説明

転倒防止装置

【課題】リンク数を減らして簡単な構造とした高所作業車の転倒防止装置を提供する。
【解決手段】転倒防止装置10を、前後輪間の車体の下部に対して左右に延びる垂直面内で揺動可能に取り付けられ、内側に揺動されて車体の下面に沿って位置する格納位置および外側下方に向けて揺動されて下端が地面に近づく展開位置に揺動移動可能な転倒防止板11と、外側部が転倒防止板に接続されるとともに、車体に左右に延びる垂直面内で車体に揺動可能に枢結されて取り付けられた駆動アーム12と、車体に取り付けられ、駆動アームのヘッド部12bを上方に押し上げて駆動アームの外側部を下方に揺動させ、転倒防止板を展開位置に揺動させる展開作動部14と、昇降装置に取り付けられ、昇降装置を下降させたときに駆動アームのヘッド部を下方に押し下げて駆動アームの外側部を上方に揺動させ、転倒防止板を格納位置に揺動させる格納作動部15とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置が垂直昇降する高所作業車に用いられる転倒防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シザースリンク式昇降装置を有し、作業台を垂直昇降可能な高所作業車は、昇降装置を伸長させて作業台を高所に移動させた状態で走行可能に構成されており、例えば、体育館の天井に取り付けられた照明の保守作業や、倉庫に設けられた棚への資材の出し入れに用いられる。このような高所作業車は、昇降装置を上昇させた状態で、車輪が窪み等に入り込むと、重心位置が移動して安定性が悪化するおそれがある。そのため、昇降装置を伸長させているときに、車体下部の前後輪の間に板状の転倒防止板を配置し、車輪が窪みに差しかかったとしてもこの転倒防止板により車輪が窪みに入り込まず、重心が大きく移動しないようにする転倒防止装置(「ポットホールプロテクタ」とも呼ばれる)が設けられている。このような転倒防止装置は昇降装置の昇降作動に応じて転倒防止板を展開・格納するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0224290号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の転倒防止装置はリンク数が多いため、ガタが発生し易くなるという課題、転倒防止板の展開・格納時に引っかかるおそれがあるという課題、及び、構造が複雑で組み立て作業や保守作業に時間がかかるという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、リンク数を減らして簡単な構造とした転倒防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、第1の本発明に係る転倒防止装置は、前後輪を有して走行可能な車体と、この車体上に設けられ、作業装置(例えば、実施形態における作業台5)を昇降させる昇降装置とを有する高所作業車に用いられるものであり、前後輪間の車体の下部に対して左右に延びる垂直面内で揺動可能に取り付けられ、内側に揺動されて車体の下面に沿って位置する格納位置および外側下方に向けて揺動されて下端が地面に近づく展開位置に揺動移動可能な転倒防止板と、外側部が転倒防止板に接続されるとともに、車体に左右に延びる垂直面内で車体に揺動可能に枢結されて取り付けられた駆動アームと、車体に取り付けられ、駆動アームの枢結部より内側部(例えば、実施形態におけるヘッド部12b)を上方に押し上げて駆動アームの外側部を下方に揺動させ、転倒防止板を展開位置に揺動させる展開作動部と、昇降装置(例えば、実施形態における第1ブラケット8)に取り付けられ、昇降装置を下降させたときに駆動アームの内側部を下方に押し下げて、駆動アームの外側部を上方に揺動させて、転倒防止板を格納位置に揺動させる格納作動部とを有している。そして、転倒防止板と駆動アームとの接続部が、駆動アームに形成され、転倒防止板を揺動させる第1ガイド孔、及び、転倒防止板を展開された状態で保持する第2ガイド孔からなるガイド孔と、転倒防止板に形成され、ガイド孔に挿入されてガイド孔に沿って移動可能な突起部とから構成される。
【0007】
このような第1の本発明に係る転倒防止装置において、展開作動部が、車体に対して上下方向に摺動可能に取り付けられた展開側軸部材と、この展開側軸部材の先端部に取り付けられ、駆動アームの内側部に当接する展開側押圧部材と、車体及び展開側押圧部材の間に設けられ、展開側押圧部材を介して駆動アームの内側部を上方に押し上げる展開側バネとから構成されることが好ましい。
【0008】
また、第2の本発明に係る転倒防止装置は、前後輪を有して走行可能な車体と、この車体上に設けられ、作業装置を昇降させる昇降装置とを有する高所作業車に用いられるものであり、前後輪間の車体の下部に対して左右に延びる垂直面内で揺動可能に取り付けられ、内側に揺動されて車体の下面に沿って位置する格納位置および外側下方に向けて揺動されて下端が地面に近づく展開位置に揺動移動可能な転倒防止板と、外側部が転倒防止板に接続されるとともに、車体に左右に延びる垂直面内で揺動可能に枢結されて取り付けられた駆動アームと、車体と駆動アームの枢結部より外側の中間部との間に取り付けられ、この中間部を内側に引っ張って駆動アームの外側部を下方に揺動させて、転倒防止板を展開位置に揺動させる展開用弾性部材(例えば、実施形態における展開用バネ14′)と、昇降装置に取り付けられ、駆動アームの内側部を下方に押し下げて、駆動アームの外側部を上方に揺動させて、転倒防止板を格納位置に揺動させる格納作動部とを有している。そして、転倒防止板と駆動アームとの接続部が、駆動アームに形成され、転倒防止板を揺動させる第1ガイド孔、及び、転倒防止板を展開された状態で保持する第2ガイド孔からなるガイド孔と、転倒防止板に形成され、ガイド孔に挿入されてガイド孔に沿って移動可能な突起部とから構成される。
【0009】
このような第1および第2の本発明に係る転倒防止装置において、第1ガイド孔が、駆動アームの長手方向に延びたスロット状の開孔から形成され、また、第2ガイド孔が、第1ガイド孔の外側端から外上方向に折曲して延びたスロット状の開孔から形成され、ガイド孔が略L字状に形成されていることが好ましい。
【0010】
また、第2ガイド孔の上内側部に凹んだ係合溝が形成され、転倒防止板が展開位置に位置した状態で突起部が第2ガイド孔内に位置するとともに、係合溝内に入り込み、転倒防止板が格納位置の方へ揺動するのを防止するように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る転倒防止装置を以上のように構成すると、昇降装置を昇降作動させるアクチュエータの作動に対応して、転倒防止板を展開・格納することができるので、作業装置を上方に移動させたときは転倒防止板を展開して前後輪の転倒を防止することができるとともに、作業装置を格納した状態では転倒防止板が車体2の下面に格納されるので、通常の走行を妨げることがない。このとき、この転倒防止装置は、部品点数を少なくすることができ、また、転倒防止板を車体に対して揺動させるリンク、転倒防止板と駆動アームとを接続するリンク、及び、駆動アームを車体に対して揺動させるリンクのみで構成されているため、リンク数を少なくすることができるので、ガタの発生を防止し、展開・格納作動時にこれらのリンクが引っかかるおそれを少なくすることができ、また、この転倒防止装置の組み立てや保守作業を容易に行うことができる。
【0012】
また、ガイド孔を第1ガイド孔および第2ガイド孔から略L字状に形成して、第2ガイド孔に係合溝を有するように構成されると、展開状態においては、転倒防止板に外力が加わり格納位置に押し込まれようとされる場合であっても、展開防止板の突起部が第2ガイド孔の係合溝と係合されるため、突起部の移動が係合溝により規制されて展開位置に保持されて、安全に高所作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1及び図2を用いて本発明に係る転倒防止装置が適用される高所作業車の構成について説明する。なお、以降の説明において、図1における矢印Fの方向を前方とする。高所作業車1は、車体2の前後の左右両側部に前後輪3a,3bを有し、前輪3aを左右方向に操舵し、また、図示しない電動モータ等によりこの前輪3aを駆動して走行可能に構成されている。この車体2上には、シザースリンク式昇降装置4が取り付けられており、さらにこのシザースリンク式昇降装置4上には、作業者搭乗用の作業台5が取り付けられている。
【0014】
シザースリンク式昇降装置4は、図2に示すように、複数の腕部材6a〜6hを揺動自在に結合してリンク機構を構成したシザースリンク6と、このシザースリンク6を伸縮させる昇降シリンダ7とから構成される。シザースリンク6は、下部において第1段目の前方腕部材6aの下端部が車体2に揺動自在に連結され、後方腕部材6bの下端部が図示しないローラ部材若しくはスライダ部材と摺動レールとにより車両前後方向に摺動自在で、かつ、揺動自在に車体2に連結されている。また、このシザースリンク6は、上部において第4段目の後方腕部材6hの上端部が作業台5に揺動自在に連結され、前方腕部材6gの上端部が図示しないローラ部材若しくはスライダ部材と摺動レールとにより車両前後方向に摺動自在で、かつ、揺動自在に作業台5に連結されている。また、第1段目の前方腕部材6aには、第1ブラケット8が取り付けられ、第3段目の前方腕部材6eには第2ブラケット9が取り付けられており、さらに、これらの第1及び第2ブラケット8,9に昇降シリンダ7のシリンダ部及びロッド部がそれぞれ取り付けられている。
【0015】
作業台5には、操作装置5aが設けられており、この作業台5に搭乗した作業者が操作装置5aを操作することにより、昇降シリンダ7を伸縮作動させてシザースリンク6を伸縮させることにより、作業台5を任意の高所に垂直昇降させて高所作業を行うことができる。また、操作装置5aを操作することにより、前輪3aを駆動させるとともにこの前輪3aを操舵することができ、作業台5を高所に移動させた状態でもこの高所作業車1を走行させることができる。
【0016】
車体2の左右両側部には、前後輪3a,3bの間であって、車体2と地面との間に転倒防止装置10の一部を構成する転倒防止板11が展開・格納可能に配置されている。それでは、この転倒防止装置10の構成について2つの実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
まず、図3〜図9を用いて本発明に係る転倒防止装置の第1実施例について説明する。この転倒防止装置10は、図3に示すように、車体2に取り付けられた左右一対の転倒防止板11、左右一対の駆動アーム12、及び、展開作動部14と、シザースリンク式昇降装置4の第1ブラケット8に取り付けられた格納作動部15とから構成される。
【0018】
転倒防止板11は、車両前後方向に延びる細長い板状の部材で構成され、この転倒防止板11の内側に形成され上方に延びる枢結部11a、及び、内側に延びる揺動部11bを有している。この転倒防止板11は、車体2の左右両側部の下部に形成された板取付部2aに枢結部11aが揺動自在に取り付けられている。また、揺動部11bには、車両前後方向に突出する突起部11cが形成されている。この転倒防止板11は、図2に示すように、前後輪3a,3bに隣接するように配置されており、また、枢結部11aを揺動軸として、短手方向が地面に略垂直下方に延びる展開位置と、短手方向が地面と略平行な略水平に延びる格納位置とに揺動される。この転倒防止板11は、展開位置にあるときに、転倒防止板11の最下端面と地面との間隔が所定の範囲内になるように配置されている。
【0019】
駆動アーム12は、細長い板状に形成されており、長手方向略中央部より内側に枢結孔12aが形成され、この枢結孔12aと車体2の駆動アーム取付部2bに形成された枢結孔とに枢結ピンが挿入されて揺動可能に取り付けられており、この左右一対の駆動アーム12は、正面視においてハの字状に配置されている。駆動アーム12の外側部には、車両前後方向に貫通するガイド孔13が形成されており、このガイド孔13は、駆動アーム12の長手方向に延びる第1ガイド孔13aとこの第1ガイド孔13aの外側端から折曲して上方(短手方向)に延びる第2ガイド孔13bとから構成される。すなわち、このガイド孔13は、正面視においてL字状に形成されている。また、ガイド孔13の第2ガイド孔13には、図4に示すように、上内側部に凹んだ係合溝13cと、第1ガイド孔13aおよび係合溝13cの結合部に規制凸部13dとが形成されている。そして、このガイド孔13に上述の転倒防止板11の突起部11cがガイド孔13に沿って摺動自在に挿入されて取り付けられている。また、駆動アーム12の内側端には、硬質ゴム等により形成されたローラが回転自在に取り付けられたヘッド部12bが設けられている。
【0020】
駆動アーム12の外側上部は略三角形状に形成されており、この外側上部には、図3および図4に示すように、転倒防止装置10が後述する展開状態にあることを検出するためのマイクロスイッチ20が配設されている。このマイクロスイッチ20は、図8に示すように、スイッチ本体20aと、スイッチ本体20aに対して揺動自在に取り付けられたアーム20bと、アーム20bの揺動端部に軸支されたローラ20c(スイッチ操作部)とを有している。また、スイッチ本体20aには、マイクロスイッチ20を作動させるためのスイッチボタン20dが突設されている。そして、このマイクロスイッチ20により転倒防止装置10が展開状態であることを検出されている(マイクロスイッチ20からオン信号が出力されている)ときには、展開状態を示す展開確認ランプ(図示しない)が点灯され、転倒防止装置10が非展開状態であるとき(マイクロスイッチ20からオフ信号が出力されている)ときには、展開確認ランプを消灯させる。なお、展開確認ランプは作業台5の操作装置5aに設けられており、作業者はこの操作装置5aを操作して高所作業車1の走行操作等をおこなう場合に、この展開確認ランプを確認することができる。
【0021】
駆動アーム12のヘッド部12bの下方には、図3に示すように、展開作動部14が設けられており、この展開作動部14は、車体2の展開側取付部2cに対して上下方向に摺動自在に取り付けられた展開側軸部材14a、この展開側軸部材14aの上端部に固定された板状の展開側押圧部材14b、及び、展開側取付部2cと展開側押圧部材14bとの間に展開側軸部材14aに巻き付けられるように取り付けられ、展開側押圧部材14bを上方に押し上げる展開側バネ14cから構成される。なお、展開側軸部材14aの下端にはストッパ(図示しない)が設けられ、この展開側軸部材14aが展開側取付部2cから外れないように構成されている。この展開側押圧部材14bの上面は、駆動アーム12のヘッド部12bの下端に当接しており、このヘッド部12bを上方に押し上げるように配置されている。
【0022】
一方、格納作動部15は、図5に示すように、シザースリンク式昇降装置4の第1ブラケット8に取り付けられた取付ブラケット15a、この取付ブラケット15aから下方に延びる格納側軸部材15b、格納側軸部材15bに対して摺動自在に取り付けられた板状の格納側押圧部材15c、及び、取付ブラケット15aと格納側押圧部材15cとの間に格納側軸部材15bに巻き付けられるように取り付けられ、格納側押圧部材15cを下方に押し下げる格納側バネ15dから構成される。なお、格納側軸部材15bの下端にはストッパ(図示せず)が設けられ、この格納側軸部材15bから格納側押圧部材15cが外れないように構成されている。なお、格納側軸部材15bは、昇降用シリンダ7が全縮状態のとき、すなわち、シザースリンク6が格納状態のときに第1ブラケット8から略垂直下方に延びるように配置されており、かつ、この状態で、格納側押圧部材15cの下面が、駆動アーム12のヘッド部12bの上端に当接し、このヘッド部12bを下方に押し下げるように配置されている。すなわち、この状態においては、図6に示すように、駆動アーム12のヘッド部12bは格納作動部15の格納側押圧部材15cにより下方に押し下げられ、その結果、展開作動部14の展開側押圧部材14bが下方に押し下げられて展開側バネ14cを圧縮するように構成されている(以降の説明では、この状態を「格納状態」と呼ぶ)。
【0023】
転倒防止装置10が格納状態にあるときは、上述のように駆動アーム12のヘッド部12bが下方に押し下げられているため、この駆動アーム12の外側部は上方に揺動されている。そのため、ガイド孔13に挿入された転倒防止板11の突起部11cを介して揺動部11bが上方に引き上げられ、その結果、転倒防止板11の短手方向が地面に略水平に延びる格納位置に位置している。このとき、転倒防止板11の突起部11cは、駆動アーム12のガイド孔13を構成する第1ガイド孔13aに位置している。このように、転倒防止板11が格納位置にあると、この転倒防止板11は、車体2の下面に沿うように格納されているため、車体2の下面と地面との間のクリアランスを確保することができ、この転倒防止装置10が高所作業車1の通常の走行を妨げることがない。
【0024】
また、駆動アーム12の外側部が上方に揺動されているとともに、転倒防止板11の揺動部11bは下方に揺動されているため、図8(a)に示すように、リミットスイッチ20のローラ20cと転倒防止板11の揺動部11bの上側部との間にはクリアランスがあり、ローラ20がアーム20bを介してスイッチボタン20dを押すことはない。このため、マイクロスイッチ20が作動することはなく、展開確認ランプは消灯されている状態となる。
【0025】
次に、転倒防止装置10の展開動作について説明する。作業台5に設けられた操作装置5aが操作されて昇降シリンダ7が伸長作動を始めると、シザースリンク6が伸長し、これにより、格納作動部15が上方に移動する。駆動アーム12のヘッド部12bには、展開作動部14を構成する展開側バネ14cにより、上方に押し上げようとする力が作用しているため、格納作動部15の上昇に伴い、駆動アーム12のヘッド部12bは上方に押し上げられ、これにより、駆動アーム12の外側部は下方に揺動される。
【0026】
そして、駆動アーム12の外側部が下方に揺動されると、図7(a)に示すように、ガイド孔13に挿入された転倒防止板11の突起部11cが第1ガイド孔13a内を外側に摺動するとともに、揺動部11bが下方に揺動し、その結果、転倒防止板11が下方に揺動されることとなる。そして、図7(b)に示すように、突起部11cが第1ガイド孔13aの外側端に達したときに、転倒防止板11の短手方向が地面に略垂直下方に延びる展開位置に位置する。さらに、図7(c)に示すように、格納作動部15が上昇すると、駆動アーム12のヘッド部12bが更に上方に押し上げられ、駆動アーム12の外側部は更に下方に揺動される。駆動アーム12の外側部が下方に揺動することにより、第2ガイド孔13bも下方に移動されて、突起部11cが第2ガイド孔13bの係合溝13cまで達することとなる。そして、転倒防止板11の突起部11cが第2ガイド孔13bの係合溝13cと係合して、この転倒防止板11が展開位置で固定される(以降の説明ではこの状態を「展開状態」と呼ぶ)。
【0027】
また、このように駆動アーム12の外側部が下方に揺動して突起部11cが第2ガイド孔13bの係合溝13cに入り込むようにして係合されるときには、図8(b)に示すように、マイクロスイッチ20のローラ20cが、転倒防止板11の揺動部11bの上端部から押圧されることにより、押し退けられるように上方に揺動されて、アーム20bを介してスイッチボタン20dを押し込んでマイクロスイッチ20を作動させることとなる。これにより、転倒防止装置10が展開状態にあることをマイクロスイッチ20が検出して、操作装置5aに設けられた展開確認ランプが点灯されることとなり、作業台5に搭乗している作業者は展開確認ランプが点灯状態にあることを確認して、走行操作等を行うことができる。
【0028】
このように、昇降シリンダ7を伸長作動させて、シザースリンク昇降装置4を伸長させると、自動的に転倒防止装置10の転倒防止板11が展開位置に展開されるため、展開状態にある高所作業車1が走行して、車輪3a,3bのいずれかが窪みに入り込もうとしても、この転倒防止板11が地面と当接して車輪3a,3bが窪みに入り込むことを防ぐため、高所作業車1の重心が大きく移動することがない。
【0029】
また、展開状態においては、転倒防止板11の突起部11cが第2ガイド孔13bの係合溝13cと係合しているため、例えば、転倒防止板11を格納位置に押し込もうとしても突起部11cの移動が第2ガイド孔13bの係合溝13cにより規制される。特に、図9に示すように、転倒防止板11の下方部に外力Fが加わり、転倒防止板11が格納位置に押し込まれようと内側上方に揺動するとともに、揺動部11bが突起部11cを介して駆動アーム12を押し上げるようにして上方に揺動される場合であっても、格納状態となるために突起部11cが規制凸部13dを乗り越えるようにして第1ガイド孔13aに達するには、転倒防止板11が一旦、外方に張出されるとともに突起部11cが外方に揺動しなければならない。しかしながら、転倒防止板11に外力Fが加えられている以上においては、転倒防止板が外方に張出すことはないため、格納されることはなく、展開状態を保持することとなる。
【0030】
さらに、転倒防止板11の突起部11cは第2ガイド孔13bの係合溝13c内で係合して転倒防止板11を展開位置で固定できればよいため、突起部11cと係合溝13cとには、係合溝13c内での係合位置の自由度がある。従って、マイクロスイッチ20は、この範囲内で検出して作動できればよいため、マイクロスイッチ20の応差による調整がなくなり、簡単かつ容易にマイクロスイッチ20を取り付けることができる。
【0031】
反対に、昇降シリンダ7を縮小作動させると、格納作動部12が下降してくるため、駆動アーム12のヘッド部12bが下方に押し込まれ、図7(c)〜(a)の順に駆動アーム12及び転倒防止板11が作動して、図6に示す格納状態にされる。なお、格納作動部15を構成する格納側バネ15dは、この格納作動部15の格納側押圧部15cと駆動アーム12のヘッド部12bとが接触するときの衝撃を緩和し、格納時の転倒防止板11のばたつき防止のため、及び、転倒防止板11が何らかの障害物に引っ掛かり格納できない場合の故障防止のために用いられる。
【0032】
なお、本実施例1においては、駆動アーム12に形成されたガイド孔13を第1ガイド孔13a、第2ガイド孔13b、係合溝13cおよび規制凸部13dから構成するものであったが、これに限られるものではなく、ガイド孔13を第1ガイド孔13aおよび第2ガイド孔13bのみから構成してもよい。ここで、ガイド孔13が第1ガイド孔13aおよび第2ガイド孔13bから構成されるときに、格納状態にあった転倒防止装置10が、図10(a)〜(c)の順に展開動作する場合について説明する。
【0033】
駆動アーム12の外側部が下方に揺動されると、図10(a)に示すように、ガイド孔13に挿入された転倒防止板11の突起部11cが第1ガイド孔13a内を外側に摺動するとともに、揺動部11bが下方に揺動し、その結果、転倒防止板11が下方に揺動される。そして、図10(b)に示すように、突起部11cが第1ガイド孔13aの外側端に達したときに、転倒防止板11の短手方向が地面に略垂直下方に延びる展開位置に位置する。さらに図10(c)に示すように、格納作動部15が上昇すると、駆動アーム12のヘッド部12bが更に上方に押し上げられ、転倒防止板11の突起部11cが第2ガイド孔13bと係合し、この転倒防止装置11が展開位置で固定される。これにより、この展開位置において、転倒防止板11を格納位置に押し込もうとしても、突起部11cが第2ガイド孔13bと係合しているため、突起部11cの移動がこの第2ガイド孔13bにより規制され、展開位置に保持されることとなる。このとき、突起部11cと第2ガイド孔13bの係合位置は、第2ガイド孔13bの外上側端のみとなりマイクロスイッチにより展開状態を検出するときには、マイクロスイッチの応差による調整等が必要となるため、マイクロスイッチによる上記検出を行う場合には、上記実施例のようにガイド孔13に第1ガイド孔13aおよび第2ガイド孔13bのみならず、係合溝13cおよび規制凸部13dが形成されていることが好ましい。
【実施例2】
【0034】
次に、図11を用いて本発明に係る転倒防止装置の第2実施例について説明する。なお、第1実施例と同一の部材は同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第1実施例では、転倒防止板11を展開するときは、展開作動部14で駆動アーム12のヘッド部12bを上方に押し上げることによりこの駆動アーム12の外側部を下方に揺動させていたが、この第2実施例に係る転倒防止装置10′では、展開用バネ14′を用いる。この展開用バネ14′は、一端が車体2の駆動アーム取付部2bに固定され、他端が駆動アーム12の枢結孔12aより外側に固定されて、この駆動アーム12の外側部を内側に引っ張って下方に揺動させるように取り付けられている。そのため、昇降シリンダ7が伸長作動を始めてシザースリンク6が伸長すると、格納作動部15が上昇し、展開用バネ14′により駆動アーム12の外側部が内側に引っ張られて下方に揺動し、第1実施例と同様に転倒防止板11が展開される。なお、転倒防止板11の重量が十分に重く、若しくは、駆動アーム12の外側部が十分に重く、転倒防止板11若しくは駆動アーム12の外側部の自重でこの駆動アーム12を下方に揺動させることができる場合は、この展開用バネ14′はなくても良い。
【0035】
また、上記第2実施例において、図12に示すように、展開用バネ14′の代わりに展開バネ14″を左右の駆動アームの内側間に設ける構成としたり、格納側軸部材15bおよび格納側バネ15dの代わりに格納側軸部材15b′および格納側バネ15d′を取付ブラケット15aと格納側押圧部材15cとの間にそれぞれ一対並列に設ける構成としたり、駆動アーム12のヘッド部12bをローラの代わりに屈曲した板12b′を用いた構成としてもよい。特に、展開用バネ14″が左右の駆動アーム12それぞれを均等な付勢力で付勢するため、より同期化することができる。
【0036】
以上のように、本実施例に係る転倒防止装置10,10′によると、昇降シリンダ7の伸縮作動に対応して、転倒防止板11を展開・格納することができるので、作業台5を上方に移動させたときの前後輪3a,3bの転倒を防止することができるとともに、作業台5を格納した状態では転倒防止板11が車体2の下面に格納されるので通常の走行を妨げることがない。このとき、この転倒防止装置10,10′は、部品点数を少なくすることができ、また、転倒防止板11を車体2に対して揺動させるリンク、転倒防止板11と駆動アーム12とを接続するリンク、及び、駆動アーム12を車体2に対して揺動させるリンクのみで構成されているため、リンク数を少なくすることができ、ガタの発生を防止するとともに、展開・格納作動時にこれらのリンクが引っかかるおそれが少なくすることができ、また、この転倒防止装置10の組み立てや保守作業を容易に行うことができる。
【0037】
なお、以上の説明では本発明に係る転倒防止装置をシザースリンク機構により作業台を昇降させるように構成された垂直昇降式の高所作業車に適用した場合について説明したが、本発明がこの実施例に限定されることはなく、例えば、車体に対して少なくとも起伏動可能に取り付けられたブームにより作業台を高所に移動させるブーム式の高所作業車にも適用することができる。この場合、上述の格納作動部15はブームに取り付けられ、ブームが格納状態にあるときに駆動アーム12のヘッド部12bを下方に押し込むように構成される。
【0038】
また、上記実施例1では、マイクロスイッチ20は展開確認ランプ用の作動スイッチとする構成としたが、これに限られるものではなく、シザースリンク昇降装置4を伸長させて作業台5を高所に移動させた場合に、転倒防止装置10が展開状態でなければ高所作業車1の走行操作等を規制するようなインターロックを備えることにより、転倒防止装置10が展開状態(安全状態)であることを検出するインターロック解除スイッチとする構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る転倒防止装置が適用される高所作業車の側面図であって、作業台を格納した状態を示す図である。
【図2】上記高所作業車の側面図であって、作業台を上方に移動させた状態を示す図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る転倒防止装置の構成を示す斜視図の要部拡大図である。
【図4】図3の転倒防止装置の一部を構成する転倒防止板および駆動アームのガイド孔を示す正面図の要部拡大図である。
【図5】第1実施例に係る転倒防止装置の一部を構成する格納作動部を示す斜視図である。
【図6】第1実施例に係る転倒防止装置の正面図であって、格納状態を示す図である。
【図7】第1実施例に係る転倒防止装置が展開される状態を示す正面図であって、(a)は、転倒防止板が展開される途中の状態を示し、(b)は、転倒防止板が展開された状態を示し、(c)は、転倒防止板の突起部と駆動アームのガイド孔とが係合して固定された状態を示す。
【図8】(a)は展開途中の状態である図7(a)の転倒防止装置に取り付けられたマイクロスイッチの状態を示す要部拡大図であり、(b)は展開状態である図7(c)の転倒防止装置に取り付けられたマイクロスイッチの状態を示す要部拡大図である。
【図9】第1実施例に係る転倒防止装置が展開状態から外力を加えられている状態を示す。
【図10】第1実施例に係る転倒防止装置の一部を構成する駆動アームのガイド孔を第1ガイド孔および第2ガイド孔のみから構成した場合における上記転倒防止装置の正面図であって、図7(a)〜(c)に相当する状態を示す。
【図11】本発明の第2実施例に係る転倒防止装置の構成を示す斜視図の要部拡大図である。
【図12】第2実施例に係る転倒防止装置の一部を構成する展開用バネ、格納側バネおよび駆動アームのヘッド部を変更して構成した場合における上記転倒防止装置を示す斜視図の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0040】
1 高所作業車
2 車体
3a,3b 前後輪
4 シザースリンク式昇降装置
5 作業台(作業装置)
8 第1ブラケット(ブラケット)
10,10′ 転倒防止装置
11 転倒防止板
11c 突起部
12 駆動アーム
12b,12b′ ヘッド部(内側部)
13 ガイド孔
13a 第1ガイド孔
13b 第2ガイド孔
13c 係合溝
13d 規制凸部
14 展開作動部
14a 展開側軸部材
14b 展開側押圧部材
14c 展開側バネ
14′,14″ 展開用バネ
15 格納作動部
20 マイクロスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後輪を有して走行可能な車体と、前記車体上に設けられ、作業装置を昇降させる昇降装置とを有する高所作業車に用いられる転倒防止装置であって、
前記前後輪間の前記車体の下部に対して左右に延びる垂直面内で揺動可能に取り付けられ、内側に揺動されて前記車体の下面に沿って位置する格納位置および外側下方に向けて揺動されて下端が地面に近づく展開位置に揺動移動可能な転倒防止板と、
外側部が前記転倒防止板に接続されるとともに、前記車体に左右に延びる垂直面内で前記車体に揺動可能に枢結されて取り付けられた駆動アームと、
前記車体に取り付けられ、前記駆動アームの枢結部より内側部を上方に押し上げて前記駆動アームの前記外側部を下方に揺動させ、前記転倒防止板を前記展開位置に揺動させる展開作動部と、
前記昇降装置に取り付けられ、前記昇降装置を下降させたときに前記駆動アームの前記内側部を下方に押し下げて前記駆動アームの前記外側部を上方に揺動させ、前記転倒防止板を前記格納位置に揺動させる格納作動部とを有し、
前記転倒防止板と前記駆動アームとの接続部が、
前記駆動アームに形成され、前記転倒防止板を揺動させる第1ガイド孔、及び、前記転倒防止板を展開された状態で保持する第2ガイド孔からなるガイド孔と、
前記転倒防止板に形成され、前記ガイド孔に挿入されて前記ガイド孔に沿って移動可能な突起部とから構成される転倒防止装置。
【請求項2】
前記展開作動部が、
前記車体に対して上下方向に摺動可能に取り付けられた展開側軸部材と、
前記展開側軸部材の先端部に取り付けられ、前記駆動アームの前記内側部に当接する展開側押圧部材と、
前記車体及び前記展開側押圧部材の間に設けられ、前記展開側押圧部材を介して前記駆動アームの前記内側部を上方に押し上げる展開側バネとから構成される請求項1に記載の転倒防止装置。
【請求項3】
前後輪を有して走行可能な車体と、前記車体上に設けられ、作業装置を昇降させる昇降装置とを有する高所作業車に用いられる転倒防止装置であって、
前記前後輪間の前記車体の下部に対して左右に延びる垂直面内で揺動可能に取り付けられ、内側に揺動されて前記車体の下面に沿って位置する格納位置および外側下方に向けて揺動されて下端が地面に近づく展開位置に揺動移動可能な転倒防止板と、
外側部が前記転倒防止板に接続されるとともに、前記車体に左右に延びる垂直面内で揺動可能に枢結されて取り付けられた駆動アームと、
前記車体と前記駆動アームの枢結部より外側の中間部との間に取り付けられ、前記中間部を内側に引っ張って前記駆動アームの前記外側部を下方に揺動させ、前記転倒防止板を前記展開位置に揺動させる展開用弾性部材と、
前記昇降装置に取り付けられ、前記駆動アームの内側部を下方に押し下げて前記駆動アームの前記外側部を上方に揺動させ、前記転倒防止板を前記格納位置に揺動させる格納作動部とを有し、
前記転倒防止板と前記駆動アームとの接続部が、
前記駆動アームに形成され、前記転倒防止板を揺動させる第1ガイド孔、及び、前記転倒防止板を展開された状態で保持する第2ガイド孔からなるガイド孔と、
前記転倒防止板に形成され、前記ガイド孔に挿入されて前記ガイド孔に沿って移動可能な突起部とから構成される転倒防止装置。
【請求項4】
前記第1ガイド孔が、前記駆動アームの長手方向に延びたスロット状の開孔から形成され、
前記第2ガイド孔が、前記第1ガイド孔の外側端から外上方向に折曲して延びたスロット状の開孔から形成され、
前記ガイド孔が略L字状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転倒防止装置。
【請求項5】
前記第2ガイド孔の上内側部に凹んだ係合溝が形成され、前記転倒防止板が前記展開位置に位置した状態で前記突起部が前記第2ガイド孔内に位置するとともに、前記係合溝内に入り込み、前記転倒防止板が前記格納位置の方へ揺動するのを防止することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転倒防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−169037(P2008−169037A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154696(P2007−154696)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000116644)株式会社アイチコーポレーション (168)
【Fターム(参考)】