軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材
【課題】高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても優れた折り曲げ性を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材を提供する。
【解決手段】Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【解決手段】Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い導電性を備え、かつ軟質材においても優れた折り曲げ性を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の科学技術の発展に伴い、電気をエネルギー源や信号源とする機材は増加の一途をたどっている。そして、それらの機材の中には導線が用いられている。その導線に用いられる素材としては、銅、銀などの導電率の高い金属が用いられ、とりわけ、コスト面などを考慮し、銅線が極めて多く用いられている。
【0003】
銅の種類としては、その分子の配列などに応じて、大きく分けて、硬質銅と軟質銅に分けられる。そして利用目的に応じて所望の性質を有する種類の銅が用いられている。
【0004】
電子機器においては、より多機能に、より高速に、より小型に発展してきており、機器内部に収められる配線材にも細径化による小型化が求められている。
【0005】
また、配線材には細径化による小型化以外にも、より狭いスペースを取り回すために、より小さな曲率半径や、耐折り曲げ性が求められている。耐折り曲げ性として、軟らかい導体、折り曲げても切れない導体が求められている。
【0006】
その一方で、細径化すると、導体の抵抗が高くなるため、エネルギーロスや信号の損失という形で問題が現れる。そのため、配線材には高い導電性が求められている。
【0007】
また、エネルギーとしての電気を搬送するための導体として、たとえば太陽電池用の平角導体が挙げられる。太陽電池は電池のセル、それらを組み合わせたモジュールから発電された電気を取り出すために平角導体(バスバー)が用いられている。このバスバーの素材には、導体として高い導電性が求められるのは当然であるが、セル材質として用いられるシリコンとの熱膨張差によるセルの破壊を防ぐためにも、やわらかい導体が求められる。さらに、受光面積を最大化させるために、配線の取り回し性として、耐折り曲げ性が求められている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0008】
たとえば、特許文献1には、引張強さ、伸び及び導電率が良好な耐屈曲ケーブル用導体が提案され、特に純度99.99wt%以上の無酸素銅に、純度99.99wt%以上のインジウムを0.05〜0.70mass%、純度99.9wt%以上のリンを0.0001〜0.003mass%の濃度範囲で含有させてなる銅合金を線材に形成した耐屈曲ケーブル用導体について記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、インジウムが0.1〜1.0wt%、硼素が0.01〜0.1wt%、残部が銅からなる耐屈曲性銅合金線について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−363668号公報
【特許文献2】特開平9−256084号公報
【特許文献3】特開2010−265511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1は、あくまでも硬質導線に関するものであり、耐折り曲げ性に関する具体的な評価はなされておらず、耐折り曲げ性に優れる軟質銅線についての検討は何等なされていない。また、添加元素の量が多いため、導電性が低下してしまう。よって、軟質銅線に関しては、まだまだ十分に検討がなされたとはいえない。また、特許文献2は、軟質銅線に関するものであるが、特許文献1と同様に、添加元素の添加量が多いため、導電性が低下してしまう。
【0012】
一方で原料となる銅材料として無酸素銅(OFC)などの高導電性銅材を選択することで、高い導電性を確保することが考えられる。
【0013】
このOFCを原料とし、導電性を維持すべく他の元素を添加せずに使用した場合には、銅荒引線の加工度を上げて伸線することにより、OFC線内部の結晶組織を細かくすることによって、耐折り曲げ性を向上させるという考え方もあるが、この場合には伸線加工による加工硬化により硬質銅材としての用途には適しているが、軟質銅材への適用ができないという問題がある。
【0014】
一般に金属を折り曲げると、折り曲げた部分のうち外側には引張応力が、内側には圧縮応力がかかる。かかる応力は、曲げる角度が大きくなるほど、また線径、板厚が大きくなるほど大きくなる。金属は塑性変形することにより、構成する格子に欠陥が入り、その密度が上昇することで変形しにくくなることが知られている。折り曲げによって応力が加わることで、変形が起こりにくい、つまり加工による硬化が起こり、それが変形に耐えられなくなるところで破断が起こる。
【0015】
よって、耐折り曲げ性を上げるためには、軟質銅材でなければならない。
【0016】
また、格子の欠陥を移動しやすくするためには粒子が細かいほうが良いが、軟質銅材の場合、焼鈍や再結晶化という粒子を大きくするプロセスを経るため、粒子を細かくすることができず、耐折り曲げ性を上げることができないという問題がある。
【0017】
本発明者等は、特許文献3で、連続鋳造圧延法などで製造でき、かつ導電性と伸び特性を純銅レベルに保持しつつ、強度を純銅レベルよりも高めた、高い導電性を備えた希薄銅合金材料を提案した。
【0018】
しかし、この特許文献3では、希薄銅合金材料を配線材や板材として使用したときの折り曲げ性については考慮されていない。
【0019】
そこで、本発明の目的は、高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても優れた折り曲げ性を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0021】
また、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の表面組織が少なくともその表面から内部に向けて線径の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0022】
前記配線材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることが好ましい。
【0023】
前記軟質希薄銅合金線は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiを含むものであることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた板材である。
【0025】
さらに、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から内部に向けて板厚の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有する軟質希薄銅合金を用いた板材である。
【0026】
前記板材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることが好ましい。
【0027】
前記軟質希薄銅合金は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiとを含むものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従来のOFC素材、タフピッチ銅(TPC)素材に比べて高い導電率を備え、かつ従来のOFC素材に比べて優れた折り曲げ性を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材を提供できるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明における実施材Dの幅方向の断面組織を示す図である。
【図2】比較材Dの幅方向の断面組織を示す図である。
【図3】本発明において、表層における平均結晶粒サイズの測定方法の概要図である。
【図4】本発明における実施材Eの幅方向の断面組織を示す図である。
【図5】比較材Eの幅方向の断面組織を示す図である。
【図6】本発明における実施材E1の銅線の断面組織を示す図である。
【図7】本発明における実施材E2の銅線の断面組織を示す図である。
【図8】比較材Eの銅線の断面組織を示す図である。
【図9】本発明において、屈曲疲労試験の概要を示す図である。
【図10】本発明の実施材Bと比較材Bの屈曲特性を示す図である。
【図11】本発明の実施材Cと比較例Cの屈曲特性を示す図である。
【図12】本発明において、平面方向45°で折ることで配線方向を直角に曲げたバスバーを示す図である。
【図13】本発明において、垂直方向に180°曲げを施したバスバーを示す図である。
【図14】本発明において、水平方向に90°曲げを施したバスバーを示す図である。
【図15】本発明における実施材Fの幅方向の断面組織を示す図である。
【図16】比較材Fの幅方向の断面組織を示す図である。
【図17】実施材Fと比較材Fの表層における平均結晶粒サイズの測定方法の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0031】
本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から線径の50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0032】
また、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の表面組織が少なくともその表面から内部に向けて線径の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0033】
先ず本発明の希薄銅合金を用いた配線材及び板材に使用する導体の構成について説明する。
【0034】
(1)添加元素について
本発明の配線材及び板材に使用する導体は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅および不可避的不純物である軟質希薄銅合金材料である。
【0035】
添加元素としてTi、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、及びCrからなる群から選択される元素を選択した理由は、これらの元素は他の元素と結合しやすい活性元素であり、Sと結合しやすいためSをトラップすることができ、銅母材(マトリクス)を高純度化し、素材の硬さを低下させることができるためである。添加元素は1種類以上含まれていてもよい。また、合金の性質に悪影響を及ぼすことのないその他の元素及び不純物を合金に含有させることもできる。
【0036】
また、以下に説明する好適な実施の形態においては、酸素含有量が2mass ppmを超え30mass ppm以下が良好であることを説明しているが、添加元素の添加量及びSの含有量によっては、合金の性質を備える範囲において、2mass ppmを超え400mass ppmを含むことができる。
【0037】
(2)組成比率について
配線材及び板材としての導体は、例えば、導電率98%IACS(万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)以上、抵抗率1.7241×10-8Ωmを100%とした場合の導電率)、好ましくは100%IACS以上、より好ましくは102%IACS以上を満足する軟質型銅材としての軟質希薄銅合金材料を用いて構成されるのが好ましい。
【0038】
導電率が98%IACS以上の軟質銅材を得る場合、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、3〜12mass ppmの硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4〜55mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用い、この軟質希薄銅合金材料からワイヤロッド(荒引き線)を製造する。
【0039】
ここで、導電率が100%IACS以上の軟質銅材を得る場合には、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、2〜12mass ppmの硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4〜37mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いる。
【0040】
また、導電率が102%IACS以上の軟質銅材を得る場合には、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、3〜12mass ppmの硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4〜25mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いる。
【0041】
通常、純銅の工業的製造において、電気銅を製造する際に硫黄が銅の中に取り込まれるので、硫黄を3mass ppm以下にすることは困難である。汎用電気銅の硫黄濃度の上限は、12mass ppmである。
【0042】
2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0043】
酸素濃度が低い場合、配線材、板材に使用する導体の硬度が低下しにくいので、酸素濃度は2mass ppmを超える量に制御する。また、酸素濃度が高い場合、熱間圧延工程で導体の表面に傷が生じやすくなるので、30mass ppm以下に制御する。
【0044】
(3)配線材、板材の結晶組織について
本発明に係る配線材、板材は、少なくとも表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である。
【0045】
表層の平均結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が粒界ごとに変わるため、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制し、屈曲疲労寿命を延ばすことができると考えられ、大きな曲げ歪みに対する耐性、つまり耐折り曲げ性も向上させることができるものと考えられる。
【0046】
また、表層に微細な結晶が存在することで、伸びの向上が期待できるためである。この理由として、引張り変形により粒界近傍に導入される局所ひずみが,結晶粒径が微細なほど小さくなり、粒界応力集中の緩和に寄与し、これに伴い、粒界応力集中が低減して粒界破壊が抑制されると考えられるからである。
【0047】
また、本発明において、少なくとも表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下であるとは、線径の50μmの深さにのみ微細結晶層が存在する構成に限定されるものではなく、本発明の効果を備える限りにおいては、線径の深さ方向の線材の中心部にまで微細結晶層が存在する態様を排除するものではない。
【0048】
また、上記平均結晶粒サイズは直径100μm以上のものについて対応するものであるが、直径100μm以下のものについては線径の50μmの深さまでの表層を測定すると線材の中心部を越えてしまうため不適である。そこで、直径100μm未満の対象物については、その測定箇所を線径の深さ方向の割合で規定し、表面から線径の20%の深さまでの表層における平均結晶粒サイズが15μm以下であるものを対象とした。
【0049】
(4)分散している物質について
本発明に係る配線材、板材内に分散している分散粒子のサイズは小さいことが好ましく、また、配線材、板材内に分散粒子が多く分散していることが好ましい。その理由は、分散粒子は、硫黄の析出サイトとしての機能を有するからであり、析出サイトとしてはサイズが小さく、数が多いことが要求され、ひいては分散粒子の形成及び分散粒子への硫黄の析出は、銅母材のマトリックスの純度を向上させ、材料硬さの低減に寄与するからである。
【0050】
具体的には、配線材、板材に含まれる硫黄及びチタンは、TiO、TiO2、TiS、若しくはTi−O−S結合を有する化合物又はTiO、TiO2、TiS、若しくはTi−O−S結合を有する化合物の凝集物として含まれ、残部のTi及びSが固溶体として含まれる。
【0051】
(本実施の形態に係る配線材の製造方法)
本実施の形態に係る配線材の製造方法は以下のとおりである。例として、Tiを添加元素に選択した場合を説明する。
【0052】
まず、配線材の原料としてのTiを含む軟質希薄銅合金材料を準備する(原料準備工程)。
【0053】
次に、この軟質希薄銅合金材料を1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で溶湯にする(溶湯製造工程)。
【0054】
この溶湯からワイヤロッドを作製する(ワイヤロッド作製工程)。
【0055】
続いて、ワイヤロッドに880℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を施す(熱間圧延工程)。
【0056】
更に、熱間圧延工程を経たワイヤロッドに伸線加工および熱処理を施す(伸線加工、熱処理工程)。
【0057】
熱処理方法としては、管状炉を用いた走行焼鈍や、抵抗発熱を利用した通電焼鈍などが適用できる。その他、バッチ式の焼鈍も可能である。
【0058】
以上により、本実施の形態に係る配線材、板材が製造される。
【0059】
また、この配線材、板材の製造には、上述した2mass ppm以上12mass ppm以下の硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4mass ppm以上55mass ppm以下のチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いるのが好ましい。
【0060】
本実施の形態に係る配線材に使用する導体は、SCR連続鋳造設備を用い、表面の傷が少なく、製造範囲が広く、安定生産が可能である。
【0061】
SCR連続鋳造圧延により、鋳塊ロッドの加工度が90%(30mm)〜99.8%(5mm)でワイヤロッドを作製する。一例として、加工度99.3%でφ8mmのワイヤロッドを製造する条件を採用する。
【0062】
溶解炉内での溶銅温度は1100℃以上1320℃以下に制御することが好ましい。溶銅の温度が高いとブローホールが多くなり、傷が発生すると共に粒子サイズが大きくなる傾向にあるので1320℃以下に制御する。また、1100℃以上に制御する理由は、銅が固まりやすく、製造が安定しないことが理由であるものの、溶銅温度は可能な限り低い温度が望ましい。
【0063】
熱間圧延加工の温度は、最初の圧延ロールにおける温度を880℃以下に制御すると共に、最終圧延ロールでの温度を550℃以上に制御することが好ましい。
【0064】
これらの鋳造条件は、通常の純銅の製造条件と異なり、溶銅中での硫黄の晶出及び熱間圧延中における硫黄の析出の駆動力である固溶限をより小さくすることを目的としているものである。
【0065】
また、通常の熱間圧延加工における温度は、最初の圧延ロールにおいて950℃以下、最終圧延ロールにおいて600℃以上であるが、固溶限をより小さくすることを目的として、本実施の形態では、最初の圧延ロールにおいて880℃以下、最終圧延ロールにおいて550℃以上に設定することが望ましい。
【0066】
なお、最終圧延ロールにおける温度を550℃以上に設定する理由は、550℃未満の温度では得られるワイヤロッドの傷が多くなり、製造される導体を製品として扱うことができないからである。熱間圧延加工における温度は、最初の圧延ロールにおいて880℃以下の温度、最終圧延ロールにおいて550℃以上の温度に制御すると共に、可能な限り低い温度であることが好ましい。このような温度設定にすることで、導体のマトリックスの硬さを、高純度銅(5N以上)の硬さに近づけることができる。
【0067】
ベース材の銅は、シャフト炉で溶解された後、還元状態で樋に流すことが好ましい。すなわち、還元ガス(例えば、CO)雰囲気下において、希薄合金の硫黄濃度、チタン濃度、及び酸素濃度を制御しつつ鋳造すると共に、材料に圧延加工を施すことにより、ワイヤロッドを安定的に製造することが好ましい。なお、銅酸化物が混入すること、及び/又は粒子サイズが所定サイズより大きいことは、製造される導体の品質を低下させる。
【0068】
以上より、無酸素銅(OFC)やタフピッチ銅(TPC)の導体に比してより軟らかい軟質希薄銅合金材料を、本実施の形態に係る配線材、板材の原料として得ることができる。
【0069】
次に、熱間圧延工程を経たワイヤロッドに、伸線加工を施して配線材、板材とし、その伸線加工した配線材、板材に、400℃以上、750℃以下、1時間±20分の熱処理を施すことで、表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下の結晶組織とすることができ、これにより配線材、板材を優れた折り曲げ性を有するものとすることが可能となる。
【0070】
なお、配線材、板材の表面にめっき層を形成することもできる。更に、配線材、板材の形状は、特に限定されず、断面丸形状、棒状、又は平角導体状にすることができる。
【0071】
また、本実施の形態では、SCR連続鋳造圧延法によりワイヤロッドを作製すると共に、熱間圧延にて軟質材を作製したが、双ロール式連続鋳造圧延法又はプロペルチ式連続鋳造圧延法を採用することもできる。
【実施例】
【0072】
(軟質希薄銅合金素材)
まず、実験材1として、酸素濃度7mass ppm〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppm、チタン濃度13mass ppmを有するφ8mmの銅線(ワイヤロッド、加工度99.3%)を作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鋳造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの間に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作製した。
【0073】
この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作製したものである。
【0074】
次に、各実験材1に冷間伸線加工を施した。これにより、φ2.6mmサイズの銅線を作製した。
【0075】
このφ2.6mmサイズの銅線を用いて、まずは本発明の実施の形態に係る導体の特性を検証した。
【0076】
(軟質希薄銅合金線の軟質特性および耐折り曲げ特性についての検討)
表1は、無酸素銅線を用いた比較材Aと、低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材Aとを試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したもののビッカース硬さ(Hv)を検証した結果である。
【0077】
【表1】
【0078】
実施材Aは、上記の実験材1に記載した合金組成と同じものを使用した。なお、試料としては、φ2.6mmの試料を用いた。この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材Aと実施材Aとのビッカース硬さ(Hv)は同等レベルとなり、焼鈍温度が600℃でも同等のビッカース硬さ(Hv)を示している。
【0079】
このことから、本発明の軟質希薄銅合金線は十分な軟質特性を有するとともに、無酸素銅線と比較しても、特に焼鈍温度が400℃を超える領域においては優れた軟質特性を備えていることがわかる。
【0080】
つぎに、本発明に係る軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材は、折り曲げに優れることが要求されるため、屈曲疲労試験により、屈曲寿命から耐折り曲げ性の評価を行った。
【0081】
屈曲疲労試験は、荷重を負荷し、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。
【0082】
屈曲疲労試験は図9に示す様に、屈曲ヘッド1を用いて行う。試料2は、(A)のように曲げ治具3(リング)の間にセットし、クランプ4で把持し、荷重Wを負荷したまま、(B)のように屈曲ヘッド1が90度回転し曲げを与える。この操作で、曲げ治具3に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷される。その後、再び(A)の状態に戻る。次に(B)に示した向きと反対方向に90度回転し曲げを与える。この場合も、曲げ治具3に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷され(C)の状態になる。そして(C)から最初の状態(A)に戻る。この屈曲疲労1サイクル(A)(B)(A)(C)(A)に要する時間は4秒である。表面曲げ歪は以下の式により求めることができる。
表面曲げ歪(%)=r/(R+r)×100(%)
R:素線曲げ半径(30mm)、r=素線半径
【0083】
耐折り曲げ性は、表面曲げ歪みが自己径による曲げ、つまり前式における素線曲げ半径が素線半径と等しくなる時の値で、表面曲げ歪み50%以上になったときの屈曲回数から検討することが可能である。よって、後述する試験結果を上方向に外挿し、表面曲げ歪み50%の時の値から求めることができる。
【0084】
図10に、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍を施したものの結果を示す。試料として、無酸素銅線を用いた比較材Bと、実施材Bとして実験材1と同様の成分組成のものを用いた。
【0085】
その結果、本発明に係る実施材Bは比較材Bに比して高い屈曲寿命を示した。
【0086】
また、図11に、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍を施したものの結果を示す。試料として、無酸素銅線を用いた比較材Cと、実施材Cとして実験材1と同様の成分組成のものを使用した。この場合も、本発明に係る実施材Cは比較材Cに比して高い屈曲寿命を示した。
【0087】
この結果から同じ曲げ歪を与えたときには、実施材B、Cのほうが、比較材B、Cよりも屈曲回数が多くなることから、耐折り曲げ性についても、本発明に係る実施材B、Cの方が良好であることが明らかである。
【0088】
[軟質希薄銅合金素材の結晶構造および耐折曲げ性についての検討]
実験材1を焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行って実施材Dとし、無酸素銅線を焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行って比較材Dとし、その断面方向の結晶組織を顕微鏡観察した。
【0089】
図1は、実施材Dの試料の幅方向の断面組織の写真を表した、実施材Dの結晶構造を示し、図2は、比較材Dの幅方向の断面組織の写真を表した、比較材Dの結晶構造を示す。
【0090】
これをみると、比較材Dの結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。
【0091】
これに対し、実施材Dの結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、特筆すべきは、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることである。
【0092】
発明者らは、比較材Dには形成されていない、表層に現れた微細結晶粒層が実施材Dの伸び特性向上および耐折曲げ性の要因になっているものと考えている。
【0093】
このことは、通常であれば、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行えば、比較材Dのように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されるものであると理解されるが、本発明の場合には、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行ってもなお、その表層には微細結晶粒層が残存している。よって、折り曲げを行ったとき、表層の微細結晶によって亀裂の進展が抑えられることが考えられ、その結果、全体の破断にいたることなく折り曲げることができるものと推測される。また、軟質銅材であるために、結晶の伸びに対する耐性も優れていることから、折り曲げ性の良好な軟質希薄銅合金材料が得られたものであると考えられる。
【0094】
そして、図1および図2に示す結晶構造の断面写真をもとに、実施材Dおよび比較材Dの試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。
【0095】
ここに、表層における平均結晶粒サイズの測定方法は、図3に示すように、0.26mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に10μm間隔で50μmの深さまでのところの長さ1mmの線上の範囲での結晶粒サイズを測定した夫々の実測値を平均した値を表層における平均結晶粒サイズとした。
【0096】
測定の結果、比較材Dの表層における平均結晶粒サイズは、50μmであったのに対し、実施材Dの表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で大きく異なっていた。表層の平均結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が粒界ごとに変わるため、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制し、屈曲疲労寿命が延びたと考えられる。この結果、表層の平均結晶粒サイズが小さくなることで、大きな曲げ歪みに対する耐性、つまり耐折り曲げ性も向上したものと考えられる。
【0097】
また、2.6mm径である実施材B、比較材Bの表層における平均結晶粒サイズは、2.6mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に50μmの深さのところの長さ10mmの範囲での結晶粒サイズを測定した。
【0098】
測定の結果、比較材Bの表層における平均結晶粒サイズは、100μmであったのに対し、実施材Bの表層における平均結晶粒サイズは、20μmであった。
【0099】
本発明の効果を奏するものとして、表層の平均結晶粒サイズの上限値としては、20μm以下のものが好ましく、製造上の限界値から5μm以上のものが想定される。
【0100】
以上のことから、本発明による軟質希薄銅合金を用いることにより、例えば、狭い場所に配線を施す場合において、従来材料に比べて、より狭角度の折り曲げや、小さな曲げ半径での敷設が可能である。
【0101】
たとえば、図12のように、板の面方向に対し、45°になるように折り曲げることで、直角に配線できるよう施したバスバー10のような構造を精度よく作製することが可能である。
【0102】
また、図13のように、垂直方向に180°曲げを施したバスバー10や、図14のように、水平方向に90°曲げを施したりするバスバー10の場合においても、精度よく作製することが可能となる。
【0103】
その結果、従来のように角の部分で導体をはんだ付けしたバスバーを使用する必要がなく、また、バスバーやタブ線などの配線材は、敷設の際の折り曲げや繰り返し屈曲箇所のストレス、ダメージに起因する電気的悪影響を緩和できる。
【0104】
図4は、実施材Eの試料の幅方向の断面組織の写真を表した、実施材Eの結晶構造を示し、図5は、比較材Eの幅方向の断面組織の写真を表した、比較材Eの結晶構造を示す。
【0105】
実施材Eは、酸素濃度7mass ppm〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppm、チタン濃度13mass ppmを備える0.26mm径の希薄銅合金線である。この実施材Eは、焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍処理を経て作製される。
【0106】
比較材Eは、無酸素銅(OFC)からなる0.26mm径の線材である。この比較材Eは、焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍処理を経て作製される。
【0107】
[軟質希薄銅合金素材の結晶構造と導電率の関係について]
図4および図5に示すように、比較材Eの結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。これに対し、実施材Eの結晶構造は、表層と内部とで結晶粒の大きさに差があり、表層における結晶粒サイズに比べて内部の結晶粒サイズが極めて大きくなっている。
【0108】
このため、実施材Eは、比較材Eと比べて、電流を流したときに、電子の流れが妨げられることが少なく進むこととなり、電気抵抗が小さくなる。従って、実施材Eは、比較材Eと比べて導電率(%IACS)が大きくなる。
【0109】
このため、銅を焼鈍して結晶組織を再結晶させたときには、実施材Eは、再結晶化が進み易く内部の結晶粒が大きく成長する。
【0110】
つぎに、実施材Eおよび比較材Eの導電率を表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
[軟質希薄銅合金素材の結晶構造と焼鈍温度との関係について]
2.6mm径の無酸素銅線を用いた比較材Eと2.6mm径の低酸素銅(酸素濃度7mass ppm〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppm)に13mass ppmのTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材Eを試料とした。
【0113】
焼鈍温度500℃における実施材E1の銅線の断面写真を示したのが図6である。この図6をみると、銅線の断面全体において微細な結晶組織が形成されており、この微細な結晶組織が耐折曲げ性の向上に寄与しているものと思われる。
【0114】
これに対し、図8に示した焼鈍温度500℃における比較材E1の断面組織は2次再結晶が進んでおり、図6の結晶組織に比して、断面組織中の結晶粒が粗大化している。
【0115】
また、焼鈍温度700℃における実施材E2の銅線の断面写真を示したのが図7である。
【0116】
銅線の断面における表層の結晶粒サイズが、内部における結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることがわかる。内部における結晶組織は2次再結晶が進んでいるものの、外層における微細な結晶粒の層は残存している。
【0117】
これに対して図8に示す比較材E1の断面組織は、表面から中央にかけて全体的に略等しい大きさの結晶粒が均一に並んでおり、断面組織全体において2次再結晶が進行している。
【0118】
このように、焼鈍温度と焼鈍時間とを調節することで線材断面における微細結晶層の占める割合を調節することができ、微細結晶層の占める割合を小さくすれば小さいほど、導体の軟質特性は向上させることができる。
【0119】
以上の通り、実施材Eでは、表層は、微細結晶を残しつつ、一方で内部の結晶粒が大きくなり、軟らかくなるため、より軟質特性が向上させることができる。
【0120】
(0.05mm径の導体結晶構造について)
φ2.6mmサイズの銅線を作製するところまでは、上述した軟質希薄銅合金材料の実施例と同様である。これをφ0.9mmまで伸線加工を施し、通電アニーラにて一旦焼鈍したあと、φ0.05mmまで伸線した。
【0121】
次に、管状炉にて400℃〜600℃×0.8〜4.8秒 走行焼鈍を施し実施材Fの材料とした。比較として、φ0.05mmの4N銅(99.99%以上、OFC(無酸素銅))も同様の加工熱処理条件で作製し比較材Fの材料とした。これらの材料の結晶粒サイズを測定した。
【0122】
図16は、比較材Fに係る試料の幅方向の断面組織を示し、図15(a)、(b)は、実施材Fに係る試料の幅方向の断面組織を示す。
【0123】
図16を参照すると、比較例Fの結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることが分かる。一方、実施材Fの結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっている。
【0124】
本発明者は、比較例Fには形成されていない表層に現れた微細結晶粒層が実施材Fの軟質特性を有し、かつ、引張強さと伸び特性を併せ持つことに寄与しているものと考えている。
【0125】
通常、軟質化を目的とした熱処理を行うと、比較材のように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されると理解される。しかし、本実施材においては、内部に粗大な結晶粒を形成する焼鈍処理を実行しても表層には微細結晶粒層が残存している。したがって、本実施材例では、軟質銅材でありながら引張強さと伸びに優れた軟質希薄銅合金材料が得られたと考えられる。
【0126】
また、図16及び図15に示す結晶構造の断面写真を基に、実施材F及び比較材Fに係る試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。
【0127】
図17は、表層における平均結晶粒サイズの測定方法の概要を示す。
【0128】
図17に示すように、0.05mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に5μm間隔で10μmの深さ、すなわち線径の20%まで深さ、長さ0.25mmの線上の範囲で、結晶粒サイズを測定した。そして、各測定値(実測値)から平均値を求め、この平均値を平均結晶粒サイズにした。
【0129】
測定の結果、比較例Fの表層における平均結晶粒サイズは、22μmであったのに対し、実施材Fの表層における平均結晶粒サイズは、7μm、及び15μmであり、異なっていた。結晶粒サイズが大きいと、結晶粒界に沿って亀裂が進展する。しかし、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展方向が変わるので、進展が抑制される。このことから、実施材Fの耐折曲げ性は、比較材Fよりも優れると考えられる。
【0130】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0131】
1 屈曲ヘッド
2 試料
3 リング
4 クランプ
5、10 バスバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い導電性を備え、かつ軟質材においても優れた折り曲げ性を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の科学技術の発展に伴い、電気をエネルギー源や信号源とする機材は増加の一途をたどっている。そして、それらの機材の中には導線が用いられている。その導線に用いられる素材としては、銅、銀などの導電率の高い金属が用いられ、とりわけ、コスト面などを考慮し、銅線が極めて多く用いられている。
【0003】
銅の種類としては、その分子の配列などに応じて、大きく分けて、硬質銅と軟質銅に分けられる。そして利用目的に応じて所望の性質を有する種類の銅が用いられている。
【0004】
電子機器においては、より多機能に、より高速に、より小型に発展してきており、機器内部に収められる配線材にも細径化による小型化が求められている。
【0005】
また、配線材には細径化による小型化以外にも、より狭いスペースを取り回すために、より小さな曲率半径や、耐折り曲げ性が求められている。耐折り曲げ性として、軟らかい導体、折り曲げても切れない導体が求められている。
【0006】
その一方で、細径化すると、導体の抵抗が高くなるため、エネルギーロスや信号の損失という形で問題が現れる。そのため、配線材には高い導電性が求められている。
【0007】
また、エネルギーとしての電気を搬送するための導体として、たとえば太陽電池用の平角導体が挙げられる。太陽電池は電池のセル、それらを組み合わせたモジュールから発電された電気を取り出すために平角導体(バスバー)が用いられている。このバスバーの素材には、導体として高い導電性が求められるのは当然であるが、セル材質として用いられるシリコンとの熱膨張差によるセルの破壊を防ぐためにも、やわらかい導体が求められる。さらに、受光面積を最大化させるために、配線の取り回し性として、耐折り曲げ性が求められている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0008】
たとえば、特許文献1には、引張強さ、伸び及び導電率が良好な耐屈曲ケーブル用導体が提案され、特に純度99.99wt%以上の無酸素銅に、純度99.99wt%以上のインジウムを0.05〜0.70mass%、純度99.9wt%以上のリンを0.0001〜0.003mass%の濃度範囲で含有させてなる銅合金を線材に形成した耐屈曲ケーブル用導体について記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、インジウムが0.1〜1.0wt%、硼素が0.01〜0.1wt%、残部が銅からなる耐屈曲性銅合金線について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−363668号公報
【特許文献2】特開平9−256084号公報
【特許文献3】特開2010−265511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1は、あくまでも硬質導線に関するものであり、耐折り曲げ性に関する具体的な評価はなされておらず、耐折り曲げ性に優れる軟質銅線についての検討は何等なされていない。また、添加元素の量が多いため、導電性が低下してしまう。よって、軟質銅線に関しては、まだまだ十分に検討がなされたとはいえない。また、特許文献2は、軟質銅線に関するものであるが、特許文献1と同様に、添加元素の添加量が多いため、導電性が低下してしまう。
【0012】
一方で原料となる銅材料として無酸素銅(OFC)などの高導電性銅材を選択することで、高い導電性を確保することが考えられる。
【0013】
このOFCを原料とし、導電性を維持すべく他の元素を添加せずに使用した場合には、銅荒引線の加工度を上げて伸線することにより、OFC線内部の結晶組織を細かくすることによって、耐折り曲げ性を向上させるという考え方もあるが、この場合には伸線加工による加工硬化により硬質銅材としての用途には適しているが、軟質銅材への適用ができないという問題がある。
【0014】
一般に金属を折り曲げると、折り曲げた部分のうち外側には引張応力が、内側には圧縮応力がかかる。かかる応力は、曲げる角度が大きくなるほど、また線径、板厚が大きくなるほど大きくなる。金属は塑性変形することにより、構成する格子に欠陥が入り、その密度が上昇することで変形しにくくなることが知られている。折り曲げによって応力が加わることで、変形が起こりにくい、つまり加工による硬化が起こり、それが変形に耐えられなくなるところで破断が起こる。
【0015】
よって、耐折り曲げ性を上げるためには、軟質銅材でなければならない。
【0016】
また、格子の欠陥を移動しやすくするためには粒子が細かいほうが良いが、軟質銅材の場合、焼鈍や再結晶化という粒子を大きくするプロセスを経るため、粒子を細かくすることができず、耐折り曲げ性を上げることができないという問題がある。
【0017】
本発明者等は、特許文献3で、連続鋳造圧延法などで製造でき、かつ導電性と伸び特性を純銅レベルに保持しつつ、強度を純銅レベルよりも高めた、高い導電性を備えた希薄銅合金材料を提案した。
【0018】
しかし、この特許文献3では、希薄銅合金材料を配線材や板材として使用したときの折り曲げ性については考慮されていない。
【0019】
そこで、本発明の目的は、高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても優れた折り曲げ性を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0021】
また、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の表面組織が少なくともその表面から内部に向けて線径の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0022】
前記配線材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることが好ましい。
【0023】
前記軟質希薄銅合金線は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiを含むものであることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた板材である。
【0025】
さらに、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から内部に向けて板厚の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有する軟質希薄銅合金を用いた板材である。
【0026】
前記板材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることが好ましい。
【0027】
前記軟質希薄銅合金は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiとを含むものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従来のOFC素材、タフピッチ銅(TPC)素材に比べて高い導電率を備え、かつ従来のOFC素材に比べて優れた折り曲げ性を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材を提供できるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明における実施材Dの幅方向の断面組織を示す図である。
【図2】比較材Dの幅方向の断面組織を示す図である。
【図3】本発明において、表層における平均結晶粒サイズの測定方法の概要図である。
【図4】本発明における実施材Eの幅方向の断面組織を示す図である。
【図5】比較材Eの幅方向の断面組織を示す図である。
【図6】本発明における実施材E1の銅線の断面組織を示す図である。
【図7】本発明における実施材E2の銅線の断面組織を示す図である。
【図8】比較材Eの銅線の断面組織を示す図である。
【図9】本発明において、屈曲疲労試験の概要を示す図である。
【図10】本発明の実施材Bと比較材Bの屈曲特性を示す図である。
【図11】本発明の実施材Cと比較例Cの屈曲特性を示す図である。
【図12】本発明において、平面方向45°で折ることで配線方向を直角に曲げたバスバーを示す図である。
【図13】本発明において、垂直方向に180°曲げを施したバスバーを示す図である。
【図14】本発明において、水平方向に90°曲げを施したバスバーを示す図である。
【図15】本発明における実施材Fの幅方向の断面組織を示す図である。
【図16】比較材Fの幅方向の断面組織を示す図である。
【図17】実施材Fと比較材Fの表層における平均結晶粒サイズの測定方法の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0031】
本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から線径の50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0032】
また、本発明は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の表面組織が少なくともその表面から内部に向けて線径の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有する軟質希薄銅合金を用いた配線材である。
【0033】
先ず本発明の希薄銅合金を用いた配線材及び板材に使用する導体の構成について説明する。
【0034】
(1)添加元素について
本発明の配線材及び板材に使用する導体は、Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅および不可避的不純物である軟質希薄銅合金材料である。
【0035】
添加元素としてTi、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、及びCrからなる群から選択される元素を選択した理由は、これらの元素は他の元素と結合しやすい活性元素であり、Sと結合しやすいためSをトラップすることができ、銅母材(マトリクス)を高純度化し、素材の硬さを低下させることができるためである。添加元素は1種類以上含まれていてもよい。また、合金の性質に悪影響を及ぼすことのないその他の元素及び不純物を合金に含有させることもできる。
【0036】
また、以下に説明する好適な実施の形態においては、酸素含有量が2mass ppmを超え30mass ppm以下が良好であることを説明しているが、添加元素の添加量及びSの含有量によっては、合金の性質を備える範囲において、2mass ppmを超え400mass ppmを含むことができる。
【0037】
(2)組成比率について
配線材及び板材としての導体は、例えば、導電率98%IACS(万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)以上、抵抗率1.7241×10-8Ωmを100%とした場合の導電率)、好ましくは100%IACS以上、より好ましくは102%IACS以上を満足する軟質型銅材としての軟質希薄銅合金材料を用いて構成されるのが好ましい。
【0038】
導電率が98%IACS以上の軟質銅材を得る場合、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、3〜12mass ppmの硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4〜55mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用い、この軟質希薄銅合金材料からワイヤロッド(荒引き線)を製造する。
【0039】
ここで、導電率が100%IACS以上の軟質銅材を得る場合には、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、2〜12mass ppmの硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4〜37mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いる。
【0040】
また、導電率が102%IACS以上の軟質銅材を得る場合には、不可避的不純物を含む純銅(ベース素材)として、3〜12mass ppmの硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4〜25mass ppmのチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いる。
【0041】
通常、純銅の工業的製造において、電気銅を製造する際に硫黄が銅の中に取り込まれるので、硫黄を3mass ppm以下にすることは困難である。汎用電気銅の硫黄濃度の上限は、12mass ppmである。
【0042】
2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0043】
酸素濃度が低い場合、配線材、板材に使用する導体の硬度が低下しにくいので、酸素濃度は2mass ppmを超える量に制御する。また、酸素濃度が高い場合、熱間圧延工程で導体の表面に傷が生じやすくなるので、30mass ppm以下に制御する。
【0044】
(3)配線材、板材の結晶組織について
本発明に係る配線材、板材は、少なくとも表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である。
【0045】
表層の平均結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が粒界ごとに変わるため、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制し、屈曲疲労寿命を延ばすことができると考えられ、大きな曲げ歪みに対する耐性、つまり耐折り曲げ性も向上させることができるものと考えられる。
【0046】
また、表層に微細な結晶が存在することで、伸びの向上が期待できるためである。この理由として、引張り変形により粒界近傍に導入される局所ひずみが,結晶粒径が微細なほど小さくなり、粒界応力集中の緩和に寄与し、これに伴い、粒界応力集中が低減して粒界破壊が抑制されると考えられるからである。
【0047】
また、本発明において、少なくとも表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下であるとは、線径の50μmの深さにのみ微細結晶層が存在する構成に限定されるものではなく、本発明の効果を備える限りにおいては、線径の深さ方向の線材の中心部にまで微細結晶層が存在する態様を排除するものではない。
【0048】
また、上記平均結晶粒サイズは直径100μm以上のものについて対応するものであるが、直径100μm以下のものについては線径の50μmの深さまでの表層を測定すると線材の中心部を越えてしまうため不適である。そこで、直径100μm未満の対象物については、その測定箇所を線径の深さ方向の割合で規定し、表面から線径の20%の深さまでの表層における平均結晶粒サイズが15μm以下であるものを対象とした。
【0049】
(4)分散している物質について
本発明に係る配線材、板材内に分散している分散粒子のサイズは小さいことが好ましく、また、配線材、板材内に分散粒子が多く分散していることが好ましい。その理由は、分散粒子は、硫黄の析出サイトとしての機能を有するからであり、析出サイトとしてはサイズが小さく、数が多いことが要求され、ひいては分散粒子の形成及び分散粒子への硫黄の析出は、銅母材のマトリックスの純度を向上させ、材料硬さの低減に寄与するからである。
【0050】
具体的には、配線材、板材に含まれる硫黄及びチタンは、TiO、TiO2、TiS、若しくはTi−O−S結合を有する化合物又はTiO、TiO2、TiS、若しくはTi−O−S結合を有する化合物の凝集物として含まれ、残部のTi及びSが固溶体として含まれる。
【0051】
(本実施の形態に係る配線材の製造方法)
本実施の形態に係る配線材の製造方法は以下のとおりである。例として、Tiを添加元素に選択した場合を説明する。
【0052】
まず、配線材の原料としてのTiを含む軟質希薄銅合金材料を準備する(原料準備工程)。
【0053】
次に、この軟質希薄銅合金材料を1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で溶湯にする(溶湯製造工程)。
【0054】
この溶湯からワイヤロッドを作製する(ワイヤロッド作製工程)。
【0055】
続いて、ワイヤロッドに880℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を施す(熱間圧延工程)。
【0056】
更に、熱間圧延工程を経たワイヤロッドに伸線加工および熱処理を施す(伸線加工、熱処理工程)。
【0057】
熱処理方法としては、管状炉を用いた走行焼鈍や、抵抗発熱を利用した通電焼鈍などが適用できる。その他、バッチ式の焼鈍も可能である。
【0058】
以上により、本実施の形態に係る配線材、板材が製造される。
【0059】
また、この配線材、板材の製造には、上述した2mass ppm以上12mass ppm以下の硫黄と、2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素と、4mass ppm以上55mass ppm以下のチタンとを含む軟質希薄銅合金材料を用いるのが好ましい。
【0060】
本実施の形態に係る配線材に使用する導体は、SCR連続鋳造設備を用い、表面の傷が少なく、製造範囲が広く、安定生産が可能である。
【0061】
SCR連続鋳造圧延により、鋳塊ロッドの加工度が90%(30mm)〜99.8%(5mm)でワイヤロッドを作製する。一例として、加工度99.3%でφ8mmのワイヤロッドを製造する条件を採用する。
【0062】
溶解炉内での溶銅温度は1100℃以上1320℃以下に制御することが好ましい。溶銅の温度が高いとブローホールが多くなり、傷が発生すると共に粒子サイズが大きくなる傾向にあるので1320℃以下に制御する。また、1100℃以上に制御する理由は、銅が固まりやすく、製造が安定しないことが理由であるものの、溶銅温度は可能な限り低い温度が望ましい。
【0063】
熱間圧延加工の温度は、最初の圧延ロールにおける温度を880℃以下に制御すると共に、最終圧延ロールでの温度を550℃以上に制御することが好ましい。
【0064】
これらの鋳造条件は、通常の純銅の製造条件と異なり、溶銅中での硫黄の晶出及び熱間圧延中における硫黄の析出の駆動力である固溶限をより小さくすることを目的としているものである。
【0065】
また、通常の熱間圧延加工における温度は、最初の圧延ロールにおいて950℃以下、最終圧延ロールにおいて600℃以上であるが、固溶限をより小さくすることを目的として、本実施の形態では、最初の圧延ロールにおいて880℃以下、最終圧延ロールにおいて550℃以上に設定することが望ましい。
【0066】
なお、最終圧延ロールにおける温度を550℃以上に設定する理由は、550℃未満の温度では得られるワイヤロッドの傷が多くなり、製造される導体を製品として扱うことができないからである。熱間圧延加工における温度は、最初の圧延ロールにおいて880℃以下の温度、最終圧延ロールにおいて550℃以上の温度に制御すると共に、可能な限り低い温度であることが好ましい。このような温度設定にすることで、導体のマトリックスの硬さを、高純度銅(5N以上)の硬さに近づけることができる。
【0067】
ベース材の銅は、シャフト炉で溶解された後、還元状態で樋に流すことが好ましい。すなわち、還元ガス(例えば、CO)雰囲気下において、希薄合金の硫黄濃度、チタン濃度、及び酸素濃度を制御しつつ鋳造すると共に、材料に圧延加工を施すことにより、ワイヤロッドを安定的に製造することが好ましい。なお、銅酸化物が混入すること、及び/又は粒子サイズが所定サイズより大きいことは、製造される導体の品質を低下させる。
【0068】
以上より、無酸素銅(OFC)やタフピッチ銅(TPC)の導体に比してより軟らかい軟質希薄銅合金材料を、本実施の形態に係る配線材、板材の原料として得ることができる。
【0069】
次に、熱間圧延工程を経たワイヤロッドに、伸線加工を施して配線材、板材とし、その伸線加工した配線材、板材に、400℃以上、750℃以下、1時間±20分の熱処理を施すことで、表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下の結晶組織とすることができ、これにより配線材、板材を優れた折り曲げ性を有するものとすることが可能となる。
【0070】
なお、配線材、板材の表面にめっき層を形成することもできる。更に、配線材、板材の形状は、特に限定されず、断面丸形状、棒状、又は平角導体状にすることができる。
【0071】
また、本実施の形態では、SCR連続鋳造圧延法によりワイヤロッドを作製すると共に、熱間圧延にて軟質材を作製したが、双ロール式連続鋳造圧延法又はプロペルチ式連続鋳造圧延法を採用することもできる。
【実施例】
【0072】
(軟質希薄銅合金素材)
まず、実験材1として、酸素濃度7mass ppm〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppm、チタン濃度13mass ppmを有するφ8mmの銅線(ワイヤロッド、加工度99.3%)を作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鋳造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの間に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作製した。
【0073】
この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作製したものである。
【0074】
次に、各実験材1に冷間伸線加工を施した。これにより、φ2.6mmサイズの銅線を作製した。
【0075】
このφ2.6mmサイズの銅線を用いて、まずは本発明の実施の形態に係る導体の特性を検証した。
【0076】
(軟質希薄銅合金線の軟質特性および耐折り曲げ特性についての検討)
表1は、無酸素銅線を用いた比較材Aと、低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材Aとを試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したもののビッカース硬さ(Hv)を検証した結果である。
【0077】
【表1】
【0078】
実施材Aは、上記の実験材1に記載した合金組成と同じものを使用した。なお、試料としては、φ2.6mmの試料を用いた。この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材Aと実施材Aとのビッカース硬さ(Hv)は同等レベルとなり、焼鈍温度が600℃でも同等のビッカース硬さ(Hv)を示している。
【0079】
このことから、本発明の軟質希薄銅合金線は十分な軟質特性を有するとともに、無酸素銅線と比較しても、特に焼鈍温度が400℃を超える領域においては優れた軟質特性を備えていることがわかる。
【0080】
つぎに、本発明に係る軟質希薄銅合金を用いた配線材及び板材は、折り曲げに優れることが要求されるため、屈曲疲労試験により、屈曲寿命から耐折り曲げ性の評価を行った。
【0081】
屈曲疲労試験は、荷重を負荷し、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。
【0082】
屈曲疲労試験は図9に示す様に、屈曲ヘッド1を用いて行う。試料2は、(A)のように曲げ治具3(リング)の間にセットし、クランプ4で把持し、荷重Wを負荷したまま、(B)のように屈曲ヘッド1が90度回転し曲げを与える。この操作で、曲げ治具3に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷される。その後、再び(A)の状態に戻る。次に(B)に示した向きと反対方向に90度回転し曲げを与える。この場合も、曲げ治具3に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷され(C)の状態になる。そして(C)から最初の状態(A)に戻る。この屈曲疲労1サイクル(A)(B)(A)(C)(A)に要する時間は4秒である。表面曲げ歪は以下の式により求めることができる。
表面曲げ歪(%)=r/(R+r)×100(%)
R:素線曲げ半径(30mm)、r=素線半径
【0083】
耐折り曲げ性は、表面曲げ歪みが自己径による曲げ、つまり前式における素線曲げ半径が素線半径と等しくなる時の値で、表面曲げ歪み50%以上になったときの屈曲回数から検討することが可能である。よって、後述する試験結果を上方向に外挿し、表面曲げ歪み50%の時の値から求めることができる。
【0084】
図10に、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍を施したものの結果を示す。試料として、無酸素銅線を用いた比較材Bと、実施材Bとして実験材1と同様の成分組成のものを用いた。
【0085】
その結果、本発明に係る実施材Bは比較材Bに比して高い屈曲寿命を示した。
【0086】
また、図11に、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍を施したものの結果を示す。試料として、無酸素銅線を用いた比較材Cと、実施材Cとして実験材1と同様の成分組成のものを使用した。この場合も、本発明に係る実施材Cは比較材Cに比して高い屈曲寿命を示した。
【0087】
この結果から同じ曲げ歪を与えたときには、実施材B、Cのほうが、比較材B、Cよりも屈曲回数が多くなることから、耐折り曲げ性についても、本発明に係る実施材B、Cの方が良好であることが明らかである。
【0088】
[軟質希薄銅合金素材の結晶構造および耐折曲げ性についての検討]
実験材1を焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行って実施材Dとし、無酸素銅線を焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行って比較材Dとし、その断面方向の結晶組織を顕微鏡観察した。
【0089】
図1は、実施材Dの試料の幅方向の断面組織の写真を表した、実施材Dの結晶構造を示し、図2は、比較材Dの幅方向の断面組織の写真を表した、比較材Dの結晶構造を示す。
【0090】
これをみると、比較材Dの結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。
【0091】
これに対し、実施材Dの結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、特筆すべきは、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることである。
【0092】
発明者らは、比較材Dには形成されていない、表層に現れた微細結晶粒層が実施材Dの伸び特性向上および耐折曲げ性の要因になっているものと考えている。
【0093】
このことは、通常であれば、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行えば、比較材Dのように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されるものであると理解されるが、本発明の場合には、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行ってもなお、その表層には微細結晶粒層が残存している。よって、折り曲げを行ったとき、表層の微細結晶によって亀裂の進展が抑えられることが考えられ、その結果、全体の破断にいたることなく折り曲げることができるものと推測される。また、軟質銅材であるために、結晶の伸びに対する耐性も優れていることから、折り曲げ性の良好な軟質希薄銅合金材料が得られたものであると考えられる。
【0094】
そして、図1および図2に示す結晶構造の断面写真をもとに、実施材Dおよび比較材Dの試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。
【0095】
ここに、表層における平均結晶粒サイズの測定方法は、図3に示すように、0.26mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に10μm間隔で50μmの深さまでのところの長さ1mmの線上の範囲での結晶粒サイズを測定した夫々の実測値を平均した値を表層における平均結晶粒サイズとした。
【0096】
測定の結果、比較材Dの表層における平均結晶粒サイズは、50μmであったのに対し、実施材Dの表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で大きく異なっていた。表層の平均結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が粒界ごとに変わるため、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制し、屈曲疲労寿命が延びたと考えられる。この結果、表層の平均結晶粒サイズが小さくなることで、大きな曲げ歪みに対する耐性、つまり耐折り曲げ性も向上したものと考えられる。
【0097】
また、2.6mm径である実施材B、比較材Bの表層における平均結晶粒サイズは、2.6mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に50μmの深さのところの長さ10mmの範囲での結晶粒サイズを測定した。
【0098】
測定の結果、比較材Bの表層における平均結晶粒サイズは、100μmであったのに対し、実施材Bの表層における平均結晶粒サイズは、20μmであった。
【0099】
本発明の効果を奏するものとして、表層の平均結晶粒サイズの上限値としては、20μm以下のものが好ましく、製造上の限界値から5μm以上のものが想定される。
【0100】
以上のことから、本発明による軟質希薄銅合金を用いることにより、例えば、狭い場所に配線を施す場合において、従来材料に比べて、より狭角度の折り曲げや、小さな曲げ半径での敷設が可能である。
【0101】
たとえば、図12のように、板の面方向に対し、45°になるように折り曲げることで、直角に配線できるよう施したバスバー10のような構造を精度よく作製することが可能である。
【0102】
また、図13のように、垂直方向に180°曲げを施したバスバー10や、図14のように、水平方向に90°曲げを施したりするバスバー10の場合においても、精度よく作製することが可能となる。
【0103】
その結果、従来のように角の部分で導体をはんだ付けしたバスバーを使用する必要がなく、また、バスバーやタブ線などの配線材は、敷設の際の折り曲げや繰り返し屈曲箇所のストレス、ダメージに起因する電気的悪影響を緩和できる。
【0104】
図4は、実施材Eの試料の幅方向の断面組織の写真を表した、実施材Eの結晶構造を示し、図5は、比較材Eの幅方向の断面組織の写真を表した、比較材Eの結晶構造を示す。
【0105】
実施材Eは、酸素濃度7mass ppm〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppm、チタン濃度13mass ppmを備える0.26mm径の希薄銅合金線である。この実施材Eは、焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍処理を経て作製される。
【0106】
比較材Eは、無酸素銅(OFC)からなる0.26mm径の線材である。この比較材Eは、焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍処理を経て作製される。
【0107】
[軟質希薄銅合金素材の結晶構造と導電率の関係について]
図4および図5に示すように、比較材Eの結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。これに対し、実施材Eの結晶構造は、表層と内部とで結晶粒の大きさに差があり、表層における結晶粒サイズに比べて内部の結晶粒サイズが極めて大きくなっている。
【0108】
このため、実施材Eは、比較材Eと比べて、電流を流したときに、電子の流れが妨げられることが少なく進むこととなり、電気抵抗が小さくなる。従って、実施材Eは、比較材Eと比べて導電率(%IACS)が大きくなる。
【0109】
このため、銅を焼鈍して結晶組織を再結晶させたときには、実施材Eは、再結晶化が進み易く内部の結晶粒が大きく成長する。
【0110】
つぎに、実施材Eおよび比較材Eの導電率を表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
[軟質希薄銅合金素材の結晶構造と焼鈍温度との関係について]
2.6mm径の無酸素銅線を用いた比較材Eと2.6mm径の低酸素銅(酸素濃度7mass ppm〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppm)に13mass ppmのTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材Eを試料とした。
【0113】
焼鈍温度500℃における実施材E1の銅線の断面写真を示したのが図6である。この図6をみると、銅線の断面全体において微細な結晶組織が形成されており、この微細な結晶組織が耐折曲げ性の向上に寄与しているものと思われる。
【0114】
これに対し、図8に示した焼鈍温度500℃における比較材E1の断面組織は2次再結晶が進んでおり、図6の結晶組織に比して、断面組織中の結晶粒が粗大化している。
【0115】
また、焼鈍温度700℃における実施材E2の銅線の断面写真を示したのが図7である。
【0116】
銅線の断面における表層の結晶粒サイズが、内部における結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることがわかる。内部における結晶組織は2次再結晶が進んでいるものの、外層における微細な結晶粒の層は残存している。
【0117】
これに対して図8に示す比較材E1の断面組織は、表面から中央にかけて全体的に略等しい大きさの結晶粒が均一に並んでおり、断面組織全体において2次再結晶が進行している。
【0118】
このように、焼鈍温度と焼鈍時間とを調節することで線材断面における微細結晶層の占める割合を調節することができ、微細結晶層の占める割合を小さくすれば小さいほど、導体の軟質特性は向上させることができる。
【0119】
以上の通り、実施材Eでは、表層は、微細結晶を残しつつ、一方で内部の結晶粒が大きくなり、軟らかくなるため、より軟質特性が向上させることができる。
【0120】
(0.05mm径の導体結晶構造について)
φ2.6mmサイズの銅線を作製するところまでは、上述した軟質希薄銅合金材料の実施例と同様である。これをφ0.9mmまで伸線加工を施し、通電アニーラにて一旦焼鈍したあと、φ0.05mmまで伸線した。
【0121】
次に、管状炉にて400℃〜600℃×0.8〜4.8秒 走行焼鈍を施し実施材Fの材料とした。比較として、φ0.05mmの4N銅(99.99%以上、OFC(無酸素銅))も同様の加工熱処理条件で作製し比較材Fの材料とした。これらの材料の結晶粒サイズを測定した。
【0122】
図16は、比較材Fに係る試料の幅方向の断面組織を示し、図15(a)、(b)は、実施材Fに係る試料の幅方向の断面組織を示す。
【0123】
図16を参照すると、比較例Fの結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることが分かる。一方、実施材Fの結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっている。
【0124】
本発明者は、比較例Fには形成されていない表層に現れた微細結晶粒層が実施材Fの軟質特性を有し、かつ、引張強さと伸び特性を併せ持つことに寄与しているものと考えている。
【0125】
通常、軟質化を目的とした熱処理を行うと、比較材のように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されると理解される。しかし、本実施材においては、内部に粗大な結晶粒を形成する焼鈍処理を実行しても表層には微細結晶粒層が残存している。したがって、本実施材例では、軟質銅材でありながら引張強さと伸びに優れた軟質希薄銅合金材料が得られたと考えられる。
【0126】
また、図16及び図15に示す結晶構造の断面写真を基に、実施材F及び比較材Fに係る試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。
【0127】
図17は、表層における平均結晶粒サイズの測定方法の概要を示す。
【0128】
図17に示すように、0.05mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に5μm間隔で10μmの深さ、すなわち線径の20%まで深さ、長さ0.25mmの線上の範囲で、結晶粒サイズを測定した。そして、各測定値(実測値)から平均値を求め、この平均値を平均結晶粒サイズにした。
【0129】
測定の結果、比較例Fの表層における平均結晶粒サイズは、22μmであったのに対し、実施材Fの表層における平均結晶粒サイズは、7μm、及び15μmであり、異なっていた。結晶粒サイズが大きいと、結晶粒界に沿って亀裂が進展する。しかし、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展方向が変わるので、進展が抑制される。このことから、実施材Fの耐折曲げ性は、比較材Fよりも優れると考えられる。
【0130】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0131】
1 屈曲ヘッド
2 試料
3 リング
4 クランプ
5、10 バスバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下であることを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項2】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から内部に向けて線径の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有することを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項3】
前記配線材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項4】
前記軟質希薄銅合金は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiとを含むものであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項5】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下であることを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた板材。
【請求項6】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から内部に向けて板厚の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有することを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた板材。
【請求項7】
前記板材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることを特徴とする請求項5または6に記載の軟質希薄銅合金を用いた板材。
【請求項8】
前記軟質希薄銅合金は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiとを含むものであることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載の軟質希薄銅合金を用いた板材。
【請求項1】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下であることを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項2】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する配線材であって、該配線材の結晶組織が少なくともその表面から内部に向けて線径の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有することを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項3】
前記配線材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項4】
前記軟質希薄銅合金は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiとを含むものであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の軟質希薄銅合金を用いた配線材。
【請求項5】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から50μmの深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下であることを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた板材。
【請求項6】
Ti、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が銅からなる軟質希薄銅合金からなり、折り曲げ部を有する板材であって、該板材の結晶組織が少なくともその表面から内部に向けて板厚の20%の深さまでの平均結晶粒サイズが15μm以下である表層を有することを特徴とする軟質希薄銅合金を用いた板材。
【請求項7】
前記板材の結晶組織が、内部では結晶粒サイズが大きく、表層では結晶粒サイズが小さい粒度分布を有する再結晶組織であることを特徴とする請求項5または6に記載の軟質希薄銅合金を用いた板材。
【請求項8】
前記軟質希薄銅合金は、2〜12mass ppmの硫黄と2〜30mass ppmの酸素と4〜55mass ppmのTiとを含むものであることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載の軟質希薄銅合金を用いた板材。
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図15】
【図16】
【図17】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−40384(P2013−40384A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178644(P2011−178644)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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