説明

転写因子Nrf2活性化剤

【課題】優れたNrf2発現促進効果を有するNrf2活性化剤を提供する。
【解決手段】糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とすることを特徴とする転写因子Nrf2活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写因子Nrf2活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞抗酸化システム等の生体防御機構において、核内転写因子(NF-E2 related factor 2、以下、Nrf2と略記する)が重要な役割を果たしていることが示されている。Nrf2は、非ストレス条件下ではKeap1(Kelch−like ECH−associated protein 1)と複合体を形成した状態で細胞質に局在する。細胞質に親電子性物質、活性酸素、重金属などが存在すると、複合体を形成していたNrf2とKeap1とが解離し、遊離したNrf2は核内へ移行し、核内移行したNrf2はsmall Mafとヘテロ二量体を形成する。Nrf2及びsmall Mafとのヘテロ二量体は、DNA上の抗酸化剤応答配列(Antioxidant Response Element;ARE)又は親電子性物質応答配列(electrophile-responsive element;EpRE)に結合し、該DNAにおける転写を促進して一連の抗酸化酵素や異物代謝系第二相酵素などの発現を誘導することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
フリーラジカルや活性酸素は、生体の構成成分である脂質、タンパク質、DNAなどと容易に反応する。そのため、フリーラジカルや活性酸素は、癌、炎症、動脈硬化、高血圧症、肝機能障害、糖尿病、虚血再潅流障害、潰瘍、シミ・シワ等の種々の疾病を誘起することが知られている(例えば、非特許文献2〜3参照)。Nrf2は、活性酸素に応答して転写が促進される抗酸化酵素の発現を制御することが知られている。また、Nrf2の活性は、加齢と共に低下することが知られている。従って、抗酸化酵素群、及び抗酸化酵素群の発現を制御するNrf2は、生体の防御機能及び老化防止機能として非常に重要である。
【0004】
また、薬剤や環境化学物質などの生体にとって異物となる化学物質は、暴露された後体内に吸収され、異物代謝系酵素群による代謝を受けた後体外に排泄される。この異物代謝系は、転写因子AhRによって遺伝子の発現が制御される第一相酵素群による反応と、Nrf2によって遺伝子の発現が制御される第二相酵素群による反応から構成されている。
【0005】
Nrf2/ARE系により遺伝子の発現が制御される抗酸化酵素や異物代謝系第二相酵素としては、グルタチオン合成関連酵素であるグルタミン酸−システインリガーゼ(glutamate−cysteine ligase、以下、GCLMと略記する)、熱、重金属、紫外線などによって誘導され、ヘムの脱環化を行うヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase−1、以下、HO−1と略記する)、酸化型チオレドキシンの還元を行うチオレドキシンレダクターゼ−1(thioredoxin reductase−1、以下、TXNRD1と略記する)、体内で鉄イオンの解毒、貯蔵に関与するフェリチン(ferritin)、スーパーオキシドアニオンラジカルの不均化反応を触媒する抗酸化酵素の1つであるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase、以下、SODと略記する)、過酸化水素の分解反応を触媒する酵素であるカタラーゼ(catalase)、酸化型グルタチオンを還元型グルタチオンへと非可逆的に還元する酵素であるグルタチオンレダクターゼ(glutathione reductase、以下、GRと略記する)、求核性化合物にグルタチオンを転移しグルタチオン抱合体を形成する酵素であるグルタチオンS−トランスフェラーゼ(gulutathione S-transferase、以下、GSTと略記する)、二電子還元によりキノン化合物からアミキノン化合物を形成する反応を触媒し親電子性物質を解毒化するNAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ(NAD(P)H:quinone oxidoreductase、以下、NQO−1略記する)、細胞内のレドックス制御に関わる抗酸化因子の1つであるチオレドキシン(thioredoxin、以下、TRXと略記する)、配糖体の生合成、外来異物の代謝を行うUDP−糖転移酵素(UDP−glycosyltransferase 1A6)、還元型グルタチオンを利用して過酸化水素等を還元する抗酸化酵素の1つであるグルタチオンペルオキシダーゼ(gulutathione peroxidase、以下、GPXと略記する)、過酸化水素、過酸化脂質、過酸化亜硝酸等の過酸化物の還元を行うペルオキシレドキシン(peroxiredoxin、以下、PRDXと略記する)、シスチン及びグルタミン酸を輸送基質とする交換輸送体であるシスチン/グルタミン酸トランスポーター(cystine/glutamate transporter、以下、xCTと略記する)等が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
前記抗酸化酵素や異物代謝系第二相酵素のうち、GCLM、NQO−1及びTRXについて詳しく説明する。
細胞内タンパク質のチオール基を適切な酸化/還元状態に保つペプチドであり、過酸化物と反応して解毒機能を奏するペプチドとして、グルタチオン(5−L−グルタミル−L−システイニルグリシン)が知られている。前記グルタチオンの生合成の最初の反応として、L−グルタミン酸とL−システインとが反応してγ−L−グルタミル−L−システインが合成されるが、GCLMは該反応を触媒する酵素である。
自動車の排ガス、タバコの煙、大気中微粒子などに含まれるキノン化合物は、容易に1電子又は2電子還元を受ける。NQO−1は、このようなキノン化合物を二電子還元により無毒化する解毒酵素である。
TRXはリボヌクレオチドをデオキシリボヌクレオチドへと還元する反応を触媒する。TRXは活性中心のシステイン残基の1対のチオール基を介して強い還元活性を持ち、細胞内のレドックス制御に関わる抗酸化因子の1つであることが知られている。さらに、酸化ストレス負荷時にTRXの細胞外への放出が亢進することなどから、抗ストレス応答としてTRXの分泌が誘導されているとも考えられている。
【0007】
上記のように、Nrf2、及びNrf2により発現が制御される遺伝子群は、内在性及び外来性の環境ストレス、及び老化に対するに防御機能として非常に重要な役割を果たしている。従って、生体に対して安全性の高い薬剤をもってNrf2を活性化することやこの転写因子に発現が制御される遺伝子の発現を促進することは、活性酸素、化学物質、加齢が原因の疾病を予防・治療するのに非常に有用である。
【0008】
Nrf2活性化剤としては、イソフムロン類、異性化ホップエキス、ショウガオール化合物、プラティア属植物の抽出物、シトラス属植物の抽出物、ウコン抽出物などを含むものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、これらのNrf2活性化剤には、水溶性が低いなど、産業上の利用や摂取の形態が制限されるという問題があった。
【0009】
フラボノイドの一種であるヘスペリジンはビタミンPとも呼ばれ、柑橘類の皮などに多く含まれることが知られている物質である。このヘスペリジンが水に難溶であるのに対して、これにグルコースを結合させた糖化ヘスペリジンは水溶性が向上しており、食品製造等の種々の分野での利用が期待されている。糖化ヘスペリジンは経口摂取された場合、腸管でヘスペリジン、ついでアグリコンであるヘスペレチンへと代謝され、血中では主にヘスペレチングルクロン酸胞合体が検出される(例えば、非特許文献4参照)。
【0010】
糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンは、共に脂質代謝改善作用や毛細血管強化作用を有することが知られている(例えば、非特許文献5〜7参照)。これらの作用から、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンの循環器疾患治療への利用が期待されている(例えば、特許文献4参照)。また、従来ヘスペリジンについては、活性酸素、フリーラジカルを直接的に捕捉、消去するラジカルスカベンジャーとしての作用が報告されており(例えば、非特許文献8〜9参照)、抗酸化剤としての用途が知られている(例えば、特許文献5〜7参照)。しかし、これまで糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンと、Nrf2及びNrf2が発現を制御する遺伝子群との関連は報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2006/043671号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/073042号パンフレット
【特許文献3】特開2007−31315号公報
【特許文献4】特開2004−123753号公報
【特許文献5】特開2003−138258号公報
【特許文献6】特開2007−008847号公報
【特許文献7】特開2007−023008号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】鈴木隆史、山本雅之、実験医学、Vol.24、No.2、p.1737-1743(2006)
【非特許文献2】谷口直之、遠藤猛、酸化ストレス・レドックスの生化学、第1章「SODとNOおよびグルタチオン代謝のクロストークによるレドックス制御」(2000年10月)
【非特許文献3】岡新一、淀井淳司、医学のあゆみ、218巻、1号、p.25-29(2006)
【非特許文献4】Yamada,M.et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,70,1386(2006)
【非特許文献5】Garg,A.et al.,Phytother.Res.,15,955(2001)
【非特許文献6】Miwa,Y.et al.,J.Nutr.Sci.Vitaminol.(Tokyo),51,460-470(2001)
【非特許文献7】三鼓ら、「食品工業」、Vol.48、No.17、56-63(2005)
【非特許文献8】Wilmsen,P.K.et al.,J.Agric.Food Chem.,53,4757-4761(2005)
【非特許文献9】山田ら、「日本栄養・食糧学会誌」、56、355-363(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、優れたNrf2発現促進効果を有するNrf2活性化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンが、優れたNrf2活性化作用を奏し、生体内の抗酸化能及び解毒作用を増強させ、酸化ストレスや生体にとって異物となる化学物質等に起因しNrf2の活性化が治療に有効である組織障害の予防又は改善のために有用であることを見い出した。本発明はこの知見に基づいて完成させたものである。
なお、本発明において、Nrf2活性化作用とは、Nrf2の転写促進によりNrf2の発現を促進すること、Nrf2の翻訳を促進すること、Nrf2のmRNAや蛋白質の分解を抑制すること、Keap1との結合を阻害することや乖離を促進すること、Nrf2の核移行を促進すること、Nrf2の標的DNA配列への結合を促進すること、Nrf2に発現が制御される遺伝子の発現を促進することなどの概念を含む作用である。
【0015】
本発明は、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とすることを特徴とする転写因子Nrf2活性化剤に関する。
また、本発明は、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とすることを特徴とするGCLM、NQO−1及び/又はTRX遺伝子発現促進剤に関する。
また、本発明は、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とすることを特徴とする転写因子Nrf2の活性化が治療に有効な組織障害の予防又は改善剤に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のNrf2活性化剤は、優れたNrf2発現促進効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、ヘスペレチンによるNrf2遺伝子の発現促進作用を示す図である。
【図2】図2(a)は、ヘスペレチンによるGCLM遺伝子の発現促進作用を示す図である。図2(b)は、ヘスペレチンによるTRX遺伝子の発現促進作用を示す図である。図2(c)は、ヘスペレチンによるNQO−1遺伝子の発現促進作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
後述の実施例でも示すように、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とする本発明の転写因子Nrf2活性化剤は、Nrf2遺伝子の発現を促進する。さらに、前記活性化剤はNrf2を活性化し、Nrf2が結合するARE又はEpREの下流に位置するNrf2制御遺伝子(GCLM、HO−1、TXNRD1、フェリチン、SOD、カタラーゼ、GR、GST、NQO−1、TRX、UDP−糖転移酵素、GPX、PRDX、xCT遺伝子等)の発現を促進する。
【0019】
本発明で用いる糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンは公知の物質である。
糖化ヘスペリジンは、ヘスペリジンに1個〜数個のグルコースが結合した物質であり、具体的には、α−グルコシルヘスペリジンが挙げられる。一方ヘスペレチンは、ヘスペリジンをβ−グルコシダーゼ等の酵素により加水分解することによって得られる物質である。
これらの糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンは、化学合成や酵素反応を利用して通常の方法により工業的に製造することができる。またヘスペリジンについては、これを含有する天然物、特に植物から抽出することによって得ることもできる。
これら物質は、試薬等として製造販売されている。市販されている糖化ヘスペリジンの例としては、林原(株)からのヘスペリジン(登録商標)Sが挙げられる。市販されているヘスペリジンの例としては、浜理薬品工業(株)から販売されているヘスペリジンが挙げられる。市販されているヘスペレチンの例としては、シグマアルドリッチから販売されているヘスペレチンが挙げられる。
これらの糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンは従来から食品添加物として利用されている、極めて安全性の高い化合物である。
【0020】
後述の実施例に記載されるように、糖化ヘスペリジン及びヘスペリジンの代謝産物であるヘスペレチンにより、Nrf2、及びNrf2により発現が制御される遺伝子群の発現が促進される。糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンのNrf2活性化作用及びNrf2制御遺伝子群の発現促進作用は、生体内の抗酸化能及び解毒作用を増強させる。これらの作用は、従来公知であったこれらの物質の抗酸化作用(すなわち、ラジカルスカベンジャー作用)とは明確に区別できる作用である。すなわち、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンは酸化ストレスや化学物質などの生体異物に対する生体内での防御機構を増強させる作用を有しており、これらの作用は、従来公知の抗酸化作用とは無関係である。
【0021】
本発明によれば、Nrf2の活性化が治療に有効な組織障害又は病態が予防又は改善される。活性酸素や生体異物により障害を受ける組織は、生体内の任意の組織であり得、例えば、眼、神経、筋、上皮、血液、リンパ、消化管、血管、脳、骨、関節、皮膚、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、甲状腺等が挙げられる。組織障害及び病態の例としては、慢性炎症、癌、動脈硬化、高血圧症、脳神経変性疾患、皮膚疾患、喘息、肝機能障害、角結膜障害、緑内障性網膜症、視神経障害、糖尿病性網膜症、黄斑変性、白内障、光網膜症、糖尿病、紫外線応答性皮膚損傷、好中球減少症、細胞性免疫不全、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側策硬化症、肺気管支炎、リウマチ性関節炎、肝炎、膵炎、血管炎、食道炎、潰瘍性大腸炎等が挙げられる。
【0022】
本発明のNrf2活性化剤、及びNrf2の活性化が治療に有効な組織障害の予防又は改善剤には、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンのうちのいずれか1種を利用しても、2種以上を併用してもよい。当該活性化剤、及び予防又は改善剤は、ヒト又は動物用の医薬品若しくは食品の有効成分として配合することができる。前記食品は、一般食品の他、Nrf2活性化、GCLM、NQO−1及び/若しくはTRX遺伝子発現促進、又はNrf2の活性化が治療に有効な組織障害の予防若しくは改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品又は特定保健用食品等の機能性食品の形態とすることができる。
【0023】
本発明のNrf2活性化剤、又はNrf2の活性化が治療に有効な組織障害の予防若しくは改善剤を食品の有効成分として配合する場合、前記食品は固形、半固形又は液状の形態であり得る。前記食品はまた、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態又は顆粒形態等であってもよい。食品の例としては、ジュース、コーヒー、緑茶、ウーロン茶等の飲料;スープ等の液状食品;醤油、食酢等の液状調味料;牛乳、乳製品、カレー、味噌等の乳状又はペースト状食品;ゼリー、グミ等の半固形状食品;パン類、麺類、菓子類、豆腐、加工食品、サプリメント等の固形状食品;粉末状食品;食用油、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング等の油脂含有食品等が挙げられる。前記食品は、安全性に優れ、健常者が日常飲食しても、何ら問題ない。
【0024】
上記食品において、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン又はヘスペレチンは、他の食品材料と組み合わせた、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及び/又はヘスペレチンを含有する組成物として配合してもよい。食品は、必要に応じて食品添加物を含有してもよい。食品添加物の例としては、溶剤、油、軟化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、甘味料、香料等が挙げられる。
【0025】
上記食品への糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及び/又はヘスペレチンの配合量は、一食当たり0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜25質量%がより好ましくは、0.05〜10質量%がさらに好ましい。
【0026】
本発明のNrf2活性化剤、又はNrf2の活性化が治療に有効な組織障害の予防若しくは改善剤を医薬品の有効成分として配合する場合、該医薬品は、任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、経口及び非経口投与が挙げられる。経口投与のための剤型としては、錠剤、丸剤、カプセル剤(硬カプセル剤及び軟カプセル剤を含む)、散剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ、エリキシル、チュアブル剤、液剤(例えば、ドリンク剤)等が挙げられる。非経口投与としては、注射、輸液、経皮、経鼻、吸入、坐剤、ボーラス等が挙げられる。
【0027】
前記医薬品においては、糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及び/又はヘスペレチンを単独で配合してもよく、薬学的に許容される担体と組み合わせて配合してもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。
【0028】
前記医薬品又は食品からの糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン又はヘスペレチンの投与又は摂取量は、個体の状態、体重、性別、年齢、又はその他の要因に従って変動し得る。成人(体重60kg)の1日当りの投与又は摂取量は、0.001〜10gが好ましく、0.005〜5gがより好ましくは、0.01〜0.5gがさらに好ましい。上記医薬品又は食品は、1日に3回、1日に2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、又は任意の期間及び間隔で投与又は摂取され得る。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
実施例1 Nrf2の活性化
SD(Sprague-Dawley)ラットの胸部大動脈より採取した血管内皮細胞をコラーゲンコートされた12ウェルディッシュに2×105個/ウェルで播種し、10%牛胎児血清及びペニシリン−ストレプトマイシン(それぞれ100単位/mL、100μg/mL)を含有したDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)(シグマ社)を用いて、37℃、5%CO2条件下で3日間培養した。前記血管内皮細胞を試験前日より血清濃度を0.1%としたDMEMにて16時間培養し、次いで、この培地にヘスペレチン(シグマアルドリッチ社)を1又は50μMの濃度となるように添加し、6時間インキュベートした。インキュベート後、血管内皮細胞からRNeasy(登録商標)mini kit(キアゲン社)を用いてtotal RNAを抽出した。抽出したRNAサンプル1μgを用い、Omniscript(登録商標)Reverse Transcriptase(キアゲン社)により逆転写反応(37℃、60分)を行い、cDNAサンプルを合成した。
合成したcDNA(100ng)、デザインされたプローブ及びプライマーを混合したTaqMan(登録商標)gene expression assays(アプライドバイオシステムズ社、商品番号:Rn00477784_m1)0.5 μL、及びTaqMan(登録商標)Fast Universal PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)5μLを混合して、リアルタイムPCR法(95℃−20秒;1サイクル、95℃−3秒/60℃−30秒;40サイクル)によりNrf2遺伝子発現量を測定した。なお、Nrf2遺伝子発現量は、TaqMan(登録商標)gene expression assays(商品番号:Rn99999916_s1)を用いたこと以外は前記と同様にリアルタイムPCR法により測定したGAPDH遺伝子発現量に対する相対発現量で算出した。その結果を図1に示す。なお、コントロールとして、溶媒のジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて同様の操作を行った。
【0031】
図1の結果から、ヘスペレチンは有意にNrf2遺伝子の発現を促進することがわかる。
【0032】
実施例2 Nrf2制御遺伝子群の発現促進
実施例1と同様に、SDラット由来の血管内皮細胞に、ヘスペレチンを1又は50μMの濃度となるように添加し、6時間インキュベートした後の、Nrf2によって制御される各種遺伝子(GCLM遺伝子、TRX遺伝子及びNQO−1遺伝子)の発現量をリアルタイムPCR法により測定した。
なお、GCLM遺伝子用プライマーとしてTaqMan(登録商標)gene expression assays(アプライドバイオシステムズ社、商品番号:Rn00568900_m1)を、TRX遺伝子用プライマーとしてTaqMan(登録商標)gene expression assays(アプライドバイオシステムズ社、商品番号:Rn00587437_m1、)を、NQO−1遺伝子用プライマーとしてTaqMan(登録商標)gene expression assays(アプライドバイオシステムズ社、商品番号:Rn00566528_m1)をそれぞれ用いた。
ヘスペレチンによる、GCLM遺伝子、TRX遺伝子及びNQO−1遺伝子の発現量の変化をそれぞれ図2(a)〜(c)に示す。なお、コントロールとして、溶媒のDMSOを用いて同様の操作を行った。
【0033】
図2の結果から、各Nrf2制御遺伝子の発現量は、ヘスペレチンにより有意に増大し、GCLM遺伝子、TRX遺伝子及びNQO−1遺伝子の発現を促進することが明らかとなった。
GCLMは生体での抗酸化物質であるグルタチオン合成に関連する酵素であり、NQO−1は生体内での異物解毒に関連する酵素である。また、TRXは抗酸化タンパク質であり、生体内で酸化ストレス防御に働く。すなわち、実施例1でも示すようにヘスペレチンは生体内においてNrf2遺伝子の発現を促進してNrf2を活性化し、GCLM、NQO−1、TRX等のNrf2制御遺伝子の発現を促進することが明らかとなった。
【0034】
上記実施例から明らかなように、ヘスペレチンはNrf2遺伝子の発現促進作用を奏し、Nrf2を活性化する。さらに、Nrf2が結合するARE又はEpREの下流に位置し、Nrf2によって発現が制御されるGCLM遺伝子、TRX遺伝子及びNQO−1遺伝子等のNrf2制御遺伝子群の発現促進作用を奏する。前述したように、糖化ヘスペリジンが経口摂取された場合、腸管でヘスペリジン、ついでアグリコンであるヘスペレチンへと代謝される。従って、ヘスペレチン同様、糖化ヘスペリジン及びヘスペリジンもNrf2活性化作用及びNrf2制御遺伝子群発現促進作用を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とすることを特徴とする転写因子Nrf2活性化剤。
【請求項2】
転写因子Nrf2を活性化し、さらに、転写因子Nrf2によって遺伝子の発現が制御される抗酸化酵素及び/又は第二相酵素の遺伝子発現を促進することを特徴とする、請求項1に記載の活性化剤。
【請求項3】
前記抗酸化酵素及び第二相酵素が、glutamate-cystein ligase(GCLM)、NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ(NQO−1)及びチオレドキシン(TRX)からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の活性化剤。
【請求項4】
糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とすることを特徴とするglutamate-cystein ligase(GCLM)、NAD(P)H: キノンオキシドレダクターゼ(NQO−1)及び/又はチオレドキシン(TRX)遺伝子発現促進剤。
【請求項5】
糖化ヘスペリジン、ヘスペリジン及びヘスペレチンからなる群より選ばれる1種以上を有効成分とすることを特徴とする転写因子Nrf2の活性化が治療に有効な組織障害の予防又は改善剤。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256126(P2011−256126A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130982(P2010−130982)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】