説明

軸力算出方法および締付工具

【課題】ボルトの締結部に、パッキン等の軟性部材が介設されている場合において、所定の時間が経過した後に残留する軸力を算出することができる軸力算出方法を提供する。
【解決手段】各ワーク13・15にパッキン14を介設した状態でボルト11を締め付けて、各ワーク13・15を締結するときに、ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する予想軸力Fを算出するための軸力算出方法であって、ボルト11の締め付け完了時において該ボルト11に作用する軸力Fと、ボルト11の締め付け完了時から所定時間経過後に該ボルト11に作用する予想軸力Fと、の比(軸力降下率M(t))を、ボルト11の締付時間tの関数として表した関係式(数式5)を予め算出しておくとともに、ボルト11の締め付け完了時に該ボルト11に作用する軸力Fの検出値と、ボルト11の締付時間tを、関係式(数式5)に代入して、予想軸力Fを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトを締め付けたときに当該ボルトに作用する軸力を算出するための軸力算出方法およびその軸力算出方法を用いて動作を制御する締付工具の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、部品をボルトで固定する場合において、当該部品の被固定対象たる部位にナット孔を形成しておくとともに、当該部品にボルトを挿通するための前記ナット孔の配置に対応したボルト孔を形成しておき、ボルト孔にボルトを挿通しつつ、当該ボルトをナット孔に螺合させることによって、当該ボルトに生じた軸力(締結力)で部品を固定する方法が一般的に採用されている。
【0003】
ところで、このように部品をボルトで固定する場合において、実際にボルトに作用している軸力を測定することは困難である。
このため、固定に要する所定の軸力がボルトに生じているか否かを判断するためには、軸力を測定する代わりに、ボルトを締め付けたときの締め付けトルクを測定し、締め付けトルクからボルトに生じた軸力の可否(即ち、部品の固定状態の可否)を判断するようにしている。
【0004】
そして、適正な締め付けトルクでボルト・ナット等の締め付けを行うための技術が種々検討されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
【0005】
特許文献1に開示されているナットランナーの制御方法に係る従来技術では、目標締め付けトルクと、着座から締め付け完了までの目標締め付け時間を設定し、締め付け動作中における着座後の時点における回転数について、単位時間あたりのトルク上昇率を算出するとともに、その時点から目標締め付けトルクに至るまでの残り締め付けトルクと目標締め付け時間に至るまでの残り締め付け時間と、を算出するようにしている。
そして、トルク上昇率と残り締め付けトルクに基づいて、現時点から目標締め付けトルクに至るまでの残り締め付け予想時間を算出し、この残り締め付け予想時間と残り締め付け時間と現時点における回転数から、目標締め付け時間で締め付けを完了するための回転数を算出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−326250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、所定の締め付けトルクで締め付けを完了し、締め付け完了時において、ボルトに所望する軸力が作用していると判断される場合であっても、その後の時間経過に伴って、ボルトに作用する軸力が低下して、ボルトに緩みが生じる場合があった。
このようなボルトに緩みが生じる現象は、ボルトの締結部に、パッキン等の軟性部材が介設されている場合に顕著に生じていた。
【0008】
このため、ボルトの締結部に、パッキン等の軟性部材が介設されているような場合には、ボルトの締め付け完了時における締め付けトルクを管理するだけでは、ボルトによる固定状態の可否を適正に判断することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みて成されたものであり、ボルトの締結部に、パッキン等の軟性部材が介設されている場合において、所定の時間が経過した後に残留する軸力を算出することができる軸力算出方法を提供するとともに、その軸力算出方法を用いて、パッキン等の軟性部材が介設されているボルトの締結部において、所望する軸力を確実に確保することができる締付工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、単一もしくは複数の部品に軟性の部材を介設した状態で螺合部材を締め付けて、前記部品を締結するときに、前記螺合部材もしくは該螺合部材の被螺合部に作用する軸力を算出するための軸力算出方法であって、前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力と、前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力と、の比を、前記螺合部材の締め付けに要した時間の関数として表した関係式を予め算出しておくとともに、前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力の検出値と、前記螺合部材の締め付けに要した時間を、前記関係式に代入して、前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する予想軸力を算出するものである。
【0012】
請求項2においては、単一もしくは複数の部品に軟性の部材を介設した状態で、螺合部材を締め付けて、前記部品を締結するときに用いる締付工具であって、前記螺合部材を所定のトルクで締め付けるためのレンチ部と、前記レンチ部の動作を制御するための制御部と、を備え、前記制御部には、前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは該螺合部材の被螺合部に作用する軸力と、前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力と、の比を、前記螺合部材の締め付けに要した時間の関数として表した第一の関係式が予め記憶され、前記制御部によって、前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力の検出値と、前記螺合部材の締め付けに要した時間から、前記第一の関係式に基づいて、前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する予想軸力を算出するものである。
【0013】
請求項3においては、前記制御部には、前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する締め付けトルクと軸力の相関を表した第二の関係式が予め記憶され、前記制御部によって、前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する締め付けトルクから、前記第二の関係式に基づいて、前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力を検出するものである。
【0014】
請求項4においては、前記制御部は、算出した前記予想軸力が、予め設定した閾値以上となったときに、前記レンチ部の締め付け動作を停止させるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、所定の時間が経過した後に螺合部材もしくは被螺合部に作用する軸力を精度良く算出することができる。またこれにより、螺合部材による固定状態の可否を適正に判断することができる。
【0017】
請求項2においては、所定の時間が経過した後に螺合部材もしくは被螺合部に作用する軸力を精度良く算出することができる。またこれにより、螺合部材による固定状態の可否を適正に判断することができる。
【0018】
請求項3においては、螺合部材の締め付け完了時において螺合部材もしく被螺合部に作用する軸力を、簡易な装置構成で、容易かつ精度良く検出することができる。
【0019】
請求項4においては、螺合部材の締結部において、所望する軸力を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸力算出方法を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る軸力算出方法を適用する締結部を示す図、(a)締結部を示す断面模式図、(b)図2(a)に示す締結部のモデル図。
【図3】軟性部材を介設する締結部における軸力の変化状況を示す図。
【図4】締結部を表すモデルを同定するための実験の実施状況を示す模式図。
【図5】本発明の一実施形態に係る締付工具の全体構成を示す模式図。
【図6】本発明の一実施形態に係る締付工具の動作を示す制御フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法について、図1〜図4を用いて説明をする。
図1に示す如く、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法では、螺合部材たるボルトの締め付け完了時において該ボルトに作用する軸力を軸力F、ボルトの締め付け完了後所定時間が経過したときにおいて該ボルトに作用する軸力を予想軸力F、ボルトの締め付けに要した時間(以下、締付時間と呼ぶ)を締付時間t、軸力Fの降下率を締付時間tの関数として表したものを軸力降下率M(t)と規定するとき、予想軸力Fを、以下に示す数式1により求めるようにしている。
尚、ここでいう「螺合部材」とは、ボルト・ナット等であって、螺合することによって締結力を生じさせることができる部材を意味している。
【0022】
【数1】

【0023】
即ち、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法では、ボルトの締め付け完了時において該ボルトに作用する軸力Fと、締付時間tと、軸力降下率M(t)に基づいて、予想軸力Fを算出するようにしている。
尚、本実施形態では、締め付け対象たる螺合部材を「ボルト」として説明を行うが、締め付け対象たる螺合部材は、「ナット」であってもよい。
また、本実施形態では、「ボルト」を締め付けたときに、該「ボルト」に作用する軸力を算出するものとしているが、「ボルト」が螺合される部位(被螺合部)である「ネジ部」や「ナット」等にも同等の反力が作用するため、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法により、「ネジ部」や「ナット」等において軸方向に作用する反力を算出することもできる。
【0024】
そして、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法は、図2(a)に示すような締結部10に対する予想軸力の算出に適している。
締結部10は、ボルト11を、第一のワーク(以下、第一ワークと呼ぶ)13に形成されるボルト孔13aに挿通しつつ、被固定対象物たる第二のワーク(以下、第二ワークと呼ぶ)15に形成されたナット孔15aに螺合させることにより、第一ワーク13を第二ワーク15に対して締結する構成としており、また、第一ワーク13と第二ワーク15の間には、軟性部材によって構成されるパッキン14を介設している。
また、ボルト11と第一ワーク13には、ワッシャ12を介設している。
尚、ここでいう軟性部材とは、ボルト11を締め付けたときに生じる軸力で変形が生じる程度の硬さ(軟らかさ)を有する部材を意味している。
また、本実施形態では、第一ワーク13と第二ワーク15の間に軟性部材たるパッキン14を介設するモデルを例示しているが、例えば、第一ワーク13が無く、ボルト11およびワッシャ12と第二ワーク15の間にパッキン14を介設するモデルに対しても、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法を同様に適用できる。
【0025】
そして、このような軟性部材たるパッキン14を有する締結部10は、図2(b)のようなモデルとして表すことができ、また、締結部10における軸力の経時変化は、図3のように表される。
図3に示す如く、ボルト11の締め付け時(即ち、時刻0から時刻tまで)において、ボルト11に作用する軸力は時間の経過に略比例して増大していく。
即ち、パッキン14は、ボルト11の締め付け時においては、図2(b)に示すバネ定数kのバネSとして機能するような挙動を示す。
【0026】
また、このときパッキン14は、粘性係数ηのダンパーDとしても機能し、バネ定数kのバネSとしては未だ機能しない状態となっている。
そして、ボルト11の締め付け完了時(即ち、時刻t)においては、ワッシャ12と第二ワーク15との距離は、距離Lとなっている。
即ち、このときの締め付けに要した時間(締付時間)は、締付時間tとなっている。
【0027】
そして、図3に示す如く、ボルト11の締め付け完了後、ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力は時間の経過に伴って急激に減少するとともに、十分な時間が経過すると所定の軸力(予想軸力F)に収束していく。
即ち、ボルト11の締め付け完了後において時間が経過すると、パッキン14は、粘性係数ηのダンパーDが押し縮められるような(即ち、パッキン14の厚みが減少してくる)挙動を示すようになり、これに伴って、パッキン14が、図2(b)に示すバネ定数kのバネSとしても機能し始めるようになる。
【0028】
そして、ダンパーDの短縮する挙動が落ち着いた時点(即ち、図3においてt=∞となる時点)では、パッキン14は、バネSとバネSを合成した(即ち、バネ定数が(k+k)である)バネとして機能するような挙動を示すようになる。
【0029】
また、パッキン14の挙動が落ち着いた時点では、パッキン14の厚みが痩せる(薄くなる)ことに伴って、ワッシャ12と第二ワーク15との距離が、距離ΔLだけ短縮し、距離(L−ΔL)となっている。
【0030】
このようなモデルによれば、締結部10にパッキン14等の軟性部材を介設する場合において、締め付け完了後にボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力が低下する(ボルト11が緩む)現象を説明することができる。
そして、このようにモデル化した系の時刻tにおける軸力Fの理論式は、以下に示すような数式2として表すことができる。
【0031】
【数2】

【0032】
そして、ボルト11の締め付けが完了したときに該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力Fは、締付時間tとするときには、以下に示す数式3のように表される。
【0033】
【数3】

【0034】
また、締め付け完了後において、パッキン14の縮小する挙動が落ち着いた時点における予想軸力Fは、数式2の時刻tに「∞」を代入して、以下に示す数式4のように表される。
【0035】
【数4】

【0036】
そして、数式3および数式4から、以下に示す数式5を求めることができる。
【0037】
【数5】

【0038】
数式5では、軸力Fと予想軸力Fの比を、締付時間tの関数として表すことができる。
換言すれば、予想軸力Fは、軸力Fと締付時間tの関数として表されるため、軸力Fと締付時間tが既知であれば、変位ΔLを計測しなくても、数式5を用いて予想軸力Fを算出することができる。
【0039】
ここで、モデル化した締結部10の同定方法(即ち、各定数k、k、ηの決定方法)について、図4を用いて説明をする。
各定数k、k、ηを決定し、モデルを同定するためには、図4に示すような実験装置を用いる。
図4に示す実験装置では、本発明に係る軸力算出方法の適用対象たる締結部10に対して、ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力Fを測定するための圧力センサ(例えば、ロードセル)16を介設して、直接的に軸力Fを測定することが可能な構成としている。
また、図4に示す実験装置では、ワッシャ12の上方に変位センサ(例えば、超音波センサ)17を設置して、パッキン14が痩せたときに生じるワッシャ12の微小な変位ΔLを測定することができる構成としている。
【0040】
時刻0から時刻tまでの間(即ち、締付時間tの間)において、図2(b)に示すモデルは、バネSのみが機能する単純なモデル(即ち、t=0とした場合のモデル)と考えることができるため、この間における軸力Fは、以下に示す数式6のように表される。
【0041】
【数6】

【0042】
そして、図4に示す実験装置で、時刻0から時刻tまでの間(即ち、締付時間tの間)において、実際に圧力センサ16により測定した軸力Fと、変位センサ17により測定した変位ΔLの各測定値を数式6に代入することによって、図2(b)に示すモデルにおけるバネSのバネ定数kを同定することができる。
【0043】
また、図4に示す実験装置で、十分に時間が経過した時刻t(即ち、t=∞)において、実際に圧力センサ16により測定した軸力Fと、変位センサ17により測定した変位ΔLの各測定値と既に求めたバネ定数kとを数式4に代入することによって、図2(b)に示すモデルにおけるバネSのバネ定数kを同定することができる。
【0044】
さらに、図4に示す実験装置で、ダンパーDが機能している時点(即ち、時刻t〜tの間)において、実際に圧力センサ16により測定した軸力Fと、変位センサ17により測定した変位ΔLの各測定値と、既に算出した各バネ定数k・kの値を数式6に代入することによって、図2(b)に示すモデルにおけるダンパーDの粘性係数ηを同定することができる。
【0045】
このようにして、本発明の適用対象たる締結部10ごとに、図2(b)に示すモデルにおける各定数k・k・ηを実験結果に基づき同定しておく。
【0046】
次に、本発明の一実施形態に係る締付工具の全体構成について、図5を用いて説明をする。
図5に示す如く、本発明の一実施形態に係る締付工具1は、ボルト・ナット等を締結する用途に用いられる工具(所謂ナットランナー)であり、レンチ部2と制御部3等を備えている。
【0047】
レンチ部2は、ボルト・ナット等を所定の締め付けトルクを付与しつつ締め付けるための部位あり、ボルト・ナット等に係合するソケット4と、該ソケット4を支持するための回転軸5aを有するモーター5等からなる構成としている。
また、レンチ部2は、図示しないロボット装置の手先部等において支持されており、当該ロボット装置により姿勢の変更や変位等が行われ、締結対象たるボルト・ナット等に位置決めして配置される構成としている。
【0048】
制御部3は、レンチ部2の締め付け動作を制御するための制御装置たる部位であり、レンチ部2のモーター5に接続されている。
また、制御部3は、モーター5の回転を制御するためのコントローラ3aを備えており、該コントローラ3aに設定されたプログラムに従って、モーター5の回転(即ち、締付工具1によるボルト・ナットの締結動作)を制御する構成としている。
【0049】
また、制御部3は、締め付けトルクや軸力をリアルタイムで演算するための演算部3bや、演算に必要な情報を予め記憶してくための記憶部3c等を備えている。
そして、演算部3bは、ボルト・ナット等を締結しているときのモーター5の電流値等(モーター5の負荷)に基づいて、そのときの締め付けトルクをリアルタイムで演算することができ、演算した締め付けトルクの値をコントローラ3aにフィードバックして、モーター5の回転数を制御する構成としている。
【0050】
また、記憶部3cには、締め付けトルクと軸力との相関を表す情報(相関式)が予め記憶されており、演算部3bによって、前記相関式等に基づいて、演算した締め付けトルクを、リアルタイムで軸力に変換することができる。
尚、ここで使用する相関式は、締結部10(即ち、使用する各ワーク13・15やボルト11およびパッキン14等)の仕様ごとに実験等を行って、締め付けトルクと軸力との関係(摩擦係数)を予め把握して、相関式を導出しておいて、締結部10の仕様ごとに記憶部3cに記憶させておくようにしている。
また、以下の説明では、検出した締め付けトルクに基づいて変換して求められた軸力を、軸力Fと記載して区別する。
【0051】
さらに、記憶部3cには、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法を用いるための数式6が予め記憶されており、演算部3bによって、数式6に基づいて、予想軸力Fを、リアルタイムで演算することができる。
尚、ここで使用する数式6は、締結部(即ち、使用する各ワーク13・15やボルト11およびパッキン14等)の仕様ごとに実験等を行って、各定数k・k・ηが予め同定しておいて、締結部10の仕様ごとに記憶部3cに記憶させておくようにしている。
【0052】
次に、本発明の一実施形態に係る締付工具1による締結部10の締め付け状況について、図5および図6を用いて説明をする。
図5に示すような本発明の一実施形態に係る締付工具1において、制御部3の記憶部3cには、締め付け対象たる締結部10に係る各定数k・k・ηが予め記憶されている。
また、記憶部3cには、数式5に係る情報も予め記憶されている。
【0053】
図5および図6に示す如く、締付工具1により、締結部10(図2(a)参照)の締め付け動作を開始すると、レンチ部2により検出される締め付けトルクを制御部3の演算部3bにフィードバックして、そのときに発生している軸力Fを算出する(STEP−1)。
そして、算出した軸力Fに基づく判定を行う(STEP−2)。
ここでは、軸力Fが発生しているか否か(即ち、F>0か否か)によって、ワッシャ12が着座する時刻を検出するようにしており、軸力F>0となるまで、軸力Fの算出を継続する。
【0054】
そして、軸力FがF>0となったときには、ワッシャ12が着座したものと判定し、その時刻を基準(即ち、時刻0)として、締付時間tの計時を開始するものとしている(STEP−3)。
【0055】
次に、現時点の時刻tに基づいて、演算部3bに締付時間t(即ち、t−0)を入力する(STEP−4)。
そして、制御部3によって、時刻tにおける締め付けトルクから、締め付け完了時における軸力Fを算出し、これを軸力Fとして採用する(STEP−5)。
【0056】
次に、算出した締付時間tと軸力Fに基づいて、前述した数式5に基づいて、締付時間tの場合予想軸力Fを算出する(STEP−6)。
【0057】
そして次に、算出した予想軸力Fに基づく判定を行う(STEP−7)。
即ち、演算部3bによって、算出した予想軸力Fが、予め設定した閾値(即ち、所望する軸力)F以上の値となっているか否か(即ち、F≧F)の判定をする。
ここで、算出した予想軸力Fが、閾値F以上の値となっていれば、制御部3によって、レンチ部2によるボルト11の締め付け動作を完了する。
一方、算出した予想軸力Fが、未だ閾値F未満であれば、前述した(STEP−4)に戻ってさらに締め付け動作を継続し、算出した予想軸力Fが、閾値F以上となるまで、(STEP−4)〜(STEP−7)を繰り返す。
【0058】
このように、制御部3によって、予想軸力Fをリアルタイムで算出しながら、予想軸力Fが閾値F以上となるように締め付け動作を制御することによって、締め付け完了後にパッキン14が痩せて、ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力が軸力Fから減少したとしても、確実に所望する軸力以上(即ち、閾値F以上)の軸力(即ち、予想軸力F)を確保することができるため、ボルト11による固定状態の可否を適正に判断することができる。
【0059】
即ち、本発明の一実施形態に係る軸力算出方法は、複数の各ワーク13・15(もしくは第二ワーク15のみでもよい)に軟性の部材たるパッキン14を介設した状態で螺合部材たるボルト11を締め付けて、各ワーク13・15を締結するときに、ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する予想軸力Fを算出するための軸力算出方法であって、ボルト11の締め付け完了時において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力Fと、ボルト11の締め付け完了時から所定時間経過後において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する予想軸力Fと、の比(即ち、軸力降下率M(t))を、ボルト11の締め付けに要した時間たる締付時間tの関数として表した関係式(数式5)を予め算出しておくとともに、ボルト11の締め付け完了時において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力Fの検出値と、ボルト11の締付時間tを、関係式(数式5)に代入して、ボルト11の締め付け完了時から所定時間経過後において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する予想軸力Fを算出するものである。
【0060】
また、本発明の一実施形態に係る締付工具1は、複数の各ワーク13・15(もしくは第二ワーク15のみでもよい)に軟性の部材たるパッキン14を介設した状態でボルト11を締め付けて、各ワーク13・15を締結するときに用いるものであって、ボルト11を所定のトルクで締め付けるためのレンチ部2と、レンチ部2の動作を制御するための制御部3と、を備え、制御部3には、ボルト11の締め付け完了時において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力Fと、ボルト11の締め付け完了時から所定時間経過後において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する予想軸力Fと、の比(即ち、軸力降下率M(t))を、ボルト11の締付時間tの関数として表した第一の関係式(数式6)が予め記憶され、制御部3によって、検出したボルト11の締め付け完了時において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力Fと、ボルト11の締付時間tから、第一の関係式(数式5)に基づいて、ボルト11の締め付け完了時から所定時間経過後において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する予想軸力Fを算出するものである。
このような構成により、所定の時間が経過した後にボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する予想軸力Fを精度良く算出することができる。またこれにより、ボルト11による固定状態の可否を適正に判断することができる。
【0061】
また、本発明の一実施形態に係る締付工具1において、制御部3には、ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する締め付けトルクと軸力の相関を表した第二の関係式(相関式)が予め記憶され、制御部3によって、ボルト11の締め付け完了時において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する締め付けトルクから、前記第二の関係式に基づいて、ボルト11の締め付け完了時において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力Fを検出するものである。
このような構成により、ボルト11の締め付け完了時において該ボルト11(もしくはナット孔15a)に作用する軸力F(軸力F)を、簡易な装置構成で、容易かつ精度良く検出することができる。
【0062】
さらに、本発明の一実施形態に係る締付工具1において、制御部3は、算出した予想軸力Fが、予め設定した閾値F以上となったときに、レンチ部2の締め付け動作を停止させるものである。
このような構成により、ボルト11の締結部10において、所望する軸力(即ち、閾値F以上の軸力)を確実に確保することができる。
【0063】
尚、本発明の一実施形態に係る締付工具1は、本実施形態で示したように複数の部品にパッキン14等の軟性部材が介設されている締結部10を対象として、ボルト11を締結する用途に特に適しているものであるが、軟性部材を介設しない態様の締結部の締め付けにも用いることができ、記憶部3cに、軟性部材を介設しない場合における各関係式を記憶させておくことで対応できる。
【符号の説明】
【0064】
1 締付工具
2 レンチ部
3 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一もしくは複数の部品に軟性の部材を介設した状態で螺合部材を締め付けて、
前記部品を締結するときに、
前記螺合部材もしくは該螺合部材の被螺合部に作用する軸力を算出するための軸力算出方法であって、
前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力と、
前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力と、
の比を、
前記螺合部材の締め付けに要した時間の関数として表した関係式を予め算出しておくとともに、
前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力の検出値と、
前記螺合部材の締め付けに要した時間を、
前記関係式に代入して、
前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する予想軸力を算出する、
ことを特徴とする軸力算出方法。
【請求項2】
単一もしくは複数の部品に軟性の部材を介設した状態で、螺合部材を締め付けて、前記部品を締結するときに用いる締付工具であって、
前記螺合部材を所定のトルクで締め付けるためのレンチ部と、
前記レンチ部の動作を制御するための制御部と、
を備え、
前記制御部には、
前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは該螺合部材の被螺合部に作用する軸力と、
前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力と、
の比を、
前記螺合部材の締め付けに要した時間の関数として表した第一の関係式が予め記憶され、
前記制御部によって、
前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力の検出値と、前記螺合部材の締め付けに要した時間から、前記第一の関係式に基づいて、前記螺合部材の締め付け完了時から所定時間経過後において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する予想軸力を算出する、
ことを特徴とする締付工具。
【請求項3】
前記制御部には、
前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する締め付けトルクと軸力の相関を表した第二の関係式が予め記憶され、
前記制御部によって、
前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する締め付けトルクから、前記第二の関係式に基づいて、前記螺合部材の締め付け完了時において前記螺合部材もしくは前記被螺合部に作用する軸力を検出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の締付工具。
【請求項4】
前記制御部は、
算出した前記予想軸力が、
予め設定した閾値以上となったときに、
前記レンチ部の締め付け動作を停止させる、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の締付工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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