説明

輸液バッグ用積層体および輸液バッグ

【課題】124℃で滅菌可能な耐熱性を有し、輸液バッグ用として有用な輸液バッグ用積層体およびこれを用いた輸液バッグの提供。
【解決手段】外層2と内層3とそれらの間に配置された中間層1とを有する積層体であって、外層2が、高密度ポリエチレン樹脂を20〜100質量%含有するポリエチレン樹脂から構成され、内層3が、高密度ポリエチレン樹脂からから構成され、中間層1が、高密度ポリエチレン樹指10〜40質量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂90〜60質量%との混合樹指に対して結晶核剤を1000〜5000ppmの質量比で添加した樹脂組成物から構成されることを特徴とする輸液バッグ用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液バッグ用積層体およびこれを用いた輪液バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
輸液の投与時、輸液が外界の空気と触れて病院内感染が起きることを防止するために、通気針が必要な硝子ビンに代って、輸液バッグを用い、輸液の排出とともに容器内が陰圧にならないようにした通気針不要のクローズドシステムが用いられるようになっている。輸液バッグは、柔軟性のあるプラスチック製のシートで構成される袋状の容器であり、該プラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等が用いられている。
輸液バッグを構成するシートには各種性能が要求される。たとえば輸液の排出に追従する柔軟性、目視により異物検査および輸液の残量の確認が出来る透明性、減菌処理のための耐熱性、物流、取り扱い等で破損しない耐衝撃性、各種の法適合性、特に第15改正日本薬局方への適合性等が要求される。
前記したプラスチックのうち、ポリ塩化ビニル製のシートは、柔軟性、透明性、耐衝撃性はある程度満足するものであるが、耐熱性に劣る問題があり、また可塑剤等の添加物が多く、衛生性にも劣る。ポリプロピレン製のシートは、柔軟性、透明性、常温下での耐衝撃性はある程度満足するものであるが、低温下での耐衝撃性に劣る問題がある。
ポリエチレン製、特に密度が0.940g/cm以下のポリエチレン製のシートは、柔軟性、透明性、耐衝撃性、特に低温下での耐衝撃性に優れており、輸液バッグ用途に用いられつつある。たとえば特許文献1には、それぞれ特定のポリエチレン樹脂で構成される内外層および中間層を有する3層フィルムを用いた医療用容器が提案されており、中間層には、密度が0.930g/cm以下のものが用いられている。
しかしポリエチレンは、ポリプロピレンに比べて融点が低く、耐熱性に劣る問題がある。輸液バッグにおいては、滅菌処理に高圧蒸気滅菌が用いられ、その際、121℃程度の高温となるため、輸液バッグには、このような温度でも、シートのシワ、変形、輸液バッグ内層間の融着等の不具合を生じない耐熱性が要求される。
このような問題に対し、特許文献2では、ポリエチレン製であっても121℃の高圧蒸気滅菌に耐え、医療用容器等に有用な積層体として、内層が高密度ポリエチレンを含む樹脂材料(A)からなり、中間層がエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合させて得られるエチレン・α−オレフィン共重合体で、特定の物性(a)〜(d)を備えたポリエチレン系樹脂Iを主体とする樹脂材料(B)からなり、かつ外層が高密度ポリエチレンを含む樹脂材料(C)、からなる積層体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−104451号公報
【特許文献2】特開2003−237002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実際の高圧蒸気滅菌では、最初の昇温時の過加熱や温度調整の不調などにより121℃を超え、たとえば124℃まで上昇することもある。そのため、121℃の高圧蒸気滅菌が施される輸液バッグには、実用的には、124℃における耐熱性が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、124℃で滅菌可能な耐熱性を有し、輸液バッグ用として有用な輸液バッグ用積層体およびこれを用いた輸液バッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は以下の態様を有する。
[1]外層と、内層と、それらの間に配置された中間層とを有する積層体であって、
前記外層が、高密度ポリエチレン樹脂を20〜100質量%含有するポリエチレン樹脂から構成され、
前記内層が、高密度ポリエチレン樹脂から構成され、
前記中間層が、高密度ポリエチレン樹指10〜40質量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂90〜60質量%との混合樹指に対して結晶核剤を1000〜5000ppmの質量比で添加した樹脂組成物から構成されることを特徴とする輸液バッグ用積層体。
[2]前記結晶核剤が、シクロヘキサンジカルボン酸塩を含む[1]に記載の輸液バッグ用積層体。
[3]前記外層が、高密度ポリエチレン樹脂20〜40質量%と低密度ポリエチレン樹脂80〜60質量%との混合樹脂から構成される[1]または[2]に記載の輪液バッグ用積層体。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の輸液バッグ用積層体の前記内層同士をヒートシールしてなる袋状のバッグ本体と、該バッグ本体の周縁部に取り付けられた、前記バッグ本体の内と外とを連通可能にするポート部と、を備える輸液バッグ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、124℃で滅菌可能な耐熱性を有し、輸液バッグ用として有用な輸液バッグ用積層体およびこれを用いた輸液バッグを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の輸液バッグ用積層体の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】試験例1で測定した、試料1(HDPE)のDSC曲線を示すグラフである。
【図3】試験例1で測定した、試料2(LLDPE)のDSC曲線を示すグラフである。
【図4】試験例1で測定した、試料3(HDPE20質量%とLLDPE80質量%との混合樹脂)のDSC曲線を示すグラフである。
【図5】試験例1で測定した、試料1(HDPE)および試料3〜5(HDPEの比率がそれぞれ20質量%、15質量%、10質量%の、HDPEとLLDPEとの混合樹脂)それぞれのDSC曲線を示すグラフである。
【図6】試験例1で測定した、試料6(HDPE20質量%とLLDPE80質量%との混合樹脂に対して結晶核剤を2500ppm添加した樹脂組成物)のDSC曲線を示すグラフである。
【図7】本発明の輸液バッグの一実施形態を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<輸液バッグ用積層体>
本発明の輸液バッグ用積層体(以下、単に積層体ということがある。)は、外層と、内層と、それらの間に配置された中間層とを有する積層体である。
これらのうち、中間層は、本発明の積層体の主層となる層である。ここで「主層」とは、最も厚みの厚い層を意味する。外層は、輸液バッグの外表面となる層である。内層は、輸液バッグの内表面となる層である。また、内層はヒートシール可能な層であり、そのため、本発明の積層体を、内層側を内側にして重ね合わせ、周縁部等をヒートシールすることにより、袋状に加工することができる。
本発明の積層体を、図1を用いてより具体的に説明する。図1は本発明の一実施形態の積層体10の概略断面図である。積層体10は、中間層1と、中間層1の一方の表面に積層された外層2と、中間層1の、外層2とは反対側の表面に積層された内層3とから構成される。
【0009】
[中間層1]
中間層1は、高密度ポリエチレン樹指(以下「HDPE」ということがある。)10〜40質量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(以下「LLDPE」ということがある。)90〜60質量%との混合樹指に対して結晶核剤を1000〜5000ppmの質量比で添加した樹脂組成物から構成される。LLDPEを所定の割合で含むことにより、輸液バッグに求められる柔軟性および耐衝撃性を有している。また、LLDPEにHDPEおよび結晶核剤が配合されていることにより、LLDPE単独の場合よりも耐熱性が向上する。また透明性も高い。
なお、本発明において、「ポリエチレン樹脂」は、ポリエチレン、およびエチレンとエチレン以外の他のモノマーとの共重合体を包含する。該他のモノマーとしては、たとえば炭素数3以上のα−オレフィン、酢酸ビニル等が挙げられる。該α−オレフィンとしては、炭素数3〜10のα−オレフィンが好ましく、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン等が挙げられる。ポリエチレン樹脂がエチレンと酢酸ビニルとの共重合体の場合、酢酸ビニルに由来する繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位の合計の3質量%以下である。
【0010】
HDPEとしては、特に限定されず、公知のものが利用できる。一般的には、触媒を用い、低圧法または中圧法によりエチレン等のモノマーを重合させることにより製造されたものが用いられ、該触媒としては、たとえばチーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒等が挙げられる。
HDPEの密度は、0.930g/cm以上であり、0.945g/cm以上が好ましい。密度が高いほど、耐熱性が向上する。HDPEの密度の上限は特に限定されないが、入手のしやすさ、透明性等を考慮すると、0.970g/cm以下が好ましい。
【0011】
HDPEは、融点が128℃以上であることが好ましく、128〜135℃であることがより好ましい。融点が128℃以上であると充分な耐熱性が得られる。また、135℃以下であると、透明性およびLLDPEとの均一混合性が良好となる。
なお、ポリエチレン樹脂の融点は、JIS K7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)により測定される。具体的には、DSCの結果は、縦軸に熱流(Heat Flow)、横軸に温度をとったDSC曲線として示され、該DSC曲線において、ポリエチレン樹脂の融解等の吸熱反応は山のピークとして示される。したがって、該ピークの位置がポリエチレン樹脂の融解ピーク温度となり、融解ピーク温度が1つの場合は該融解ピーク温度が融点であり、融解ピーク温度が複数存在する場合は、それらのうちの最低温度が当該樹脂の融点である。
【0012】
HDPEは、メルトマスフローレート(以下「MFR」ともいう。)が、0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.3〜20g/10分であることがより好ましい。該MFRが0.1〜50g/10分であると成形性が良好であり、積層体としたときの強度も良好である。
さらに、当該積層体を共押出し多層インフレーンョン製膜法により製造する場合は、該MFRが0.3〜10g/10分であることが特に好ましい。0.3g/10分未満では流動性が低く押出しに過大なトルクを要することと製膜が難しく、10g/10分を超えると溶融粘度が低すぎて厚みムラなどの偏肉を生じ易くなる。
当該積層体を共押出し多層Tダイ製膜法により製造する場合は、該MFRが0.5〜20g/10分であることが特に好ましい。0.5g/10分未満では押出しに過大なトルクを要しスピードが遅くなり生産性に劣る。20g/10分を超えると膜のネックインが大きくなり偏肉等を生じ易くなる。
なお、MFRは、JIS K7210に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定される値である。
【0013】
LLDPEとしては、特に限定されず、公知のものが利用できる。LLDPEは、通常、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合体である。LLDPEは、一般的には、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒またはシングルサイト系の触媒を用い、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとを共重合させることにより製造される。本発明において用いられるLLDPEは、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、シングルサイト系の触媒のいずれの触媒を用いて製造されたものであってもよい。
LLDPEの密度は、0.900〜0.925g/cmであり透明性が高くなることから、0.900〜0.920g/cmが好ましい。
LLDPEは、融点が115℃以上であることが好ましく、117〜125℃であることが好ましい。融点が115℃以上であると耐熱性が向上する。また、125℃以下であると、柔軟性が良好となる。
LLDPEは、MFRが0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.3〜20g/10分であることがより好ましい。該MFRが0.1〜50g/10分であると成形性が良好である。
さらに、LLDPEのMFRは、HDPEのMFRとの差が2.5g/10分以下であることが好ましい。該差が小さいほど均一に混合し、透明性が良好となる。
【0014】
結晶核剤は、造核剤または結晶化核剤とも呼ばれ、熱可塑性樹脂の結晶化の起点となるものである。
結晶核剤としては、一般的に、無機物系の結晶核剤と、合成有機物系の結晶核剤とがある。無機物系の結晶核剤として具体的には、タルク、マイカ等が挙げられる。合成有機物系の結晶核剤として具体的には、シクロヘキサンジカルボン酸カルシウム塩、シクロヘキサンジカルボン酸ナトリウム塩等のシクロヘキサンジカルボン酸塩;ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール等のソルビトール系核剤;2,6−ナフタレンジカルボン酸N,N’−ジシクロヘキシルアミド等のアミド系核剤;などが挙げられる。また、結晶核剤に添加剤を配合した結晶核剤組成物を用いてもよい。結晶核剤組成物に配合する添加剤としては、高級脂肪酸塩、二酸化ケイ素等が挙げられる。
結晶核剤としては、上記の中でも、特に、本発明の効果に優れることから、シクロヘキサンジカルボン酸塩が好ましい。
結晶核剤としては、市販のものが利用できる。たとえばシクロヘキサンジカルボン酸塩としては、理研ビタミン株式会社製の結晶化核剤マスターバッチ「リケマスターCN」が挙げられ、ソルビトール系核剤としては、ジベンジリデンソルビトール骨格を有するアセタール系透明化剤「ゲルオール」や「リカファスト」が挙げられ、アミド系核剤としては、新日本理化株式会社製のアミド系の溶融型透明化核剤「リカクリアPCI」が挙げられる。
【0015】
本発明においては、HDPEとLLDPEとを所定の比率で混合した混合樹指に対して結晶核剤を所定量添加することで、形成される中間層1の透明性が向上する。また、耐熱性も向上する。
透明性が向上する理由の一つとして、製膜時に、小さな結晶が多数生成することが考えられる。つまり、中間層1内に存在する結晶の大きさが、可視光線の波長よりも大きければ可視光線が結晶により散乱するため透明性が低くなるが、可視光線の波長より小さければ、可視光線が中間層1を素通りするため透明性が高くなる。本発明においては、中間層1中に400nmより小さな結晶が数多く出来ることで、透明性が向上しているものと考えられる。実際、本発明者らが、後述する試験例1で用いたのと同じLLDPEに対し、結晶核剤として「リケマスターCN−001」を2500ppm添加して製膜した厚み30μmのフィルムのへイズは8.2%であり、結晶核剤を添加しなかった同じ30μmのフィルムのへイズ15.4%に比べはるかに向上していた。
なお、結晶の大きさは、広角×線散乱により測定できる。
【0016】
また、本発明において、中間層1の耐熱性が向上する理由として、HDPEとLLDPEとが共晶を作り、これによってLLDPE単独の場合よりも融解ピーク温度が高まること、結晶核剤によりその結晶化度が向上するとともに、融解ピーク温度がさらに高まること、が挙げられる。
HDPEとLLDPEとは共晶を作る。一般に、ポリエチレン樹脂が結晶するときには分子鎖の折りたたみの繰返しによって形成された薄い板状の微結晶、いわゆるラメラを作り、このラメラの積層したものがねじれながら半径方向に成長して球晶を作る。HDPEから作られるラメラと、長鎖分岐のないLLDPEから作られるラメラとは似ており、ラメラから球晶に成長する時にHDPEのラメラとLLDPEのラメラが入り込んで絡み合って一つの球晶となり、共晶を作るものと考えられる。
なお、HDPEと低密度ポリエチレン(以下「LDPE」ということがある。)とでは共晶は形成されない。これは、LDPEは長鎖分岐構造を有していることから、そのラメラ構造がHDPEのラメラ構造と異なるためと考えられる。
【0017】
なお、HDPEとLLDPEとが共晶を作るとその融解ピーク温度は一つとなり、該融解ピーク温度は、HDPEの融解ピーク温度とLLDPEの融解ピーク温度の間となる。
一例を挙げると、後述する試験例1で用いたHDPEの融解ピーク温度は132.5℃であり、LLDPEの融解ピーク温度は116℃および121.4℃であったが、HDPE20質量%とLLDPE88質量%との混合樹脂(HDPE/LLDPE[20/80])では、融解ピーク温度は124.4℃の一つのピーク温度となった。これは、共晶が形成されたためと考えられる。
また、該混合樹脂の融解ピーク温度はHDPEとLLDPEとの混合割合で変わり、図5に示すとおり、HDPEの混合割合が多くなる程、融解ピーク温度は高くなる。
そして、HDPEとLLDPEとの混合樹脂に結晶核剤を添加すると、後述する試験例1の結果に示すとおり、共晶の結晶化度が高くなり、融解ピーク温度も高くなる。
【0018】
本発明において、中間層1を形成する樹脂組成物に用いられる混合樹指は、HDPE10〜40質量%とLLDPE90〜60質量%とからなる(HDPEとLLDPEとの合計が100質量%)。
混合樹脂中、HDPEの割合は10〜35質量%が好ましい。
HDPEの割合が上記範囲の下限値以上であると、該共晶の融解ピーク温度も高くなり、形成される中間層1の耐熱性が向上する。一方、HDPEの割合が上記範囲の上限値を超えると、形成される中間層1の柔軟性が失われ、透明性も低下する。
【0019】
前記混合樹脂に対する結晶核剤の添加量は、質量比で、1000〜5000ppm(混合樹脂/結晶核剤=1/0.001〜1/0.005)であり、1000〜3000ppmが好ましい。該添加量が1000ppm未満では結晶核剤添加による効果が充分に得られず、耐熱性が不足し、高圧蒸気滅菌後の外観が不良となる。また、透明性も不充分となる。一方、5000ppmを超えて添加しても結晶化度が飽和してコスト高となるばかりか、光の透過特性の一つである像鮮明度を示すクラリティーが悪くなり、透明性が低下するおそれもある。
【0020】
前記樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、HDPE、LLDPEおよび結晶核剤以外の他の成分が配合されてもよい。該他の成分としては、たとえば中和剤、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。ただし、本発明の積層体は輸液バッグに用いられるものであるから、樹脂組成物には、これらの添加剤は配合されていないことが好ましい。
【0021】
前記樹脂組成物は、MFRが0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.3〜20g/10分であることがより好ましい。該MFRが0.1〜50g/10分であると成形性が良好である。樹脂組成物のMFRは、混合樹脂を構成するHDPE、LLDPEそれぞれのMFR、それらの混合比率等により調節できる。
前記樹脂組成物は、各成分をドライブレンドすることにより調製できる。
【0022】
[外層2]
外層2は、HDPEを20〜100質量%含有するポリエチレン樹脂から構成される。HDPEを20質量%以上含有することで充分な耐熱性が得られる。一方、20質量%未満であると、高圧蒸気滅菌を行った際に、表面に凹凸等が生じるおそれがある。
HDPEとしては、前記中間層1の説明で挙げたHDPEと同様のものが挙げられる。
外層2に用いられるHDPEは、融点が128℃以上であることが好ましく、128〜135℃がより好ましい。また、密度は、0.930g/cm以上であり、0.945g/cm以上が好ましい。密度が高いほど、耐熱性が向上する。HDPEの密度の上限は特に限定されないが、入手のしやすさ、混合時の均一性等を考慮すると、0.970g/cm以下が好ましい。
該HDPEのMFRは、0.1〜50g/10分が好ましく、0.3〜20g/10分がより好ましい。該MFRが0.1〜50g/10分であると成形性が良好である。
さらに、当該積層体を、共押出し多層インフレーンョン製膜法、共押出し多層Tダイ製膜法等の共押し出し法により製造する場合、該HDPEのMFRは、中間層1を構成する樹脂組成物のMFRとの差が2.5g/10分以下であることが好ましい。該差が小さいほど、成形性が良好となる。
【0023】
外層2は、HDPEのみから構成されてもよく、HDPEと、HDPE以外の他のポリエチレン樹脂との混合樹脂から構成されてもよい。
HDPE以外の他のポリエチレン樹脂としては、LLDPE、LDPE等が挙げられる。これらの中でも、ブロッキングの防止効果に優れ、形成される外層2の柔軟性も優れることから、LDPEが特に好ましい。
LLDPEとしては、前記中間層1の説明で挙げたLLDPEと同様のものが挙げられる。
【0024】
LDPEとしては、特に限定されず、公知のものが利用できる。LDPEは、長鎖分岐構造を有しており、一般的には、触媒を用い、高圧法によりエチレン等のモノマーを重合させることにより製造される。該触媒としては、たとえば有機過酸化物等が挙げられる。
LDPEの密度は、0.915〜0.935g/cmであり、0.920〜0.930g/cmが好ましい。
LDPEは、融点が100℃以上であることが好ましく、105〜118℃であることが好ましい。融点が100℃以上であると耐熱性が良好となる。
LDPEは、MFRが0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.3〜20g/10分であることがより好ましい。該MFRが0.1〜50g/10分であると成形性が良好である。
さらに、当該積層体を、共押出し多層インフレーンョン製膜法、共押出し多層Tダイ製膜法等の共押し出し法により製造する場合、該LDPEのMFRは、中間層1を構成する樹脂組成物のMFRとの差が2.5g/10分以下であることが好ましい。該差が小さいほど、成形性、透明性が良好となる。
【0025】
該混合樹脂中、HDPEの割合は、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。HDPEの割合が60質量%以下であると、透明性に優れる。
外層2を構成するポリエチレン樹脂としては、特に、HDPE20〜40質量%とLDPE80〜60質量%との混合樹脂が好ましい。このような混合樹脂を用いて形成される外層2は、表面がある程度粗面となり、ブロッキングを生じにくく、成形性が良好である。
【0026】
外層2を構成するポリエチレン樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレン樹脂以外の他の成分が配合されてもよい。該他の成分としては、たとえば中和剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤等の添加剤が挙げられる。ただし、本発明の積層体は輸液バッグに用いられるものであるから、該ポリエチレン樹脂には、これらの添加剤は配合されていないことが好ましい。
【0027】
[内層3]
内層3は、HDPEから構成される。これにより、耐熱性が良好で、当該積層体10をヒートシールにより輸液バッグとした際に、ヒートシールしていない領域にて輸液バッグの内表面同士が融着するのを防止できる。
HDPEとしては、前記中間層1の説明で挙げたHDPEと同様のものが挙げられる。
内層3に用いられるHDPEは、融点が128℃以上であることが好ましく、128〜135℃がより好ましい。融点が128℃以上であると、高圧蒸気滅菌処理を行った際に124℃になっても、輸液バッグの内表面同士が融着することはない。
該HDPEの密度は、0.930g/cm以上であり、0.945g/cm以上が好ましい。密度が高いほど、耐熱性が向上する。HDPEの密度の上限は特に限定されないが、入手のしやすさ等を考慮すると、0.970g/cm以下が好ましい。
該HDPEのMFRは、0.1〜50g/10分が好ましく、0.3〜20g/10分がより好ましい。該MFRが0.1〜50g/10分であると成形性が良好である。
さらに、当該積層体を、共押出し多層インフレーンョン製膜法、共押出し多層Tダイ製膜法等の共押し出し法により製造する場合、該HDPEのMFRは、中間層1を構成する樹脂組成物のMFRとの差が2.5g/10分以下であることが好ましい。該差が小さいほど均一に混合される。
【0028】
内層3を構成するHDPEには、本発明の効果を損なわない範囲で、HDPE以外の他の成分が配合されてもよい。該他の成分としては、たとえば酸化防止剤、中和剤等の添加剤が挙げられる。ただし、本発明の積層体は輸液バッグに用いられるものであるから、該HDPEには、これらの添加剤は配合されていないことが好ましい。
【0029】
積層体10は、シート(フィルムも含む)であり、中間層1と外層2と内層3との合計の厚みは、当該積層体を用いて製造する輸液バッグによっても異なるが、通常、50〜500μmの範囲内であり、100〜400μmが好ましい。該全厚が厚いほど、柔軟性、強度等が向上し、該全厚が薄いほど、透明性、柔軟性等が向上する。
また、中間層1と外層2と内層3との合計の厚みに対する中間層1の厚みの割合は、40〜90%が好ましく、70〜90%がより好ましい。中間層1は主層であり、主に、積層体の柔軟性および耐熱性の向上に寄与する。該割合が40%未満では、積層体の柔軟性と耐熱性が失われるおそれがあり、90%を超えると、相対的に外層2および内層3の割合が低くなり、共押出し等により積層体を製膜する際に、安定的な製膜が難しくなる。
また、中間層1と外層2と内層3との合計の厚みに対する外層2の厚みの割合は、5〜30%が好ましく、5〜15%がより好ましい。外層2の割合が5%未満では、共押出し等により積層体を製膜する際に、外層2の膜切れを起こす危険性があり、30%を超えると、積層体としての耐熱性が低下するおそれがある。
また、中間層1と外層2と内層3との合計の厚みに対する内層3の厚みの割合は、5〜30%が好ましく、5〜15%がより好ましい。内層3の割合が5%未満では、共押出し等により積層体を製膜する際に、内層3の膜切れを起こす危険性があり、30%を超えると、積層体としての柔軟性が低下するおそれがある。
【0030】
なお、図1には中間層1、外層2および内層3の3層構成の積層体10を示したが、本発明の積層体の層構成はこれに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、中間層1、外層2および内層3以外の他の層を有していてもよい。
【0031】
本発明の積層体の製造方法としては、特に限定されず、公知の多層シートまたは多層フィルムを製造する方法として公知の方法を利用して製造できる。該製造方法として具体的には、共押出し法、押出しラミネート法等が挙げられる。これらの中でも、共押出し法が好ましい。
共押出し法としては、水冷又は空冷の共押出し多層インフレーンョン製膜法、共押出し多層Tダイ製膜法等が挙げられ、いずれの製膜法であっても良い。
共押出し法では、外層、中間層および内層を一度に共押出しするため、外層を構成するポリエチレン樹脂、中間層を構成する樹脂組成物、内層を構成するHDPEのMFRをそれぞれ大略同じにすることが好ましい。
具体的には、中間層1のHDPEの説明で述べたように、共押出し多層インフレーション製模法の場合は、各MFRが0.3〜10g/10分であることが好ましく、多層共押出しTダイ製膜の場合はMFR0.5〜20g/10分であることが好ましい。この範囲ではあれば安定的に製膜することが出来る。
さらに、中間層を構成する樹脂組成物のMFRと外層を構成するポリエチレン樹脂のMFRとの差は、2.5g/10分以下であることが好ましく、また、中間層を構成する樹脂組成物のMFRと内層を構成するHDPEのMFRとの差は、2.5g/10分以下であることが好ましい。
【0032】
以上説明した本発明の積層体は、耐熱性が高く、該積層体を用いて製造される輸液バッグは、124℃に達するような高圧蒸気滅菌処理が可能である。また、該積層体は、LLDPEと同レベルの高い柔軟性、透明性および耐衝撃性を有している。
すなわち、上記構成において、中間層は、LLDPEの持つ柔軟性、透明性、耐衝撃性を維持しつつ、核剤によってHDPEとLLDPEの結晶化度を高める。また、HDPEとLLDPEとは、類似の分子構造を有することから、夫々の作る結晶が入り込んであたかも一つの結晶のような共晶をつくり、LLDPEの融解ピーク温度とHDPEの融解ピーク温度の中間に一つの融解ピーク(融点)を示すようになる。これにより中間層の耐熱性が高くなる。中間層は積層体の主要な層であることから積層体全体としての耐熱性も向上する。
また、外層では、HDPEを所定量以上含むことによって減菌温度に耐えるだけの耐熱性が付与され、さらにLDPEを混合した場合には、柔軟性も向上する。
また、内層がHDPE層であることにより、内層面同士をヒートシールして輪液バッグを製造することが出来、又、減菌の際に124℃になったとしても内層面同士の融着が生じにくい。
【0033】
<輸液バッグ>
本発明の輸液バッグは、前記本発明の積層体を用いて製造されるものであり、該積層体の内層同士をヒートシールしてなる袋状のバッグ本体と、該バッグ本体の周縁部に取り付けられた、前記バッグ本体の内と外とを連通可能にするポート部と、を備える。
本発明の輸液バッグは、バッグ本体が本発明の積層体で構成されていればよく、その形状および構造は特に限定されず、公知の輸液バッグと同様の構造であってよい。
図7に、輸液バッグの一実施形態を示す。図7は、本実施形態の輸液バッグ20の概略上面図である。
輸液バッグ20は、対向する一対の略長方形のフィルム21、22で構成されたバッグ本体23と、両端が開口し、バッグ本体23の内と外とを連通可能にする中空形状のポート部24と、を備えており、フィルム21、22がそれぞれ本発明の積層体である。
【0034】
バッグ本体23の長手方向の一端の周縁部にはポート部24が取り付けられており、ポート部24の取り付け位置以外の周縁部はヒートシールされて、フィルム21、22の内層同士が融着している。
バッグ本体23の、ポート部24が取り付け位置とは反対側の周縁部には、略円形の吊孔25が設けられている。
ポート部24は、一端がバッグ本体23内に開口し、他端がバッグ本体23外に開口するようにバッグ本体23に取り付けられており、輸液の充填口および/または排出口として利用される。
ポート部24のバッグ本体23外側の開口は、輸液の充填後、図示しないゴム栓等の栓で閉栓され、使用前(輸送・保管時等)にはバッグ本体23内の輸液の流出を阻止し、使用時には刺栓針や専用のアダプター等の排出手段の接続によってバッグ本体23内の輸液を排出できるようになっている。該栓の表面は、剥離可能な保護フィルムで被覆されてもよい。
ポート部24の取り付けは、ポート部24をフィルム21、22の間に挟持させ、ヒートシールすることにより行うことができる。
フィルム21、22の周縁部のヒートシールおよびポート部24のバッグ本体23への取り付けは、それぞれ、公知のヒートシール治具を用いて実施できる。
【0035】
ポート部24を構成する材料としては、特に限定されず、公知のものが利用できる。該材料としては合成樹脂が一般的に使用され、該合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらのなかでも、衛生性に優れ、低コストである点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、HDPE、中密度ポリエチレン、LDPE、LLDPE、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、αオレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、これらのいずれか2種以上の混合物等が挙げられる。
これらの合成樹脂は、性能向上のためにブレンドされていてもよく、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。
ポート部24は、外周面の一部をヒートシールによりフィルム21、22の内層面と接着させる観点から、少なくともフィルム21、22と接触する部分が合成樹脂製であることが好ましく、成形性等を考慮すると、ポート部24全体が合成樹脂製であることが特に好ましい。
ポート部24は、単一の材料から構成される単層構造であってもよく、複数の合成樹脂層からなる多層構造であってもよい。
ポート部24を構成する合成樹脂としては、ヒートシールが容易であり、接着強度も高いことから、フィルム21、22の内層面を構成する合成樹脂と同種の合成樹脂、すなわちHDPEが好ましい。
ポート部24は、射出成形などの公知の成型方法により作製できる。
【0036】
以上、本発明の輸液バッグを、実施形態を示して説明したが本発明は該実施形態に限定されるものではない。
たとえば、上記実施形態ではバッグ本体の周縁部のみがヒートシールされており、輸液が充填される室が1つである例を示したが、バッグ本体が複数の室に区画された複室の輸液バッグであってもよい。
【0037】
本発明の輸液バッグに輸液を充填することにより、輸液入り輸液バッグとすることができる。
輸液としては特に限定されず、公知のいかなる輸液も利用できる。
輸液バッグへの輸液の充填は、通常、ポート部24から行われる。また、ポート部24のバッグ本体23外側の開口を閉栓した後、バッグ本体23の一部をカットしてバッグ本体23内に連通する開口を設け、そこから輸液を充填した後、該開口をヒートシールにより封止してもよい。
得られた輸液入り輸液バッグに対し、滅菌処理を行ってもよい。滅菌処理としては、通常、高圧蒸気による加熱滅菌処理が行われる。該滅菌処理は、通常、121℃程度であるが、本発明の輸液バッグは、前記本発明の積層体で構成されることから、たとえば124℃での滅菌処理も可能である。滅菌処理時間は、通常、20〜30分間程度である。
【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
<試験例1>
積層体の中間層の組成が耐熱性に与える影響を評価するため、以下の6種の試料1〜6を用意し、3種3層の下向き水冷共押出しインフレーション製膜機(以下、単に製膜機という。)を用い、下記の手順で単層フィルムを製造した。
試料1:添加剤無添加のHDPE(融点132℃、密度0.956g/cm、MFR3.5g/10分、日本ポリエチレン株式会社製「ノバテックHD」)。
試料2:メタロセン触媒を用いて製造された添加剤無添加のLLDPE(融点121℃、密度0.908g/cm、MFR0.9g/10分、日本ポリエチレン株式会社製「ハーモレクスLL」)。
試料3:前記試料1に用いたのと同じHDPE20質量部と、前記試料2に用いたのと同じLLDPE80質量部とをドライブレンドで混合して得た混合樹脂(HDPE/LLDPE[20/80])。
試料4:前記試料1に用いたのと同じHDPE15質量部と、前記試料2に用いたのと同じLLDPE85質量部とをドライブレンドで混合して得た混合樹脂(HDPE/LLDPE[15/85])。
試料5:前記試料1に用いたのと同じHDPE10質量部と、前記試料2に用いたのと同じLLDPE90質量部とをドライブレンドで混合して得た混合樹脂(HDPE/LLDPE[10/90])。
試料6:前記試料1に用いたのと同じHDPE20質量部と、前記試料2に用いたのと同じLLDPE80質量部と、理研ビタミン株式会社製のマスターバッチ「リケマスターCN−002」を、シクロヘキサンジカルボン酸塩系の結晶核剤が0.25質量部(HDPEとLLDPEとの合計に対して2500ppm)となるようにドライブレンドで混合して得た樹脂組成物(HDPE/LLDPE[20/80]+結晶核剤2500ppm)。
【0039】
製膜機の中間層用の押出し機に前記試料1〜6のいずれか1種を投入して製膜を行い、単層フィルム(225μm)を作成した。製膜時、中間層用の押出し機のバレル温度は190℃に設定した。
試料1〜6それぞれを用いて得られた単層フィルムについて、以下の手順で、DSCによる融解ピーク温度(融点)および融解熱量の測定を行った。
(融解ピーク温度および融解熱量の測定)
セイコー電子株式会社製の示差走査熱量計「DSC220」を用いて、下記の測定条件で測定した。
測定条件:単層フィルム5.3mg、窒素ガス50mL/min、昇温速度10℃/分で40から200℃まで昇温した。
試料1(HDPE)、試料2(LLDP)、試料3(HDPE/LLDPE[20/80])のDSC曲線をそれぞれ図2〜4に示し、試料1、試料3〜5のDSC曲線をまとめて図5に示す。また、試料6(HDPE/LLDPE[20/80]+結晶核剤2500ppm)のDSC曲線を図6に示す。
【0040】
図2〜4に示すように、HDPEの融解ピーク温度は132.5℃であり、LLDPEの融解ピーク温度は116℃および121.4℃であった。HDPE/LLDPE[20/80]では、融解ピーク温度は124.4℃の1つとなっていた。これはHDPEとLLDPEとの共晶が形成されたためと考えられる。このように、HDPE/LLDPE[20/80]の融解ピーク温度は、LLDPEの融解ピーク温度より約5℃高くなっていることから、LLDPEよりも耐熱性が向上していることが確認できた。
また、図5に示すように、HDPEとLLDPEとの混合樹脂の融解ピーク温度はHDPEとLLDPEとの混合割合で変わり、HDPEの混合割合が多くなる程、融解ピーク温度は高くなっていた。すなわち、HDPE、HDPE/LLDPE[20/80]、HDPE/LLDPE[15/85]、HDPE/LLDPE[10/90]それぞれの融解ピーク温度は下記表1に示すとおりであり、HDPEの割合が5%増えるとほぼ1℃高くなっていた。
【0041】
【表1】

【0042】
また、試料3(HDPE/LLDPE[20/80])および試料6(HDPE/LLDPE[20/80]+結晶核剤2500ppm)の融解ピーク温度および融解熱量(J/g)を表2に示す。
図4、6および表2に示すように、結晶核剤の添加により、融解ピーク温度が2.1℃上昇し、また、融解熱量の比は77.1/71.7=1.075となり、融解熱量が7.5%多くなっていた。融解熱量は、結晶が融解する時の吸熱量なので、結晶化度も、結晶核剤を添加しない場合よりも7.5%結晶化度が高くなっていることが解る。
このように、HDPEとLLDPEとの混合樹脂に結晶核剤を添加すると、共晶の結晶化度が高くなり、融解ピーク温度も高くなる。
試料6を用いて得られた単層フィルムは、本発明の積層体における中間層に相当し、積層体とした際にも同様の挙動を示す。したがって、上記の結果から、HDPEとLLDPEとの混合樹脂に結晶核剤を添加した樹脂組成物により中間層を形成することにより、積層体としての耐熱性が向上することが示された。
【0043】
【表2】

【0044】
<実施例1>
〔1.積層体の作成および評価〕
3種3層の下向き水冷共押出しインフレーション製膜機を用い、以下の手順で図1に示した積層体10と同様の構成の積層体を製造した。
試験例1で用いたのと同じHDPE30質量部と、添加剤無添加のLDPE(融点114℃、密度0.927g/cm、MFR1.1g/10分、日本ポリエチレン株式会社製「ノバテックLD」70質量部とをドライブレンドで混合して外層用混合樹脂を調製した。
製膜機の外層用の押出し機に該外層用混合樹脂を投入し、中間層用の押出し機に、試験例1で用いた試料6と同じ樹脂組成物を投入し、内層用の押出し機に、試験例1で用いたのと同じHDPEを投入して製膜を行い、外層(15μm)/中間層(225μm)/内層(10μm)の積層体(総厚み250μm)を作成した。製膜時、外層用、中間層用、内層用の押出し機のバレル温度は夫々190℃に設定した。
【0045】
作成した積層体について、以下の評価を行った。
(1−1.透明性の評価)
得られた積層体の外観を目視にて観察したところ、非常に透明性があった。
また、該積層体を幅10mm×長さ50mmに切断し、(株)日立サイエンスシステムズ製「LI−1100型日立レシオビーム分光光度計」を用いて、波長450nmに於ける光線透過率を測定したところ、該光線透過率は75%であった。
これらの結果から、上記積層体が優れた透明性を有することが確認できた。
【0046】
(1−2.日本薬局方に対する適合性の評価)
第15改正日本薬局方に規定されるプラスチック製医薬品容器試験法、「ポリエチレン製又はポリプロピレン製注射剤容器」への適合試験(試験項目:重金属、鉛、カドミウム、強熱残分、溶出物)を行った。その結果を表3に示す。
表3の結果から、上記積層体は、溶出物が殆どなく、第15改正日本薬局方規格に適合していることが確認できた。
【0047】
【表3】

【0048】
(1−3.耐熱性の評価)
上記で得た積層体を大きさ24cm×15cmにカットし、そのうち2枚を、内層面同士が接するように重ね合わせ、4辺のうち3辺をヒートシールして三方袋を作成した。
この三方袋に蒸留水500mLを充填し、ヘッドスペース50mLを設けて密封した。その後、熱水静置式高圧蒸気減菌装置を用いて、0.2MPaの圧力下、124℃、30分間の減菌処理を行った。冷却後、該袋を取り出して外観を観察した。
その結果、袋の内表面同士が融着することもなく、また、しわの発生や変形もなく、減菌前と同一の外観であった。この結果から、該積層体が、124℃の温度に対する耐熱性を有することが確認できた。
【0049】
〔2.輸液バッグの作成および評価〕
前述の積層体および射出成形により作成されたHDPE製のポート部を用いて、図7に示した輸液バッグ20と同様の構成の輸液バッグを、専用のヒートシール治具を用いて作成した。バッグ本体の大きさは24cm×15cmとした。
この輸液バッグのポート部からバッグ本体内に蒸留水500mLを注ぎ込み、ヘッドスペース50mLを設けてポート部をイソプレンゴム製のゴム栓で密封した。その後、前記と同様、熱水静置式減菌装置で、0.2MPaの圧力下、124℃、30分間の減菌処理を行った。
この滅菌処理を行った輸液バッグについて、以下の評価を行った。
【0050】
(3−1.柔軟性の評価)
減菌処理を行った輸液バッグを、ポート部が下側になるよう吊り下げた。該ポート部のゴム栓に点滴治具を取り付け、実際に内容液(蒸留水)を滴下しながらその挙動を観察した。
その結果、点満により輸液バッグ内の内容液の液面が低下するにつれて輸液バッグは平たくすぼまり、点滴間隔もほほ同じであった。また、内容液が逆流することもなく、輸液バッグ内が陰圧になっているような兆候は見られなかった。
これらの結果から、上記積層体を用いて形成されたバッグ本体が、輸液バックに必要な柔軟性を充分備えていることが確認できた。
【0051】
(3−2.ブロッキング耐性)
減菌処理を行った輸液バッグ5袋を積み重ね、室温(25℃)で7日間放置した後、1袋ずつ取り出し、そのブロッキングの有無を確認した。
その結果、各バッグともスムーズに取り外せ、最も荷重がかかる、最下段の輸液バッグとその上の輸液バッグの外層面同士もブロッキングすることはなかった。
【0052】
<比較例1>
実施例1と同じインフレーション製膜機を用い、その中間層用押出し機に、試験例1で用いたのと同じLLDPEのみを投入して製膜を行い、厚み225μmの単層フィルムを作成した。製膜時、中間層用押出し機のバレル温度は190℃に設定した。
得られた単層フィルムについて、以下の手順で耐熱性を評価した。
【0053】
(耐熱性の評価)
上記で得た単層フィルムを大きさ24cm×15cmにカットし、そのうち2枚を、内層面同士が接するように重ね合わせ、4辺のうち3辺をヒートシールして三方袋を作成した。
この三方袋に蒸留水500mLを充填し、ヘッドスペース50mLを設けて密封した。その後、熱水静置式減菌装置を用い、0.2MPaの圧力下、LLDPEの融点よりも3℃低い118℃で30分間の減菌処理を行った。冷却後、該袋を取り出して外観を観察した。
その結果、袋の内表面同士が一部融着していた。また、寄りじわが発生し、変形も起こっていた。これは、袋の破裂を防止する目的で0.2MPaの圧力下で減菌するため、袋の一部の内表面同士が接触し、このとき、LLDPEの結晶部分は溶けなくとも非晶部分が融着することによると考えられる。また、熱水静置式高圧蒸気減菌装置では、袋の周囲を熱水が循環しているため、その流れの力によって袋がよじれたり変形し、これがその後の冷却によって固化されるために寄りじわや変形が残ってしまうと考えられる。
これらの結果に示すように、LLDPE単層フィルムを用いて形成した袋では、118℃での減菌に耐えられる耐熱性がなく、当然、124℃での減菌に耐えられる耐熱性もない。
【0054】
<実施例2〜3、比較例2〜7>
実施例1で用いたのと同じHDPE、LDPE、LLDPEおよび結晶核剤を用い、表4に示す層構成の積層体を、実施例1と同様の手順で作成した。
得られた各積層体を用いて、実施例1と同様の手順で輸液バッグを作成した。
得られた積層体または輸液バッグについて、以下の評価を行った。結果を表4に示す。
【0055】
[耐熱性の評価]
上記で得た積層体を大きさ24cm×15cmにカットし、そのうち2枚を、内層面同士が接するように重ね合わせ、4辺のうち3辺をヒートシールして三方袋を作成した。
この三方袋に蒸留水50mLを充填し、内表面が一部密着するように密封した後、熱水静置式高圧蒸気減菌装置を用いて、0.2MPaの圧力下、124℃、30分間の減菌処理を行った。
処理後の輸液バッグの外表面の平滑性および内表面のブロッキングの程度を目視により観察し、以下の基準で耐熱性を評価した。
(評価基準)
A:外表面が平滑であり、内表面のブロッキングも認められない。
B:外表面に一部微小な皺が見られるが、内表面のブロッキングは認められない。
C:外表面が平滑であるが、内表面が一部ブロッキングしている。
D:輸液バッグ全体が大きく変形している。
【0056】
[透明性の評価1:光線透過率による評価]
実施例1の(1−1.透明性の評価)と同様にして測定される、波長450nmに於ける光線透過率が70%のポリエチレンフィルムおよび該光線透過率が55%のポリエチレンフィルムを用意した。これらのポリエチレンフィルムおよび前記積層体に対し、熱水静置式高圧蒸気減菌装置を用いて、0.2MPaの圧力下、124℃、30分間の減菌処理を行った。減菌処理後、各ポリエチレンフィルムおよび積層体を目視で対比し、積層体の透明性を以下の評価基準で評価した。
(評価基準)
A:光線透過率70%のポリエチレンフィルムよりも透明である。
B:光線透過率70%のポリエチレンフィルムよりも透明性は劣るが、光線透過率55%のポリエチレンフィルムよりも透明である。
C:光線透過率55%のポリエチレンフィルムよりも透明性が劣る。
【0057】
[透明性の評価2:クラリティーによる評価]
村上色彩技術研究所製TM−1D型透明度測定装置を使用し、積層体に対して垂直に光線を入射させ、入射光に対する、積層体を通過した光線の割合を百分率で表した。該百分率が40%以上であったものをA、40%未満であったものをBと評価した。
【0058】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明の積層体は、柔軟性、透明性、耐衝撃性に優れたポリエチレン樹脂で構成されており、しかも124℃での減菌に耐え得る耐熱性を有しているので、安全性が高く、各種の輪液のバッグとして幅広く利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1…中間層、2…外層、3…内層、10…積層体、20…輸液バッグ、21…バッグ本体、22…ポート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層と、内層と、それらの間に配置された中間層とを有する積層体であって、
前記外層が、高密度ポリエチレン樹脂を20〜100質量%含有するポリエチレン樹脂から構成され、
前記内層が、高密度ポリエチレン樹脂から構成され、
前記中間層が、高密度ポリエチレン樹指10〜40質量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂90〜60質量%との混合樹指に対して結晶核剤を1000〜5000ppmの質量比で添加した樹脂組成物から構成されることを特徴とする輸液バッグ用積層体。
【請求項2】
前記結晶核剤が、シクロヘキサンジカルボン酸塩を含む請求項1に記載の輸液バッグ用積層体。
【請求項3】
前記外層が、高密度ポリエチレン樹脂20〜40質量%と低密度ポリエチレン樹脂80〜60質量%との混合樹脂から構成される請求項1または2に記載の輪液バッグ用積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の輸液バッグ用積層体の前記内層同士をヒートシールしてなる袋状のバッグ本体と、該バッグ本体の周縁部に取り付けられた、前記バッグ本体の内と外とを連通可能にするポート部と、を備える輸液バッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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