説明

軽金属材料

【課題】繊維材料により補強された軽金属材料を提供する。
【解決手段】SiO成分が50重量%未満である含珪素繊維を補強材とし、この含珪素繊維を軽金属に混合し、または軽金属の表面に密着して軽金属を補強して本発明の軽金属材料とした。含珪素繊維としては、例えば玄武岩を主成分とする玄武岩繊維が使用できる。玄武岩繊維は、長さが300μmから10mmである短繊維が3重量%から70重量%含まれるもの、または織布が好適に使用できる。また、玄武岩繊維の平均径が1から50μmであるのが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含珪素繊維により強化された軽金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
軽金属は、鉄、ステンレス等一般的に使用される金属に比較して著しく軽い特長を有し、一方、比重の小さなプラスチック材料に比較して強度が高い特長を有する。それらの特長を生かし、電子機器、自動車、航空機の軽量化材料として注目され使用されてきているが、先に述べた鉄、ステンレス等に比較して強度が低い等の相違があり、用途により、それらの相違点を改善することが求められている。また、OA機器等の筐体に使用する場合には、材料を薄板の形状として使用することが多いが、その際には薄板材の耐衝撃性の向上が求められる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、室温強度及び高温強度に優れたマグネシウム合金部材の製造方法が開示されている。また、下記特許文献2には、窒化マンガンと複合させて、線膨張係数を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−271919号公報
【特許文献2】特開2008−223077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来例では、強度及び線膨張係数の十分な改善は得られない。また、微量元素の調整と微結晶制御により課題の解決を目指すことは製造の際の条件設定が難しいという問題がある。また、樹脂材料の場合には、繊維強化プラスチック(FRP)等のように、繊維材料により補強する技術が知られているが、金属の繊維材料による補強は、一般的には行われていない。その大きな理由は、金属に混合する際の温度に耐えられる材料が限られることである。補強材料として使用される繊維としては、例えばアラミド繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等がある。アラミド繊維及びガラス繊維は繊維としての性能を保ちうる温度範囲は400℃以下であり、軽金属の補強材に使用することは困難である。また、耐熱性があるカーボン繊維は力学強度的にも優れているが、軽金属にカーボンが溶解する為、カーボン繊維の表面処理をしない限り使用できないという問題がある。また、他の繊維材料として、ホウ素繊維、チタン繊維等があるが、高価であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、繊維材料により補強された軽金属材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の軽金属材料の発明は、SiO成分が50重量%以下である含珪素繊維により補強されたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の軽金属材料において、前記含珪素繊維が玄武岩を主成分とする繊維であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の軽金属材料において、前記玄武岩を主成分とする繊維には、長さが300μmから10mmである繊維が3重量%から70重量%含まれることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の軽金属材料において、前記玄武岩を主成分とする繊維の平均径が1から50μmであることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の軽金属材料において、前記玄武岩を主成分とする繊維が織布であることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の軽金属材料において、軽金属がアルミニウム、亜鉛、マグネシウム及びそれらを主成分とする合金であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維材料により補強され、耐衝撃性及び高い強度を有する軽金属材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0015】
本実施形態にかかる軽金属材料は、SiO成分が50重量%未満である含珪素繊維を補強材とし、この含珪素繊維を軽金属に混合し、または軽金属の表面に密着して軽金属を補強したことを特徴としている。ここで、含珪素繊維としては、例えば玄武岩を主成分とする繊維(以降、玄武岩繊維という)等を使用することができる。このような含珪素繊維は、軽金属より高い強度を有し、高い融点を有するので、軽金属材料の強度の向上が可能となる。また、含珪素繊維を補強材として使用することにより、軽金属材料の耐衝撃性を高めることができる。
【0016】
上記含珪素繊維として使用される玄武岩繊維は、1500から1700℃の高温で溶融した後に、引き取ることにより繊維化させたものである。この玄武岩繊維の径は、小さくとも1μm、種々の用途を勘案すれば、大きくとも50μmである。径が小さいほどL/Dのアスペクト比が大きくなり、補強効果が大きくなるとともに繊維による軽金属材料表面の荒れを抑制することができる。しかし、径が1μmより小さくなると工業生産性が低下する。また、径が10μmより大きくなると繊維の取り扱いが容易となり、短繊維を混合する際の分散性も向上する。しかし、径が50μmを超えると、補強効果が低下し、軽金属材料表面の荒れが大きくなる。以上より、上記径の範囲が適切である。
【0017】
また、玄武岩繊維の形態は、溶融引き取りした長繊維でも該長繊維を集束したロービングでもよい。また、該長繊維を、チョッピングまたは粉砕した短繊維、超短繊維を使用することもできる。押し出し成形する際に短繊維は配向するので、線膨張係数を抑制することができる。その場合の繊維の長さは50μmから20mmが好適であり、さらに好ましくは300μmから10mmである。また、このような短繊維が3重量%から70重量%含まれる玄武岩繊維を使用することが、線膨張係数を抑制するために好適である。さらに、アスペクト比が5より大きいことが望ましい。
【0018】
また、玄武岩繊維には、長繊維または短繊維以外に、織布を使用することもできる。織布を使用することで、樹脂の分野でよく知られたFRPと同様な効果を軽金属材料にも期待できる。すなわち、軽金属を織布で補強することにより、面状の成形物の強度、耐衝撃性を改善することができる。これにより、筐体等への使用も可能になる。
【0019】
以上に述べた玄武岩繊維は、従来のガラス繊維に比較して、高耐熱、高強度、高剛性であり、軽金属の補強材として好適である。また、SiO成分を50重量%以下に減らした高融点硝子製の硝子繊維も高強度、高耐熱性を有し、上記補強材として使用することができる。さらに、繊維性能を少なくとも650℃以上まで保持する無機繊維も使用することができる。
【0020】
本実施形態において使用される軽金属は、通常知られる比重が3より小さい金属合金であり、具体的には、金属アルミニウム、アルミニウム合金、金属マグネシウム、マグネシウム合金、金属亜鉛、亜鉛合金などが好適に使用される。
【0021】
玄武岩繊維等の含珪素繊維が充分な補強効果を発現するには、含珪素繊維が軽金属と良好な界面相互作用を有することが必要である。ここで、含珪素繊維の主成分であるSiOと軽金属とが軽金属の溶融温度下で接触すると、軽金属が酸化され、SiOが還元され、この酸化還元反応により含珪素繊維と軽金属とが密着する。この場合、接触時間と温度とを適切に制御する必要がある。すなわち、含珪素繊維が融解する温度を超えない条件下で軽金属と複合化することが必要である。具体的には、例えば玄武岩繊維の場合、850℃を超えないこと、好ましくは650℃を超えないことが好適である。これにより、含珪素繊維が繊維として維持され、補強材として機能することができる。
【0022】
また、含珪素繊維は、含珪素繊維により補強された軽金属材料の3重量%から70重量%を使用するのが好適である。含珪素繊維が3重量%未満であると軽金属材料の耐衝撃性が十分に向上せず、70重量%を超えると軽金属成との混合が困難になり、軽金属の表面に繊維の形状が出て外観が悪くなる。
【実施例】
【0023】
以下、上記実施形態の具体例を実施例として説明する。
【0024】
〔実施例1〕
マグネシウム合金として市販のAZ91系合金(主要添加成分がアルミニウムと亜鉛)を使用し、これを黒鉛坩堝にて溶解させた。この坩堝に玄武岩繊維のチョップ(繊維径10μm、繊維長5mm)を40重量%加えて、溶融混合した。該混合物を450℃で50mm径、500mm長のビレットに成型した後、400℃にて押出して、厚さ1.60mmの板とした。その後、更に350℃で圧延し、玄武岩繊維で補強された厚さ0.8mmのマグネシウム合金板を得た。
【0025】
〔実施例2〕
市販のAZ91系合金を450℃で50mm径、500mm長のビレットに成型した後、350℃にて押出して、厚さ1.60mmの板とした。その後、更に330℃で圧延し、厚さ0.8mmのマグネシウム合金板を得た。この厚さ0.8mmのマグネシウム合金板2枚の間に、繊維径12μm、600texの玄武岩繊維で織った織布(目付け重量200g/平方インチ(31g/平方cm)、厚さ0.19mm)を挟み、380℃で圧延し、玄武岩繊維織布で補強された厚さ1.0mmのマグネシウム合金板を得た。
【0026】
〔実施例3〕
マグネシウム合金として市販のAM60系合金(主要添加成分がアルミニウムとマンガン)を使用し、これを実施例1と同様に黒鉛坩堝にて溶解させた。この坩堝に玄武岩繊維のチョップ(繊維径12μm、繊維長10mm)を25重量%加えて、溶融混合した。該混合物を450℃で50mm径、500mm長のビレットに成型した後、400℃にて押出して、厚さ1.60mmの板とした。その後、更に350℃で圧延し、玄武岩繊維で補強された厚さ0.8mmのマグネシウム合金板を得た。
【0027】
〔実施例4〕
市販のAM60系合金を450℃で50mm径、500mm長のビレットに成型した後、350℃にて押出して、1.60mm厚みの板とした。その後、更に330℃で圧延し、厚さ0.8mmのマグネシウム合金板を得た。この厚さ0.8mmのマグネシウム合金板2枚の間に、繊維径10μm、1200texの玄武岩繊維で織った織布(目付け重量120g/平方インチ(18.6g/平方cm)、厚さ0.14mm)を挟み、380℃で圧延し、玄武岩繊維織布で補強された厚さ0.8mmのマグネシウム合金板を得た。
【0028】
〔比較例1〜4〕
実施例1〜4において玄武岩繊維もしくは玄武岩繊維織布を使用しないことを除き、同一条件でマグネシウム合金板を得た。
【0029】
以上に述べた実施例1〜4及び比較例1〜4について外観の以上の有無及び1mの高さから2kgの鉄球を落下させた場合の変形を観察する試験(以降、鉄球落下試験という)を行い、各軽金属材料の評価を行った。その評価結果が表1に示される。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示されるように、実施例1〜4及び比較例1〜4のいずれにおいても、目視の結果、外観の異常は認められなかった。一方、鉄球落下試験においては、実施例1の最大変形が2mm、実施例2の最大変形が0.5mm、実施例3の最大変形が2.5mm及び実施例4の最大変形が0.8mmであった。これに対して、比較例1〜4では、いずれの軽金属材料にも割れが発生し、最大変形の測定ができなかった。なお、上記最大変形は、初期平面状態から鉄球が衝突して陥没した穴の最大深さの測定値である。
【0032】
以上の結果から、本実施例1〜4は、比較例1〜4に対して、靭性、耐衝撃性が高く、高強度であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO成分が50重量%以下である含珪素繊維により補強されたことを特徴とする軽金属材料。
【請求項2】
請求項1記載の軽金属材料において、前記含珪素繊維は玄武岩を主成分とする繊維であることを特徴とする軽金属材料。
【請求項3】
請求項2記載の軽金属材料において、前記玄武岩を主成分とする繊維には、長さが300μmから10mmである繊維が3重量%から70重量%含まれることを特徴とする軽金属材料。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の軽金属材料において、前記玄武岩を主成分とする繊維の平均径が1から50μmであることを特徴とする軽金属材料。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の軽金属材料において、前記玄武岩を主成分とする繊維が織布であることを特徴とする軽金属材料。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の軽金属材料において、軽金属がアルミニウム、亜鉛、マグネシウム及びそれらを主成分とする合金であることを特徴とする軽金属材料。

【公開番号】特開2010−180447(P2010−180447A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24016(P2009−24016)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(591138979)昭光通商株式会社 (2)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】