説明

転写型インクジェット記録用中間転写体

【課題】 インクや凝集液が良好に塗布され、かつ繰り返し転写を行っても表面の撥水性が低下しにくい転写型インクジェット記録用中間転写体を提供すること。
【解決手段】 表層部に下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を少なくとも縮合して得られる化合物を有することを特徴とする転写型インクジェット記録用中間転写体。
一般式(1) X−Si(OR(R
(式中、Xはビニル基または環状エーテル基を有する置換基、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子、Rは炭素数1〜20のアルキル基、aは1〜3の自然数、bは0〜2の整数を表す。但し、a+b=3である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転写型インクジェット記録用中間転写体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを中間転写体の画像形成面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより、中間画像を形成し、形成した中間画像を記録媒体に圧着して、中間画像を画像形成面から記録媒体へ転写する転写型インクジェット記録方法が知られている。このような転写型インクジェット記録方法に用いられる中間転写体としては、その表面において中間画像を剥離し易い性質、即ち良好な転写性を有することが好ましい。
【0003】
従来、中間転写体上における中間画像の保持と、転写時の記録媒体への転写性については、いずれも中間転写体の表面自由エネルギーを低くすることが重要であると考えられてきた。そこで、中間転写体の表面(表層部)には、フッ素樹脂やシリコン系樹脂等、一般に表面自由エネルギーが低い、言い換えれば高い撥水性を有する材料が用いられてきた(特許文献1参照)。このような材料で形成した中間転写体表面の表面自由エネルギーを、代表的な指標である「純水に対する接触角」で表現すると、概ね110度程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−227177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転写型インクジェット記録方法に用いる中間転写体の画像形成面には、インクや、必要に応じて凝集液を付与して中間画像を形成する。このとき、画像形成面がインクや凝集液に対して適度な濡れ性を保ちつつ、中間画像を記録媒体へと良好に転写することが求められる。
【0006】
一方、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の中間転写体を用いた場合、インクや凝集液を付与すると、インクや凝集液が弾かれすぎてしまい、良好な中間画像を形成できないことがあった。
【0007】
また、繰り返し転写を行った場合に、中間転写体表面の撥水性が低下することがあった。この結果、初期の転写と繰り返し使用後の転写では、形成される画像品位が異なるという課題があった。
【0008】
従って、本発明は、インクや凝集液が良好に塗布され、かつ繰り返し転写を行っても表面の撥水性が低下しにくい転写型インクジェット記録用中間転写体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成する本発明は、インクを中間転写体の画像形成面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する中間画像形成工程と、該中間画像を記録媒体に圧着して該中間画像を該画像形成面から該記録媒体へ転写する転写工程とを有する転写型インクジェット記録方法に用いる中間転写体であって、表層部に下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を少なくとも縮合して得られる化合物を有することを特徴とする転写型インクジェット記録用中間転写体。
一般式(1) X−Si(OR(R
(式中、Xはビニル基または環状エーテル基を有する置換基、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子、Rは炭素数1〜20のアルキル基、aは1〜3の自然数、bは0〜2の整数を表す。但し、a+b=3である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクや凝集液が良好に塗布され、かつ繰り返し転写を行っても表面の撥水性が低下しにくい転写型インクジェット記録用中間転写体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の中間転写体の構成の模式図である。
【図2】本発明の転写型インクジェット記録装置の構成の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<転写型インクジェット記録用中間転写体>
本発明の転写型インクジェット記録用中間転写体の構成の模式図を図1に示す。中間転写体1は、表層部2を有する。中間転写体の画像形成面は、表層部2上(表面側)である。この画像形成面に、インクをインクジェットデバイスを用いて付与することにより、中間画像を形成する。
【0014】
本発明における中間転写体は、紙等の記録媒体に中間画像を圧着させて中間画像を転写するため、適度の弾性を有していることが好ましい。このため、例えば記録媒体として普通紙を用いる場合、中間転写体は、デュロメータ・タイプA硬度(JIS K 6253準拠)で10度以上100度以下の硬度のゴム部材を含有していることが好ましい。より好ましくは20度以上である。また、60度以下である。
【0015】
中間転写体は、単層であっても、複数の層で構成されていてもよい。例えば、記録媒体へ圧着して転写する際の圧力を均一化させるために、圧縮層を有していてもよい。圧縮層はゴムまたはエラストマーから成る多孔体であることが好ましく、従来公知の材料を用いて形成することができる。また、弾性特性、強度、熱的特性等を持たせるために、樹脂層、基布層、金属層等を有していてもよい。中間転写体の大きさは、目的の印刷画像サイズに合わせて自由に選択することができる。中間転写体の全体的な形状としては、シート形状、ローラ形状、ドラム形状、ベルト形状、無端ウエブ形状等が挙げられる。
【0016】
本発明において、「表層部」とは、中間転写体の表面側の部分を意味する。後述するが、表層部は一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物を有する。この一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物が、中間転写体の画像形成面、即ち表面に存在していることが、本発明の効果を発現する上で必要である。従って、表層部は、中間転写体の表面に露出した部分でさえあればよく、必ずしも層として設ける必要はなく、中間転写体を1層としてその表面側の領域を表層部としてもよい。また、表層部の厚みは特に限定されるものではない。層として設ける場合には、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物を含有する塗工液を塗工する方法が好ましい。
【0017】
表層部の厚みは0.01μm以上10.00μm以下であることが好ましい。特に、表層部を塗工液の塗工により形成する場合、表層部の厚みが0.01μmより薄いと膜強度が不十分となり、転写工程時の中間転写体全体の弾性変形により発生する応力で、表層部にクラックや層間剥離等が起こる場合がある。また、10.00μmより厚い場合では、表層部のクラックや層間剥離以外にも、表層部の弾性変形が抑制されてしまい、記録媒体の表面形状に追従できず、転写性が低下してしまう場合がある。
【0018】
表層部のクラックや層間剥離、転写性低下を抑制するためには、表層部の厚み以外にも、表層部と表層部に隣接する層とが十分な密着性を有していることが好ましい。密着性を向上させるためには、表層部に隣接する層上(表層部を設ける部分)に表面処理を施すことが好ましい。表面処理としては、フレーム処理、コロナ処理、プラズマ処理、研磨処理、粗化処理、活性エネルギー線照射処理(UV、IR、RF等)、オゾン処理、界面活性剤処理等が挙げられる。またこれらを複数組み合わせて表面処理を行ってもよい。さらなる密着性向上、塗工性改良のために、表層部を形成する塗工液にシランカップリング剤や含硫化合物等を添加することも好ましい。表層部を形成する塗工液の塗工は、従来知られている各種手法により行う。例えば、ダイコーティング、ブレードコーティング、グラビアローラ、またこれらにオフセットローラを組み合わせる手法等が挙げられる。
【0019】
中間転写体は、主にポリウレタン等の樹脂化合物やセラミック等を含有することが好ましい。加工特性の点で、各種エラストマー材料やゴム材料が好ましく用いられる。エラストマー材料、ゴム材料としては、例えばフルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン/プロピレン/ブタジエンのコポリマー、ニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。特に、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴムは、寸法安定性、耐久性、耐熱性等の点で好ましく用いられる。
【0020】
本発明者らは、良好な転写性の発現には、必ずしも中間転写体の表面エネルギーを低くする、言い換えれば撥水性を高くする必要はないことを見出した。即ち、中間転写体の表層部が下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を少なくとも縮合して得られる化合物を有することにより、良好な転写性が発現可能であることを見出した。
【0021】
一般式(1) X−Si(OR(R
(式中、Xはビニル基または環状エーテル基を有する置換基、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子、Rは炭素数1〜20のアルキル基、aは1〜3の自然数、bは0〜2の整数を表す。但し、a+b=3である。)
は、反応性の点から、特に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかであることが好ましい。R及びRのアルキル基は、無置換であっても、置換されていれもよい。Xはビニル基または環状エーテル基を有する置換基である。本発明においては、以下、化合物を縮合することで得られる化合物を、縮合化合物ともいう。
【0022】
一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物は、(OR)がSiに結合した構造を少なくとも一つの有している。係る基は、加水分解、脱水縮合反応によりシロキサン結合を形成することができる。即ち、係る基によって、一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物の縮合反応を行うことができる。本発明において、一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物の縮合反応とは、構造中にシロキサン結合を有する化合物を得る反応である。
【0023】
また、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物は、ビニル基または環状エーテル基を有する。ビニル基同士又は環状エーテル基同士はそれぞれ重合反応によって結合することができるため、一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物は、構造中のビニル基又は環状エーテル基の部分で重合することもできる。本発明においては、一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物を縮合すると共に、即ち、シロキサン結合を形成すると共に、一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物を重合することによって得られる化合物を用いることが好ましい。尚、縮合と重合とを両方行う場合、どちらの反応を先に行ってもよい。縮合に加えて更に重合を行うことで、一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物を縮合し得られる化合物の有機骨格が発達するので、化合物の耐アルカリ性(耐インク性)を向上させることができる。また、ビニル基または環状エーテル基の部分で重合された化合物は、撥水性低下の抑制の点でも好ましい。
【0024】
一般式(1)中のX−は、下記式(a)または(b)であることが好ましい。
式(a)
【0025】
【化1】

【0026】
(式(a)中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子又はメチル基である。)
式(b)
【0027】
【化2】

【0028】
(式(b)中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【0029】
本発明の中間転写体の表面の純水に対する接触角は、100度以下であることが好ましい。また、80度以下であることがより好ましい。純水に対する接触角が小さいほど、付与した凝集液やインクが中間転写体上で弾かれてしまうことを抑制することができる。尚、純水に対する接触角は、一般的な接触角計を用いて測定することができる。
【0030】
また、中間転写体を繰り返し使用すると、表面の撥水性が低下する場合がある。表面の撥水性が低下した場合には、付与された凝集液やインクの状態が変化し、初期の転写と繰り返し後の転写で、形成される画像品位が異なってしまう。このように、繰り返し使用した場合における、中間転写体表面の撥水性低下を抑えることは、中間転写体にとって重要である。本発明の中間転写体は、表層部に一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物を有するため、この点で非常に優れている。
【0031】
本発明の中間転写体の表層部は、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物を10質量%以上100質量%以下含有していることが好ましい。好ましくは、30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0032】
さらに、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物は、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物と下記一般式(2)で表される有機ケイ素化合物とを縮合して得られる化合物であることが好ましい。
【0033】
一般式(2) Si(OR(R
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子、Rは炭素数1〜20のアルキル基、c及びdは各々1〜3の自然数を表す。但し、c+d=4である。)
は、反応性の点から、特に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基であることが好ましい。R及びRのアルキル基は、無置換であっても置換されていれもよい。
【0034】
上記一般式(1)、一般式(2)で表される有機ケイ素化合物に関して、それぞれR、Rに長鎖のアルキル基を導入すると、樹脂を混合する際に、相溶性が向上することに加えて、さらなる柔軟構造を導入することができる。これは、長鎖アルキル基のような柔軟な骨格が側鎖として存在する場合、分子鎖の運動性が向上し、内部応力緩和が促進されるためであると推測される。ただし、あまりに炭素数が多くなると、疎水性が強くなり、均一な加水分解、縮合反応が困難となる。そのため、R及びRはそれぞれ炭素数20以下のアルキル基であることが好ましい。柔軟構造導入という点では、炭素数3以上のアルキル基が好ましい。また、過剰な疎水性の発現を防ぐという点では、炭素数10以下のアルキル基が好ましい。
【0035】
一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物と一般式(2)で表わされる有機ケイ素化合物とを縮合した化合物を用いる場合、係る化合物を製造する際に用いる一般式(2)で表わされる有機ケイ素化合物と、係る化合物を製造する際に用いる一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物との質量比は、1:9〜9:1であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましい。
【0036】
一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、2−(エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン。これらの化合物のエポキシ基をオキセタニル基に置換した化合物。アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン等である。
【0037】
一般式(2)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン等である。
【0038】
一般式(1)、一般式(2)で表される有機ケイ素化合物は、その加水分解、脱水縮合反応により、シロキサン結合が形成可能である基、即ち、一般式(1)、(2)中の(OR)及び(OR)を、同一ケイ素原子上に1〜3個有している。本発明では、この同一ケイ素原子上のシロキサン結合を形成可能な基の数を、化合物の官能基数と定義する。本発明では、縮合反応により形成されたシロキサン結合による骨格が重要である。中間転写体は、形成した中間画像を紙等の記録媒体に圧着して転写するため、記録媒体の表面形状に追従して変形することが好ましい。このためには、本発明の中間転写体に用いる縮合化合物は、変形に対する耐性を持つような骨格を有する必要がある。即ち、変形に対する応力を緩和できるような柔軟性を持つ構造を有することが好ましい。本発明者らの検討によれば、縮合化合物が一般式(1)で表される有機ケイ素化合物と一般式(2)で表される有機ケイ素化合物の縮合化合物である場合、これらの化合物の含有割合や、官能基数によって、縮合化合物の特性を制御できることが分かった。例えば、官能基数が多いほど柔軟性が低下し、官能基数が少ないほど柔軟性が向上する。3官能(官能基数3つ)と3官能の有機ケイ素化合物の組合せを縮合して得られる化合物が、最も3次元架橋が発達した骨格が得られる。さらに、3官能と2官能の組合せ、2官能と2官能の組合せの順に、3次元架橋構造が形成され難く、線状構造が形成されることになる。即ち、一般的に3次元架橋構造の方が柔軟性が低く、線状構造の方が柔軟性が高い。このため、耐クラック性のみを考えた場合、官能基数は少ない方が好ましいことになる。
【0039】
一方、1官能の有機ケイ素化合物ではシロキサン骨格の末端となるため、架橋密度の低下、即ち耐クラック性の向上には寄与するものの、樹脂骨格を形成しにくく、塗工性や成膜性が良好でなくなる場合がある。従って、耐クラック性、塗布性、及び成膜性等を鑑み、シロキサン骨格の官能基数や、一般式(1)、一般式(2)で表される有機ケイ素化合物の比率等を選択することが好ましい。
【0040】
本発明では、一般式(1)及び一般式(2)における「a」及び「c」が、それぞれの官能基数を示す。本発明では、a+c≧4の関係を満たすことが好ましい。また、a≧2かつc≧2であることがより好ましい。加えて、a=2かつc=2であることがさらに好ましい。また、1官能の有機ケイ素化合物を用いる場合は、1官能の有機ケイ素化合物は全縮合化合物の30mol%以下であることが好ましい。
【0041】
本発明において、有機ケイ素化合物の縮合反応は、水の存在下で加熱することにより、加水分解と縮合反応を進行させることによって行われる。加水分解、縮合反応を温度、時間、pH等で適宜制御することで、所望の縮合度を得ることが可能である。また、酸触媒またはアルカリ触媒等を用いてもよい。縮合反応の進行度合(縮合度)は、縮合可能な官能基数に対する縮合した官能基数の割合で定義することができ、実際にはSi−NMR測定によって見積もることができる。例えば、3官能の有機ケイ素化合物の場合には、以下のようにして算出する。
T0体:他のケイ素原子とは酸素を介して結合していないケイ素原子。
T1体:1つのケイ素原子と酸素を介して結合しているケイ素原子。
T2体:2つのケイ素原子と酸素を介して結合しているケイ素原子。
T3体:3つのケイ素原子と酸素を介して結合しているケイ素原子。
【0042】
【数1】

【0043】
また、2官能の有機ケイ素化合物の場合には、以下のようにして算出する。
D0体:他のケイ素原子とは酸素を介して結合していないケイ素原子。
D1体:1つのケイ素原子と酸素を介して結合しているケイ素原子。
D2体:2つのケイ素原子と酸素を介して結合しているケイ素原子。
【0044】
【数2】

【0045】
縮合度は、有機ケイ素化合物の種類、合成条件によって異なるが、低すぎる場合には塗布性、成膜性等に劣る場合がある。そのため、縮合度は20%以上であることが好ましい。さらには、30%以上であることがより好ましい。
【0046】
また、加水分解反応に際して、中心金属としてケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムから選ばれる有機金属化合物を加水分解の触媒として利用し、縮合度を制御することも可能である。例えば、チタニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド及びそれらの錯体(アセチルアセトネート錯体等)等が挙げられる。これらの有機金属化合物は、有機ケイ素化合物の縮合反応時に添加してもよく、有機ケイ素化合物の縮合化合物に対して添加してもよい。
【0047】
本発明における中間転写体の表層部は、上述したように有機ケイ素化合物を縮合することによって得られる化合物を有し、さらに、そのビニル基または環状エーテル基の部分で重合することが好ましい。
【0048】
重合に用いるカチオン重合開始剤としては、例えば光照射によりカチオン種またはブレンステッド酸を発生する光カチオン重合開始剤、または熱によりカチオン種またはブレンステッド酸を発生する熱カチオン重合開始剤が挙げられる。具体的には、オニウム塩、ボレート塩、トリアジン化合物、アゾ化合物、過酸化物等が挙げられる。感度、安定性、反応性、溶解性の面から、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩が好ましく用いられる。カチオン重合開始剤は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
また、カチオン重合開始剤を用いる場合、中間転写体の表層部はカチオン重合性樹脂を含有してもよい。カチオン重合性樹脂とは、カチオン重合性の基である、ビニル基、環状エーテル基等を有する化合物を含む樹脂のことである。中でもエポキシ基、オキセタニル基を有する樹脂が好ましく用いられる。エポキシ基を有する樹脂の具体例としては、ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテル、ビスフェノール−F−ジグリシジルエーテル等、ビスフェノール骨格を有するモノマーまたはオリゴマーからなるビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシ構造を有する樹脂が挙げられる。また、オキセタン化合物を含有する樹脂としては、フェノールノボラック型オキセタン化合物、クレゾールノボラック型オキセタン化合物、トリスフェノールメタン型オキセタン化合物、ビスフェノール型オキセタン化合物、ビフェノール型オキセタン化合物等からなる樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂にこれらオキセタン化合物からなる樹脂を併用する場合、硬化反応が促進される。
【0050】
重合に用いるラジカル重合開始剤としては、光照射によりラジカル種を発生する光ラジカル重合開始剤、または熱によりラジカル種を発生する熱ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ヒドロパーオキサイド類、パーオキシエステル類等の有機過酸化物、アゾ系化合物、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾイン及びベンゾインエーテル化合物、アミノカルボニル化合物、チオキサントン類等のカルボニル化合物、スルフィド類、過酸化物等が挙げられる。ラジカル重合開始剤は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
また、ラジカル重合開始剤を用いる場合、中間転写体の表層部はラジカル重合性樹脂を含有してもよい。ラジカル重合性樹脂とは、ラジカル重合性の基であるビニル基等を有する化合物を含む樹脂のことである。中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基を有する化合物が好ましく用いられる。ラジカル重合性樹脂としては、例えば、以下の重合性単量体の重合体、または、重合性単量体単独の重合体の混合物、あるいは、2種類以上の重合性単量体の共重合体が挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。スチレン系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン等が挙げられる。
【0052】
カチオン重合性樹脂或いはラジカル重合性樹脂を含有させる場合、表層部に十分な柔軟性を付与するために、官能基当量が大きい樹脂や、線状骨格を有するような従来公知の樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂は、表層部に対して5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。多種多様な記録媒体の種類、中間転写体上における画像保持性、転写時の記録媒体への画像転写効率や転写画像の画質等に対応できる最適な構成に加えて、耐久安定性の観点から各層の厚み、硬度、弾性率等を適切に選択する。
【0053】
中間転写体の表層部を形成するにあたり、活性エネルギー線の照射による硬化、もしくは加熱による硬化工程を用いることにより、薄く均一で機械的強度に優れた表層部を形成することができる。このことも、転写性が良好となる要因となる。さらに、表層部に隣接する層との密着性にも優れるため、耐久性にも優れる。活性エネルギー線としては、電子線、X線等を用いることができるが、作業性等の点から紫外線が好ましく用いられる。
【0054】
表層部を形成する塗工液を塗工する場合には、塗工性を向上させる目的で、塗工液中に界面活性剤や、硬化を促進する補触媒等の添加剤を適宜含有させることも好ましい。また溶媒を含まず塗工膜全てを硬化させるような構成としてもよい。
【0055】
転写型インクジェット記録方法において、用いるインクや凝集液の表面エネルギーは、20mN/m以上50mN/m以下であることが一般的である。本発明においては、各液体を中間転写体表面上に適切に付与するために、適度な濡れ性及び転写性を両立することが、中間転写体の表面設計において重要となる。
【0056】
また、中間転写体への中間画像の形成を良好なものとし、中間転写体上における中間画像の保持性を向上させるために、中間転写体の平均表面粗さRaは0.01μm以上3.00μm以下であることが好ましい。
【0057】
<転写型インクジェット記録装置>
本発明の転写型インクジェット記録装置を図2に示す。図2では、塗布ローラ14により凝集液が付与された中間転写体11上の画像形成面に、インクをインクジェットデバイス15を用いて付与することにより、中間画像を形成する。そして、圧着ローラ18により、中間転写体上に形成した中間画像を記録媒体17に圧着して、中間画像を記録媒体へ転写する。
【0058】
本発明の中間転写体は、支持部材12上に設置することができる。支持部材12は軸13を中心として矢印方向に回転駆動し、その回転と同期して、周辺に配置された各デバイスが作動するようになっている。支持部材は、その搬送精度や耐久性の観点からある程度の構造強度が求められる。支持部材の材質には金属、セラミック、樹脂等が好ましく用いられる。中でも特に、転写時の加圧に耐え得る剛性や寸法精度のほか、動作時のイナーシャを軽減して制御の応答性を向上するために、以下のものが好ましく用いられる。例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン、シリカセラミクス、アルミナセラミクス等である。またこれらを組み合わせて用いるのも好ましい。支持部材は、適用する記録装置の形態または記録媒体への転写態様に合わせ、例えばローラ状、ベルト状の物も好ましく使用することができる。ドラム状の支持部材やベルト状の無端ウエブ構成の支持部材を用いると、同一の中間転写体を連続して繰り返し使用することが可能となり、生産性の面から極めて好ましい。
【0059】
(凝集液付与工程)
中間転写体には、インクを付与する前に凝集液を付与しておくことが好ましい。凝集液を付与する方法は、従来知られている各種手法を適宜用いることができる。例としては、ダイコーティング、ブレードコーティング、グラビアローラ、またこれらにオフセットローラを組み合わせた物等が挙げられる。また、高速高精度に付与できる手法としてインクジェットデバイスを用いるのも好ましい。
【0060】
凝集液は、インクを高粘度化する成分を含有する。かかる成分は中間転写体上でのインク及び/又はインク組成物の一部の流動性を低下させ、インクの滲みや混じり合いであるブリーディング、ビーディング等を抑制する効果がある。即ち、インクジェットデバイスを用いた画像形成においては単位面積当たりのインク付与量が多量となる場合がある。このような場合に、ブリーディング、ビーディングが起こりやすい。しかし、凝集液が中間転写体上に付与されていることによって、インクにより画像が形成される時に流動性が低下するため、ブリーディングやビーディングが起こりにくく、結果として画像が良好に形成・保持される。
【0061】
インクを高粘度化する成分は、画像形成に用いるインクの種類によって適切に選択するのが好ましい。例えば、染料系のインクに対しては高分子凝集剤を含有する凝集液を用いることが好ましい。或いは、微粒子が分散されてなる顔料系のインクに対しては、多価の金属イオンを含有する凝集液や、酸緩衝液等のpH調整剤を含有する凝集液を用いることが好ましい。また別のインク高粘度化成分の例として、カチオンポリマー等複数のイオン性基を有する化合物を用いるのもよい。また、これらの化合物を2種類以上併用するのも有効である。具体的にインク高粘度化成分として使用できる高分子凝集剤としては、例えば、陽イオン性高分子凝集剤、陰イオン性高分子凝集剤、非イオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤等が挙げられる。
【0062】
インクを高粘度化する成分として用いる金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+及びZn2+等の二価の金属イオンや、Fe3+、Cr3+、Y3+及びAl3+等の三価の金属イオンが挙げられる。これらの金属イオンを含有する凝集液を塗布する場合には、金属塩水溶液として塗布することが好ましい。金属塩の陰イオンとしては、Cl、NO、CO2−、SO2−、I、Br、ClO、HCOO、RCOO(Rはアルキル基)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。金属塩水溶液の金属塩濃度は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、20質量%以下が好ましい。
【0063】
インクを高粘度化する成分として用いるpH調整剤としては、pHが7.0より低い酸性溶液が好ましく用いられる。例としては塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等の無機酸、蓚酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸等の有機酸が挙げられる。またこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩の溶液も同様に好ましく用いることができる。
【0064】
また、pH緩衝能を有する酸緩衝液(バッファー)は、インクにより見かけ上の凝集液濃度が低下してもpHの変動が少なく、インクとの反応性が低下しにくいので、好ましく用いられる。pH緩衝能を得るためには、凝集液中に緩衝剤を含有させることが好ましい。緩衝剤としては、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム等の酢酸塩、りん酸水素塩、炭酸水素塩、或いは、フタル酸水素ナトリウム、フタル酸水素カリウム等の多価カルボン酸の水素塩を用いることができる。多価カルボン酸としては、例えばフタル酸以外にも、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、トリメリット酸等が挙げられる。これ以外でも、添加することでpHに対して緩衝作用を発現させる従来公知の化合物は、いずれも好ましく用いることができる。
【0065】
本発明の凝集液は、上記したようなインクを高粘度化させる成分を、水性媒体に溶解することで得てもよい。水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。具体的には、例えば、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等のグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン、又は、ケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類。チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体等の多価アルコール類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物等が好ましく用いられる。また、これらの中から2種類以上の物を選択して混合して用いることもできる。凝集液は必要に応じて所望の性質を持たせるため、上記の成分のほかに消泡剤、防腐剤、防黴剤等を適宜に添加することができる。
【0066】
凝集液には、転写性を向上させるため、もしくは最終的に形成された画像の堅牢性を向上させるために、各種樹脂を添加することもできる。樹脂を添加しておくことで転写時の記録媒体への接着性を高めたり、中間画像の機械強度を高めたりすることが可能である。また、種類によっては、記録媒体上での最終画像の耐水性の向上も見込める。用いられる材料としてはインク高粘度化成分と共存できるものであれば制限は無い。例としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の有機ポリマーが好ましく用いられる。またインクに含まれる成分と反応し架橋するような樹脂も好ましい。例えばインク中での色材分散のために頻繁に用いられるカルボン酸と反応し架橋する、ポリオキザゾリンやポリカルボジイミドが挙げられる。これらの樹脂は凝集液溶媒に溶解させて用いてもよいし、エマルション状態やサスペンション状態で添加してもよい。また、凝集液には界面活性剤を加えて表面張力を適宜調整してもよい。
【0067】
(中間画像形成工程)
中間転写体11の画像形成面に、インクジェットデバイス15を用いてインクが付与される。図2においては、凝集液を付与した画像形成面に、インクを付与する。インクジェットデバイスとしては、例えば電気−熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する形態、電気−機械変換体によってインクを吐出する形態、静電気を利用してインクを吐出する形態等がある。高速で高密度の印刷の観点からは電気−熱変換体を利用した形態が好ましく用いられる。
【0068】
インクジェットデバイス全体の形態としては、特に制限はない。ラインヘッド形態のヘッドや、シャトル形態のヘッドをいずれも好適に用いることもできる。
【0069】
本発明におけるインクは、インクジェット用インクとして広く用いられているインク、具体的には染料やカーボンブラック、有機顔料といった色材を溶解及び/または分散させた各種インクを用いることができる。中でも、カーボンブラックや有機顔料インクは、耐候性や発色性の良い画像が得られるため好ましい。
【0070】
インクとしては、水を含む水性インクが好ましい。特に成分中に水分を45.0質量%以上含むインクが好ましい。インクの色材含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、15.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましい。色材としては染料や顔料、及びそれに付随する樹脂等が含まれ、特開2008−018719号公報に記載されているような従来公知の色材を用いることができる。
【0071】
また、最終的に記録媒体に形成された画像の堅牢性を向上させるために、インクに水溶性樹脂や水溶性架橋剤を添加することもできる。用いられる材料としてはインク成分と共存できるものであれば制限は無い。
【0072】
本発明の転写型インクジェット記録方法においては、記録媒体に転写するときのインクは、ほぼ色材と高沸点有機溶剤だけとなる。このため、転写性向上のために有機溶剤を含有させることが有効である。有機溶剤としては、高沸点で蒸気圧の低い水溶性の材料であることが好ましい。例えば、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等のグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン、又は、ケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類。チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物等が好ましく用いられる。これらの中から2種類以上の物を選択して混合して用いることもできる。
【0073】
また、本発明のインクは、必要に応じてpH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、水溶性樹脂の中和剤、塩等の、種々の添加剤を含有してもよい。また、必要に応じて界面活性剤を加えてインクの表面張力を適宜調整してもよい。界面活性剤としては、インクに対して保存安定性等に大きな影響を及ぼさないものであれば限られるものではない。例えば脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。またこれらの2種以上を適宜選択して使用することもできる。
【0074】
インクを構成する成分の配合比は、選択したインクジェットヘッドの吐出力、ノズル径等から吐出可能な範囲で、適宜調製すればよい。
【0075】
(乾燥工程)
図2においては、ヒーター16により、中間画像から液体分を減少させている。中間画像の液体分が過剰であると、次の転写工程において余剰液体がはみ出すことや、あふれ出すことがある。この結果、中間画像が乱れたり転写性が低下したりすることがある。液体分除去の手法としては、従来用いられている各種手法がいずれも好ましく適用できる。例えば、加熱による方法、低湿空気を送風する方法、減圧する方法、吸収体を接触させる方法、また、これらを組み合わせる方法等である。或いは、自然乾燥により乾燥を行うことも可能である。
【0076】
(転写工程)
乾燥工程後、中間画像を記録媒体に圧着して、中間画像を中間転写体の画像形成面から記録媒体へ転写することで、最終画像を記録した印字物を得る。本発明における記録媒体とは、一般的な印刷で用いられる普通紙や光沢紙のみならず、広く、布、プラスチック、フィルムその他の印刷媒体等も含めたものである。圧着の際には、加圧ローラ18を用いて中間転写体と記録媒体の両側から加圧すると、効率良く中間画像が転写形成されるため好ましい。また、多段階に加圧することも良好な転写性が得られるので好ましい。
【0077】
(洗浄工程)
中間転写体は、生産性の観点から繰り返し連続的に用いることがあり、その際には、次の画像形成を行う前に、洗浄ローラ19等で表面を洗浄再生することが好ましい。洗浄再生を行う手段としては、旧来用いられている各種手法がいずれも好ましく適用できる。例えばシャワー状に洗浄液を当てる方法、濡らしたモルトンローラを表面に当接させ払拭する方法、洗浄液面に接触させる方法、またワイパーブレードで掻き取る方法、各種エネルギーを付与する方法等が挙げられる。これらは複数組み合わせてもよい。
【実施例】
【0078】
以下に本発明の実施例、及び比較例について説明する。本発明における実施例及び比較例となる、転写型インクジェット記録用中間転写体を、以下の方法で作製した。
【0079】
まず、以下の手順により加水分解性縮合化合物を合成した。構成単位A及び構成単位Bを表1に従い混合し、塩酸を触媒として水溶媒中で24時間以上加熱還流して縮合を行い、加水分解性縮合化合物を含有する溶液を得た。構成単位が1つのみの場合には、構成単位1つのみで縮合を行った。
【0080】
【表1】

【0081】
表1中の化合物名は、以下の化合物の略称である。また、「a」は一般式(1)中の自然数を、「c」は一般式(2)中の自然数を表したものである。
(以下、一般式(1)で表される化合物)
GPTES:グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
GPMDES:グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン
GPDMES:グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン
MPTES:メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン
MPMDES:メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン
(以下、一般式(2)で表される化合物)
MTES:メチルトリエトキシシラン
DMDES:ジメチルジエトキシシラン
TMES:トリメチルエトキシシラン
HexylTES:ヘキシルトリエトキシシラン
(以下、その他の化合物)
FAS17: 1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン
【0082】
表中のEX−212とは、樹脂化合物(添加剤)である、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX−212、ナガセケムテックス製)である。TC−310とは、有機金属化合物(添加剤)である、ジヒドロキシビス(ラクテート)チタン(商品名:TC−310、マツモトファインケミカル製)である。添加量は加水分解性縮合化合物100質量部に対する量(phr)である。
【0083】
次に、得られた加水分解性縮合化合物を含有する溶液を、メチルイソブチルケトンにより15質量%に希釈した。実施例1〜16及び比較例1、2、4、5では、光カチオン重合開始剤(商品名:SP150、ADEKA製)を全固形分に対して5質量%添加した。実施例17〜20では、光ラジカル重合開始剤(商品名:IRGACURE184、チバ・ジャパン製)を全固形分に対して5質量%添加した。このようにして表層部を形成する塗工液を得た。
【0084】
次に、中間転写体の本体部として、厚さ0.05mmのPETフィルム上に、ゴム硬度40度のシリコーンゴムまたはウレタンゴムを0.2mmの厚さでコーティングしたものを用意した。本体部に対し、得られた塗工液をスピンコートにて塗工・成膜を行い、表層部を設けた。表層部を設けた後、UVランプを照射して露光し、120℃にて2時間の加熱を行い、表層部を硬化させた。表層部の厚みは、いずれの中間転写体においても1.0μmであった。
【0085】
<評価>
以上の中間転写体について、図2に示す中間転写型インクジェット記録装置を用いて評価を行った。中間転写体の支持部材は、アルミニウム合金からなる円筒形のドラムを用いた。
【0086】
まず、塩化カルシウム(CaCl・2HO)の13質量%水溶液に界面活性剤や添加剤を適宜添加して、表面張力及び粘度を調整して凝集液を得た。得られた凝集液を、ローラ式塗布装置を用いて中間転写体の表面に連続的に付与した。次に、画像形成用のインクを、中間転写体の画像形成面へとインクジェットデバイスから吐出し、中間転写体上に中間画像(ミラー反転している画像)を形成した。インクジェットデバイスとしては、電気−熱変換体を用い、オンデマンド方式にてインク吐出を行うタイプのデバイスを用いた。インクは、下記組成の樹脂分散型顔料インクを用いた。
・C.I.ピグメントブルー15 3.0質量部
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体(酸価240、重量平均分子量5000) 1.0質量部
・グリセリン 10.0質量部
・エチレングリコール 5.0質量部
・アセチレノールE100(商品名) 0.5質量部
・イオン交換水: 80.5質量部
【0087】
(接触角の変化)
凝集液を付与する前の初期状態における、中間転写体表面の純水に対する接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計DM−501(協和界面科学製)を用いて行った。
【0088】
次に、記録媒体として長尺・ロール状の表面親水処理化ペットフィルム(厚さ150μm)を用い、上記方法で形成した中間画像を記録媒体へと圧着・転写することで、最終画像を形成した。転写は連続して30000回行い、30000回転写を繰り返した後の純水に対する接触角についても同様にして測定した。
【0089】
初期状態と繰り返し転写後の中間転写体表面の純水に対する接触角の変化について、以下の基準で評価した。
A;初期状態と繰り返し転写後で、接触角の変化が5%未満である。
B;初期状態と繰り返し転写後で、接触角の変化が5%以上10%未満である。
C;初期状態と繰り返し転写後で、接触角の変化が10%以上である。
【0090】
(凝集液塗布性)
凝集液を付与する前の初期状態における、転写体表面に付与された凝集液の均一性を、以下の基準で目視で評価した。
A:転写体表面に均一に付与されている。
B:転写体表面にほぼ均一に付与されている。
C:転写体表面へ均一に付与されていない。
【0091】
(耐クラック性)
30000回の転写を行った後の、中間転写体の表層部の耐クラック性を、以下の基準で目視で評価した。
AA:30000回の転写を繰り返しても、表層部のクラックは観察されない。
A:20000回の転写では表層部のクラックは観察されないが、30000回の転写では表層部のクラックが観察される。
B:10000回の転写では表層部のクラックは観察されないが、20000回の転写では表層部のクラックが観察される。
【0092】
以上の評価結果を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
表2に示す通り、表層部に一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物を有する実施例1〜20の中間転写体は、初期状態と繰り返し転写後で、表面の撥水性の変化は小さいものであった。また、初期状態と繰り返し転写後で、得られる画像の画像品位に差はなかった。
【0095】
一方、表層部に一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を縮合して得られる化合物を有していない比較例1〜6の中間転写体は、初期状態と繰り返し転写後で、表面の撥水性の変化が大きいものであった。また、初期状態と繰り返し転写後で、得られる画像の画像品位に差が認められ、安定した画像記録を行うことが困難であった。さらに、比較例2、4の中間転写体は、表面で凝集液を弾いてしまい、塗布状態の均一性が得られにくい結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを中間転写体の画像形成面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する中間画像形成工程と、該中間画像を記録媒体に圧着して該中間画像を該画像形成面から該記録媒体へ転写する転写工程とを有する転写型インクジェット記録方法に用いる中間転写体であって、
表層部に下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を少なくとも縮合して得られる化合物を有することを特徴とする転写型インクジェット記録用中間転写体。
一般式(1) X−Si(OR(R
(式中、Xはビニル基または環状エーテル基を有する置換基、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子、Rは炭素数1〜20のアルキル基、aは1〜3の自然数、bは0〜2の整数を表す。但し、a+b=3である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物中のX−が、下記式(a)又は(b)である請求項1に記載の転写型インクジェット記録用中間転写体。
式(a)
【化1】


(式(a)中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子又はメチル基である。)
式(b)
【化2】


(式(b)中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【請求項3】
前記化合物が、前記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物と下記一般式(2)で表される有機ケイ素化合物とを縮合して得られる化合物である請求項1又は2に記載の転写型インクジェット記録用中間転写体。
一般式(2) Si(OR(R
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子、Rは炭素数1〜20のアルキル基、c及びdは各々1〜3の自然数を表す。但し、c+d=4である。)
【請求項4】
前記a及びcが、a+c≧4を満たす請求項3に記載の転写型インクジェット記録用中間転写体。
【請求項5】
前記a及びcが、a≧2かつc≧2を満たす請求項3又は4に記載の転写型インクジェット記録用中間転写体。
【請求項6】
前記化合物が、ビニル基または環状エーテル基の部分で更に重合された化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の転写型インクジェット記録用中間転写体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−45922(P2012−45922A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131403(P2011−131403)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】