説明

軽水炉の炉心及び制御棒

【課題】熱的余裕をより増大できる原子炉の軸方向非均質炉心を提供する。
【解決手段】パッフェ型炉心は、上部ブランケット領域、上部炉心領域、内部ブランケット領域、下部炉心領域及び下部ブランケット領域を有する。燃料集合体30は、炉心の各領域を構成する上部ブランケット部33、上部燃料部31、内部ブランケット部34、下部燃料部32及び下部ブランケット部35を有する。上部炉心領域、下部炉心領域のPu−239の富化度は18wt%である。制御棒7Aは、フォロア部8、上部領域9A、中央領域10A及び下部領域11Aを有する。制御棒12Aは、フォロア部8、上部領域13A及び下部領域14Aを有する。下部領域のB10濃度は上部領域のその濃度よりも小さく、中央領域のB10濃度は下部領域のその濃度よりも小さい。この構成により、最大線出力密度が低減され、熱的余裕が増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽水炉の炉心及び制御棒に係り、特に、高さ方向において、上から、上部ブランケット領域、上部炉心領域、内部ブランケット領域、下部炉心領域及び下部ブランケット領域を配置した軸方向非均質炉心であるパッフェ型炉心に適用するのに好適な軽水炉の炉心及び制御棒に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、高さ方向において、上から順に配置された、上部ブランケット領域、上部炉心領域、内部ブランケット領域、下部炉心領域及び下部ブランケット領域の5つの領域を含むパッフェ型炉心の概念を説明している。上部炉心領域及び下部炉心領域は、核分裂性物質を含んでいる。パッフェ炉心は、軸方向に5領域が存在する軸方向非均質炉心である。
【0003】
また、特許文献1及び特許文献2は、燃料棒が三角稠密配列された六角形燃料集合体を用いて水対燃料体積比を0.6以下とすることによって、増殖比を1.0近傍または1.0以上とした軽水増殖炉の基本概念を記載している。これらの特許文献は、実施例として、パッフェ型炉心構成を採用した軽水増殖炉の炉心を説明している。この炉心に適用される制御棒についても記載している。この炉心は、上下端部に劣化ウランを含むブランケット領域を有し、高さ方向でそれらのブランケット領域間に核分裂性プルトニウムを含む炉心領域を配置している。この炉心領域は、高さ方向に3つの領域に分けられる。炉心領域は、高さ方向において中央部に核分裂性プルトニウム富化度6wt%未満の第2領域が配置され、第2領域の上方に核分裂性プルトニウム平均富化度6wt%以上の第1領域が配置される。第2領域と下部ブランケット領域の間の炉心領域は、核分裂性プルトニウム富化度6wt%以上の第3領域である。このような炉心に配置される燃料集合体は、横断面が六角形になっている。燃料集合体間に挿入される制御棒は、120度の間隔で配置された3枚の翼を有し、先端部に軽水より減速能が小さいフォロア部を配置している。
【0004】
特許文献3は制御棒を記載している。この制御棒は、炉心に最初に挿入される端部(挿入端部)から、制御棒駆動装置側の端部(引き抜き端部)に向かって中性子吸収材であるボロン10(B10)の濃度を徐々に減少させている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−222694号公報
【特許文献2】特開平8−21890号公報
【特許文献3】特開平10−293188号公報
【非特許文献1】GA DUCAT, et al. : Evaluation of the Parfait blanket Concept For Fast breeder Reactors,COO-2250-5,MITNE-157, Massachusetts Institute of Technology, January (1974)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パッフェ型炉心は、燃料集合体の炉心からの取出時における核分裂性プルトニウム(以下、Pufという)と燃料集合体の炉心への装荷時におけるPufの比で定義されるPuf増殖比を1以上もしくは1に近づけることが可能な炉心である。Puf増殖比1を実現するため、パッフェ型炉心は軸方向における構成が現行BWRとは異なっている。
【0007】
パッフェ型炉心は、軸方向において、上部ブランケット領域、内部ブランケット領域及び下部ブランケット領域を有し、上部ブランケット領域と内部ブランケット領域の間に上部燃料領域を、内部ブランケット領域と下部ブランケット領域との間に下部燃料領域をそれぞれ配置する。パッフェ型炉心は軸方向非均質炉心である。各ブランケット領域に含まれるU−238は、中性子を捕獲してPufであるPu−239を新たに生成する。但し、U−238による中性子捕獲は比較的中性子エネルギーの大きな共鳴領域で顕著であるため、Puf増殖比向上のためには、炉心内の中性子エネルギーを高くする、すなわち中性子スペクトルを硬くする必要がある。中性子スペクトルを硬くするためには、中性子エネルギー低減の主原因である炉心内の軽水を極力減らす必要がある。しかしながら、軽水は減速材であると同時に冷却材であるため、パッフェ型炉心では、除熱性能、すなわち熱的余裕を維持しながら水対燃料実効体積比を低減しなければならない。したがって、パッフェ型炉心では、除熱性能を維持できる範囲で燃料棒間隙を現行BWRよりも小さくし、装荷する全ての燃料集合体の出力を可能な限り一致させ、燃料集合体間の熱的余裕のばらつきを低減することによって定格炉心流量の低減を実現している。
【0008】
発明者らは、そのようなパッフェ型炉心を種々検討した結果、後述するように熱的余裕が減少するという新たな課題を見出した。
【0009】
本発明の目的は、熱的余裕をより増大できる軽水炉の炉心及び制御棒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、軸方向において、上部炉心領域、内部ブランケット領域及び下部炉心領域がこの順に上部から配置され、上部炉心領域及び下部炉心領域が核分裂性プルトニウム、または核分裂性プルトニウム及びアクチノイド核種を含んでいる炉心領域と、炉心領域内に挿入され、中性子吸収材を含む中性子吸収材含有領域を有する複数の原子炉出力調整用の制御棒とを備え、
中性子吸収材含有領域は上部領域及び下部領域を有し、上部領域における中性子吸収材の平均濃度に対する下部領域におけるその平均濃度の比率が、0.26より大きく1.0未満の範囲内にあり、制御棒が炉心領域に全挿入された状態で、上部領域と下部領域を画定する境界が、内部ブランケット領域の上端と内部ブランケット領域の下端との間に位置していることにある。
【0011】
このような本発明は、上部領域における中性子吸収材の平均濃度に対する下部領域におけるその平均濃度の比率が、0.26より大きく1.0未満の範囲内にあり、上部領域と下部領域を画定する境界が、内部ブランケット領域の上端と内部ブランケット領域の下端との間に位置しているため、後述の第1の要点を改善することができる。第1の要点の改善に伴って、軽水炉の炉心の熱的余裕を増大させることができる。
【0012】
好ましくは、中性子吸収材含有領域が、上部領域と下部領域を画定する境界となる中央領域を有し、中央領域の中性子吸収材の平均濃度を下部領域のその平均濃度よりも低くし、中央領域の軸方向の長さを内部ブランケット領域の軸方向の長さよりも短くすることが望ましい。中性子吸収材の平均濃度が下部領域のその平均濃度よりも低く、中央領域の軸方向の長さが内部ブランケット領域の軸方向の長さよりも短くなっている中央領域を、上部領域と下部領域の間に配置しているので、後述の第2の要点を改善することができる。第2の要点の改善に伴って、軽水炉の炉心の熱的余裕を増大させることができる。
【0013】
好ましくは、複数の制御棒は、炉心領域の内側領域に挿入される複数の第1制御棒、及び内側領域を取り囲む、炉心領域の外側領域に挿入される複数の第2制御棒を含んでおり、第2制御棒における中性子吸収材の平均濃度に対する第1制御棒における中性子吸収材のその濃度の比率が、0.47より大きく1.0未満の範囲内にあるとよい。第2制御棒における中性子吸収材の平均濃度に対する第1制御棒における中性子吸収材のその濃度の比率が、0.47より大きく1.0未満の範囲内にあるので、後述の第3の要点を改善することができる。第3の要点の改善に伴って、軽水炉の炉心の熱的余裕を増大させることができる。
【0014】
前述したように発明者らは、軽水炉、例えば、沸騰水型原子炉(BWR)に適用される軸方向非均質炉心であるパッフェ型炉心において、熱的余裕が減少するという新しい課題の存在を見出した。さらに、発明者らは、その熱的余裕の減少をもたらす要因が3つあることを新たに見出した。発明者らが新たに見出した3つの要因を以下に詳細に説明する。
【0015】
第一の要因は、パッフェ型炉心が図7(a)に示すように軸方向非均質炉心であるために、核分裂性物質をほとんど含まない3つのブランケット領域における出力は低く、相対的に、核分裂性物質を含む上部炉心領域1及び下部炉心領域2のそれぞれの領域における出力が増大することである(図6参照)。3つのブランケット領域は、上部ブランケット領域3、内部ブランケット領域4及び下部ブランケット領域5である。パッフェ型炉心の熱的余裕を向上させるには上部炉心領域1及び下部炉心領域2における出力の平坦化が必須となる。しかしながら、パッフェ型炉心は、上部炉心領域1と下部炉心領域2の間に内部ブランケット領域4が存在するため、上部炉心領域1と下部炉心領域2でボイド率が大きく異なる。パッフェ型炉心における軸方向のボイド率分布及び軸方向の出力分布の一例を図6に示す。下部炉心領域2の平均ボイド率が55%程度であるのに対して、上部炉心領域1の平均ボイド率は80%程度となっている。原子炉の出力はボイド率に依存するため、上部炉心領域1と下部炉心領域2のボイド率の相違は、炉心における軸方向の出力分布の歪みの原因となり、熱的余裕が減少する。
【0016】
第二の要因は、制御棒が炉心から引き抜かれることで原子炉の運転サイクル中期において上部炉心領域1の出力が増大する可能性があることである。BWRでは、核燃料物質が燃焼することによって不足する反応度を補償するために、原子炉の運転中に原子炉出力調整用の制御棒を炉心から徐々に引き抜く操作を行う。BWRにおいては、炉心の上方に気水分離器及び蒸気乾燥器等の構造物が設置されるため、制御棒が、原子炉の底部に設置された制御棒駆動装置によって下方に向かって炉心から引き抜かれる。このため、パッフェ型炉心では制御棒の操作法によっては、制御棒が下部炉心領域2内に挿入されているが上部炉心領域1から引き抜かれている状態が、原子炉の運転サイクル中期において発生する可能性がある。このような状態が発生した場合、上部炉心領域1と下部炉心領域2の出力差が増大し、熱的余裕が減少する。原子炉における一つの運転サイクルとは、原子炉を起動してから、炉心内の燃料集合体の交換のために原子炉の運転を停止するまでの期間を意味する。
【0017】
第三の要因は、半径方向の出力分布の平坦化と軸方向の出力分布の平坦化が両立しない可能性があることである。パッフェ型炉心では定格の炉心流量を低減するために半径方向の出力分布の平坦化は必須である。しかし、パッフェ型炉心に装荷する軸方向に非均質な燃料集合体は、ブランケット部と燃料部の出力割合が核燃料物質の燃焼と共に変化し、燃料部の出力割合が核燃料物質の燃焼に伴って減少する性質を有する。このため、炉心の半径方向の出力分布を平坦化、すなわち、燃料集合体の出力を均一化しても、燃焼初期の燃料集合体の燃料部の出力は燃焼末期に比べて高く、熱的余裕が減少する。
【0018】
パッフェ型炉心の熱的余裕を最大限に向上させるためには、上記した3つの要因をすべて改善する必要がある。しかしながら、上記した3つの要因のうち少なくとも1つの要因を改善することによっても、パッフェ型炉心の熱的余裕を従来よりも向上させることができる。
【0019】
発明者らは、パッフェ型炉心が有する上記した3つの新たな要因の改善策を検討し、それぞれの改善策を新たに見出した。パッフェ型炉心、すなわち、軽水炉の軸方向非均質炉心の熱的余裕の向上に貢献する本発明は、発明者らが見出した改善策に基づいてなされたものである。個々の改善策を、具体的に説明する。
【0020】
第1の要因に対して発明者らが新たに見出した改善策は、図7(b)に示すように、軸方向において、上部領域13及び下部領域14の二領域の中性子吸収材含有領域(B10含有領域)、及びフォロア部8を有する原子炉出力調整用の制御棒12を用いることである。制御棒12の挿入端部から引き抜き端部に向かって、フォロア部8、上部領域13及び下部領域14の順に配置される。この制御棒12を、図7(a)に示す軸方向非均質炉心、例えばパッフェ型炉心に適用することによって、第1の要因に起因する熱的余裕の減少が改善され、パッフェ型炉心の熱的余裕が増大する。制御棒12は、パッフェ型炉心の炉心領域6に装荷された燃料集合体間に挿入される。フォロア部8は、B10を含んでいなく中性子の吸収が少ない材料によって構成されている。このフォロア部8は、制御棒12が引き抜かれた燃料集合体間に減速材である軽水が流入することを防止してPuf増殖比を高める機能を有する。フォロア部8の軸方向の長さは、下部炉心領域2の下端から上部炉心領域1の上端までの長さにすることが望ましい。
【0021】
ちなみに、パッフェ型炉心は、図7(a)に示すように、炉心の高さ方向(軸方向)に配置された、上部ブランケット領域3、内部ブランケット領域4及び下部ブランケット領域5を有し、さらに、上部炉心領域1及び下部炉心領域2を有する。上部炉心領域1は上部ブランケット領域3と内部ブランケット領域4の間に配置される。下部炉心領域2は内部ブランケット領域4と下部ブランケット領域5の間に配置される。上部ブランケット領域3、上部炉心領域1、内部ブランケット領域4、下部炉心領域2及び下部ブランケット領域5によって、炉心領域6が構成される。上部炉心領域1及び下部炉心領域2は少なくともPufを含んでいる。
【0022】
発明者らは、制御棒12の上部領域13及び下部領域14のそれぞれにおけるB10の濃度について検討を行った。その結果、上部領域13のB10の平均濃度に対する下部領域14のB10平均濃度の比率を変えたとき、原子炉の運転サイクルを通して最大線出力密度が図8に示すように変化する特性を得た。この特性は、上部領域13と下部領域14の境界が炉心の軸方向において内部ブランケット領域4の真ん中に位置するときのものである。図8において、上部領域13の平均B10濃度に対する下部領域14の平均B10濃度の比が1になる場合は、上部領域13及び下部領域14のそれぞれの平均B10濃度が等しいときである。これは、B10含有領域が上部領域13及び下部領域14の区別がない一領域である従来の制御棒である。図8に示す結果により、パッフェ型炉心では、上部領域13の平均B10濃度に対する下部領域14の平均B10濃度の比率を0.26より大きく1.0未満の範囲内の大きさにすることにより、最大線出力密度を従来よりも低減できることが分かった。
【0023】
次に、発明者らは、上部領域13と下部領域14を画定する境界の位置について検討を行った。下部ブランケット領域5の下端を基準としたとき、炉心の軸方向における内部ブランケット領域4の上端の位置をx、内部ブランケット領域4の下端の位置をyとする。制御棒12のB10含有領域の上端(上部領域13の上端)を1、B10含有領域の下端(下部領域14の下端)を0としたとき、制御棒12におけるその境界の位置を、下部ブランケット領域5の下端から上部ブランケット領域3の上端まで移動させて最大線出力密度を求めた。その境界の位置の上記移動に伴って、原子炉の運転サイクルを通した最大線出力密度は図9に示すように変化した。この結果に基づいて、制御棒12における上部領域13と下部領域14を画定する上部炉心領域1及び下部炉心領域2はPufを含んでいる。境界の位置が、軸方向において、内部ブランケット領域4の上端とその領域4の下端の間、すなわち、内部ブランケット領域4内にあれば最大線出力密度を低減できるとの新たな知見を、発明者らは得ることができた。
【0024】
また、第1の要因は、図7(c)に示す、軸方向において、上部領域9、中央領域10及び下部領域11の三領域の中性子吸収材含有領域(B10含有領域)、及びフォロア部8を有する原子炉出力調整用の制御棒7を用いることによっても改善できることが分かった。制御棒7の挿入端部から引き抜き端部に向かって、フォロア部8、上部領域9、中央領域10及び下部領域11の順に配置される。制御棒7を、図7(a)に示す軸方向非均質炉心、例えばパッフェ型炉心に適用することによって、第1の要因に起因する熱的余裕の減少が改善され、パッフェ型炉心の熱的余裕が増大する。すなわち、制御棒7においても、中央領域10が軸方向において内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲に位置している場合に、上部領域10の平均B10濃度に対する下部領域11のその濃度の比率を0.26より大きく1.0未満の範囲内の大きさにすることにより、最大線出力密度を従来よりも低減でき、熱的余裕が増大することが分かった。
【0025】
制御棒7においては、中央領域10が上部領域13と下部領域14を画定する境界である。中央領域10が軸方向において内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲に位置していることは、制御棒12と同様に、上部領域13と下部領域14を画定する境界が軸方向において内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲に位置していることに該当する。
【0026】
第2の要因に対して発明者らが新たに見出した改善策は、図7(c)に示すように、制御棒7において、軸方向で上部領域9と下部領域11の間に、下部領域11の平均B10濃度よりもその濃度が低い中央領域10を配置することである。平均B10濃度が下部領域11のその濃度よりも低い中央領域10を有する制御棒7を、図7(a)に示す軸方向非均質炉心、例えばパッフェ型炉心に適用することによって、第2の要因に起因する熱的余裕の減少が改善され、パッフェ型炉心の熱的余裕が増大する。
【0027】
上記の平均B10濃度を有する中央領域10を設けることによって、第2の要因に起因する熱的余裕の減少を改善できる理由を、以下に説明する。原子炉の起動後において原子炉出力が定格出力よりも低下するとき、制御棒7が炉心から引き抜かれることによって原子炉出力は定格出力に保持される。この制御棒7の引き抜き操作によって、制御棒7の上部領域9が上部炉心領域1から引き抜かれるため、上部炉心領域1の出力が増大する。しかしながら、内部ブランケット領域4内に存在していた中央領域10が内部ブランケット領域4から引き抜かれて下部炉心領域2内に挿入される。このため、下部炉心領域2の出力が増大する。
【0028】
以上述べたように、原子炉の運転サイクル中期において、中央領域10を有する制御棒7の引き抜き操作により、上部炉心領域1の出力が増加したときには、制御棒7の中央領域10の下部炉心領域2への挿入が行われ、下部炉心領域2の出力が増大する。したがって、原子炉の運転サイクル中期において、上部炉心領域1における出力と下部炉心領域2における出力の差を低減することができる。これは、第2の要因を改善することにつながり、炉心の熱的余裕を増大させることができる。
【0029】
発明者らは、中央領域10の軸方向の長さについて検討した。図10は、その検討結果を示すものである。すなわち、内部ブランケット領域4の軸方向の長さに対する中央領域10のその長さの比率を変えたとき、原子炉の運転サイクルを通して最大線出力密度が図10に示すように変化する特性を得た。発明者らは、この特性に基づいて、内部ブランケット領域4の軸方向の長さに対する中央領域10の軸方向の長さの比率を、0よりも大きく1未満の範囲内の大きさにすることにより、第2の要因を改善し熱的余裕を増大できることを見出したのである。図10の特性は、中央領域10の平均B10濃度を0%にしたときのものである。中央領域10の平均B10濃度を下部領域14のその濃度よりも小さい範囲内で変えた場合には、中央領域10のその平均B10濃度に対する最も低い最大線出力密度の値は、図10におけるその値よりも増大する。しかしながら、中央領域10の平均B10濃度が下部領域14のその濃度よりも小さい範囲内では、内部ブランケット領域4の軸方向の長さに対する中央領域10の軸方向の長さの比率を、0よりも大きく1未満の範囲内の大きさにすることにより、第2の要因が改善され熱的余裕が増大することが分かった。
【0030】
第3の要因に対して発明者らが新たに見出した改善策は、炉心内の燃焼度が大きい燃料集合体(炉心内の滞在期間が長い燃料集合体)に原子炉出力調整用の第1制御棒を隣接させ、燃焼度の小さい燃料集合体(炉心内の滞在期間が短い燃料集合体)に原子炉出力調整用の第2制御棒を隣接させることである。この改善策は、二種類の原子炉出力調整用の制御棒を用いる。図8(a)に示す軸方向非均質炉心、例えばパッフェ型炉心の中央部(内側領域)に第1制御棒を配置し、炉心の外周部(外側領域)に第2制御棒を配置する。また、第1制御棒の平均B10濃度は第2制御棒のその濃度よりも小さくする。
【0031】
発明者らは、第1制御棒及び第2制御棒のそれぞれのB10濃度についてさらに詳細に検討した。この結果、第2制御棒の平均B10濃度に対する第1制御棒の平均B10濃度の比率を変えたとき、原子炉の運転サイクルを通して最大線出力密度が図11に示すように変化する特性を得た。この特性は、前述の制御棒7を用いた場合のものである。図11の結果に基づいて、第2制御棒の平均B10濃度に対する第1制御棒のその濃度の比率を、0.47より大きく1.0未満の範囲内の大きさにすることにより、最大線出力密度をさらに低減できることが分かった。制御棒12の第2制御棒の平均B10濃度に対する制御棒12の第1制御棒の平均B10濃度の比率を変えたときにおける最大線出力密度は、制御棒7と同様に、その比率が0.47より大きく1.0未満の範囲内の大きさであるときに低減できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、内部ブランケット領域を有する軽水炉の炉心の熱的余裕を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0034】
本発明の好適な一実施例である軽水炉の炉心、具体的には、BWRに適用される軸方向非均質炉心であるパッフェ型炉心を、図面を用いて具体的に説明する。
【0035】
本実施例のパッフェ型炉心を説明する前に、このパッフェ型炉心が適用されるBWRを、図2を用いて説明する。BWRは、原子炉圧力容器15を有し、原子炉圧力容器8内に、パッフェ型炉心18、気水分離器16及び蒸気乾燥器17を設置している。さらに、原子炉圧力容器15の底部に複数の制御棒駆動装置19を設置している。パッフェ型炉心18は、炉心領域6、及び炉心領域6内に挿入される原子炉出力調整用の複数の制御棒7A,12Aを有する。原子炉出力は、制御棒7A,12Aをパッフェ型炉心18に挿入あるいは引き抜くことによって制御される。制御棒7A,12Aは、モータ駆動(あるいは水圧駆動)の制御棒駆動装置19によって駆動される。パッフェ型炉心18に供給される冷却水(軽水)は、燃料集合体30内のPufの核分裂で発生する熱によって加熱され、蒸気になる。この蒸気は、気水分離器16及び蒸気乾燥器17で湿分を除去された後、原子炉圧力容器15に接続された主蒸気配管20を経てタービン(図示せず)へ送られ、タービン(図示せず)を駆動する。タービンに連結された発電機の回転によって電力が発生する。タービンから排出された蒸気は復水器で凝縮され水になる。この水は、給水として給水配管21によって原子炉圧力容器15内に戻される。
【0036】
パッフェ型炉心18は、図1に示す複数の燃料集合体30が装荷されて構成される炉心領域6(図7(a)参照)、及び図1に示す原子炉出力調整用の複数の制御棒7A,12Aを備えている(図3参照)。制御棒7A,12Aは炉心領域6に配置される。さらにパッフェ型炉心18は炉心領域6に挿入される複数の制御棒23を備える。パッフェ型炉心18の炉心領域6は、図7(a)に示すように、軸方向において、上部から順に配置した、上部ブランケット領域3、上部炉心領域1、内部ブランケット領域4、下部炉心領域2及び下部ブランケット領域5を含んでいる。燃料集合体30は、横断面が六角形の燃料集合体であり、720体が炉心領域6に装荷されている。制御棒7A,12A,23は横断面がY字型で120度の間隔で配置された3枚の翼を有する制御棒である。制御棒7A,12A,23は、合計223本設けられている。
【0037】
制御棒7A,12A,23の構成を、図4を用いて説明する。これらの制御棒は、制御棒の軸心に位置するタイロッド24から三方向に向かって3枚のブレード25がそれぞれ伸びている。隣り合うブレード25の相互間の角度は120°である。それぞれのブレード25は、タイロッド24に取付けられた横断面がU字状のシース26内に、17本の中性子吸収棒27を配置している。各中性子吸収棒27は、ステンレス鋼製の被覆管内にB10を含む中性子吸収材28を充填している。制御棒23は、原子炉の運転中に炉心から全引抜され、原子炉の運転停止時には炉心内に全挿入される。この制御棒23は、原子炉停止用の制御棒であり、水圧駆動の制御棒駆動装置(図示せず)によって駆動される。
【0038】
パッフェ型炉心18を構成する燃料集合体30について説明する。パッフェ型炉心18の上部ブランケット領域3、上部炉心領域1、内部ブランケット領域4、下部炉心領域2及び下部ブランケット領域5は、燃料集合体30によって構成される。燃料集合体30は、上部より下部に向かって、図1に示すように、上部ブランケット部33、上部燃料部31、内部ブランケット部34、下部燃料部32及び下部ブランケット部35を有する。上部ブランケット部33の軸方向の長さは13cm、上部燃料部31の軸方向の長さは22cm、内部ブランケット部34の軸方向の長さは45cm、下部燃料部32の軸方向の長さは22cm及び下部ブランケット部35の軸方向の長さは18cmである。燃料集合体30は、複数の燃料棒(図示せず)を有する。各燃料棒は、上部、内部及び下部ブランケット部33,34,35に該当する位置に、劣化ウランを含む多数の劣化ウラン燃料ペレットを充填している。また、各燃料棒は、上部及び下部燃料部31,32に該当する位置に、劣化ウラン、プルトニウム及びアクチノイド核種の混合物を含む多数のMOX燃料ペレットを充填している。そのプルトニウムはPufを含有している。上部燃料部31及び下部燃料部32は、Pufの平均富化度が18wt%である。内部ブランケット領域4のPufの富化度は0wt%である。平均富化度18wt%のPufを含む燃料集合体30は、燃焼度0GWd/tの新燃料集合体である。
【0039】
上部、内部及び下部ブランケット部33,34,35に該当する位置に充填される燃料ペレットは、劣化ウラン、天然ウラン、減損ウラン、低濃縮ウランの少なくとも一つを含むウランによって構成してもよい。また、上部及び下部燃料部31,32に該当する位置に充填される燃料ペレットは、Puf及びアクチノイド核種を、劣化ウラン、天然ウラン、減損ウラン、低濃縮ウランの少なくとも一つを含むウランに富化した核燃料物質によって構成してもよい。後者の燃料ペレットは、Pufを、劣化ウラン、天然ウラン、減損ウラン、低濃縮ウランの少なくとも一つを含むウランに富化した核燃料物質によって構成することも可能である。
【0040】
パッフェ型炉心18の上部ブランケット領域3は各燃料集合体30の上部ブランケット部33によって構成される。同様に、上部炉心領域1は上部燃料部31によって構成され、内部ブランケット領域4は内部ブランケット部34によって構成され、下部炉心領域2は下部燃料部32によって構成され、及び下部ブランケット領域5は下部ブランケット部35によって構成される。
【0041】
パッフェ型炉心18は、半径方向において、中央部(内側領域)及び中央部を取囲む外周部(外側領域)に分割される。中央部は、パッフェ型炉心18の軸心を基点にした、パッフェ型炉心18の半径の2分の1以内の領域である。このパッフェ型炉心18は、外周部に燃焼度が小さくて余剰反応度の大きな燃料集合体30を、中央部に燃焼度が大きくて余剰反応度の小さい燃料集合体(外周部に装荷される燃料集合体30よりも炉心内の滞在期間が長い燃料集合体30)を装荷することによって、半径方向の出力分布を平坦化している。例えば、外周部には、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体30及び2サイクル目の運転サイクルに入る燃料集合体30が装荷されており、中央部には、3サイクル目以上の運転サイクルに入る燃料集合体30が装荷されている。図3に示すように、制御棒7Bは外周部に配置され、制御棒7Aは中央部に配置される。223本の制御棒のうち、原子炉出力調整用の制御棒7は全部で37本であり、制御棒7Aは19本、制御棒7Bは18本である。
【0042】
制御棒7Aは、図1に示すように、制御棒7Aの挿入端部から引き抜き端部に向かって、フォロア部8、上部領域9A、中央領域10A及び下部領域11Aをこの順に配置している。フォロア部8は、軽水より減速能が小さい物質である炭素によって構成され、シース26内に設けられる。上部領域9A、中央領域10A及び下部領域11Aのそれぞれの軸方向の長さは、36cm、33cm、41cmである。上部領域9AはB10濃度が90%の炭化硼素を充填し、中央領域10AはB10濃度が20%の炭化硼素を充填し、下部領域11AはB10濃度が50%である炭化硼素を充填している。上部領域9A、中央領域10A及び下部領域11A、すなわち、中性子吸収材含有領域の軸方向における平均B10濃度は、約54%である。フォロア部8の下方に配置される各中性子吸収棒27は、上部領域9A、中央領域10A及び下部領域11Aのそれぞれに対応する位置に、B10濃度90%、20%及び50%の各炭化硼素をそれぞれ充填している。
【0043】
制御棒12Aは、図1に示すように、挿入端部から引き抜き端部に向かって、フォロア部8、上部領域13A及び下部領域14Aをこの順に配置している。上部領域9B及び下部領域11Bのそれぞれの軸方向の長さは、36cm、74cmである。上部領域13AはB10濃度が80%の炭化硼素を充填し、下部領域11BはB10濃度が70%である炭化硼素を充填している。上部領域9A及び下部領域11A、すなわち、中性子吸収材含有領域の軸方向における平均B10濃度は、約73%である。制御棒7Bの各中性子吸収棒27も、制御棒7Aと同様に、該当するB10濃度の各炭化硼素を中性子吸収材含有領域に充填している。
【0044】
制御棒7Aは、上部領域9AのB10濃度に対する下部領域11Aのその濃度の比率が約0.56であり、中央領域10Aが内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲に位置している。また、制御棒12Aは、上部領域9AのB10濃度に対する下部領域11Aのその濃度の比率が約0.88であり、上部領域13Aと下部領域14Aの境界の位置が内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲に位置している。このため、パッフェ型炉心18は、制御棒7A,12Aのそれぞれの前述した機能により、前述の第1の要点を改善することができる。本実施例は、第1の要点の改善に伴って熱的余裕が増加する。
【0045】
また、内部ブランケット領域34の軸方向の長さに対する中央領域10Aのその長さの比率は、0.73であり、中央領域10AのB10濃度は下部領域11Aよりも低くなっている。このような中央領域10Aを含む制御棒7Aを有するパッフェ型炉心18は、前述の第2の要点を改善することができる。本実施例は、第2の要点の改善に伴って熱的余裕が増大する。
【0046】
本実施例は、制御棒12Aの軸方向の平均B10濃度に対する制御棒7Aのその平均濃度の比率が約0.74である。外周部に制御棒12Aを配置し、中央部に制御棒7Aを配置しているパッフェ型炉心18は、前述の第3の要点を改善することができる。本実施例は、第3の要点の改善に伴って熱的余裕が増大する。
【0047】
上記したように、第1、第2及び第3の要点を改善できるパッフェ型炉心18は、一つの運転サイクル開始時からその運転サイクル終了時までの期間において、図5に実線で示すように、燃料集合体の最大線出力密度を著しく低減できる。本実施例は、破線で示す従来のパッフェ型炉心に比べて最大線出力密度を約6%低減できる。このため、本実施例は、原子炉の熱的余裕を著しく増大することができる。本実施例で用いられる制御棒7A,12Aは、運転サイクル終了時にはフォロア部8を炉心内に残し、中性子吸収材含有領域が炉心、すなわち、下部ブランケット領域35の下方に引き抜かれる。
【0048】
中性子吸収材含有領域の軸方向におけるB10濃度が一様な従来の制御棒(原子炉出力調整用)を配置した従来のパッフェ型炉心は、その制御棒の引き抜き状態に応じ、一つの運転サイクルの期間において、燃料集合体の最大線出力密度が図5に破線で示すように大きく変化する。しかしながら、制御棒7A,12Aを用いた本実施例のパッフェ型炉心18では、一つの運転サイクルの期間を通して最大線出力密度の変化幅を著しく低減することができる。
【0049】
本実施例はパッフェ型炉心18の外周部に制御棒12Aを配置しているが、中性子吸収材含有領域が軸方向二領域の制御棒12Aの替りに、中性子吸収材含有領域が軸方向三領域の制御棒7を外周部に配置することも可能である。この制御棒7は、第1、第2及び第3の要点を改善できる条件(例えば、中央領域10のB10濃度、中央領域10の軸方向における位置及び長さ、制御棒7Aの平均B10濃度に対する制御棒7のその濃度の比率等)を満足している。
【0050】
本実施例において、外周部に、制御棒12Aを配置せず替りに制御棒7Aを配置しても良い。本例のパッフェ型炉心は、実施例2と同様に、原子炉出力調整用の制御棒である制御棒7Aをパッフェ型炉心の外周部及び中央部に配置したものである。このパッフェ型炉心は、第3の要点を改善することはできないが、第1及び第2の要点を改善することができる。本例のパッフェ型炉心は、第1及び第2の要点を改善によって、熱的余裕を増大することができる。
【実施例2】
【0051】
本発明の他の実施例である軽水炉の炉心、具体的には、BWRに適用されるパッフェ型炉心を、図12及び図13を用いて具体的に説明する。本実施例のパッフェ型炉心18Aは、複数の燃料集合体30、及び制御棒12B,23を有する。燃料集合体30は、実施例1で用いた燃料集合体30と同じ構成を有する。原子炉出力調整用の制御棒12Bは、上部領域13B及び下部領域14Bを有する。制御棒12Bは、制御棒12Aにおける上部領域13BのB10濃度を90%に変えた構成を有する。下部領域14BのB10濃度は70%である。制御棒12Bの他の構成は制御棒12Aと同じである。パッフェ型炉心18Aに配置された制御棒12Bの本数は、37本である。
【0052】
本実施例では、制御棒12Bは、上部領域13BのB10濃度に対する下部領域14Bのその濃度の比率が約0.78であり、上部領域13Bと下部領域14Bの境界の位置が内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲内に位置している。このため、パッフェ型炉心18Aは、制御棒12Bのそれぞれの前述した機能により、前述の第1の要点を改善することができる。本実施例は、第1の要点の改善に伴って熱的余裕が増加する。
【0053】
パッフェ型炉心18Aは、実施例1と同様に、半径方向において、外周部に燃焼度が小さくて余剰反応度が大きい燃料集合体30を、中央部に燃焼度が大きくて余剰反応度が小さい燃料集合体を装荷することによって、半径方向の出力分布を平坦化している。本実施例における炉心の外周部は実施例1の炉心の外周部と同じ領域である。パッフェ型炉心18Aでは、半径方向の出力分布の歪みは軸方向の出力分布の歪みに比べて小さい。このため、パッフェ型炉心18Aは、図11の特性に基づいて得られた条件を満足する制御棒を外周部に配置していないが、熱的余裕を増大させることができる。本実施例のパッフェ型炉心18Aは、第2及び第3の要点を改善することはできない。
【0054】
上記したように、第1の要点を改善できるパッフェ型炉心18Aは、一つの運転サイクル開始時からその運転サイクル終了時までの期間において、図14に実線で示すように、燃料集合体の最大線出力密度を低減できる。本実施例は、破線で示す従来のパッフェ型炉心に比べて最大線出力密度を約2%低減できる。このため、本実施例は、原子炉の熱的余裕を増大させることができる。また、制御棒12Bを用いた本実施例のパッフェ型炉心18では、一つの運転サイクルの期間を通して最大線出力密度の変化幅を、実施例1ほどではないが、従来のパッフェ型炉心に比べて低減することができる。
【実施例3】
【0055】
本発明の他の実施例である軽水炉の炉心、具体的には、BWRに適用されるパッフェ型炉心を、図15及び図16を用いて具体的に説明する。本実施例のパッフェ型炉心18Bは、複数の燃料集合体30、及び原子炉出力調整用の制御棒12A,12C、及び原子炉停止用の複数の制御棒23を有する。燃料集合体30は、実施例1で用いた燃料集合体30と同じ構成を有する。制御棒12Aも実施例1で用いた制御棒12Aと同じ構成を有する。制御棒12Cは、中性子吸収材含有領域に上部領域13C及び下部領域14Cを有する。上部領域13CのB10濃度は90%であり、下部領域14CのB10濃度は50%である。制御棒12Cの他の構成は制御棒12Aと同じである。制御棒12Cはパッフェ型炉心18Bの中央部に配置され、制御棒12Aはパッフェ型炉心18Bの外周部に配置される。本実施例における炉心の外周部は実施例1の炉心の外周部と同じ領域である。制御棒12Cは19本存在し、制御棒12Aは18本存在する。ちなみに、制御棒23の本数は186本である。
【0056】
本実施例では、制御棒12Cは、上部領域13CのB10濃度に対する下部領域14Cのその濃度の比率が約0.56であり、上部領域13Bと下部領域14Bの境界の位置が内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲に位置している。また、制御棒12Aは、実施例1で述べたように、前者の比率が約0.88であり、後者の境界の位置も内部ブランケット領域4の下端からその上端の範囲に位置している。このため、パッフェ型炉心18Bは、制御棒12C,12Aのそれぞれの前述した機能により、前述の第1の要点を改善することができる。本実施例は、第1の要点の改善に伴って熱的余裕が増加する。
【0057】
制御棒12Cの軸方向の平均B10濃度は63%であり、制御棒12Aのその濃度は73%である。本実施例は、制御棒12Aの軸方向の平均B10濃度に対する制御棒7Aのその濃度の比率が約0.86である。外周部に制御棒12Aを配置し、中央部に制御棒12Cを配置しているパッフェ型炉心18Bは、前述の第3の要点を改善することができる。本実施例は、第3の要点の改善に伴って熱的余裕が増大する。
【0058】
上記したように、第1及び第3の要点を改善できるパッフェ型炉心18Bは、一つの運転サイクル開始時からその運転サイクル終了時までの期間において、図17に実線で示すように、燃料集合体の最大線出力密度を低減できる。本実施例は、破線で示す従来のパッフェ型炉心に比べて最大線出力密度を約3%低減できる。このため、本実施例は、原子炉の熱的余裕を増大させることができる。また、制御棒12C,12Aを用いた本実施例のパッフェ型炉心18Bは、一つの運転サイクルの期間を通して最大線出力密度の変化幅を、実施例1ほどではないが、従来のパッフェ型炉心に比べて低減することができる。パッフェ型炉心18Bにおけるその変化幅は、実施例1におけるその変化幅よりも大きくなるが、実施例2におけるその変化幅よりも小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例1のパッフェ型炉心に装荷される燃料集合体及びその炉心に挿入される二種類の制御棒の構成図である。
【図2】実施例1のパッフェ型炉心が適用されるBWRの概略構成図である。
【図3】本発明の好適な一実施例である実施例1のパッフェ型炉心の平面図である。
【図4】図1及び図3に示す制御棒の拡大横断面図である。
【図5】実施例1の運転サイクルにおける最大線出力密度の変化を示す特性図である。
【図6】パッフェ型炉心の軸方向での出力分布及びボイド率分布を示す説明図である。
【図7】パッフェ型炉心の課題の改善策として用いる制御棒を示し、(a)はパッフェ型炉心の概略縦断面図、(b)は中性子吸収材含有領域が二領域である制御棒の概略構造図、(c)は中性子吸収材含有領域が三領域である制御棒の概略構造図である。
【図8】制御棒の上部領域の平均B10濃度に対する制御棒の下部領域のその濃度の比率と、最大線出力密度との関係を示す特性図である。
【図9】炉心軸方向における制御棒の上部領域と下部領域の境界の位置と、最大線出力密度との関係を示す特性図である。
【図10】内部ブランケット領域の軸方向長さに対する制御棒の中央領域のその長さの比率と、最大線出力密度との関係を示す特性図である。
【図11】パッフェ型炉心の外側領域に配置された制御棒の軸方向の平均B10濃度に対するその炉心の内側領域に配置された制御棒のその濃度の比率と、最大線出力密度との関係を示す特性図である。
【図12】本発明の他の実施例である実施例2のパッフェ型炉心の平面図である。
【図13】実施例2のパッフェ型炉心に装荷される燃料集合体及びその炉心に挿入される制御棒の構成図である。
【図14】実施例2の運転サイクルにおける最大線出力密度の変化を示す特性図である。
【図15】本発明の他の実施例である実施例3のパッフェ型炉心の平面図である。
【図16】実施例3のパッフェ型炉心に装荷される燃料集合体及びその炉心に挿入される二種類の制御棒の構成図である。
【図17】実施例3の運転サイクルにおける最大線出力密度の変化を示す特性図である。
【符号の説明】
【0060】
1…上部炉心領域、2…下部炉心領域、3…上部ブランケット領域、4…内部ブランケット領域、5…下部ブランケット領域、6…炉心領域、7,7A,12,12A,12B,12C,23…制御棒、8…フォロア部、9,9A,13,13A,13B,13C…上部領域、10,10A…中央領域、11,11A,14,14A,14B,14C…下部領域、15…原子炉圧力容器、18,18A,18B…パッフェ型炉心、19…制御棒駆動装置、25…ブレード、26…シース、27…中性子吸収棒、30…燃料集合体、31…上部燃料部、32…下部燃料部、33…上部ブランケット部、34…内部ブランケット部、35…下部ブランケット部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向において、上部ブランケット領域、上部炉心領域、内部ブランケット領域、下部炉心領域及び下部ブランケット領域がこの順に上部から配置され、前記上部炉心領域及び前記下部炉心領域が核分裂性プルトニウムを含んでいる炉心領域と、
前記炉心領域内に挿入され、中性子吸収材を含む中性子吸収材含有領域を有する複数の原子炉出力調整用の制御棒とを備え、
前記中性子吸収材含有領域は上部領域及び下部領域を有し、前記上部領域における前記中性子吸収材の平均濃度に対する前記下部領域におけるその平均濃度の比率が、0.26より大きく1.0未満の範囲内にあり、前記制御棒が前記炉心領域に全挿入された状態で、前記上部領域と前記下部領域を画定する境界が、前記内部ブランケット領域の上端と前記内部ブランケット領域の下端との間に位置していることを特徴とする軽水炉の炉心。
【請求項2】
前記中性子吸収材含有領域が前記上部領域と前記下部領域を画定する境界となる中央領域を有し、前記中央領域の前記中性子吸収材の平均濃度が前記下部領域のその平均濃度よりも低くなっており、前記中央領域の軸方向の長さが前記内部ブランケット領域の軸方向の長さよりも短くなっている請求項1に記載の軽水炉の炉心。
【請求項3】
前記複数の制御棒は、前記炉心領域の内側領域に挿入される複数の第1制御棒、及び前記内側領域を取り囲む、前記炉心領域の外側領域に挿入される複数の第2制御棒を含んでおり、前記第2制御棒における前記中性子吸収材の平均濃度に対する前記第1制御棒におけるその濃度の比率が、0.47より大きく1.0未満の範囲内にある請求項1または請求項2に記載の軽水炉の炉心。
【請求項4】
軸方向において、上部ブランケット領域、上部炉心領域、内部ブランケット領域、下部炉心領域及び下部ブランケット領域がこの順に上部から配置され、前記上部炉心領域及び前記下部炉心領域が核分裂性プルトニウムを含んでいる炉心領域と、
前記炉心領域内に挿入され、中性子吸収材を含む中性子吸収材含有領域を有する複数の原子炉出力調整用の制御棒とを備え、
前記中性子吸収材含有領域は軸方向において上部から上部領域、中央領域及び下部領域の順に配置されたこれらの領域を有し、前記上部領域における前記中性子吸収材の平均濃度に対する前記下部領域におけるその平均濃度の比率が、0.26より大きく1.0未満の範囲内にあり、
前記中央領域における前記中性子吸収材の平均濃度が前記下部領域のその平均濃度よりも低くて、前記中央領域の軸方向の長さが前記内部ブランケット領域の軸方向の長さよりも短くなっており、前記制御棒が前記炉心領域に全挿入された状態で、前記中央領域が、前記内部ブランケット領域の上端と前記内部ブランケット領域の下端との間に位置していることを特徴とする軽水炉の炉心。
【請求項5】
前記複数の制御棒は、前記炉心領域の内側領域に挿入される複数の第1制御棒、及び前記内側領域を取り囲む、前記炉心領域の外側領域に挿入される複数の第2制御棒を含んでおり、前記第2制御棒における前記中性子吸収材の平均濃度に対する前記第1制御棒におけるその濃度の比率が、0.47より大きく1.0未満の範囲内にある請求項4に記載の軽水炉の炉心。
【請求項6】
前記上部炉心領域及び前記下部炉心領域がアクチノイド核種を含んでいる請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の軽水炉の炉心。
【請求項7】
前記上部炉心領域及び前記下部炉心領域が、前記核分裂性プルトニウムを、劣化ウラン、天然ウラン、減損ウラン、低濃縮ウランの少なくとも一つを含むウランに富化した核燃料を含んでいる請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の軽水炉の炉心。
【請求項8】
前記上部炉心領域及び前記下部炉心領域が、前記核分裂性プルトニウム及びアクチノイド核種を、劣化ウラン、天然ウラン、減損ウラン、低濃縮ウランの少なくとも一つを含むウランに富化した核燃料を含んでいる請求項6に記載の軽水炉の炉心。
【請求項9】
前記中性子吸収材がボロン10である請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の軽水炉の炉心。
【請求項10】
軸方向において、上部ブランケット領域、上部炉心領域、内部ブランケット領域、下部炉心領域及び下部ブランケット領域がこの順に上部から配置される炉心であって、前記上部炉心領域及び前記下部炉心領域が核分裂性プルトニウム、または前記核分裂性プルトニウム及びアクチノイド核種を含んでいる前記炉心に挿入される制御棒であって中性子吸収材を含む中性子吸収材含有領域を有する制御棒において、
前記中性子吸収材含有領域は上部領域及び下部領域を有し、前記上部領域における前記中性子吸収材の平均濃度に対する前記下部領域におけるその平均濃度の比率が、0.26より大きく1.0未満の範囲内にあり、前記上部領域と前記下部領域を画定する境界が、前記炉心に全挿入された状態で、前記内部ブランケット領域の上端と前記内部ブランケット領域の下端との間に位置していることを特徴とする制御棒。
【請求項11】
前記中性子吸収材含有領域は、前記上部領域と前記下部領域を画定する境界となる中央領域を有し、前記中央領域の前記中性子吸収材の平均濃度が前記下部領域のその平均濃度よりも低くなっており、前記中央領域の軸方向の長さが前記内部ブランケット領域の軸方向の長さよりも短くなっている請求項10に記載の制御棒。
【請求項12】
軸方向において、上部ブランケット領域、上部炉心領域、内部ブランケット領域、下部炉心領域及び下部ブランケット領域がこの順に上部から配置されている炉心であって、前記上部炉心領域及び前記下部炉心領域が核分裂性プルトニウム、または前記核分裂性プルトニウム及びアクチノイド核種を含んでいる前記炉心に挿入される制御棒であって中性子吸収材を含む中性子吸収材含有領域を有する制御棒において、
前記中性子吸収材含有領域は軸方向において上部から上部領域、中央領域及び下部領域の順に配置されたこれらの領域を有し、前記上部領域における前記中性子吸収材の平均濃度に対する前記下部領域におけるその平均濃度の比率が、0.26より大きく1.0未満の範囲内にあり、
前記中央領域における前記中性子吸収材の平均濃度が前記下部領域のその平均濃度よりも低くて、前記中央領域の軸方向の長さが前記内部ブランケット領域の軸方向の長さよりも短くなっており、前記炉心に全挿入された状態で、前記中央領域が、前記内部ブランケット領域の上端と前記内部ブランケット領域の下端との間に位置していることを特徴とする制御棒。
【請求項13】
前記中性子吸収材がボロン10である請求項10ないし請求項12のいずれか1項に記載の制御棒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−32467(P2008−32467A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204625(P2006−204625)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)