説明

軸受用潤滑剤およびその利用

【課題】軸受用潤滑剤に要求される基本的な性能に加えて、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度であり、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れた軸受用潤滑剤および当該軸受用潤滑剤の利用を提供する
【解決手段】本発明に係る軸受用潤滑剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含有している:
2f+1−R−O−(C=O)−O−R−C2g+1 … (1)
(一般式(1)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が2〜48であり且つ酸素原子数が1〜6であるオキサアルキレン基であり、aおよびbは、それぞれ独立して0または1の整数であり、且つa+b≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省エネルギー性、耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れた軸受用潤滑剤およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の産業分野の多様化および高度化に伴い、映像・音響機器、パーソナルコンピューター等の電子機器の小型・軽量化、大容量化および情報処理の高速化の進歩には目覚しいものがある。これらの電子機器には、各種の回転装置、例えば、FD、MO、zip、ミニディスク、コンパクトディスク(CD)、DVD、ハードディスク等の磁気ディスクや光ディスクを駆動する回転装置が使用されており、これら電子機器の小型・軽量化、大容量化および高速化には、回転装置に不可欠な軸受の改良が大きく寄与している。なかでも、潤滑剤を介して対向するスリーブ部材と軸部材とからなる流体軸受は、ボールベアリングを有していないために、電子機器の小型・軽量化に好適であるばかりでなく、静寂性、経済性等にも優れている。それゆえ、流体軸受は、パーソナルコンピューター、音響機器、ビジュアル機器、カーナビゲーション等にその用途を広げてきている。
【0003】
流体軸受に使用される潤滑剤または軸受用流体としては、例えば、オレフィン系、ジエステル系またはネオペンチルポリオールエステル系の合成油;スクワランおよびナフテン系鉱油のうちのいずれか一種類、またはそれらの混合物を基油とし、ウレア化合物を増ちょう剤として含むグリースからなるもの(特許文献1を参照);トリメチロールプロパンから得られる脂肪酸トリエステルを基油とし、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびベンゾトリアゾール誘導体を含有するもの(特許文献2を参照);フェニル基を有する特定のモノカルボン酸エステルおよび/または特定のジカルボン酸ジエステルを基油とするもの(特許文献3を参照);単体組成物を基油とするもの(特許文献4を参照);炭酸エステル化合物を主成分基油とし、硫黄を含むフェノール系の酸化防止剤および亜鉛系極圧添加剤を含有するもの(特許文献5を参照);特定の混合飽和アルキル炭酸エステルを基油とし、フェノール系酸化防止剤を含有するもの(特許文献6を参照);特定の炭酸ジアルキルエステルを基油溶媒として用い、当該基油溶媒中に磁性粒子を分散させてなるもの(特許文献7を参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01−279117号公報(1989年11月 9日公開)
【特許文献2】特開平01−188592号公報(1989年 7月27日公開)
【特許文献3】特開平04−357318号公報(1992年12月10日公開)
【特許文献4】特許第2621329号公報(1997年 6月18日発行)
【特許文献5】特許第3265128号公報(2002年 3月11日発行)
【特許文献6】特開平10−183159号公報(1998年 7月14日公開)
【特許文献7】特開1996−266006号公報(1996年10月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、軸受用潤滑剤には、軸受用潤滑剤に要求される基本的な性能(例えば、潤滑性、劣化安定性(寿命)、スラッジ生成防止性、摩耗防止性、腐食防止性等)に加えて、低粘度であり(省エネルギー性に優れ)、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れていることが求められる場合がある。
【0006】
例えば、映像・音響機器、パーソナルコンピューター等の電子機器においては、大容量情報の高速処理だけでなく、さらなる機器の小型化の要求が強くなっている。これらの電子機器に内蔵されている電池を長寿命化または小容量化することによって、電子機器の小型化を図ることができるため、省エネルギー化に対する要求は依然強いものがある。かかる省エネルギー化の要請に応えるためには、軸受用潤滑剤として、低粘度の潤滑剤を用いることが考えられる。しかし、通常、潤滑剤は、粘度が低くなると、耐熱性に劣るようになる。このため、従来の軸受用潤滑剤を用いた軸受では、大容量情報の高速処理のために軸受を高速で回転させればさせるほど、軸受の高速回転よる軸受内の温度上昇に伴って潤滑剤の蒸発量が増大し、その結果、軸受内の潤滑不良によるエネルギーの損失が大きくなる。
【0007】
また、例えば、ハードディスク装置においては、軸受の軸部材と軸受部材との間の微小間隙に収容された潤滑剤の体積抵抗率が高いと、ハードディスク装置の高速回転時に軸受に静電気が蓄積され易くなり、その結果、磁気ディスク等の重要な電子部品に静電破壊が生じる場合がある。
【0008】
従って、情報の高速処理、機器のコンパクト化等の要請に応えるためには、上記の基本的な性能を有しているだけでなく、従来の流体軸受用潤滑剤と比べて、省エネルギー性能、耐熱性能および帯電防止性能に優れていることが潤滑剤に要求される。すなわち、従来の流体軸受用潤滑剤と比べて、低粘度であり、蒸発減量が少なく、且つ体積抵抗率が低い潤滑剤が求められている。
【0009】
さらに、上述の情報処理機器が大衆化されることによって、当該機器が、より過酷な環境において使用される機会が増えている。特に、車に搭載されて使用されるカーナビゲーション等の機器は、自動車の使用環境を考慮すると、寒冷地や炎天下でといった、広い温度範囲における使用に耐え得るものでなければならない。このため、車載機器に用いられる場合に、軸受用潤滑剤は、−20℃〜120℃といった広い温度範囲において問題なく使用できるものであることが要求される。このため、低温環境においても粘度が低く、且つ高温環境においても蒸発減量が少ない潤滑剤が求められている。
【0010】
しかし、上記従来の軸受用潤滑剤は、省エネルギー性、耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性の全てを満足するものではない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受用潤滑剤に要求される基本的な性能に加えて、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度であり、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れた軸受用潤滑剤および当該軸受用潤滑剤の利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討し、その結果、炭酸ジアルキルエステルのアルキル鎖の分子構造中にエーテル結合を有している化合物を基油として用いることによって、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度を低下させることができ、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性を向上させることができることを初めて見出し、かかる新規知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る軸受用潤滑剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含有していることを特徴としている:
2f+1−R−O−(C=O)−O−R−C2g+1 … (1)
(一般式(1)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が2〜48であり且つ酸素原子数が1〜6であるオキサアルキレン基であり、aおよびbは、それぞれ独立して0または1の整数であり、且つa+b≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。
【0014】
また、本発明に係る軸受用潤滑剤は、下記一般式(1’)で表される化合物を含有していることを特徴としている:
2f+1(−O−C2a−(O−C2b−O−(C=O)−O−(C2d−O)−(C2e−O)−C2g+1 … (1’)
(一般式(1’)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、a、b、dおよびeは、それぞれ独立して2〜8の整数であり、j、k、mおよびnは、それぞれ独立して0〜3の整数であり、且つj+k+m+n≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。
【0015】
本発明に係る軸受用潤滑剤は、流体軸受用潤滑剤または含浸軸受用潤滑剤であってもよい。
【0016】
本発明に係る軸受は、上述した本発明に係る軸受用潤滑剤を用いて潤滑されることを特徴としている。
【0017】
本発明に係る軸受は、流体軸受または含浸軸受であってもよい。
【0018】
本発明に係る軸受の潤滑方法は、本発明に係る軸受を、本発明に係る軸受用潤滑剤を用いて潤滑させることを特徴としている。
【0019】
本発明に係るモータは、本発明に係る軸受を備えていることを特徴としている。
【0020】
本発明は、グリースを製造するための、本発明に係る軸受用潤滑剤の使用を包含する。
【0021】
本発明に係るグリースは、本発明に係る軸受用潤滑剤を含有していることを特徴としている。
【0022】
なお、炭酸ジアルキルエステルのアルキル鎖の分子構造中にエーテル結合を有している化合物は、冷媒用組成物に含有されている潤滑剤としての用途がこれまでに知られている(特開平11−236584号公報(1999年 8月31日公開))。しかし、これは、炭酸ジアルキルエステルのアルキル鎖の分子構造中にエーテル結合を有している化合物からなる潤滑油が、冷媒としての炭酸ガスとの相溶性が良好であることが示されているに過ぎない。冷媒用組成物と軸受用潤滑剤とでは、潤滑剤として要求される性能が全く異なるものである。よって、上記の特許文献からは、かかる化合物を含む潤滑剤を軸受用の潤滑剤として用いた場合に、粘度、耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性の点で従来の軸受用潤滑剤よりも顕著に優れることを予想できない。それゆえ、本発明は上記特許文献の記載に基づいて容易に想到し得るものではない。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る軸受用潤滑剤は、上記一般式(1)または(1’)で表される化合物を含んでいるので、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度であり、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れている。さらに、省エネルギー性、耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性のバランスが良好である。
【0024】
それゆえ、本発明に係る軸受用潤滑剤を、軸受を潤滑させるための作動流体として用いることによって、軸受を高速回転させたときの安定性および耐久性等を長期にわたって保持することができ、その結果、軸受の長寿命化を達成することができる。さらに、軸受の省エネルギー性を向上させることができる。
【0025】
従って、本発明に係る軸受用潤滑剤は、小型・軽量化、大容量化、情報の高速処理化が要求されている映像・音響機器、パーソナルコンピューター等の電子機器の回転装置等に設けられた軸受に用いられる潤滑剤として特に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0027】
以下、本発明を、(1)本発明に係る軸受用潤滑剤、(2)本発明に係る軸受、(3)本発明に係る軸受の潤滑方法、(4)本発明に係るモータ、(5)本発明に係るグリースの順に説明する。
【0028】
〔1.本発明に係る軸受用潤滑剤〕
本発明に係る軸受用潤滑剤(以下、「本発明の潤滑剤」ともいう。)は、下記一般式(1)で表される化合物を含有していることを特徴としている:
2f+1−R−O−(C=O)−O−R−C2g+1 … (1)
(一般式(1)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が2〜48であり且つ酸素原子数が1〜6であるオキサアルキレン基であり、aおよびbは、それぞれ独立して0または1の整数であり、且つa+b≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。すなわち、本発明の潤滑剤は、上記一般式(1)で示される化合物を基油とする潤滑剤である。
【0029】
ここで、上記「オキサアルキレン基」とは、1以上の酸素原子を有しているアルキレン基をいう。言い換えれば、上記「オキサアルキレン基」は、アルキレン基(−C2n−)が有しているメチレン基(−(CH)−)のうち1以上が、酸素原子で置換されたものをいう(なお、酸素原子で置換される位置は特に限定されない)。なお、上記「オキサアルキレン基」においては、酸素原子は、エーテル結合(−O−)によって炭素原子に結合している。このため、本明細書では、このような酸素原子を、特に「エーテル酸素原子」と称する場合がある。
【0030】
従って、上記一般式(1)は、下記一般式(1’)として表すこともできる:
2f+1(−O−C2a−(O−C2b−O−(C=O)−O−(C2d−O)−(C2e−O)−C2g+1 … (1’)
(一般式(1’)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、a、b、dおよびeは、それぞれ独立して2〜8の整数であり、j、k、mおよびnは、それぞれ独立して0〜3の整数であり、且つj+k+m+n≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。よって、本発明の潤滑剤は、上記一般式(1’)で表される化合物を含有していてもよい。
【0031】
なお、上記一般式(1’)における構造単位「(−O−C2a−(O−C2b−」または「−(C2d−O)−(C2e−O)−」が、上記一般式(1)における構造単位「−R−」または「−R−」に相当していることを当業者は容易に理解する。
【0032】
ここで、上記一般式(1)および上記一般式(1’)中の、「C2f+1」および「C2g+1」における炭素原子数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、メチルヘキシル基、へプチル基、メチルヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、デシル基、イソデシル基、ラウリル基等が挙げられる。
【0033】
また、上記一般式(1)中の、上記「オキサアルキレン基」は、直鎖構造および分岐構造を有していてもよい。また、一般式(1’)中の、「C2a」、「C2b」、「C2d」および「C2e」における炭素原子数2〜8のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、直鎖構造および分岐構造を有していてもよい。
【0034】
上記一般式(1)で表される化合物は、例えば、下記一般式(2)および下記一般式(3)で表されるアルコールと、炭酸ジフェニルとの公知のエステル交換反応や、下記一般式(2)および下記一般式(3)で表されるアルコールと、クロロ蟻酸エステルとの置換反応によって得ることができる:
2f+1−R−O−H … (2)
H−O−R−C2g+1 … (3)
(一般式(2)および一般式(3)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が2〜48であり且つ酸素原子数が1〜6であるオキサアルキレン基であり、aおよびbは、それぞれ独立して0または1の整数であり、且つa+b≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。
【0035】
これと同様に、上記一般式(1’)で表される化合物は、例えば、下記一般式(2’)および下記一般式(3’)で表されるアルコールと、炭酸ジフェニルとの公知のエステル交換反応や、下記一般式(2’)および下記一般式(3’)で表されるアルコールと、クロロ蟻酸エステルとの置換反応によって得ることができる:
2f+1(−O−C2a−(O−C2b−O−H … (2’)
H−O−(C2d−O)−(C2e−O)−C2g+1 … (3’)
(一般式(2)および一般式(3)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、a、b、dおよびeは、それぞれ独立して2〜8の整数であり、j、k、mおよびnは、それぞれ独立して0〜3の整数であり、且つj+k+m+n≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。
【0036】
但し、上記一般式(1)または上記一般式(1’)で表される化合物の合成方法は上記の方法に限定されるものではない。
【0037】
上述したエステル交換反応または置換反応を十分に行った後に、公知の方法(例えば、減圧蒸留等)を用いて生成物を適宜精製することによって、上記一般式(1)または上記一般式(1’)で表される化合物を、軸受用潤滑剤の基油として用いることができる。
【0038】
本発明の潤滑剤は、上記一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立して、炭素原子数が2〜16であり且つ酸素原子数が1〜4であるオキサアルキレン基であり、aおよびbは、それぞれ独立して0または1の整数であり、且つa+b≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して4〜8の整数である化合物を基油として含有していることが特に好ましい。言換えれば、本発明の潤滑剤は、上記一般式(1’)において、a、b、dおよびeが、それぞれ独立して2〜4の整数であり、j、k、mおよびnが、それぞれ独立して0〜2の整数であり、且つj+k+m+n≧1を満たし、fおよびgが、それぞれ独立して4〜8の整数である化合物を基油として含有していることが特に好ましい。
【0039】
上記一般式(1)または上記一般式(1’)で表される化合物は、潤滑剤の総重量に対して、50重量%以上含まれていることが好ましく、80重量%以上含まれていることがより好ましく、95重量%以上含まれていることが最も好ましい。本発明の潤滑剤における上記化合物の含有量が上記範囲内であれば、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度であり(省エネルギー性に優れ)、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れた軸受用潤滑剤となり得る。
【0040】
本発明の潤滑剤は、上記化合物に加えて、鉱油、オレフィン重合体、アルキルベンゼン等の炭化水素系油や、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル、上記一般式(1)または上記一般式(1’)で表される化合物以外のエステルやエーテル等の酸素原子を含有している合成油を含有していてもよい。これらの合成油は、潤滑剤の総重量に対して、1重量%50重量%の範囲内で含まれていることが好ましい。
【0041】
本発明の潤滑剤は、40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」ともいう。)が、5mm/s〜100mm/sの範囲であることが好ましく、6mm/s〜13mm/sの範囲であることがより好ましい。40℃動粘度が上記範囲であれば、軸受用潤滑剤として、潤滑性能および省エネルギー性能に特に優れたものとなり得る。
【0042】
また、本発明の潤滑剤は、蒸発量が、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である場合に、軸受用潤滑剤として、耐熱性能に特に優れたものとなり得る。
【0043】
また、本発明の潤滑剤は、体積抵抗率が、好ましくは5×1012Ω・cm以下、より好ましくは1×1012Ω・cm以下である場合に、軸受用潤滑剤として、帯電防止性能に特に優れたものとなり得る。
【0044】
また、本発明の潤滑剤は、粘度指数が、好ましくは80以上、より好ましくは110以上であり、且つ流動点が、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−30℃以下である場合に、軸受用潤滑剤として、低温における粘度特性に特に優れたものとなり得る。
【0045】
なお、上記「40℃における動粘度」、上記「蒸発量」、上記「体積抵抗率」、上記「粘度指数」および上記「流動点」は、後述する実施例に示した方法によって測定することができる。
【0046】
以上のように、本発明の潤滑剤は、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度であり(省エネルギー性に優れ)、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れ、且つこれらの性能をバランスよく満足させることができる。それゆえ、本発明の潤滑剤を、軸受を潤滑させるための作動流体として用いることによって、軸受を高速回転させたときの安定性および耐久性等を長期にわたって保持することができ、さらに、省エネルギー性を向上させることができる。従って、本発明の潤滑剤は、小型・軽量化、大容量化、情報の高速処理化が要求されている映像・音響機器、パーソナルコンピューター等の電子機器の回転装置等に設けられた軸受のための潤滑剤として有効に用いることができる。
【0047】
さらに、本発明の潤滑剤は、基油としての上記一般式(1)または上記一般式(1’)で表される化合物に加えて、実用性能をより向上させるために、各種の添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、耐加水分解性向上剤としてのエポキシ化合物、金属不活性化剤としてのベンゾトリアゾール誘導体、極圧剤としてのジチオリン酸亜鉛等を挙げることができる。
【0048】
これらの添加剤から選択される1種または2種以上を、それぞれ、潤滑剤の総重量に対して0.01重量%〜5重量%の範囲で配合することによって、本発明の潤滑剤の実用性能をより向上させることができる。
【0049】
上記「フェノール系酸化防止剤」としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−n−ブチルフェノール(エチル744)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。また、上記「アミン系酸化防止剤」としては、例えば、N−フェニル−α−ナフチルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン等が挙げられる。また、上記「硫黄系酸化防止剤」としては、例えば、フェノチアジン等が挙げられる。
【0050】
上記以外の酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート類、トリブチルホスフェート、ジブチルホスフェート等のリン酸エステル類、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト等の亜リン酸エステル類およびこれらのアミン塩等のリン系化合物;硫化油脂、硫化オレイン酸等の硫化脂肪酸、ジベンジルジスルフィド、硫化オレフィン、ジアルキルジスルフィド等の硫黄系化合物;Zn−ジアルキルジチオフォスフェート、Zn−ジアルキルジチオカルバメート、Mo−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオカルバメート等の有機金属系化合物;等が使用可能である。
【0051】
本発明の潤滑剤は、潤滑剤を用いて潤滑されるあらゆる軸受用の潤滑剤として使用され得る。例えば、軸部材と軸受部材(スリーブ部材)とを備え、当該軸部材と当該軸受部材とが、微小間隙を介して回転可能に嵌合し、当該微小間隙には、潤滑膜を形成するように作動流体(潤滑剤)が収容され、上記軸部材と上記軸受部材とが、上記潤滑膜を介して相対的にすべり運動をするあらゆる軸受に対して潤滑剤として好適に使用することができる。このような軸受は、一般に「すべり軸受」と称される。
【0052】
さらに、本発明の潤滑剤は、流体軸受(流体動圧軸受もしくは静圧軸受)用の潤滑剤、または含浸軸受(「含油軸受」ともいう。)用の潤滑剤としても好適に使用することができる。
【0053】
また、本発明の潤滑剤は、グリースを製造するために使用することができる。本発明の潤滑剤をグリース基油として用いることによって、グリースを製造することができる。かかるグリースについては、後述する。
【0054】
〔2.本発明に係る軸受〕
本発明に係る軸受(以下、「本発明の軸受」ともいう。)は、上述した本発明の潤滑剤を用いて潤滑される軸受であれば、その構成は特に限定されるものではない。なお、上記「本発明の潤滑剤を用いて潤滑される」とは、本発明の潤滑剤を介して対向する部材同士が、本発明の潤滑剤を介して相対的にすべり運動をすることを意図している。
【0055】
このような軸受としては、例えば、流体軸受、含浸軸受等を挙げることができる。なお、本発明の潤滑剤については、上記「1.本発明に係る軸受用潤滑剤」の項で説明したとおりであるので、ここでは説明は省略する。
【0056】
ここで、上記「流体軸受」としては、ボールベアリング等の機構を有さず、軸部材(または、スラストプレート)とスリーブ部材とを備え、当該軸部材(または、スラストプレート)と当該スリーブ部材とが、微小間隙を介して回転可能に嵌合し、当該微小間隙には、潤滑膜を形成するように作動流体(潤滑剤)が収容され、上記軸部材(または、スラストプレート)と上記スリーブ部材とが、上記潤滑膜によって互いに直接接触することがないように保持されている、従来公知の流体軸受であれば、その構成は特に限定されるものではない。
【0057】
流体軸受のなかでも、軸部材およびスリーブ部材のどちらか一方またはこれらの両方に動圧発生溝が設けられ、当該軸部材が、動圧によって支承されている流体軸受;軸部材の回転軸に対して垂直方向に動圧を生じるようにスラストプレートが設けられている流体軸受等は、特に、流体動圧軸受と称される。本発明の軸受には、かかる流体動圧軸受も包含される。
【0058】
上記流体動圧軸受においては、軸部材(または、スラストプレート)が回転していないときには動圧が生じない。このため、軸部材(または、スラストプレート)が回転していないときには、スリーブ部材と軸部材(または、スラストプレート)とは部分的にもしくは全面で接触している。これに対して、軸部材(または、スラストプレート)が回転しているときには、その回転によって動圧が生じる。このため、スリーブ部材と軸部材(または、スラストプレート)とは非接触状態となる。すなわち、流体動圧軸受においては、スリーブ部材と軸部材(または、スラストプレート)とが、常に、接触または非接触を繰り返している。それゆえ、従来の流体動圧軸受においては、スリーブ部材と軸部材(または、スラストプレート)との間に金属摩耗が起こったり、回転時にスリーブ部材と軸部材(または、スラストプレート)とが一時的に接触することによって焼付きが起こったりする場合がある。さらに、軸受に静電気が蓄積され易いため、磁気ディスク等の重要な電子部品に静電破壊が生じる場合がある。しかし、本発明に係る流体軸受は、本発明の潤滑剤を用いて潤滑されるので、このような金属摩耗や焼付きが起こり難く、また、スリーブ部材と軸部材(または、スラストプレート)との間に静電気が蓄積され難い。
【0059】
また、上記「含浸軸受」としては、焼結金属、合成樹脂等の多孔質の軸部材に本発明の潤滑剤を含浸してなる、従来公知の含浸軸受(含油軸受)であれば、その構成は特に限定されるものではない。
【0060】
従来の含浸軸受では、軸受部材と軸部材との間に金属摩耗が起こったり、軸部材の回転時に軸受部材と軸部材とが一時的に接触することによって焼付きが起こったりする場合がある。さらに、軸受に静電気が蓄積され易いため、磁気ディスク等の重要な電子部品に静電破壊が生じる場合がある。しかし、本発明に係る含浸軸受は、本発明の潤滑剤を用いて潤滑されるので、このような金属摩耗や焼付きが起こり難く、また、軸受部材と軸部材との間に静電気が蓄積され難い。
【0061】
上述したように、本発明の潤滑剤は、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度であり(省エネルギー性に優れ)、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れ、且つこれらの性能をバランスよく満足させることができる。それゆえ、本発明の潤滑剤を作動流体として用いて潤滑される本発明の軸受は、高速回転させたときの安定性および耐久性等が長期に保持され、さらに、省エネルギー性に優れた軸受となり得る。従って、本発明の軸受は、小型・軽量化、大容量化、情報の高速処理化が要求されている映像・音響機器、パーソナルコンピューター等の電子機器の回転装置等に使用される軸受として有効に用いることができる。
【0062】
〔3.本発明に係る軸受の潤滑方法〕
本発明に係る軸受の潤滑方法は、本発明の軸受を、本発明の軸受用潤滑剤を用いて潤滑させることを特徴としている。なお、本発明の潤滑剤および本発明の軸受については、それぞれ、上記「1.本発明に係る軸受用潤滑剤」の項および上記「2.本発明に係る軸受」の項で説明したとおりであるので、ここでは説明は省略する。
【0063】
上述したように、本発明の潤滑剤は、従来の軸受用潤滑剤と比較して、低粘度であり(省エネルギー性に優れ)、且つ耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性に優れ、且つこれらの性能をバランスよく満足させることができる。それゆえ、本発明の潤滑剤を軸受を潤滑させるための作動流体として、軸受、特に、流体軸受または含浸軸受に充填して潤滑することによって、軸受を高速回転させたときの安定性および耐久性等を長期にわたって保持することができ、その結果、軸受の長寿命化を達成することができる。さらに、軸受の省エネルギー性を向上させることができる。
【0064】
〔4.本発明に係るモータ〕
本発明に係るモータは、本発明の軸受を備えていれば、その他の構成は特に限定されない。なお、本発明の軸受については、上記「2.本発明に係る軸受」の項で説明したとおりであるので、ここでは説明は省略する。
【0065】
本発明に係るモータとしては、例えば、パーソナルコンピューター、音響機器、ビジュアル機器、カーナビゲーション等の公知の電子機器に備えられているモータを挙げることができる。
【0066】
本発明に係るモータは、本発明の潤滑剤を用いて潤滑されている軸受を備えているので、従来のモータと比較して、金属摩耗や焼付きが起こり難く、また、軸受部材と軸部材との間に静電気が蓄積され難い。このため、軸受を高速回転させたときの安定性および耐久性等を長期にわたって保持することができ、その結果、モータの長寿命化を達成することができる。さらに、本発明に係るモータは、従来のモータと比較して、軸受を高速回転させたときの省エネルギー性に特に優れたモータとなり得る。
【0067】
〔5.本発明に係るグリース〕
本発明に係るグリースは、本発明の潤滑剤を含有していることを特徴としている。なお、本発明の潤滑剤については、上記「1.本発明に係る軸受用潤滑剤」の項で説明したとおりであるので、ここでは説明は省略する。
【0068】
本発明の潤滑剤は、グリースの総重量に対して、50重量%以上含まれていることが好ましく、95重量%以上含まれていることがより好ましい。
【0069】
本発明に係るグリースは、常温で固体であってもよく、半固体であってもよい。
【0070】
また、本発明に係るグリースでは、
本発明に係るグリースには、所望のちょう度を有するグリースにするために必要な量の増ちょう剤が含まれている。例えば、通常、グリースの総重量に対して、10重量%〜40重量%の増ちょう剤が含有されている。
【0071】
上記「増ちょう剤」としては、グリースにおいて通常使用される増ちょう剤を用いることができ、例えば、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
本発明に係るグリースは、必要に応じて、酸化防止剤、極圧剤、腐食防止剤等の添加剤がさらに配合されていてもよい。これらの添加剤は、それぞれ、グリースの総重量に対して0.1重量%〜5重量%の範囲で配合することによって、グリースの実用性能をより向上させることができる。
【0073】
本発明に係るグリースの用途は特に限定されないが、軸受用グリース、特に、流体軸受用グリースまたは含浸軸受用グリースとして好適に使用することができる。
【0074】
本発明に係るグリースの製造方法は特に限定されず、一般的なグリースの製造方法に従って製造することができる。
【0075】
本発明に係るグリースは、基油として、本発明の潤滑剤を含有しているので、従来のグリースと比較して、省エネルギー性、耐熱性、帯電防止性および低温における粘度特性等の性能の全てをより確実に、且つバランスよく満たすグリースとなり得る。
【0076】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0078】
〔実施例1〕
上記一般式(1’)で表される、エーテル結合を分子構造中に含有する炭酸ジアルキルエステルおよび添加剤を用いて各種の潤滑剤を調製し、潤滑剤として必要とされる特性を評価した。実施例1〜5の化合物を表1および表2に示す。実施例1〜5の化合物は、既知の手法で合成した。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
さらに、比較例1として、既知の手法で合成した炭酸ジラウリル、比較例2として、上記の特許文献5で提案された炭素原子数14または15の飽和炭化水素鎖を有する炭酸エステル(三井化学ファイン株式会社製,LIALCARB SR-1000/R)、比較例3として、既知の手法で合成した炭酸ジノニル、比較例4として、セバシン酸ジ2−エチルヘキシル(DOS)、比較例5として、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル(DOA)を使用した。
【0082】
また、実施例1の化合物を基油とし、種々の添加剤を処方することによって、実施例6の潤滑剤を作製した。添加剤としては、アミン系酸化防止剤(R.T.VANDERBILT CO.,INC.製,VANLUBE 81)、防錆防食剤(千代田ケミカル株式会社製,チオライトB−1015)、および極圧剤(大八化学工業株式会社製,TPP)を用いた。実施例2〜5および比較例1〜5の化合物をそれぞれ基油とする、実施例7〜10および比較例6〜10の潤滑剤についても、実施例6と同様に作製した。実施例6〜10および比較例6〜10の潤滑剤における、基油と各種添加剤との配合比を、それぞれ表3および表4に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
実施例1〜5および比較例1〜5の化合物について物性(40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数、−40℃絶対粘度、流動点および体積抵抗率)を測定し、実施例6〜10および比較例6〜10の潤滑剤の実用性能(耐熱性、酸化安定性および耐摩耗性)を評価した。それぞれ、次の方法で行った。
1) 40℃動粘度:JIS K 2283に準じ、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて動粘度を測定した。
2) 100℃動粘度:JIS K 2283に準じ、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて動粘度を測定した。
3) 粘度指数:JIS K 2283に準じ、算出した。
4) −40℃絶対粘度:TA instruments社製レオメーター(ARES-RDA)を用い、絶対粘度を測定した。
5) 流動点:JIS K 2269に準じ、測定した。
6) 体積抵抗率:JIS C 2101:1999に準じ、試験電圧250V、湿度50%RH、23℃で測定した。
7) 耐熱性試験:材質SUS304、内径20mm、高さ35mmの円筒型試験容器に、潤滑剤を2g入れ、120℃の回転盤付恒温槽に136時間静置し、蒸発量を観察した。
8) 酸化安定性試験:JIS K 2514に準じ、RBOT寿命を測定した。
9) 耐摩耗性試験:ASTM D 4172に準じ、1200rpm、40kg、75℃、1時間の試験条件で4球耐摩耗性試験を行い、試験後の摩耗痕直径を計測した。
【0086】
物性測定結果を表5〜6に示し、性能評価結果を表7〜9に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

【0092】
実施例1の化合物は、比較例1の炭酸ジラウリルにおけるアルキル鎖の炭素原子が、4つのエーテル酸素原子で置換された化合物である。実施例1の化合物は、40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数および−40℃絶対粘度の全てが、比較例1の炭酸ジラウリルと比較して低かった。このことから、実施例1の化合物は、省エネルギー性に優れ、非常に優れた低温流動性を有することが確認された。また、実施例1の化合物は、比較例4のセバシン酸ジ2−エチルヘキシルと比較して、低粘度であり低温流動性が優れていた。
【0093】
実施例1の化合物を基油とする実施例6の潤滑剤と、比較例1および比較例4の化合物をそれぞれ基油とする比較例6および比較例9の潤滑剤とについて、蒸発量をそれぞれ比較した。その結果、実施例6の潤滑剤は、比較例6の潤滑剤と比較して、蒸発量が少なかった。また、実施例6の潤滑剤は、比較例9の潤滑剤と同等の蒸発量であった。このことから、実施例6の潤滑剤は、良好な耐熱性を有していることが確認された。さらに、実施例6の潤滑剤は、比較例9の潤滑剤と比較して、優れた酸化安定性を有し、比較例9の潤滑剤と同等の耐摩耗性を有していた。このことから、実施例1の化合物は、省エネルギー性に優れ、且つ良好な耐熱性、酸化安定性および耐摩耗性を有する流体動圧軸受用の潤滑基材(基油)として有効に使用でき得ることが確認された。
【0094】
実施例2の化合物および実施例3の化合物は、比較例2の化合物とほぼ同等の分子量であるが、複数のエーテル酸素原子を分子構造中に含有している。これらの化合物は、エーテル酸素原子を含有しない比較例2の炭酸エステルと比較して、非常に低粘度であった。また、これらの化合物は、比較例2の化合物および比較例4の化合物と比較して、体積抵抗率が低かった。このことから、実施例2および実施例3の化合物は、優れた帯電防止性能を有することが確認された。
【0095】
実施例2および実施例3の化合物をそれぞれ基油とする実施例7および実施例8の潤滑剤と、比較例2および比較例4の化合物をそれぞれ基油とする比較例7および比較例9の潤滑剤とについて、蒸発量をそれぞれ比較した。その結果、実施例7および実施例8の潤滑剤は、比較例7の潤滑剤と比較して蒸発量が極めて少なかった。また、これらの潤滑剤は、比較例9の潤滑剤と比較して、蒸発量が少なかった。このことから、実施例7および実施例8の潤滑剤は、優れた耐熱性を有することが確認された。従って、実施例2および実施例3の化合物は、省エネルギー性に優れ、良好な耐熱性および帯電防止性を有する流体動圧軸受用潤滑基材として有効に使用でき得ることが確認された。
【0096】
実施例4の化合物は、分子構造中に2つのエーテル酸素原子を有している。この化合物は、エーテル酸素原子を含有しない比較例3の炭酸ジノニルと比較して、低粘度であり、低温流動性に優れ、体積抵抗率が低かった。このことから、実施例4の化合物は、省エネルギー性に優れ、特に、帯電防止性能に優れていることが確認された。
【0097】
実施例4の化合物を基油とする実施例9の潤滑剤の蒸発量と、比較例3の化合物を基油とする比較例8の潤滑剤の蒸発量とを比較した結果、これらの潤滑剤は、蒸発量がほぼ同等であった。このことから、実施例9の潤滑剤は、比較例8の潤滑剤と比較して、低粘度でありながらも適度な耐熱性を有していることが確認された。
【0098】
実施例5の化合物は、比較例5の化合物と比較して低粘度であった。実施例5の化合物を基油とする実施例10の潤滑剤の蒸発量と、比較例5の化合物を基油とする比較例10の潤滑剤の蒸発量とを比較した結果、実施例10の潤滑剤の蒸発量は、比較例10の潤滑剤の蒸発量と比べてやや多かった。このことから、実施例10の潤滑剤は、比較例10の潤滑剤と比較して、低粘度でありながらも適度な耐熱性を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る潤滑剤は、従来の軸受用潤滑剤と比較して、省エネルギー性能、耐熱性能、帯電防止性能および低温における粘度特性に優れ、且つこれらの各性能のバランスが良好である。このため、流体軸受用の潤滑剤としてはもちろんのこと、一般の軸受用の潤滑剤、含浸軸受用の潤滑剤、グリース用の基油等としても好適に用いることができる。従って、潤滑剤を用いる全ての技術分野において産業上の利用価値が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有していることを特徴とする軸受用潤滑剤:
2f+1−R−O−(C=O)−O−R−C2g+1 … (1)
(一般式(1)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が2〜48であり且つ酸素原子数が1〜6であるオキサアルキレン基であり、aおよびbは、それぞれ独立して0または1の整数であり、且つa+b≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。
【請求項2】
下記一般式(1’)で表される化合物を含有していることを特徴とする軸受用潤滑剤:
2f+1(−O−C2a−(O−C2b−O−(C=O)−O−(C2d−O)−(C2e−O)−C2g+1 … (1’)
(一般式(1’)中、Oは酸素原子であり、Cは炭素原子であり、Hは水素原子であり、a、b、dおよびeは、それぞれ独立して2〜8の整数であり、j、k、mおよびnは、それぞれ独立して0〜3の整数であり、且つj+k+m+n≧1を満たし、fおよびgは、それぞれ独立して1〜12の整数である。)。
【請求項3】
流体軸受用潤滑剤または含浸軸受用潤滑剤であることを特徴とする、請求項1または2に記載の軸受用潤滑剤。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の軸受用潤滑剤を用いて潤滑されることを特徴とする軸受。
【請求項5】
上記軸受は、流体軸受または含浸軸受であることを特徴とする、請求項4に記載の軸受。
【請求項6】
請求項4または5に記載の軸受を、請求項1から3の何れか1項に記載の軸受用潤滑剤を用いて潤滑させることを特徴とする軸受の潤滑方法。
【請求項7】
請求項4または5に記載の軸受を備えていることを特徴とする、モータ。
【請求項8】
グリースを製造するための、請求項1から3の何れか1項に記載の軸受用潤滑剤の使用。
【請求項9】
請求項1から3の何れか1項に記載の軸受用潤滑剤を含有していることを特徴とするグリース。

【公開番号】特開2012−167149(P2012−167149A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27674(P2011−27674)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000146180)株式会社MORESCO (20)
【Fターム(参考)】