48aが貫設されている。また、外輪部材45の一端部内周面にはシール部材56が圧入されて組み付けられる。このシール部材56のリップ58の先端部は、ハブ軸1の内輪軌道面18の肩部に隣接して形成されたシール面19に摺接される。
【0024】
玉50、51(転動体)は、図2に図示されるように内輪軌道面18、44と外輪軌道面46、47との間においてそれぞれが転動可能に配設される。玉50、51(転動体)は、内輪軌道面18、44と外輪軌道面46、47との間において周方向に複数個で構成されており、保持器52、53によって保持される。
【0025】
ハブ軸用軸受装置Aの組み立てを図2を用いて説明する。先ず、ハブ軸1の内輪軌道面18に保持器52で保持された玉50を嵌め込む。次に、外輪部材45の外輪軌道面46の形成側の端部の内周面にシール部材56を圧入して組み付ける。次に、外輪部材45の外輪軌道面46をハブ軸1の内輪軌道面18と対向させる。次に、外輪部材45は、外輪軌道面46が玉50に当接する位置までハブ軸1の軸部10に嵌め込まれる。このとき、シール部材56のリップ58の先端部は、シール面19に当接する。次に、内輪形成環状部材42の内輪軌道面44に保持器53で保持された玉51を嵌め込む。次に、内輪形成環状部材42は、玉51が外輪軌道面47に当接する位置まで軸部10の小径部12の外周面に嵌め込まれる。軸端凹部16に治具を差し込んで径方向外方に拡開する。端軸部15の先端部は、径方向外方へかしめられて、かしめ部17が形成される。これにより小径部12の外周面に内輪形成環状部材42が固定される。なお、内輪軌道面18、44と外輪軌道面46、47との間に配設される各複数個の玉50、51(転動体)には、軸部10の端軸部15をかしめて、かしめ部17を形成する際のかしめ力に基づいて所要とする軸方向の予圧が付与される。なお、内輪形成環状部材42の外周面には、速度センサ90に対応する被検出部95を周方向に有するパルサーリング96が必要に応じて圧入固定される。この場合、外輪部材45の端部内周面には、有蓋筒状のカバー部材91が圧入固定され、このカバー部材91の蓋板部92に速度センサ90が、その検出部をパルサーリング96の被検出部95に臨ませて取り付けられる。こうして、ハブ軸用軸受装置Aが構成される。
【0026】
[ハブ軸1の破損を抑制するために備えられる脆弱部について]
図2に図示されるように、車輪60のハブ軸用軸受装置Aに対して、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが入力されると、この軸曲げ方向荷重Fがハブ軸1の軸部10に及ぶ。そうすると、従来の構成では、軸部10の大径部11と小径部12との境界である連接部13に軸曲げ方向荷重Fに対する応力が集中する構造となっている。第1の実施形態では、この連接部13に応力を集中しない構成とされている。すなわち、ハブ軸1に作用する軸曲げ方向に対する強度が、ハブ軸1の強度よりも弱い強度の脆弱部を外輪部材45に設けている。なお、軸曲げ方向荷重Fの軸曲げ方向とは、ハブ軸1の軸部10の軸線方向に対し、この軸部10の径方向に作用する方向を意味するものである。また、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fとは、例えば車両がスピンしてホイール64(図1参照)が道路の縁石に衝突した場合にハブ軸1に作用する荷重等を意味するものである。ホイール64(図1参照)が道路の縁石に衝突した場合、車輪側フランジ部21に対し横荷重(ハブ軸1の軸方向の荷重)が入力されることにより、ハブ軸1には、軸部10の軸線方向に対し、この軸部10の径方向に荷重が作用する。すなわち、ハブ軸1の軸部10を曲げる方向に荷重が作用する。
【0027】
外輪部材45に設けられる脆弱部は、図2に図示されるように外輪部材45の支持体側フランジ部48に構成されている。従来、外輪部材45の支持体側フランジ部48は、外輪部材45を構成する金属製の素材で一体に構成されている。これに対し、第1の実施形態における外輪部材45の支持体側フランジ部48には、外輪部材45から一体に突出する支持体側フランジ部48とは別体として、相対的に金属製で構成される外輪部材45より高硬度かつ低靭性(脆性)な特性を有する補助ブラケット70(脆弱部)が重合された構成とされている。
【0028】
補助ブラケット70(脆弱部)は、図3に図示されるように環状部72と、フランジ部74を有している。環状部72は、外輪部材45の支持体側フランジ部48に隣接する外周面45aと略同一の内周面を有して外輪部材45に圧入可能な構成とされる。環状部72の外周面には、径方向外方に突出したフランジ部74が構成され、断面略L字型に構成されている。フランジ部74には、孔部76が貫設される。この孔部76は、フランジ部74が支持体側フランジ部48と重合された状態で車体側部材(支持体)の取付面に締め付けるボルトが挿通可能な径の孔部76が貫設されている。これにより、補助ブラケット70(脆弱部)は、図示を省略する車両の懸架装置に支持されたナックル、キャリア等の車体側部材(支持体)の取付面に締め付ける際に、支持体側フランジ部48と重合して共締め可能な構成とされている。補助ブラケット70(脆弱部)は、窒化珪素、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス製の材質で構成される。セラミックスは、相対的に金属製で構成される外輪部材45より高硬度かつ低靭性な特性を有する。すなわち、セラミックスは、相対的に金属製で構成される外輪部材45より硬度が高いため、強度が高い。一方、セラミックスは、相対的に金属製で構成される外輪部材45より脆性であり靭性が低い。そのため、セラミックスは、相対的に金属製で構成される外輪部材45より機械的な耐衝撃性において低い特性を有する。そのため、補助ブラケット70(脆弱部)のフランジ部74と外輪部材45の支持体側フランジ部48が重合した状態において、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を許容する剛性と疲労強度を有する。一方、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際、補助ブラケット70のフランジ部74と環状部72の交差部位70a(支持体側フランジ部48の付根部78に対応する位置)にかかる荷重Fに伴う応力が集中して破損(割れる)構成とされている。これにより、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際に、補助ブラケット70(脆弱部)がハブ軸1より先に変形破壊して支持体側フランジ部48が変形する。
【0029】
ここで、支持体側フランジ部48の板厚は、板圧を薄く形成されると共に補助ブラケット70(脆弱部)を重合させる。これらが重合した状態でハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を許容する剛性と疲労強度を担う構成とされている。支持体側フランジ部48と補助ブラケット70(脆弱部)の板厚は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重およびそれを超える過大な軸曲げ方向荷重Fを鑑み適宜設定され得る。また、ハブ軸1の軸部10の連接部13は、過大な軸曲げ方向荷重Fを許容する軸径に設定されている。また、補助ブラケット70(脆弱部)のフランジ部74は、周方向の少なくとも一箇所に構成されるものである。そのため、支持体側フランジ部48の全てに構成されるものでも良いし、一箇所のみに構成されるものでも良い。
【0030】
[第1の実施形態の変形例]
次に、第1の実施形態の変形例1を以下に示す。第1の実施形態の補助ブラケット70(脆弱部)は、図3に図示されるようにフランジ部74が支持体側フランジ部48が構成される位置にのみ環状部72から突出する構成を示した。ここで、変形例1における補助ブラケット701は、図4に図示されるようにフランジ部741が周方向の全周に環状部72から突出される構成されている。ハブ軸1に入力される過大な軸曲げ方向荷重Fを想定して、上記のような構成も考えられる。
【0031】
次に、第1の実施形態の変形例2を以下に示す。変形例2における補助ブラケット702は、図5に図示されるように環状部72が構成されず支持体側フランジ部48が構成される位置にフランジ部742が配設される断面略L字型のブラケットである。外輪部材45の支持体側フランジ部48のうち、所望の一箇所にのみ構成する場合に有効である。
【0032】
このように、第1の実施形態に係る車輪60のハブ軸用軸受装置Aによれば、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際にハブ軸1より先に変形破壊することで、かかる荷重を吸収して和らげ、軸曲げ方向荷重Fに伴う応力がハブ軸1に集中しない構成とすることができる。これにより、ハブ軸1に作用する軸曲げ方向荷重Fのうち、通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際に、ハブ軸1の破損を抑制することができる。また、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)が構成される外輪部材45は、駆動輪及び従動輪いずれにおいても構成されるものであるから、上記構成は駆動輪及び従動輪のいずれにも適用することができる。また、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)が先行破壊することで支持体側フランジ部48が変形する。そうすると、ハブ軸用軸受装置Aは、支持体側フランジ部48との間で正規の取り付け位置を維持できなくなる結果、車輪が正規の取り付け位置を維持できなくなる。すなわち、車両(車輪)のアライメント(例えば、トーイン、キャンバ)が正規位置を維持できず正常な運転が困難となる。これにより、使用者が継続使用しようとしても車輪が正常な方向に向かず、軸受に異常が発生したことを容易に検知することができる。
【0033】
また、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)は、支持体側フランジ部48の付根部78の一部に構成するものである。ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが及ぶとその荷重Fに伴う応力が支持体側フランジ部48の付根部78に集中する。そのため、かかる付根部78に補助ブラケット70、701、702(脆弱部)を設けることでより効果的に補助ブラケット70、701、702(脆弱部)をハブ軸1より先に変形破壊させることができる。
【0034】
また、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)は、相対的に外輪部材45より高硬度な特性を有する。そのため、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)は、通常使用において車輪のハブ軸用軸受装置Aを支持する強度を有する。一方、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)は、相対的に外輪部材45より低靭性な特性を有する。そのため、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際には、ハブ軸1より先に変形破壊する構成とすることができる。
【0035】
また、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)として構成される相対的に外輪部材45より高硬度かつ低靭性の部位は、支持体側フランジ部48と別体の構成である。そのため、補助ブラケット70、701、702(脆弱部)の構成を適宜所望の位置に配設することができる。
【0036】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態を図6にしたがって説明する。図6に図示されるように、車輪60のハブ軸用軸受装置Bが構成されている。なお、ハブ軸用軸受装置Bの基本的な構成は、ハブ軸用軸受装置Aと実質的に同様であるため、同一の構成においては、同一の符号を付して説明を省略する。第1の実施形態においては、外輪部材245に設けられる脆弱部として、補助ブラケットを構成するものについて示した。これに対し、第2の実施形態における脆弱部は、補助ブラケットを構成しないものである。
【0037】
第2の実施形態におけるハブ軸用軸受装置Bの支持体側フランジ部248は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を許容する板厚に構成されている。支持体側フランジ部248には、ボルト孔248aが貫設されている。この支持体側フランジ部248の付根部278の一部の表面に高周波焼入れ270を施してロックウェル硬さ60(HRC60)以上の硬度を有する構成とされている。
【0038】
ここで、アンギュラ玉軸受41(軸受)の玉50、51(転動体)が転動する内輪軌道面18、44と外輪軌道面46、47における熱処理では、軌道面に必要な硬さを維持しつつ、軸受に必要な靭性も備えるために、高周波焼き入れした後、焼き戻しを施す。一方、ハブ軸用軸受装置Bにおける支持体側フランジ部248の付根部278の一部の表面は、高周波焼入れ270のみが施されて硬度のみが向上した状態とされる。焼き戻しを施さないことによって低靭性な特性を有している。これにより、ハブ軸用軸受装置Bにおける支持体側フランジ部248は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を許容する剛性と疲労強度を有する。一方、ハブ軸用軸受装置Bにおける支持体側フランジ部248は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際、支持体側フランジ部248の付根部278にかかる荷重Fに伴う応力が集中して高周波焼入れ270を施した部位が破損(割れる)する構成とされている。これにより、過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際に、高周波焼入れ270を施した部位(脆弱部)がハブ軸1より先に変形破壊して支持体側フランジ部248全体が変形する。
【0039】
このように、第2の実施形態に係る車輪60のハブ軸用軸受装置Bによれば、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、材料変更、重量増加することなく脆弱部を構成することができる。
【0040】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態を図7にしたがって説明する。図7に図示されるように、車輪60のハブ軸用軸受装置Cが構成されている。なお、ハブ軸用軸受装置Cの基本的な構成は、ハブ軸用軸受装置Aと実質的に同様であるため、同一の構成においては、同一の符号を付して説明を省略する。第1の実施形態においては、外輪部材45に設けられる脆弱部として、補助ブラケットを構成するものについて示した。これに対し、第3の実施形態における脆弱部は、補助ブラケットを構成しないものである。
【0041】
第3の実施形態におけるハブ軸用軸受装置Cの支持体側フランジ部348は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を許容する板厚に構成されている。支持体側フランジ部348には、ボルト孔348aが貫設されている。ここで、ハブ軸用軸受装置Cにおける脆弱部は、外輪部材345(外輪)の支持体側フランジ部348を形成する付根部378の位置において、周方向に溝部370を切り欠き形成することで構成されている。これにより、ハブ軸用軸受装置Cにおける支持体側フランジ部348は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を許容する剛性と疲労強度を有する。一方、ハブ軸用軸受装置Cにおける支持体側フランジ部348は、ハブ軸1に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重Fが作用した際、支持体側フランジ部348の付根部378の溝部370にかかる荷重Fに伴う応力が集中してハブ軸1より先に変形破壊する。
【0042】
このように、第3の実施形態に係る車輪60のハブ軸用軸受装置Cによれば、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、支持体側フランジ部348の付根部378の一部に構成される脆弱部は、付根部378を切り欠く溝部370として構成されるものでも良い。これによれば、新たな材料を要することなく脆弱部を設けることができる。また、溝部370は、支持体側フランジ部348の付根部378の一部を切欠く構成であるため重量の増加にもつながらない。すなわち、車輪のハブ軸用軸受装置を構成する外輪部材345に対し、材料変更、重量増加することなく溝部370を構成することができる。また、支持体側フランジ部348は外輪部材345の外周面に構成される部位であるため、溝加工が容易である。
【0043】
以上、本発明の第1の実施形態から第3の実施形態について説明したが、本発明の車輪のハブ軸用軸受装置は、本実施の形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。
例えば、第1の実施形態から第3の実施形態においては、従動輪について説明したが、本発明の車輪のハブ軸用軸受装置は、駆動輪についても適用可能な構成である。例えば、ドライブシャフトの一部を構成する等速自在継手の外側継手部材と、車輪を取付けるためのフランジ部をもったハブ軸と、複列転がり軸受とをユニット化した駆動輪であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
A ハブ軸用軸受装置
1 ハブ軸
10 軸部
11 軸部の大径部
12 軸部の小径部
15 軸部の端軸部
16 軸端凹部
17 かしめ部
18 内輪軌道面
19 シール面
21 車輪側フランジ部
23 フランジ基部
24 ボルト孔
27 ハブボルト
30 嵌合軸部
31 ブレーキロータ用嵌合部
32 車輪用嵌合部
41 アンギュラ玉軸受
42 内輪形成環状部材
43 内輪形成環状部材の内周面
44 内輪軌道面
45 外輪部材(外輪)
45a 外輪部材の支持体フランジ部に隣接する外周面
46 外輪軌道面
47 外輪軌道面
48 支持体側フランジ部
48a ボルト孔
49 環状空間
50 玉(転動体)
51 玉(転動体)
52 保持器
53 保持器
55 ブレーキロータ
56 シール部材
58 リップ
60 車輪
62 タイヤ
64 ホイール
70 補助ブラケット(脆弱部)
70a 交差部位
701 補助ブラケット(脆弱部)
702 補助ブラケット(脆弱部)
72 環状部
72a 環状部の内周面
74 フランジ部
741 フランジ部
742 フランジ部
76 孔部
78 付根部
82 ボルト
B ハブ軸用軸受装置
248 支持体側フランジ部
248a ボルト孔
245 外輪部材(外輪)
270 高周波焼入れ(脆弱部)
278 付根部
C ハブ軸用軸受装置
348 支持体側フランジ部
348a ボルト孔
345 外輪部材(外輪)
370 溝部(脆弱部)
378 付根部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を取付けることのできる車輪側フランジ部を一体に形成したハブ軸の軸部が軸受を介して支持体に支承される車輪のハブ軸用軸受装置であって、
前記ハブ軸の軸部の軸受は、内輪軌道面が形成される内輪と、該内輪に形成される内輪軌道面に対応して外輪軌道面が形成される外輪と、前記内輪の内輪軌道面と前記外輪の外輪軌道面との間に転動可能に配設される転動体を有しており、
前記外輪の外周面には、前記支持体に取り付けるための支持体側フランジ部が一体に形成されており、
該支持体側フランジ部には、前記ハブ軸に作用する軸曲げ方向に対する強度が該ハブ軸の強度よりも弱い強度の脆弱部となる部位が周方向の少なくとも一箇所に構成されており、
該脆弱部は、前記ハブ軸に通常使用時に入力される荷重を超える過大な軸曲げ方向荷重が作用した際に該ハブ軸より先に変形破壊することを特徴とする車輪のハブ軸用軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪のハブ軸用軸受装置であって、
前記支持体側フランジ部に構成される脆弱部は、前記支持体側フランジ部の付根部の一部に構成されていることを特徴とする車輪のハブ軸用軸受装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車輪のハブ軸用軸受装置であって、
前記支持体側フランジ部に構成される脆弱部は、相対的に前記外輪より高硬度かつ低靭性の部位が構成されることを特徴とする車輪のハブ軸用軸受装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車輪のハブ軸用軸受装置であって、
前記相対的に外輪より高硬度かつ低靭性の部位は、前記支持体側フランジ部と別体の構成であることを特徴とする車輪のハブ軸用軸受装置。
【請求項5】
請求項2に記載の車輪のハブ軸用軸受装置であって、
前記支持体側フランジ部の付根部の一部に構成される脆弱部は、前記付根部を切り欠く溝部として構成されることを特徴とする車輪のハブ軸用軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−224145(P2012−224145A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91890(P2011−91890)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】