説明

軸調整用ターゲット装置

【課題】車両に搭載されたレーダと撮像手段の軸調整用のターゲットを共有化する。
【解決手段】電波を送信するとともに物体により反射された反射波を受信することにより物体の位置を検知するレーダと、前記レーダの検知方向と同じ方向の画像を撮像するカメラと、を備える車載用物体検知装置に用いられる軸調整用ターゲット装置10であり、複数の起伏を等間隔に配置した電波吸収体14と、電波吸収体14の前面に設けられ表面19が略平坦に形成された電波透過体17と、電波吸収体14の前面に設けられた電波反射体20およびカメラ用のターゲット25と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダおよびカメラの軸調整の際に使用する軸調整用ターゲット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、車両前方の物体を検知する検知手段としてレーダとカメラ(撮像手段)の両方を搭載する場合がある。この種の車両では、生産工程において、レーダおよびカメラを車両正面中央に精確に指向させるために軸調整が行われる。
【0003】
ところで、軸調整方法としては、例えば特許文献1に開示された方法があり、この方法によれば、車両の走行中に、車載のカメラにより得た画像に基づいて直進判定を行い、直進状態と判定されたときに、車載のレーダによる検出結果から前方物体の移動ベクトルを算出し、カメラとレーダとの軸ずれを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−198159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両走行中に実施する従来の軸調整方法を、車両の生産工程において実施するのは困難であった。
生産工程において実施可能な軸調整方法としては、レーダおよびカメラが搭載された車両の正面中央にターゲットを設置し、前記レーダおよび前記カメラで前記ターゲットを検出する方法が考えられる。
【0006】
しかしながら、レーダとカメラを1つのターゲットで軸調整するのは以下の理由により困難であった。
レーダの軸調整にはターゲットはただ1つであるのが好ましい。ターゲットを複数設けると、ターゲット毎の反射波を分離するのが困難であるため、ある1つのターゲット位置を算出する際に、別のターゲットの反射波による影響を受けてしまい、ターゲット算出位置が実際のターゲット位置からずれてしまう。その結果、正確な軸調整が困難となる。図3(B)は、ターゲットの近傍に反射率の高い物体(側方障害物)が存在する場合にレーダが受信した反射波の受信強度と、実際のターゲット位置と、反射波に基づいて算出されたターゲット算出位置を示す一例である。
【0007】
一方、カメラの軸調整には、ピッチ方向やロール方向等の複数の軸調整が必要であり、そのためにターゲットも複数必要である。
そのため、生産工程においてレーダとカメラの軸調整を行う場合には、従来は、レーダ用のターゲットとカメラ用のターゲットをそれぞれ別に用意し、レーダの軸調整を行う場合には車両前方にレーダ用のターゲットを設置して行い、カメラの軸調整を行う場合には車両前方にカメラ用のターゲットを設置して行わざるを得ず、煩雑であった。
【0008】
そこで、この発明は、車両に搭載されたレーダと撮像手段の軸調整用のターゲットを共有化した軸調整用ターゲット装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る軸調整用ターゲット装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、電波を送信するとともに物体により反射された反射波を受信することにより物体の位置を検知するレーダ(例えば、後述する実施例におけるレーダ3)と、前記レーダの検知方向と同じ方向の画像を撮像する撮像手段(例えば、後述する実施例におけるカメラ4)と、を備える車載用物体検知装置(例えば、後述する実施例における物体検知装置1)に用いられる軸調整用ターゲット装置(例えば、後述する実施例における軸調整用ターゲット装置10)であって、複数の起伏(例えば、後述する実施例における凸部15)を等間隔に配置した電波吸収体(例えば、後述する実施例における電波吸収体14)と、該電波吸収体の前面に設けられ表面(例えば、後述する実施例における前面19)が略平坦に形成された電波透過体(例えば、後述する実施例における電波透過体17)と、該電波吸収体の前面に設けられた電波反射体(例えば、後述する実施例における電波反射体20)および前記撮像手段用のターゲット(例えば、後述する実施例におけるターゲット25)と、を備えたことを特徴とする軸調整用ターゲット装置である。
このように構成することにより、電波透過体を透過した電波は電波吸収体に吸収されるので、電波反射体で反射した電波に基づいてレーダの軸調整を高精度で行うことが可能となる。
撮像手段用のターゲットを略平坦な電波透過体の前面に設けているので、起伏に起因する陰影が発生せず、前記ターゲットに対する画像認識に悪影響を与えない。したがって、撮像手段の軸調整を高精度で行うことが可能となる。
電波透過体の表面が略平坦に形成されているので、電波透過体の前面に撮像手段用のターゲットを取り付けるのが容易である。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記電波反射体は電波吸収体の前面中心に配置されるとともに、前記撮像手段用のターゲットは前記電波吸収体の前面であって前記電波反射体の上方に水平方向に複数配置されていることを特徴とする。
このように構成することにより、レーダを車体の下部領域に、撮像手段を車体の上部領域に設置した場合に、軸調整用ターゲット装置を車両近傍に設置してレーダおよび撮像手段の軸調整を行うことが可能となる。また、唯一の電波反射体を用いてレーダの軸調整を行うことができ、複数の撮像手段用のターゲットを用いて撮像手段の軸調整を行うことができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記電波透過体は気泡を含む合成樹脂材料により構成されていることを特徴とする。
このように構成することにより、気泡を含むので電波透過体の電波透過性が高くなり、また、軽量化およびコストダウンを図ることができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記電波透過体および前記電波反射体は白色であり、前記撮像手段用ターゲットは黄色および黒色に塗り分けられた円形形状であることを特徴とする。
このように構成することにより、撮像手段用のターゲットとその背景とのコントラスト比を高めることができ、撮像手段用のターゲットを背景から容易に分離することができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、レーダの軸調整と撮像手段の軸調整を同じ軸調整用ターゲット装置を用いて高精度に行うことができる。
請求項2に係る発明によれば、軸調整用ターゲット装置を車両近傍に設置してレーダおよび撮像手段の軸調整を行うことが可能となるので、狭いスペースでの軸調整の実施が可能となる。
請求項3に係る発明によれば、電波透過体の電波透過性を高くすることができるので、撮像手段の軸調整を高精度で行うことができる。また、軸調整用ターゲット装置の軽量化およびコストダウンを図ることができる。
請求項4に係る発明によれば、撮像手段用のターゲットを背景から容易に分離することができるので、撮像手段の軸調整を高精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る軸調整用ターゲット装置の実施例における外観斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である
【図3】受信強度とターゲット算出位置の関係を示すモデル図である。
【図4】レーダと撮像手段を備えた車両の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明に係る軸調整用ターゲット装置の実施例を図1から図4の図面を参照して説明する。
初めに、軸調整される物体検知装置が搭載された車両について説明する。図4は、車両前方の障害物を検知する物体検知装置1が搭載された車両2の外観斜視図であり、物体検知装置1はレーダ3とカメラ(撮像手段)4とから構成されている。
【0016】
この実施例では、レーダ3は車体の下部領域に設置され、カメラ4は車体の上部領域に設置されている。詳述すると、レーダ3は、例えば車両2のボディのフロントグリル5内に設置されており、レーザ光やミリ波等の電波を車両の前方に向けて発信し、該電波が車両前方の物体(検知対象)により反射された反射波を受信することによって物体の位置を検出する。
カメラ4は、例えばフロントウィンドウ6の車室内のルームミラーあるいはルームミラー近傍の位置に設置されており、フロントウィンドウ6越しに車両前方の所定検知範囲の外界を撮影する。つまり、カメラ4はレーダ3の検知方向と同じ方向の画像を撮像する。カメラ4で撮影して得られた画像は車両に搭載された図示しない制御装置により画像処理される。
【0017】
次に、図1および図2を参照して、レーダ3およびカメラ4の軸調整を行うときに使用する軸調整用ターゲット装置を説明する。
軸調整用ターゲット装置10は、前端側を開口させた凹部11を有する直方体形状の樹脂製のケース12を備えている。ケース12は、電波の反射率が低い樹脂、例えば、ABS樹脂、AES樹脂、AC樹脂、ポリカーボネート樹脂などにより形成されている。
【0018】
凹部11にはケース12の後壁13側に密着してウレタン樹脂からなる電波吸収体14が取り付けられている。電波吸収体14は、多数の正四角錐形状の凸部(起伏)15がその底面側を平面的に順次接続し、凸部15が等間隔に配列された構造をなし、凸部15の頂点はケース12の前端16よりも奥側(後壁13側)に位置している。このような構造からなる電波吸収体14は、凸部15で反射した電波も隣接する凸部15で吸収することが可能となり、電波吸収性が極めて高い。なお、電波吸収体14の材質はウレタン樹脂に限るものではなく、電波吸収性に優れたものであれば他の材質で形成することも可能である。
【0019】
さらに、電波吸収体14の前面側、すなわち凹部11の開口側には、白色の発泡スチロール樹脂からなる電波透過体17が取り付けられている。電波透過体17の後面18は電波吸収体14の凸部15と互いに密接して嵌合するような形状に形成されており、電波透過体17の前面(表面)19は略平坦に形成され、ケース12の前端16とほぼ面一となっている。電波透過体17を発泡スチロールで構成すると、気泡を含むので電波透過性が高く、軽量で安価であるという利点がある。
なお、電波透過体17の材質は発泡スチロール樹脂に限るものではなく、気泡を含む他の合成樹脂材料で構成してもよく、電波透過性に優れたものであれば他の材質で形成することも可能である。
【0020】
電波透過体17の前面19の中央には、レーダ3の軸調整用のターゲットとして、白色の金属からなる電波反射体20が取り付けられている。電波反射体20は、内側に凹んだ正三角錐形状をなし、頂点21を電波吸収体14の凸部15に当接させ、この頂点21側を電波透過体17に埋設させ、開口22側を電波透過体17の前面19よりも外方へ突出させて、開口22の水平辺23を上方に配置している。この電波反射体20は、頂点21に固定された取付軸24を電波吸収体14に貫通させその軸端をケース12の後壁13に固定することにより、適正な姿勢を保持するように固定されている。
【0021】
また、電波透過体17の前面19には、電波反射体20よりも上方の領域に、カメラ4の軸調整用のターゲット25が3つ取り付けられている。ターゲット25は、裏面に接着剤が塗布された紙製のシールからなり、円形形状をなしている。ターゲット25の表面は周方向に4等分され、黄色と黒色に交互に塗り分けられている。3つのターゲット25は水平方向に等間隔に一列に配列されており、中央のターゲット25は電波反射体20から所定寸法離間した上方に配置されている。ターゲット25は紙製であるので電波の反射率が低い。なお、ターゲット25の材質は紙に限るものではなく、電波反射率が低いものであれば他の材質、例えばABS樹脂などで形成することも可能である。
ターゲット25は電波透過体17の前面19に貼り付けられて固定されている。ここで、電波透過体17の前面19が平坦に形成されているので、ターゲット25の取り付けが極めて容易である。
【0022】
このように構成された軸調整用ターゲット装置10を用いて、出荷前の車両2に搭載されたレーダ3およびカメラ4の軸調整を生産ラインにおいて行うときには、軸調整用ターゲット装置10を軸調整作業エリアの所定位置且つ所定高さに予め設置しておく。その際に、軸調整用ターゲット装置10を正面から見た姿勢が図1に示すようになるように、すなわち、カメラ4の軸調整用のターゲット25が電波反射体20より上位において横一列に並ぶ姿勢となるようにする。
そして、被検査対象となる車両2を、軸調整用ターゲット装置10と所定距離離れて対峙させ、車両2の正面中央に軸調整用ターゲット装置10が位置するように配置する。
【0023】
このようにセットした後、レーダ3の軸調整を行う場合には、レーダ3から車両2の前方に向かって予め設定された所定の領域に電波を送信し、軸調整用ターゲット装置10の電波反射体20で反射した反射波を受信して、電波反射体20の位置を算出することにより、レーダ3の軸のズレ量を検出する。
レーダ3から送信された電波のうち、電波反射体20の周囲に送信された電波は、電波透過体17を透過して電波吸収体14に吸収され、また、カメラ4の軸調整用のターゲット25は電波の反射率が低く、電波吸収体14やターゲット25における電波の反射レベルが極めて低い。したがって、電波反射体20の位置を算出する際に悪影響を及ぼす障害物が電波反射体20の近傍に存在しないので、図3(A)に示すように、レーダ3は電波反射体20で反射した反射波を不要成分を含まない適正な状態で受信することができる。その結果、レーダ3の軸の算出を高精度で行うことができる。
しかも、レーダ3の軸調整をただ1つのターゲットとなる電波反射体20を用いて行うので、レーダ3の軸調整を高精度で行うことができる。
【0024】
また、カメラ4の軸調整を行う場合にも、車両2を移動させずに、レーダ3の軸調整を行うと同時にあるいはレーダ3の軸調整に前後して、カメラ4により軸調整用ターゲット装置10を撮像することにより実施することができる。そして、カメラ4で撮像した画像における3つのターゲット25の画像位置に基づいてターゲット25の位置を検出し、これからカメラ4の軸のズレ量を算出する。このように、カメラ4の軸調整を水平に並んだ3つのターゲット25を用いて行うので、ピッチ方向やロール方向等の複数の軸調整を行うことができる。
【0025】
カメラ4による軸調整用ターゲット装置10を撮像においては、ターゲット25が黄色と黒色に色分けされているのに対して、背景となる電波透過体17が白色であるので、ターゲット25と背景とのコントラスト比が極めて大きい。また、中央のターゲット25の近傍に位置する電波反射体20も白色であるので、電波反射体20は電波透過体17に溶け込み、電波透過体17とともにターゲット25とのコントラスト比の大きい背景となる。したがって、ターゲット25を背景から分離するのが容易となり、ターゲット25の画像認識が容易となる。
また、カメラ4の軸調整用のターゲット25を電波透過体17の平坦な前面19に設けているので、撮像時に起伏に起因する陰影が発生せず、ターゲット25に対する画像認識に悪影響を与えない。
したがって、カメラ4の軸調整を高精度で行うことが可能となる。
【0026】
このように、この軸調整用ターゲット装置10を用いると、レーダ3の軸調整とカメラ4の軸調整を、同じ場所で、順番にあるいは同時に、高精度で行うことができる。
また、軸調整用ターゲット装置10において、その中央に電波反射体20を配置し、電波反射体20の上方にカメラ4の軸調整用のターゲット25を配置したので、レーダ3を車体の下部領域に、カメラ4を車体の上部領域に設置した車両2に対して軸調整を行う場合に、軸調整用ターゲット装置10を車両2の前方の近い位置に設置してレーダ3およびカメラ4の軸調整を行うことが可能となる。したがって、レーダ3およびカメラ4の軸調整に広いスペースを必要とせず、工場のライン内というスペースが限られた場所においても実施可能となる。
【0027】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、カメラ4の軸調整用のターゲット25を紙製シールで構成したが、これに限るものではなく、電波の反射率が低い材料で構成されていればよい。例えば、ABS樹脂などの合成樹脂で構成することも可能であり、あるいは、電波反射率の低い塗料により電波透過体17の前面19に直接描画してもよい。
また、撮像手段は単眼カメラあるいはステレオカメラであってもよく、いずれの場合もこの発明を実施可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 物体検知装置
2 車両
3 レーダ
4 カメラ(撮像手段)
10 軸調整用ターゲット装置
14 電波吸収体
15 凸部(起伏)
17 電波透過体
19 前面(表面)
20 電波反射体
25 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信するとともに物体により反射された反射波を受信することにより物体の位置を検知するレーダと、前記レーダの検知方向と同じ方向の画像を撮像する撮像手段と、を備える車載用物体検知装置に用いられる軸調整用ターゲット装置であって、
複数の起伏を等間隔に配置した電波吸収体と、
該電波吸収体の前面に設けられ表面が略平坦に形成された電波透過体と、
該電波吸収体の前面に設けられた電波反射体および前記撮像手段用のターゲットと、
を備えたことを特徴とする軸調整用ターゲット装置。
【請求項2】
前記電波反射体は電波吸収体の前面中心に配置されるとともに、前記撮像手段用のターゲットは前記電波吸収体の前面であって前記電波反射体の上方に水平方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載の軸調整用ターゲット装置。
【請求項3】
前記電波透過体は気泡を含む合成樹脂材料により構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の軸調整用ターゲット装置。
【請求項4】
前記電波透過体および前記電波反射体は白色であり、前記撮像手段用ターゲットは黄色および黒色に塗り分けられた円形形状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の軸調整用ターゲット装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate