説明

転造ダイス及びそれを用いた塗工用ロッドの製造方法

【課題】ウェブへの擦り傷や塗布ムラを解消することができる塗工用ロッドの製造方法を提供する。
【解決手段】ロッド素材を準備する工程と、外周面に複数の凸形状が形成され、前記ロッド素材の進入側から退出側に向けて食付き部、平行部、逃げ部を有し、前記逃げ部を形成する面と前記平行部の表面とのなす角度である逃げ角が0.01°〜0.45°である一対の転造ダイスを、前記平行部同士が対向するように配置する工程と、前記ロッド素材を、前記一対の転造ダイスに挟まれた隙間に前記食い付き部側から挿入する工程と、前記一対の転造ダイスが、回転しながら前記ロッド素材を狭圧し、前記ロッド素材の表面を転造加工しながら前記ロッド素材を前記逃げ部側に送り出す工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造ダイス及びそれを用いた塗工用ロッドの製造方法に関し、特に連続走行する薄い金属板、紙、フィルムなどのシート状または帯状の支持体(以下、ウェブという)に各種の液状物質(塗布液)を塗布したり、塗布後に液状物質を平滑化したりするための塗工用ロッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄い金属板、紙、プラスチックフィルム等のウェブに各種の塗布液を塗布する塗布装置としては、ロールコータ、エアーナイフコータ、ダイを用いたコータ、及びロッドコータ等の各種の装置が知られている。
【0003】
これらの塗布装置の中でロッドコータは、簡易な塗布装置であり、各種の塗布液を各種のウェブに塗布することができるので、広く利用されている。ロッドコータは、ウェブに塗布された塗布液の過剰分を塗工用ロッド(バーともいう)で掻き落とすタイプのものと、ウェブへの塗布と塗布液量の調整の両方を1つの塗工用ロッドで行うタイプのものとがある。いずれのタイプのロッドコータにおいても、塗工用ロッドの表面の周方向には多数の溝が形成されている。この溝の深さ及び幅を調整することにより、ウェブに塗布する塗布液量や掻き落とす塗布液量が調整される。
【0004】
塗工用ロッドの表面に溝を形成する方法として、転造により溝を形成する方法が知られている。この方法は、溝が形成された2つの転造ダイスでロッド素材を挟み込み、2つの転造ダイスを回転させながら、ロッド素材を軸方向に前進させ、ロッド素材の表面に溝を形成する。
【0005】
このような転造ダイスによりロッド素材の表面に溝を形成する方法として、「塗工用ロッド及びその製造方法」(特許文献1)、このような転造ダイスとして、「転造ダイス」(特許文献2)が開示されている。
【0006】
特許文献1に開示された「塗工用ロッド及びその製造方法」は、転造後に塗工用ロッドの表面(山部)を研磨することにより山部同士の軸方向直交断面の重なりを99.5%以上とすることを備えている。これにより、転造ムラが原因でロッド素材の表面に形成された溝の深さが不均一となった場合、最も高い部分が局所的にウェブに接触して擦り傷が発生する問題を解決することが出来るとしている。
【0007】
特許文献2に記載された「転造ダイス」は、逃げ部の逃げ角を0°30′以上2°未満であることを備えている。これにより、ボール溝形状のくずれ、精度劣化を防ぐことが出来るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4460257号公報
【特許文献2】実開平5−88733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法では、谷部の形状を考慮しないで、転造後に山部を研磨する。そのため、溝の断面積が研磨により変化し、塗布ムラを引き起こす場合がある。ここで、塗布ムラとは、塗布面に塗布量の部分差によって生じる濃淡ムラのことである。
【0010】
また、特許文献2に記載の転造ダイスは、ボール溝一つ一つの形状に注目しており、ボール溝の有効径のばらつきを押さえる効果は有するかもしれないが、ロッド素材の表面に形成された溝の深さが不均一になることを防ぐことが出来ない。このため、この転造ダイスを使用すると、溝の最も高い部分が局所的にウェブに接触して、これにより、擦り傷が発生するという問題が生じる。
【0011】
また、一般的に、塗工用ロッドの表面に形成される溝の大きさ(深さ)は、0.001mm〜0.1mmであり、特許文献2のボールネジに比較して、その深さは非常に小さい。そのため、転造ムラの溝形状の精度に与える影響が相対的に大きく、よりシビアに転造ムラを抑制する必要がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、上記ウェブへの擦り傷や塗布ムラを解消できる塗工用ロッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様による塗工用ロッドの製造方法は、ロッド素材を準備する工程と、外周面に複数の凸形状が形成され、前記ロッド素材の進入側から退出側に向けて食付き部、平行部、逃げ部を有し、前記逃げ部を形成する面と前記平行部の表面とのなす角度である逃げ角が0.01°〜0.45°である一対の転造ダイスを、前記平行部同士が対向するように配置する工程と、前記ロッド素材を、前記一対の転造ダイスに挟まれた隙間に前記食い付き部側から挿入する工程と、前記一対の転造ダイスが、回転しながら前記ロッド素材を狭圧し、前記ロッド素材の表面を転造加工しながら前記ロッド素材を前記逃げ部側に送り出す工程と、を備えることを主要な特徴にしている。
【0014】
これにより、擦り傷と塗布ムラを低減することができる塗工用ロッドを製造することができる。
【0015】
また、本発明の一態様による転造ダイスは、前記転造ダイスは、前記ロッド素材の進入側から退出側にかけて、食い付き部、平行部、逃げ部と、を備え、前記平行部は、円柱形状を有し、前記食い付き部は、先端から前記平行部との接続部分にかけて外径が前記平行部と同じ外径まで漸増する円錐台形状を有し、前記逃げ部は、前記平行部との接続部分から先端にかけて、前記平行部と同じ外径から漸減してゆく円錐体形状を有し、前記逃げ部を形成する面と、前記平行部の表面とのなす角度である逃げ角が、0.01°〜0.45°であることを主要な特徴にしている。
【0016】
これにより、この転造ダイスを用いて塗工用ロッドを製造すると、擦り傷と塗布ムラを低減することができる塗工用ロッドを製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ウェブへの擦り傷や塗布ムラを防止することができる塗工用ロッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】塗工用ロッドを備えるロッドコータを示す概略図。
【図2】塗工用ロッドの一部を示す斜視図。
【図3】ロッド素材を示す斜視図。
【図4】一対の転造ダイスを示す概略図。
【図5】転造加工装置の平面図。
【図6】研磨装置の断面図。
【図7】塗工用ロッドの外周面の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0020】
図1は塗工用ロッドを備えるロッドコータを示す。ロッドコータ10は、塗工用ロッド12、塗工用ロッド12(以下単にロッドと称する場合もある)を回転自在に支持するロッド支持ブロック13、ロッド支持ブロック13に近接する堰部材16を備える。ロッド支持ブロック13と堰部材16とで形成された塗布液供給路17に塗布液15が供給される。走行するウェブ11に接触した状態で、ウェブ11の幅方向に塗工用ロッド12が配置される。ロッドコータ10において、1つの塗工用ロッド12が、ウェブ11への塗布液の供給と塗布液量の調整の両方を行なう。塗工用ロッド12は、ウェブ走行方向と同方向に回転させても、或いは静止状態にしても、逆方向に回転させてもよい。
【0021】
次に、ロッドコータ10を用いた塗布方法を説明する。連続走行するウェブ11と塗工用ロッド12の接触部に塗布液15の液溜り18が形成される。回転する塗工用ロッド12により液溜り18の塗布液15がウェブ11に計量塗布される。
【0022】
図2は、塗工用ロッドの概略構成図である。図2に示すように、塗工用ロッド12は円柱状のロッド素材20から構成されている。ロッド素材20はSUS等の材料で構成される。ロッド素材20の周面の周方向に、ロッド素材20の略全長に渡って溝(凹部21)が形成される。溝21が形成される幅は、塗布幅Wより大きい。溝(凹部21)の深さ、幅、ピッチにより塗布液量が調節される。溝の形状としては、溝の深さ(凸部と凹部の高低差)は0.001mm〜0.1mmの範囲であり、凹凸のピッチ(凹部中央から凸部中央間でのロッド軸方向距離)は0.1mm〜0.5mmの範囲である。
【0023】
次に、塗工用ロッドの製造方法について説明する。図3に示すように、塗工用ロッドを構成するロッド素材20が準備される。ロッド素材20は、例えばSUSで構成され、外径(R)が3〜70mmである円柱状の形状を有する。
【0024】
図4は、ロッド素材に溝を形成するための一対の転造ダイスの概略構成図を示す。第1転造ダイス120と第2転造ダイス130は、略円柱状の形状を有しており、それぞれの主軸122、132を回転中心として回転する。第1転造ダイス120と第2転造ダイス130の主軸方向の長さは、一般的に10〜500mmである。ここで、転造ダイスを単にダイスと称する場合もある。
【0025】
第1転造ダイス120と第2転造ダイス130は、ロッド素材に溝を形成するため、溝形状を反転した複数の凸状の外周面を有する。第1転造ダイス120と第2転造ダイス130の各々には、ロッド素材の進入側から退出側に向けて、食い付き部120a,130a、平行部120b,130b、逃げ部120c,130cとが形成される。
【0026】
食い付き部120a,130aでは、端部から平行部120b,130bに向けて、所定の食付き角α1、α2が付与され、転造ダイスの外径が漸増し、最終的に食い付き部120a,130aと平行部120b,130bとの接続部分では平行部120b,130bと同じ外径になる。
【0027】
平行部120b,130bでは、転造ダイスの外径は実質的に等しい。逃げ部120c,130cでは、平行部120b,130bから端部に向けて、所定の逃げ角β1、β2が付与され、平行部120b,130bと同じ外径から転造ダイスの外径が漸減する。
【0028】
食付き角α1、α2とは、食付き部120a,130aの面と平行部120b,130bの延長面との成す角を指し、逃げ角β1、β2とは、逃げ部120c,130cの面と平行部120b,130bの延長面との成す角を指す。
【0029】
食い付き部120a,130a、および逃げ部120c,130cは、それぞれ、例えば5〜30mmの長さを有する。食付き角α1、α2は、1°以下であることが好ましく、0.5°以下であることがより好ましい。食付き角α1と食付き角α2とは等しいことが好ましい。逃げ角β1、β2は、0.01°〜0.45°であることが好ましく、0.01°〜0.1°であることが更に好ましい。逃げ角β1と逃げ角β2とは等しいことが好ましい。転造ダイスの食付き部、平行部、及び逃げ部の長さは、必要に応じて適宜設定される。
【0030】
ロッド素材は、食い付き部120a、130a側から第1転造ダイス120と第2転造ダイス130とに挟まれた隙間に挿入される。第1転造ダイス120と第2転造ダイス130は、回転しながらロッド素材を狭圧し、第1転造ダイス120と第2転造ダイス130の表面に形成された形状(ダイス表面形状と称する)をロッド素材表面に転造してゆく。
【0031】
ここで、ロッド素材表面に転造される形状は、ダイス表面形状とは、凹部と凸部とが逆になった形状である。ロッド素材は、その表面に転造加工を施されながら、食い付き部120a、130a側から逃げ部120c、130c側までロッド素材の軸方向に送り出される。
【0032】
発明者らが、転造ムラの抑制について更なる検討したところ、転造ダイスの直径と、転造ダイスの平行部長さとが転造ムラ抑制の因子として効果があることが確認された。逃げ角β1、β2が0.01°〜0.45°の範囲内で、転造ダイス120,130の直径をDとし、転造ダイス120,130の平行部120b,130bの長さをLとしたとき、直径Dは小さい方が良く、平行部長Lは大きいほうが良いことが確認された。転造ダイスの直径Dに関しては、60mm≦D≦180mmの範囲が好ましく、60≦D≦150mmがより好ましい。転造ダイスの平行部長Lに関しては、6mm≦L≦50mmの範囲が好ましく、10mm≦L≦50mmの範囲がより好ましい。
【0033】
図5は、転造加工装置の平面図を示す。転造加工装置は、ロッド素材を挟圧し転造加工するための第1転造ダイス120及び第2転造ダイス130と、ロッド素材を支持する基台140とを備える。
【0034】
ロッド素材20を挟圧する圧力を調整するため、第1転造ダイス120と第2転造ダイス130の間の距離(間隔)X、及び第1転造ダイス120と第2転造ダイス130の主軸とロッド素材20の中心軸22の高さ方向の距離(間隔)Yが調整される。また、主軸122,132の開き角は、0°(主軸122、132が平行)であることが好ましいが、開き角が角度を有する(0°以外)ように調整しても良い。
【0035】
本実施の形態では、距離Xを調整することにより、一対の転造ダイス120,130のロッド素材への押し込み量(転造圧)が調整される。距離Yを調整することにより、ワーク高さが調整される。ここでワーク高さとは転造ダイス120、130の主軸122,132を基準とした、ワークの鉛直方向の位置を意味する。
【0036】
ここで、転造工程は、塑性変形を伴うものであるため、転造前後でロッドの外形は変化する。即ち、平行部で塑性変形された材料は、逃げ部120c、130cに押し出されるため、このとき、転造ダイス120、130そのものに円周方向の径の振れがあったり、設置精度のバラツキがあったりすると、ロッドは波打ち形状になり、その振幅は転造ダイス120、130の逃げ角β1、β2に合わせて変化する。
【0037】
転造ダイス120、130の振れを完全になくすことは困難であるため、転造ムラを本質的に解決することは非常に難しいが、逃げ角をできるだけ小さくして転造ムラの振幅を最小限に抑えることで転造後の研磨処理を最小限にして擦り傷を防止することができ、かつ、溝部の断面積のバラツキも一定の範囲内に収めることができるため、良好な面状態を得ることが可能になる。
【0038】
転造加工された塗工用ロッドの表面を研磨装置により、研磨することができる。この際、研磨後の溝の断面積がばらつかない範囲で研磨することが重要である。なお、転造した後に表面を研磨するまでの間に、鍍金その他の表面処理工程が入ってもかまわない。鍍金とは、クロム鍍金やニッケル鍍金、その他複合金属鍍金やダイヤモンドライクカーボン処理などを指し、化学気相成長法やスパッタリング法、イオンプレーティング法などによって実施される。
【0039】
図6は研磨装置の断面図を示す。研磨装置は、研磨部31を備え、この研磨部31は、塗工用ロッド12を上下方向から挟むように保持する多数のラッパ35と、これらラッパ35を保持する保持台36と、ラッパ35と塗工用ロッド12との接触面に研磨剤37を供給する研磨剤供給部38とを備える。
【0040】
ラッパ35は、上下方向で2分割されており、上部ラッパ本体35a及び下部ラッパ本体35bから構成される。ラッパ35は、塗工用ロッド12の軸方向に多数並べて保持台36内に配置される。
【0041】
ラッパ本体35a,35bには、塗工用ロッド12の直径とほぼ同じ直径の内周面からなる研磨面40が形成される。ラッパ35はロッド軸方向長さが、例えば80mmであり、これが例えば25個並べて設けられる。ラッパ35の個数は塗工用ロッド12の塗布幅または凸部エリアのロッド軸方向長さに応じて決定される。
【0042】
上部ラッパ本体35aは上部支持台36aに保持される。上部ラッパ本体35aが、その自重によって塗工用ロッド12に向けて付勢される。下部ラッパ本体35bは下部支持台36bに保持される。ラッパ35は例えば鋳鉄、銅合金の他に、樹脂性化合物などの材料で構成される。
【0043】
ラッパ35の研磨面40に対して研磨剤37を供給するため、研磨剤供給部38は供給パイプ41及びポンプ42を有する。研磨剤供給タンク43からの研磨剤37がラッパ35の研磨面40に供給される。研磨剤37としては、例えば酸化鉄、酸化アルミ、パミスなどが用いられる。
【0044】
研磨方法について説明する。最初にラッパ35内の研磨面40に塗工用ロッド12をセットした後に、塗工用ロッド12の一端部をチャックにより保持する。次に、研磨剤供給部38を駆動して、各ラッパ35の研磨面40に対して研磨剤(ラップ剤)37を供給する。そして、塗工用ロッド12を回転しながら、塗工用ロッド12の軸方向に往復運動させる。これにより、塗工用ロッド12の凸部がほぼ平坦に研磨される。
【0045】
[実施例]
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。但し、これらに限定されるものではない。
【0046】
最初に、10mmの外径、1000mmの長さを有し、SUS304で構成された、円柱形状のロッド素材を準備した。逃げ角βの異なる複数の転造ダイスを用いて転造加工装置によりロッド素材に転造加工で溝を形成してロッドを製造した。転造加工の際、第1転造ダイスの逃げ角と第2転造ダイスの逃げ角は、同じ角度のものを使用した。ここで、転造加工の条件として、転造中の一対のダイスの平行部が平行になるように設定して転造加工を行った。
【0047】
さらに、逃げ角βを0.45°に固定し、転造ダイスの直径D、及び転造ダイスの平行部長Lの異なる複数の転造ダイスを用いて転造加工装置によりロッド素材に転造加工で溝を形成してロッドを製造した。
【0048】
このように逃げ角βの異なる転造ダイスにより溝を形成したロッドに対し、山部を研磨処理する前の塗布面状態の評価を行った。直径D、及び平行部長Lの異なる複数の転造ダイスにより溝を形成したロッドに対し、山部を研磨処理する前の塗布面状態の評価を行った。塗布面状態の評価としては、転造ムラ評価と擦り傷評価とを行った。
【0049】
まず、転造ムラについて、その評価を説明する。図7は塗工用ロッドの外周面の拡大図である。まず、外周表面の山部同士の軸方向に直交する高さの最大値Zと最小値Zを求め、最大値Zと最小値Zとの差Z12を求める。同様に、外周表面の谷部同士の軸方向に直交する高さの最大値Zと最小値Zを求め、最大値Zと最小値Zとの差Z34を求める。差Z12と差Z34の何れか大きい値を転造ムラZ(μm)とした。基準線は、例えば定盤の上に置くことで設定される。この場合、Z=0となる。
【0050】
なお、研磨後の転造ムラも上記と同様に測定してもとめた。ただし、研磨前の転造ムラと区別するために、研磨後の転造ムラは転造ムラY(μm)で示す。
【0051】
擦り傷の評価は、塗布膜の面状を目視にて確認したのち、塗布膜を剥離して基板に傷がないかを目視にて確認した。塗布膜と基板共に傷がない場合を◎(最良)、基板に傷があるが塗布膜には傷がない場合を○(良)、塗布膜と基板ともに傷がある場合を×(不良)とした。
【0052】
塗布ムラの評価は塗布直後および乾燥終了後の面状を目視にて確認した。塗布直後と乾燥終了後ともに良好な面状である場合を◎(最良)、塗布直後はムラが見られるが乾燥終了後は良好な面状である場合を○(良)、塗布直後と乾燥終了後ともにムラである場合を×(不良)とした。ここで、塗布ムラとは、塗布面に塗布量の部分差によって生じる濃淡ムラのことである。評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、逃げ角βが0.01°〜0.45°(試験1〜試験3)の範囲では、研磨前、研磨後ともに擦り傷評価、塗布ムラ評価の結果は最良または良好であり、転造ムラZは0.5μm以下、転造ムラYは0.3μm以下と良好な値が得られた。
【0055】
また、逃げ角βが0.01°〜0.1°(試験1〜試験2)の範囲では、研磨前、研磨後ともに擦り傷評価、塗布ムラ評価の結果は全て最良になり、転造ムラZ、Yともに0.2μm以下と更に良好な値が得られた。よって、逃げ角βは、0.01°〜0.45°が好ましく、0.01°〜0.1°が更に好ましいと言える。逃げ角βが0.01°〜0.1°の範囲である場合、転造ムラZと転造ムラYとに実質的な差はない。したがって、研磨処理を行わなくても良い。
【0056】
しかしながら、逃げ角βが0.5°(試験4)のときは、研磨前の転造ムラZの値は1.0μmと転造ムラの大きい値になり、研磨前は擦り傷評価結果が×(不良)になった。この試験4のロッドは、研磨することにより研磨後の転造ムラYは0.5μmに、擦り傷評価結果は○(良)になったが、逆に塗布ムラ評価結果が×(不良)になった。
【0057】
これは、研磨処理により局所的に溝部の形状が変化することで溝部の断面積のバラツキが増大し、塗布ムラが発生したものと考えられる。
【0058】
このように、研磨によって擦り傷の状態が良くなる現象は、試験3にも見られた。試験3においては、研磨前は擦り傷評価結果が○(良)であったが、研磨後は◎(最良)になった。
【0059】
次に試験5を参照すると、逃げ角βが0°のときは、ダイス端部がロッド表面を傷つけて意図した溝形成が出来なかった。このため、転造ムラZ、Yの測定、擦り傷評価、塗布ムラ評価を行うことが出来なかった。よって、逃げ角βは、0°では良好なロッドを製造できないことが分かった。
【0060】
次に、平行部長Lが6mm〜50mm(試験6〜試験8)の範囲では、基本的に平行部長Lが長いほど、転造ムラZの値が小さくなった。直径Dが180mm〜60mm(試験9〜試験11)の範囲では、基本的に直径Dが小さいほど、転造ムラZの値が小さくなった。これは、直径Dが小さくなると、転造ダイスが1回転する間に進むロッド素材の量(歩みとも呼ぶ)が小さくなり、その結果、転造ダイスの逃げ部でのロッド素材の盛り上がりが小さくなるためと考えられる。
【0061】
以上の検討から、逃げ角βが0.01°、平行部長Lが30mm、直径Dが60mm(試験12)のとき、研磨前の転造ムラZを0.01μmと、最も小さくすることが出来た。
【0062】
以上より、以下のことが判明した。
・研磨処理量が一定量を超えると溝部の断面積にバラツキが生じ、塗布ムラの発生につながるため、良好な塗布面を得るためには操作条件の適切な設定によって転造のみで転造ムラZの値を一定以内に抑えることが重要である。
・転造のみで転造ムラZの値を一定以内に抑えることが出来れば、研磨による溝部の断面積への影響が小さいため、研磨処理によって更に広い条件で良好な塗布面状態を得ることが可能になる。
【0063】
また、逃げ角βを適切な値に調整して、転造ムラZの値を一定以内に押さえることにより、塗布時にロッドがウェブに均一に接触するため、ロッドの偏摩耗を抑制することができる。これにより、ロッドの寿命を延ばすことが可能になる。
【符号の説明】
【0064】
10…ロッドコータ、11…ウェブ、12…塗工用ロッド、13…ロッド支持ブロック、15…塗布液、16…堰部材、17…塗布液供給路、20…ロッド素材、21…凹部、22…中心軸、31…研磨部、35…ラッパ、35a…上部ラッパ本体、35b…下部ラッパ本体、36…保持台、36a…上部支持台、36b…下部支持台、37…研磨剤、38…研磨剤供給部、40…研磨面、41…供給パイプ、42…ポンプ、43…研磨剤供給タンク、120…第1転造ダイス、120a…食い付き部、120b…平行部、120c…逃げ部、122…主軸、130a…食い付き部、130b…平行部、130c…逃げ部、132…主軸、130…第2転造ダイス、140…基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工用ロッドの製造方法であって、
ロッド素材を準備する工程と、
外周面に複数の凸形状が形成され、前記ロッド素材の進入側から退出側に向けて食付き部、平行部、逃げ部を有し、前記逃げ部を形成する面と前記平行部の表面とのなす角度である逃げ角が0.01°〜0.45°である一対の転造ダイスを、前記平行部同士が対向するように配置する工程と、
前記ロッド素材を、前記一対の転造ダイスに挟まれた隙間に前記食い付き部側から挿入する工程と、
前記一対の転造ダイスが、回転しながら前記ロッド素材を狭圧し、前記ロッド素材の表面を転造加工しながら前記ロッド素材を前記逃げ部側に送り出す工程と、
を備える塗工用ロッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗工用ロッドの製造方法であって、前記転造加工工程の後に、さらに前記ロッド素材を表面研磨する工程を備える塗工用ロッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塗工用ロッドの製造方法であって、前記転造加工工程において、前記ロッド素材を基台で支持することを含む塗工用ロッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の塗工用ロッドの製造方法であって、前記一対の転造ダイスの距離、及び前記転造ダイスの主軸と前記ロッド素材の中心軸の高さ方向の間隔を調整することを含む塗工用ロッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の塗工用ロッドの製造方法であって、前記転造ダイスの前記平行部の直径をDとするとき、60mm≦D≦180mmである塗工用ロッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の塗工用ロッドの製造方法であって、前記転造ダイスの前記平行部の長をLとするとき、6mm≦L≦50mmである塗工用ロッドの製造方法。
【請求項7】
ロッド素材に転造加工を施して塗工用ロッドを製造するための転造ダイスであって、
前記転造ダイスは、前記ロッド素材の進入側から退出側にかけて、食い付き部、平行部、逃げ部と、を備え、
前記平行部は、円柱形状を有し、
前記食い付き部は、先端から前記平行部との接続部分にかけて外径が前記平行部と同じ外径まで漸増する円錐台形状を有し、
前記逃げ部は、前記平行部との接続部分から先端にかけて、前記平行部と同じ外径から漸減してゆく円錐体形状を有し、
前記逃げ部を形成する面と、前記平行部の表面とのなす角度である逃げ角が、0.01°〜0.45°である転造ダイス。
【請求項8】
請求項7記載の転造ダイスであって、前記転造ダイスの前記平行部の直径をDとするとき、60mm≦D≦180mmである転造ダイス。
【請求項9】
請求項7又は8記載の転造ダイスであって、前記転造ダイスの前記平行部の長をLとするとき、6mm≦L≦50mmである転造ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−206104(P2012−206104A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159090(P2011−159090)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】