説明

輪成分を複数有するロタキサン、その製造方法、およびそれからなる架橋剤

【課題】 輪成分の個数を制御可能なロタキサンを提供する。また、該ロタキサンを利用して、架橋点が自由に移動する架橋剤、すなわち、いわゆるトポロジカル架橋剤を提供する。更に、該ロタキサンの製造方法、該ロタキサンを利用した架橋方法、および該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマーを提供する。
【解決手段】 一般式R−R−R(式中、Rは独立に、エンドキャップとして働く一価の基であり、Rは直鎖状の二価の基からなる直鎖部である。)で表される軸成分と、
該軸成分の直鎖部を周回する状態で保持される、少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテル分子少なくとも二個からなる輪成分と、
を有するロタキサン、および該ロタキサンからなる架橋剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテル分子を少なくとも二個輪成分として有するロタキサン、該ロタキサンからなる架橋剤、該ロタキサンの製造方法、該ロタキサンを利用した架橋方法、および該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
物理架橋または化学架橋によって架橋体が作られ、ゲル、ビーズなどとして利用されている。物理架橋体は時間の経過や条件によって性質が変化しやすいという欠点がある。一方、化学架橋体では架橋点が化学結合で固定されているため、架橋体が引っ張られたときに架橋点間の長さが短い結合にはより大きな負荷がかかりやすい。結果として、機械的強度に優れた架橋体が得にくい。
【0003】
これに対し、架橋点が自由に移動できる架橋剤、すなわち、いわゆる「トポロジカル架橋剤」を用いれば、架橋点が移動できるために負荷が分子鎖全体にまんべんなくかかり、機械的強度に優れた架橋体を得ることができる。ロタキサンは軸成分と輪成分とからなり、輪成分が軸成分上を自由に移動できるので、トポロジカル架橋剤としての利用が試みられている。例えば、シクロデキストリンを輪成分として有するロタキサンを用いたトポロジカル架橋剤が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、−N−で表されるアンモニウム基を鎖中に一個有し、両末端にヒドロキシル基を有する直鎖状化合物と、官能基を有さないクラウンエーテルとを反応させてクラウンエーテルと前記アンモニウム基との相互吸引作用による両者の会合体を生成させ、次に、該会合体中の直鎖状化合物の両末端ヒドロキシル基を嵩高い基を持つ酸無水物でエンドキャップすることにより、輪成分として官能基を有さないクラウンエーテルを一個有するロタキサンを合成することが知られている(非特許文献1)。また、−N−で表されるアンモニウム基を鎖中に四個有し、両末端にヒドロキシル基を有する直鎖状化合物と、官能基を有さないクラウンエーテルとから、非特許文献1と同様にして、四個のクラウンエーテル分子を有する会合体を得、次に、エンドキャップすることにより、輪成分として官能基を有さないクラウンエーテルを四個有するロタキサンを合成することが知られている(非特許文献2)。
【0005】
しかし、これまでに合成されているロタキサン架橋剤には、用いることのできるポリマーが限られていること、合成ステップが長いこと、輪成分の個数が制御できないので得られる架橋体の性質を制御できないことなどの問題があった。
【0006】
【特許文献1】特許第3475252号公報
【非特許文献1】N. Kihara, J.-I. Shin, Y. Ohga, T. Takata, Chem. Lett., 2001, pp.592-593
【非特許文献2】N. Watanabe, N. Kihara, T. Takata, Chem. Comm. 2002, pp.2720-2721
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、輪成分の個数を制御可能なロタキサンを提供することである。
【0008】
また、本発明の目的は、該ロタキサンを利用して、架橋点が自由に移動する架橋剤、すなわち、いわゆるトポロジカル架橋剤を提供することである。
【0009】
更に、本発明の目的は、該ロタキサンの製造方法、該ロタキサンを利用した架橋方法、および該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決する手段として、
一般式R−R−R(式中、Rは独立に、エンドキャップとして働く一価の基であり、Rは直鎖状の二価の基からなる直鎖部である。)で表される軸成分と、
該軸成分の直鎖部を周回する状態で保持される、少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテル分子少なくとも二個からなる輪成分と、
を有するロタキサン、および該ロタキサンからなる架橋剤を提供する。
【0011】
更に、本発明は、前記ロタキサンを製造する方法であって、
(1)少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテルと、一般式(i):
−R2a−Y (i)
(式中、Rは上記の通りであり、R2aは、前記クラウンエーテルと相互吸引作用を行う基または原子Xを少なくとも1個有する二価の基であり、Yは反応性基である。)
で表される化合物とを反応させることにより、前記一般式(i)の化合物が該クラウンエーテルの環内に相互吸引作用により保持されてなる会合体を得、
(2)該会合体を、一般式(ii):
Z−R2b−Z (ii)
(式中、R2bは直鎖状の二価の基であり、Zは前記Yと反応する反応性基である。)
で表される化合物と反応させることにより、一般式(iii):
−R2’−R(iii)
(式中、Rは上記の通りであり、R2'は前記Xを少なくとも2個有する直鎖状の二価の基である。)
で表され、前記クラウンエーテルが前記Xに前記相互吸引作用により保持されている化合物を得、
(3)前記Xを、前記相互吸引作用を行わない基または原子に変換すること
を含む、上記ロタキサンの製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記ロタキサンにより、該ロタキサンが有する官能基と反応する反応性基を一分子中に少なくとも2個有するポリマー成分を架橋させることからなるポリマー成分の架橋方法、および該架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマーを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のロタキサンはトポロジカル架橋剤として用いることができる。また、本発明の製造方法によれば、短いステップで効率よく、ロタキサンを合成することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、ロタキサンの輪成分の個数を制御することができるので、得られる架橋体の性質を制御することもできる。本発明によるトポロジカル架橋剤および架橋方法は特定のポリマーに限らず用いることができる。このように、本発明は、強度が高い新素材、更には、ゲルなどのように高機能性の新素材の開発への利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。なお、本明細書において、「Ac」はアセチル基を、「Me」はメチル基を、「tBu」はtert−ブチル基を意味する。
【0015】
[軸成分]
本発明のロタキサンの軸成分は、一般式R−R−R(式中、Rは独立に、エンドキャップとして働く一価の基であり、Rは直鎖状の二価の基からなる直鎖部である。)で表される。
【0016】
前記Rは、本発明のロタキサンの輪成分を、前記軸成分の直鎖部を周回する状態で保持させることができる限り、特に制限されない。例えば、前記輪成分を構成するクラウンエーテル分子の環を通り抜けることができない程度に嵩高い一価の基が挙げられる。その具体例としては、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジニトロフェニル基、4−tert-ブチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、tert-ブチル基、トリチル基などが挙げられ、中でも3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−tert-ブチルフェニル基が好ましい。
【0017】
前記Rは特に制限されないが、高分子鎖であることが好ましい。Rとしては、例えば、下記の基が挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

(式中、Rは直鎖状の二価の基、例えば、−(CH−で表される二価の基(mは好ましくは2〜18、より好ましくは2〜12の整数である。)を表し、nは好ましくは1〜10000、より好ましくは100〜10000の整数である。)
【0020】
[輪成分]
本発明のロタキサンの輪成分は、前記軸成分の直鎖部を周回する状態で保持される、少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテル分子少なくとも二個からなる。該輪成分は該軸成分の直鎖部上を自由に動くことができる。一方、軸成分の両末端に存在するエンドキャップ(基R)により直鎖部(基R)上に保持される。
【0021】
前記輪成分を構成するクラウンエーテル分子の環の員数は好ましくは22〜30、より好ましくは24〜28である。該クラウンエーテル分子の環には炭素原子および酸素原子だけでなく、窒素原子、硫黄原子などが存在していてもよい。該クラウンエーテル分子としては、例えば、ジベンゾ−24−クラウン−8、24-クラウン-8、ベンゾ-24-クラウン-8、ビス(ビナフチル)-28-クラウン-8、ビス(ビフェニル)-28-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、 ベンゾ/ビナフチル-24-クラウン-8などが挙げられ、中でもジベンゾ−24−クラウン−8、24-クラウン-8、ベンゾ-24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8が好ましい。
【0022】
前記官能基としては、例えば、メルカプトメチル基、メルカプト基、アミノメチル基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシルメチル基、カルボキシル基、カルボキシルメチル基、ハロゲノメチル基、ハロゲン基などが挙げられ、中でもメルカプトメチル基、メルカプト基、アミノメチル基、アミノ基が好ましい。クラウンエーテル1個あたりの官能基の数は、少なくとも1である限り、かつ、構造上可能である限り特に制限されないが、通常1〜8の範囲で容易に制御することができる。ロタキサン1分子当りのクラウンエーテル分子の数は少なくとも2個であり、2〜16の範囲で制御することができる。
【0023】
少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテル分子の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0024】
【化3】

(式中、nおよびmはそれぞれ0〜3の整数である。)
【0025】
[架橋剤]
本発明のロタキサンは、一個の軸成分と少なくとも二個の輪成分とからなる。各輪成分上に少なくとも一個の官能基を有するので、本発明のロタキサンは全体として二個以上の官能基を有し、架橋剤として用いることができる。架橋点となる官能基の数は、クラウンエーテル一個当りの官能基数および/またはロタキサン1分子当りのクラウンエーテル分子数を調節することによって所望のように変えることができる。架橋剤としてどのような挙動、どの程度の架橋点数が求められるか、個別の要求に応じて制御することができる。通常は、クラウンエーテル一分子当り官能基数が1〜8(好ましくは2〜8)で、ロタキサン全体としては官能基数が2〜16(好ましくは4〜16)でよい。なお、各クラウンエーテル分子上の官能基数は同じでも異なってもよい。
【0026】
前記輪成分は前記軸成分上を自由に移動することができるので、本発明のロタキサンを架橋剤として用いた場合、架橋点となる輪成分と軸成分との交点は軸成分上を自由に移動することができる。すなわち、本発明のロタキサンはトポロジカル架橋剤として用いることができる。
【0027】
[製造方法]
本発明の製造方法では、工程(1)において、少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテルと、一般式(i):
−R2a−Y (i)
(式中、Rは上記の通りであり、R2aは、前記クラウンエーテルと相互吸引作用を行う基または原子Xを少なくとも1個有する二価の基であり、Yは反応性基である。)
で表される化合物とを反応させることにより、前記一般式(i)の化合物が該クラウンエーテルの環内に相互吸引作用により保持されてなる会合体を得る。前記Xの数を変えることにより、所望の個数のクラウンエーテル分子を前記会合体中に保持させることができ、最終的には本発明のロタキサンに含まれる輪成分の個数を制御することができる。
【0028】
前記Xとしては、例えば、−N−で表される基、−NH(Me)−で表される基などが挙げられ、中でも−N−で表される基が好ましい。
【0029】
前記R2aとしては、例えば、下記の基が挙げられる。
【0030】
【化4】

(式中、nは好ましくは1〜4の整数であり、Wは−O−などの二価の官能基を表す。)
【0031】
前記Yは、後述する反応性基Zと反応する反応性基である限り特に制限されない。前記Yとしては、例えば、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、イソシアナート基、アミノ基、トリチルオキシ基、トリチルチオ基、イソチオシアナート基などが挙げられ、中でも水酸基、メルカプト基、アミノ基が好ましい。
【0032】
前記会合体の形成は、前記クラウンエーテルと一般式(i)で表される化合物とを溶液中で混合することで行われる。溶媒は特に制限されないが、例えば、クロロホルム、ベンゼン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、トルエンなどを用いることができる。
【0033】
次に、本発明の製造方法の工程(2)では、前記会合体を、一般式(ii):
Z−R2b−Z (ii)
(式中、R2bは直鎖状の二価の基であり、Zは前記Yと反応する反応性基である。)
で表される化合物と反応させることにより、一般式(iii):
−R2’−R(iii)
(式中、Rは上記の通りであり、R2'は前記Xを少なくとも2個有する直鎖状の二価の基である。)
で表され、前記クラウンエーテルが前記Xに前記相互吸引作用により保持されている化合物を得る。
【0034】
前記R2bは特に制限されないが、高分子鎖であることが好ましい。R2bとしては、例えば、下記の基が挙げられる。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

(式中、nは好ましくは1〜10000、より好ましくは100〜10000の整数である。)
【0037】
前記Zは、前記Yと反応する反応性基である限り特に制限されない。前記YとZとの組み合わせとしては、例えば、水酸基とイソシアナート基、水酸基とカルボキシル基、メルカプト基とメルカプト基、カルボキシル基とアミノ基、水酸基とイソチオシアナート基、アミノ基とイソシアナート基、メルカプト基とイソシアナート基、メルカプト基とカルボキシル基などが挙げられ、中でも水酸基とイソシアナート基、メルカプト基とイソシアナート基、アミノ基とイソシアナート基が好ましい。
【0038】
前記会合体と一般式(ii)で表される化合物との反応は、前記Yと前記Zとを当業者に公知の方法で反応させることにより行うことができる。場合により、三級アミン、ジラウリン酸ジ-n-ブチルスズ、トリフロロボロン酸エーテル錯体などの触媒を添加してもよい。例えば、Yが水酸基、Zがイソシアナート基の場合には、前記会合体に一般式(ii)で表される化合物と触媒であるジラウリン酸ジ-n-ブチルスズとを添加することにより反応を行うことができる。反応温度は特に制限されないが、好ましくは室温である。通常、一晩、放置することで反応を十分に進行させることができる。反応は通常、溶液中で行われる。溶媒は特に制限されないが、例えば、クロロホルム、ベンゼン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレン、トルエンなどを用いることができる。
【0039】
本発明の製造方法の工程(3)では、前記Xを、前記相互吸引作用を行わない基または原子に変換し、本発明のロタキサンを生成させる。この変換により、前記相互吸引作用は失われ、前記クラウンエーテルは前記Rの間の直鎖部上を自由に動くことができるようになる。
【0040】
前記相互吸引作用を行わない基または原子としては、例えば、前記Xが−N−で表される基である場合には−NAc−で表される基が挙げられる。
【0041】
上記の変換は、当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、前記Xが−N−で表される基である場合には、一般式(iii)で表される化合物をDMF中、トリエチルアミン存在下で無水酢酸と反応させることにより、前記Xを−NAc−で表される基に変換することができる。
【0042】
生成したロタキサンの精製は、例えば、分取ゲル透過クロマトグラフィーなどの当業者に公知の方法で行うことができる。また、生成したロタキサンの同定はH−NMR、IRスペクトル、元素分析などの当業者に公知の方法で行うことができる。
【0043】
[架橋方法および架橋ポリマー]
本発明の架橋方法において、本発明のロタキサンにより架橋されるポリマー成分が有する少なくとも2個の反応性基は、該ロタキサンが有する官能基と反応する限り、特に制限されない。例えば、前記官能基がメルカプトメチル基である場合には、メルカプト基、イソシアナート基などが挙げられる。他の組み合わせとしては、例えば、ヒドロキシルメチル基とイソシアナート基やイソチオシアナート基、アミノ基とイソシアナート基やイソチオシアナート基、ヒドロキシル基とハロゲン化カルボニル基(−COX;Xはハロゲン)やケテン基などが挙げられる。
【0044】
本発明の架橋方法を用いて前記ポリマー成分を架橋させることにより架橋ポリマーを得ることができる。
【0045】
本発明の架橋剤を用いて架橋させるのに適したポリマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、下記式で表されるポリマーが挙げられる。
【0046】
【化7】

(式中、nは好ましくは1〜10000、より好ましくは100〜10000の整数である。)
【実施例】
【0047】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0048】
[調製例1] 二官能性クラウンエーテルの合成
アルゴン雰囲気下、ジベンゾ−24−クラウン−8 10.8g(24.1mmol)、ヘキサメチレンテトラミン14.0g(99.1mmol)をトリフルオロ酢酸50mLに溶解し、得られた溶液を80℃で一晩撹絆した。この溶液に水30mLを加え室温で2時間撹拌した後、クロロホルムを加えて油層を分離し、油層のクロロホルムを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液/クロロホルム→2%メタノール-クロロホルム)により精製し、白色固体として下記のジホルミル体10.5g(20.8mmol,86%)を得た。
【0049】
【化8】

【0050】
上記のジホルミル体10.5g(20.8mmol)をTHF120mLに溶解した後、氷浴下、水素化アルミニウムリチウム3.95g(83.2mmol)を少しずつ加えて懸濁させ、一晩還流した。飽和硫酸ナトリウム水溶液で過剰な水素化アルミニウムリチウムを分解し、析出した固体を吸引ろ過し、更にTHFで洗浄し、ろ液からTHFを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液/クロロホルム→3%メタノール-クロロホルム)により精製し、白色固体として下記のジオール8.90g(17.5mmol,84%)を得た。
【0051】
【化9】

【0052】
上記のジオール0.254g(0.500mmol)にDMF2.5mLを加えて溶解し、得られた溶液に塩化チオニル0.30mL(4.10mmol)を加えた。室温で30分撹拌後、水を加えて吸引ろ過し、肌色固体として下記の塩化物0.214g(0.392mmol,78%)を得た。
【0053】
【化10】

【0054】
DMF4.0mLに上記の塩化物0.214g(0.392mmol)、続いてチオ酢酸カリウム0.359g(2.83mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。水を加えた後、クロロホルムにより抽出し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液/クロロホルム)により精製し、薄茶色固体として下記のチオエステル基含有二官能性クラウンエーテル0.185g(0.294mmol,75%)を得た。
【0055】
【化11】

【0056】
[調製例2] 一般式(i)で表される化合物の合成
トルエン51.0g(0.550mol)にtert-ブチルクロライド103g(1.10mol)を加え、無水塩化アルミニウム3.04g(0.0230mol)を6時間かけて少しずつ加えた後、室温で24時間撹拌した。これを、冷希硫酸水溶液に加えて、油層を水で洗浄後、飽和炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥したのち、溶媒(トルエン)を減圧留去した。残渣を減圧蒸留により精製し、無色オイルとして45.3g(0.222mol)の3,5-ジ-tert-ブチルトルエンを得た。
【0057】
3,5-ジ-tert-ブチルトルエン21.8g(107mmol)、ピリジン86mL(1.07mol)に5M KOH水溶液40mLを加えたのち、氷浴下で過マンガン酸カリウム37.1g(235mmo1)を少しずつ加え、一晩還流した。2M硫酸300mLを加え、吸引ろ過し、残渣を水、続いて酢酸エチルで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣をn-ヘキサンで再結晶し、白色固体として3,5-ジ-tert-安息香酸9.83g(41.9mmol,16%)を得た。
【0058】
3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸14.41g(18.8mmol)を塩化チオニル10.0mL(137mmol)に加え、50℃で一晩撹拌後、過剰の塩化チオニルを減圧留去した。更にベンゼンを加えて共沸させ、残っている塩化チオニルを除去した。このようにして合成された酸クロリドをTHF20mLに溶解させて得た溶液を、3-アミノ-1-プロパノール4.32g(56.4mmol)をTHF20mLに加えて得た溶液に、氷浴下で少しずつ滴下した。滴下後、室温で2時間撹拌した後、水50mL、3M HCl 100mLを加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を無水硫酸マグネシウムにより乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣を減圧乾燥し、白色固体として下記のアミド5.17g(17.7mmol,94%)を得た。
【0059】
【化12】

【0060】
上記のアミド5.17g(17.7mmol)にTHF50mLを加えて溶解させた後、氷浴下で水素化リチウムアルミニウム2.50g(52.8mmol)を加え、一晩還流した。還流後、飽和硫酸ナトリウム水溶液を加え、過剰な水素化リチウムアルミニウムを分解した。これを吸引ろ過し、固体を酢酸エチルにより洗浄し、ろ液から溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液/クロロホルム→3%メタノール-クロロホルム)により精製を行い、無色オイルとして4.78g(17.3mmol)のアミン化合物を得た。これにメタノール40mLを加えて溶解させ、氷浴下でlO% HPF6 40mLを撹拌しながら少しずつ加え、析出した白色固体を吸引ろ過した。更に、白色固体に水100mLを加えてろ過し、合わせたろ液を冷却し白色固体を析出させ、吸引ろ過した。この操作を3回繰り返した後、白色固体をアセトニトリルで洗浄・ろ過し、ろ液を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。ろ液の溶媒を減圧留去し、減圧乾燥後白色固体として下記の化合物7.15g(16.9mmol,95%)を得た。この化合物を一般式(i)で表される化合物として本発明のロタキサンの製造に用いた。
【0061】
【化13】

【0062】
[調製例3] 末端フェニレンジイソシアナート化ポリテトラヒドロフランの合成
無水ポリテトラヒドロフラン0.624g(0.624mmol)にクロロホルム4mLを加えた。この溶液をアルゴン雰囲気下で、m-フェニレンジイソシアナート1.00g(6.24mmol)をクロロホルム10mLに加えることにより得た溶液にゆっくり滴下した。その後、ジラウリン酸ジ-n-ブチルスズ18.9mg(30.0μmol)を加え、室温で1日撹拌し、蒸留により精製し、白色固体として下記の末端フェニレンジイソシアナート化ポリテトラヒドロフランを得た。この化合物を一般式(iii)で表される化合物として本発明のロタキサンの製造に用いた。
【0063】
【化14】

(式中、nは1〜10000の整数を表す。)
【0064】
[実施例1] [3]ポリロタキサンの製造
調製例1で得られた二官能性クラウンエーテル430mg(0.684mmol)および調製例2で得られた化合物276mg(0.653mmol)にクロロホルム1.5mLを加えて溶解させた後、調製例3で得られた末端フェニレンジイソシアナート化ポリテトラヒドロフラン386mg(0.311mmol)をクロロホルム0.50mLに溶かして加えた。その後、ジラウリン酸ジ-n-ブチルスズ42mg(60μmol)を加え、室温で1日撹拌した。分取GPCの高分子量体のフラクションを分取し、薄茶色固体として下記の[3]ポリロタキサン838mg(導入率80%)を得た。
【0065】
【化15】

【0066】
上記の[3]ポリロタキサン820mg(0.286mmol)にDMF2.00mLを加えて溶解させ、トリエチルアミン0.29mL(2.10mmol)を加えた。その後、無水酢酸0.180mL(1.80mmol)を加え、一晩撹拌した。撹拌後、2M HCl 30mLを加え、クロロホルムで抽出し、無水硫酸マグネシウムにより乾燥した。その後、溶媒を減圧留去し、分取GPCにより精製し、白色固体として下記のN-アセチル化[3]ポリロタキサン681mgを得た。
【0067】
【化16】

(Rは上記の通りである。)
【0068】
脱気したメタノール30mLをアルゴン雰囲気下でアセチルクロリド0.509mL(4.50mmol)に加え、溶解した。このメタノール溶液20mLをアルゴン雰囲気下、上記のN-アセチル化[3]ポリロタキサン404mgに加え8時間還流した。溶媒を減圧留去した後、減圧乾燥させ、黄色固体として下記の[3]ポリロタキサン403mgを得た。この[3]ポリロタキサンは4個のチオール基を有し、トポロジカル架橋剤として用いることができる。
【0069】
【化17】

(Rは上記の通りである。)
【0070】
[実施例2] ポリロタキサンネットワークの合成
チオール基がオレフィン、イソシアナート、チオールなどの様々な基質と容易に反応することが知られている。そこで、実施例1で得られたチオール基含有[3]ポリロタキサンを架橋剤として用いて、ポリロタキサンネットワークの合成を行った。
【0071】
該チオール基含有[3]ポリロタキサン65.5mg(0.0222mmol)をクロロホルムO.2mLに溶解させて得た溶液に、下記の末端トリレンジイソシアナート化されたポリブタンジオール1236.Omg(0.0355mmol)を加えた。
【0072】
【化18】

(式中、nは好ましくは1〜10000、より好ましくは100〜10000の整数である。)
【0073】
その後、触媒であるジラウリン酸ジ-n-ブチルスズ6.30mg(10.0μmol)を加え、室温で一日撹拌した。その結果、無色透明のゲルが沈殿した。溶媒を減圧留去した後、このゲルを減圧乾燥させて、黄色固体としてポリロタキサンネットワーク100mg(98%)を得た。
【0074】
生成したポリロタキサンネットワークは、クロロホルムで膨潤しているときは、もろくて粘性の高い寒天のようであるが、乾燥してくると徐々に固くなり、完全に乾燥すると少し柔軟性のある固体となった。そのゲルのクロロホルムに対する室温での膨潤率は2500%であった。なお、膨潤率は以下の式で表される:膨潤率=(膨潤時の重量−乾燥時の重量)/(乾燥時の重量)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式R−R−R(式中、Rは独立に、エンドキャップとして働く一価の基であり、Rは直鎖状の二価の基からなる直鎖部である。)で表される軸成分と、
該軸成分の直鎖部を周回する状態で保持される、少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテル分子少なくとも二個からなる輪成分と、
を有するロタキサン。
【請求項2】
請求項1に記載のロタキサンからなる架橋剤。
【請求項3】
請求項1に記載のロタキサンを製造する方法であって、
(1)少なくとも一個の官能基を有するクラウンエーテルと、一般式(i):
−R2a−Y (i)
(式中、Rは上記の通りであり、R2aは、前記クラウンエーテルと相互吸引作用を行う基または原子Xを少なくとも1個有する二価の基であり、Yは反応性基である。)
で表される化合物とを反応させることにより、前記一般式(i)の化合物が該クラウンエーテルの環内に相互吸引作用により保持されてなる会合体を得、
(2)該会合体を、一般式(ii):
Z−R2b−Z (ii)
(式中、R2bは直鎖状の二価の基であり、Zは前記Yと反応する反応性基である。)
で表される化合物と反応させることにより、一般式(iii):
−R2’−R(iii)
(式中、Rは上記の通りであり、R2'は前記Xを少なくとも2個有する直鎖状の二価の基である。)
で表され、前記クラウンエーテルが前記Xに前記相互吸引作用により保持されている化合物を得、
(3)前記Xを、前記相互吸引作用を行わない基または原子に変換すること
を含む、上記ロタキサンの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のロタキサンにより、該ロタキサンが有する官能基と反応する反応性基を一分子中に少なくとも2個有するポリマー成分を架橋させることからなるポリマー成分の架橋方法。
【請求項5】
請求項4に記載の架橋方法により架橋して得られた架橋ポリマー。


【公開番号】特開2006−28103(P2006−28103A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210336(P2004−210336)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】