説明

軸方向に拘束されたRFプローブコイル

【課題】コイルに対するRFフィールド分布を、感応容積内部における限定された領域へ拘束する。
【解決手段】NMR共鳴構造体は、軸方向導体54a,54b,54c,54dと、端部部材50,51とで形成され、前記端部部材は前記導体を支持して、所望の電気的接続形態のコイル構造体8を形成し、前記端部部材は、選択された軸方向の導体(誘導体)間でのRF相互接続機能を、前記端部部材の軸方向の境界外部に存在するRFフィールドの軸方向の拘束機能と組合せ、前記端部部材は、必要に応じて、共鳴構造体のために選択されたキャパシタンス61を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核磁気共鳴(NMR)装置に関し、さらに詳しくは、調査対象の試料の核部分へのRF結合に関する。
【背景技術】
【0002】
これは、感応領域内部におけるRFフィールドの分布を制御する、NMRプローブと広く定義されるモジュールの機能である。感応領域内部における試料は、スピン励起のため感応領域において発生するRF波であって、その後に試料核部分の脱励起で放射されるRF波へ密接に結合される。プローブの心臓部はRFコイルであり、そして、典型的な使用例におけるこの種のコイルの顕著な特性は、コイルにより定められる感応容積の内部全体でにわたって実現されるRFフィールドの均質性の程度である。また、コイルに対するRFフィールド分布を、感応容積内部における限定された領域へ拘束することも望まれる。つまり、分極磁場の空間的変動は、感応領域の外部では排除されないからである。
【0003】
NMRコイルのRFフィールドの空間的分布を限定することは、多くの従来技術におけるテーマである。この目的のため、本願と同一譲受人に譲渡された特許に係る下記特許文献1および下記特許文献2が特に興味深い。一般的に、これらの発明は、共鳴装置の感応容積を共鳴装置に対するRF外的影響から守るために、あるいは、感応容積外部のコイルのRFフィールドを低減するために実施される遮蔽について述べている。例えば、感応領域を超えて延びている試料部分を、コイルまたはコイルリード線から生じる放射から遮蔽することが望まれる。これは、その感応容積において完全にではないが大部分において分布しているRFフィールドによって、(おそらく僅かに異なる分極場に設けられている)試料のその同一部分を放射から保護するものではない。一般的に、これらの遮蔽構造は導体部材を含むが、この導体部材は、典型的に円筒状かつ試料軸と同軸であり、RFコイルの中央領域から軸方向に変位している。このような遮蔽構造は、遮蔽構造を超える軸方向領域におけるRFフィールドの径方向成分を大部分減衰するものである。
【0004】
感応容積外部における試料の望ましくない励起の問題に対する別の解決法として、試料容積を物理的に限定してプローブコイルの軸方向長さと一致させることに基づくものがある。磁化率の軸方向不連続を避けるために、従来技術では、試料と整合しやすく、かつ、試料容器内に挿入されて試料をプローブコイルと一致する所望の領域に閉じ込めるように構成されたプラグを利用してきた。これは、本願と同一譲受人に譲渡された特許に係るZensの下記特許文献3により開示されている。
【特許文献1】米国特許第6,008,650号明細書
【特許文献2】米国特許第5,192,911号明細書
【特許文献3】米国特許第4,549,136号明細書
【特許文献4】米国特許第4,607,224号明細書
【特許文献5】米国特許第4,517,516号明細書
【特許文献6】米国特許第6,917,201号明細書
【非特許文献1】Vaugn, J.B. Jr, "Spectroscopy", v.10, p.36 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RF空洞共鳴装置がNMR装置として知られており、この種の共鳴装置は、内部RFフィールドを実質的に含み、したがって、試料容積を空洞部に対するRF外的影響から遮蔽するものである。このようなNMR空洞共鳴装置の代表的な実施例が、本願と同一譲受人に譲渡された特許に係る下記特許文献4に開示されている。空洞構造体は場の分布に対する軸方向および径方向の両方向の拘束を行うが、その能力は失われて、独立したRFフィールドを、このような共鳴装置の外側から試料へ付与することになる。これが、スピン分離と多くの多重共鳴技術とに対して必要なツールである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
新規なRF共鳴構造は、コイルにより区画される感応容積において生じるRF双極場に対する軸方向の拘束部材を含むRF共鳴装置(または「コイル」)を特徴としている。この拘束部材は、感応容積の外側に位置する物理的試料の部分を遮蔽するものである。これは、長尺の管内部に設けられた液体試料の場合には通常のことである。この軸方向拘束部材はまた、コイルの軸方向誘導部材間に方位角方向の相互接続を形成するコイルの導電部材としても機能する。この新規なコイルは「開放」構造である。すなわち、第2の、「開放」コイルの外側にある同軸コイルは、2つの共鳴装置の共通軸上に設けられた試料管を独立的に照射するよう構成されていてもよい。
【0007】
フィールド閉じ込め/相互接続構造は、コイル支持部材またはコイル形成部材の機械的な端部部材であり、そして、集中キャパシタンスを実現し、コイル自体に極めて近接した調整可能な(バーニア付き)キャパシタンスを支持するためのプラットフォームを提供する点において別の利点を有している。フィールド閉じ込め構造は、好ましくは導電面−誘電体−導電面の複合体であって、コイル構造体と平行なキャパシタンスの選択値を提供するよう構成する。コイルの一端部部材は、別の導体を含む第3容量性部材を含むことが好ましく、この別の導体は、外側に向かう導電面から軸方向に変位され、コイルの感応領域の軸方向外側にあり、そして、容量性バーニアを提供するよう精密な軸方向の並進を行うものである。好ましい構成において、RF励起源は、コイルの軸方向の誘導部材に近接したループを介してコイルに誘導的に結合されている。
【0008】
誘導部材と組み合わせられる端部部材を含むRFコイル用の一般的な構造に続いて、端部部材の1つまたは両方の相互接続機能を開発して、種々のタイプのRF共鳴装置を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の前後関係を図1に概念的に示している(いくつかの図面において、同一部材に対して同一参照符号を使用している)。NMRプローブ9は、超電導磁石10の孔11内部に設けられている。分析対象の試料は、プローブ9内部に挿入された試料容器(図示せず)内に設けられている。プローブ9は、少なくとも第1RF励起チャンネル12を介して励起するように、そして、受信チャンネル14を介して独立して信号取得ができるように、試料の核スピンに誘導的に結合される。励起と受信との機能はしばしば、相関器13を介する非同時作動用の共通プローブコイルを共有するが、多数のコイルが、スピン分離、フィールド周波数のロックなど種々異なる機能を行うために使用されることが多い。通常、受信チャンネルは、プリアンプおよびRF復調器と、位相検出器と、アナログ−デジタル変換器(ADC)と、そして、平均化、フリーエ変換、格納などを行うデジタルプロセッサ15と共に種々の信号処理装置とを含む。同様に、デジタルプロセッサ15は、励起チャンネル12と受信チャンネル14との両方を制御する。ごく最近では、これらの機能のいくつかは、直接デジタル受信器に統合されているが、これらの変更例は、本発明のプローブの理解や作動にとって決定的に重大な意味を持つものではない。
【0010】
プローブ9の基本構成物は、1つまたは複数の共鳴構造体、例えば、励起チャンネル12と受信チャンネル14とへ試料分子の核スピンを結合するコイルである。本発明の軸方向拘束RFコイル8の基本要素は図2aに示している。対向する導電性平面状端部部材50,51は、それぞれ、セグメント50a,50bおよび51a,51bで構成されている。これらのセグメントは共通境界部(ここでは、ディスク状端部部材の直径として示されているが、この構成に限定されるものではない)を有している。(各端部部材の)各セグメント対は、共通境界部にわたって変位してスロット52,52’を形成し、これらのスロット52,52’が、対応セグメントを区画し、その間を電気的に絶縁している。開口部53,53’が、それぞれの端部部材に設けられ、これらはNMR試料容器を受容するように軸方向に一直線状になっている。スロット52,52’は角度的にずれて設けられている。ここで、角度的ずれは単純なケースとして90°として示されている。近軸導体54a,54b,54c,54dは、単純な実施形態で示されている。これらの近軸導体54a,54b,54c,54dは、感応容積の境界を大きく超えて延びるような長さを有している。その全長は、コイル増分を中心にしてコイル自体の軸方向長さの約3倍であるのが好ましい。この構成により、総磁化率の軸方向依存性における不連続を大幅に除去している。本出願と同一譲受人に譲渡された特許に係るHillおよびZensの上記特許文献5参照。
【0011】
このような導体の第1隣接対54a,54bは、一端部において、導体54a,54bの隣接端部が同一セグメント50aに共通に接続され、その一方で、この隣接対の他端部において、これらの2つの導体は、別々のセグメント51a,51bに接続されて、コイルの1つのループを形成するように構成されている。第2近軸導体対54c,54dも同様に、セグメント51bおよび50a,50bに接続されている。この構成の電気的接続形態は、鞍(サドル)状コイルの接続形態として即座に認識できるものであり、この鞍状コイルの接続形態は、RFフィールドが端部部材50,51を超えて存在するのでRFフィールドが望ましくない軸方向に延びるのを制限するために各端部部材が大きな遮蔽部となるという付加的特徴を備えている。簡略化のため、1回巻きの鞍状コイルが、簡便なモデルとして図示されている。2回巻き以上の鞍状コイルはこの説明の単純な延長線上にある。
【0012】
RFコイルの別の電気接続形態は、端部部材50,51の一方または両方を適切に設計することにより得られる。例えば、図2aの端部部材50をスロットのない平面状導体におきかえると、導電(誘導)部材54a,54bは、コイルのその端部部材にて共通に接続され、そして、その結果として生じる構造体が、試料軸の対向側部に2つのRFカレントループを支持することになる。第1ループは、導体部材54a,54bを含み、これらは、導体部材54c,54dを含む第2ループと並列である。
【0013】
図2bは、好ましい実施形態の付加構造体である(明瞭に表示するために、図2aでの全ての参照符号を図2bでは繰り返してはいない)。非導電性近軸棒状部材60を、近軸導体54a,54b,54c,54dの径方向外側に付加している。なお、ここでは、見やすくするために陰影を付けて表示している。棒状部材60は、端部部材51に容量的に結合された調整可能コンデンサープレート62(さらに詳しくは図2dに図示)に対して支持性と安定性とを提供している。さらに、端部部材51は図2cに示すような複合構造を有していることが好ましい。つまり、1つまたは複数の付加的な平面状導電部材57,57’であり、これらは、誘電体層(または空きスペース)58により変位していて、選択された固定キャパシタンスを構成すると共に端部プレート51の導電遮蔽面を形成している。この構造は、例えば、標準プリント基板または銅板および薄い平面状サファイアの誘電体または単なる空隙のような、分離した構成部材で形成されてもよい。回路の必要条件にあわせて、キャパシタンスを、片方または両方の端部部材に与えてもよい。図2cは、共鳴プローブコイルのための集中キャパシタンスを支持するための端部部材51の構造のさらなる変更例を示している。図2cのキャパシタンスは、外側に向いた導体57(コイル8の感応容積の外側に向いている)で与えられ、この導体57は、スロット56により区画されたセグメント構造を有している。スロット56,52を直交するように配向させて、コンデンサ端部部材61のそれぞれセグメント化された導電面は、直列コンデンサの2つの平行対を形成する。図2fの有効回路は、端部プレート50により供給される点線で表した接続で完成される。別の開口部59(そのうちの1つに参照符号を付している)は、以下に記載する種々の目的のために設けられている。エンドプレート50および/または51は、RFフィールドの閉じ込め、コイル部材の相互接続、容量性素子の提供など複数の目的を達成することは明らかである。スロット59の1つは、図2eに示すようにRF源からの供給を受けるために設けられている。好ましい構成において、誘導結合ループを、RF源と励起用コイルとの間に使用して、リード線からの誘導ロスを最少にすることが好ましい。誘導ループリード線は、相互に接近しており、したがって、分布された寄生誘導効果を相殺する傾向にある。
【0014】
図2dは、調整可能(バーニア付き)コンデンサープレート88を正確に変位させるためのある機械的回転連結機構を示している。この連結は、図2dに簡略化して示すように、差動ねじ付き同軸状軸構造を介して可能である。固定ナット80は、プローブ支持包囲構造体の一部である支柱82に関して固定されている。ねじ付き外側軸84は、キャパシタンス調整のために外側に回転し、その結果、固定ナット80のねじ山T1において軸方向に並進する。外側軸84は、内側ねじ付き軸83とかみ合うねじ付き孔T2を有し、この内側ねじ付き軸83は、T1とT2とが同一ピッチ方向を有している場合、固定ナット80の方へ軸方向に並進する。片持ち式結合部86を介して、調整可能コンデンサープレート88は、(相対ピッチT1とT2とに依存する)正確な駆動力低減関係で移動し、外側軸84を回転させる。コイル8は図2aを参照すると好都合である。これに対して、停止部材90,91と、絶縁棒状部材92,94の付加セットとが追加されている。絶縁棒状部材92,94は、調整可能プレート88に関して固定されていることと、端部部材50,51の適切な開口部55を介して摺動可能に支持されていることとにおいて絶縁棒状部材60とは異なっている。
【0015】
調整可能プレート88は端部部材セグメントに類似したセグメント構造を含む。プレート88のセグメントの近接端部部材の対向セグメントに関する相対配向は、一致相対配向の場合はバーニア付きキャパシタンスの単純直列接続に、そして、直交相対配向の場合は並列接続に対応している。
差動ねじ付き軸を介する駆動力低減構造は公知である。差動ねじ付き同軸状軸は、複数軸および従来の歯車装置ならびに同時に所望の回転/直進変換装置を必要とすることなく、良好な駆動力低減を達成する。この構造は、NMRプローブに必要とされるコンパクト構造にとって理想的である。Varian Chemagnetics Double Resonance HXMAS、およびTriple Resonance HXYMASの名称で販売されている通常レベルのマジック角回転用NMRプローブは、回転軸傾斜を正確に調整するための類似の駆動力低減連結装置を使用している。
【0016】
図2a〜図2fに示す実施例から、試料の対向側部に設けた誘導部材により支持されるRF電流双極子で構成されるコイルの単純な実施例を示していることがわかる。セグメントの構成と数とを適切に増設することにより、より多い巻数のコイルにすることが可能である。図2a、図2b、図2c、図2fに、鞍状コイルの1つの共通形態であり、かつ好ましい形態を示している。すなわち、横方向のRF磁界を提供し、試料管と分極場の軸とを横切る対向カレントループの並列接続である。上記共鳴コイルの特徴となるNMRプローブは、700MHzで作動するよう形成されている。端部部材の相互接続機能は、このような構造を所望する場合は、直列接続ループを提供するよう簡単に変更される。さらに、他の形態の共鳴装置は(以下に記載する)、本発明の多用途の端部部材構造を有利に使用して所望の電気的接続形態を支持するようにしてもよい。相互接続の外形は湾曲セグメントに限定されるものではなく、異なるRFフィールド構造に容易に適用できる。両方の端部部材が所望のキャパシタンスを実現するかどうかは設計の選択の問題である。セグメント構造の望ましい結果として、渦電流の影響が低減される。
【0017】
上記の固定および可変キャパシタンスの構造の結果として、これらのリアクタンス素子はコイルに極めて接近した状態で設けられている。これにより、(リード線に起因する)寄生リアクタンス要素は低減される。図2a、図2bの構造は、周知のオルダーマン−グラント(Alderman Grant)共鳴装置やその派生装置のような構造とは対照的である。これらは、本発明構造と同様、LC共鳴装置に対して最少インダクタンスを示す。しかしながら、オルダーマン−グラント式の共鳴装置は、スロット付き管の軸方向延長部により供給される分布キャパシタンスから容量性リアクタンスを引き出すものである。マジック角回転のようなある種の適用例では、軸方向に延びている構造体は、超電導磁石孔の空間的限界と相容れない。さらに、現在のマジック角回転装置は、回転軸に沿って変位した1対の気体軸受けを使用している。このような構成において一般的に使用されている従来形態のオルダーマン−グラント共鳴装置は、必要なキャパシタンスを提供するために、(回転軸に沿った)かなりの物理的長さを必要とする。このことは再び、磁石孔の空間的限界と相容れない。というのも、孔軸と回転軸とは約54°の角度をなしているからである。本発明の構造は、従来のオルダーマン−グラント共鳴装置と比較して、空間的延長を低減している。
【0018】
図3は、軸方向磁場拘束コイル(曲線75)の信号強度の軸方向分布と、同一軸方向および径方向寸法の従来コイル(曲線77)との比較である。このデータは、約1mmの軸方向範囲の水滴を含む有標準試料管を使用して得られたものである。水滴を、目盛りを刻んだスケールに沿って、選択された変位量だけ前進させて、各データを得た。両方の曲線は、全体寸法が同一のコイルの場合に想定されるように、同一軸座標でゼロ信号値になることがわかる。両方のコイルの感応容積内部の軸方向変位を関数とする類似した横ばいの信号応答が存在しているが、フラット領域の軸方向範囲は、本発明のコイル構造の方がより大きくなり、また、軸方向拘束コイルが信号のより急激な減少を示す、感応容積外側の信号減衰率においても違いが認められる。この挙動は、完全に開放状態の、たとえば遮蔽されていない従来のコイルに対する本発明のコイルの孔付き端部部材の比較を反映している。図3にプロットしたこの特定の実施例は、6mmの孔と12mmのコイル外径とを有して、公称75%の遮蔽を行っているのに対し、本質的に透過的な軸方向限界を示す従来のコイルの遮蔽率は0%である。コイル径に対して孔径がより小さいと、RFフィールドの軸方向拘束にとってよりよい手段となるようであるが、このような条件は同様に、充填率がより小さくなること、したがって、信号振幅が小さくなることを暗示している。
【0019】
本発明の多目的端部部材は、図4に示すような鳥かご型共鳴装置を実施する場合に使用してもよい。明確に表示するため、4つの桟(ラング)部材の鳥かご型共鳴装置を示しているが、桟部材の数には制限がないことは理解されよう。孔付き端部部材270,271は、それぞれの孔を平行配向状態にして設けられている。すなわち、それぞれの端部部材のセグメントは、図2aの鞍状コイルとは対照的に、一致配向されている。たとえば、誘導部材54aは、導電(誘導)部材54aの対応する端部において、セグメント260,262と電気的に接触している。図示するように、隣接する誘導部材54b,54dは、チップコンデンサー254,255を介して、誘導部材54aに結合されている。各誘導部材は、それぞれの端部部材において単一のセグメントと直接接続されている。チップコンデンサーの代わりとして、端部部材は、所望のキャパシタンスを形成するように、スロットを区画するセグメントの回転にともない、誘電体を挟む第1、第2セグメント導電面の複合構造体を介して結合キャパシタンスを与えるように設計されていてもよい。各端部部材の内側に向くセグメントは、対応する近軸導体とともに、1対1の関係のままであって、周知の鳥かごネットワークを形成する。
【0020】
記載した実施例の全てにおいて、端部部材構造体の導電面は、典型的に、スロットにより境界を定められるとともに区画されるセグメント領域を示している。これにより、アクティブプローブを磁石10の偏向場内に入れると、渦電流効果は最少になる。
適切に設計された端部部材との組合せにおいて、鞍状コイル(図2a、図2b)、および鳥かご状(図4)共鳴装置を実施するように、誘導部材を示してきた。端部部材の相互接続機能は電気的に直列のRFループを実施するよう構成してもよいことは明白である。近軸導体(誘導体)の単一対を相互接続して、オルダーマン−グラント式の共鳴装置を形成してもよい。
【0021】
図面および上記説明において、コイル外径は軸方向遮蔽/端部部材の外側寸法と一致していることを意味しているが、これは必要なことではない。上記で示唆したように、軸方向拘束(コイルの径方向寸法に対して小さな開口)に対する充填率(コイルの径方向範囲に対して大きな開口)のバランスにおいて矛盾がある。この点を熟考するため、別の実施形態において、近軸導体(誘導部材)を、半径上に配分して試料容器の外側寸法に近づけ、その一方で、軸方向遮蔽部はむしろ、コイルの径寸法より大きな半径寸法を示すようにする。
【0022】
実際問題として、NMRプローブは、分析対象の試料分子に存在する複数の異なる核スピンへ結合するため複数の共鳴手段を使用している。この目的を果たす同軸状に設けられたコイルは、(径方向)内側コイルまたは(径方向)外側コイルとして述べた構造を使用してもよく、または、両方のコイルが新規な構造を共有していてもよい。図5aは、スロット152,152’により分離されたセグメント内側コイル対153,153’を有する端部部材51”の1つの表面である。外側コイルセグメント151,151’はスロット154,154’により同様に分離され、そして、円形スロット155は、内側コイル端部部材と外側コイル端部部材とを隔離している。開口部53は試料管を収容する。2つのコイルは、通常、かなり広範囲に分離された周波数で共鳴することが要求される。2つのコイルに対する固定キャパシタンスは、まず第1に、それぞれの幾何学的領域により制限される。必要に応じて、一方または他方のコイルに対して一方または他方の端部部材において適切なキャパシタンスを与えることにより、さらなる総相対キャパシタンスを得てもよい。図5bに示すように、それぞれの同軸コイルに対して、端部部材の対向面の間に異なる誘電体を形成することにより、付加総変動を得てもよい。(一例として)ここに示すように、分離したモノリシック誘電部分160,162を内側セグメント153,153’と一直線上に設けて、内側コイルの回路に対して所望のキャパシタンスを提供し、そして、別の誘電体162が、外側コイルに対して所望のキャパシタンスを実現するよう選択される。同軸コイルの1つに対して所望の集中キャパシタンスを実現する別の手法は、セグメント、たとえば151,151’と一直線状の(共通に接続された)導電面(図示せず)と誘電体162との交互シートを含み、これにより外側コイル回路に対して所望のキャパシタンスを提供するというものである。導電面151,251は集中キャパシタンスの外側面である。内側または外側のキャパシタンスに対する独立した調整可能キャパシタンスは、図2dに示すように1対の独立した同軸調整結合を介して得られる。近軸導体の支持用開口部は、外側コイルに対しては170、内側コイルに対しては172の符号が付されている。
【0023】
好ましい実施形態において、各近軸導体54a,54b,54c,54dは、このような導体を各々、導体の電気的並列対としてわずかに方位角を変位させた状態で設けることにより、2倍にすることができる。RF均質性は、「810/90」方式(上記非特許文献1参照)により測定されているように改良されていることがわかり、そして、インダクタンスは僅かに低減されて、いくらか高い周波数特性を可能にする。
【0024】
別の実施形態において、本発明は図6に示すように、2つのインダクタを備えた共鳴装置にも適用される。各近軸導体対(第1対54a,54dおよび第2対54c,54b)の分離間隔は低減されて、端部部材50,51と組合せてそれぞれ方位角方向に分布された近軸導体(誘導体)54’ad,54’cdとなる。導体54’ad,54’cdは一端部にてスロットが形成され(スロット63)、スロット63は端部部材のスロット52’と合致して渦電流の伝播を制限する。共鳴構造体に要求されるキャパシタンスは、図2cの方法で端部部材51により支持されるが、このような端部部材は、方位角方向に分布された近軸導体を受容するように構成されている。
【0025】
本明細書において、述べられている開口部およびコイル断面は特定の形状に限定されて理解されるべきものではない。円形断面の試料容器と、円形断面のコイルとは、NMR測定では広く使用されているものではあるが、楕円形状および矩形状は、固定試料の場合に、ある種の利点を有する。本願と同一譲受人に譲渡された特許に係る上記特許文献6参照。さらに、近軸導体は特定の断面形状に限定されるものとして解釈されるべきではない。
【0026】
本発明は特定の実施形態と実施例とを参照して説明がなされたが、他の改変や変更は上記教示に鑑み当業者により行われるものである。添付の特許請求の範囲において、本発明は、具体的に記載したものとは別の方法で実施してもよいことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】新規なプローブコイルの状況を示す概略図である。
【図2a】新規なコイルの基本的な外観を示す。
【図2b】さらなる構造的補強を加えた基本構造を示す。
【図2c】固定キャパシタンスを形成する複合端部部材を示す。
【図2d】同軸状ねじ付き軸で実施した調整可能キャパシタンスを示す。
【図2e】磁気結合ループを使用した好ましい構成である。
【図2f】図2a、図2bのコイル用の実効回路である。
【図3】従来のコイルと、本発明の軸方向拘束コイルとの信号強度の軸方向分布を比較している。
【図4】本発明の軸方向拘束特徴を示す鳥かご状コイルである。
【図5a】一対の同軸コイルを実施するための端部部材を示す。
【図5b】図5aの端部部材の断面図である。
【図6】図2a、図2bの鞍状コイルの2つの導体(インダクタ)での実施形態である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状で導電性を有する第1および第2端部部材を含み、前記端部部材の少なくとも1つは、前記端部部材の前記平面の中心部に沿って離間する少なくとも1対の同一平面上のセグメントを含み、前記中心部はスロットを形成しており、
前記端部部材は、対向して整列し、かつ離間して設けられて、それらの間に軸方向間隔が設けられており、
少なくとも2n個の近軸導体が、前記第1および第2端部部材間に延びており、nは正の整数であり、前記導体は、規則的な方位角間隔で設けられると共に、第1および第2端部を有しており、
隣接する前記近軸導体の第1の対の隣接する第1端部は、前記第1端部部材の共通のセグメントに電気的に接続され、前記近軸導体それぞれの隣接する第2端部は、前記第2端部部材の選択部分に接続されており、
各端部部材は、さらに中央開口部を含み、前記中央開口部は、試料容器をそれらの間に導入することができるように整列している
ことを特徴とするNMRプローブコイル。
【請求項2】
前記第2端部部材は、前記第1端部部材の前記セグメント構造に類似したセグメント構造を含む平面状導体を含み、前記第2端部部材セグメントは、前記第1端部部材の前記セグメントに対して回転しており、これにより、前記近軸導体の隣接する対と、これと連通する前記セグメントとは、RF電流ループを支持することができ、これにより、前記端部部材と前記近軸導体とは鞍状コイルを含むことを特徴とする請求項1に記載のNMRプローブコイル。
【請求項3】
前記第2端部部材は、前記第1端部部材の前記セグメント構造に類似したセグメント構造を含む平面状導体を含み、前記第2端部部材セグメントは、1つの近軸導体だけがいずれかの前記セグメントと連通するように前記第1端部部材の前記セグメントに対して整列しており、隣接する同一平面のセグメントは容量的に結合され、これにより、前記近軸導体とこれと連通する前記セグメントとは鳥かごコイルを含むことを特徴とする請求項1に記載のNMRプローブコイル。
【請求項4】
前記コイルと外部装置との間でRF信号の通信をするRF結合手段をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のNMRプローブコイル。
【請求項5】
少なくとも1つの前記端部部材は、1対の平面状導電面の間に設けられた誘電体を含み、各導電面は、前記スロットと一致してセグメント化され、これにより、前記端部部材は固定キャパシタンスを提供することを特徴とする請求項4に記載のNMRプローブコイル。
【請求項6】
1つの前記平面状導電面に近接する第3導電面と、前記1つの平面状導電面からの前記第3導電面の離間距離を変動させる調整手段を提供するように構成された差動ねじ付き軸とをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載のNMRプローブコイル。
【請求項7】
前記結合手段は、少なくとも1つの前記近軸導体と近接して設けられた誘導結合ループを含むことを特徴とする請求項4に記載のNMRプローブコイル。
【請求項8】
各近軸導体は、共通セグメントと電気的に並列接続された少なくとも1対の離間した軸方向に延びる平行導体を含み、これにより、前記近軸導体のインダクタンスは低減されることを特徴とする請求項1に記載のNMRプローブコイル。
【請求項9】
前記導体部材に平行な複数の非導電性棒状部材をさらに含み、前記棒状部材は、前記端部部材の開口部に支持されると共に、前記端部部材の周縁に配分されている、ことを特徴とする請求項1に記載のNMRプローブコイル。
【請求項10】
選択された特性を有する磁界を形成および維持する磁石と、
試料の選択された核スピン共鳴を励起する少なくとも1つのRFエネルギー源と、
核スピン共鳴信号を検出および処理する受信器と、
前記RFエネルギー源と前記受信器とを前記試料の核スピンへ結合するRFプローブとを含み、
前記RFプローブは、前記試料に結合するため軸方向の誘導部材を有する軸方向に延びる共鳴装置と、導電面を含む平面状端部部材とを含み、前記導電面は前記軸方向に対して直交し、少なくとも1つの前記端部部材は、スロットを形成する前記端部部材の前記平面の中心部に沿って離間する少なくとも1対の同一平面上のセグメントを含み、前記誘導部材と前記端部部材とは、前記試料を包み込む感応領域を含み、前記端部部材は、前記RFエネルギー源と連通する前記誘導部材により形成されるRFフィールドを閉じ込め、選択された前記誘導部材間の相互接続部を支持し、前記誘導部材と組合せるために選択されたキャパシタンスを提供して共鳴回路を支持するように設けられていることを特徴とする試料試験用NMRシステム。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−503541(P2009−503541A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524985(P2008−524985)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/027711
【国際公開番号】WO2007/018977
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)