説明

転がり軸受

【課題】転動体のスキューが発生した場合にも、保持器のポケット部を形成する面におけるエッジロードを緩和して、ポケット部を形成する面の摩耗および剥離を防止することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】本発明の円筒ころ軸受1において、保持器10は、軸方向に並んで配置された一対の円環部12、12と、前記一対の円環部12、12を繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部16と、を有する。円筒ころ4を収容するポケット部11は、周方向に隣り合う2つの柱部16、16の周方向で対向する周方向側面23、23と、前記一対の円環部12、12の軸方向で対向する軸方向側面26、26と、により形成される。周方向側面23、23には、クラウニングによって周方向凸曲面部28、28が形成されている。軸方向側面26、26には、クラウニングによって軸方向凸曲面部26、26が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器を備えた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械等の回転支持部に用いられる軸受としては、円筒ころ軸受が多く用いられている。図5は、従来の円筒ころ軸受で使用されている保持器110と、保持器110のポケット部111に収容された円筒ころ104とを示す。保持器110は、軸方向に並んで配置された一対の円環部112、112と、一対の円環部112、112とを繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部116と、を有し、一対の円環部112、112および隣り合う2つの柱部116、116によって囲まれた空間がポケット部111となる。尚、図5では簡略化のため、1つのポケット部111のみに円筒ころ104が収容されている状態を示す。
【0003】
円筒ころ軸受が回転するとき、円筒ころ軸受の回転方向と円筒ころ104の回転方向が一致せずに、円筒ころ104の回転軸が周方向に倒れて、いわゆるスキューを生じることがある。このとき、図5に示される保持器110のように、ポケット部111の一対の軸方向側面121、121および一対の周方向側面123、123が直線的に形成されていると、円筒ころ104の転動面105が周方向側面123に強く接触し、また、円筒ころ104の軸方向端面106が軸方向側面121に著しく強く接触することがある。特に、転動面105と軸方向端面106との間に形成された面取り部107が、ポケット部111の周方向側面123に接触すると、図6に示すように、周方向側面123の軸方向両側でエッジロード(端部集中荷重)が生じて摩耗Wが生じ、場合によっては焼付きや剥離を生じてしまうおそれがある。
【0004】
このような問題を受け、近年、円筒ころやポケット部の形状を変更することによりエッジロードを緩和した円筒ころ軸受が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような円筒ころ軸受においては、図7に示すように、円筒ころ204の転動面205に、わずかな曲率を有するクラウニング部208が形成されている。また、保持器210のポケット部211の周方向側面223には、方向側面223の軸方向中央部に設けられた凹部229から軸方向両外側へ向って、クラウニング部208の曲率よりもポケット隙間の分だけ曲率の大きい凹円弧部228が形成されている。これにより、円筒ころ204のクラウニング部208と周方向側面223(凹円弧部228)との間のポケット隙間を小さくすることによりスキュー角を小さくすることができるので、エッジロードを緩和することができる。また、この構成によれば、円筒ころ204の姿勢を安定させることができるので、円筒ころ204のスキューの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−91012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図7に示される保持器210においては、円筒ころ204のクラウニング部208の形状に合わせて凹円弧部228の形状を定める必要があり、製造が複雑化するという問題がある。また、周方向側面223(凹円弧部228)と円筒ころ204との間のポケット隙間が大きくなった場合には、周方向側面223への円筒ころ204の接触圧力が却って大きくなり、エッジロードが発生しやすくなるおそれがある。また、円筒ころ204の軸方向端面206がポケット部211の軸方向側面221に接触することによってもエッジロードは発生し得るが、このようなエッジロードを緩和することについては引用文献1には何ら記載されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、転動体のスキューが発生した場合にも、保持器のポケット部を形成する面におけるエッジロードを緩和して、ポケット部を形成する面の摩耗、焼付きおよび剥離を防止することができる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケット部を有する保持器と、を備える転がり軸受であって、
前記保持器は、軸方向に並んで配置された一対の円環部と、前記一対の円環部を繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部と、を有し、
前記ポケット部は、前記一対の円環部の軸方向で対向する面と、周方向に隣り合う2つの柱部の周方向で対向する面と、により形成され、
前記ポケット部を形成する面のうちの少なくとも一つの面がクラウニングによって前記転動体に対して凸曲面となるように形成されていることを特徴とする転がり軸受。
(2) 前記周方向に隣り合う2つの柱部の周方向で対向する面がクラウニングによって前記転動体に対して凸曲面となるように形成されている上記(1)記載の転がり軸受。
(3) 前記一対の円環部の軸方向で対向する面がクラウニングによって前記転動体に対して凸曲面となるように形成されている上記(1)または(2)記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転がり軸受によれば、転動体のスキューが発生した場合にも、保持器のポケット部を形成する面に転動体の転動面が著しく強く接触することを防止でき、エッジロードを緩和することができる。これにより、ポケット部を形成する面の摩耗、焼付きおよび剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る円筒ころ軸受の径方向断面図である。
【図2】図1の保持器の軸方向断面図である。
【図3】図2の保持器の部分上面図である。
【図4】本発明の位置実施形態において円筒ころにスキューが生じた場合を説明するための図である。
【図5】従来の円筒ころ軸受の保持器の部分上面図である。
【図6】図5のV−V断面図である。
【図7】他の従来の円筒ころ軸受の保持器の部分上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る転がり軸受の一実施形態を、図1〜4に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る円筒ころ軸受1の径方向断面図を示す。図2は図1の保持器10の軸方向断面図を示し、図3は図2の保持器10の部分上面図を示す。
【0012】
図1に示すように、円筒ころ軸受1は、内周面に外輪軌道面2aが形成された外輪2と、外周面に内輪軌道面3aが形成された内輪3と、転動体である複数の円筒ころ4と、外輪2と内輪3との間に配置されて複数の円筒ころ4を保持する保持器10と、を備える。
【0013】
図2、3に示すように、保持器10はもみ抜き保持器であり、軸方向に並んで配置された一対の円環部12、12と、両円環部12間を繋ぐように円周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部16と、を有する。保持器10には、一対の円環部12、12と、隣り合う2つの柱部16、16と、によって囲まれた空間として、複数のポケット部11が構成されている。以後、ポケット部11を形成する一対の円環部12、12の軸方向で対向する側面を軸方向側面21、21と呼び、周方向に隣接する2つの柱部16、16の周方向で対向する側面を周方向側面23、23と呼ぶ。各ポケット部11には、円筒ころ4が1つずつ、転動自在に保持されている。
【0014】
図3に示すように、ポケット部11の周方向側面23、23のそれぞれには、柱部16から離れる方向に、ポケット部11の周方向中心に向って凸となる周方向凸曲面部28が、クラウニングにより形成されている。すなわち、周方向凸曲面部28は円筒ころ4側に突出して凸になっているので、図4に示すように円筒ころ4にスキューが生じた場合であっても、円筒ころ4の転動面5や面取り部7と周方向側面23との間の接触圧力が集中して過大になることを抑制できる。これにより、周方向側面23、23におけるエッジロードを緩和することができ、周方向側面23、23における摩耗や焼付き、剥離などを防止することができる。
【0015】
同様に、ポケット部11の軸方向側面21、21のそれぞれには、軸方向内側に向って凸となる軸方向凸曲面部26が、クラウニングにより形成されている。すなわち、軸方向凸曲面部26は円筒ころ4側に突出して凸になっているので、図4に示すように円筒ころ4にスキューが生じた場合であっても、円筒ころ4の軸方向端面6や面取り部7と軸方向側面21との間の接触圧力が集中して過大になることを抑制できる。これにより、軸方向側面21、21におけるエッジロードを緩和することができ、軸方向側面21、21における摩耗や焼付き、剥離などを防止することができる。
【0016】
このように、本実施形態の円筒ころ軸受1によれば、保持器10のポケット部11を形成する周方向側面23、23にクラウニングにより周方向凸曲面部28、28が形成されると共に、軸方向側面21、21にクラウニングにより軸方向凸曲面部26、26が形成されている。これにより、円筒ころ4にスキューが生じた場合であっても、ポケット部11を形成する周方向側面23、23および軸方向側面21、21で生じ得るエッジロードを緩和して、当該箇所における摩耗や焼付き、剥離などを防止することができる。
【0017】
尚、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更、改良等が可能である。上記実施形態では、円筒ころ軸受1について説明したが、本発明は円すいころ軸受に対しても適用可能である。また、上記実施形態では、対向する軸方向側面21、21および対向する周方向側面23、23の全てに対し、クラウニングにより凸曲面部が形成された保持器について説明したが、これに限られず、対向する軸方向側面21、21および対向する周方向側面23、23のいずれかのみに対して凸曲面部が形成されるものであってもよい。また、上記実施形態では保持器10としてもみ抜き保持器を使用したが、これに限定されず、保持器10は打ち抜き保持器等であってもよい。
【符号の説明】
【0018】
1 円筒ころ軸受
2 外輪
2a 外輪軌道面
3 内輪
3a 内輪軌道面
4 円筒ころ
10 保持器
11 ポケット部
12 円環部
15 凸状突起部
16 柱部
21 軸方向側面
23 周方向側面
26 軸方向凸曲面部
28 周方向凸曲面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケット部を有する保持器と、を備える転がり軸受であって、
前記保持器は、軸方向に並んで配置された一対の円環部と、前記一対の円環部を繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部と、を有し、
前記ポケット部は、前記一対の円環部の軸方向で対向する面と、周方向に隣り合う2つの柱部の周方向で対向する面と、により形成され、
前記ポケット部を形成する面のうちの少なくとも一つの面がクラウニングによって前記転動体に対して凸曲面となるように形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記周方向に隣り合う2つの柱部の周方向で対向する面がクラウニングによって前記転動体に対して凸曲面となるように形成されている請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記一対の円環部の軸方向で対向する面がクラウニングによって前記転動体に対して凸曲面となるように形成されている請求項1または2記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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