説明

転写装置

【課題】どのような形状の被転写ワークであっても、その表面に、転写フィルムに印刷された柄や機能膜をきれいに転写する。
【解決手段】互いの処理室20,30の開口部2c,3cが対向するように一対のチャンバ2,3が配置され、各処理室20,30の開口部2c,3cが密着されて取り付けられた際に、各チャンバ2,3の処理室20,30を仕切れるように、いずれか一方の開口部2c,3cに、転写フィルムFをセットし、一方のチャンバ3の処理室30に被転写ワークWを載置し、各チャンバ2,3の処理室20,30を同時に真空引きした後、他方のチャンバ3の処理室30の真空引きを停止するとともに、一方のチャンバ3の処理室30をさらに真空引きを継続し、その後、他方の処理室20を徐々に真空破壊して、被転写ワークWの表面Waに転写フィルムFを接地する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被転写ワークに、転写フィルムに印刷された柄(模様)や更に機能膜を転写する転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の転写装置としては、互いの処理室の開口部が対向するように配置される上下一対のチャンバと、各チャンバの処理室の開口部が密着されて取り付けられた際に、各チャンバの処理室を仕切れるように、下側のチャンバの開口部の対向端面にセットされる転写フィルムと、該転写フィルムによって仕切られる上下の処理室の内部圧力を調整する手段と、転写フィルムを加熱する加熱手段(ヒータ)と、被転写ワークの表面に密着した転写フィルムに印刷された柄(模様)を、被転写ワークの表面に押し付けて転写させるラバー部材とをさらに備えたものが公知になっている(例えば、特許文献1)。
【0003】
かかる転写装置によれば、転写フィルムによって仕切られた上下の処理室の内部を真空引きした後、加熱手段のヒータによって転写フィルムを加熱し、その後、上側の処理室に空圧ポンプからの圧縮空気を圧入して、被転写ワークの表面に転写フィルムを密着させ、被転写ワークの表面に密着した転写フィルムに印刷された柄を、ラバー部材によって、被転写ワークの表面に押し付けて転写させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−110984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の前記転写装置は、被転写ワークの表面に転写フィルムが密着する前に、転写フィルムによって仕切られる各チャンバの処理室の内部圧力の調整を行うと共に、転写フィルムを加熱しているので、転写フィルムが伸びると同時に、転写フィルムの接着剤も加熱して接地させるので、三次元面を有する被転写ワークに対して転写フィルムと被転写ワークの表面との間はフィルムの滑りが損なわれ空気が溜まったりシワが生じたり等の問題が生じて、信頼性のあるフィルム接地と密着を行うことはできない。
したがって、限界の有る形状での加飾転写に止まり信頼性を必要とする機能膜の転写には問題がある。
【0006】
また、被転写ワークの表面に密着した転写フィルムを、ラバー部材で押し付けて転写しているので、被転写ワークの形状によっては転写できない場合がある。例えば、アンダーカットされた被転写ワークの表面および該表面に密着した転写フィルムに対して、ラバー部材の表面を均一に圧接させるのが難しく、転写フィルムに印刷されている柄を、アンダーカットされた被転写ワークの表面にきれいに転写できない場合がある。
【0007】
そこで、本願発明は、上記問題に鑑み、どのような形状の被転写ワークであっても、その表面に、転写フィルムに印刷された加飾柄ばかりでなく、密着保障が要求される機能膜に対しても密着の信頼性の高い転写ができる転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の転写方法は、互いの処理室20,30の開口部2c,3cが対向するように一対のチャンバ2,3が配置され、各処理室20,30の開口部2c,3cが密着されて取り付けられた際に、各チャンバ2,3の処理室20,30を仕切れるように、いずれか一方の前記開口部2c,3cに、転写フィルムFをセットする転写フィルムセット工程と、一方のチャンバ2の処理室20に被転写ワークW,W1〜W4を載置する被転写ワークセット工程とを備えた転写方法において、各チャンバ2,3の転写フィルムFで仕切られた処理室20,30を同時に真空引きした後、他方のチャンバ3の処理室30の真空引きを停止するとともに、一方のチャンバ2の処理室20をさらに真空引きを継続し、その後、他方の処理室30を徐々に真空破壊して、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに転写フィルムFを接地するようにした転写フィルム接地工程と、被転写ワークWの表面Waに接地された転写フィルムFに、加熱された空気を加圧して供給し、該転写フィルムFの柄や機能膜を提供するインク剤を被転写ワークWの表面Waに移行転写させる転写工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、各チャンバ2,3の転写フィルムFで仕切られた処理室20,30を同時に真空引きにより、転写フィルムFの撓みがなく、バランスが保持させられる。その後、他方のチャンバ3の処理室30の真空引きを停止させて、一方のチャンバ2の処理室20をさらに真空引きを継続すると、転写フィルムFが処理室20側に転写フィルムFが撓むようになる。その後、他方の処理室30を徐々に真空破壊すると、転写フィルムFによって仕切られる一方の処理室20の内部圧力と、他方の処理室30の内部圧力との差が大きくなり、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに、転写フィルムFが沿うように且つ滑るようにしてきれいに接地される。また、転写フィルムFが被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに接地される接地工程の後に、転写フィルムFに対して、加熱空気を圧入して、転写フィルムFの柄を被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに移行転写させる転写工程を行うようにしているので、転写フィルムFのインク剤が、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waにきれいに移行するようになる。
【0010】
また、本発明によれば、互いの処理室20,30の開口部2c,3cが対向するように一対のチャンバ2,3が配置されるとともに、各処理室20,30の開口部2c,3cが密着されて取り付けられた際に、各チャンバ2,3の処理室20,30を仕切れるように、いずれか一方の前記開口部2c,3cに転写フィルムFがセットされ、さらに、一方のチャンバ2の処理室20に被転写ワークW,W1〜W4が載置される転写装置において、各チャンバ2,3の処理室20,30が同時に真空引きされた後、他方のチャンバ3の処理室30の真空引きが停止されるとともに、一方のチャンバ2の処理室20がさらに真空引きされ、その後、他方の処理室30が徐々に真空破壊されて、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに転写フィルムFが接地されるように構成される内部圧力調整手段32を備えたことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、転写する前処理として、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに、転写フィルムFをきれいに接地、且つ密着させることができる。すなわち、一方のチャンバ2の内圧よりも、他方のチャンバ3の内圧が大きくなる一方、他方のチャンバ3の内圧が徐々に真空破壊されるので、転写フィルムFの一面が一方のチャンバ2側に徐々に撓むようになって、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waを転写フィルムFが滑るように接地(密着)するようになり、転写フィルムFにシワがよることがなく、転写フィルムFに印刷されているインク剤柄の伸びが少なく、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waと転写フィルムFとの間に残留空気がなく、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに転写フィルムFが精度よく密着するようになる。
【0012】
また、本発明によれば、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに接地された前記転写フィルムFに、加熱された空気を加圧して供給する加熱空気供給手段41を有する別のチャンバ4が、前記他方のチャンバ3が取り外された前記一方のチャンバ2に密着して取り付けられるような構成を採用することもできる。
【0013】
かかる構成によれば、加熱された空気が加圧されて、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに接地された転写フィルムFに供給されるので、転写フィルムFに印刷されているインク剤の柄や機能膜が、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waにきれいに転写される。すなわち、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waの凹凸部に対して、略全体が加熱された転写フィルムFのインク剤が移行し、略均一な転写面が形成されるようになる。そして、圧力によりインク剤のアンカー効果が有効に作用して、被転写ワークW,W1〜W4の所望の位置に転写フィルムFのインク剤がきれいに転写される。
【0014】
また、本発明によれば、前記加熱空気供給手段41は、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに沿うように配置され、複数の加熱空気整流路46aが被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに向かうように形成される加熱空気整流部材46と、前記別のチャンバ4の処理室40の内部圧力を調整する圧力調整排気弁47とを有するような構成を採用することもできる。
【0015】
かかる構成によれば、加熱空気整流路46aが形成される加熱空気整流部材46を、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに沿うように配置することで、加熱空気整流部材46による風圧により局部的な温度上昇をなくし、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに接地された転写フィルムFを略均等に加熱することができる。また、別のチャンバ4の処理室40の内部圧力を圧力調整排気弁47によって調整することで、所望する加熱温度および内部圧力値に到達する時間を調整することができる。
【0016】
また、本発明によれば、前記一方のチャンバ2は、該一方のチャンバ2の底壁部2aに圧入されるにしたがって、前記別のチャンバ4側に、前記一方のチャンバ2を押し上げる複数の楔状の押し上げ体350,352を進退させるチャンバ押し上げ手段35を備えるような構成を採用することもできる。
【0017】
かかる構成によれば、大型のシリンダによって、各チャンバ2,4の密着状態を維持できるので、転写装置1全体の小型化が図れるとともに、コスト削減にも貢献するようになる。
【0018】
また、本発明によれば、前記一方のチャンバ2は、転写フィルムFがセットされた時点のテンションをセット状態から転写状態へ至るまで維持するテンション調整手段31を備えるような構成を採用することもできる。
【0019】
かかる構成によれば、他方のチャンバ4において、転写フィルムFを被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに接地させる際の圧力調整に加えて、一方のチャンバ2において、転写フィルムFがセットされた時点のテンションをセット状態から転写状態へ至るまで維持するテンション調整手段31を備えるようにしたので、転写フィルムFを被転写ワークW,W1〜W4の表面Waにより一層きれいに接地させることができる。
【0020】
また、本発明によれば、前記一方のチャンバ2の処理室20の内部を真空引きするための複数の通気路220が、転写フィルムFに対して直交方向に形成される転写テーブル21が、前記一方のチャンバ2の処理室20の底壁部2aに配置されるような構成を採用することもできる。
【0021】
かかる構成によれば、真空引きするための複数の通気路220が、転写フィルムFに対して直交方向に形成される転写テーブル21を、一方のチャンバ2の処理室20の底壁部2aに配置することで、転写フィルムFの略全体が略均等に吸引されるようになり、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに対して、シワがなく、柄伸びが少なく、残留空気もなく、きれいに滑って接地されるようになる。
【0022】
また、本発明によれば、前記被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに、前記転写フィルムFが接地する状態を目視できるように、前記他方のチャンバ3に目視手段33を備えるような構成を採用することもできる。
【0023】
かかる構成によれば、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに、転写フィルムFが接地する状態を、他方のチャンバ3に備えた目視手段33によって目視できるので、アンダーカットされた被転写ワークW,W1〜W4であっても、アンダーカットされた部位に転写フィルムFが接地される状態を視認できるようになる。
【0024】
また、本発明によれば、前記被転写ワークW,W1〜W4の内面Wbに、複数の温度センサC1,C2が配置されるような構成を採用することもできる。
【0025】
かかる構成によれば、被転写ワークW,W1〜W4の内面Wbに、複数の温度センサC1,C2を配置することで、被転写ワークW,W1〜W4の表面Waに対して転写フィルムFのインク剤柄が転写される際の転写温度を正確に検知することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、互いの処理室の開口部が対向するように配置される各チャンバの処理室が同時に真空引きされた後、他方のチャンバの処理室の真空引きが停止されるとともに、一方のチャンバの処理室がさらに真空引きされ、その後、他方の処理室が徐々に真空破壊されるので、被転写ワークの表面に転写フィルムをきれいに接地することができる。さらに、被転写ワークの表面にきれいに接地された転写フィルムに、加熱された空気を加圧して同時に供給することで、該転写フィルムのインク剤柄を被転写ワークの表面に均一できれいにそして、同時加熱加圧により時間効率のよい移行転写をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る転写装置全体の概略平面図、
【図2】(a)は、図1の正面図、(b)は、図1の側面図。
【図3】(a)は、下チャンバの平面図、(b)は、図2(a)の側面図。
【図4】(a)は、下チャンバと上チャンバとが密着した状態を示す側面図、(b)は、下チャンバと別の上チャンバとが密着した状態を示す側面図。
【図5】テンション調整手段の構成および転写フィルムのセットされる過程を示す概略図。
【図6】(a)は、転写フィルムセット工程を示す概略図であり、下チャンバの処理室に被転写ワークが載置されるとともに、該処理室の開口端面に、テンションが付与された転写フィルムをセットした状態を示す図、(b)は、上チャンバの処理室の開口端面に、テンションが付与された転写フィルムをセットした状態を示す図。
【図7】下チャンバおよび上チャンバの各処理室の内部圧力を調整する工程を示す図であり、(a)は、下チャンバおよび上チャンバの各処理室の内部圧力を同じにした状態を示す図、(b)は、上チャンバの処理室の真空引きを停止させて、下チャンバの処理室をさらに真空引きした状態を示す図、(c)は、上チャンバの処理室の内部圧力を徐々に真空破壊させた状態を示す図。
【図8】(a)は、下チャンバおよび上チャンバの各処理室の内部圧力が調整されたことによって、転写フィルムが被転写ワークの表面を滑る状態を示す図、(b)は、転写フィルムが被転写ワークの表面に沿うようにして接地された状態(真空吸着された状態)を示す図、(c)は、転写フィルムの接地工程が終了して、上チャンバが下チャンバから離間した状態を示す図。
【図9】(a)は、被転写ワークの表面に、転写フィルムが接地された状態(真空吸着された状態)の下チャンバに、加熱された空気を加圧して供給する加熱空気供給手段を備えた別の上チャンバがセットされる状態を示す図、(b)は、別の上チャンバの加熱空気供給手段によって、加熱された空気が加圧されて供給され、転写フィルムの柄が被転写ワークの表面に転写する状態を示す図、(c)は、転写工程が終了して、別の上チャンバが下チャンバから離間した状態を示す図。
【図10】(a)〜(d)は、種々の被転写ワークの形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る転写装置について図1〜図10を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る転写装置1の全体構成は、図1及び図2に示すように、作業テーブルTと、該作業テーブルTの一端部に配置される下チャンバ2と、作業テーブルTの角部に配置される上チャンバ3と、作業テーブルTの他端部に配置される下チャンバ押し上げ手段35と、該下チャンバ押し上げ手段35の上方に対向配置される別の上チャンバ4とを備えている。
【0029】
作業テーブルTは、平面視略L字形状を呈している。そして、作業テーブルTは、一端部に、下チャンバ2が配置される第1ステージTaと、角部に、上チャンバ3が配置される第2ステージTbと、他端部に、別の上チャンバ4が配置される第3ステージTcとを備えている。
【0030】
第1ステージTaは、図2(a)に示すように、複数の支柱Pによって支持された平板状のテーブル22からなり、該テーブル22の上に下チャンバ2が載置されるようになっている。
【0031】
第2ステージTbは、図2(a)に示すように、テーブル25と、昇降シリンダ26と、ガイド支柱27とを備えている。テーブル25には、下チャンバ2が載置される。昇降シリンダ26は、テーブル25の略中央部の真下に配置されている。ガイド支柱27は、伸縮自在に構成されて、テーブル25の四隅に配置されている。そして、テーブル25の中央部が、昇降シリンダ26のロッド26aに接続されて、ロッド26aの進退により、下チャンバ2の上方に対向配置される上チャンバ3に対して、下チャンバ2が接離するように構成されている(図4(a)参照)。
【0032】
また、第2ステージTbにおける下チャンバ2および上チャンバ3には、図6(b)に示すように、各処理室20,30の内部圧力を調整する内部圧力調整手段32が取り付けられる。該内部圧力調整手段32は、第1配管321と、第2配管322と、真空ポンプ323とを備えている。第1配管321は、下チャンバ2の加圧受けブロック210の間隙210aに連通するように、下チャンバ2の側壁2bに貫設されている。第1配管321には、真空破壊バルブ324aが設けられている。第2配管322は、上チャンバ3の側壁3bに貫設されている。第2配管322には、三方継ぎ手324bおよび接続配管325を介して、真空破壊電磁バルブ326が接続されている。真空ポンプ323には、第1配管321および第2配管322が接続されている。そして、第1配管321および第2配管322の各チャンバ2,3側にフィルタ327が配置され、第1配管321および第2配管322の真空ポンプ323側に、真空調整バルブ328およびゲージ329が配置されている。
【0033】
第3ステージTcは、図2(b)および図4(b)に示すように、テーブル36と、ガイド柱体37と、昇降シリンダ38と、下チャンバ押し上げ手段35と、別の上チャンバ4とを備えている。テーブル36には、下チャンバ2が載置される。ガイド柱体37は、伸縮自在に構成されて、テーブル36の四隅に配置されている。昇降シリンダ38は、テーブル36の略中央部の真下に配置されている。下チャンバ押し上げ手段35は、固定側押し上げ体350と、押し上げシリンダ351と、可動側押し上げ体352とを有している。固定側押し上げ体350は、断面が直角三角形の楔からなり、テーブル36の下面の一側端部の下面に固着されている。押し上げシリンダ351は、テーブル36の一側端部の側方に配置されている。可動側押し上げ体352は、断面が直角三角形の楔からなり、押し上げシリンダ351のロッド351aに固着されている。別の上チャンバ4は、下チャンバ押し上げ手段35に対向配置されている。そして、押し上げシリンダ351のロッド351aの進退に応じて、可動側押し上げ体352の傾斜面352aが、固定側押し上げ体352の傾斜面352aに摺動することによって、下チャンバ2が別の上チャンバ4に対して昇降する。すなわち、固定側押し上げ体350の傾斜面350aは、テーブル36の一側端部に向かうにしたがって、斜め上方に傾斜し、可動側押し上げ体352の傾斜面352aは、テーブル36の一側端部に向かうにしたがって、斜め下方に傾斜しており、互いの傾斜面350a,352aが摺動することで、下チャンバ2の昇降を可能にしている。
【0034】
下チャンバ2および上チャンバ3は、テンション調整手段31と、内部圧力調整手段32と、静電除去手段34とを備えている。テンション調整手段31は、下チャンバ2および上チャンバ3のいずれかにセットされる転写フィルムFにテンションを付与する。内部圧力調整手段32は、下チャンバ2の処理室20の内部に連通するように配置されるとともに、上チャンバ3の処理室30の内部に連通するように配置される。そして、下チャンバ2および上チャンバ3の各処理室20,30の内部を真空にした後、上チャンバ3の処理室30の内部を徐々に真空破壊して、被転写ワークWの表面Waに転写フィルムFを接地させるように、前記内部圧力調整手段32は自動または手動で調整される。静電除去手段34は、内部圧力調整手段32によって、圧力が調整された際に、転写フィルムFの静電気を除去して被転写ワークWの表面Waに対する滑りをよくする。なお、転写フィルムFには、インク剤によって柄や機能膜が印刷されている。
【0035】
下チャンバ2は、0.8Mpaの圧力に耐えられる材質、例えば、アルミ材で作製されている。下チャンバ2は、図3(a),(b)および図6(a)に示すように、底壁部2aと、側壁部2bとを備えている。底壁部2aは、被転写ワークWが載置される転写テーブル21が配置される。側壁部2bは、前後左右に配置されて、被転写ワークWに転写フィルムFが転写するために必要とされる転写深さを有している。そして、底壁部2aおよび側壁部2bによって囲繞されて処理室20が形成される。この処理室20の上面開口部2cに、転写フィルムFがセットされる鍔状のフィルム押さえ部2dが形成されている。また、下チャンバ2の上面開口部2cは、フィルム押さえ部2dに転写フィルムFをセットした際、転写フィルムFが被転写ワークWに対して接地するために必要とされる開口面積を有している。そして、下チャンバ2は、下チャンバ2の一側面に取り付けられた取手2eによって、持ち運びされる。また、下チャンバ2の各ステージTa〜Tcへの移動は、エアークラフトにより行われる。
【0036】
転写テーブル21は、図6(a)に示すように、加圧受けブロック210と、エアー抜きプレート211と、パンチプレート212とを有している。
【0037】
加圧受けブロック210は、図6(a)に示すように、下チャンバ2内の加圧で変形しない形状と剛性を有する。加圧受けブロック210は、例えば、アルミ材で作製された柱状体であってもよく、格子状に形成された板材であってもよい。柱状体からなる加圧受けブロック210の場合は、真空引きできる通気路を形成すべく、複数の柱状体を所定の間隔210aをおいて配置される。また、格子状の板材からなる加圧受けブロック210の場合は、下チャンバ2の底壁部2aに単数の板材が配置される。もしくは、複数の板材が同一平面状に配置される(図示せず)。但し、板材の場合、真空引きするための配管が各通路に配置されることになる。
【0038】
エアー抜きプレート211は、図6(a)に示すように、加圧受けブロック210の上に配置されている。エアー抜きプレート211は、複数のエアー抜き孔(直径5mm程度)211aが形成されており、下チャンバ2内の圧力に耐え得る厚さを有している。
【0039】
パンチプレート212は、図6(a)に示すように、エアー抜きプレート211の上に配置されている。パンチプレート212は、複数のパンチ孔(直径0.5〜1mm程度)212aが形成されている。パンチプレート212の表面は、転写フィルムFに印刷されたインク剤柄(模様)が転写しないように、不活性処理されている。なお、パンチプレート212が、エアー抜きプレート211の上に配置される理由としては、エアー抜きプレート211のエアー抜き孔211aでは、転写フィルムFが吸い込まれて、破れが生ずる。これを防止すべく、エアー抜き孔211aよりも小径のパンチ孔(図示せず)を有するパンチプレート212が配置されるのである。
【0040】
パンチプレート212の略中央部に位置決め体213が取り付けられている。この位置決め体213は、図示していないが、被転写ワークWの中空部に挿入されるシリコン製の雄型からなる。
【0041】
ここで、転写テーブル(加圧受けブロック210、エアー抜きプレート211、およびパンチプレート212)21の高さH0と、転写の意匠性との関係について説明する。意匠性が良好な転写結果を得るには、被転写ワークWに転写した転写フィルムFにシワがよらないこと、転写した際に、転写フィルムFに印刷された柄(模様)が伸びないこと、転写フィルムFと被転写ワークWとの間に空気が残留しないことがあげられる。
【0042】
そして、下チャンバ2の上面開口部2cにおいて、テンションをかけてセットされた転写フィルムFの面積と、転写プロセスにおいて転写フィルムFが被転写ワークWに接地したときの面積との差が最小であれば、上述した、意匠性が良好な転写結果が得られることになる。このためには、図6(a)に示すように、位置決め体213の高さと被転写ワークWの高さとの和(H1)と、転写深さ、すなわち転写テーブル21の上面から下チャンバ2の上面開口部2cまでの高さ(H2)との差を最小にする必要がある。つまり、転写テーブル21の高さ、すなわち加圧受けブロック210の高さとエアー抜きプレート211の高さとパンチプレート212の高さとの和(H0)は、位置決め体213の高さと被転写ワークWの高さとの和と、転写深さH2との差が最小になるように、適宜設定される。すなわち、転写フィルムFの柄と被転写ワークWの表面Waとの距離が小さいほど、転写フィルムFの柄伸びが少なくきれいに転写されることになる。但し、加圧受けブロック210の最小限度の高さは、下チャンバ2内を真空引きするための空間を形成できる高さである。
【0043】
また、下チャンバ2内の圧力は、パンチプレート212のパンチ孔(図示せず)、エアー抜きプレート211のエアー抜き孔211a、加圧受けブロック210の間隔で構成される通気路220を通って真空引きされる。該各通気路220は、セットされた転写フィルムFに対して直交方向に形成されている。すなわち、各通気路220によって、テンション付与された状態の転写フィルムFの面に対して略均一に真空引きされることになる一方、転写後の真空吸着された転写フィルムFの面に対して、略均一に大気を供給されることになり、転写フィルムFが被転写ワークWの表面Waから剥がれやすくなる。
【0044】
上チャンバ3は、図2に示すように、材質、例えば、アルミ材で作製されている。上チャンバ3は、図4(a)および図6(b)に示すように、上壁部3aと、該上壁部3aの周縁部から垂設された前後左右の側壁部3bとを備えている。そして、上壁部3aは、下面開口部3cに、下チャンバ2の上面開口部2cと同様に、転写フィルムFが張設される構成になっている。すなわち、前記下面開口部3cの開口周縁部に、転写フィルムFがセットされる鍔状のフィルム押さえ部2dが形成されている。さらに、下面開口部に3cに、転写フィルムFにテンションを付与するテンション調整手段31が設置できるようになっている。そして、上チャンバ3の側壁部3bは、転写フィルムFを真空引きするために必要とされる深さを有し、上壁部3aおよび各側壁部3bによって囲繞されて処理室30が形成されている。また、上壁部3aには、転写フィルムFが被転写ワークWの表面Waおよび転写テーブル21の上面に接地される状態を視認するための複数の平面視四角形状の確認窓(目視手段)33が配置されている。この確認窓33の形状は、図示に限定されるものではなく、円形または非円形であってもよい。また、目視手段としては、確認窓33ではなく、上壁部3aおよび各側壁部3b(全体)が透明の上チャンバ3であってもよく、上壁部3aおよび各側壁部3bのいずれか一方が透明の上チャンバ3であってもよい。
【0045】
テンション調整手段31は、転写フィルムFがセットされた時点のテンションがセット状態から転写状態へ至るまで維持されるように構成されている。テンション調整手段31は、図5(a)〜(c)に示すように、クラッチ付きフィルム巻き取りローラ310と、フィルム送り出し部材311と、フィルム引出用クリップ312と、フィルムクリップバー313と、フィルムカッター314とを備えている。クラッチ付きフィルム巻き取りローラ310は、所定長さの転写フィルムFが巻回され、正逆回転できて、所望の位置で止まるように構成されている。フィルム送り出し部材311は、転写フィルムFの端部をクラッチ付きフィルム巻き取りローラ310からフィルム引出用クリップ312側に供給される空気の吹き出しによって送り出すように構成されている。フィルム引出用クリップ312は、図面の左右方向に対して往復動自在で、転写フィルムFの端部を掴むことができるように構成されている。フィルムクリップバー313は、図面に対して前後に配置され、引き出された転写フィルムFの前端部および後端部を掴むように構成されている。フィルムカッター314は、下チャンバ2と上チャンバ3とが密着された状態で、転写フィルムFを切断するように構成されている。そして、クラッチ付きフィルム巻き取りローラ310とフィルム引出用クリップ312との間には、静電気除去手段34が配置されている。
【0046】
静電除去手段34は、既製のイオナイザが使用され、転写フィルムFに帯電しているイオンを中性の状態にする。これによって、被転写ワークWの表面Waに対する転写フィルムFの滑りがよくなる。
【0047】
別の上チャンバ4は、図9(a)に示すように、上壁部4aと、該上壁部4aの周縁部から垂設された前後左右の側壁部4bとを備えている。別の上チャンバ4は、0.8Mpaの圧力に耐えられる材質、例えば、アルミ材で作製されている。上壁部4aには、加熱空気供給手段41が配置されている。側壁部4bには、転写フィルムFに加熱された圧縮空気を加圧するために必要とされる深さを有している。そして、別の上チャンバ4には、上壁部4aおよび側壁部4bによって囲繞されて処理室40が形成されている。
【0048】
加熱空気供給手段41は、コンプレッサ42と、レギュレータ43と、高圧ヒータ44と、ノズル45と、加熱空気整流部材46と、圧力調整排気弁47とを有している。コンプレッサ42は、下チャンバ2および別の上チャンバ4の各処理室20,40に供給する圧縮空気を生成する。レギュレータ43は、接続配管40Aによってコンプレッサ42に接続され、コンプレッサ42の圧縮空気の圧力を調整する。また、レギュレータ43は、両側に分岐された分岐配管41Aが接続され、各分岐配管41Aに電磁バルブ410が設けられ、該電磁バルブ410によって、各分岐配管41Aの流路を開閉する。また、電磁バルブ410は、コントローラ411によって、各分岐配管41Aの流路を開閉するように構成されている。高圧ヒータ44は、電磁バルブ410とノズル45の間に複数配置され、コンプレッサ42からの圧縮空気を加熱する。ノズル45は、別の上チャンバ4の上壁部4aに上下方向に貫設されている(側壁部4bに貫設される場合もある)。加熱空気整流部材46は、別の上チャンバ4の内部において、ノズル45に連結され、加熱された空気を加圧して下チャンバ2および別の上チャンバ4の各処理室20,40に略均等に供給する。圧力調整排気弁47は、下チャンバ2および別の上チャンバ4の各処理室20,40の圧力を調整する。
【0049】
加熱空気整流部材46は、別の上チャンバ4の上壁部4aに平行するように配置(側壁部4bに配置される場合もある。)され、格子状の板材、あるいは、複数の加熱空気整流路46aが形成されたパイプ材で構成され、耐熱性を有している。なお、板材あるいはパイプ材のいずれであっても、被転写ワークWに対して良好な転写結果が得られる形状であればよく、例えば、板材であれば、平板状、円弧状、凹状などのうちいずれかを配置するようにしてもよく、パイプ材であれば、直線状、曲線状(L字形状、C字形状など)のうちいずれかを複数配置するようにしてもよく、これらを組み合わせて配置するようにしてもよい。要は、下チャンバ2および別の上チャンバ4の各処理室20,40に略均等に加圧されて加熱された空気を供給できればよい。
【0050】
圧力調整排気弁47は、加熱空気供給手段41のノズル45の出口圧力に対して、下チャンバ2および別の上チャンバ4の内部圧力が低くなるように、すなわち、下チャンバ2および別の上チャンバ4内に高圧熱風が循環するように、圧力値が設定される。また、高圧熱風の温度は、温度センサC1,C2の検知温度を設定温度(転写フィルムFのインク剤が被転写ワークWの表面Waに転写するための温度)と比較しつつ、高圧ヒータ44の温度を昇降させる制御をすることで、高圧熱風の温度が決定される。
【0051】
なお、図1〜図4において、下チャンバ2に被転写ワークWを載置する転写テーブル21、下チャンバ2または上チャンバ3のいずれかの開口部の端面に転写フィルムFにテンションを付与してセットするテンション調整手段31、下チャンバ2および上チャンバ3の各処理室20,30の内部圧力を調整する内部圧力調整手段32、別の上チャンバ4の処理室40に加熱された空気を加圧して供給する加熱空気供給手段41が省略されている。また、図6〜図9においては、下チャンバ2および上チャンバ3並びに別の上チャンバ4の外観、上チャンバ3から接地される転写フィルムFの状態を視認するための確認窓33、押し上げ体350,352を進退させる下チャンバ押し上げ手段35が省略されている。
【0052】
つぎに転写方法の作業工程について、図6〜図9を参照して説明する。この作業工程は、転写フィルムFのセッティング工程と、下チャンバ2および上チャンバ3の内部圧力調整工程と、転写フィルムFを被転写ワークWの表面Waに接地させる転写フィルム接地工程と、接地された転写フィルムFに加圧された空気を加熱して供給する転写フィルム転写工程とを備えている。なお、転写フィルムFとしては、常温で伸びて、意匠柄や機能として印刷されたインクを有するエラストマフィルムを使用し、被転写ワークWとしては、円板状の本体部と、該本体部の上面に、中央部が膨出する円弧面が形成された被転写ワークを使用する。
【0053】
まず、転写フィルムFのセッティング工程において、下チャンバ2の処理室20の位置決め体213に被転写ワークWを載置するとともに、転写フィルムFを下チャンバ2または上チャンバ3のいずれかの開口部2c,3cの端面にセットする。下チャンバ2、上チャンバ3のいずれかを選択する基準は、上述したように、下チャンバ2の深さと被転写ワークWの高さとの関係にある。例えば、下チャンバ2の深さと被転写ワークの高さとに差がない場合、被転写ワークWの表面Waに対する滑りがなくなり、被転写ワークWの表面Waに対する転写フィルムFの良好な接地が得られなくなる。この場合は、上チャンバ3に転写フィルムFをセットする。下チャンバ2に転写フィルムFをセットする場合、図5(a)に示すように、クラッチ付きフィルム巻き取りローラ310から、所定長さの転写フィルムFを、エアーの流れを作りこれによりフィルムをクリップできるように、フィルム矯正できるフィルム送り出し部材311を通して引き出して、転写フィルムFの端部をフィルム引出用クリップ312によって掴む。つぎに、図5(b)に示すように、フィルム引出用クリップ312を一方側から他方側に移動させる。続いて、クラッチ付きフィルム巻き取りローラ310を逆回転させて、転写フィルムFにテンションを付与する。そして、フィルムクリップバー313によって、引き出された転写フィルムFの前端部および後端部を掴む。その後、図5(c)に示すように、フィルムカッター314によって、下チャンバ2と上チャンバ3とが密着された状態で、転写フィルムFを切断する。この際、転写フィルムFは、下チャンバ2の押さえ部2dによって、吸着されているものとする。
【0054】
すなわち、図6(a)に示すように、下チャンバ2の上面開口部2cを覆うように、該上面開口部2cの端面にセットする。この際、テンション調整手段31によって転写フィルムFの両端部を互いに反対方向に引っ張ってテンションを付与し、転写フィルムFが直線状になるようにセットする。なお、テンション調整手段31によって、転写フィルムFに付与されたテンション値は、転写フィルムFのセット状態から転写状態に至るまで維持される。また、上チャンバ3に転写フィルムFをセットする場合、図6(b)に示すように、前記と同様に、転写フィルムFにテンションを付与した状態で、上チャンバ3の下面開口部3aを覆うように、転写フィルムFを下面開口部3aの端面にセットする。この際、既存の静電除去手段(イオナイザ)34により、被転写ワークWの表面Waに対して、転写フィルムFの滑りがよくなるように、転写フィルムFの静電気を除去する。
【0055】
つぎに、内部圧力調整工程は、図7(a)に示すように、下チャンバ2を上昇させて、下チャンバ2の下面開口部2cと上チャンバ3の上面開口部3cとを密着させて、内部圧力調整手段によって、転写フィルムFによって仕切られた下チャンバ2の処理室20および上チャンバ3の処理室30の内部圧力が同じになるように真空引きして調整する。この際、下チャンバ2の処理室20および上チャンバ3の処理室30の内部に空気の乱流がなく、転写フィルムFが水平状態になっていることを、上チャンバ3に配置された確認窓33から視認する。なお、図中の符号100は、作業者の目を表しており、確認窓33から視認する状態を図示している。その後、図7(b)に示すように、上チャンバ3の真空引きを停止させて、下チャンバ2の処理室20をさらに真空引きする。この際、転写フィルムFは、下側(被転写ワークW側)にやや撓んだ状態になる。この場合も、図7(a)と同様に、確認窓33から視認する。つぎに、図7(c)に示すように、上チャンバ3の処理室30を徐々に手動で真空破壊して、転写フィルムFの中央部が被転写ワークWの表面Waに沿うように滑るようになり、該中央部を除く転写フィルムFの部位が転写テーブル21側に向かって撓むようになる。すなわち、被転写面のどの部分から接地さすかの確認によって、徐々に真空破壊させることで、転写フィルムFの滑り速度が調整される。
【0056】
つぎに、転写フィルム接地工程は、図8(a)に示すように、上チャンバ3の処理室30をさらに真空破壊すると、転写フィルムFの中央部が被転写ワークWの円弧面から円板状の本体部に沿うように滑るようになるとともに、該中央部を除く転写フィルムFの部位が転写テーブル21の上面に当接するようになる。そして、図8(b)に示すように、転写フィルムFが、被転写ワークWの上面(円弧面)、円板状の本体部の周面および下面、転写テーブル21の上面に接地された状態(真空吸着された状態)になっていることを、上チャンバ3に配置された確認窓33から作業者が視認する。接地工程の終了後、図8(c)に示すように、下チャンバ2から上チャンバ3を離間させる。
【0057】
なお、転写フィルムFのテンション条件や滑りの条件は、転写フィルムFに印刷されているインク剤の機能や柄(模様)の伸びの限度指定、要求されている柄(模様)の位置決めの限度指定、被転写ワークWに対する転写限度の指定によって決定される。
【0058】
つぎに、転写フィルム転写工程は、図9(a)に示すように、転写フィルムFが接地された状態の下チャンバ2に、加熱空気供給手段41が設けられた別の上チャンバ4が対向配置される。また、転写フィルムFと被転写ワークWの表面Waとの接地面の温度を測定するため、下チャンバ2の底壁部2aおよび位置決め体213の中心部を通って、被転写ワークWの上側中心部の内面Wb0に当接するように第1の温度センサC1が配置される。また、被転写ワークWの側面部の内面Wb1に当接するように、複数の第2センサC2,C2が配置されている。そして、図9(b)に示すように、下チャンバ2の上面開口部2cと、上チャンバ3の下面開口部3cとが密着して取り付けられている。70〜150度に加熱された空気が、0.3〜0.8Mpaに加圧されている。この空気は、加熱空気整流部材46の加熱空気整流路46aを通って圧入され、接地された状態の転写フィルムFに略均一に吹き付けられる。この際、転写フィルムFに対してアンカー効果が有効に作用する。すなわち、転写フィルムFに印刷された柄が被転写ワークWの表面Waの凹凸部に入り込んで、転写フィルムFにシワがなく、柄伸びがなく、転写フィルムFと被転写ワークWの表面Waとの間に残留空気がなく、きれいに移行転写される。転写フィルム転写工程の終了後、図9(c)に示すように、下チャンバ2から別の上チャンバ4を離間させる。そして最後に転写テーブル21の通気路220を通して、大気が供給される。この大気によって、真空吸着した転写フィルムFが被転写ワークWの表面Waからきれいに剥がすことができる。
【0059】
なお、下チャンバ2および別の上チャンバ4の各処理室20,40の転写可能到達時間は、温度条件(70〜150度)到達時間と、圧力条件(0.3〜0.8Mpa)到達時間とで決定される。また、下チャンバ2および別の上チャンバ4の各処理室20,40の容積と、高圧ヒータ44の個数によっても、転写可能到達時間は決定される。したがって、温度または圧力のいずれを優先するかは、適宜可能であり、圧力が到達しても、温度が到達しない場合は、圧力調整排気弁47によって調整すればよい。すなわち、圧力調整排気弁47の設定値をレギュレータ43での設定値よりも低くして、下チャンバ2および別の上チャンバ4内に熱風を循環させる。
【0060】
このように、本発明によれば、互いの処理室2,3の開口部2c、3cが対向するように配置される各チャンバ2,3の処理室20,30が同時に真空引きされた後、他方のチャンバ3の処理室30の真空引きが停止されるとともに、一方のチャンバ2の処理室20がさらに真空引きされる。その後、他方の処理室30が徐々に真空破壊されるので、被転写ワークWの表面Waに転写フィルムFをきれいに接地することができる。さらに、被転写ワークWの表面Waに接地された転写フィルムFに、加圧された空気を加熱するようにしたので、時間効率の良いアンカー効果が有効に作用して、転写フィルムFの柄が、シワなく、伸びが少なく、位置ずれすることなく、被転写ワークWの表面Waにきれいに移行転写することができる。また、転写フィルムFを、被転写ワークWの表面Waから剥がす場合も、真空吸着した転写フィルムFに対して、転写テーブル21の通気路220から真空破壊して、転写フィルムFを剥がすようにしている。つまり、本発明においては、接地工程、転写工程、剥離工程の全ての工程において、転写フィルムFの面に対して、各チャンバ2,3,4の所定空間に形成される流体の押圧面を一貫して作用させている。そうすることで、転写フィルムFの種類に関係なく、しかも、被転写ワークWの形状に関係なく、被転写ワークWの表面Waにきれいに移行転写、あるいは、被転写ワークWの表面Waから剥離できるようになる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、前記実施形態の場合、円板状の本体部と、該本体部の上面に、中央部が膨出する円弧面が形成された被転写ワークWを使用したが、例えば、図10(a)に示すように、直方体形状の被転写ワークW1であってもよく、図10(b)に示すように、上述した被転写ワークW2の本体部の下部に環状溝が形成された、すなわちアンダーカットされた被転写ワークW2であってもよく、図10(c)に示すように、深絞りされた凹状の被転写ワークW3であってもよく、図10(d)に示すように、弾丸状の被転写ワークW4であってもよい。要は、被転写ワークW1〜W4の形状に関係なく、転写フィルムFの柄を被転写ワークW1〜4の表面Waにきれいに転写することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…転写装置、2…一方のチャンバ(下チャンバ)、2a…底壁部、2c,3c,4c…開口部、3…他方のチャンバ(上チャンバ)、4…別のチャンバ、20,30,40…処理室、21…転写テーブル、220…通気路、31…テンション調整手段、33…確認窓(目視手段)、35…チャンバ押し上げ手段、350,352…押し上げ体、41…加熱空気供給手段、46…加熱空気供給部材、46a…加熱空気整流路、47…圧力調整排気弁、C1,C2…温度センサ、F…転写フィルム、W,W1〜W4…被転写ワーク、Wa…被転写ワークWの表面、Wb…被転写ワークの内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの処理室(20,30)の開口部(2c、3c)が対向するように一対のチャンバ(2,3)が配置され、各処理室(20,30)の開口部(2c、3c)が密着されて取り付けられた際に、各チャンバ(2,3)の処理室(20,30)を仕切れるように、いずれか一方の前記開口部(2c、3c)に、転写フィルム(F)をセットする転写フィルムセット工程と、一方のチャンバ(2)の処理室(20)に被転写ワーク(W,W1〜W4)を載置する被転写ワークセット工程とを備えた転写方法において、
各チャンバ(2,3)の転写フィルム(F)で仕切られた処理室(20,30)を同時に真空引きした後、他方のチャンバ(3)の処理室(30)の真空引きを停止するとともに、一方のチャンバ(2)の処理室(20)をさらに真空引きを継続し、その後、他方の処理室(30)を徐々に真空破壊して、被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に転写フィルム(F)を接地するようにした転写フィルム接地工程と、
被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に接地された転写フィルム(F)に、加熱された空気を加圧して供給し、該転写フィルム(F)の柄や機能膜を提供するインク剤を被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に移行転写させる転写工程とを備えることを特徴とする転写方法。
【請求項2】
互いの処理室(2,3)の開口部(2c,3c)が対向するように一対のチャンバ(2,3)が配置されるとともに、各処理室(20,30)の開口部(2c,3c)が密着されて取り付けられた際に、各チャンバ(2,3)の処理室(20,30)を仕切れるように、いずれか一方の前記開口部(2c,3c)に転写フィルム(F)がセットされ、さらに、一方のチャンバ(2)の処理室(20)に被転写ワーク(W,W1〜W4)が載置される転写装置において、
各チャンバ(2,3)の処理室(20,30)が同時に真空引きされた後、他方のチャンバ(3)の処理室(30)の真空引きが停止されるとともに、一方のチャンバ(2)の処理室(20)がさらに真空引きされ、その後、他方の処理室(30)が徐々に真空破壊されて、被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に転写フィルム(F)が接地されるように構成される内部圧力調整手段(32)を備えたことを特徴とする転写装置。
【請求項3】
被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に接地された前記転写フィルム(F)に、加熱された空気を加圧して供給する加熱空気供給手段(41)を有する別のチャンバ(4)が、前記他方のチャンバ(3)が取り外された前記一方のチャンバ(2)に密着して取り付けられるように構成されることを特徴とする請求項2に記載の転写装置。
【請求項4】
前記加熱空気供給手段(41)は、被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に沿うように配置され、複数の加熱空気整流路(46a)が被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に向かうように形成される加熱空気整流部材(46)と、前記別のチャンバ(4)の処理室(40)の内部圧力を調整する圧力調整排気弁(47)とを有することを特徴とする請求項3に記載の転写装置。
【請求項5】
前記一方のチャンバ(2)は、該一方のチャンバ(2)の底壁部(2a)に圧入されるにしたがって、前記別のチャンバ(4)側に、前記一方のチャンバ(2)を押し上げる複数の楔状の押し上げ体(350,352)を進退させるチャンバ押し上げ手段(35)を備えることを特徴とする請求項3または4に記載の転写装置。
【請求項6】
前記一方のチャンバ(2)は、転写フィルム(F)がセットされた時点のテンションをセット状態から転写状態へ至るまで維持するテンション調整手段(31)を備えたことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の転写装置。
【請求項7】
前記一方のチャンバ(2)の処理室(20)の内部を真空引きするための複数の通気路(220)が、転写フィルム(F)に対して直交方向に形成される転写テーブル(21)が、前記一方のチャンバ(2)の処理室(20)の底壁部(2a)に配置されることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載の転写装置。
【請求項8】
前記被転写ワーク(W,W1〜W4)の表面(Wa)に、前記転写フィルム(F)が接地する状態を目視できるように、前記他方のチャンバ(3)に目視手段(33)を備えたことを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項に記載の転写装置。
【請求項9】
前記被転写ワーク(W,W1〜W4)の内面(Wb)に、複数の温度センサ(C1,C2)が配置されることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−22844(P2013−22844A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160114(P2011−160114)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(599057663)株式会社和田機械 (3)
【出願人】(511177732)
【Fターム(参考)】