説明

輝水鉛鉱からのフェロモリブデンの製造方法

【課題】銅含量が高い低品位の輝水鉛鉱(Cu:0.5〜10wt%)から銅含量が0.5%以下であるフェロモリブデンを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は輝水鉛鉱精鉱からのフェロモリブデンの製造方法に関し、より具体的には、輝水鉛鉱と金属アルミニウム、鉄を加熱炉に入れて高温で反応させることにより、下部にフェロモリブデンを製造し、上部に硫化アルミニウムと硫化鉄が主成分であるスラグを形成して、輝水鉛鉱に存在する殆どの銅(80〜95%)をスラグ層に存在するようにすることで、銅含量が高い輝水鉛鉱から別途の銅除去工程を用いなくても直接に銅含量が0.5%以下のフェロモリブデンを製造する方法に関する。本発明は、従来の酸化後テルミット法(Thermite)に比べて、工程を短縮させることができ、還元剤であるアルミニウムの消耗を減らすことができる長所を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅含量が高い低品位の輝水鉛鉱(Cu:0.5〜10wt%)から銅含量が0.5%以下であるフェロモリブデンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデンは、天然から遊離された状態で産出されない比較的稀な元素であり、鉄鋼の熱間クリープ特性を改善し、かつ燒戻脆性を防止して、鋼の耐蝕性を増大させる役割をして、耐熱鋼の製造や耐蝕鋼の製造において合金元素として非常に重要な元素である。
【0003】
輝水鉛鉱(molybdenite、MoS)は経済性のあるモリブデンの一次的な原料であり、原鉱のうち濃度が比較的低く、通常的に約0.05〜0.1重量%に過ぎないが、硫化鉱の特性上、浮遊選別によって容易に回収濃縮される。利用可能な輝水鉛鉱の天然資源は殆ど中国、アメリカ、チリなどのいくつかの国に限られており、その殆どが銅鉱山の副産物から産出される。
【0004】
製鋼用フェロモリブデン中の銅含量は通常0.5%以下に制限される。輝水鉛鉱中の銅含量を低めるためには、銅鉱石も硫化鉱であるためモリブデンの回収率が低下されることが不可避である。これにより、鉱山によって銅含量が高い輝水鉛鉱精鉱も生産販売されている。従って、銅含量が高い輝水鉛鉱は酸化後、酸浸出工程によって銅を除去したり、あるいは銅含量が低い鉱石と混合して用いられる。
【0005】
フェロモリブデンは、重量比で50〜75%のモリブデンを含む鉄との合金であり、製鋼工程でモリブデンを添加するために主に用いられる。通常的にフェロモリブデンは、酸化モリブデン(MoO)と酸化鉄及び強い還元剤であるアルミニウムを混合して反応させるテルミット(Thermit)法によって製造される。テルミット法は、酸化モリブデンや酸化鉄からアルミニウムが酸素を奪って酸化しながら、瞬間的に多くの熱が発生して、反応温度が3000℃以上の高温に至る。この際、原料の中に銅が含まれていると、銅も還元されて、酸化物であるスラグより金属であるフェロモリブデン合金層に殆どが存在するようになる。従って、原料である酸化モリブデン中の銅含量が厳格に制限される。
【0006】
酸化モリブデンは輝水鉛鉱を560〜600℃で空気中で焙焼させて製造し、輝水鉛鉱中の銅含量が高い場合は、焙焼後に酸化鉱を酸浸出させて濾過することにより銅を除去する。この過程で、相当量のモリブデンも溶出されて浸出液に存在するため、溶媒抽出あるいはpH調節によって回収する。焙焼工程でモリブデン及び硫黄の燃焼により多量の熱が発生する。即ち、輝水鉛鉱中のモリブデンの酸化価は+4価であり、酸化鉱中では+6価である。従って、酸化鉱からフェロモリブデンを製造するためには、輝水鉛鉱より多い還元剤が要求される。また、テルミット工程は反応が爆発的に起きて、瞬時に反応が終わるため、反応調節が難しく、均一な製品を得ることができないという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の従来技術の問題点を解決するためのものであり、従来技術であるテルミット法に比べて、酸化工程を省略して直接還元することにより還元剤の量を減らすことができ、特に銅含量が高い輝水鉛鉱を原料として直接用いることができるフェロモリブデンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は輝水鉛鉱からのフェロモリブデンの製造方法において、前記製造方法は、輝水鉛鉱を焙焼せずに直接フェロモリブデンを製造する。この際、輝水鉛鉱の硫黄及び不純物を除去する方法として、輝水鉛鉱に鉄及び還元剤として金属アルミニウムを添加して、加熱炉で高温で反応させる。
【0009】
より具体的には、本発明によるフェロモリブデンの製造方法は、
a)銅含量が0.5〜10%である輝水鉛鉱に鉄及び金属アルミニウムを添加して混合する段階;
b)前記混合物をアルゴンガス雰囲気下で加熱装置内の温度を1,100〜2,000℃にして反応させる段階:及び
c)前記反応が終了した後、常温で自然冷凍させて反応生成物を得る段階;を含む。
【0010】
前記a)で、輝水鉛鉱に鉄及び金属アルミニウムを添加する混合重量比は、夫々輝水鉛鉱60〜70wt%、鉄15〜20wt%及び金属アルミニウム10〜20wt%であることが好ましい。前記混合重量比を外れると、硫黄及び不純物が円滑に除去されない可能性があり、硫化アルミニウムスラグ層中に銅分布が低くなる可能性がある。
【0011】
前記b)での反応は10〜30分間実施し、直接または間接加熱方式の炉を含む加熱装置の温度が1、400〜2,000℃で実施することが好ましい。前記温度を外れると、目的とする反応生成物を得ることが困難である。
【0012】
前記加熱装置は誘導加熱方式であることが好ましく、高周波発生装置を用いたルツボ外部に誘導コイルによる間接加熱方式を用いることがより好ましいが、これに限定されない。
【0013】
この際、加熱装置内の雰囲気はアルンゴンガス雰囲気であることが好ましく、加熱装置の外部でアルゴンガス流量は装置の気密保持程度に応じて調節し、外部空気流入を遮断することができる程度に十分に流した方が良い。
【0014】
前記反応により下部に銅含量が0.5%未満のフェロモリブデンを製造することができ、上部には硫化アルミニウム(Al)が主成分であり、少量の硫化鉄(FeS)を含むスラグ層を形成する。
【0015】
前記反応式は下記式(1)のように示すことができる。
【0016】
(1)3MoS+4Al+xFe→2Al+FeMo
【0017】
前記反応で、銅は硫黄と親和力が大きいため硫化物であるスラグ層に殆ど存在するようになり、分布比は還元電位、即ちアルミニウム添加量によって左右される。
【0018】
下記表1は輝水鉛鉱と金属アルミニウムを1,100〜2,000℃で反応させる時の定圧反応熱、ギブズ自由エネルギー及び反応平衡定数を示したものである。表1の平衡定数値から分かるように、平衡状態で生成スラグ中のモリブデンの濃度は非常に低いと予想することができる。しかし、反応熱は大きくないため、断熱反応温度は1、000℃程度にフェロモリブデンの溶融及び相分離のためには外部で熱を加えなければならない。
【0019】
【表1】

【発明の効果】
【0020】
上述のように、本発明によるフェロモリブデンの製造方法は、輝水鉛鉱を焙焼せずに直接還元することにより、工程を単純化させることができ、還元剤であるアルミニウムの消耗量を減らすことができる。特に、銅含量が高い輝水鉛鉱から別途の銅除去工程を用いなくてもフェロモリブデンを製造することができる。生成スラグが酸化物よりエネルギー準位が高い硫化アルミニウムであるため、テルミット法に比べて反応熱が小さく、直・間接加熱によって熱を補う必要があるが、スラグ中のアルミニウムのリサイクルはより容易であろうと思われる。既存の工程で焙焼、酸浸出、濾過、乾燥などに要されるエネルギーを勘案すると既存工程に比べて多いものではなく、加熱炉の出力を調節することにより反応を調節することができ、これにより、製品の均一性を実現して連続工程が可能であるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による還元反応装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例によるフェロモリブデンのXRDパターンを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0023】
但し、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記実施例により限定されるのではない。
【0024】
粉末形態の輝水鉛鉱精鉱を、別途の処理なしに金属鉄及び金属アルミニウムと適切な混合装置を利用して混合する。還元剤であるアルミニウムの添加量は鉱石中の還元対象成分、即ちモリブデンと鉄、銅などの含量によって決まり、鉄は最終製品であるフェロモリブデン中のモリブデン含量を推算して決める。
【0025】
図1は本発明の具体的な実施のために実験室規模に作られた還元装置の概略図であり、加熱装置は直接または間接方式の両方の炉が用いられることができるが、好ましくは誘導加熱方式であることが好ましい。
【0026】
図1において、高周波電源装置としては電力容量が50KVA、周波数が7kHzであるものを用いて、外径が13cm、高さが16cmである黒鉛ルツボ発熱体を用いた。
【0027】
本発明による装置は、大容量の産業設備に用いられる場合、鉄溶湯を形成した後、アルミニウムと輝水鉛鉱を添加すると別途の発熱体がなくても生産が可能である。
【0028】
図1に示すように、混合が終了した試料をアルミナルツボに入れて黒鉛ルツボ内に装入した後、蓋をして空気を遮断する。その後、アルゴンガスを一定時間流して空気を除去した後、高周波加熱炉目標温度で加熱して反応させる。
【0029】
上述のように構成された本発明による実施例1から6を、添付図面の図1の装置で下記のように遂行した。
【0030】
本実験で用いた鉱石は粒子サイズが48メッシュ(mesh)以下であり、主要成分がMo:49.3%、S:34.8%、Cu:1.62%、Fe:2.17%、脈石:8.11%で構成された輝水鉛鉱精鉱である。試料に用いた還元剤であるアルミニウムは粉末形態であり、純度99.7%以上、粒度は16#以下のものである、また、添加剤である鉄も粉末形態であり、純度が98%以上、粒度が200#以下のものを用いた。
【0031】
<実施例1>
試料の混合は、輝水鉛鉱192g、鉄粉末56g、アルミニウム粉末32gを1l用量のボールミルにセラミックボール(直径:2cm)充填率が50%である条件で、140rpmで30分間回転させて遂行した後、ボールを分離して還元実験の試料として用いた。
【0032】
還元反応は、反応器として直径8cm、高さ12cmのアルミナルツボを用いて、混合試料を反応器に入れて、図1に示した装置の黒鉛ルツボに装入して実験を遂行した。アルゴンの流量は5l/minの流速で20分間流した後、加熱を開示して70分に1、690℃まで上げて10分間反応させた後、12時間放置して常温まで自然冷凍させた。反応生成物は、本実験の領域内でスラグとフェロモリブデンに良好に分離され、この時製造したフェロモリブデンの特性を図2に示すように、XRDパターンを分析した。
【0033】
<実施例2>
試料混合において、アルミニウム粉末の添加量が36gであることを除いては実施例1と同一に実施した。
【0034】
<実施例3>
試料混合において、アルミニウム粉末の添加量が38gであることを除いては実施例1と同一に実施した。
【0035】
<実施例4>
試料混合において、アルミニウム粉末の添加量が44gであることを除いては実施例1と同一に実施した。
【0036】
<実施例5>
試料混合において、アルミニウム粉末の添加量が50gであることを除いては実施例1と同一に実施した。
【0037】
<実施例6>
試料混合において、アルミニウム粉末の添加量が56gであることを除いては実施例1と同一に実施した。
【0038】
(分析結果)
下記表2は、実施例1から6で製造したフェロモリブデン中のモリブデン(Mo)の含量と不純物である銅の濃度及び除去率を示したものである。表2に示すように、本発明による実施例で製造したフェロモリブデン中のモリブデン(Mo)の含量は55%以上であることが分かり、銅の除去率はアルミニウム添加量が36gである時、MoS基準当量で最大96%程度で一番高く、添加量が増加するにつれて銅の除去率は減少することを確認することができた。
【0039】
【表2】

【0040】
図2は実施例1から6で製造したフェロモリブデンのX線回析パターン(X-ray Diffraction Pattern)を示したものであり、アルミニウム添加量が38g以上(Morlwns化学当量の105%)で金属硫化物相が存在しないことを確認することができた。
【0041】
前記実施例から分かるように、輝水鉛鉱に鉄と還元剤であるアルミニウムを添加して誘導加熱炉で反応させることにより、最大含有された銅の95%以上を除去することができるため、銅含量が高い輝水鉛鉱から別途の銅除去工程を用いなくても製鋼用フェロモリブデンを製造することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 熱電対
2 誘導コイル
3 カーボン発熱体
4 アルミニウムルツボ
5 試料
6 アルゴン
7 高周波発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)銅含量が0.5〜10%である輝水鉛鉱に鉄及び金属アルミニウムを添加して混合する段階;
b)前記混合によって得られた混合物をアルゴンガス雰囲気下で加熱装置内の温度を1,100〜2,000℃にして反応させる段階;及び
c)前記反応が終了した後、常温で自然冷凍させて反応生成物を得る段階;を含むフェロモリブデンの製造方法。
【請求項2】
前記a)の混合する段階において、輝水鉛鉱60〜70wt%、鉄15〜20wt%及び金属アルミニウム10〜20wt%とすることを特徴とする請求項1に記載のフェロモリブデンの製造方法。
【請求項3】
前記反応生成物の銅含量が0.5%未満であることを特徴とする請求項1に記載のフェロモリブデンの製造方法。
【請求項4】
前記加熱装置が直接または間接加熱方式の炉を含む請求項1に記載のフェロモリブデンの製造方法。
【請求項5】
前記加熱装置は誘導加熱方式であることを特徴とする請求項4に記載のフェロモリブデンの製造方法。
【請求項6】
前記b)段階での反応を10〜30分間実施することを特徴とする請求項1に記載のフェロモリブデンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−529570(P2012−529570A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530793(P2012−530793)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【特許番号】特許第5074642号(P5074642)
【特許公報発行日】平成24年11月14日(2012.11.14)
【国際出願番号】PCT/KR2010/007193
【国際公開番号】WO2012/026649
【国際公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(506081530)コリア インスティチュート オブ ジオサイエンス アンド ミネラル リソースズ (21)
【Fターム(参考)】