説明

軽量気泡コンクリートの製造方法

【課題】 珪酸質原料が当初想定していた所定の粒度から外れても、ばらつきが少なく且つ圧縮強度の規格を満たしたALCを作製する方法を提供する。
【解決手段】 珪酸質原料と石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水とアルミニウム粉末とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後、オートクレーブにおいて高温高圧水蒸気の下で所定の時間保持することによって養生を行う軽量気泡コンクリートの製造方法において、該保持時間の開始時点から0.5時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の15%〜25%であること、及び/又は該保持時間の開始時点から6.0時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の60%〜100%であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物の壁、屋根、床などに使用される軽量気泡コンクリート(ALC)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(ALC)の製造は、先ずボールミル等で粉砕された粉末珪石等の珪酸質原料と、セメント粉末や生石灰粉末等の石灰質原料とを主原料とし、これに水と発泡剤であるアルミニウム粉末等の添加物とを加えてスラリー状として型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に、石灰質原料の反応により半硬化させる(半硬化工程)。次に切断などの方法によって所定寸法に成形し、オートクレーブによる高温高圧水蒸気の養生(養生工程)を行う。
【0003】
これらの工程を経て、珪酸カルシウム水和物であるトバモライトが生成し、ALCの製品強度及び寸法安定性が向上する。すなわち、「半硬化工程」において石灰質原料の水和反応により珪酸カルシウム水和物が形成され、「養生工程」において珪石等の珪酸質原料が溶解し、珪酸カルシウム水和物と反応してトバモライトが生成する。
【0004】
トバモライトの化学式は5CaO・6SiO・5HOであり、CaOのSiOに対するモル比(以下、C/Sと表す)の理論値は5/6=0.83である。「半硬化工程」で生成される水和物はC/Sが1.0付近となっているが、「養生工程」で珪石等の珪酸質原料が溶解するため、C/S=0.83となる。尚、非特許文献1に示されているように、これら一連の反応において、オートクレーブ養生における珪石等の珪酸質原料の溶解は律速となっている。そのため、ALCの工業生産では、一般的に珪石量を増やしてC/Sを0.4〜0.6程度に調整している。
【0005】
ところで、ALCの主原料となる珪石などの珪酸質原料は、前述したように、ボールミル等で粉砕してから用いられており、その際、所望の効果を得るため珪石の粒度を規定することが提案されている。例えば、特許文献1(特開昭59−128254号公報)には、凍結冷害に対する抵抗性を向上させるため、重量平均径で15μm以下とすることが提案されている。また、特許文献2(特開平4−197605号公報)には、水分や炭酸ガスの影響による収縮を低減するため、珪砂を2000〜2500cm/gと6000〜12000cm/gにピークを有する分布とすることが提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3(特開2001−019571号公報)には、入手し易い珪酸質原料をできるだけ使用しつつ寸法安定性及び曲げ強度に優れたALCを得るため、平均石英結晶粒径が10μm未満の珪石と10μm〜500μmの珪石を混合してその混合珪石の平均石英結晶粒径を15μm〜300μmとするとともに、10μm未満の珪石の混合割合を60重量%以下にした混合珪石を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−128254号公報
【特許文献2】特開平4−197605号公報
【特許文献3】特開2001−019571号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】崎山、光田、tobermoriteの生成におよぼすAlの影響、セメント技術年報、31、pp.46−49、1977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ALCの工業生産では、生産効率を考慮してオートクレーブ養生の保持時間が定められており、その保持時間で適切な溶解量となるように、珪石の粒度を管理する必要がある。なぜなら、オートクレーブ養生中の珪石粒は、粒の外側から溶解するため、粒度が小さいものが多量に存在する場合は短時間で多量に溶解し、逆に、粒度が大きいものが多量に存在する場合は溶解に時間がかかるからである。
【0010】
このように、珪石の粒度によって溶解量が変化すると、トバモライトの生成に大きな影響を与える事になる。すなわち、珪石粒の粒度が大きすぎる場合、オートクレーブ養生の保持時間中の溶解が珪酸カルシウム水和物に対して不足し、トバモライトの生成が不十分となる。逆に粒度が小さすぎる場合、溶解が過剰となって微結晶トバモライトが多数生成し、トバモライトの結晶成長が妨げられる。よって、粒度が最適でない場合、トバモライトの結晶生成と結晶成長に不良が発生し、製品物性は不十分になるという問題がある。従って、C/Sを前述したように0.4〜0.6程度に調整すると共に珪石粒度を最適化する事が、ALCの製品物性を最適化する際に重要となる。
【0011】
一方、これまではALC製造に適した珪石鉱床が豊富に存在していたが、近年鉱床の枯渇は深刻であり、上記特許文献1〜3に記載されているような珪酸質原料を確保することが困難になりつつある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような状況の下、本発明者らは、珪酸質原料のロットが変更されて当初想定していた所定の粒度から外れても、例えば、複数種の珪酸質原料を適宜混合して使用する事により、トバモライトの生成を適切に行って、ALC製品の物性、特に圧縮強度を所望の値以上に保ち得ることを見出し本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明が提供する軽量気泡コンクリートの製造方法は、珪酸質原料と石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水とアルミニウム粉末とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後、オートクレーブにおいて高温高圧水蒸気の下で所定の時間保持することによって養生を行うものであって、該保持時間の開始時点から0.5時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の15%〜25%であること、及び/又は該保持時間の開始時点から6.0時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の60%〜100%であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、珪酸質原料が当初想定していた所定の粒度から外れても、例えば複数種の珪酸質原料を混合する等の調整を行う事により、トバモライトの生成を適切に行うことが可能となり、製品の物性、特に圧縮強度の規格を満たし且つばらつきの少ないALCを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例に使用した6種類の珪石の粒度分布を示すグラフである。
【図2】Tobピーク強度比と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図3】オートクレーブ養生の保持時間の開始時点から0.5時間経過時点までの珪石溶解量の必要溶解量に対する比とTobピーク強度比との関係を示すグラフである。
【図4】オートクレーブ養生の保持時間の開始時点から6.0時間経過時点までの珪石溶解量の必要溶解量に対する比とTobピーク強度比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る軽量気泡コンクリートの製造方法は、粉末珪石等の珪酸質原料と、セメント粉末や生石灰粉末等の石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水と発泡剤としてのアルミニウム粉末等の添加物とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後(半硬化工程)、必要に応じて切断などの方法により所定寸法に成形し、オートクレーブにおいて高温高圧水蒸気の下で所定の時間保持することによって養生(養生工程)を行うものであり、該保持時間の開始時点から0.5時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の15%〜25%であるか若しくは該保持時間の開始時点から6.0時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の60%〜100%であること、又は該保持時間の開始時点から0.5時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の15%〜25%であって且つ該保持時間の開始時点から6.0時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の60%〜100%であることを特徴としている。
【0017】
これにより、珪酸質原料が当初想定していた粒度から外れても、例えば複数種の珪酸質原料を混合する等の調整を行う事により、ALCのトバモライト002面のピーク強度を常に所望の値以上に保つことができる。その結果、JISA5416で規定する圧縮強度を常に規格値以上にすることが可能となる。また、品質面においてばらつきの少ないALCを提供することが可能となる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。先ず、微粉末状の珪酸質原料として、図1に示す試料1〜6の6種類の珪石を準備した。次に、試料1を3つに分けて、それぞれC/Sが0.35、0.50及び0.65となるように石灰質原料としてのセメントを配合した。さらに、水、発泡剤としてのアルミニウム粉、及び混和剤を固形分100重量部に対して水が66重量部となるように配合して3種類のスラリーを作製した。試料2〜6についても、試料1と同様にしてそれぞれ3種類のスラリーを作製した。
【0019】
尚、C/Sの値は各原料の納品書に記載された化学分析値から計算することができる。例えば、珪石40g(化学分析値によるSiO=93%)、セメント50g(化学分析値によるCaO=64%、SiO=22%)を混合した際のC/Sは、CaO及びSiOの分子量がそれぞれ56及び60であるため、下記式1のように表される。
【0020】
[式1]
C/S=CaO/SiO
=0.64×50/(0.93×40+0.22×50)/(56/60)
=0.71
【0021】
このようにして作製された合計18種類のスラリーの配合割合を、C/S毎に分けて表したものを下記表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
次に、各スラリーの一定量を個別の型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共にセメントの反応により半硬化させた。得られた半硬化体を所定の寸法に成形し、180℃10気圧のオートクレーブにて6.0時間の保持時間で高温高圧水蒸気養生してALCを作製した。ここで、保持時間とは、オートクレーブ内において高温高圧水蒸気による温度圧力条件が一定に維持される時間であり、昇圧や降圧のための時間は含んでいない。
【0024】
得られた各ALCを乳鉢で粉砕した後、トバモライト002面のピーク強度をX線回折により測定した。その測定結果を、下記表2に示す。尚、トバモライト002面のピーク強度は、その最大値に対する比(以下、Tobピーク強度比と称する)として示されている。すなわち、このTobピーク強度比は、同じC/Sで配合された試料のうち、トバモライト002面のピーク強度が最大のものを基準値1.00とし、その他のピーク強度をこの基準値に対する比となるように換算したものである。
【0025】
【表2】

【0026】
次に、各試料の圧縮強度をJISA5416に基づいて測定した。この圧縮強度の測定結果を、上記Tobピーク強度比を横軸としてプロットしたものを図2に示す。この図から、JISA5416に基づく圧縮強度の規格値である3.0MPa対して余裕を見込んだ3.5MPa以上を設計条件とする場合は、Tobピーク強度比の許容値を0.80以上に設定すればよいことが分かる。
【0027】
次に、試料1〜6の各珪石において、オートクレーブ養生の保持時間の開始時点から0.5時間経過時点までに珪石が溶解する量を計算した。具体的には、図1に示す粒度分布を有する珪石結晶粒径において、珪石を球径近似すると共にオートクレーブ養生中の珪石の溶解速度を0.80μm/hrとして溶解量を計算した。尚、この溶解量は、半硬化工程で処理される前の各スラリーに含まれる珪石に対する重量%として計算した。
【0028】
さらに、半硬化工程で処理される前の各スラリーに含まれるセメント中のCaOが全てトバモライト(C/S=0.83)に生成されるために必要な珪石の量を、必要溶解量として計算した。この必要溶解量も、半硬化工程で処理される前の各スラリーに含まれる珪石に対する重量%として計算した。その結果、C/S=0.35に配合した場合の必要溶解量は43.0%、C/S=0.50に配合した場合の必要溶解量は60.0%、C/S=0.64に配合した場合の必要溶解量は77.4%となった。そして、上記溶解量の必要溶解量に対する比(以降、0.5hr溶解比と称する)を求めた。得られた0.5hr溶解比を上記溶解量(重量%)と共に下記表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
上記表2のTobピーク強度比及び表3の0.5hr溶解比のデータを、図3に示すように、横軸を0.5hr溶解比、縦軸をTobピーク強度比としたグラフにプロットした。この図3から分かるように、Tobピーク強度比を0.80以上にするには、0.5hr溶解比を0.15以上0.25以下の範囲に調整すればよいことが分かる。
【0031】
次に、試料1〜6の各珪石において、オートクレーブ養生の保持時間の開始時点から6.0時間経過時点までに溶解する量を、上記0.5時間経過時点までの溶解量の計算と同様にして計算した。得られた溶解量から、上記同様にして必要溶解量に対する比(以降、6.0hr溶解比と称する)を求めた。得られた6.0hr溶解比を上記溶解量(重量%)と共に下記表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
上記表2のTobピーク強度比及び表4の6.0hr溶解比のデータを、図4に示すように、横軸を6.0hr溶解比、縦軸をTobピーク強度比としたグラフにプロットした。この図4から分かるように、Tobピーク強度比を0.80以上にするには、6.0hr溶解比を0.60以上1.00以下の範囲に調整すればよいことが分かる。
【0034】
このように、オートクレーブ養生の保持時間の開始時点から一定の時間が経過するまでに珪石が溶解する量を把握することによって、ALCの圧縮強度を予め知ることができるので、珪酸質原料が変更されて当初想定していた所定の粒度から外れても、0.5hr溶解比のデータや6.0hr溶解比のデータに基づいて複数種の珪酸質原料を適宜混合する事により圧縮強度を所望の値以上に保つことができる。
【0035】
尚、上記方法で得られるALCよりも品質のばらつきが少なく且つ高い圧縮強度を得るには、Tobピーク強度比の許容値を前述した0.80よりも高く設定すればよい。例えば、図1に示すように、JISA5416に基づく圧縮強度で4.0MPa以上に規定する場合は、Tobピーク強度比の許容値を0.9以上に規定すればよい。これは、図3や図4に示す点線の幅を適宜狭めることによって対応することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸質原料と石灰質原料とからなる微粉末状の主原料に、水とアルミニウム粉末とを加えてスラリー状にして型枠に注入し、アルミニウム粉末の反応により発泡させると共に石灰質原料の反応により半硬化させた後、オートクレーブにおいて高温高圧水蒸気の下で所定の時間保持することによって養生を行う軽量気泡コンクリートの製造方法において、
前記保持時間の開始時点から0.5時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の15%〜25%であること、及び/又は前記保持時間の開始時点から6.0時間経過時点までの珪酸質原料の溶解量が必要溶解量の60%〜100%であることを特徴とする軽量気泡コンクリートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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