説明

転がり軸受

【課題】 セパレータの摩耗が進んでも、転動体の内外輪からの脱落を有効に防止することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】 内外輪1,2間に複数の転動体3を配列し、転動体3間に角柱形状のセパレータ4を周方向に複数介装した転がり軸受において、前記セパレータ4の外面のうち、転動体3と接触する周方向の面を除く内外輪1,2の対向面、軸方向の側面の少なくとも一面に、セパレータ4の周方向の幅よりも幅の狭い帯金6を一体化し、セパレータ4のある程度以上の摩耗の進行を帯金6によって阻止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内外輪間に複数の転動体を配列し、転動体間にセパレータを周方向に複数介装した転がり軸受、特に、フィルム延伸機のテンタクリップ用軸受等の高温雰囲気下、あるいは真空雰囲気下で使用するのに適した転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルム延伸機のテンタクリップ用軸受は、一般的に150〜250℃の高温雰囲気下で使用されるため、耐熱性が要求される。
【0003】
特に、近年需要が高まっているPEEKやPI等の樹脂では400℃という超高温雰囲気下で延伸作業が行われている。
【0004】
このような超高温雰囲気下で使用される転がり軸受では、400℃という高温で使用可能なグリースがないことから、転動体間に固体潤滑剤によって形成されたセパレータを介装させることにより、超高温下において徐々に潤滑剤を軌道面に供給するようにしている。
【0005】
このようなセパレータを使用する転がり軸受は、特許文献1あるいは特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−320548号公報
【特許文献2】特開2005−3178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような、転動体間にセパレータを周方向に複数介装した転がり軸受においては、セパレータの転動体との当接面が摩耗する。
【0008】
特に、セパレータが固体潤滑剤によって形成されている場合には、セパレータの摩耗が激しい。
【0009】
そして、セパレータの摩耗が進み、転動体の周方向に配列された転動体間の隙間を合算した総量が軸受の円周上の1/2以上に大きくなると、転動体が内外輪から脱落する懸念が生じる。
【0010】
そこで、この発明は、セパレータの摩耗が進んでも、転動体の内外輪からの脱落を有効に防止することができる転がり軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明は、内外輪間に複数の転動体を配列し、転動体間に角柱形状のセパレータを周方向に複数介装した転がり軸受において、前記セパレータの外面のうち、転動体と接触する周方向の面を除く内外輪の対向面の少なくとも一面に、セパレータの周方向の幅よりも幅の狭い帯金を一体化したことを特徴とする。
【0012】
この発明の転がり軸受の代表例は、深溝玉軸受である。
【0013】
前記帯金は、ステンレス鋼や黄銅、SS材にめっき処理を施したものを使用するが、滑り性や耐食性を考慮し、ステンレス鋼製や黄銅製がより好ましい。
【0014】
前記セパレータは、グラファイト等の固体潤滑剤によって成形されている。
【0015】
前記セパレータをグラファイトによって成形する場合、グラファイト配合率が80〜98vol%のものが好ましい。
【0016】
前記固体潤滑剤の曲げ強度は、4〜15MPa、比摩耗量1.5〜2.5×10−5mm/(N/m)である。
【0017】
前記帯金の幅は、前記セパレータが摩耗しても、玉が内外輪から脱落しない幅に設定する。
【0018】
前記セパレータ側面の帯金の内面に、凹凸を設けることにより、セパレータと帯金との滑り止め効果が向上する。
【0019】
前記セパレータは、周方向長さが内径側ほど短くなるように形成され、外輪と対向する面を、少なくとも一部平坦面又は周方向に多角形の面に形成することにより、帯金の取付けが容易になる。
【0020】
帯金の周方向の移動を規制するために、前記セパレータの軸方向側面の少なくとも片面に帯金の移動規制用の溝(半径方向の溝)を設ける。
【0021】
前記セパレータの外輪軌道面に対向する面の帯金軸方向長さの中央部を、周方向に幅を狭くすることにより、軌道面へ供給する潤滑剤量の増量化が図れる。
【0022】
帯金の円周方向に幅を狭くした部位の形状は、使用する玉の曲率より大きい曲率の曲面で形成することにより、セパレータの摩耗が進んだ場合に、帯金と玉との接触面積を低減することができる。
【0023】
前記転動体と接触するセパレータの周方向の面は、平坦面に形成することができる。
【0024】
前記セパレータの位置決め用として、セパレータとシールド板間にリングを挿入する。このリングは固体潤滑剤によって形成されている。
【0025】
前記位置決め用のリングは、グラファイト配合率95〜100vol%のグラファイトを使用することが好ましい。
【0026】
この発明の転がり軸受は、特に、テンタクリップ用の軸受として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によると、セパレータの摩耗が進み、転動体が帯金に接触すると、セパレータの摩耗がそれ以上進まないため、転動体の内外輪からの脱落を防止することができる。また、たとえセパレータが摩滅しても帯金が転動体間に存在するため、転動体間のすきまを合算した総量が軸受の円周上1/2以下にすることができ、軸受の脱落を防止することができる。
【0028】
そして、帯金を耐食性の良いステンレス鋼製や滑り性の良い黄銅製にすることにより、転動体が帯金に当たっても、滑りがよいため、転動体の損傷が少なく、長寿命の転がり軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明を適用した深溝玉軸受の第1の実施形態を示す側面図であり、シールド板およびリングを取り除いた状態を示している。
【図2】図1のA−A線の断面図である。
【図3】図1の実施形態において使用する帯金を一体化したセパレータの斜視図である。
【図4】帯金を一体化する前のセパレータの形状を示す側面図である。
【図5】帯金を一体化したセパレータの他の実施形態の斜視図である。
【図6】帯金を一体化したセパレータの他の実施形態の断面図である。
【図7】帯金を一体化する前のセパレータの他の実施形態を示す側面図である。
【図8】この発明を適用した深溝玉軸受の第2の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0031】
図1〜図4は、この発明を適用した深溝玉軸受の第1の実施形態を示している。
この深溝玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1と外輪2の間に配列される複数の玉3と、複数の玉3間に周方向に介装される複数のセパレータ4とを備えている。
【0032】
内輪1の外周面および外輪2の内周面には、軌道面がそれぞれ形成されており、外輪2の内周面両肩部には、径方向外向きに凹む周溝がそれぞれ形成されている。
【0033】
玉3は、内輪1と外輪2の軌道面間に介装されている。
【0034】
外輪2の内周面の両肩部に形成した周溝には、内輪1と外輪2の間の空間をシールドするシールド板5が嵌められている。シールド板5の先端は、内輪1の外周面の両肩部に対して微小隙間を介して対向させられている。
【0035】
セパレータ4は、図4に示すように、ほぼ角柱形で、周方向長さが内径側ほど短くなるように形成され、外輪と対向する面を、少なくとも一部平坦面又は周方向に多角形の面に形成し、帯金6の取付けを容易にしている。図4の符号4aは、平坦面を示している。
【0036】
セパレータ4は、固体潤滑剤により形成され、回転動作に伴うセパレータ4と玉3との接触によって潤滑剤をセパレータ4から玉3の表面や内輪1・外輪2の軌道面などの転がり接触部に転移させて、それぞれの潤滑を行わせている。
【0037】
セパレータ4を形成する固体潤滑剤としては、例えば、グラファイトや二硫化タングステン、二硫化モリブデンなどの層状物質、金、銀、鉛などの軟質金属材、PTFEやポリイミドなどの高分子樹脂材やこれらを主成分とする複合材などを使用することができる。
【0038】
セパレータ4には、外面のうち、玉3と接触する周方向の面を除く内外輪1,2の対向面の少なくとも一面に、セパレータ4の周方向の幅よりも幅の狭い帯金6を一体化しており、図1〜図4に示す実施形態では、玉3と接触する周方向の面と内輪1対向面を除いて、帯金6を一体化している。
【0039】
前記帯金6の材質としては、耐食性の良いステンレス鋼製や滑り性の良い黄銅がより好ましい。
【0040】
前記帯金の幅は、前記セパレータ4が摩耗しても、玉3が内外輪1,2から脱落しない幅に設定する。
【0041】
また、前記セパレータ4の位置決め用として、図8に示すように、セパレータ4とシールド板5間にリング8を挿入してもよい。このリング8は固体潤滑剤によって形成されている。
【0042】
また、図5に示すように、前記セパレータ4の外輪軌道面に対向する面の帯金6の軸方向長さの中央部を、周方向に幅を狭くすると、軌道面へ供給する潤滑剤量の増量化を図ることができる。
【0043】
帯金6の円周方向に幅を狭くした部位の形状は、使用する玉3の曲率より大きい曲率の曲面で形成することにより、セパレータ4の摩耗が進んだ場合に、帯金6と玉3との接触面積を低減することができる。
【0044】
また、図6に示すように、セパレータ4の側面の帯金6の内面に、凹凸7を設けることにより、セパレータ4と帯金6との滑り止めを図ることができる。
【0045】
また、図7に示すように、帯金6の周方向の移動を規制するために、前記セパレータ4の軸方向側面の少なくとも片面に帯金6の移動規制用の溝9(半径方向の溝)を設けてもよい。
【0046】
前記セパレータ4と位置決め用のリング8は、それぞれ固体潤滑剤のうちでも特に潤滑性の優れたグラファイトで形成することが好ましい。そのグラファイトの配合率は、セパレータ4で80〜98vol%、リング8で95〜100vol%とし、セパレータ4の比摩耗量を1.5×10−5mm/(N/m)とすることにより、十分な潤滑が行われ、曲げ強度を4MPa以上とすることにより、運転中のセパレータの破損を防止できる。
【0047】
そして、セパレータ4の比摩耗量の上限を2.5×10−5mm/(N/m)とすることにより、軸受内部でのセパレータ4の摩耗粉の詰まりが軸受寿命の短縮を引き起こさないようにすることができる。また、セパレータ4は、曲げ強度が高すぎると、運転中に傾いた姿勢になったときに内外輪との間でロックが生じ、軸受を停止させてしまうおそれがあるため、内外輪とのロックが生じないように曲げ強度の上限を15MPaとする。
【0048】
また、前記セパレータ4は、グラファイトとバインダーとの焼結体で形成することができる。そのバインダーとしては、Fe、Cu、Ni、W、Sn、Co、Crの群から選択される少なくとも1種の金属または前記各金属の酸化物、窒化物、ホウ化物のうちの少なくとも一つを含むものを使用するとよい。また、セパレータ4とリング8の少なくとも一つは、冷間静水圧プレス成型法(CIP)、押し出し成型法、圧縮成型法のいずれかで成形することができる。
【0049】
以上のように、転がり軸受の内部に組み込むセパレータ4とリング8をグラファイトで形成し、そのグラファイト配合率をリング8で95〜100vol%、セパレータ4では80〜98vol%にすると共に、セパレータ4の曲げ強度を4〜15MPa、比摩耗量を1.5〜2.5×10−5mm/(N/m)とすることにより、軸受内部が十分に潤滑され、運転中にセパレータ4の摩耗粉が詰まったり、セパレータ4の破損やロックが生じたりすることを防止できる。したがって、内外輪の転送面と転動体との間の潤滑状態を長期間にわたって良好に維持でき、軸受寿命の延長を図ることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 セパレータ
4a 平坦面
5 シールド板
6 帯金
7 凹凸
8 リング
9 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪間に複数の転動体を配列し、転動体間に角柱形状のセパレータを周方向に複数介装した転がり軸受において、前記セパレータの外面のうち、転動体と接触する周方向の面を除く内外輪の対向面の少なくとも一面に、セパレータの周方向の幅よりも幅の狭い帯金を一体化したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記転動体が玉である請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記帯金が、ステンレス鋼製または黄銅製である請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記セパレータが固体潤滑剤によって成形されている請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記固体潤滑剤がグラファイトからなる請求項4に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記固体潤滑剤のグラファイト配合率が80〜98vol%のものを使用した請求項5に記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記固体潤滑剤の曲げ強度が4〜15MPa、比摩耗量1.5〜2.5×10−5mm/(N/m)である請求項4〜6のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項8】
前記帯金の幅が、前記セパレータが摩耗しても前記転動体が内外輪から脱落しない幅に設定されている請求項1〜7のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項9】
前記セパレータ側面の帯金の内面に、凹凸を設けている請求項1〜8のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項10】
前記セパレータは、周方向長さが内径側ほど短くなるように形成されている請求項1〜9のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項11】
前記セパレータの外輪と対向する面が、少なくとも一部平坦面又は周方向に多角形の面に形成されている請求項1〜10のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項12】
前記セパレータの軸方向側面の少なくとも片面に帯金の移動規制用の溝を設けた請求項1〜11のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項13】
前記セパレータの外輪軌道面に対向する面の帯金軸方向長さの中央部を、円周方向に幅を狭くした請求項1〜12のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項14】
帯金の円周方向に幅を狭くした部位の形状が、使用する転動体の曲率より大きい曲率の曲面で形成されている請求項13に記載の転がり軸受。
【請求項15】
前記転動体と接触するセパレータの周方向の面が平坦面で形成されている請求項1〜14のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項16】
前記セパレータとシールド板間に固体潤滑剤によって形成された位置決め用のリングを挿入している請求項1〜15のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項17】
前記位置決め用のリングがグラファイト配合率95〜100vol%のグラファイトからなる請求項16に記載の転がり軸受。
【請求項18】
テンタクリップ用の軸受として使用する請求項1〜17のいずれかに記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−32838(P2013−32838A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138597(P2012−138597)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】