説明

軸の接着方法および振動型駆動装置の製造方法

【課題】振動軸への接着剤の這い上がりを低減できる振動型駆動装置の製造方法を提供する。
【解決手段】電圧が印加されると伸縮する電気機械変換素子2と、電気機械変換素子2に一端が接着され、電気機械変換素子2の伸縮によって軸方向に変位する振動軸3と、振動軸3に滑り変位可能に摩擦係合する摩擦係合部材4とを有する振動型駆動装置1の製造方法において、振動軸3の電気機械変換素子2への接着は、電気機械変換素子2の端面に接着剤を盛り付け、接着剤に圧縮ガスを吹き付けて接着剤を押し広げ、押し広げた接着剤の上に振動軸3を配置して、接着剤を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸の接着方法および振動型駆動装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着面に軸状の部材を垂直に接着する場合、軸の側面に接着剤が回り込む這い上がりと呼ばれる現象が見られる。特に、細い軸を接着する場合、接着剤の量をコントロールすることは難しく、余分な接着剤が軸の周りにはみ出して、軸の側面に這い上がりを形成する。
【0003】
接着剤の這い上がりは、軸の有効長を短くする。例えば、振動軸を電気機械変換素子で振動させ、振動軸に摩擦係合する摩擦係合部材を滑り変位させる振動型の駆動装置では、振動軸への接着剤の這い上がりによって、摩擦係合部材の可動範囲が狭くなる問題が発生する。
【0004】
シリンジ等から吐出して接着面に盛り付けられた接着剤を、治具によって押し広げることで、接着剤の軸への這い上がりを低減する技術があるが、治具に接着剤が付着するため、接着剤の塗布量がばらつき、接着強度が不足する不良品を発生させるという問題がある。
【0005】
また、特許文献1には、振動型駆動装置の振動軸への接着剤の這い上がりを防止するために、電気機械変換素子の端面を振動軸の端面よりも小さくして、接着剤が電気機械変換素子側に這い上がるようにした発明が記載されている。しかしながら、非常に断面積の小さい軸を接着する場合や、薄い板の板面に軸を接着する場合には、接着面を軸の端面より小さくすることは困難である。
【特許文献1】特開2007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題点に鑑みて、本発明は、軸の端面より広い接着面に軸を接着する際に、軸への接着剤の這い上がりを低減できる軸の接着方法、および、振動軸への接着剤の這い上がりを低減できる振動型駆動装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明による軸を接着面に立てて接着する方法は、前記接着面に接着剤を盛り付け、前記接着剤の上から圧縮ガスを吹き付けて前記接着剤を押し広げ、前記軸を前記接着面上に配置して前記接着剤を硬化させる方法とする。
【0008】
この方法によれば、予め圧縮ガスによって接着剤を接着面上で押し広げるので、接着剤の厚みが小さく、軸を接着面に押圧する際に軸の端面からはみ出す接着剤も少なくなるので、軸の側面に這い上がる接着剤の量が少ない。
【0009】
また、本発明によれば、電圧が印加されると伸縮する電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子に一端が接着され、前記電気機械変換素子の伸縮によって軸方向に変位する振動軸と、前記振動軸に滑り変位可能に摩擦係合する摩擦係合部材とを有する振動型駆動装置の製造方法は、前記振動軸の前記電気機械変換素子への接着を、前記電気機械変換素子の端面に接着剤を盛り付け、前記接着剤に圧縮ガスを吹き付けて前記接着剤を押し広げ、押し広げた前記接着剤の上に前記振動軸を配置して、前記接着剤を硬化させる工程からなる方法とする。
【0010】
この方法によれば、圧縮ガスによって接着剤を電気機械変換素子の端面上で押し広げてから振動軸を配置するので、振動軸への接着剤の這い上がりが少なく、摩擦係合部材の可動範囲が広い振動型駆動装置を提供できる。
【0011】
また、本発明の振動型駆動装置の製造方法において、前記接着剤が、前記電気機械変換素子の側面に回り込むまで、前記圧縮ガスを吹き付けてもよい。
【0012】
この方法によれば、接着剤を電気機械変換素子の側面にまで拡げることで、接着剤と電気機械変換素子との接着強度を高めることができる。
【0013】
また、本発明の振動型駆動装置の製造方法において、前記電気機械変換素子の側面に、予めブリードアウト防止剤を塗布しておいてもよい。
【0014】
この方法によれば、電気機械変換素子の表面に接着剤の添加剤がブリードアウトして、電気機械変換素子の電極への配線を妨げることを防止できる。
【0015】
また、本発明の振動型駆動装置の製造方法において、前記圧縮ガスの吹き付けは、段階的に圧力を高くしてもよい。
【0016】
この方法によれば、粘度の低い接着剤を使用したときに、圧縮ガスにより接着剤が飛散することを防止して、接着剤の量を一定に保ち、接着強度のばらつきを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、盛り付けた接着剤を圧縮ガスによって接着面上に押し広げてから軸を配置するので、接着剤の厚みが小さく、軸の周囲にはみ出す接着剤の量も少ないので、軸の側面への接着剤の這い上がりを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態の振動型駆動装置1の製造方法を示す概略図である。本実施形態による振動型駆動装置1は、電圧が印加されると伸縮する圧電素子(電気機械変換素子)2と、圧電素子2の伸縮方向の端面(接着面)に一端が接着され、圧電素子2の伸縮によって軸方向に変位する振動軸3と、振動軸3に滑り変位可能に摩擦係合する摩擦係合部材4とからなる。
【0019】
本実施形態の製造に使用される製造設備は、圧電素子2を保持して矢印方向に順番に移動する複数のホルダ5と、接着剤(例えば粘度36500cpsの熱硬化性エポキシ樹脂)を滴下する接着剤ディスペンサ6と、圧縮空気を噴出するエアディスペンサ7とを備える。接着剤ディスペンサ6およびエアディスペンサ7は、それぞれ、例えば、容量10ccのシリンジ8と、シリンジ8の先端に取り付けた例えば内径0.4mmのニードル9とからなり、シリンジ8には、電磁弁10を介して、圧縮空気リザーバ11から例えば0.03MPaの圧縮空気が供給されるようになっている。
【0020】
先ず、ホルダ5上の圧電素子2を接着剤ディスペンサ6の直下に位置決めする。そこで、接着剤ディスペンサ6の電磁弁10を所定時間(例えば1秒間)だけ開放し、空気圧によって一定量の接着剤を滴下して圧電素子2の端面に盛り付ける。続いて、接着剤が滴下された圧電素子2を保持するホルダ5を、エアディスペンサ7の直下に移動させる。そこで、エアディスペンサ7の電磁弁10を所定時間(例えば1秒間)だけ開放し、圧電素子2に対して、滴下された接着剤の上から圧縮空気(他の気体でもよい)を吹き付ける。これにより、接着剤は、好ましくは圧電素子2の側面に僅かに回り込む程度に押し広げられる。
【0021】
そして、ホルダ5を移動して、接着剤が押し広げられた圧電素子1を振動軸3の供給装置(振動軸3を保持するアーム12のみ図示)に移送する。そこで、アーム12により、振動軸3を圧電素子2の上に、その一端に押し広げられた接着剤の上にから垂直に押圧するように配置する。このとき、接着剤は、濡れ性により、振動軸3の側面に僅かに這い上がる。そして、アーム12によって振動軸3を圧電素子2上に保持したまま、ホルダ5を加熱炉13内に移動し、接着剤を加熱硬化させる。最後に、接着剤が硬化して圧電素子2に固定された振動軸3に、摩擦係合部材4を摩擦力によって滑り変位可能に係合させることで、振動型駆動装置1が製造される。
【0022】
本実施形態によれば、接着剤ディスペンサ6により圧電素子2の端面に接着剤を滴下し、それにより盛り付けられた状態の接着剤をエアディスペンサ7が吹き付ける圧縮空気で押し広げる。これにより、振動軸3が接着される部分の接着剤の厚みが小さくなり、振動軸3を押圧したときに、振動軸3の側面に這い上がる接着剤の量が少なくなる。この結果、本実施形態の振動型駆動装置1は、摩擦係合部材4が圧電素子2の近傍まで移動することができ、ストロークが長い。
【0023】
また、本実施形態では、接着剤を圧縮空気で押し広げ、圧電素子2の側面にまで回り込ませている。これにより、接着剤と圧電素子2との接着強度を高め、接着剤の剥離を防止できる。この結果、本実施形態により製造した振動型駆動装置1は、耐衝撃性が高く、故障が少ない。
【0024】
また、本実施形態において、圧電素子2の側面には、ブリードアウト防止剤を塗布しておくことが好ましい。一般に、圧電素子2の側面は、圧電材料が露出しており、そのままでは、毛細管現象によりこの部分に回り込んだ接着剤からの添加剤の染み出し(ブリードアウト)を促進してしまう。圧電素子2の電極は、通常側面に設けられているので、ブリードアウトは、電極へのハンダ付け等によるリードの接続を難しくする可能性がある。このため、ブリードアウト防止剤の塗布によって接着剤のブリードアウトを抑制し、配線性を確保することが望まれるのである。
【0025】
図2に、圧電素子2と振動軸3との接着強度の分布を、盛り付けた接着剤を圧縮空気で押し広げる本実施形態によって製造した振動型駆動装置1の実施例と、盛り付けた状態の接着剤の上から振動軸3を配置して接着する従来の方法で製造した振動型駆動装置1の従来例とについて示す。
【0026】
圧電素子2と振動軸3との間に応力が加わると、接着剤が圧電素子2から剥離するが、従来例では、その破断強度が約0.8kgfであったのに対し、本発明の実施形態では、約1.05kgfに向上していた。これは、圧縮空気を吹き付けることによって接着剤を圧電素子2の側面に回り込ませた効果である。
【0027】
図3に、接着剤の振動軸3への這い上がり量(距離)の分布を、盛り付けた接着剤を圧縮空気で押し広げる本実施形態によって製造した振動型駆動装置1の実施例と、盛り付けた状態の接着剤の上から振動軸3を配置して接着する従来の方法で製造した振動型駆動装置1の従来例とについて示す。
【0028】
従来例では、接着剤の這い上がり量の平均値が約1.2mmであったのに対し、本発明の実施例では、接着剤の這い上がり量の平均値が約0.4mmに低減されていた。つまり、本実施形態では、接着剤の這い上がり量を従来の製造方法に比べて約3分の1に低減し、摩擦係合部材4のストロークを約0.8mm長くすることができた。
【0029】
図4に、圧電素子2上で硬化した接着剤の重量の分布を、盛り付けた接着剤を圧縮空気で押し広げる本実施形態によって製造した振動型駆動装置1の実施例と、盛り付けた接着剤を治具によって押し広げる従来の方法で製造した振動型駆動装置1の従来例とについて示す。
【0030】
従来の方法では、治具に接着剤が付着して圧電素子2の上から接着剤の一部が取り去られたり、ジグに付着していた接着剤が圧電素子2の上にさらに付け加えられたりする。このため、最終的に振動軸3を固定するために硬化された接着剤の重量が、最初に盛り付けられた重量の約半分しかないものや、最初に盛り付けられた重量の約2倍もの重量となっているものもあり、大きなばらつきがあった。しかしながら、本実施形態では、そのような接着剤の質量のばらつきが全く見られなかった。
【0031】
続いて、図5に、本発明の第2実施形態の振動型駆動装置1の製造方法を示す。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。本実施形態では、圧縮空気リザーバ11に加え、電磁弁14を介して、エアディスペンサ7に圧縮空気リザーバ11より低い圧力(例えば0.01MPa)の圧縮空気を供給可能な低圧圧縮空気リザーバ15を使用する。
【0032】
本実施形態において、接着剤ディスペンサ6によって、端面に接着剤が盛り付けられた圧電素子2対して、エアディスペンサ7は、先ず、電磁弁14を開いて低圧圧縮空気リザーバ15から供給される低圧の圧縮空気を所定時間だけ吹き付ける。そして、電磁弁14を閉じると同時に電磁弁10を開いて圧縮空気リザーバ11から供給される高圧の圧縮空気を所定時間だけ吹き付ける。
【0033】
本実施形態では、接着剤は、先ず、低圧の圧縮空気によって押し広げられるため、飛び散りや偏りが発生しにくい。そして、低圧の圧縮空気によってある程度押し広げられた接着剤を、高圧の圧縮空気によって、さらに、圧電素子2の側面に回り込むまで押し広げることで、接着剤の振動軸3への這い上がりを抑制するとともに、接着剤の圧電素子2に対する接着強度を高めることができる。
【0034】
以上の実施形態では、接着剤ディスペンサ6とエアディスペンサ7とは、同じ形状のシリンジ8およびニードル9で構成されている。しかしながら、単にこれは、既存の製造設備を利用し、ラインチェンジの作業量を小さくするために選択されたものである。したがって、接着剤ディスペンサ6とエアディスペンサ7とを全く異なる構成としてもよく、圧縮空気リザーバ11を共有する構成である必要もない。例えば、接着剤ディスペンサ6やエアディスペンサ7は、圧縮空気を用いず、アクチュエータで駆動されるピストンでシリンジから接着剤または空気を押し出すようなものであってもよい。
【0035】
また、以上の実施形態は、振動型駆動装置の製造方法について説明したが、本発明は、平坦な接着面に軸状の部材を接着する場合に広く適用できる。
【0036】
さらに、本発明に用いる接着剤は、熱硬化型のものに限られず、例えば、光硬化性の接着剤であってもよく、或いは、軸を保持したまま接着剤の自然硬化を待ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態の振動型駆動装置の製造方法の概略図。
【図2】図1の振動型駆動装置の実施例と従来例とおける、接着強度の分布を示す度数分布図。
【図3】図1の振動型駆動装置の実施例と従来例とおける、接着剤の這い上がり量の分布を示す度数分布図。
【図4】図1の振動型駆動装置の実施例と従来例とおける、接着剤の質量の分布を示す度数分布図。
【図5】本発明の第2実施形態の振動型アクチュエータの製造方法の概略図。
【符号の説明】
【0038】
1…振動型駆動装置。
2…圧電素子
3…軸部材
4…摩擦係合部材
5…ホルダ
6…接着剤ディスペンサ
7…エアディスペンサ
8…シリンジ
9…ニードル
10…電磁弁
11…圧縮空気リザーバ
12…アーム
13…加熱炉
14…電磁弁
15…低圧圧縮空気リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を接着面に立てて接着する方法であって、
前記接着面に接着剤を盛り付け、
前記接着剤の上から圧縮ガスを吹き付けて前記接着剤を押し広げ、
前記軸を前記接着面上に配置して前記接着剤を硬化させることを特徴とする軸の接着方法。
【請求項2】
電圧が印加されると伸縮する電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子に一端が接着され、前記電気機械変換素子の伸縮によって軸方向に変位する振動軸と、前記振動軸に滑り変位可能に摩擦係合する摩擦係合部材とを有する振動型駆動装置の製造方法において、
前記振動軸の前記電気機械変換素子への接着は、前記電気機械変換素子の端面に接着剤を盛り付け、前記接着剤に圧縮ガスを吹き付けて前記接着剤を押し広げ、押し広げた前記接着剤の上に前記振動軸を配置して、前記接着剤を硬化させることを特徴とする振動型駆動装置の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤が前記電気機械変換素子の側面に回り込むまで、前記圧縮ガスを吹き付けることを特徴とする請求項2に記載の振動型駆動装置の製造方法。
【請求項4】
前記電気機械変換素子の側面に、予めブリードアウト防止剤を塗布しておくことを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮ガスの吹き付けは、段階的に圧力を高くすることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の振動型駆動装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−71436(P2010−71436A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242195(P2008−242195)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】