説明

転動体ねじ装置

【課題】簡易的、かつより確実にデフレクタをナット本体に固定することが可能な転動体ねじ装置を提供する。
【解決手段】ナット本体310には、外周面側から内周面側に向かってデフレクタ320が嵌合される段付きの嵌合穴が各デフレクタ320に対応してそれぞれ設けられ、かつ外周面には全ての嵌合穴上を通過する螺旋に沿った螺旋溝312が設けられると共に、複数の嵌合穴に対して、それぞれデフレクタ320が嵌合された状態で、コイルスプリング330が螺旋溝312に沿って巻き付けられることによって、各デフレクタ320がナット本体310に装着されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフレクタ方式のボールねじなどの転動体ねじ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールねじにおいて、ボールを無限に循環させる方式として、デフレクタ方式が知られている。かかるデフレクタ方式は、ナットのナット本体に嵌合穴を設けておき、この嵌合穴にS字状の循環溝が形成されているデフレクタ(こま)を嵌め込む構成が採用される。これにより、ねじ軸に設けられているねじ溝を転がるボールが、デフレクタに設けられた循環溝により案内され、ねじ軸におけるランドを乗り越えて、隣のねじ溝に戻されることで、ボールは無限に循環する。
【0003】
上記のように構成されるデフレクタ方式のボールねじにおいて、デフレクタをナット本体の嵌合穴に固定する方法として、接着剤によって接着する方法が知られている。しかしながら、この場合には、接着剤がはみ出してしまうなどの問題がある。これを解消する方法として、ナットの外周面とデフレクタの外周面に溝を設けておき、C字形状の止め輪を嵌め込む技術も知られている(特許文献1参照)。しかしながら、C字形状の止め輪の場合、一つの止め輪で一つのデフレクタしか固定させることができない。また、C字形状の止め輪の場合、外径方向への力が作用することで簡単に開いてしまうため、デフレクタが外れてしまうことも懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−124986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ナット本体へのデフレクタの装着作業をより容易にし、かつより確実にデフレクタをナット本体に固定することが可能な転動体ねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明の転動体ねじ装置は、
外周面側に螺旋状の第1のねじ溝が形成されるねじ軸と、
内周面側に第1のねじ溝に対応する螺旋状の第2のねじ溝が形成されるナットと、
第1のねじ溝と第2のねじ溝との間に配置される複数の転動体と、
を備え、
前記ナットには、転動体を無限循環させるために前記ねじ軸におけるランドを転動体が乗り越える通路を形成するデフレクタが複数設けられる転動体ねじ装置において、
前記ナットのナット本体には、外周面側から内周面側に向かって前記デフレクタが嵌合される段付きの嵌合穴が各デフレクタに対応してそれぞれ設けられ、かつ外周面には全ての前記嵌合穴上を通過する螺旋に沿うような螺旋溝が設けられると共に、
複数の前記嵌合穴に対して、それぞれデフレクタが嵌合された状態で、線状部材が前記螺旋溝に沿って巻き付けられることによって、各デフレクタが前記ナット本体に装着されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、線状部材を螺旋溝に巻き付けるだけで、複数のデフレクタをナット本体に装着することができる。従って、接着剤などを必要とすることなく、簡易的にナット本体に対してデフレクタを装着することができ、しかも複数のデフレクタをまとめて装着することができる。また、線状部材は、螺旋状に巻き付けられた状態となっているので、外径方向への力が作用した場合であっても、C字形状の止め輪の場合に比べて外径方向に変形し難い。従って、デフレクタをより確実に固定することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、ナット本体へのデフレクタの装着作業をより容易にし、かつより確実にデフレクタをナット本体に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の実施例に係るボールねじの正面図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るナットの斜視図の一部である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るデフレクタの斜視図である。
【図4】図4は本発明の実施例に係るデフレクタがナット本体に取り付けられた状態を内周面側から見た破断斜視図である。
【図5】図5は本発明の実施例に係るボールねじの断面図の一部である。
【図6】図6は本発明の実施例に係るボールねじの断面図の一部である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、以下の実施例においては、転動体ねじ装置の一例として、ボールねじの場合を例にして説明する。
【0012】
(実施例)
図1〜図6を参照して、本発明の実施例に係るボールねじについて説明する。
【0013】
<ボールねじ全体>
特に、図1及び図5を参照して、本発明の実施例に係るボールねじ100の全体構成について説明する。図1はボールねじ100全体を示す正面図であり、図5はボールねじ100全体を、軸心を通る面で切断した断面図の一部(図1中のAA断面図)である。
【0014】
ボールねじ100は、ねじ軸200と、ナット300と、複数の転動体としてのボール400とから構成される。ねじ軸200には、その外周面側に螺旋状の第1のねじ溝210が形成されている。ナット300におけるナット本体310には、その内周面側に第1のねじ溝210に対応する(対向する)螺旋状の第2のねじ溝311が形成されている。これら第1のねじ溝210と第2のねじ溝311との間に複数の転動体としてのボール400が配置される。すなわち、第1のねじ溝210と第2のねじ溝311との間に螺旋状の軌道(ボール400の通路(負荷領域となる通路))が形成され、複数のボール400はこの軌道を循環する。
【0015】
以上の構成により、ねじ軸200を軸心周りに回転させると、ナット300がねじ軸200に沿って軸方向に移動する。また、ナット300を回転させると、ねじ軸200が軸方向に移動する。そして、ねじ軸200またはナット300を回転させている間、複数のボール400は、第1のねじ溝210と第2のねじ溝311との間の螺旋状の軌道を循環する。
【0016】
そして、ナット本体310には、ボール400を無限循環させるためのデフレクタ320が複数設けられている。デフレクタ320は、ボール400を無限循環させるために、ねじ軸200におけるランド220をボール400が乗り越える通路を形成するものである。
【0017】
<デフレクタ>
特に、図2〜図6を参照して、本実施例に係るデフレクタ320、及びデフレクタ320のナット本体310への固定構造(固定方法)について詳しく説明する。図2はナット300の端部の付近を示す斜視図であり、図3はデフレクタ320の斜視図であり、図4はデフレクタ320がナット本体310に取り付けられた状態を内周面側から見た破断斜視図である。また、図6は図1中のBB断面図である。
【0018】
デフレクタ320は、略平板状の平板部321と、平板部321から突き出た略円柱状の円柱部322と、円柱部322の先端面に設けられるS字形状の循環溝323とを備えている。なお、円柱部322の先端面はナット本体310の内周面に沿うように湾曲面となっている。
【0019】
ナット本体310には、外周面側から内周面側に向かってデフレクタ320が嵌合される段付きの嵌合穴313が、各デフレクタ320に対応してそれぞれ設けられている。各デフレクタ320の配置が周方向に分散されるように、これら複数の嵌合穴は、軸方向に対して隣り合う嵌合穴が周方向にずれるように設けられている。デフレクタ320の部位においては、ボール400が循環する部分(無負荷部分)となるので、デフレクタ320を周方向に分散させて配置することにより、無負荷領域を周方向に分散させることが可能となる。また、ナット本体310の外周面には螺旋溝312が設けられている。この螺旋溝312は、ナット本体310に複数設けられている全ての嵌合穴313上を通過する螺旋(仮想的な螺旋)に沿うように設けられている。
【0020】
そして、複数の嵌合穴313に対して、それぞれデフレクタ320が嵌合された状態で、線状部材としてのコイルスプリング330が螺旋溝312に沿って巻き付けられた状態で固定されている。このコイルスプリング330は、螺旋溝312に沿ってねじ込むことによって、簡単にナット本体310に取り付けることができる。また、コイルスプリング330を所望の位置までねじ込んだ後に、その両端(又は片端)をナット本体310に突き刺すことによって、コイルスプリング330をナット本体310に対して強固に固定することができる。例えば、コイルスプリング330の端部331を内周側に向けて折り曲げて、ナット本体310に突き刺す、あるいはナット本体310における螺旋溝312の溝底に穴を設けておき、この穴に端部331を嵌め込めばよい。
【0021】
このように、コイルスプリング330がナット本体310に取り付けられることによって、各デフレクタ320における平板部321が外周面側から押されて、平板部321の内側が嵌合穴313における段部313aに押し付けられた状態となる。これにより、各デフレクタ320はコイルスプリング330によってナット本体310に対してそれぞれ押し付けられて強固に固定される。ただし、コイルスプリング330と平板部321との間にクリアランスを設けることで、デフレクタ320が外周側に少しだけ移動できるような、いわゆる遊びを持たす構成を採用することもできる。
【0022】
以上のように、ナット本体310にデフレクタ320が設けられることによって、無限循環路が形成される。ここで、デフレクタ320によって無限循環路が形成される点については公知技術であるが、以下、簡単に説明する。ねじ軸200とナット300とが相対的に回転している間、第1のねじ溝210と第2のねじ溝311との間に形成されている螺旋状の軌道に沿って複数のボール400は移動する。そして、ねじ軸200における第
1のねじ溝210に沿って移動するボール400は、デフレクタ320に設けられたS字形状の循環溝323に案内されて、ねじ軸200におけるランド220を乗り越えて、第1のねじ溝210のうち、循環溝323に到達する前に転がっていた隣のねじ溝部分に戻される。このようにして、複数のボール400は無限循環路を循環する。
【0023】
<本実施例に係るボールねじの優れた点>
本実施例に係るボールねじ100によれば、線状部材としてのコイルスプリング330をナット本体310の螺旋溝312に巻き付けて固定するだけで、複数のデフレクタ320をナット本体310に固定することができる。
【0024】
従って、接着剤などを必要とすることなく、簡易的にナット本体310に対してデフレクタ320を固定することができ、しかも複数のデフレクタ320をまとめて固定することができる。また、コイルスプリング330は、螺旋状に巻き付けられた状態で固定されているので、外径方向への力が作用した場合であっても、C字形状の止め輪の場合に比べて外径方向に変形し難い。従って、デフレクタ320をより確実に固定することができる。また、線状部材としてコイルスプリング330を用いることにより、コイルスプリング330を螺旋溝312に沿ってねじ込むことによって、簡単にナット本体310に取り付けることができる。また、コイルスプリング330の両端(又は片端)をナット本体310に突き刺す等することによって、コイルスプリング330の端部をナット本体310に対して固定することで、コイルスプリング330をナット本体310に強固に固定することができる。
【0025】
なお、上記線状部材として用いられるコイルスプリング330は、これを製造する際に、その弾性、つまり、嵌合穴313の段部313aに対してデフレクタ320を押し付ける力を容易に設定することができる。加えて、コイルスプリング330は、場合によっては市販のものをそのまま使用できる故に、ボールねじの製造コストの低減にも寄与する。但し、線状部材としては、コイルスプリングに限らず、弾性を有さない金属等からなるワイヤーを用いてもよく、これを巻き付けることでデフレクタ320をナット本体310に固定することも可能である。
【0026】
(その他)
また、上記実施例においては、転動体がボールであるボールねじの場合を示したが、本発明においては、転動体がローラである場合の転動体ねじ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
200・・・ねじ軸,210・・・第1のねじ溝,220・・・ランド,300・・・ナット,310・・・ナット本体,311・・・第2のねじ溝,312・・・螺旋溝,313・・・嵌合穴,320・・・デフレクタ,330・・・コイルスプリング,400・・・ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面側に螺旋状の第1のねじ溝が形成されるねじ軸と、
内周面側に第1のねじ溝に対応する螺旋状の第2のねじ溝が形成されるナットと、
第1のねじ溝と第2のねじ溝との間に配置される複数の転動体と、
を備え、
前記ナットには、転動体を無限循環させるために前記ねじ軸におけるランドを転動体が乗り越える通路を形成するデフレクタが複数設けられる転動体ねじ装置において、
前記ナットのナット本体には、外周面側から内周面側に向かって前記デフレクタが嵌合される段付きの嵌合穴が各デフレクタに対応してそれぞれ設けられ、かつ外周面には全ての前記嵌合穴上を通過する螺旋に沿うような螺旋溝が設けられると共に、
複数の前記嵌合穴に対して、それぞれデフレクタが嵌合された状態で、線状部材が前記螺旋溝に沿って巻き付けられることによって、各デフレクタが前記ナット本体に装着されることを特徴とする転動体ねじ装置。
【請求項2】
前記線状部材が前記螺旋溝に沿って巻き付けられることで、各デフレクタは該線状部材によって前記ナット本体にそれぞれ押し付けられることを特徴とする請求項1に記載の転動体ねじ装置。
【請求項3】
前記線状部材はコイルスプリングであることを特徴とする請求項1または2に記載の転動体ねじ装置。
【請求項4】
前記線状部材の端部が前記ナット本体に固定されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の転動体ねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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