説明

軟骨修復用人工器官

【要約書】 軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官が記載される。人工器官は、高配向繊維の少なくとも1層、基底成分、及びこれらの間に提供される安定化領域からなる。該繊維は、基底成分に対して垂直方向に50%を超えて配列される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官を対象とする。該人工器官は、関節軟骨置換材料として、及び関節軟骨組織再生用足場として有用である。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨組織は、可動関節を形成する全ての骨端を覆う。弾性組織は、関節において重要な摩擦、潤滑、及び摩耗特性を提供する。更に、緩衝器として作用し、下骨に負荷を分散する。関節軟骨が無いと応力及び摩擦が起こり、関節を動かすことができない。関節軟骨の再生能力は非常に限定されている。この組織が、外傷的事象、又は慢性変性及び進行性変性により損傷、又は損失されると、大抵、有痛性の関節症になり、関節運動の範囲が減少する。
【0003】
関節軟骨の損傷、及び変性に対する治療のための方法がいくつかこの数十年で確立されている。今日の整形外科手術で適用される一般的な技術には、骨軟骨移植、マイクロフラクチャー法、表面密封加熱処理、シェービング、自家軟骨細胞移植(ACT)、又は関節全置換がある。
【0004】
関節置換術では、金属、セラミック及び/又はプラスチック部品が部分的乃至全体的に損傷、又は変性関節の置換に使用され、既に長期間にわたりかなり成功している流儀である。同種移植材料の使用は、ある程度小規模な移植には成功しているが、優れた品質の同種移植片はほとんど無い。
【0005】
骨軟骨移植(即ち、自家骨軟骨移植)、又は自家軟骨細胞移植(ACT)は、関節全置換がまだ必要とされていなければいつでも適用される。これらの方法は、関節の小さな部分的欠損を治療するために使用できる。自家骨軟骨移植では、非加重領域で採取された骨軟骨プラグで欠損が充填される。自家軟骨細胞移植では、軟骨細胞が生検により採取されて体外で培養され、高濃縮の細胞浮遊液が欠損領域を覆う(人工、又は自己の)膜の下に注入される。
【0006】
通例、軟骨組織を永久的に固体の人工挿入物と置換しても対峙する関節接合面が凹凸、又は挿入物の硬さで損傷されるため、十分でなかった。従って移植技術は、関節軟骨置換用の、生体適合性材料などの代用軟骨材料及び構造等の研究を更に進めなければならなかった。
【0007】
例えば、特許文献1は、生体適合性の乾燥多孔性体積マトリクス及び、少なくとも生体吸収性繊維、及び基底成分を含む人工関節軟骨を開示する。該マトリクスは、関節軟骨細胞の内殖、及び本来の関節力の支援に適応した生体吸収性足場を定着させる。有効な繊維は、コラーゲン、レチクリン、エラスチン、セルロース、アルギン酸、キトサン、又はこれらの合成、及び生合成相似器官を含む。繊維は、ほぼ周囲に伸長し、又はほぼ放射状に伸長する方向に整えられる。基底成分は、繊維マトリクスを用いる支持体として提供される。そのような人工器官を骨に確実に配置するために欠損骨の相補的開口に適合するよう構成される。基底成分は、コラーゲン分散体、及びリン酸三カルシウムとヒドロキシアパタイトからなる組成物を含む複合材料である。
【0008】
しかしながら、上記構成の機能は、常に十分ではないことが示されている。既知の人工関節軟骨は、その構造のために、しばしば不安定であるので、よって、膝、及び股関節等の軟骨関節を再度修復するために、別に外科手術を行って関節領域を置換しなければならなかった。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,624,463号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この状況を考慮して、関節軟骨置換材料の分野において、改善された構造安定性を有し、及び骨において的確に位置決めする天然の吸収性材料、又はそれらの相似物からなる、人工関節軟骨として適切な構造が必要とされている。同時に、人工器官は生体力学的に通常の関節力に耐えることができ、軟骨組織、又は軟骨状組織の修復、及び置換を促進できるべきである。
これらの目的は請求項1に記載の人工器官により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも1層の配向繊維を含む層、該繊維を軟骨下環境で固定するための基底成分、及び該繊維の少なくとも1層と該基底成分の間に提供される安定化領域を含む、軟骨又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官に関し、該繊維は、該基底成分の挿入軸に原則的に並行に、即ち、関節面の平面に垂直に配列される。
【0012】
本発明の更なる態様により、軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官は、少なくとも1層の繊維を含む層、該繊維を軟骨下環境で固定するための基底成分、及び繊維と該基底成分の間に提供される安定化領域を含むように提案され、基底成分と繊維の間には細胞境界層が提供される。
従属項は、本発明の人工器官の好適な実施形態に関する。
【0013】
人工関節軟骨の安定化は、上記の少なくとも1層の配向繊維を含む層と該基底成分の間に安定化領域を提供し、及び繊維に面する基底成分の上面に対して通常垂直方向である該繊維の特定配列、例えば、基底成分の挿入軸に対して50%を超えて並列であることで原則的に改善可能であることが意外にも分かっている。安定化領域が「接着成分」として役割を果たすことで基底成分及び繊維を一緒に保持可能である。層における繊維の特定配列は、優れた力学的安定性を提供する軟骨、及び軟骨状組織に完全に似ている。同時に、関節軟骨細胞の内成長の基底が提供され、結果的に迅速な軟骨増殖をもたらし、よって長期間にわたる軟骨置換が保障される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図面から分かるように、繊維(2)は、繊維に面する基底成分(4)の上面に対して原則的に垂直方向に配列される。従って、繊維は、基底成分(4)に対して垂直方向にブラシのような構造を形成する。繊維(2)は、基底成分(4)の上面に対して垂直方向に50%を超えて配列可能である。基底成分(4)に対して垂直方向に90%を超えて配列されることが好ましい。繊維(2)は、配列方向を変更し、ブラシのような構造の最上端に自己組織化し得る。これは、移植後の圧力下で起こり得る。
【0015】
原理上、生体適合性がある限りいずれの材料も繊維(2)に使用可能である。材料は生分解性でもあることが好ましい。構造(2)の安定性を向上するために、繊維材料の一部を架橋してもよい。本発明の好適な実施形態において、繊維(2)は、鉱物材料、合成高分子、合成分子、天然高分子、天然分子、生物工学由来の高分子、若しくは分子、生体高分子、又はこれらの組合せを含む。
【0016】
繊維(2)そのものは、構造に限定されない。構造は、一直線、ひねり、カール、又は三次構造であり得る。これらの組合せも使用可能である。更に、繊維(2)そのものは、直線状、分岐状、又はグラフト状が可能である。
【0017】
本発明により、繊維(2)の形状、及び特徴は、均質であり、又は化学的、物理的組成、及び由来を含む、既に示した様々な形態の各種繊維の組合せからなり得る。繊維間の固定間隔は、広範囲内、即ち、1nmから1mmの間で変化可能であり、好適な繊維間の固定間隔は、1μmから100μmである。間隔は、均一、又は不均一であり得る。不均一間隔の例は、勾配状分布、ランダム分布、特定パターン配列、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0018】
本発明の人工器官の繊維(2)は、任意の長さの単繊維、又は多繊維として提供可能である。繊維配置は、織る、織らない、ねじる、編む、又はこれらの組合せが可能である。必要であれば、繊維(2)の横断面は中実、又は中空でもよい。
【0019】
本発明により、繊維径は、広範囲に変化し得るが、50nmから1mmの範囲が有利に提案され、好ましくは、1μmから250μmの範囲である。
【0020】
本発明によれば、繊維(2)は、人工器官(1)の最終用途次第で、柔構造、又は剛構造であり得る。関節、又は相対する組織の関節接合に適合させる場合、繊維(2)は柔構造を形成すべきである。
【0021】
高配向繊維(2)の層に対して鉱物繊維を使用する場合、ガラス状構造、結晶性構造、又はその組合せを伴う合成鉱物、天然鉱物から選択され得る。
【0022】
繊維材料は、通常均一である。本発明の人工器官(1)の最終用途次第で、繊維材料は不均一でもよく、即ち、多様な材料から選択可能であり、又は上記材料の工学的組合せよりなり得る。
【0023】
しかしながら、時には、繊維(2)は、既に記載した材料の1つ以上で被覆、又はグラフトされる。
【0024】
本発明の各種形態において、繊維材料は、溶媒と相互作用して液体吸収能力を有することが可能である。好ましくは、液体吸収能力は、0.1%から99.9%であり、より好ましくは20.0%から99.0%である。
【0025】
通常、繊維(2)に吸収される液体は、人工器官(1)が移植される位置に存在する水、及び/又は体液である。水、及び/又は体液を吸収する際に、繊維(2)は有利にゲルを形成するか、又はゲル状に変化する。
【0026】
水、及び/又は、体液の摂取により、繊維(2)は膨潤し、従って、繊維成分内で内圧が形成される。圧力は、構造の安定化を助ける。更に、細胞を含む外部から追加された成分は、天然の軟骨として繊維構造内の圧力下で取り込まれる。
【0027】
繊維(2)の1層がよい結果をもたらすことが、既に示された。しかしながら、場合によっては、もちろん、本発明の人工器官(1)の最終用途次第で2、3層の繊維を備えるのが賢明な場合があり得る。多層構造の組立ては、前端―前端、前端―後端、又は後端―後端、及びこれらの組合せが可能である。また、異なる層の間の明らかな接合境界を失くし、連続的な介在集合体とすることも可能である。
【0028】
本発明の人工器官(1)は、更なる本質的な構造成分として、基底成分(4)を含む。基底成分(4)の機能は、繊維(2)を軟骨下環境で固定することである。この軟骨下固定機能は、移植時に人工器官(1)の定位置での保持を支援する。基底成分(4)は、様々な大きさ及び形状が可能である。好ましくは、基底成分(4)の形状は略円筒形又は円錐形である。基底成分(4)の直径は、段階的に、又は連続移行帯内で任意の大きさに変化可能である。実際には、直径は欠損の大きさに対応し2mmから30mm、全高は1mmから30mmの間で変動する。基底成分(4)の上面は、通常、平らであるか、又は置換される軟骨下板、若しくは軟骨表面の形状を模倣する。
【0029】
本発明の人工器官(1)の基底成分(4)の材料は、通常、代用骨として使用される材料であり得る。例えば、材料としては、繊維(2)の材料に関連して上記に記載する材料が挙げられる。必要に応じて、基底成分(4)の材料は合成セラミックである。セラミックは、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、又はこれらの混合物の群の1つ、又はいくつかから選択可能である。
【0030】
人工器官(1)の基底成分(4)がリン酸カルシウムであれば、次の組成物群の1つが好適である:第二リン酸カルシウム(CaHPO・2HO)、無水第二リン酸カルシウム(CaHPO)、α−リン酸三カルシウム(α−Ca(PO)、β−リン酸三カルシウム(β−Ca(PO)、カルシウム欠損ハイドロキシアパタイト(Ca(PO(HPO)OH)、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、炭酸アパタイト(Ca10(PO(CO)(OH))、フルオロアパタイト(Ca10(PO(F,OH))、クロロアパタイト(Ca10(PO(Cl,OH))、ホワイトロッカイト((Ca,Mg)(PO)、リン酸四カルシウム(Ca(POO)、オキシアパタイト(Ca10(POO)、β−ピロリン酸カルシウム(β−Ca(P)、α−ピロリン酸カルシウム、γ−ピロリン酸カルシウム、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)。
【0031】
金属、半金属、及び/又は非金属イオン、好ましくはマグネシウム、珪素、ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、及び/又はリチウムでドープされた、又は混合された上記鉱物材料を有することもできる。
【0032】
本発明の他の好適な実施形態において、基底成分(4)の材料は、鉱物、無機、有機、生物学的、及び/又は生物工学由来の非結晶成分、及び鉱物結晶成分を含む複合材料である。非結晶成分は、しばしば高分子性質である。
【0033】
本発明の好適な実施形態において、基底成分(4)の材料構造は、連続孔を伴う高多孔性である。これにより任意の物質、及び細胞が軟骨下環境で基底成分(4)にそれぞれ拡散、又は移動可能となる。
【0034】
本発明の人工器官(1)の第3成分は、該1層以上の配向繊維含有層と該基底成分(4)の間に提供される安定化領域(3)である。安定化領域(3)は、本発明の人工器官(1)の他の2つの必須要素の間に機械、物理、又は化学結合で提供される。安定化領域(3)の他の機能は、上記の特定のブラシのような配置に配置済みの繊維(2)を安定化し、及び保持することである。これは、例えば、編む、織る、移植する、接着する、埋め込む、又は他の機械的、物理的、若しくは化学的方法で達成可能である。繊維(2)と安定化領域(3)の間の相互作用は、物理的/化学的、静電気の、又は共有結合の化学的性質、又はこれらの組合せからなり得る。
【0035】
本発明の好適な実施形態において、安定化領域(3)は、追加的材料、化学物質、基底成分(4)材料そのもの、繊維そのもの、又はこれらの組合せからなる。本発明の人工器官(1)の最終用途次第で、安定化システム(3)は、繊維(2)の1端、両端、又は2端間のどこかに配置される。
【0036】
安定化領域(3)は、基底成分(4)からブラシのような繊維構造(2)に細胞、及び血液が拡散するのを防ぐための境界としても機能する。しかしながら、多孔性であり、及び/又は選択的に、又は非選択的に細胞の通過が可能となる特定の孔を有する安定化領域(3)を備えることも可能である。
【0037】
本発明の更なる実施形態において、人工器官(1)の安定化領域(3)は、少なくとも1層を含む帯域として提供される。帯域の厚さは、詳細には限定されず、広範囲間、例えば、1nmから1mmの間で変化可能である。
【0038】
本発明の人工器官(1)の他の好適な実施形態において、外部から添加される成分は、高配向繊維(2)の少なくとも1層、基底成分(4)、又は両者のいずれかに含まれる。通常、該成分は、繊維層(2)及び/又は基底成分(4)中に分散される。該成分は、様々な源の細胞であり得る。その機能は、軟骨物質の生成を支援し、人工器官(1)の治癒、一体化、及び機械的性質の向上を強化することである。
【0039】
細胞は、好ましくは、自己細胞、同種異系細胞、外因性細胞、トランスフェクト細胞、及び/又は遺伝子組み換え細胞である。
【0040】
繊維層(2)中に存在可能な特に好適な細胞は、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、多能性細胞、全能性細胞、又はこれらの組合せである。基底成分(4)に含まれる細胞の例は、骨芽細胞、骨前駆細胞、多能性細胞、全能性細胞、及びこれらの組合せが挙げられる。時には、基底成分(4)に血液、又は血液の1部を含むように望むこともできる。
【0041】
他の内部に添加される成分の例は、成長因子、改変ペプチド配列、又は抗生物質を含む医薬組成物が挙げられる。
【0042】
他の内部に添加される成分の例は、タンパク質、グリコアミノグリカン(glycoaminoglycane)、炭水化物、又はポリエチレンオキサイドを含むゲル化組成物である。これらの成分は、遊離成分として追加可能であり、又は洗い出されるのを防ぐために、化学的、物理的、又は取込方法により請求項1の人工器官内で固定化可能である。
【0043】
本発明の人工器官は、人間、及び動物の関節等の欠損、疾病、又は壊死した軟骨部に直接移植可能である。これらの関節の例として、股関節、肘、及び膝関節における軟骨部が挙げられる。通常、外科手術により人工器官が関節へ移植される。例えば、挿入方法は、次の通りである。
第1工程において、欠損領域は清潔にされ、及び骨軟骨プラグがチゼルで取り除かれる。特別な機器により深さ及び幅に合わせて底部、及び壁部を正確に整えることができる。請求項1に記載の人工器官は、基底成分(4)の上端が軟骨及び骨を分ける石灰化帯域と同じ高さになるような位置に注意深く圧入される。繊維層(2)の上面は、周囲の軟骨の高さと均等でなければならない。高差は修正し整えても構わない。
手術は、切開、又は関節鏡視下手術のどちらかで実行される。
【0044】
既に上述の通り、人工器官(1)は、細胞を播種しても、又は追加的な物質、又は細胞を添加してもよい。通常は、当該分野で確立されている方法により試験管で培養した後、細胞の播種が行われる。しかしながら、手術中に患者から細胞を採取し、細胞が清浄された後に足場を播種することも可能である。
【0045】
特別な用途に対して、手術中に請求項1の人工器官を組み立てることも可能である。即ち、基底成分(4)がまず初めに移植され、次に繊維層(2)が安定化層(3)の形成下の基底成分(4)上に固定される。繊維層(2)の高さは、固定化処置、例えば、シェービング、又は熱処理の後に、関節の輪郭に適合される。
【実施例】
【0046】
本発明は、以下の実施例により詳細に説明される。
実施例1
直径5mm、及び高さ10mmの円柱形のβ−リン酸三カルシウム連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及び直径25μmのポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(pHEMA)配向繊維の4mm層をセメント反応によりアンカーに移植される配向繊維層として、人工器官を作製する。pHEMA繊維の垂直配置はランダムであるが、ぎっしり詰まっている。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0047】
適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。移植の第1工程において、チゼルが欠損部位の軟骨、及び骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。続いて、移植片のアンカーが食塩水に浸されてから、人工器官が万能案内具を介して挿入される。繊維層がぴったり適合し、膨潤するため、人工器官を追加的に固定する必要はない。最後に、必要であれば、人工器官の表面が、関節面の正確な湾曲、及び周囲の関節面高さに適合するように表面再生される。
【0048】
実施例2
直径8mm、及び高さ15mmの円柱形のヒドロキシアパタイト連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及び直径1μmから50μmの配向したメチルセルロースの化学的誘導体化繊維の4mm層を配向繊維層として、人工器官を作製する。繊維層は縫込みで得られ、及び包埋によりアンカーに化学的に移植される。メチルセルロースの垂直配置は明確な2次元パターンである。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0049】
適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。移植の第1工程において、チゼルが軟骨、及び欠損部位の骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。続いて、採取した骨髄間質細胞がセラミックアンカーに添加される。次に、人工器官が万能案内具を介して挿入される。繊維層がぴったり適合し、膨潤するため、人工器官を追加的に固定する必要はない。最後に、必要であれば、人工器官の表面が、関節面の正確な湾曲、及び周囲の関節面高さに適合するように表面再生される。
【0050】
実施例3
直径12mm、及び高さ10mmの円柱形のβ−リン酸三カルシウムと硫酸カルシウム組成物の連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及び直径0.5μmから30μmのポリプロピレンとポリエーテルエーテルケトンの高配向繊維の5mm混合層を配向繊維層として、人工器官を作製する。繊維の垂直配置はランダムであるが、ぎっしり詰まっている。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0051】
適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。移植の第1工程において、チゼルが欠損部位の軟骨、及び骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。骨髄間質細胞、及び多血小板血漿がアンカーに添加され、続いて、人工器官が万能案内具を介して挿入される。ぴったり適合するため、人工器官を追加的に固定する必要はない。必要であれば、人工器官の表面が、接合面の正確な湾曲、及び周囲の関節面高さに適合するように表面再生される。
【0052】
実施例4
直径30mm、及び高さ25mmの凸面湾曲している円柱形のβ−リン酸三カルシウム連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及び直径約10μmのプルロニック(R)高配向繊維の6mm層を配向繊維層として、人工器官を作製する。繊維の垂直配置はランダムであるが、繊維の5%から80%が最近隣の繊維と架橋する。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0053】
適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。移植の第1工程において、チゼルが欠損部位の軟骨、及び骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。多血小板血漿がアンカーに添加され、続いて、人工器官が万能案内具を介して挿入される。繊維層がぴったり適合し、膨潤挙動のため、人工器官を追加的に固定する必要はない。人工器官の表面は、最終的に関節面の正確な湾曲、及び周囲の関節面高さに適合するように表面再生される。
【0054】
実施例5
直径8mm、及び高さ10mmの円柱形のβ−リン酸三カルシウム連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及び直径1μmから30μmのアルギン酸塩高配向繊維の3mm層を配向繊維層として、人工器官を作製する。繊維の垂直配置はランダムであるが、繊維の50%から95%が最近隣の繊維と架橋する。層の繊維は繊維層とアンカーの間の境界として機能するセラミック層に包埋される。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0055】
適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。移植の第1工程において、チゼルが欠損部位の軟骨、及び骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。骨髄間質細胞がアンカーに添加され、続いて、人工器官が万能案内具を介して挿入される。ぴったり適合するため、人工器官を追加的に固定する必要はない。必要であれば、人工器官の表面は、最終的に接合面の正確な湾曲、及び周囲の関節面高さに適合するように表面再生される。最終的に、軟骨細胞が細胞浮遊液として層に添加される。
【0056】
実施例6
直径4mm、及び高さ5mmの円柱形のカルシウム欠損ハイドロキシアパタイト(CDHA)連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及び直径0.5μmから50μmの高配向キトサン繊維の3mm層を配向繊維層として、人工器官を作製する。繊維の垂直配置はランダムである。層の繊維は繊維層とアンカーの間の選択的境界として機能するセラミック層に包埋される。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0057】
適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。移植の第1工程において、チゼルが欠損部位の軟骨、及び骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。骨髄間質細胞がアンカーに追加され、続いて、人工器官が万能案内具を介して挿入される。ぴったり適合するため、人工器官を追加的に固定する必要はない。必要であれば、人工器官の表面は、最終的に関節面の正確な湾曲、及び周囲の関節面高さに適合するように表面再生される。
【0058】
実施例7
直径10mm、及び高さ10mmの円柱形のβ−リン酸三カルシウム連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及び直径が最大50μmのポリエチレングリコール(PEG)高配向繊維の3mm層を配向繊維層として、人工器官を作製する繊維の垂直配置は、所定のパターンに準じる。繊維の約50%が最近隣の繊維と架橋する。層の繊維は繊維層とアンカーの間の境界として機能するセラミック層に包埋される。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0059】
適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。移植の第1工程において、チゼルが欠損部位の軟骨、及び骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。骨髄間質細胞がアンカーに添加され、続いて、人工器官が万能案内具を介して挿入される。ぴったり適合するため、人工器官を追加的に固定する必要はない。必要であれば、人工器官の表面は、最終的に関節面の正確な湾曲、及び周囲の関節面高さに適合するように表面再生される。最終的に、軟骨細胞が浮遊細胞液として繊維層に添加される。
【0060】
実施例8
直径4mm、及び高さ5mmの円柱形のカルシウム欠損ハイドロキシアパタイト連続多孔質体を軟骨下アンカー(subchondral anchor)として、及びヒアルロン酸繊維をコラーゲン繊維と混合した、どちらの材料も直径が0.1μmから25μmの高配向繊維の3mm層を配向繊維層として、人工器官を作製する。繊維の垂直配置はランダムであるが、繊維の約70%から100%が架橋する。層の繊維は繊維層とアンカーの間の選択的境界として機能するセラミック層に包埋される。得られる人工器官は、軟骨修復用の理想的な移植片である。
【0061】
自家軟骨細胞が層に追加され、人工器官が試験管で予備培養される。移植のため、適切な大きさの管状チゼルが、関節の欠損部位に垂直に導入される。チゼルが欠損部位の軟骨、及び骨基部に入り込む。欠損寸法は人工器官の特定の規模に対応する深さ、及び直径に整えられる。多血小板血漿がアンカーに添加され、続いて、人工器官が特別な案内具を介して挿入される。ぴったり適合するため、人工器官を追加的に固定する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
発明を実施するための最良の形態以降の記載を、本発明の人工器官の実施形態を示す断面図である添付の図面と一緒に読むことで、本発明に対する理解を深めることができる。
【図1】図面は、本発明を具象化する人工器官(1)の好適な形態を示す。人工器官(1)は、生体適合性、及び/又は少なくとも部分的に吸収性がある材料の配向繊維(2)を少なくとも1層含む層、安定化領域(3)、及び骨置換材料の基底成分(4)を含む。
【符号の説明】
【0063】
1 人工器官
2 繊維
3 安定化領域
4 基底成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官(1)であって、
少なくとも部分的な配向繊維(2)を含む少なくとも1層、
前記繊維(2)の少なくとも1層を軟骨下環境で固定するための基底成分(4)、及び
前記繊維(2)を含む少なくとも1層と前記基底成分(4)の間に提供される安定化領域(3)
を含み、前記繊維(2)は、人工器官の挿入軸に原則的に並行に配列されることを特徴とする軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官(1)。
【請求項2】
前記繊維(2)は、50%を超えて、好ましくは、90%を超えて配列される請求項1に記載の人工器官。
【請求項3】
前記繊維材料(2)は、鉱物、合成高分子、合成分子、天然高分子、天然分子、生物工学由来の高分子、若しくは分子、生体高分子、又はこれらの組合せを含む請求項1又は2に記載の人工器官。
【請求項4】
前記繊維径は、50nmから1mmの範囲内である請求項3に記載の人工器官。
【請求項5】
前記繊維径は、1μmから250μmの範囲内である請求項4に記載の人工器官。
【請求項6】
前記繊維(2)は、0.1%から99.9%の範囲内の液体吸収能力を有する請求項3から5のいずれかに記載の人工器官。
【請求項7】
前記液体吸収能力は、20.0%から99.0%の範囲内である請求項6に記載の人工器官。
【請求項8】
液体は、水溶液、及び/又は体液である請求項6、又は7に記載の人工器官。
【請求項9】
前記基底成分(4)は、代用骨として使用される材料を含む請求項1から8の少なくとも1つに記載の人工器官。
【請求項10】
前記代用骨は、請求項3に記載の材料である請求項9に記載の人工器官。
【請求項11】
前記材料は、次の成分、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、又はこれらの混合物の少なくとも1つを含む合成セラミックである請求項9に記載の人工器官。
【請求項12】
前記リン酸カルシウムは、次の成分の少なくとも1つを含む請求項11に記載の人工器官:第二リン酸カルシウム(CaHPO・2HO)、無水第二リン酸カルシウム(CaHPO)、α−リン酸三カルシウム(α−Ca(PO)、β−リン酸三カルシウム(β−Ca(PO)、カルシウム欠損ハイドロキシアパタイト(Ca(PO(HPO)OH)、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、炭酸アパタイト(Ca10(PO(CO)(OH))、フルオロアパタイト(Ca10(PO(F,OH))、クロロアパタイト(Ca10(PO(Cl,OH))、ホワイトロッカイト((Ca,Mg)(PO)、リン酸四カルシウム(Ca(POO)、オキシアパタイト(Ca10(POO)、β−ピロリン酸カルシウム(β−Ca(P)、α−ピロリン酸カルシウム、γ−ピロリン酸カルシウム、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)。
【請求項13】
前記材料は、金属、半金属、及び/又は非金属イオン、好ましくはマグネシウム、珪素、ナトリウム、カリウム、及び/又はリチウムを含む合成セラミックである請求項9に記載の人工器官。
【請求項14】
前記材料は、少なくとも高分子成分、及び鉱物相を含む複合材料である請求項9から11のいずれかに記載の人工器官。
【請求項15】
前記代用骨材料は、連続孔を伴う高多孔性である請求項9から14のいずれかに記載の人工器官。
【請求項16】
前記基底成分(4)の形状は、略円筒形又は円錐形である請求項9から15のいずれかに記載の人工器官。
【請求項17】
前記基底成分(4)の直径は2mmから30mm、高さは1mmから30mmの間で変動する請求項16に記載の人工器官。
【請求項18】
前記基底成分(4)の直径は4mmから20mm、好適な高さは1mmから6mmの間で変動する請求項16に記載の人工器官。
【請求項19】
前記安定化領域(3)は、少なくとも1層を含む帯域である請求項1から18の少なくとも1つに記載の人工器官。
【請求項20】
前記帯域は、1nmから1mmの厚さを有する請求項19に記載の人工器官。
【請求項21】
前記帯域は、多孔性である請求項19又は20に記載の人工器官。
【請求項22】
層システムは化学物質からなる請求項19から21のいずれかに記載の人工器官。
【請求項23】
少なくとも1つの外部から添加される成分を更に含む請求項1から22の少なくとも1つに記載の人工器官。
【請求項24】
前記成分は、様々な源の細胞である請求項23に記載の人工器官。
【請求項25】
前記細胞は、自己細胞、同種異系細胞、外因性細胞、トランスフェクト細胞、及び/又は遺伝子組み換え細胞である請求項24に記載の人工器官。
【請求項26】
軟骨細胞、軟骨前駆細胞、多能性細胞、全能性細胞、又はこれらの組合せは、繊維層(2)中に存在する請求項23、24、又は25に記載の人工器官。
【請求項27】
骨芽細胞、骨前駆細胞、多能性細胞、全能性細胞、及びこれらの組合せは、基底成分(4)中に存在する請求項23、24、又は25に記載の人工器官。
【請求項28】
血液、又は血液の1部は基底成分(4)中に存在する請求項23、24、又は25に記載の人工器官。
【請求項29】
医薬組成物が含まれる請求項23に記載の人工器官。
【請求項30】
軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官(1)であって、
少なくとも部分的な配向繊維(2)を含む少なくとも1層、
前記繊維(2)の少なくとも1層を軟骨下環境で固定するための基底成分(4)、及び
前記繊維(2)を含む少なくとも1層と前記基底成分(4)の間に提供される安定化領域(3)
を含み、前記繊維(2)は、繊維に面する基底成分の上面に原則的に垂直に配列されることを特徴とする軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官(1)。
【請求項31】
軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官(1)であって、
繊維(2)を含む少なくとも1層、
前記繊維(2)の少なくとも1層を軟骨下環境で固定するための基底成分(4)、及び
前記繊維(2)を含む少なくとも1層と前記基底成分(4)の間に提供される細胞境界層
を含むことを特徴とする軟骨、又は軟骨状組織を修復若しくは置換するための人工器官(1)。
【請求項32】
人間、及び動物の関節に移植するための請求項1から31の少なくとも1つに記載の人工器官の用途。
【請求項33】
関節軟骨組織の再生のための請求項32に記載の用途。

【図1】
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【公表番号】特表2007−526779(P2007−526779A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515972(P2006−515972)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006530
【国際公開番号】WO2005/000169
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505473581)
【Fターム(参考)】