説明

転写シート、触媒層−電解質膜積層体、電極−電解質膜接合体及びこれらの製造方法

【課題】 本発明は、燃料電池を構成する電極−電解質膜接合体及び該電極−電解質膜接合体を製造するための転写シートを提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の転写シートは、基材の少なくとも片面に離型層が形成され、該離型層の上に剥離層が形成され、更に剥離層の上に触媒層が形成されている。本発明転写シートは、基材上に離型層を形成し、次いで該離型層上に剥離層を形成し、更に剥離層上に触媒層を形成させることにより製造される。電極−電解質膜接合体は、本発明転写シートの触媒層面が電解質膜面に接触するように転写シートを配置し、加圧した後、該転写シートの基材を剥離して触媒層−電解質膜積層体を製造し、更に触媒層−電解質膜積層体の両面に電極基材を配置し、加圧することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写シート、触媒層−電解質膜積層体、電極−電解質膜接合体及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層を配置し、水素と酸素の電気化学反応により発電する発電するシステムであり、発電時に発生するのは水のみである。燃料電池は、従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために、次世代のクリーンエネルギーシステムとして注目されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、電解質膜層として水素イオン伝導性高分子電解質膜を用い、その両面に触媒層を配置し、次いでその両面に電極基材を配置し、更にこれをセパレータで挟んだ構造をしている。電解質膜層の両面に触媒層を配置し、次いでその両面に電極基材を配置したもの(即ち、電極基材/触媒層/電解質膜/触媒層/電極基材の層構成のもの)は、電極−電解質膜接合体と称されている。
【0004】
従来、電極−電解質膜接合体の製造方法としては、例えば、白金を炭素粉に担持させた触媒粉のスラリー液又はペースト化した塗工液を、(1)電極基材の片面に印刷法又はスプレー法を適用して触媒層を形成した2個の電極基材を用い、該電極基材の触媒層面が電解質膜の両面に接するように配置し、熱プレスする方法(例えば、特許文献1、特許文献2等)、(2)電解質膜の両面に印刷法又はスプレー法を適用して触媒層を形成し、各々の触媒層面に電極基材が接するように配置し、熱プレスする方法(例えば、特許文献3等)、(3)基材上に印刷法を適用して形成した触媒層を高温高圧下に電解質膜に転写し、基材を剥離し、次いで電解質膜の両面に転写された触媒層面に電極基材が接するように配置し、熱プレスする方法(例えば、特許文献4等)等が知られている。
【0005】
しかしながら、これらの方法には種々の欠点がある。
【0006】
(1)の方法は、印刷法又はスプレー法を適用して触媒層を電極基材上に形成する際に、触媒層が多孔質の電極基材の中に入り込むので、触媒層の膜厚調整が困難になったり、触媒層を電極基材上に均一に形成させることが困難になる。更に、(1)の方法は、電極基材表面乃至内部の孔を塞ぎ、ガスの通流性能を阻害する。その結果、(1)の方法で得られる電極−電解質膜接合体を使用した燃料電池は、その性能が低下するのが避けられない。
【0007】
(2)の方法は、触媒層構成成分を有機溶剤に溶解又は分散させた液を電解質膜の両面に印刷又はスプレーして触媒層を形成させるが、電解質膜が有機溶媒により膨潤し、変形して電解質膜の形状を維持することが困難になる。そのために、触媒層の膜厚調整が困難になったり、触媒層を電解質膜上に均一に形成させることが困難になる。その結果、(2)の方法で得られる電極−電解質膜接合体を使用した燃料電池は、その性能にバラツキが生じる。従って、(2)の方法で得られる電極−電解質膜接合体では、均一な性能を備えた燃料電池を製造できない。
【0008】
(3)の方法は、触媒層の電解質膜への転写を高温高圧下に行う必要があるが、高圧下での転写の際に電解質膜が過剰に圧縮される部分が生じ、電解質膜が局所的に破壊される危険がある。また、高温下での転写の際、電解質膜が溶融し、膜自体が変性する危険がある。その結果、(3)の方法で得られる電極−電解質膜接合体を使用した燃料電池は、所望の性能を備えた燃料電池にはなり得ない。
【特許文献1】特公昭62−61118号公報
【特許文献2】特公昭62−61119号公報
【特許文献3】特公平2−48632号公報
【特許文献4】特開平10−64574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記欠点のない電極−電解質膜接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【0010】
本発明は、上記欠点のない電極−電解質膜接合体を製造するための転写シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、基材の少なくとも片面に離型層及び剥離層を介して触媒層が形成された電極−電解質膜接合体製造用転写シートてあって、剥離層に撥水性又は親水性が付与された転写シートを用い、該転写シートの触媒層面が電解質膜面に対面するように転写シートを配置し、熱プレスした後、該転写シートの基材を剥離層と離型層との境界面で剥離することにより、所望の電極−電解質膜接合体を製造できることを見い出した。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0012】
本発明は、下記1〜10に係る転写シート、触媒層−電解質膜積層体及びその製造方法、電極−電解質膜接合体及びその製造方法並びに燃料電池を提供する。
1.基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層が形成され、該離型層の上に剥離層が形成され、該剥離層の上に炭素粒子を含有する1個又は2個以上の触媒層が形成された、電極−電解質膜接合体製造用転写シート。
2.前記剥離層が、炭素粒子及び高分子樹脂からなる上記1に記載の転写シート。
3.前記剥離層を構成する炭素粒子が、前記触媒層を構成する炭素粒子よりも撥水性が高い上記2に記載の転写シート。
4.前記剥離層を構成する炭素粒子が、前記触媒層を構成する炭素粒子よりも親水性が高い上記2に記載の転写シート。
5.前記剥離層が、導電性を有している上記1〜4のいずれかに記載の転写シート。
6.電解質膜の一方面に、基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層、炭素粒子及び高分子樹脂からなる剥離層及び炭素粒子を含有する触媒層が順次積層され、且つ前記剥離層を構成する炭素粒子が前記触媒層を構成する炭素粒子よりも撥水性が高い電極−電解質膜接合体製造用転写シートを、該転写シートの触媒層が電解質膜に接触するように配置する工程、
電解質膜の他方面に、基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層、炭素粒子及び高分子樹脂からなる剥離層及び炭素粒子を含有する触媒層が順次積層され、且つ前記触媒層を構成する炭素粒子よりも親水性が高い電極−電解質膜接合体製造用転写シートを、該転写シートの触媒層が電解質膜に接触するように配置する工程、
前記転写シート、電解質膜及び転写シートの積層体を熱プレスする工程、及び
該転写シートの基材を剥離層と離型層との境界面で剥離する工程
を備えた、触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
7.上記6に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法を用いて製造される触媒層−電解質膜積層体。
8.上記7に記載の触媒層−電解質膜積層体の両面に電極基材を配置し、加圧する工程を備えた、電極−電解質膜接合体の製造方法。
9.上記7に記載の触媒層−電解質膜積層体を用いて製造される電極−電解質膜接合体。
10.上記8又は9に記載の触媒層−電解質膜積層体を組み込んだ燃料電池。
【0013】
電極−電解質膜接合体製造用転写シート
本発明の電極−電解質膜接合体製造用転写シートは、基材の少なくとも片面に離型層及び剥離層を介して1個又は2個以上の触媒層が形成されてなるものである。
【0014】
本発明の電極−電解質膜接合体製造用転写シートの一例を図1に示す。図1に示す転写シートは、基材の片面に離型層が形成され、該離型層の上に剥離層が形成され、更に該剥離層の上に触媒層が形成されている。
【0015】
本発明の電極−電解質膜接合体製造用転写シートの他の一例を図2及び図3に示す。図2は本発明の電極−電解質膜接合体製造用転写シートの断面図であり、図3は該転写シートの平面図である。図2及び図3に示す転写シートは、基材の片面に離型層が形成され、該離型層の上に剥離層が形成され、更に該剥離層の上に複数個の触媒層が形成されている。
【0016】
基材
基材としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを挙げることができる。
【0017】
また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0018】
更に、基材は、高分子フィルム以外に、アート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙等の非塗工紙等の紙であってもよい。
【0019】
基材の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常6〜100μm程度、好ましくは6〜30μm程度、より好ましくは6〜15μm程度とするのがよい。
【0020】
従って、基材としては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。
【0021】
離型層
離型層は、基材の少なくとも一方面に形成される。
【0022】
離型層は、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、ワックス等から構成することができる。剥離層の転写性をより向上させるために、離型層は、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の硬化性樹脂であることが好ましい。これらの樹脂は、離型層に50〜97重量%程度含有されているのがよい。残りの成分は、分散剤、硬化剤等である。ここで、分散剤及び硬化剤としては、公知のものを広く使用できる。
【0023】
基材上に離型層を形成させるに当たっては、上記樹脂及び/又はワックスとを適当な溶剤に混合、分散してペースト状にしておき、形成される離型層が所望の厚さになるように、このペーストを公知の方法、例えばグラビアコート、グラビアリバースコート等の方法に従い基材上に塗布するのがよい。
【0024】
溶剤としては、例えば、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
ペーストの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0026】
斯かるペーストを塗布した後、乾燥することにより、離型層が形成される。乾燥温度は、通常60〜200℃程度、好ましくは80〜120℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常1〜10分程度、好ましくは2〜6分程度である。
【0027】
離型層の厚さは、通常0.5〜5μm程度、好ましくは0.8〜2μm程度がよい。
【0028】
剥離層
本発明において、剥離層は、基材上に形成された離型層上に形成される。この剥離層は、熱転写の際に、離型層と剥離層との境界面で、基材から触媒層と共に剥離される。
【0029】
剥離層は、導電性材料と高分子樹脂及び/又はワックスとから構成されている。
【0030】
導電性材料としては、例えば、炭素粒子、金属粒子、導電性高分子材料等が挙げられる。
【0031】
炭素粒子としては、公知のものを広く使用できるが、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、オイルファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャネルブラック等が挙げられる。オイルファーネスブラックの具体例としては、キャボット社製のバルカンシリーズ、ブラックパールズシリーズ;ライオン社製のケッチェンブラックシリーズが挙げられる。アセチレンブラックの具体例としては、電気化学工業社製のデンカブラックが挙げられる。
【0032】
炭素粒子の平均粒径は、通常5〜500nm程度、好ましくは10〜50nm程度である。炭素粒子の平均粒径は、電子顕微鏡法により求められる。
【0033】
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリピロール等が挙げられる。
【0034】
高分子樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を広く使用でき、例えば、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリオレフィン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体樹脂等やこれらの樹脂混合物を挙げることができる。
【0035】
また、ワックスとしては、例えば、石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、合成系ワックス、シリコーンワックス等を挙げることができる。本発明で用いられるワックスには、例えば、C16〜C32の脂肪酸とアルコールとのエステルが包含される。本発明において、これらワックスは、1種単独で又は2種以上混合して使用される。
【0036】
剥離層は、炭素粒子と高分子樹脂とから構成されているのが好ましい。
【0037】
離型層に剥離層を形成させるに当たっては、導電性材料と高分子樹脂及び/又はワックスとを適当な溶剤に混合、分散してペースト状にしておき、形成される剥離層が所望の厚さになるように、このペーストを公知の方法、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等に従い離型層上に塗布するのがよい。
【0038】
溶剤としては、例えば、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0039】
ペーストの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0040】
斯かるペーストを塗布した後、乾燥することにより、剥離層が形成される。乾燥温度は、通常60〜200℃程度、好ましくは80〜120℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常1〜10分程度、好ましくは2〜6分程度である。
【0041】
剥離層の厚さは、通常0.5〜5μm程度、好ましくは0.8〜2μm程度がよい。
【0042】
更に、剥離層は、燃料電池の高性能化及びトラブル解消のために、撥水性、親水性等の性質、表面凹凸等の所望の形状を付与することができる。
【0043】
一般的に、電池作動時にはアノード側で発生した水素イオンが水和状態になって電解質膜を通過し、カソードに移動する。そのためアノード側で乾燥状態となり触媒反応を阻害するドライアップという現象が発生する。逆に、カソード側では生成した水が触媒層及びガス拡散層の空隙を埋めてガス供給を阻害し、電池反応を停止するフラッディングという問題が生じる。
【0044】
このため、例えば、アノード側の剥離層の親水性を高めることにより、セル組みした際に触媒層とガス拡散層との間に親水性の高い層を導入することができ、アノードで不足する水分を供給することが可能になる。
【0045】
また、カソード側の剥離層の撥水性を高めることにより、触媒層とガス拡散層との界面に撥水性の高い層を導入することができ、排水性を向上させることが可能になる。
【0046】
炭素粒子として親水性の高い炭素粒子を用いることにより、剥離層に親水性を、また、炭素粒子として撥水性の高い炭素粒子を用いることにより、剥離層に疎水性を付与することができる。
【0047】
親水性の高い炭素粒子としては、例えば、オイルファーネスブラックのような表面官能基が多く親水性の高いカーボンを用いるのがよい。あるいは、カーボンに酸処理、アルカリ処理、オゾン処理、プラズマ処理等の処理を施すことにより、炭素粒子の表面に親水性官能基を導入することができ、これを親水性の高い炭素粒子として使用することもできる。
【0048】
疎水性の高い炭素粒子としては、例えば、アセチレンブラックのような表面官能基が少なく撥水性の高いカーボンを用いるのがよい。あるいは、カーボンを熱処理して黒鉛化度を高めたもの、又は、カーボンをフッ素処理、シランカップリング処理等の処理を施し、炭素粒子の表面に撥水性を有する官能基を導入したものを撥水性の高い炭素粒子として使用することもできる。
【0049】
また、高分子樹脂として親水性の高い高分子樹脂を用いることにより、剥離層に親水性を、また、高分子樹脂として撥水性の高い高分子樹脂を用いることにより、剥離層に疎水性を付与することができる。
【0050】
親水性の高い高分子樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、パーフルオロスルホン酸のような保水性の高い樹脂を用いることができる。
【0051】
撥水性の高い高分子樹脂としては、例えば、PTFE等を用いることができる。
【0052】
剥離層は導電性を有しているのが好ましく、剥離層に導電性を付与することにより、触媒層−電解質膜積層体の電気抵抗値を増大させることなく、高性能の燃料電池を製造することができる。
【0053】
触媒層
触媒層は、公知のものである。触媒層は、触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を含有する。
【0054】
触媒粒子としては、例えば白金、白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と白金との合金等が挙げられる。カソード触媒層に含まれる触媒は、白金が一般的である。アノード触媒層に含まれる触媒は、前記金属と白金との合金が一般的である。
【0055】
水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えばパーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0056】
剥離層上に触媒層を形成させるに当たっては、触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を適当な溶剤に混合、分散してペースト状にしておき、形成される触媒層が所望の厚さになるように、このペーストを公知の方法に従い離型層上に塗布するのがよい。
【0057】
溶剤としては、例えば、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水又はこれらの混合物等が挙げられる。これら溶剤の中でも、アルコール類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素数1〜4の一価アルコール、各種の多価アルコール等が挙げられる。
【0058】
ペーストの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0059】
斯かるペーストを塗布した後、乾燥することにより、触媒層が形成される。乾燥温度は、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは30分〜1時間程度である。
【0060】
触媒層の厚さは、通常10〜200μm程度、好ましくは10〜100μm程度、より好ましくは15〜50μm程度がよい。
【0061】
触媒層−電解質膜積層体
本発明の触媒層が積層された電解質膜(触媒層−電解質膜積層体)は、例えば、以下に示す方法により製造される。
【0062】
まず、電解質膜の一方面に、基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層、炭素粒子及び高分子樹脂からなる剥離層及び炭素粒子を含有する触媒層が順次積層され、且つ前記剥離層を構成する炭素粒子が前記触媒層を構成する炭素粒子よりも撥水性が高い電極−電解質膜接合体製造用転写シート(この転写シートを以下「転写シートA」という)を、転写シートAの触媒層が電解質膜に接触するように配置する。
【0063】
次に、電解質膜の他方面に、基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層、炭素粒子及び高分子樹脂からなる剥離層及び炭素粒子を含有する触媒層が順次積層され、且つ前記触媒層を構成する炭素粒子よりも親水性が高い電極−電解質膜接合体製造用転写シート(この転写シートを以下「転写シートB」という)を、転写シートBの触媒層が電解質膜に接触するように配置する。
【0064】
次に、転写シートA、電解質膜及び転写シートBの積層体を熱プレスする。
【0065】
最後に、転写シートAの基材及び転写シートBの基材を剥離層と離型層との境界面で剥離する。
【0066】
作業性を考慮すると、転写シートAの触媒層面及び転写シートBの触媒層面を電解質膜の両面に同時に積層するのがよい。この場合には、例えば、転写シートAの触媒層面及び転写シートBの触媒層面が電解質膜の両面に対面するように転写シートA及び転写シートBを配置し、加圧した後、転写シートA及び転写シートBの基材を剥離すればよい。
【0067】
加熱プレスの加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度がよい。また、この加圧操作の際に、転写不良を避けるために加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下がよい。
【0068】
使用される電解質膜は、公知のものである。電解質膜の膜厚は、通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。
【0069】
電解質膜は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗布し、乾燥することにより形成される。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。
【0070】
電解質膜の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」膜、旭硝子(株)製の「Flemion」膜、旭化成(株)製の「Aciplex」膜、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」膜等が挙げられる。
【0071】
水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。
【0072】
離型層は、基本的には転移せず、基材側に残る。
【0073】
本発明の触媒層−電解質膜積層体の一例(図1に示す転写シートを用いた例)を図4に示す。また、本発明の触媒層−電解質膜積層体の他の一例(図2及び図3に示す転写シートを用いた例)を図5に示す。
【0074】
電極−電解質膜接合体
本発明の電極−電解質膜接合体は、触媒層−電解質膜積層体の両面に電極基材を配置し、加圧することにより製造される。
【0075】
電極基材は、公知であり、燃料極、空気極を構成する各種の電極基材を使用できる。
【0076】
加圧レベルは、通常0.1〜100Mpa程度、好ましくは5〜15Mpa程度がよい。この加圧操作の際に加熱するのが好ましく、加熱温度は通常120〜150℃程度でよい。
【0077】
本発明の電極−電解質膜接合体の一例を図6に示す。
【0078】
燃料電池
本発明の燃料電池は、例えば、次のようにして製造される。
【0079】
例えば、本発明の燃料電池は、
(1)基材の少なくとも片面に離型層を形成し、次いで該離型層の上に剥離層を形成し、更に該剥離層の上に触媒層を形成させて転写シートA及び転写シートBを得る工程、
(2)上記(1)工程で得られる転写シートA及び転写シートBの触媒層面が電解質膜の片面又は両面に対面するように転写シートA及び転写シートBを配置し、加圧した後、該転写シートの基材を剥離層及び離型層の境界面から剥離することにより触媒層−電解質膜積層体を得る工程、
(3)上記(2)工程で得られる触媒層−電解質膜積層体の両面に電極基材を配置し、加圧することにより電極−電解質膜接合体を得る工程、及び
(4)上記(3)工程で得られる電極−電解質膜接合体を用いて燃料電池を得る工程
を経て製造される。
【0080】
本発明は、上記電極−電解質膜接合体を組み込んだ燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0081】
本発明転写シートを使用すれば、非常に高価な触媒材料からなる触媒層を、転写シート(基材)側に残存させることなく、確実に電解質膜側に転移させることができる。
【0082】
本発明転写シートを使用すれば、触媒層が多孔質の電極基材の中に入り込む虞れがないので、触媒層の膜厚調整が容易となり、また均一な触媒層を電極基材上に容易に形成させることができる。
【0083】
また、本発明転写シートを使用すれば、電極基材表面乃至内部の孔を塞ぐことはないので、ガスの通流性能を阻害する虞れがない。
【0084】
本発明の方法では、触媒層の電解質膜への転写を、従来のように高温高圧下に行う必要がないので、電解質膜が溶融することがなく、膜自体が変性する危険が少ない。
【0085】
更に、本発明においては、剥離層に親水性又は撥水性を付与することにより、ドライアップ及びフラッディングの発生を防止することができる。
【0086】
従って、本発明の電極−電解質膜接合体を使用すれば、優れた電池性能を備えた高品質の燃料電池を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0087】
以下に実施例及び比較例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0088】
実施例1
下記に示すような各種塗工液を調製した。
【0089】
(1) 離型層形成用塗工液の調製
アクリル−スチレン系樹脂(商品名:セルトップ226、ダイセル化学工業(株)製)16重量部、アルミ触媒(商品名:セルトップCAT−A、ダイセル化学工業(株)製)3重量部、メチルエチルケトン8重量部及びトルエン8重量部を混合して、離型層形成用塗工液を調製した。
【0090】
(2) カソード剥離層形成用塗工液の調製
アセチレンブラック(商品名:デンカブラック、電気化学工業(株)製)8重量部、PTFE(商品名:ポリフロンPTFEディスパージョンD−1、ダイキン工業(株)製)2重量部、界面活性剤(商品名:TRITON X−114、ナカライテスク社製)0.5重量部、水38.5重量部及びエタノール37重量部を混合して、カソード剥離層形成用塗工液を調製した。
【0091】
(3) アノード剥離層形成用塗工液の調製
酸処理したオイルファーネスブラック(商品名:バルカンXC−72R、キャボット社製、1M硫酸溶液中で撹拌しながら1時間処理したものを洗浄し、乾燥して使用)8重量部、パーフルオロスルホン酸(商品名:ナフィオン、デュポン社製)2重量部、界面活性剤(商品名:TRITON X−114、ナカライテスク社製)13重量部、水38重量部及びエタノール37重量部を混合して、アノード剥離層形成用塗工液を調製した。
【0092】
(4) 触媒層形成用塗工液の調製
白金触媒(Pt−Ru担持触媒、田中貴金属(株)製)1重量部、電解質樹脂(5重量%ナフィオン溶液、デュポン社製)7重量部及びエタノール25重量部を混合して、触媒層形成用塗工液を調製した。
【0093】
実施例2(転写シートAの製造)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、厚み38μm、東レ(株)製)の一方面に、上記(1)で調製した離型層形成用塗工液を、乾燥時の離型層が1.0g/m2になるように塗布し、ドライヤーで仮乾燥した後、110℃のオーブン中で30秒間乾燥して離型層を形成した。
【0094】
次に離型層の表面に、上記(2)で調製したカソード剥離層形成用塗工液を、乾燥時の剥離層が1.0g/m2になるように塗布し、ドライヤーで仮乾燥した後、110℃のオーブン中で30秒間乾燥して剥離層を形成した。
【0095】
更に、剥離層の表面に、上記(4)で調製した触媒層形成用塗工液を、乾燥時の触媒層が20g/m2になるように塗布し、70℃のオーブン中で15分間乾燥して触媒層を形成した。
【0096】
このようにして、転写シートAを製造した。
【0097】
実施例3(転写シートBの製造)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、厚み38μm、東レ(株)製)の一方面に、上記(1)で調製した離型層形成用塗工液を、乾燥時の離型層が1.0g/m2になるように塗布し、ドライヤーで仮乾燥した後、110℃のオーブン中で30秒間乾燥して離型層を形成した。
【0098】
次に離型層の表面に、上記(3)で調製したアノード剥離層形成用塗工液を、乾燥時の剥離層が1.0g/m2になるように塗布し、ドライヤーで仮乾燥した後、110℃のオーブン中で30秒間乾燥して剥離層を形成した。
【0099】
更に、剥離層の表面に、上記(4)で調製した触媒層形成用塗工液を、乾燥時の触媒層が20g/m2になるように塗布し、70℃のオーブン中で15分間乾燥して触媒層を形成した。
【0100】
このようにして、転写シートBを製造した。
【0101】
比較例1
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、厚み38μm、東レ(株)製)の一方面に、上記(4)で調製した触媒層形成用塗工液を、乾燥時の触媒層が20g/m2になるように塗布し、70℃のオーブン中で15分間乾燥して触媒層を形成した。
【0102】
このようにして、比較のための転写シートを製造した。
【0103】
試験例1
上記実施例2、実施例3及び比較例1で得られる各転写シートの触媒層面が、水素イオン伝導性高分子電解質膜(Nafion N112、デュポン社製)と接触するようにして、温度135℃、圧力5kg/cm2で1分間熱プレスを行った後、PETフィルムを剥離した。
【0104】
剥離したPETフィルム上に残存する触媒層及び剥離層の重量を測定し、触媒層及び剥離層の転写状態を調べた。
【0105】
結果を表1に示す。表1における数値の単位は、g/10cm2である。
【0106】
【表1】

【0107】
表1から、本発明の転写シート(転写シートA及び転写シートB)を使用することにより、触媒層及び剥離層を電解質膜に良好に転写できることが明らかである。
【0108】
実施例4
水素イオン伝導性高分子電解質膜(Nafion N112、デュポン社製)の一方面に実施例2で得られる転写シートAの触媒層面が、また該電解質膜の他方面に実施例3で得られる転写シートAの触媒層面が接触するようにして、温度135℃、圧力5kg/cm2で1分間熱プレスを行った後、PETフィルムを剥離し、本発明の触媒層−電解質膜積層体を製造した。
【0109】
次に、上記で製造した触媒層−電解質膜積層体の両側に、電極基材(炭素繊維からなるカーボンペーパー、TGP−H−90、厚さ0.28mm、東レ(株)製)を配置し、150℃、5MPaの条件にて熱プレスを行い、本発明の電極−電解質膜接合体を製造した。
【0110】
比較例2
水素イオン伝導性高分子電解質膜(Nafion N112、デュポン社製)の両面に、比較例1で得られる転写シートAの触媒層面が接触するようにして、温度135℃、圧力5kg/cm2で1分間熱プレスを行った後、PETフィルムを剥離し、触媒層−電解質膜積層体を製造した。
【0111】
次に、上記で製造した触媒層−電解質膜積層体の両側に、電極基材(炭素繊維からなるカーボンペーパー、TGP−H−90、厚さ0.28mm、東レ(株)製)を配置し、150℃、5MPaの条件にて熱プレスを行い、電極−電解質膜接合体を製造した。
【0112】
試験例2
実施例4で製造した電極−電解質膜積層体及び比較例2で製造した電極−電解質膜積層体をエレクトロケム社製の単セル(50×50mm)に組み込み、燃料ガスとして水素ガス、酸化剤ガスとして空気を用い、電流300mAの定電流にて500時間の連続運転を行い、電池性能を調べた。
【0113】
実施例4で製造した電極−電解質膜積層体を組み込んだセルでは、500時間を超える長時間の連続運転によっても、アノード側及びカソード側でそれぞれドライアップ及びフラッディングの現象が認められなかった。
【0114】
これに対して、比較例2で製造した電極−電解質膜積層体を組み込んだセルでは、500時間を超える長時間の連続運転により、アノード側及びカソード側でそれぞれドライアップ及びフラッディングの現象が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、電極−電解質膜接合体製造用転写シート(フィルム)の断面図である。
【図2】図2は、電極−電解質膜接合体製造用転写シート(フィルム)の断面図である。
【図3】図3は、電極−電解質膜接合体製造用転写シート(フィルム)の平面図である。
【図4】図4は、触媒層が積層された電解質膜の断面図である。
【図5】図5は、電極−電解質膜接合体の断面図である。
【図6】図6は、電極−電解質膜接合体の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層が形成され、該離型層の上に剥離層が形成され、該剥離層の上に炭素粒子を含有する1個又は2個以上の触媒層が形成された、電極−電解質膜接合体製造用転写シート。
【請求項2】
前記剥離層が、炭素粒子及び高分子樹脂からなる請求項1に記載の転写シート。
【請求項3】
前記剥離層を構成する炭素粒子が、前記触媒層を構成する炭素粒子よりも撥水性が高い請求項2に記載の転写シート。
【請求項4】
前記剥離層を構成する炭素粒子が、前記触媒層を構成する炭素粒子よりも親水性が高い請求項2に記載の転写シート。
【請求項5】
前記剥離層が、導電性を有している請求項1〜4のいずれかに記載の転写シート。
【請求項6】
電解質膜の一方面に、基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層、炭素粒子及び高分子樹脂からなる剥離層及び炭素粒子を含有する触媒層が順次積層され、且つ前記剥離層を構成する炭素粒子が前記触媒層を構成する炭素粒子よりも撥水性が高い電極−電解質膜接合体製造用転写シートを、該転写シートの触媒層が電解質膜に接触するように配置する工程、
電解質膜の他方面に、基材の少なくとも片面に基材から剥離しない離型層、炭素粒子及び高分子樹脂からなる剥離層及び炭素粒子を含有する触媒層が順次積層され、且つ前記触媒層を構成する炭素粒子よりも親水性が高い電極−電解質膜接合体製造用転写シートを、該転写シートの触媒層が電解質膜に接触するように配置する工程、
前記転写シート、電解質膜及び転写シートの積層体を熱プレスする工程、及び
該転写シートの基材を剥離層と離型層との境界面で剥離する工程
を備えた、触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法を用いて製造される触媒層−電解質膜積層体。
【請求項8】
請求項7に記載の触媒層−電解質膜積層体の両面に電極基材を配置し、加圧する工程を備えた、電極−電解質膜接合体の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の触媒層−電解質膜積層体を用いて製造される電極−電解質膜接合体。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の触媒層−電解質膜積層体を組み込んだ燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−66597(P2007−66597A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248758(P2005−248758)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】