説明

軸受冷却水系統の保管方法

【課題】軸受冷却水系統の防錆を保持して満水保管できる軸受冷却水系統の保管方法を提供することである。
【解決手段】工業用水を濾過した濾過水を冷却水として使用する軸受冷却水系統を満水保管するにあたり、軸受冷却水系統の特性により定まる冷却水の温度上限値条件を調査し、濾過水を冷却水として軸受冷却水系統に満たし、温度上限値条件及び冷却水のカルシウム濃度を考慮し軸受冷却水系統の配管内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜が形成され得る全リン酸濃度の防錆剤を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機器の軸受に冷却水を供給する軸受冷却水系統の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電所においては各種機器の軸受に冷却水を供給する軸受冷却水系統が設けられており、軸受冷却水系統で使用する冷却水として、工業用水を濾過した濾過水を使用するようにしたものがある。
【0003】
図4は軸受冷却水系統の一例を示す系統図である。軸受冷却水系統11には海水クーラ12で海水と熱交換された冷却水が供給される。海水クーラ12は海水と冷却水とを熱交換するものであり、軸受冷却水用海水ポンプ13により海水が供給され、海水クーラ12で熱交換された海水は海に放流される。
【0004】
海水クーラ12で冷却された冷却水は、軸受冷却水系統11の冷却水母管14を通り、冷却水母管14から分岐した冷却水配管15a〜15nを通って各種機器の軸受熱発生部16a〜16nに供給される。各々の軸受熱発生部16a〜16nで熱交換され温度が上昇した冷却水は、冷却水戻り母管17を通り、冷却水タンク21に戻される。戻された冷却水は、軸受冷却水ポンプ18により海水クーラ12に送られる。そして、海水クーラ12で再び冷却されて冷却水母管14に供給される。
【0005】
火力発電所の運転中は、海水クーラ12からの冷却水が軸受冷却水系統11の各々の軸受熱発生部16a〜16nを循環している。この場合、軸受冷却水系統11の冷却水には防錆剤が注入され、軸受冷却水系統11の各種配管の腐食やスケール付着を防止するようにしている。
【0006】
ここで、水処理システムの運転中において、循環式冷却水系のpHおよび電気伝導度に応じて、低アルカリ用および高アルカリ用の少なくとも2種類の防食剤を循環式冷却水系にそれぞれ添加し、循環式冷却水系の運転状況や水質の変化に随時対応して最適の防食およびスケール防止効果を得るようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−372396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、火力発電所の停止中は冷却水が軸受冷却水系統11を循環しなくなり、また、運転中と停止中とでは熱負荷が異なることから冷却水の温度が異なる。このため、防錆剤による防錆が適正に機能せず孔食が発生することが考えられる。そこで、火力発電所の停止中や定期点検時には軸受冷却水系統11の冷却水を外部に排出し乾燥保管するようにしている。つまり、火力発電所を長期間にわたって停止する場合には、軸受冷却水系統11から冷却水を完全にブローした乾燥保管が一般に行われている。
【0008】
一方、ベースロード用として建設された火力発電所であっても、夏場のピーク負荷対応としての発電所として長期間停止対象の発電所として運用されることがあり、そのような火力発電所では、建設時に軸受冷却水系統を長期停止する仕様となっておらず、軸受冷却水系統11には冷却水母管の直管部分に内部流体をブローラインまで流すための配管勾配がなく、十分なブローが出来ない場合が多い。そのような火力発電所においては、軸受冷却水系統11を乾燥保管するには、軸受冷却水系統11にブローラインの追加の改造工事を行って対応しなければならない。
【0009】
また、乾燥保管が行われている停止中の火力発電所を起動するには、軸受冷却水系統11の水張りや軸受冷却水ポンプ試運転に時間を要し、短時間で停止中の火力発電所を起動することができない。特に、夏場のピーク負荷対応として長期停止対象となっている火力発電所の場合には、非常時の緊急起動の要求に応えられない。
【0010】
そこで、軸受冷却水系統11内の冷却水をブローしない満水保管をすることも考えられるが、冷却水に注入する重合リン酸系の防錆剤は、長期に保管すると加水分解により防錆機能は保てないとの概念から満水保管は実施はされていない。
【0011】
本発明の目的は、軸受冷却水系統の防錆を保持して満水保管できる軸受冷却水系統の保管方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1の発明に係わる軸受冷却水系統の保管方法は、工業用水を濾過した濾過水を冷却水として使用する軸受冷却水系統の保管方法において、前記軸受冷却水系統の特性により定まる冷却水の温度上限値条件を調査し、前記濾過水を冷却水として前記軸受冷却水系統に満たし、前記温度上限値条件及び前記冷却水のカルシウム濃度を考慮し前記軸受冷却水系統の配管内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜が形成され得る全リン酸濃度の防錆剤を注入することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項2の発明に係わる軸受冷却水系統の保管方法は、工業用水を濾過した濾過水を冷却水として使用する軸受冷却水系統の保管方法において、前記軸受冷却水系統の特性により定まる冷却水の温度上限値条件を調査し、前記濾過水を冷却水として前記軸受冷却水系統に満たし、前記温度上限値条件及び前記冷却水のカルシウム濃度を考慮し前記軸受冷却水系統の配管内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜が形成されかつスケールが発生しない範囲の全リン酸濃度の防錆剤を注入することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明に係わる軸受冷却水系統の保管方法は、請求項1または2の発明において、前記全リン酸濃度は、80(mg/l)〜155(mg/l)の範囲としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軸受冷却水系統の特性により定まる温度上限値条件及び冷却水のカルシウム濃度を考慮し、軸受冷却水系統の配管内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜が形成され得る全リン酸濃度の防錆剤を注入するので、軸受冷却水系統の防錆を保持しつつ軸受冷却水系統を満水保管できる。
【0016】
また、軸受冷却水系統の配管内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜が形成されかつスケールが発生しない範囲の全リン酸濃度の防錆剤を注入するので、軸受冷却水系統の防錆を保持し、しかもスケールの発生を防止しつつ軸受冷却水系統を満水保管できる。また、軸受冷却水系統を満水保管することにより、軸受冷却水系統内への水張り時間の削減はもちろんのこと、軸受冷却水ポンプを定期的に確認運転をすることができ、設備の健全性を維持できるため、緊急起動を必要とする場合においても、軸受冷却水系統を速やかに起動でき、起動時間の短縮をはかることができる。さらに軸受冷却水ポンプを定期的に確認運転することで、系統内部の撹拌が行われ、長期保管時の配管設置環境の温度差により発生する、防錆剤加水分解速度の違いによる軸受冷却水系統内部の防錆剤濃度の偏りを解消することができる。また、防錆剤を注入するタイミングを定期確認運転時に合わせて行うことにより、その撹拌効果をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明に至るまでの検討事項について説明する。軸受冷却水系統の冷却水には、重合リン酸系の防錆剤が注入されている。この防錆剤は軸受冷却水系統の運転状態で最適の防錆機能を果たすように、全リン酸濃度が予め定められた管理値(例えば、40mg/l〜80mg/l)で運用されている。通常、この管理値を逸脱した全リン酸濃度の防錆剤を軸受冷却水系統の防錆剤として使用することはあり得ない。これは、防錆剤は軸受冷却水系統の運転状態を前提として注入されるものであり、軸受冷却水系統の停止状態では軸受冷却水系統は乾燥保管されるのが原則であるからである。
【0018】
一方、前述したように、重合リン酸系の防錆剤が注入された冷却水で長期間にわたり軸受冷却水系統を満水保管することもあり得ない。これは、重合リン酸系の防錆剤の加水分解により防錆機能は保てなくなるからである。
【0019】
すなわち、冷却水に注入する重合リン酸系の防錆剤の管理値を逸脱した防錆剤を使用すること、及び軸受冷却水系統を満水保管することは、通常の発想ではあり得ない事項である。
【0020】
発明者らは、通常の発想ではあり得ないこれら二つの事項について、鋭意検討し、本願の発明に至ったものである。
【0021】
重合リン酸系の防錆剤の全リン酸濃度の管理値について検討すると、全リン酸濃度が低濃度で抑えられているのは、スケールの発生を防止するためである。全リン酸濃度を高濃度とするとスケールが発生するので、管理値では全リン酸濃度を低濃度に抑制している。スケールの発生は、冷却水の温度や冷却水に含まれるカルシウム濃度が関係する。管理値では軸受冷却水系統の運転状態を前提としており、軸受冷却水系統の運転状態では熱負荷がある状態であるので冷却水温度も高い状態である。
【0022】
次に、軸受冷却水系統の停止状態での満水保管について検討する。図4の軸受冷却水系統11の軸受冷却水ポンプ18を停止し、流速がない状態で、全リン酸濃度の管理値を満たす重合リン酸系の防錆剤が注入された冷却水で軸受冷却水系統11を満水保管した場合を考える。
【0023】
この軸受冷却水系統の停止状態では、熱負荷がない状態であるので冷却水温度も軸受冷却水系統の運転状態の場合より低い状態である。従って、スケールの発生は軸受冷却水系統の運転状態の場合に比較し少なく、むしろ、重合リン酸系の防錆剤の加水分解により防錆機能が保てなくなる。
【0024】
発明者らは、以上のような検討結果に基づき、軸冷却水系統の停止状態での満水保管では、軸受冷却水系統の運転状態よりも全リン酸濃度を高濃度(例えば、80mg/l〜155mg/l)とした防錆剤を注入することにより、スケールの発生もなく、しかも防食効果があることを知見し本願の発明に至ったものである。
【0025】
図1は本発明の実施の形態に係わる軸受冷却水系統の保管方法の工程図である。軸受冷却水系統の冷却水としては、工業用水を濾過した濾過水を使用する。いま、図4に示す軸受冷却水系統11を満水保管する場合を考える。まず、工業用水を濾過した濾過水を軸受冷却水系統11に冷却水として満水させる(S1)。
【0026】
この状態で、図4の軸受冷却水ポンプ18のみ運転した場合における冷却水の最高温度を計測して冷却水の温度上限値条件を調査する(S2)。この調査は過去の運転実績により調査することになる。すなわち、軸受冷却水系統の停止状態では各種機器の軸受熱発生部16a〜16nからの発熱がない状態であり、その状態での冷却水の最高温度を測定する。これは、温度条件はスケールの発生に関係するので長期に満水保管した場合のスケールの発生を防止するために温度上限値が必要となるからである。
【0027】
次に、冷却水に含まれるカルシウム濃度を調査する(S3)。工業用水の濾過水には炭酸カルシウムCaCOが含まれており、このCaCOの濃度をカルシウム濃度として調査する。防錆剤に含まれるリン酸のリン酸イオンPO3−とCaCOのカルシウムイオンCa2+とが化学結合して、図2に示すように、リン酸カルシウムCa(POが析出し、配管19の内面に沈殿してリン酸カルシウム皮膜20を形成する。このリン酸カルシウム皮膜20が配管内面の防食皮膜となる。
【0028】
次に、冷却水に注入する防錆剤の全リン酸濃度を決定する(S4)。防錆剤の全リン酸濃度の決定に当たっては、軸受冷却水系統11の配管19の内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜20が形成され、かつスケールが発生しない範囲となるように決定する。全リン酸濃度が高いとリン酸カルシウム皮膜20が厚くなりスケールの発生となる。一方、全リン酸濃度が低いとリン酸カルシウム皮膜20が形成されないので防食が図れなくなる。
【0029】
スケールの発生を防止するには、冷却水の温度上限値条件及びカルシウム濃度に基づきグリーン指数を用いて防錆剤の全リン酸濃度を定める。また、防食に適したリン酸カルシウム皮膜20を形成するには、冷却水の温度上限値条件及びカルシウム濃度に基づき試験により求める。そして、工程S4で決定された全リン酸濃度を満たすように防錆剤を満水保管の冷却水系統11に注入する(S5)。
【0030】
次に、冷却水の温度上限値条件、カルシウム濃度、全リン酸濃度の調査について説明する。濾過水を冷却水として軸受冷却水系統11に満たした状態で、軸受冷却水ポンプ18のみ運転した場合における冷却水の最高温度を計測すると、試験対象の軸受冷却水系統11での冷却水の温度は29℃であった。そこで、この29℃を軸受冷却水系統11の特性により定まる冷却水の温度上限値条件とした。また、冷却水のカルシウム濃度(炭酸カルシウムCaCO濃度)を測定すると56(mg/l)であった。
【0031】
一方、カルシウム濃度をパラメータとした冷却水温度とグリーン指数との関係から、スケール発生の閾値(グリーン指数:0)を参照すると、冷却水の温度29℃であるとき、全リン酸濃度が155(mg/l)のときはカルシウム濃度は50(mg/l)である。また、冷却水の温度29℃で、防食上必要なリン酸カルシウム皮膜を形成するには、全リン酸濃度が80(mg/l)で、カルシウム濃度が25(mg/l)であることを試験から得た。
【0032】
そこで、本発明では、冷却水温度の上限値を29℃とし、全リン酸濃度は80(mg/l)〜155(mg/l)の範囲、カルシウム濃度は25(mg/l)〜50(mg/l)の範囲となるように、冷却水に投入する防錆剤を調節することとする。
【0033】
この条件下で行った試験について説明する。この試験では、軸受冷却水系統に試験片を配置し、濾過水を冷却水として軸受冷却水系統に満たし、試験期間は半年間で行った。また、試験片は、新品黄銅管、新品鋼板、新品鋼管、使用済み鋼管を使用した。
【0034】
図3は、半年間の試験期間中の冷却水温度、カルシウム濃度、全リン酸濃度の挙動を示すグラフである。試験開始時点T0では、冷却水温度は23℃であり、冷却水のカルシウム濃度は56(mg/l)であった。本発明の冷却水温度の上限値は29℃であるので、試験開始時点T0での冷却水温度は上限値を満たしている。一方、本発明のカルシウム濃度範囲は25(mg/l)〜50(mg/l)であるので、試験開始時点T0での冷却水のカルシウム濃度は、本発明のカルシウム濃度範囲を逸脱している。そこで、試験開始時点T0においては、本発明の全リン酸濃度範囲(80(mg/l)〜155(mg/l))を超えた全リン酸濃度(165(mg/l))となるように防錆剤を投入した。これはカルシウム濃度が本発明のカルシウム濃度範囲を逸脱しているからである。
【0035】
そして、1ヶ月を経過した時点T1で、冷却水温度、カルシウム濃度、全リン酸濃度をそれぞれ測定すると、冷却水温度は19℃、カルシウム濃度は50(mg/l)、全リン酸濃度は149(mg/l)であり、いずれも本発明の範囲内に収まっている。
【0036】
試験開始時点T0から2ヶ月を経過した時点T2で、冷却水温度、カルシウム濃度、全リン酸濃度をそれぞれ測定すると、冷却水温度は17℃、カルシウム濃度は46(mg/l)、全リン酸濃度は131(mg/l)であり、いずれも本発明の範囲内に収まっている。
【0037】
試験開始時点T0から3ヶ月を経過した時点T3で、冷却水温度、カルシウム濃度をそれぞれ測定すると、冷却水温度は20℃であり、カルシウム濃度は56(mg/l)であった。冷却水温度は上限値を満たしているが、冷却水のカルシウム濃度は本発明のカルシウム濃度範囲を逸脱している。そこで、時点T3において、全リン酸濃度が本発明の全リン酸濃度範囲の上限値153(mg/l)となるように防錆剤を投入した。
【0038】
時点T3で防錆剤を投入してから1ヶ月後の時点T4(試験開始時点T0から4ヶ月を経過した時点)で、冷却水温度、カルシウム濃度をそれぞれ測定すると、
冷却水温度は20℃、カルシウム濃度は50(mg/l)、全リン酸濃度は130(mg/l)であり、いずれも本発明の範囲内に収まっている。
【0039】
試験開始時点T0から5ヶ月を経過した時点T5で、冷却水温度、カルシウム濃度、全リン酸濃度をそれぞれ測定すると、冷却水温度は22℃、カルシウム濃度は44(mg/l)、全リン酸濃度は112(mg/l)であり、いずれも本発明の範囲内に収まっている。
【0040】
試験開始時点T0から6ヶ月を経過した時点T6で、冷却水温度、カルシウム濃度、全リン酸濃度をそれぞれ測定すると、冷却水温度は17℃であり、カルシウム濃度は60(mg/l)であった。冷却水温度は上限値を満たしているが、冷却水のカルシウム濃度は本発明のカルシウム濃度範囲を逸脱している。そこで、時点T6において、全リン酸濃度が本発明の全リン酸濃度範囲内の例えば141(mg/l)となるように防錆剤を投入することになる。なお、試験は試験開始時点T0から6ヶ月後の時点T6で終了した。
【0041】
試験終了後に試験片を回収し、試験片の腐食について調査した。新品黄銅管、新品鋼板、新品鋼管、使用済み鋼管の外観観察結果を表1に示す。表1では、新品鋼管と使用済み鋼管とは同じ外観であったので、まとめて新品・使用済み鋼管としている。
【表1】

【0042】
表1に示すように、新品黄銅管については、その表面には白色を呈した皮膜が形成されていた。そして、その皮膜を除去(脱スケール)すると、表面は試験前と同じ金属光沢となり腐食も見あたらなかった。新品鋼板については、褐色の鉄さびが発生していた。そして、そのさびを除去(脱スケール)すると、小さな孔食が見られたが程度は小さいものであった。新品・使用済み鋼管については、白色を呈した皮膜が形成されており、その上に所々赤さびが発生していた。その皮膜や赤さびを除去(脱スケール)すると、顕著な腐食や孔食などは見あたらなかった。
【0043】
次に、試験片の腐食速度(mm/year)について調査した。まず、試験片の腐食速度の調査にあたっては、試験片の付着物を拭き取り、薬品による脱スケールを行った。そして、腐食減量及び孔食深さからそれぞれ腐食速度を求めた。腐食減量から求める腐食速度は、試験片の腐食減量を求め腐食減量を試験減量で除して腐食速度を算出した。孔食深さから求める腐食速度は、試験片の孔食深さを求め孔食深さを試験時間で除して腐食速度を算出した。腐食減量から求めた腐食速度、及び孔食深さから求めた腐食速度を表2に示す。
【表2】

【0044】
表2に示すように、新品黄銅管については、腐食減量及び孔食ともに見あたらなかったので、腐食減量から求めた腐食速度及び孔食深さから求めた腐食速度ともに0(mm/y)である。新品鋼板については、腐食減量及び孔食が発生しており、腐食減量から求めた腐食速度は0.003(mm/y)、孔食深さから求めた腐食速度は0.15(mm/y)である。新品鋼管については、腐食減量が発生しており孔食は見あたらなかったので、腐食減量から求めた腐食速度は0.007(mm/y)、孔食深さから求めた腐食速度は0(mm/y)である。また、使用済み鋼管については、腐食減量及び孔食ともに見あたらなかったので、腐食減量から求めた腐食速度及び孔食深さから求めた腐食速度ともに0(mm/y)である。
【0045】
次に、試験片の調査結果から、本発明の軸受冷却水系統の保管方法を採用した場合の配管の使用可能期間を求める。いま、配管として、配管サイズが50A、配管材質がSTPG370、配管肉厚が3.8mm、最高使用圧力が0.7MPaの圧力配管用炭素鋼鋼管を考える。表2から最大腐食速度は0.15(mm/y)である。一方、配管の必要最小肉厚tsrは0.19mmである。そうすると、使用可能期間Tは、T=(配管肉厚−tsr)/最大腐食速度で求まるから、この式に、数値を代入して計算すると、T=(3.8−0.19)/0.15となり、使用可能期間Tは約24年間となる。
【0046】
このように、軸冷却水系統の停止状態で軸冷却水系統を満水保管するにあたり、軸受冷却水系統の運転状態よりも全リン酸濃度が高濃度の防錆剤を注入し、スケールの発生がなく、しかも防食のためのリン酸カルシウム皮膜が軸受冷却水系統の配管内面に形成されるようにするので、軸受冷却水系統の長期間の満水保管を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係わる軸受冷却水系統の保管方法の工程図。
【図2】本発明の実施の形態における軸受冷却水系統の配管内面の防食皮膜となるリン酸カルシウム皮膜の形成メカニズムの説明図。
【図3】本発明の実施の形態における試験期間中の冷却水温度、カルシウム濃度、全リン酸濃度の挙動を示すグラフ。
【図4】軸受冷却水系統の一例を示す系統図。
【符号の説明】
【0048】
11…軸受冷却水系統、12…海水クーラ、13…軸受冷却水用海水ポンプ、14…冷却水母管、15…冷却水配管、16…軸受熱発生部、17…冷却水戻り母管、18…軸受冷却水ポンプ、19…配管、20…リン酸カルシウム皮膜、21…冷却水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用水を濾過した濾過水を冷却水として使用する軸受冷却水系統の保管方法において、
前記濾過水を冷却水として前記軸受冷却水系統に満たし、
前記軸受冷却水系統の特性により定まる冷却水の温度上限値条件を調査し、
前記温度上限値条件及び前記冷却水のカルシウム濃度を考慮し前記軸受冷却水系統の配管内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜が形成され得る全リン酸濃度の防錆剤を注入することを特徴とする軸受冷却水系統の保管方法。
【請求項2】
工業用水を濾過した濾過水を冷却水として使用する軸受冷却水系統の保管方法において、
前記濾過水を冷却水として前記軸受冷却水系統に満たし、
前記軸受冷却水系統の特性により定まる冷却水の温度上限値条件を調査し、
前記温度上限値条件及び前記冷却水のカルシウム濃度を考慮し前記軸受冷却水系統の配管内面に防食のためのリン酸カルシウム皮膜が形成されかつスケールが発生しない範囲の全リン酸濃度の防錆剤を注入することを特徴とする軸受冷却水系統の保管方法。
【請求項3】
前記全リン酸濃度は、80(mg/l)〜155(mg/l)の範囲としたことを特徴とする請求項1または2記載の軸受冷却水系統の保管方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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