説明

軸受部品のモデル作成システム及びシミュレーションシステム

【課題】軸受部品の寸法や強度を容易、且つ、迅速に検証することが可能な軸受部品のモデル作成システム及びシミュレーションシステムを得る。
【解決手段】モデル作成対象である保持器の形状を測定する3次元測定器12と、測定された保持器の3次元座標値に基づいて3次元CADデータを作成するCADデータ作成部22と、作成された3次元CADデータを要素分割して有限要素モデルを作成する有限要素モデル作成部23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元測定器を用いて軸受部品のモデルを作成するモデル作成システム及び作成したモデルに基づいてシミュレーションを行うシミュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の高精度な品質検査を行うため、例えば、特許文献1に開示された検査装置は、回転する転がり軸受にセンサの探触子を接触し、検出される振動信号を周波数分析して異常の有無を判定することにより、検査の高速化と高精度な品質検査を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−171351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、転がり軸受の分野においては、小型化、軽量化に伴い、その構成部品である保持器等の樹脂化が要求されている。例えば、保持器は、金型を用いて樹脂を射出成形し製作されるが、樹脂の熱収縮特性により、設計寸法通りに成形されないことがある。
【0005】
したがって、成形された軸受部品の寸法や強度を容易、且つ、迅速に検証することが望まれていた。
上記特許文献1に開示された軸受検査装置では、製品として組立てられた転がり軸受の品質検査はできるが、保持器等の個々の構成部品の品質検査や形状測定を行うことはできない。また、探触子を接触させる接触式のため、触針の大きさ等に左右され、小型化された部品や複雑な凹凸形状、あるいは、部品の内部や裏側を検査することができない。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みなされたもので、その目的は、非接触式により軸受部品の寸法や強度を容易、且つ、迅速に検証することが可能な軸受部品のモデル作成システム及びシミュレーションシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) モデル作成対象である軸受部品の形状を測定する3次元測定部と、
測定された前記軸受部品の3次元座標値に基づいて3次元CADデータを作成するCADデータ作成部と、
作成された前記3次元CADデータを要素分割して有限要素モデルを作成する有限要素モデル作成部と、を備えることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0008】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、実際に成形した軸受部品の有限要素モデルを極めて容易、且つ、迅速に作成することができる。これにより、この作成した有限要素モデルに基づいて、軸受部品の寸法や強度の検証を容易、且つ、迅速に行うことができる。
【0009】
(2) (1)の軸受部品のモデル作成システムであって、
測定された前記軸受部品の3次元座標値から該軸受部品の3次元座標値の原点を算出する原点算出部を含むことを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0010】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、3次元座標値の原点を算出して有限要素モデルを作成するので、有限要素モデルを正確に作成することができる。
【0011】
(3) (1)または(2)の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記3次元測定部は、X線CTスキャンからなる非接触式3次元測定器であることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0012】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、非接触にて軸受部品の形状を測定することができる。つまり、触針を接触させて形状を測定する接触式3次元測定器を用いる場合と比較して、触針の大きさなどの影響を受けることなく、あらゆる方向から軸受部品の形状を測定することができる。これにより、小型で、しかも、穴や溝などを有する複雑な凹凸形状の軸受部品に対しても、内部や裏側に至るまで、正確、且つ、迅速に形状測定することができ、有限要素モデルをさらに正確なものとすることができる。
【0013】
(4) (1)〜(3)のいずれか一項の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記モデル作成対象が、保持器からなる軸受部品であることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0014】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、保持器からなる軸受部品の有限要素モデルを作成することにより、作成した有限要素モデルに基づいて、保持器の寸法や強度の検証を容易、且つ、迅速に行うことができる。
【0015】
(5) (4)の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記保持器が、樹脂製であることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0016】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、成形後の冷却により熱収縮する特性を有する樹脂からなる保持器の有限要素モデルを作成し、熱収縮による保持器の寸法や強度への影響を容易、且つ、迅速に検証することができる。
【0017】
(6) (5)の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記保持器が、プレス加工によって形成されたものであることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0018】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、プレス加工時の圧力によって応力が生じる虞がある保持器の有限要素モデルを作成し、保持器の寸法や強度への応力による影響を容易、且つ、迅速に検証することができる。
【0019】
(7) (1)〜(3)のいずれか一項の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記モデル作成対象が、密封装置からなる軸受部品であることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0020】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、密封装置からなる軸受部品の有限要素モデルを作成することにより、作成した有限要素モデルに基づいて、密封装置の寸法や強度の検証を容易、且つ、迅速に行うことができる。
【0021】
(8) (7)の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記密封装置の少なくとも一部がゴム材であることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0022】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、作製後の冷却により、いわゆるヒケなどが発生して収縮する特性を有するゴム材を少なくとも一部に有する密封装置の有限要素モデルを作成し、収縮による密封装置の寸法や強度への影響を容易、且つ、迅速に検証することができる。
【0023】
(9) (1)〜(8)のいずれか一項の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記有限要素モデル作成部は、前記3次元CADデータを6面体要素にて要素分割することを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0024】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、作成した有限要素モデルにおける各要素間でのばらつきを極力抑制することができる。これにより、この有限要素モデルを用いた軸受部品の寸法や強度の検証をより正確に行うことができる。
【0025】
(10) (9)の軸受部品のモデル作成システムであって、
前記有限要素モデル作成部は、前記3次元CADデータを6面体要素にて周方向へ略均等に要素分割することを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【0026】
この軸受部品のモデル作成システムによれば、環状に形成された軸受部品に対して、その要素分割を6面体要素にて周方向へ略均等に行うことにより、作成した有限要素モデルにおける周方向での各要素間のばらつきを極力抑えることができる。これにより、この有限要素モデルを用いた軸受部品の寸法や強度の検証をより正確に行うことができる。
【0027】
(11) (1)〜(10)のいずれか一項の軸受部品のモデル作成システムと、前記有限要素モデル作成部にて作成された前記有限要素モデルに基づいて、前記軸受部品のシミュレーションを行うシミュレーション部と、を備えることを特徴とする軸受部品のシミュレーションシステム。
【0028】
この軸受部品のシミュレーションシステムによれば、容易、且つ、迅速に作成された軸受部品の有限要素モデルに基づいて、所定の使用条件での軸受部品の変形量や応力分布などのシミュレーションを容易、且つ、高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の軸受部品のモデル作成システム及びシミュレーションシステムによれば、軸受部品の寸法や強度を容易、且つ、迅速に検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るモデル作成システムの概略構成図である。
【図2】モデル作成対象である保持器の斜視図である。
【図3】有限要素モデルの作成の手順を説明するフローチャートである。
【図4】モデル作成対象である密封装置の斜視図である。
【図5】図4の密封装置の断面図である。
【図6】図4の密封装置の使用時の状態を示す断面図である。
【図7】密封装置における要素分割の例を示す平面図である。
【図8】他のモデル作成対象である樹脂巻き軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る軸受部品のモデル作成システム及びシミュレーションシステムの実施の形態を図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る軸受部品のモデル作成システム(シミュレーションシステム)10は、解析処理装置11を備えている。
【0032】
解析処理装置11は、コンピュータのCPUからなるもので、解析処理装置11には、3次元測定器(3次元測定部)12が接続されている。また、解析処理装置11には、ハードディスクや半導体メモリ等からなる主記憶装置31、3次元座標値記憶装置32、CADデータ記憶装置33及び有限要素モデル記憶装置34が接続されている。さらに、解析処理装置11には、キーボードやマウス等の入力装置41及びプリンターやディスプレイ等の出力装置42が接続されている。
【0033】
3次元測定器12は、軸受部品の形状を測定する非接触式の測定器であり、例えば、X線CTスキャン装置が用いらる。この3次元測定器12では、軸受部品の空間座標を測定し、その測定データから各測定点の3次元座標値からなる点群データなどを作成する。作成された3次元座標値は、3次元座標記憶装置32へ記憶される。
【0034】
解析処理装置11は、原点算出部21、CADデータ作成部22、有限要素モデル作成部23及びシミュレーション部24を有している。
【0035】
原点算出部21は、3次元座標値記憶装置32に記憶されている3次元座標値を引き出し、形状を測定した軸受部品の3次元座標値の原点を算出する。
【0036】
CADデータ作成部22は、3次元座標値記憶装置32に記憶されている3次元座標値を引き出し、この3次元座標値に基づいて、3次元CADデータを作成する。3次元CADデータとしては、表面だけでなく中身を持つボリュームモデルであるボクセルモデルやポリゴンモデル(STL)などがある。CADデータ作成部22にて作成された3次元CADデータは、CADデータ記憶装置33に記憶される。
【0037】
有限要素モデル作成部23は、CADデータ記憶装置33から3次元CADデータを引き出し、この3次元CADデータを要素分割して有限要素モデルを作成する。この有限要素モデル作成部23にて有限要素モデルを作成する際のソフトウェアとしては、例えば、NX I−deas(UGS社製)あるいはCATIA(Dassault Systems社製)などが用いられる。有限要素モデル作成部23にて作成された有限要素モデルは、有限要素モデル記憶装置34に記憶される。
【0038】
シミュレーション部24は、有限要素モデル記憶装置34から有限要素モデルを引き出し、この有限要素モデルに基づいてシミュレーションを行う。このシミュレーション部24にてシミュレーションを行う際のソフトウェアとしては、例えば、NX I−deas(UGS社製)あるいはCATIA(Dassault Systems社製)などが用いられ、さらに、NASTRAN(MSC.Software Corp.製)、ANSYS(ANSYS Inc.製)、ADINA(ADINA R&D Inc.製)あるいはMARC(MSC.Software Corp.製)などを用いることもできる。シミュレーション部24での数値解析手法としては、例えば、静的な釣合解析、動的な運動や振動を伴う解析、熱伝導や流体との連成を伴う解析、音の伝播を扱う音響解析、音響解析と構造解析の連成解析等がある。
【0039】
なお、有限要素モデル作成部23及びシミュレーション部24にて用いるソフトウェアは、主記憶装置31に格納されており、この主記憶装置31からそれぞれ引き出されて使用される。
【0040】
図2に示すものは、モデル作成システム10によって解析処理が行われる保持器51である。
軸受部品の一つである保持器51は、環状部52と、この環状部52の一方の縁部に立設された複数の突出部53とを有し、突出部53が環状部52の周方向へ等間隔に配置されている。これら突出部53の間が、不図示の転動体を保持するポケット部54とされている。この保持器51が、例えば、射出成形によって得られる樹脂製である場合、成形後の熱収縮によって設計寸法通りに成形されない場合がある。
【0041】
したがって、この保持器51に対して、上記のモデル作成システム10で有限要素モデルを作成し、実際の使用条件に基づいてシミュレーションを行うことが有効である。
【0042】
次に、モデル作成システム10による保持器51の解析処理について、図3に示すフローチャートに沿って説明する。
まず、X線CTスキャン装置からなる3次元測定器12によって、実際に成形した保持器51の形状を非接触にて測定し、各測定点の3次元座標値からなる点群データを作成する(ステップS01)。
【0043】
次に、解析処理装置11の原点算出部21が、3次元測定器12にて作成された3次元座標値に基づいて、保持器51の形状の原点を算出する(ステップS02)。
解析処理装置11のCADデータ作成部22が、3次元座標値に基づいて、ボクセルモデルあるいはポリゴンモデルなどの3次元CADデータを作成する(ステップS03)。
【0044】
さらに、解析処理装置11の有限要素モデル作成部23が、CADデータ作成部22にて作成された3次元CADデータを要素分割して有限要素モデルを作成する(ステップS04)。
その後、解析処理装置11のシミュレーション部24が、有限要素モデル作成部23にて作成された有限要素モデルに基づいてシミュレーションを行う(ステップS05)。
【0045】
ここで、シミュレーション部24におけるシミュレーションについて詳述する。
シミュレーション部24は、有限要素モデル作成部23にて作成された有限要素モデルに対して、保持器51が実際に使用された場合の使用状態を、使用条件として付加する。この使用条件は、保持器51を転がり軸受に組み込んで不図示の転動体をポケット部54に保持させた状態で回転させた際の回転速度等である。
次に、保持器51の有限要素モデルの転動計算を行い、そのときに保持器51に生じる変形量や応力分布を求める。
【0046】
以上、説明したように、本発明によれば、実際に作製された軸受部品である保持器51の有限要素モデルを極めて容易、且つ、迅速に作成することができる。これにより、作成した有限要素モデルに基づいて、保持器51の寸法や強度の検証を容易、且つ、迅速に行うことができる。つまり、成形後の冷却により熱収縮する特性を有する樹脂からなる保持器51の有限要素モデルを作成し、作成された有限要素モデルに基づいて、所定の使用条件での保持器51の変形量や応力分布などのシミュレーションを容易、且つ、高精度に行い、熱収縮による保持器51の寸法や強度への影響を容易、且つ、迅速に検証することができる。
【0047】
特に、原点算出部21にて3次元座標値の原点を算出して有限要素モデルを作成するので、有限要素モデルを正確に作成することができる。
【0048】
しかも、3次元測定器12が、X線CTスキャンからなる非接触式3次元測定器であるので、非接触にて保持器51の形状を測定することができる。つまり、触針を接触させて形状を測定する接触式3次元測定器を用いる場合と比較して、触針の大きさなどの影響を受けることなく、あらゆる方向から保持器51の形状を測定することができる。これにより、小型で、しかも、穴や溝などを有する複雑な凹凸形状の保持器51に対しても、内部や裏側に至るまで、正確、且つ、迅速に形状測定することができ、有限要素モデルをさらに正確なものとすることができる。
【0049】
なお、上記の実施形態では、保持器51の形状の全体を測定するとしたが、保持器51のポケット部54の一つなどの一部分の形状を測定し、保持器51の中心を基準として360°の有限要素モデルを作成しても良い。このようにすると、保持器51の全体の形状を測定する場合と比較し、形状の測定に要する時間を大幅に短縮させることができる。なお、保持器51の中心座標は、測定データに基づいて、原点算出部21が算出する。
【0050】
また、上記の実施形態では、射出成形によって成形された樹脂製の保持器51を例に説明したが、本発明は、プレス加工によって形成された、例えば、金属製などの保持器51のモデル作成に用いても好適である。プレス加工によって形成された保持器51の場合、プレス加工時に塑性変形によって応力が生じることがあり、また、肉厚にばらつきが生じて設計寸法通りに成形されない場合がある。
【0051】
したがって、このようなプレス加工によって作製された保持器51に対しても、上記のモデル作成システム10で有限要素モデルを作成し、実際の使用条件に基づいてシミュレーションを行い、寸法や強度の検証を容易、且つ、迅速に検証することができる。
上記の実施形態のモデル作成システム10によってモデルを作成する軸受部品としては、保持器51に限定されない。
【0052】
図4及び図5に示すものは、軸受部品の一つである密封装置61である。密封装置61は、ハブユニット軸受等に用いられるもので、ゴム製のシール部62と金属製の芯金63とを有した環状の部品である。
【0053】
シール部62は、図6に示すように、スリンガ65に接触してシールする複数のシールリップ62a,62b,62cが周方向にわたって全周に形成されている。
また、芯金63は、断面視L字状に形成され、シール部62が一体的に設けられている。
【0054】
密封装置に使用されているゴム材は、非常に柔らかい材質なので、形状を測定するのに接触式形状測定機では、触針がゴム材に触れたときに、ゴム材が変形して、正確な形状を測定することができない。そこで、非接触式形状測定機を使うことが望ましい。
特に、X線CTスキャン装置を使って、芯金にゴム材からなるシール部が接着した状態のままで、形状測定を行う場合、X線を照射しても、芯金とシール部とでは材質が異なるので、X線吸収率が異なるため、X線吸収率の違いに基づくX線透過像を画像処理することによって、芯金とシール部のそれぞれの形状を測定することが可能となる。
すなわち、2つ以上の異なる材質でできた物体が一体となっていても、それぞれを切り離すことをせずに、それぞれの形状を測定することができる。
【0055】
上記の密封装置61は、シール部62がゴム材であるため、製造後における冷却時に、シール部62に、所謂ヒケなどが発生して収縮し、設計寸法通りに形成されない場合がある。
【0056】
したがって、この密封装置61に対しても、本実施形態のモデル作成システム10で有限要素モデルを作成し、実際の使用条件に基づいてシミュレーションを行うことが有効である。
【0057】
モデル作成システム10によって密封装置61の解析処理を行う場合も、保持器51の解析処理の場合と同様、まず、3次元測定器12によって、実際に作製した密封装置61の形状を測定し、各測定点の3次元座標値からなる点群データを作成する(ステップS01)。
【0058】
次に、解析処理装置11の原点算出部21が、3次元測定器12にて作成された3次元座標値に基づいて、密封装置61の形状の原点を算出し(ステップS02)、解析処理装置11のCADデータ作成部22が、3次元座標値に基づいて、ボクセルモデルあるいはポリゴンモデルなどの3次元CADデータを作成し(ステップS03)、さらに、解析処理装置11の有限要素モデル作成部23が、CADデータ作成部22にて作成した3次元CADデータを要素分割して有限要素モデルを作成する(ステップS04)。
【0059】
その後、解析処理装置11のシミュレーション部24が、有限要素モデル作成部23にて作成した有限要素モデルに基づいてシミュレーションを行う(ステップS05)。
【0060】
有限要素モデル作成部23にて作成した有限要素モデルに対して、例えば、スリンガ65に密着させた状態などの密封装置61が実際に使用された場合の使用状態を使用条件として付加し、スリンガ65に対するシールリップ62a,62b,62cの接触面圧、接触幅あるいは接触長さなど、密封装置61に生じる変形量や応力分布を求める。
【0061】
ここで、有限要素モデルの作成に4面体要素を用いると、シミュレーションを行う際に、スリンガ65に対するシールリップ62a,62b,62cの接触面圧、接触幅あるいは接触長さなどの違いの結果が、各要素毎に現れてしまうことがある。つまり、メッシュの大きさの違いにより結果がばらついてしまう。
このため、有限要素モデルの作成には、図7に示すように、6面体要素を用い、周方向に略均等の大きさにて要素分割することが好ましい。
【0062】
このように、6面体要素を用いることにより、シミュレーションを行う際に、スリンガ65に対するシールリップ62a,62b,62cの接触面圧、接触幅、あるいは、接触長さなどの違いによる各要素毎でのばらつきを極力抑えることができ、良好なシミュレーション結果を得ることができる。
【0063】
なお、有限要素モデルの作成に6面体要素を用いるのは、密封装置61の場合に限らず、保持器51及びその他の軸受部品の有限要素モデルを作成する際にも好ましい。
【0064】
図8に示すものは、モデル作成システム10によって解析処理が行われるクリープ防止用の樹脂巻き軸受71である。
クリープ防止用の樹脂巻き軸受(軸受)71は、内輪72と、内輪72に外嵌された外輪73と、内輪72と外輪73との間に配置される転動体74と、外輪73の外径上に全周にわたって凹設された少なくとも1条以上(本例では2条)の溝75とを有する。溝75には、射出成形により樹脂材を流し込んで形成する環状部材76が嵌め合わされている。
この軸受71に対し、X線CTスキャンにより非接触式3次元測定を行って、環状部材76および環状部材76周辺の形状を測定する。また、外輪73に設けた溝75と環状部材76との間の隙間の有無や、樹脂材に巣(空洞)が形成されていないかの検査を行う。
【0065】
係る軸受71では、外観を観察しただけでは、外輪73に形成した溝75と環状部材76との間に隙間がないか、あるいは、環状部材76に空洞が形成されていないかを判断することは困難である。隙間や空洞があると、樹脂材の強度低下やクリープが発生しやすくなる虞があるため、CADデータやシミュレーション解析を行わないと、どの程度、強度低下やクリープが起きやすくなるのか予測できない。
X線CTスキャンを用いて解析処理を行うことにより、隙間や空洞等の発見が簡単にでき、内部欠陥を含んだ形状測定を行って有限要素モデルを作成することが可能である。これにより、シミュレーションも容易、且つ、迅速となり、軸受71の強度低下やクリープの発生予測を容易、且つ、迅速に検証することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 モデル作成システム(シミュレーションシステム)
12 3次元測定器(3次元測定部)
21 原点算出部
22 CADデータ作成部
23 有限要素モデル作成部
24 シミュレーション部
51 保持器(軸受部品)
61 密封装置(軸受部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデル作成対象である軸受部品の形状を測定する3次元測定部と、
測定された前記軸受部品の3次元座標値に基づいて3次元CADデータを作成するCADデータ作成部と、
作成された前記3次元CADデータを要素分割して有限要素モデルを作成する有限要素モデル作成部と、を備えることを特徴とする軸受部品のモデル作成システム。
【請求項2】
測定された前記軸受部品の3次元座標値から該軸受部品の3次元座標値の原点を算出する原点算出部を含むことを特徴とする請求項1に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項3】
前記3次元測定部は、X線CTスキャンからなる非接触式3次元測定器であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項4】
前記モデル作成対象が、保持器からなる軸受部品であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項5】
前記保持器が、樹脂製であることを特徴とする請求項4に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項6】
前記保持器が、プレス加工によって形成されたものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項7】
前記モデル作成対象が、密封装置からなる軸受部品であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項8】
前記密封装置の少なくとも一部がゴム材であることを特徴とする請求項7に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項9】
前記有限要素モデル作成部は、前記3次元CADデータを6面体要素にて要素分割することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項10】
前記有限要素モデル作成部は、前記3次元CADデータを6面体要素にて周方向へ略均等に要素分割することを特徴とする請求項9に記載の軸受部品のモデル作成システム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の軸受部品のモデル作成システムと、
前記有限要素モデル作成部にて作成された前記有限要素モデルに基づいて、前記軸受部品のシミュレーションを行うシミュレーション部と、を備えることを特徴とする軸受部品のシミュレーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−186614(P2011−186614A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49267(P2010−49267)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】