説明

転がり軸受

【課題】共通部品を用いて各種サイズの転がり軸受に適用可能であり、低コストで組立性に優れ、且つ内輪の分離を確実に防止することができ、クレーンのシーブに用いるのに好適な転がり軸受を提供する。
【解決手段】第1及び第2の内輪11、12は、互いに対向するそれぞれの対向面側の内周面11g、12gに環状溝部11f、12fが形成されている。それぞれの環状溝部11f、12fには、クリップ状結合部材20が同時に係合して両内輪11、12を軸方向に固定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特にクレーンの吊り索掛装用のシーブに適用するのに好適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受100は、図5に示すように、それぞれ内輪軌道面101a、102aを有する一対の内輪101、102と、2つの外輪軌道面103a、103aを有する外輪103と、内輪軌道面101a、102aと2つの外輪軌道面103a、103a間に転動自在に配置された複数の円筒ころ104と、を備える。このクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受100は、保持器を備えないため、一対の内輪101、102を分離すると、円筒ころ104も分離してしまうので、一対の内輪101、102の内周面101b、102bに環状溝101c、102cを設け、この環状溝101c、102cにローリングプレス加工によって内輪結合輪105を組み込んで一対の内輪101、102を連結して、分離を防止するようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、中央に鍔部が設けられた2つの外輪軌道面を備える外輪において、外輪軌道面のころ端部側に、ころ止め用の止め輪を配設して、内輪の分離防止を図ったクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国実用新案公告第201568450号明細書
【特許文献2】特開平11‐101228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5に示す従来のクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受100によると、内輪結合輪105を組み込むためのローリングプレス加工、及び円筒ころ軸受100のサイズが異なる場合、それぞれの円筒ころ軸受100に合わせて製作される専用サイズの内輪結合輪105が必要であり、製造コストが増大すると共に作業性が悪いという問題があった。
【0006】
また、止め輪を用いた総ころ円筒ころ軸受によると、内輪の分離は防止されているものの、内輪同士が結合されていない構造であるため、輸送時などに内輪及び円筒ころが軸方向に動いてしまう問題があり、改善の余地があった。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、共通部品によって各種サイズの転がり軸受に適用可能であり、低コストで組立性に優れ、且つ内輪の分離を確実に防止することができる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)それぞれ内輪軌道面を有する第1及び第2の内輪と、前記内輪軌道面に対向する2つの外輪軌道面を有する外輪と、前記第1及び第2の内輪の内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、
前記第1及び第2の内輪の内周面は、互いに対向するそれぞれの対向面側に形成された環状溝部を有し、
それぞれの前記環状溝部に同時に係合して前記両内輪を軸方向に固定するクリップ状結合部材を備えることを特徴とする転がり軸受。
(2)前記環状溝部は、前記第1及び第2の内輪の対向面側に形成された環状凹部に形成されることを特徴とする上記(1)に記載の転がり軸受。
(3)互いに対向配置された前記第1及び第2の内輪の前記環状溝部には、複数個の前記クリップ状結合部材が円周方向に等間隔で配置されることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の転がり軸受。
(4)前記転動体は、円筒ころであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
(5)クレーンシーブ用転がり軸受であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の転がり軸受。
(6)上記(5)に記載のクレーンシーブ用転がり軸受を用いたことを特徴とするクレーン装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転がり軸受によれば、第1及び第2の内輪は、互いに対向するそれぞれの対向面側の内周面に環状溝部が形成され、それぞれの環状溝部にクリップ状結合部材が同時に係合して両内輪を軸方向に固定するので、組立性に優れ、簡単且つ安価な構造で確実に第1及び第2の内輪を結合することができる。また、クリップ状結合部材は、ある程度サイズの異なる転がり軸受に共用して使用することができるので、部品点数が削減されて部品管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る第1実施形態の転がり軸受の断面図である。
【図2】図1に示すクリップ状結合部材の斜視図である。
【図3】本発明に係る転がり軸受が適用されたクレーンシーブの断面図である。
【図4】本発明に係る第2実施形態の転がり軸受の断面図である。
【図5】従来の転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る転がり軸受の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態である転がり軸受の断面図、図2はクリップ状結合部材の斜視図である。図1に示すように、本実施形態の転がり軸受10は、それぞれ内輪軌道面11a、12aを有する第1の内輪11及び第2の内輪12と、それぞれの内輪軌道面11a、12aに対向する2つの外輪軌道面13a、13aを有する外輪13と、内輪軌道面11a、12aと外輪軌道面13a、13a間に転動自在に2列に配置された転動体である複数の円筒ころ14と、を備える。なお、本実施形態の転がり軸受10は、保持器を備えない、いわゆる総ころ円筒ころ軸受である。
【0012】
第1の内輪11、及び第2の内輪12は、内輪軌道面11a、12aの軸方向両側にそれぞれ外側鍔部11b、12bと、内側鍔部11c、12cが形成されて、円筒ころ14の側面を支持している。また、外輪13には、2つの外輪軌道面13a、13a間に中間鍔部13bが設けられている。
【0013】
第1の内輪11の内周面11gには、第2の内輪12に対向する第1側面11d側に全周に渡って第1環状凹部11eが形成されており、この第1環状凹部11eの第1側面11dとは反対側に全周に渡って第1環状溝部11fが形成されている。また、第2の内輪12の内周面12gには、第1の内輪11に対向する第2側面12d側に全周に渡って第2環状凹部12eが形成されており、この第2環状凹部12eの第2側面12dとは反対側に全周に渡って第2環状溝部12fが形成されている。
【0014】
第1側面11dと第2側面12dが当接して互いに対向配置された第1及び第2の内輪11、12には、第1環状溝部11f及び第2環状溝部12fに断面略コの字型に形成されたクリップ状結合部材20が同時に係合して、両内輪11、12を軸方向に固定している。
【0015】
クリップ状結合部材20は、例えば、略長方形のばね用鋼板の両端部を同方向に略90°以上屈曲させることで基部20bを挟んで両側に挟持部20a、20aが形成される。ばね用鋼板を屈曲させる際には、両挟持部20a、20aの先端部の間隔dが、挟持部20a同士を連結する基部20bの幅よりやや幅狭になるように屈曲される。これにより、第1環状溝部11f及び第2環状溝部12fに係合されたクリップ状結合部材20により、両内輪11、12には、クリップ状結合部材20のばね力によって、互いに接近する方向の力が作用する。
【0016】
また、クリップ状結合部材20の板厚は、第1環状凹部11e及び第2環状凹部12eの深さ以下に設定される。これにより、クリップ状結合部材20の基部20bは、第1環状凹部11e及び第2環状凹部12e内に収容されているので、基部20bが内周面11g、12gから内径側に突出することはない。従って、第1及び第2の内輪11、12に支持軸(図示せず)などの軸側部材を支障なく挿通することができる。なお、軸側部材に基部20bとの干渉を避けるための逃げ部が形成される場合、第1及び第2の内輪11、12には、第1環状溝部11f及び第2環状溝部12fが設けられていればよく、必ずしも第1環状凹部11e及び第2環状凹部12eを設ける必要はない。
【0017】
クリップ状結合部材20は、第1及び第2の内輪11、12の内周面11g、12gに複数設置することが好ましい。この場合、複数のクリップ状結合部材20を周方向に等間隔で配置することが望ましい。
【0018】
このような構成を有する転がり軸受10は、図3に示すように、クレーンのフックブロック30における吊り索掛装用のシーブに使用するのに好適である。即ち、フックブロック30は、フック31が取り付けられた吊り枠32に支持軸33を設け、この支持軸33に転がり軸受10を介してシーブ34が回転自在に取り付けられて構成される。この場合、転がり軸受10は、クレーンシーブ用転がり軸受10として外輪回転で使用される。
【0019】
上記したように、本実施形態の転がり軸受10によれば、第1及び第2の内輪11、12は、互いに対向するそれぞれの対向面側の内周面11g、12gに第1及び第2環状溝部11f、12fが形成され、それぞれの第1及び第2環状溝部11f、12fにクリップ状結合部材20が同時に係合して両内輪11、12を軸方向に固定するので、組立性に優れ、簡単且つ安価な構造で確実に第1及び第2の内輪11、12を結合することができる。また、クリップ状結合部材20は、ある程度サイズの異なる転がり軸受10に共用して使用することができるので、部品点数が削減されて部品管理が容易となる。
【0020】
また、第1及び第2環状溝部11f、12fは、第1及び第2の内輪11、12の第1及び第2環状凹部11e、12eに形成されるので、第1及び第2環状溝部11f、12fに係合するクリップ状結合部材20と、軸側部材との干渉を防止することができる。
【0021】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図4を参照して説明する。図4に示す第2実施形態の転がり軸受10Aは、第1及び第2の内輪11、12が、第1実施形態で説明した内側鍔部11c、12c(図1参照)を備えない点で第1実施形態の転がり軸受10と異なり、その他は係合部21及び被係合部22の形状も含めて同様であり、また、その作用や効果も同様であるので、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を省略する。
【0022】
尚、本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0023】
例えば、第1及び第2の内輪11、12に形成した第1及び第2環状凹部11e、12e、及び第1及び第2環状溝部11f、12fにクリップ状結合部材20を係合して軸方向に結合するように説明したが、第1及び第2環状凹部11e、12e、及び第1及び第2環状溝部11f、12fは、必ずしも環状である必要はなく、クリップ状結合部材20の配置位置に設けられていればよい。従って、第1及び第2の内輪11、12の内周面11g、12gに、円周方向に分離して形成した複数の凹部及び溝部とすることもできる。
【符号の説明】
【0024】
10 転がり軸受
11 第1の内輪
11a 内輪軌道面
11d 第1側面(対向面)
11e 第1環状凹部(環状凹部)
11f 第1環状溝部(環状溝部)
11g 内輪の内周面
12 第2の内輪
12a 内輪軌道面
12d 第2側面(対向面)
12e 第2環状凹部(環状凹部)
12f 第2環状溝部(環状溝部)
12g 内輪の内周面
13 外輪
13a 外輪軌道面
14 円筒ころ(転動体)
20 クリップ状結合部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ内輪軌道面を有する第1及び第2の内輪と、前記内輪軌道面に対向する2つの外輪軌道面を有する外輪と、前記第1及び第2の内輪の内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、
前記第1及び第2の内輪の内周面は、互いに対向するそれぞれの対向面側に形成された環状溝部を有し、
それぞれの前記環状溝部に同時に係合して前記両内輪を軸方向に固定するクリップ状結合部材を備えることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記環状溝部は、前記第1及び第2の内輪の対向面側に形成された環状凹部に形成されることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
互いに対向配置された前記第1及び第2の内輪の前記環状溝部には、複数個の前記クリップ状結合部材が円周方向に等間隔で配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記転動体は、円筒ころであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
クレーンシーブ用転がり軸受であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
請求項5に記載のクレーンシーブ用転がり軸受を用いたことを特徴とするクレーン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−197883(P2012−197883A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62900(P2011−62900)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】