軽作業用帽子の帽体
【課題】軽量であると共に、上部から下方に向かって加わる衝撃を確実に吸収することが
できる軽作業用帽子の帽体を提供する。
【解決手段】椀状に形成された軽作業用帽子3の帽体1において、帽体1の高さ方向の中
間部に設けられた第1の段差7と、帽体1の頂上部およびこの近傍が帽体1の外面11で
凸になるように設けられた第2の段差9とを有する。
できる軽作業用帽子の帽体を提供する。
【解決手段】椀状に形成された軽作業用帽子3の帽体1において、帽体1の高さ方向の中
間部に設けられた第1の段差7と、帽体1の頂上部およびこの近傍が帽体1の外面11で
凸になるように設けられた第2の段差9とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽作業用帽子の帽体に係り、特に、労働用の検定帽ではなく、自動車の組み立て作業や工場内の比較的軽作業で布の帽子の代りに使用される帽子の帽体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、労働安全衛生法での保護帽規格品(検定帽)ではなく、自動車の組み立て作業や工場内の軽作業で使用される帽子として布の帽子(布性の帽子)が使用されている。布の帽子であれば、軽量であるので作業者は違和感なく着用することができ、作業に支障(たとえば重い帽子をかぶったことによる首筋の疲労感)が発生することを防ぐことができる。
【0003】
また、自動二輪や原動機付自転車等の車両に乗車するときに乗員がかぶるヘルメットとして、帽体の上部に段差を形成したものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−20121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した軽作業においても、組み立て作業時の部品やネジ等の落下物や組み立て中の自動車の下に入って組み立て作業をしているときに自動車の突起部に上方を向いている作業者の頭部が干渉したり、その他の障害物が作業者の頭部に干渉するおそれがあり、布の帽子では、前記干渉に対する衝撃を十分に吸収しきれないおそれがあるという問題がある。
【0005】
そこで、労働用の検定帽(たとえば、クレーンやフォークリフトを操作するときに着用が義務付けられているヘルメット)を、布の帽子に代えて着用することが考えられる。
【0006】
しかし、労働用の検定帽は布の帽子に比べて重いので、クレーン操作等に比べ一般的に上方を向いたり下方を向いたりを繰り返すことが多い作業が必要とされる軽作業においては、作業者の肩凝りが発生する等の弊害が発生するおそれがある。
【0007】
また、前記特許文献1に記載されているヘルメットでは、ヘルメットの前端縁から後方に向かって加わる衝突事故の衝撃に関しては、十分な衝撃吸収能力を備えているが、軽作業においては、帽体の上部から下方に向かう衝撃力や、見上げる状態(上方を向いた状態)での作業に伴う帽体の斜め前上部から斜め後方に向かう衝撃力が加わる事態が多く発生し、このような方向の衝撃力を十分に吸収することは、前記特許文献1に記載されているヘルメットでは困難である。また、前記特許文献1に記載されているヘルメットでは、労働用の検定帽と同様に、布の帽子に比べて重くなっている。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、軽量であると共に、上部から下方に向かって加わる衝撃を確実に吸収することができる軽作業用帽子の帽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、椀状に形成された軽作業用帽子の帽体において、前記帽体の高さ方向の中間部に設けられた第1の段差と、前記帽体の頂上部およびこの近傍が前記帽体の外面で凸になるように設けられた第2の段差とを有する軽作業用帽子の帽体である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の軽作業用帽子の帽体において、前記第1の段差は、帽体全体の形状よりも凹んだ細長い凹部で形成されている軽作業用帽子の帽体である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の軽作業用帽子の帽体において、前記帽体の縁部近傍の両側面で前記帽体の外面に設けられた凸部を有する軽作業用帽子の帽体である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の軽作業用帽子の帽体において、前記第1の段差の近傍であって前記第1の段差の上側には、貫通孔が設けられている軽作業用帽子の帽体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軽量であると共に、上部から下方に向かって加わる衝撃を確実に吸収することができる軽作業用帽子の帽体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る軽作業用帽子の帽体1の構成を示す斜視図であり、図2は、図1におけるII矢視図であり帽体1の正面図である。
【0015】
図3は、図1におけるIII矢視図であり帽体1の背面図であり、図4は、図1におけるIV矢視図であり帽体1の側面図である。
【0016】
図5は、図1におけるV矢視図であり帽体1の平面図であり、図6は、図1におけるVI矢視図であり帽体1の底面図である。
【0017】
図7は、図2におけるVII−VII断面図であり、図8は、図4におけるVIII−VIII断面図である。
【0018】
図9は、図7や図8に示す所定の部位の拡大図である。図9(a)は、図7に示すIXA部の拡大図であり、図9(b)は、図8に示すIXB部の拡大図であり、図9(c)は、図7に示すIXC部の拡大図である。
【0019】
図10は、帽体1に内装体5が設置された軽作業用帽子(ヘルメット)3の概略構成を示す断面図である。
【0020】
帽体1は、労働用の検定帽ではなく、自動車の組み立て作業や工場内の軽作業において布の帽子の代りに使用される帽子(軽作業用帽子)3の帽体として使用されるものであり、内部に内装体5が設置された状態で軽作業用帽子3として使用される(図10参照)。すなわち、内装体5を介して作業者Pの頭部に設置されるものである。
【0021】
また、帽体1は、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、ポリカーボネート等の合成樹脂で椀状に形成されていると共に、中心面(帽体1の頂上(頭頂)や中心を通り帽体1の前後上下に延びる平面)に対して左右対称に形成されている。
【0022】
また、帽体1には、第1の段差(下側の段差;第1のリブ)7と第2の段差(上側の段差;第2のリブ)9とが設けられている。
【0023】
第1の段差(段差部)7は、帽体1の高さ方向の中間部で帽体1の外面11と内面13とに設けられている。また、第1の段差7は、たとえば、帽体1の一側側(いっそくがわ)から後側をまわって他側側(たそくがわ)へ延びて「U」字状(図5に示すように平面視において「U」字状)に形成されており、帽体1の後方に向かうにしたがって、帽体1の上部側に向かうように延びている(図4参照)。
【0024】
第1の段差7についてより詳しく説明すると、第1の段差7は、帽体1の全体の円弧状の形状(より精確には球殻状のものの一部を用いた形状)よりも凹んだ細長い凹部で形成されて、段差状になっている。第1の段差7の凹部は、図9(a)に示した二点鎖線(帽体1の全体の形状)よりも、帽体1の内側に凹んで形成されている。なお、前記凹部の断面形状(凹部の延伸方向に対して直交した平面による断面形状)は、凹部の最深部に位置している頂角が鈍角である二等辺三角形状になっている。また、前記凹部であっても、前記凹部以外の箇所であっても、帽体1の肉厚はほぼ等しくなっている。このように形成されているので、帽体1の頂上部から下方向かう衝撃力が帽体1に加えられたときに発生するモーメントM1に対する剛性(特に下側部位17の剛性)が高くなっている。
【0025】
なお、第1の段差7によって、たとえば、帽体1の上側(頂上側)部位15が、下側(縁側)部位17に比べ帽体1の外面11で凸になっていてもよい。
【0026】
また、第1の段差7の段差の角度は、鈍角α1、α3になっている(図9(a)参照)。このように鈍角になっているので帽体1の成型が容易になっていると共に、帽体1に荷重が加わった際に発生する応力の集中を回避することができる。
【0027】
第2の段差(段差部)9は、帽体1の頂上部およびこの近傍が帽体1の外面11で凸になるように(帽体1の内面13で凹になるように)して、帽体1の前後方向の延びて設けられている。
【0028】
また、第2の段差9は、帽体1の一側側(いっそくがわ)と、他側側(たそくがわ)とに設けられている。帽体1の左側に設けられている段差を段差9Aとし、右側に設けられている段差を段差9Bとする。
【0029】
第2の段差9(各段差9A、9B)の高さh(図4参照)は、帽体1の前から頂上に向かうにしたがって大きくなり(最大の場合で5mm程度)、帽体1の後から頂上に向かうにしたがって大きくなり、頂上部の近傍で最も大きくなっている。また、第2の段差9の幅(帽体1の左右方向における左側の段差9Aと右側の段差9Bとの間隔W;図5参照)は、帽体1の前から後に向かうにしたがって徐々に大きくなっている。さらに、第2の段差9の角度は、前述した第1の段差7の場合と同様に、鈍角β1、β3になっている(図9(b)参照)。
【0030】
帽体1の下部の縁部近傍における両側面には、帽体1の外面に凸になっている凸部19(帽体1の内面は凹になっている)が設けられている(図2、図3、図4参照)が設けられている。さらに、帽体1の縁部の全周には、玉縁21が形成されている(図7、図9参照)。
【0031】
また、帽体1には、帽体1の外と内との間を貫通する貫通孔23、25が設けられている。貫通孔23、25は、第1の段差7の近傍であって第1の段差7の上側(頂上側)に設けられている。貫通孔23は、帽体1の両側部に複数設けられて第1群の貫通孔(第1の段差7に沿って前側から後方に一列に並んでいる平行四辺形状の貫通孔)を形成しており、貫通孔25は、帽体1の後部に複数設けられている第2群の貫通孔(下側が広がっている等脚台形状の貫通孔;左右方向と上下方向に並んでいる貫通孔)を形成している。
【0032】
さらに、帽体1は、頂上(上側)から縁(下側)に向かうにしたがって肉厚が厚くなっている。具体的には、第2の段差9と第1の段差7のところで、肉厚が徐々に厚くなっている。また、第1の段差7から縁に向うにしたがって、肉厚が徐々に厚くなっている。
【0033】
ここで、第1の段差7、各貫通孔23、25についてより詳しく説明する。
【0034】
第1の段差7は、この段差の大きさが1〜3mm程度であり、帽体1を側面から見たときには、ほぼ直線状に見えるようになっている(図4参照)。また、第1の段差7は、帽体1を後方から見たときには、楕円の円弧状もしくは円弧状(帽体1の幅方向の中央部に近づくにしたがって曲率半径が大きくなる形状)に形成されている(図3参照)。したがって、帽体1を後方から見ると、第1の段差7は、帽体1の幅方向の中央部の付近では、直線状に見える。
【0035】
さらに、第1の段差7の前側(帽体1における前側)の各端部(左右の各端部)は、帽体1の上下方向では、帽体1の高さHAの1/4程度のところに位置しており(図4の寸法H1参照)、第1の段差7の前側の各端部(左右の各端部)間の距離(帽体1の左右方向での距離)は、帽体1の全幅BAの2/3程度(図5の寸法B1参照)のところに位置している。また、第1の段差7後側の最も高い部位(帽体1の最も後方に位置している部位)の高さH2は、帽体1の高さHAの2/3程度になっている(図4参照)。
【0036】
貫通孔23は、図4に示すように、ほぼ平行四辺形状に形成されている。なお、応力集中を避けるために角部が円弧状になっている。貫通孔23の大きさは、この一辺が、帽体1の高さHAの1/30〜1/10程度であり、帽体1の大きさに比べて充分に小さくなっている。
【0037】
貫通孔23は、たとえば7個(片側の個数)等の複数設けられている。そして、第1の段差7の上方で第1の段差7から僅かに離れたところに、第1の段差7に沿うようにして設けられている。また、各貫通孔23の下側の辺23Aが、第1の段差7とほぼ平行になっており、辺23Aと第1の段差7との間の距離は、辺23Aの長さとほぼ等しいか、または、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。また、各貫通孔23の間の距離(各貫通孔23が形成されていない帽体1の肉部の幅LB)も、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。さらに、各貫通孔23は、第1の段差7の前側端部から、帽体1の前後方向のほぼ中央部にわたって設けられている。
【0038】
貫通孔25は、図3に示すように、ほぼ等脚台形状に形成されている。なお、応力集中を避けるために、貫通孔23の場合と同様に角部が円弧状になっている。等脚台形状の貫通孔25の高さは、貫通孔23の1辺の長さ23Aとほぼ等しいか、または、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。等脚台形状の貫通孔25の下底の長さは、辺23Aの長さの2倍から4倍程度になっている。
【0039】
貫通孔25は、複数行複数列でたとえば9個設けられている。最も下側に位置している3つの貫通孔(最下行の各貫通孔)25は、第1の段差7の上方で第1の段差7から僅かに離れたところに、第1の段差7に沿うようにして設けられている。そして、最下行の各貫通孔25の下底が、第1の段差7とほぼ平行になっており、各貫通孔25の下底と第1の段差7との間の距離は、貫通孔25の高さとほぼ等しいか、または、貫通孔25の高さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。また、最下行の各貫通孔25の間の距離(帽体1の幅方向における距離)も、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。さらに、最下行の各貫通孔25は、帽体1の後方で左右対称に配置されている。最下行の各貫通孔25の上方には、他の行を構成する各貫通孔25が設けられているが、各貫通孔25は、上方の行のものほど下底や上底の大きさが小さくなっている。
【0040】
ここで、衝撃力を加えたときにおける帽体1の変形状態について説明する。
【0041】
図11〜図13は、帽体1に衝撃力を加えたときにおける帽体1の変形状態を示す図である。
【0042】
ここで、図11(a)は比較的小さな衝撃力が帽体1のほぼ真上からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図であり、図11(b)は、図11(a)の正面図である。
【0043】
図12(a)は比較的大きな衝撃力が帽体1のほぼ真上からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図であり、図12(b)は、図12(a)の正面図である。
【0044】
図13(a)は、比較的小さな衝撃力が帽体1の斜め上方からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図であり、図13(b)は、比較的大きな衝撃力が帽体1の斜め上方からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図である。
【0045】
図11〜図13から理解できるように、比較的小さい衝撃力では、第2の段差9よりも上側で帽体1が変形し、比較的大きな衝撃力では、第1の段差7よりも上側で帽体1が変形している。
【0046】
図14は、従来の帽体(ヘルメット)と帽体1(ヘルメット3)との衝撃力を比較した図である。
【0047】
なお、衝撃力は、図10に示すように、人Pの模型の頭部に、内装体5を備えた帽体1(ヘルメット3)をかぶせて、ストライカS(たとえば、図11参照のような「JIS T 8131−2000」にある半球形ストライカ)を所定の高さから落下させ、このときに、模型の下部と床面GLとの間に設置されたロードセル(図示せず)で荷重を検出して求められる。
【0048】
図14の横軸は、ストライカ(質量5kg)Sの落下高さを示し、図14の縦軸は、前記ロードセルの測定値を示している。
【0049】
図14のグラフG1は、ヘルメット3(帽体1)の測定値を示し、グラフG3は、本願の第1の段差7、第2の段差9、凸部19のない出願人の従来品(型名;SCL−200)の測定値を示している。図14から理解されるように、ヘルメット3(帽体1)のほうが、衝撃力を軽減することができる。
【0050】
図15の各グラフGA、GB、GCは、図11、図12のようにヘルメット(帽体)の真上からストライカS2(たとえば、図11参照のような「JIS T 8131−2000」にある平面形ストライカ)で静荷重を加えたときにおける帽体の変形量(変位)と静荷重の大きさとの関係を示すグラフである。
【0051】
グラフGAは、各段差7、9、各貫通孔23、25が形成されていない帽体のものであり、グラフGBは、各段差7、9は形成されているが、各貫通孔23、25が形成されていない帽体のものであり、グラフGCは、各段差7、9と各貫通孔23、25とが形成されている帽体のものである。各グラフGA、GB、GCから明らかなように、各段差7、9と各貫通孔23、25とが形成されている帽体が、静荷重に対する変位が最も大きくなっている(グラフが右側にシフトしている)。したがって衝撃力を吸収しやすくなっている。
【0052】
より詳しくいえば、静荷重を増加させて変位量が大きくなっていくと、変位量18mm未満はグラフGAに比べてグラフGB、GCの傾斜が緩やかとなっているとともに同荷重量でも変位量が大きくなっている。このことから、グラフGB、GCの帽体の方が衝撃力が吸収しやすくなっているといえる。なお、これは段差9の変形による作用である。
【0053】
また、変位量18〜22mmの範囲では、グラフGAが右下がりに荷重値が下がっているが、グラフGB、GCでは、ほぼ垂直に荷重値が低下した後に約450N程度で荷重値が安定している。これは、段差9部が荷重を支えきれなくなり帽体が変形を始めても次に設けられている前述形状の段差7が荷重を受け止めているためである。このため荷重が300N未満に急激に低下してしまうグラフGAに比べ、グラフGA、GBは約1.5倍の荷重を示すこととなる。これは、初期段階の衝撃には衝撃吸収力を大きくして作業者Pへの衝撃を抑え、より大きな荷重が加わった場合はそれに耐えて帽体1と作業者Pの頭部との接触を防ぐことができるようになる。
【0054】
更に、本発明では作業者Pの頭頂部と帽体1の間隔は34mmで設計しているが、この変位領事の荷重は、グラフGAが約370Nに対して、グラフGBが約650N、グラフGCが約610Nと2倍近い耐荷重を示している事が分かる。これは、GAに比べて倍近い荷重がかからない限り作業者Pの頭部と帽体1が接触しないこととなり、作業者Pの頭部を保護する上で重要なことである。
【0055】
ヘルメット3(帽体1)によれば、高さ方向の中間部に設けられた第1の段差7と、帽体1の頂上部の近くに設けられた第2の段差9とを備えているので、各段差7、9が補強リブの役目を果たし、重量を増加させることなく(軽量化しつつ)帽体1の剛性を向上させることができる。すなわち、ヘルメット3は、布の帽子よりは若干重くはなっているが、労働用の検定帽に比べて十分に軽く構成することができ、軽作業における作業者の違和感の発生を防止することができ、作業の能率低下を防止することができる。
【0056】
また、帽体1によれば、帽体1の高さ方向の中間部と帽体1の頂上部とに段差が設けられているので、各段差7、9を境にして、図11〜図12に示すように、帽体1の上部から下方に向かって加わる衝撃を確実に吸収することができる。
【0057】
また、帽体1によれば、第1の段差7が、帽体1の一側側(いっそくがわ)から後側をまわって他側側(たそくがわ)へ延びて「U」字状に形成されており、帽体1の後方に向かうにしたがって帽体1の上部側に向かうように延びており、第2の段差9の幅(帽体の左右方向における右側の段差と左側の段差との間隔)Wが、帽体1の前から後に向かうにしたがって徐々に大きくなっている。したがって、図13に示すように、帽体1の斜め前上部から斜め後方に向かう衝撃力が加わった場合であっても、このような方向の衝撃力を十分に吸収することができる。
【0058】
さらに、比較的小さい衝撃であれば、図11や図13(a)に示すように、第2の段差9を境にして第2の段差9よりも上部のみが変形するようになっている。この小さい変形であれば、容易に修復可能であると共に、帽体1の強度はほとんど低下しないので、ヘルメット3を即座に再使用することができる。
【0059】
一方、比較的大きな衝撃であれば、図12や図13(b)に示すように、第1の段差7を境にして第1の段差7よりも上部が変形するようになっている。この様な大きな変形をした場合には、衝撃により帽体1の強度が低下したおそれが大きいので、帽体1を廃棄する目安になる。
【0060】
また、帽体1によれば、第2の段差9A、9Bが、帽体1の前から頂上に向かうにしたがって大きくなり、帽体1の後から頂上に向かうにしたがって大きくなり、帽体1の頂上部の近傍で最も大きくなっているので、帽体1の上部からの小さな衝撃力を吸収する場合、帽体1の頂上部およびこの近傍の部位が一層変形しやすくなっており、上方からの小さな衝撃力を一層確実に吸収することができる。
【0061】
また、帽体1によれば、帽体1の下部に存在する縁部の近傍の両側面の外面に凸部19を設けてあるので、帽体1の下部の剛性(特に帽体1の前後方向の剛性)が向上している。また、側面の凸部19の内側には凹部(ポケット)が形成されるので、この凹部にリブを設け、帽体1の剛性を一層向上させることができる。
【0062】
さらに、帽体1によれば、帽体1の縁部の全周に玉縁21が形成されているので、帽体1の縁部における剛性が向上している。
【0063】
また、帽体1によれば、貫通孔23、25が設けられているので、第1の段差7まわりにおける帽体1の剛性を適宜の大きさに調整することがきると共に、帽体1内の通気性を向上させることができる。
【0064】
なお、本発明は軽作業用帽子だけに限定されるものではなく、検定帽などにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る軽作業用帽子の帽体の構成を示す斜視図である。
【図2】図1におけるII矢視図であり帽体1の正面図である。
【図3】図1におけるIII矢視図であり帽体1の背面図である。
【図4】図1におけるIV矢視図であり帽体1の側面図である。
【図5】図1におけるV矢視図であり帽体1の平面図である。
【図6】図1におけるVI矢視図であり帽体1の底面図である。
【図7】図2におけるVII−VII断面図である。
【図8】図4におけるVIII−VIII断面図である。
【図9】図7や図8に示す所定の部位の拡大図である。
【図10】帽体に内装体が設置された軽作業用帽子の概略構成を示す断面図である。
【図11】帽体に衝撃力を加えたときにおける帽体の変形状態を示す図である。
【図12】帽体に衝撃力を加えたときにおける帽体の変形状態を示す図である。
【図13】帽体に衝撃力を加えたときにおける帽体の変形状態を示す図である。
【図14】従来の帽体と本発明の実施形態に係る帽体との衝撃力を比較した図である。
【図15】従来の帽体、本発明の実施形態に係る帽体と同様な帽体で貫通孔が設けられていない帽体、本発明の実施形態に係る帽体の各帽体に静荷重をかけたときに、帽体に生じる変形量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1 帽体
3 ヘルメット
7 第1の段差
9 第2の段差
11 外面
19 凸部
21 玉縁
23、25 貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽作業用帽子の帽体に係り、特に、労働用の検定帽ではなく、自動車の組み立て作業や工場内の比較的軽作業で布の帽子の代りに使用される帽子の帽体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、労働安全衛生法での保護帽規格品(検定帽)ではなく、自動車の組み立て作業や工場内の軽作業で使用される帽子として布の帽子(布性の帽子)が使用されている。布の帽子であれば、軽量であるので作業者は違和感なく着用することができ、作業に支障(たとえば重い帽子をかぶったことによる首筋の疲労感)が発生することを防ぐことができる。
【0003】
また、自動二輪や原動機付自転車等の車両に乗車するときに乗員がかぶるヘルメットとして、帽体の上部に段差を形成したものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−20121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した軽作業においても、組み立て作業時の部品やネジ等の落下物や組み立て中の自動車の下に入って組み立て作業をしているときに自動車の突起部に上方を向いている作業者の頭部が干渉したり、その他の障害物が作業者の頭部に干渉するおそれがあり、布の帽子では、前記干渉に対する衝撃を十分に吸収しきれないおそれがあるという問題がある。
【0005】
そこで、労働用の検定帽(たとえば、クレーンやフォークリフトを操作するときに着用が義務付けられているヘルメット)を、布の帽子に代えて着用することが考えられる。
【0006】
しかし、労働用の検定帽は布の帽子に比べて重いので、クレーン操作等に比べ一般的に上方を向いたり下方を向いたりを繰り返すことが多い作業が必要とされる軽作業においては、作業者の肩凝りが発生する等の弊害が発生するおそれがある。
【0007】
また、前記特許文献1に記載されているヘルメットでは、ヘルメットの前端縁から後方に向かって加わる衝突事故の衝撃に関しては、十分な衝撃吸収能力を備えているが、軽作業においては、帽体の上部から下方に向かう衝撃力や、見上げる状態(上方を向いた状態)での作業に伴う帽体の斜め前上部から斜め後方に向かう衝撃力が加わる事態が多く発生し、このような方向の衝撃力を十分に吸収することは、前記特許文献1に記載されているヘルメットでは困難である。また、前記特許文献1に記載されているヘルメットでは、労働用の検定帽と同様に、布の帽子に比べて重くなっている。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、軽量であると共に、上部から下方に向かって加わる衝撃を確実に吸収することができる軽作業用帽子の帽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、椀状に形成された軽作業用帽子の帽体において、前記帽体の高さ方向の中間部に設けられた第1の段差と、前記帽体の頂上部およびこの近傍が前記帽体の外面で凸になるように設けられた第2の段差とを有する軽作業用帽子の帽体である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の軽作業用帽子の帽体において、前記第1の段差は、帽体全体の形状よりも凹んだ細長い凹部で形成されている軽作業用帽子の帽体である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の軽作業用帽子の帽体において、前記帽体の縁部近傍の両側面で前記帽体の外面に設けられた凸部を有する軽作業用帽子の帽体である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の軽作業用帽子の帽体において、前記第1の段差の近傍であって前記第1の段差の上側には、貫通孔が設けられている軽作業用帽子の帽体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軽量であると共に、上部から下方に向かって加わる衝撃を確実に吸収することができる軽作業用帽子の帽体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る軽作業用帽子の帽体1の構成を示す斜視図であり、図2は、図1におけるII矢視図であり帽体1の正面図である。
【0015】
図3は、図1におけるIII矢視図であり帽体1の背面図であり、図4は、図1におけるIV矢視図であり帽体1の側面図である。
【0016】
図5は、図1におけるV矢視図であり帽体1の平面図であり、図6は、図1におけるVI矢視図であり帽体1の底面図である。
【0017】
図7は、図2におけるVII−VII断面図であり、図8は、図4におけるVIII−VIII断面図である。
【0018】
図9は、図7や図8に示す所定の部位の拡大図である。図9(a)は、図7に示すIXA部の拡大図であり、図9(b)は、図8に示すIXB部の拡大図であり、図9(c)は、図7に示すIXC部の拡大図である。
【0019】
図10は、帽体1に内装体5が設置された軽作業用帽子(ヘルメット)3の概略構成を示す断面図である。
【0020】
帽体1は、労働用の検定帽ではなく、自動車の組み立て作業や工場内の軽作業において布の帽子の代りに使用される帽子(軽作業用帽子)3の帽体として使用されるものであり、内部に内装体5が設置された状態で軽作業用帽子3として使用される(図10参照)。すなわち、内装体5を介して作業者Pの頭部に設置されるものである。
【0021】
また、帽体1は、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、ポリカーボネート等の合成樹脂で椀状に形成されていると共に、中心面(帽体1の頂上(頭頂)や中心を通り帽体1の前後上下に延びる平面)に対して左右対称に形成されている。
【0022】
また、帽体1には、第1の段差(下側の段差;第1のリブ)7と第2の段差(上側の段差;第2のリブ)9とが設けられている。
【0023】
第1の段差(段差部)7は、帽体1の高さ方向の中間部で帽体1の外面11と内面13とに設けられている。また、第1の段差7は、たとえば、帽体1の一側側(いっそくがわ)から後側をまわって他側側(たそくがわ)へ延びて「U」字状(図5に示すように平面視において「U」字状)に形成されており、帽体1の後方に向かうにしたがって、帽体1の上部側に向かうように延びている(図4参照)。
【0024】
第1の段差7についてより詳しく説明すると、第1の段差7は、帽体1の全体の円弧状の形状(より精確には球殻状のものの一部を用いた形状)よりも凹んだ細長い凹部で形成されて、段差状になっている。第1の段差7の凹部は、図9(a)に示した二点鎖線(帽体1の全体の形状)よりも、帽体1の内側に凹んで形成されている。なお、前記凹部の断面形状(凹部の延伸方向に対して直交した平面による断面形状)は、凹部の最深部に位置している頂角が鈍角である二等辺三角形状になっている。また、前記凹部であっても、前記凹部以外の箇所であっても、帽体1の肉厚はほぼ等しくなっている。このように形成されているので、帽体1の頂上部から下方向かう衝撃力が帽体1に加えられたときに発生するモーメントM1に対する剛性(特に下側部位17の剛性)が高くなっている。
【0025】
なお、第1の段差7によって、たとえば、帽体1の上側(頂上側)部位15が、下側(縁側)部位17に比べ帽体1の外面11で凸になっていてもよい。
【0026】
また、第1の段差7の段差の角度は、鈍角α1、α3になっている(図9(a)参照)。このように鈍角になっているので帽体1の成型が容易になっていると共に、帽体1に荷重が加わった際に発生する応力の集中を回避することができる。
【0027】
第2の段差(段差部)9は、帽体1の頂上部およびこの近傍が帽体1の外面11で凸になるように(帽体1の内面13で凹になるように)して、帽体1の前後方向の延びて設けられている。
【0028】
また、第2の段差9は、帽体1の一側側(いっそくがわ)と、他側側(たそくがわ)とに設けられている。帽体1の左側に設けられている段差を段差9Aとし、右側に設けられている段差を段差9Bとする。
【0029】
第2の段差9(各段差9A、9B)の高さh(図4参照)は、帽体1の前から頂上に向かうにしたがって大きくなり(最大の場合で5mm程度)、帽体1の後から頂上に向かうにしたがって大きくなり、頂上部の近傍で最も大きくなっている。また、第2の段差9の幅(帽体1の左右方向における左側の段差9Aと右側の段差9Bとの間隔W;図5参照)は、帽体1の前から後に向かうにしたがって徐々に大きくなっている。さらに、第2の段差9の角度は、前述した第1の段差7の場合と同様に、鈍角β1、β3になっている(図9(b)参照)。
【0030】
帽体1の下部の縁部近傍における両側面には、帽体1の外面に凸になっている凸部19(帽体1の内面は凹になっている)が設けられている(図2、図3、図4参照)が設けられている。さらに、帽体1の縁部の全周には、玉縁21が形成されている(図7、図9参照)。
【0031】
また、帽体1には、帽体1の外と内との間を貫通する貫通孔23、25が設けられている。貫通孔23、25は、第1の段差7の近傍であって第1の段差7の上側(頂上側)に設けられている。貫通孔23は、帽体1の両側部に複数設けられて第1群の貫通孔(第1の段差7に沿って前側から後方に一列に並んでいる平行四辺形状の貫通孔)を形成しており、貫通孔25は、帽体1の後部に複数設けられている第2群の貫通孔(下側が広がっている等脚台形状の貫通孔;左右方向と上下方向に並んでいる貫通孔)を形成している。
【0032】
さらに、帽体1は、頂上(上側)から縁(下側)に向かうにしたがって肉厚が厚くなっている。具体的には、第2の段差9と第1の段差7のところで、肉厚が徐々に厚くなっている。また、第1の段差7から縁に向うにしたがって、肉厚が徐々に厚くなっている。
【0033】
ここで、第1の段差7、各貫通孔23、25についてより詳しく説明する。
【0034】
第1の段差7は、この段差の大きさが1〜3mm程度であり、帽体1を側面から見たときには、ほぼ直線状に見えるようになっている(図4参照)。また、第1の段差7は、帽体1を後方から見たときには、楕円の円弧状もしくは円弧状(帽体1の幅方向の中央部に近づくにしたがって曲率半径が大きくなる形状)に形成されている(図3参照)。したがって、帽体1を後方から見ると、第1の段差7は、帽体1の幅方向の中央部の付近では、直線状に見える。
【0035】
さらに、第1の段差7の前側(帽体1における前側)の各端部(左右の各端部)は、帽体1の上下方向では、帽体1の高さHAの1/4程度のところに位置しており(図4の寸法H1参照)、第1の段差7の前側の各端部(左右の各端部)間の距離(帽体1の左右方向での距離)は、帽体1の全幅BAの2/3程度(図5の寸法B1参照)のところに位置している。また、第1の段差7後側の最も高い部位(帽体1の最も後方に位置している部位)の高さH2は、帽体1の高さHAの2/3程度になっている(図4参照)。
【0036】
貫通孔23は、図4に示すように、ほぼ平行四辺形状に形成されている。なお、応力集中を避けるために角部が円弧状になっている。貫通孔23の大きさは、この一辺が、帽体1の高さHAの1/30〜1/10程度であり、帽体1の大きさに比べて充分に小さくなっている。
【0037】
貫通孔23は、たとえば7個(片側の個数)等の複数設けられている。そして、第1の段差7の上方で第1の段差7から僅かに離れたところに、第1の段差7に沿うようにして設けられている。また、各貫通孔23の下側の辺23Aが、第1の段差7とほぼ平行になっており、辺23Aと第1の段差7との間の距離は、辺23Aの長さとほぼ等しいか、または、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。また、各貫通孔23の間の距離(各貫通孔23が形成されていない帽体1の肉部の幅LB)も、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。さらに、各貫通孔23は、第1の段差7の前側端部から、帽体1の前後方向のほぼ中央部にわたって設けられている。
【0038】
貫通孔25は、図3に示すように、ほぼ等脚台形状に形成されている。なお、応力集中を避けるために、貫通孔23の場合と同様に角部が円弧状になっている。等脚台形状の貫通孔25の高さは、貫通孔23の1辺の長さ23Aとほぼ等しいか、または、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。等脚台形状の貫通孔25の下底の長さは、辺23Aの長さの2倍から4倍程度になっている。
【0039】
貫通孔25は、複数行複数列でたとえば9個設けられている。最も下側に位置している3つの貫通孔(最下行の各貫通孔)25は、第1の段差7の上方で第1の段差7から僅かに離れたところに、第1の段差7に沿うようにして設けられている。そして、最下行の各貫通孔25の下底が、第1の段差7とほぼ平行になっており、各貫通孔25の下底と第1の段差7との間の距離は、貫通孔25の高さとほぼ等しいか、または、貫通孔25の高さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。また、最下行の各貫通孔25の間の距離(帽体1の幅方向における距離)も、辺23Aの長さよりもわずかに小さいかもしくは大きくなっている。さらに、最下行の各貫通孔25は、帽体1の後方で左右対称に配置されている。最下行の各貫通孔25の上方には、他の行を構成する各貫通孔25が設けられているが、各貫通孔25は、上方の行のものほど下底や上底の大きさが小さくなっている。
【0040】
ここで、衝撃力を加えたときにおける帽体1の変形状態について説明する。
【0041】
図11〜図13は、帽体1に衝撃力を加えたときにおける帽体1の変形状態を示す図である。
【0042】
ここで、図11(a)は比較的小さな衝撃力が帽体1のほぼ真上からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図であり、図11(b)は、図11(a)の正面図である。
【0043】
図12(a)は比較的大きな衝撃力が帽体1のほぼ真上からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図であり、図12(b)は、図12(a)の正面図である。
【0044】
図13(a)は、比較的小さな衝撃力が帽体1の斜め上方からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図であり、図13(b)は、比較的大きな衝撃力が帽体1の斜め上方からかかった場合における帽体1の変形状態を示す側面図である。
【0045】
図11〜図13から理解できるように、比較的小さい衝撃力では、第2の段差9よりも上側で帽体1が変形し、比較的大きな衝撃力では、第1の段差7よりも上側で帽体1が変形している。
【0046】
図14は、従来の帽体(ヘルメット)と帽体1(ヘルメット3)との衝撃力を比較した図である。
【0047】
なお、衝撃力は、図10に示すように、人Pの模型の頭部に、内装体5を備えた帽体1(ヘルメット3)をかぶせて、ストライカS(たとえば、図11参照のような「JIS T 8131−2000」にある半球形ストライカ)を所定の高さから落下させ、このときに、模型の下部と床面GLとの間に設置されたロードセル(図示せず)で荷重を検出して求められる。
【0048】
図14の横軸は、ストライカ(質量5kg)Sの落下高さを示し、図14の縦軸は、前記ロードセルの測定値を示している。
【0049】
図14のグラフG1は、ヘルメット3(帽体1)の測定値を示し、グラフG3は、本願の第1の段差7、第2の段差9、凸部19のない出願人の従来品(型名;SCL−200)の測定値を示している。図14から理解されるように、ヘルメット3(帽体1)のほうが、衝撃力を軽減することができる。
【0050】
図15の各グラフGA、GB、GCは、図11、図12のようにヘルメット(帽体)の真上からストライカS2(たとえば、図11参照のような「JIS T 8131−2000」にある平面形ストライカ)で静荷重を加えたときにおける帽体の変形量(変位)と静荷重の大きさとの関係を示すグラフである。
【0051】
グラフGAは、各段差7、9、各貫通孔23、25が形成されていない帽体のものであり、グラフGBは、各段差7、9は形成されているが、各貫通孔23、25が形成されていない帽体のものであり、グラフGCは、各段差7、9と各貫通孔23、25とが形成されている帽体のものである。各グラフGA、GB、GCから明らかなように、各段差7、9と各貫通孔23、25とが形成されている帽体が、静荷重に対する変位が最も大きくなっている(グラフが右側にシフトしている)。したがって衝撃力を吸収しやすくなっている。
【0052】
より詳しくいえば、静荷重を増加させて変位量が大きくなっていくと、変位量18mm未満はグラフGAに比べてグラフGB、GCの傾斜が緩やかとなっているとともに同荷重量でも変位量が大きくなっている。このことから、グラフGB、GCの帽体の方が衝撃力が吸収しやすくなっているといえる。なお、これは段差9の変形による作用である。
【0053】
また、変位量18〜22mmの範囲では、グラフGAが右下がりに荷重値が下がっているが、グラフGB、GCでは、ほぼ垂直に荷重値が低下した後に約450N程度で荷重値が安定している。これは、段差9部が荷重を支えきれなくなり帽体が変形を始めても次に設けられている前述形状の段差7が荷重を受け止めているためである。このため荷重が300N未満に急激に低下してしまうグラフGAに比べ、グラフGA、GBは約1.5倍の荷重を示すこととなる。これは、初期段階の衝撃には衝撃吸収力を大きくして作業者Pへの衝撃を抑え、より大きな荷重が加わった場合はそれに耐えて帽体1と作業者Pの頭部との接触を防ぐことができるようになる。
【0054】
更に、本発明では作業者Pの頭頂部と帽体1の間隔は34mmで設計しているが、この変位領事の荷重は、グラフGAが約370Nに対して、グラフGBが約650N、グラフGCが約610Nと2倍近い耐荷重を示している事が分かる。これは、GAに比べて倍近い荷重がかからない限り作業者Pの頭部と帽体1が接触しないこととなり、作業者Pの頭部を保護する上で重要なことである。
【0055】
ヘルメット3(帽体1)によれば、高さ方向の中間部に設けられた第1の段差7と、帽体1の頂上部の近くに設けられた第2の段差9とを備えているので、各段差7、9が補強リブの役目を果たし、重量を増加させることなく(軽量化しつつ)帽体1の剛性を向上させることができる。すなわち、ヘルメット3は、布の帽子よりは若干重くはなっているが、労働用の検定帽に比べて十分に軽く構成することができ、軽作業における作業者の違和感の発生を防止することができ、作業の能率低下を防止することができる。
【0056】
また、帽体1によれば、帽体1の高さ方向の中間部と帽体1の頂上部とに段差が設けられているので、各段差7、9を境にして、図11〜図12に示すように、帽体1の上部から下方に向かって加わる衝撃を確実に吸収することができる。
【0057】
また、帽体1によれば、第1の段差7が、帽体1の一側側(いっそくがわ)から後側をまわって他側側(たそくがわ)へ延びて「U」字状に形成されており、帽体1の後方に向かうにしたがって帽体1の上部側に向かうように延びており、第2の段差9の幅(帽体の左右方向における右側の段差と左側の段差との間隔)Wが、帽体1の前から後に向かうにしたがって徐々に大きくなっている。したがって、図13に示すように、帽体1の斜め前上部から斜め後方に向かう衝撃力が加わった場合であっても、このような方向の衝撃力を十分に吸収することができる。
【0058】
さらに、比較的小さい衝撃であれば、図11や図13(a)に示すように、第2の段差9を境にして第2の段差9よりも上部のみが変形するようになっている。この小さい変形であれば、容易に修復可能であると共に、帽体1の強度はほとんど低下しないので、ヘルメット3を即座に再使用することができる。
【0059】
一方、比較的大きな衝撃であれば、図12や図13(b)に示すように、第1の段差7を境にして第1の段差7よりも上部が変形するようになっている。この様な大きな変形をした場合には、衝撃により帽体1の強度が低下したおそれが大きいので、帽体1を廃棄する目安になる。
【0060】
また、帽体1によれば、第2の段差9A、9Bが、帽体1の前から頂上に向かうにしたがって大きくなり、帽体1の後から頂上に向かうにしたがって大きくなり、帽体1の頂上部の近傍で最も大きくなっているので、帽体1の上部からの小さな衝撃力を吸収する場合、帽体1の頂上部およびこの近傍の部位が一層変形しやすくなっており、上方からの小さな衝撃力を一層確実に吸収することができる。
【0061】
また、帽体1によれば、帽体1の下部に存在する縁部の近傍の両側面の外面に凸部19を設けてあるので、帽体1の下部の剛性(特に帽体1の前後方向の剛性)が向上している。また、側面の凸部19の内側には凹部(ポケット)が形成されるので、この凹部にリブを設け、帽体1の剛性を一層向上させることができる。
【0062】
さらに、帽体1によれば、帽体1の縁部の全周に玉縁21が形成されているので、帽体1の縁部における剛性が向上している。
【0063】
また、帽体1によれば、貫通孔23、25が設けられているので、第1の段差7まわりにおける帽体1の剛性を適宜の大きさに調整することがきると共に、帽体1内の通気性を向上させることができる。
【0064】
なお、本発明は軽作業用帽子だけに限定されるものではなく、検定帽などにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る軽作業用帽子の帽体の構成を示す斜視図である。
【図2】図1におけるII矢視図であり帽体1の正面図である。
【図3】図1におけるIII矢視図であり帽体1の背面図である。
【図4】図1におけるIV矢視図であり帽体1の側面図である。
【図5】図1におけるV矢視図であり帽体1の平面図である。
【図6】図1におけるVI矢視図であり帽体1の底面図である。
【図7】図2におけるVII−VII断面図である。
【図8】図4におけるVIII−VIII断面図である。
【図9】図7や図8に示す所定の部位の拡大図である。
【図10】帽体に内装体が設置された軽作業用帽子の概略構成を示す断面図である。
【図11】帽体に衝撃力を加えたときにおける帽体の変形状態を示す図である。
【図12】帽体に衝撃力を加えたときにおける帽体の変形状態を示す図である。
【図13】帽体に衝撃力を加えたときにおける帽体の変形状態を示す図である。
【図14】従来の帽体と本発明の実施形態に係る帽体との衝撃力を比較した図である。
【図15】従来の帽体、本発明の実施形態に係る帽体と同様な帽体で貫通孔が設けられていない帽体、本発明の実施形態に係る帽体の各帽体に静荷重をかけたときに、帽体に生じる変形量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1 帽体
3 ヘルメット
7 第1の段差
9 第2の段差
11 外面
19 凸部
21 玉縁
23、25 貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椀状に形成された軽作業用帽子の帽体において、
前記帽体の高さ方向の中間部に設けられた第1の段差と;
前記帽体の頂上部およびこの近傍が前記帽体の外面で凸になるように設けられた第2の段差と;
を有することを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【請求項2】
請求項1に記載の軽作業用帽子の帽体において、
前記第1の段差は、帽体全体の形状よりも凹んだ細長い凹部で形成されていることを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の軽作業用帽子の帽体において、
前記帽体の縁部近傍の両側面で前記帽体の外面に設けられた凸部を有することを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の軽作業用帽子の帽体において、
前記第1の段差の近傍であって前記第1の段差の上側には、貫通孔が設けられていることを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【請求項1】
椀状に形成された軽作業用帽子の帽体において、
前記帽体の高さ方向の中間部に設けられた第1の段差と;
前記帽体の頂上部およびこの近傍が前記帽体の外面で凸になるように設けられた第2の段差と;
を有することを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【請求項2】
請求項1に記載の軽作業用帽子の帽体において、
前記第1の段差は、帽体全体の形状よりも凹んだ細長い凹部で形成されていることを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の軽作業用帽子の帽体において、
前記帽体の縁部近傍の両側面で前記帽体の外面に設けられた凸部を有することを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の軽作業用帽子の帽体において、
前記第1の段差の近傍であって前記第1の段差の上側には、貫通孔が設けられていることを特徴とする軽作業用帽子の帽体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−174893(P2008−174893A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324857(P2007−324857)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
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