説明

軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法

【課題】 軽度な劣化が認められた軽量気泡コンクリート水平部材に対し、多大な費用をかけることなく、短期間で、しかも建物内部の使用状態を妨げずに実施できる補修方法を提供する。
【解決手段】 軽量気泡コンクリート水平部材の劣化表面から剥落する粉や欠片を除去した後、建築用仕上げ塗材を用いて、JIS A6909 7.29に規定された20℃における伸びが40〜120%である塗装膜を施す。塗装膜のひび割れや剥がれを防止するうえで、塗装膜はJIS A6909 7.9に規定された標準状態での付着強さが0.5N/mm以上であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋根や天井または床を構成する水平部材として使用される軽量気泡コンクリート(ALC)の補修方法、特に使用によって軽度な劣化が認められた軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリートは、珪石等の珪酸質原料と、セメントや生石灰等の石灰質原料とを主原料として製造される。即ち、これら主原料の微粉末に水とアルミニウム粉末等の添加物を加えてスラリー状とし、補強鉄筋を配置した型枠内に供給して、アルミニウム粉末の反応により発泡し且つ石灰質原料の反応により半硬化させた後、所定寸法に切断成形し、オートクレーブによる高温高圧水蒸気養生を行って製造されている。
【0003】
かかる軽量気泡コンクリートは、絶乾かさ比重が0.5程度であるように軽量であると共に、耐火性、断熱性、施工性に優れているため、そのパネルは建築材料として広く使用されている。例えば、軽量気泡コンクリートパネルは一般的に間仕切りや壁材として使用されるほか、水平部材として用いる場合には、普通コンクリートと比べると強度が低いため、載荷荷重の小さい屋根や天井あるいはスパンの短い床などに用いられている。
【0004】
建築材料として使用された軽量気泡コンクリートは、永年継続的に使用することによって劣化が生じる。軽量気泡コンクリートが劣化するということは、ひび割れが発生したり、強度が低下したりすることであり、特に水平部材の場合には撓みの増大、あるいは欠片や粉の落下が初期に確認されることが多い。尚、軽量気泡コンクリートの劣化要因は、外的な要因と内的な要因とに大別される。外的な要因とは、地震や火災、躯体の変形、風圧または荷重による疲労などである。一方、内的な要因としては、炭酸化、乾燥収縮と湿潤膨張の繰返し、凍害や塩害による補強鉄筋の錆などが挙げられる。
【0005】
水平部材である建築物の屋根や天井及び床は、重量物や人が乗るため、その安全性が確保されなければならない。従って、軽量気泡コンクリート水平部材では、劣化状況を判断し、それに応じて補修や改修を行わなければならない。劣化状況のレベルの内、例えば、撓みが大きくなって軽量気泡コンクリート水平部材の上に乗ることができなくなる程度まで劣化状況がひどい場合には、水平部材の下から別の鉄鋼部材によって補強するか、水平部材自体の取替えを行うことが広く行われている。
【0006】
実際には、軽量気泡コンクリート水平部材の劣化が最初に発見されるのは、欠片や粉の落下による場合が特に多い。従って、劣化レベルの内、水平部材にひび割れが出始め、欠片や粉の落下が見られる程度の軽度の劣化状況が、最も補修工事が必要な時期となる。即ち、水平部材にひび割れが出始めたり、欠片や粉が落下したりしている程度の劣化状況に対する補修方法が最も望まれている。また、その補修方法としては、多大な費用をかけずに短期間で実施でき、しかも建物内部の使用状態を妨げずに実施できる方法が望ましい。
【0007】
劣化したALC構造体の補修方法として、例えば特許文献1には、劣化した構造体から脆弱部を取り去った後、その部分にプライマーを塗布し、次に軽量モルタルを塗布し、更にポリマーセメント系表面被覆材を塗布する方法などがある。また、ALC外壁に対する補修方法に関しては、非特許文献1に補修方法の指針(案)が提示されている。しかしながら、上記の方法は、いずれも劣化が進行した状況での補修に関する方法であり、初期の軽度な劣化が認められた軽量気泡コンクリート水平部材の補修については適切な方法は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−087979号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ALC外壁補修方法研究委員会編,「ALC外壁補修方法指針(案)・同解説」,日本建築学会,2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、初期の軽度な劣化が認められた軽量気泡コンクリート水平部材に対して、多大な費用をかけることなく、短期間で、しかも建物内部の使用状態を妨げずに実施できる補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明が提供する軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法は、軽度な劣化が認められる軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法であって、剥落する粉や欠片を除去した後、該水平部材の劣化表面に建築用仕上げ塗材を用いてJIS A6909 7.29に規定された20℃における伸びが40〜120%である塗装膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軽度な劣化が認められる軽量気泡コンクリート水平部材に対し、多大な費用をかけずに短期間で、しかも建物内部の使用状態を妨げずることなく、表面塗装によって簡単に補修することができる。また、補修された軽量気泡コンクリート水平部材について、欠片や粉の落下を防ぐことができ、建物を快適に供用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明方法により補修した軽量気泡コンクリート水平部材の仕上がり状態を模式的に示す断面図である。
【図2】伸びが小さい塗装膜で補修した軽量気泡コンクリート水平部材の仕上がり状態を模式的に示す概略の断面図である。
【図3】伸びが大きい塗装膜で補修した軽量気泡コンクリート水平部材の仕上がり状態を模式的に示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法は、軽量気泡コンクリート水平部材にひび割れが出始めるか、又は欠片や粉が落下している程度の軽度な劣化状況に対する補修を対象とするものである。その補修方法としては、多大な費用をかけずに短期間で、建物内部の使用状態を妨げずに実施でき、しかも軽度な劣化に対しては欠片や粉の落下を防止することが重要であることから、塗装が最も適していると判断した。
【0015】
本発明の補修方法に使用する塗装種類としては、ひび割れや欠落の発生した水平部材表面に付着した塗装膜が水平部材の撓みに追随できることが重要であることから、数多くの種類がある塗装の中でも伸びに着目して塗装種類を選定した。即ち、本発明では、建築用仕上げ塗材を用いて、JIS A6909 7.29に規定された20℃における伸びが40〜120%である塗装膜を形成することが重要である。
【0016】
塗装膜の伸びがJIS A6909 7.29に規定された20℃における伸びが40%未満では、補修後に塗装膜が水平部材の撓みに追随することが難しく、ひび割れや剥がれなどが発生しやすい。しかも、塗装膜が薄くなり塗装膜の連続性が損なわれたり、水平部材表面に施されるタイル仕上げ、ゆず肌仕上げ、さざなみ仕上げ、凹凸仕上げなどの各種仕上げ模様(テクスチャー)を再生することが難しくなったりする。逆に伸びが120%を超えると、水平部材の撓みに対する追随性は優れるが、水平部材の下面から塗装膜がツララ状の凸部が発生するため好ましくない。
【0017】
更に、本発明における塗装膜は、JIS A6909 7.9に規定された標準状態での付着強さが0.5N/mm以上であることが好ましい。上記付着強さが0.5N/mm未満では、軽量気泡コンクリート水平部材の引張強度よりも低く、塗装膜が水平部材から剥離しやすくなるため好ましくない。
【0018】
このような特性を有する塗装膜は、軽量気泡コンクリート用のエポキシ系やリシン系の可撓性外装塗装材を用いて形成することができる。かかる塗装材の具体例としては、例えば、神東塗料(株)製のリフレエース(商品名)などを好適に使用することができる。尚、水平部材への塗装方法は、特に限定されるものではなく、ローラーなどを用いた軽量気泡コンクリートへの通常の塗装方法であってよい。
【0019】
本発明による軽量気泡コンクリート水平部材の具体的な補修方法は、例えば以下の手順によることが望ましい。まず、粉や塗装材が落下しやすい水平部材の周辺や室内などを汚れ防止のため養生する。次に、欠片が落ちた箇所など大きな脱落部分を軽量気泡コンクリート用モルタルなどで穴埋めし、水平部材の表面と段差のないように予め修復しておく。また、水平部材表面の汚れや粉など、塗装材の付着を阻害するものをハケやブラシなどにより取り除く。
【0020】
その後、必要に応じてシーラーを塗布した後、ローラーなどを用いた方法により建築用仕上げ塗材を水平部材表面に塗装する。例えば、塗装の仕様に応じて、3層構造(下塗り/主材/トップコート)あるいは2層構造(下塗り兼主材/トップコート)の塗装を行う。これらの塗装工事は、養生から後片付けまで含めて、通常の建物の場合には2〜3日、長くとも5日以内で完了することができる。
【実施例】
【0021】
実際に使用されて軽度な劣化が進行した軽量気泡コンクリート(ALC)水平部材の下側表面に対し、下記表1に示す7種類の異なる建築用仕上げ塗材をローラーにより塗装を施した。下記表1に示す各塗材の塗装膜の伸びはJIS A6909 7.29に規定された試験方法により20℃で測定し、付着強さはJIS A6909 7.9に規定された試験方法により標準状態で測定した。尚、上記伸びと付着強さについては、実際の塗装において測定された塗布量と同じ条件にてサンプルを作製して試験を実施した。
【0022】
上記7種類の異なる建築用仕上げ塗材を塗装した補修後の各ALC水平部材について、その施工性として塗布量を確認すると共に、塗装膜の連続性、変形追従性、及び仕上がり状態を評価し、その結果を下記表1に併せて示した。
【0023】
即ち、塗装膜の連続性は、欠片や粉の落下を防止する指標となるものであり、上記のごとく形成した塗装膜について空隙(塗装膜の一部が局所的に途切れている状態)やひび割れの有無を目視により確認し、ALC水平部材下面に塗装膜が連続して形成されている状態を○とし、それ以外を×と判定した。
【0024】
また、塗装膜の変形追従性については、補修後のALC水平部材の塗装面(下側表面)を下にした状態でJIS A5416に規定された曲げ試験を実施し、撓み率1/200まで変形させた時点での塗装膜のひび割れ及び剥離の有無を調べ、ひび割れ及び剥離がないものを○とし、ひび割れ及び剥離のいずれかが生じたものを×と判定した。
【0025】
塗装膜の仕上がり状態については、ALC水平部材の下側表面にタイル仕上げ模様となるように塗装膜を形成したとき、得られた塗装膜がタイル仕上げ模様に仕上がっている場合を○と判定し、塗装膜が薄すぎて模様が出来上がっていない場合や塗装膜の一部にツララ状の凸部が形成されている場合を×と判定した。
【0026】
【表1】

【0027】
上記表1から分るように、塗装膜の伸びが40〜120%でである本発明の試料1〜3では、評価項目は全て○であった。また、ALC水平部材の仕上がり状態を示す図1から明らかなように、塗装膜2aは水平部材1の下側表面にタイル仕上げ模様に仕上がっていた。従って、試料1〜3は水平部材の補修方法として適切であると総合的に判定できる。
【0028】
試料4〜7は比較例であり、そのうち試料4は伸びが10%と非常に小さい塗装膜であって、粘性が非常に低いため塗布量が極めて少なくなり、2mm程度のひび割れ及び5mm程度の窪みにおいて連続した塗装膜を形成することができなかった。また、仕上がり状態は、図2に示すように塗装膜2bが薄すぎるため、水平部材1の表面に存在する凹凸の様子が見える状態であった。変形追従性については、水平部材1の0.5mm程度の微細なひび割れ部分に塗装膜2bがかろうじて形成されたが、その塗装膜2bにはひび割れが生じていた。尚、図2においては、塗装断面の様子を分かりやすくするために、実際の大きさに対して水平部材1の下側表面部及び塗装膜2bの厚さを大きめに図示してある。
【0029】
また、比較例の試料5は、塗装膜の伸びが25%と小さく、粘性が比較的低いため、連続膜の形成はできたものの、塗布量が65%と十分ではなく、下地である水平部材の様子が見える程度に塗装膜が薄かった。また、変形追従性については、塗装膜とALC水平部材の間で剥がれが生じたが、これは付着強さが0.3N/mmと低かったことが起因していると考えられる。
【0030】
比較例である試料6及び7は、塗材の伸びが150%以上と非常に大きく、変形追従性は○と判定された。しかしながら、水平部材の下側表面に上向きでローラー塗布をするには粘度が高すぎるため、図3に示すように塗装膜2cにツララ状の凸部が形成されてしまったため、仕上がり状態は×と評価された。
【0031】
以上の結果から分るように、使用により軽度の劣化が進行した軽量気泡コンクリート水平部材の下面に、20℃における伸びが40〜120%である塗装膜を施すことにより、連続性及び変形追従性に優れた塗装膜を形成することができるうえ、塗布量も適切で、塗装膜の仕上がり状態も良好である。更に、塗装膜の付着強さが0.5N/mm以上であれば、塗装膜にひび割れや剥がれが発生することを防止できるため好ましいことも分かった。
【0032】
従って、ALC水平部材にひび割れが出始めたり、欠片や粉が落下したりしている程度の軽度の劣化状況に対する補修方法として、本発明による補修方法は多大な費用をかけずに短期間で、しかも建物内部の使用状態を妨げずに実施できるため、極めて有利である。
【符号の説明】
【0033】
1 軽量気泡コンクリート水平部材
2a、2b、2c 塗装膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽度な劣化が認められる軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法であって、剥落する粉や欠片を除去した後、該水平部材の劣化表面に建築用仕上げ塗材を用いてJIS A6909 7.29に規定された20℃における伸びが40〜120%である塗装膜を形成することを特徴とする軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法。
【請求項2】
前記塗装膜はJIS A6909 7.9に規定された標準状態での付着強さが0.5N/mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の軽量気泡コンクリート水平部材の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241362(P2012−241362A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110407(P2011−110407)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】