説明

輸液容器

【課題】容器壁中に鉄粉や遷移金属化合物などを含有しなくとも、優れた酸素吸収性能を発揮することが可能であり、容器内部の酸素を長期に亘って極めて低い濃度に保つことができる、酸素と接触することによって変質し易い成分を含む輸液製剤の容器として好適な輸液容器を提供すること。
【解決手段】単層または多層の容器壁によって構成されてなる輸液容器であって、容器壁が、共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を有していることを特徴とする輸液容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液容器に関し、さらに詳しくは、容器内部の酸素を長期に亘って極めて低い濃度に保つことができるため、アミノ酸輸液製剤や脂肪乳剤などの酸素との接触により変質し易い成分を含む輸液製剤の容器として好適に用いられる輸液容器に関する。
【背景技術】
【0002】
輸液製剤の内、アミノ酸輸液製剤や脂肪乳剤などは、その成分(例えば、システインやリノール酸など)が酸素との接触により変質し易いものであることが知られている。このような、酸素と接触することによって変質し易い成分を含む輸液製剤の容器として、酸素吸収性を有する材料により構成された輸液容器が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ポリオレフィン樹脂に鉄粉や亜硫酸塩を混合してなる酸素吸収性樹脂内層を有するプラスチック製複室輸液容器が提案されている。このプラスチック製複室輸液容器によれば、輸液剤の酸化分解を長期に亘って防止可能であるとされている。しかし、特許文献1の複室輸液容器において、ポリオレフィン樹脂に鉄粉を混合してなる酸素吸収性樹脂内層を用いる場合には、得られる輸液容器に金属探知機を用いた金属異物検査を適用することが困難になり、また、容器の透明性の確保が困難になるという問題がある。また、特許文献1の複室輸液容器において、ポリオレフィン樹脂に亜硫酸塩を混合してなる酸素吸収性樹脂内層を用いる場合には、容器の透明性の確保が困難になり、また、医療用途として用いる場合には安全上の懸念が存在する。
【0004】
また、特許文献2では、オレフィンオリゴマーセグメントが結合された特定の樹脂に、ステアリン酸コバルトなどの遷移金属化合物を配合してなる酸素補足性樹脂を有する樹脂層を用いて構成された輸液用容器が提案されている。この輸液容器によれば、輸液容器内の溶存酸素を除去することができ、しかも、酸素遮断性に優れることから、酸素と接触することによって変質し易い成分を含む輸液を長期保存することが可能になるとされている。しかし、特許文献2に記載された輸液用容器においては、樹脂に充分な酸素吸収能を発揮させるために、ステアリン酸コバルトなどの遷移金属化合物の配合が必須であり、そのような遷移金属化合物を配合する必要がある点において、医療用途として用いる場合には安全上の懸念が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−155361号公報
【特許文献2】特開2001−46474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、容器壁中に鉄粉や遷移金属化合物などを含有しなくとも、優れた酸素吸収性能を発揮することが可能であり、容器内部の酸素を長期に亘って極めて低い濃度に保つことができる輸液容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、輸液容器の容器壁の内、少なくとも一層を共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層で構成することにより、上記目的が達成できることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして、本発明によれば、単層または多層の容器壁によって構成されてなる輸液容器であって、容器壁が、共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を有していることを特徴とする輸液容器が提供される。
【0009】
上記の輸液容器では、酸素吸収性樹脂層が、共役ジエン重合体環化物および軟化剤を含む酸素吸収性樹脂組成物をマトリックス樹脂中に分散させてなる層であることが好ましい。
【0010】
上記の輸液容器では、容器壁が、重金属成分を実質的に含有しない層のみからなることが好ましい。
【0011】
上記の輸液容器では、容器壁が、さらにヒートシール性樹脂層を有する多層の容器壁であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、容器壁中に鉄粉や遷移金属化合物などを含有しなくとも、優れた酸素吸収性能を発揮することが可能であり、容器内部の酸素を長期に亘って極めて低い濃度に保つことができる輸液容器が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の輸液容器は、単層または多層の容器壁によって構成されてなる輸液容器であって、容器壁が、共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を有していることを特徴とするものである。本発明の輸液容器における容器壁は、単層の構成であっても、多層の構成であっても良いが、少なくとも1層の共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を有している必要がある。
【0014】
酸素吸収性樹脂層を構成する材料の少なくとも一部となる酸素吸収性樹脂組成物において、酸素吸収のための有効成分として用いられる共役ジエン重合体環化物は、共役ジエン重合体を酸触媒の存在下に環化反応させて得られるものであり、その分子中に環構造を有し、環構造中に少なくとも1つの二重結合を有するものである。
【0015】
共役ジエン重合体環化物を得るために用いられる共役ジエン重合体としては、共役ジエン単量体の単独重合体、2種以上の共役ジエン単量体の共重合体、および共役ジエン単量体とこれと共重合可能な他の単量体との共重合体を使用することができる。共役ジエン単量体は、特に限定されず、その具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエンが挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0016】
共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、o−クロルスチレン、m−クロルスチレン、p−クロルスチレン、p−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル単量体、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの鎖状オレフィン単量体、シクロペンテン、2−ノルボルネンなどの環状オレフィン単量体、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエン単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドなどのその他の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、共重合様式も特に限定されず、例えば、ブロック共重合体であっても良いし、ランダム共重合体であっても良い。
【0017】
共役ジエン重合体の具体例としては、天然ゴム(NR)、スチレン−イソプレンゴム(SIR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、イソプレン−イソブチレン共重合体ゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体ゴム(EPDM)、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン−イソプレンブロック重合体、スチレン−ブタジエンブロック重合体を挙げることができる。これらのなかでも、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−イソプレンブロック重合体が好ましく用いられ、ポリイソプレンゴム、スチレン−イソプレンブロック重合体がより好ましく用いられ、ポリイソプレンゴムが最も好ましく用いられる。これらの共役ジエン重合体は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0018】
共役ジエン重合体における共役ジエン単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常40モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。共役ジエン重合体の製造方法は常法に従えばよく、例えば、チーグラー系重合触媒、アルキルリチウム重合触媒、ラジカル重合触媒などの適切な触媒を用いて、溶液重合法や乳化重合法により共役ジエン単量体を重合することにより、共役ジエン重合体を得ることができる。また、チーグラー系重合触媒で重合した後、ルテニウムやタングステンなどの触媒を用いてメタセシス分解した共役ジエン重合体も用いることもできる。
【0019】
共役ジエン重合体のミクロ構造も特に限定されない。例えば、共役ジエン重合体としてポリイソプレンゴムを用いる場合における、シス−1,4−結合単位含有量は23〜99%であることが好ましく、トランス−1,4−結合単位含有量は1〜28%であることが好ましく、3,4−結合単位含有量は0〜55%であることが好ましい。
【0020】
共役ジエン重合体環化物は、上述したような共役ジエン重合体を酸触媒の存在下に環化反応させることにより得ることができる。環化反応に用いる酸触媒としては、公知のものを使用することができる。その具体例としては、硫酸;フルオロメタンスルホン酸、ジフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、炭素数2〜18のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸、これらの無水物およびアルキルエステルなどの有機スルホン酸化合物;三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、塩化アルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、エチルアンモニウムクロリド、臭化アルミニウム、五塩化アンチモン、六塩化タングステン、塩化鉄などのルイス酸;が挙げられる。これらの酸触媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、助触媒として、ターシャルブチルクロライド、トリクロロ酢酸を併用してもよい。これらの中でも、有機スルホン酸化合物が好ましく用いられ、p−トルエンスルホン酸やキシレンスルホン酸がより好ましく用いられる。酸触媒の使用量は、共役ジエン重合体100重量部当たり、通常0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.3〜2重量部である。
【0021】
環化反応は、通常、共役ジエン重合体を溶媒中に溶解して行なう。溶媒としては、環化反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;などの炭化水素溶媒が好ましく用いられる。これらの炭化水素溶媒の沸点は、70℃以上であることが好ましい。共役ジエン重合体の重合反応に用いる溶媒と環化反応に用いる溶媒とは、同一種であってもよい。この場合は、重合反応が終了した重合反応液に環化反応用の酸触媒を添加して、重合反応に引き続いて環化反応を行なうことができる。炭化水素溶媒の使用量は、共役ジエン重合体の固形分濃度が、通常5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%となる範囲である。
【0022】
環化反応は、加圧、減圧および大気圧のいずれの圧力下でも行なうことができるが、操作の簡便性の点から大気圧下で行なうことが望ましい。環化反応を、乾燥気流下、特に乾燥窒素や乾燥アルゴンの雰囲気下で行なうと水分によって引き起こされる副反応を抑えることができる。環化反応における反応温度や反応時間は、特に限定されない。反応温度は、通常50〜150℃、好ましくは70〜110℃であり、反応時間は、通常0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間である。環化反応を行なった後、常法により、酸触媒を不活性化し、酸触媒残渣を除去し、次いで炭化水素溶媒を除去して、固形状の共役ジエン重合体環化物を得ることができる。
【0023】
共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率は、特に限定されるものではないが、40%以上であることが好ましく、52〜70%であることがより好ましく、59〜65%であることが特に好ましい。不飽和結合減少率がこのような範囲にある共役ジエン重合体環化物を用いることにより、酸素吸収性樹脂組成物に良好な酸素吸収性能を付与することができ、かつ、酸素吸収に伴う臭気の発生を抑制することができる。なお、共役ジエン重合体環化物として、不飽和結合減少率の異なる共役ジエン重合体環化物を2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0024】
共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率は、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、不飽和結合が環化反応によって減少した程度を表す指標であり、以下のようにして求められる数値である。即ち、プロトンNMR分析により、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、全プロトンのピーク面積に対する二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積の比率を、環化反応前後について、それぞれ求め、その減少率を計算する。具体的には、次に述べるようにして、共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率を求めることができる。すなわち、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、環化反応前の全プロトンピーク面積をSBT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSBU、環化反応後の全プロトンピーク面積をSAT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSAUとすると、環化反応前の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SB)は、式:SB=SBU/SBTで表され、環化反応後の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SA)は、式:SA=SAU/SATで表される。そして、不飽和結合減少率は、式:不飽和結合減少率(%)=100×(SB−SA)/SBで求められる。
【0025】
共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率は、共役ジエン重合体の環化反応における酸触媒の量、反応温度、反応時間などを適宜選択して調節することができる。
【0026】
共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィで測定される標準ポリスチレン換算値として、通常1000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、より好ましくは80,000〜300,000である。共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量は、環化に供する共役ジエン重合体の重量平均分子量を適宜選択して調節することができる。なお、共役ジエン重合体環化物が共役ジエン−芳香族ビニル単量体ブロック共重合体環化物である場合においては、芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量は、1000〜300,000であることが好ましい。共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量を適切に設定することにより、環化反応の際の溶液粘度が適切なものとなると共に、得られる酸素吸収性樹脂組成物の加工性や機械的強度が良好となる。
【0027】
共役ジエン重合体環化物におけるゲルの含有量は、トルエン不溶分の含有量として、通常10重量%以下であり、5重量%以下であることが好ましく、実質的にゲルを含有しないことが特に好ましい。ゲルの含有量が多いと、得られる樹脂組成物の加工性が悪くなる場合がある。
【0028】
酸素吸収性樹脂組成物を構成するために用いる共役ジエン重合体環化物のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、通常40℃以上であり、50℃以上であることが好ましく、55℃〜80℃であることがより好ましい。共役ジエン重合体環化物のガラス転移温度は、共役ジエン重合体環化物を得るために用いられる共役ジエン重合体の種類に応じて、共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率を調節することなどにより調節することができる。
【0029】
酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収のための有効成分となる共役ジエン重合体環化物のみからなるものであっても良いが、他の成分を含んでなるものであっても良い。例えば、酸素吸収性樹脂組成物全体としてのガラス転移温度を調節する目的で、酸素吸収性樹脂組成物に軟化剤を配合することができる。
【0030】
軟化剤としては、それ自体のガラス転移温度が−30℃以下である液状物が好適に用いられる。また、軟化剤は、共役ジエン重合体環化物と相溶性を有することが好ましく、また、後述するマトリックス樹脂とは相溶しないものであることが好ましい。軟化剤の具体例としては、イソパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、流動パラフィンなどの炭化水素オイル;ポリブテン、ポリイソブチレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体(線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)など)などのオレフィン重合体(低分子量のもの);ポリイソプレンやポリブタジエンなどの共役ジエン重合体の水素化物(低分子量のもの);スチレン−共役ジエン重合体の水素化物(低分子量のもの);オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸、イソステアリン酸などの脂肪酸;脂肪酸エステルが挙げられる。これらのなかでも、炭化水素オイルおよび/または脂肪酸が好ましく用いられ、そのなかでも、流動パラフィンおよび/またはエルカ酸が特に好ましく用いられる。これらの軟化剤は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0031】
軟化剤の配合量は、酸素吸収性樹脂組成物のガラス転移温度を目的の範囲にすることができるように、酸素吸収性樹脂組成物の各成分の種類や配合比に応じて決定されるが、酸素吸収性樹脂組成物全体に対して、通常0〜30重量%であり、好ましくは1〜20重量%であり、より好ましくは3〜15重量%である。
【0032】
本発明で用いる酸素吸収性樹脂組成物は、そのガラス転移温度が−5℃〜+20℃であることが好ましい。このようなガラス転移温度を有する酸素吸収性樹脂組成物を用いることにより、酸素吸収性樹脂組成物が、特に、常温下での酸素吸収性能に優れるものとなる。酸素吸収性樹脂組成物のガラス転移温度は、酸素吸収性樹脂組成物を構成する各成分それぞれのガラス転移温度を考慮して、各成分の配合比を調節することにより、容易に調節することができる。
【0033】
酸素吸収性樹脂組成物には、必要に応じて酸化防止剤を配合しても良い。酸化防止剤を配合することにより、酸素吸収性樹脂組成物の安定性が向上し、加工時などにおける取り扱いが容易になる。酸素吸収性樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、通常5000重量ppm以下、好ましくは3000重量ppm以下、より好ましく2000重量ppm以下、特に好ましくは500重量ppm以下である。酸化防止剤の含有量が多すぎると、酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収を阻害するおそれがある。
【0034】
酸化防止剤は、樹脂材料やゴム材料の分野において通常使用されるものであれば、特に制限されない。このような酸化防止剤の代表的なものとしては、ヒンダードフェノール系、リン系およびラクトン系の酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらのなかでも、リン系酸化防止剤を用いることが好ましい。なお、これらの酸化防止剤に加えて、さらに、アミン系光安定化剤(HALS)を添加してもよい。
【0035】
酸素吸収性樹脂組成物には、共役ジエン重合体環化物に加えて、他の樹脂を配合しても良い。例えば、ポリα−オレフィン樹脂を配合すると、得られる組成物の機械的強度を改良することができる。ポリα−オレフィン樹脂としては、α−オレフィンの単独重合体、2種以上のα−オレフィンの共重合体、α−オレフィンとα−オレフィン以外の単量体との共重合体の何れであってもよく、また、これらの(共)重合体を変性したものであってもよい。ポリα−オレフィン樹脂の具体例としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセンポリエチレン、ポリプロピレン、メタロセンポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン−ポリブテン−1共重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体を挙げることができる。ポリα−オレフィン樹脂は、1種を単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0036】
また、酸素吸収性樹脂組成物には、共役ジエン重合体環化物の酸化反応を促進させる酸化触媒を添加しても良い。酸化触媒としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ロジウム、ルテニウムなどの遷移金属の塩(遷移金属系触媒)を代表例として挙げることができる。遷移金属塩の形態の例としては、塩化物、酢酸塩、ステアリン酸塩、パルミチン酸塩、2−エチルヘキサン酸エチル、ネオデカン酸塩、ナフトエ酸塩が挙げられる。ただし、本発明において酸素吸収性樹脂組成物を構成するために用いられる共役ジエン重合体環化物は、酸化触媒の非存在下であっても十分な酸素吸収性を発揮する樹脂であるから、酸化触媒の添加は必ずしも必要ではなく、輸液容器の容器壁に重金属成分を含有させないために、酸素吸収性樹脂組成物中に酸化触媒(遷移金属系触媒)が実質的に含有されないことが好ましい。
【0037】
酸素吸収性樹脂組成物には、必要に応じてさらに他の成分を配合しても良い。配合されうる他の成分の具体例としては、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化チタンなどの充填剤;粘着性付与剤(水添石油樹脂、水添テルペン樹脂、ひまし油誘導体、ソルビタン高級脂肪酸エステル、低分子量ポリブテン);界面活性剤;レベリング剤;紫外線吸収剤;光安定剤;脱水剤;ポットライフ延長剤(アセチルアセトン、メタノール、オルト酢酸メチルなど);ハジキ改良剤;を挙げることができる。
【0038】
酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収速度は特に限定されるものではないが、30℃における酸素吸収速度が、0.01cc/100cm・日以上のものであることが好ましい。ここで、本発明において、酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収速度は、対象とする酸素吸収性樹脂組成物を厚さ20μmのフィルムとし、そのフィルムを、30℃、大気圧の下、一定容量の乾燥空気中に置いた場合に、そのフィルムが単位面積(100cm)当り1日(24時間)で吸収する酸素の容量(単位:cc)で表すものとする。酸素吸収速度が小さすぎる酸素吸収性樹脂組成物を用いると、得られる組成物の酸素吸収能力が不十分となる。
【0039】
本発明の輸液容器において、その容器壁の少なくとも一部を構成する酸素吸収性樹脂層は、上述したような酸素吸収性樹脂組成物のみから構成されていても良いが、酸素吸収性樹脂組成物と他の材料との複合材料により構成されていても良い。酸素吸収性樹脂層を他の材料との複合材料で構成する場合の具体例としては、酸素吸収性樹脂組成物をマトリックス樹脂中に分散させた形態を挙げることができる。酸素吸収性樹脂組成物をマトリックス樹脂中に分散させて用いることにより、酸素吸収性を有し、機械的強度や成形性にも優れる酸素吸収性樹脂層を得ることができる。
【0040】
マトリックス樹脂は、酸素吸収性樹脂組成物を分散させうる樹脂であれば特に限定されないが、加工性の観点から熱可塑性樹脂であることが好ましい。マトリックス樹脂として用いることができる熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリα−オレフィン樹脂;ポリスチレンなどの芳香族ビニル樹脂;ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール樹脂;フッ素樹脂;メタクリル樹脂などのアクリル樹脂;ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂およびこれらの共重合体などのポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸−シクロヘキサンジメタノール系ポリエステルなどのポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリウレタン樹脂;などを挙げることができる。マトリックス樹脂は、1種を単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0041】
本発明の輸液容器の酸素吸収性樹脂層を構成するにあたり、特に好ましく用いられるマトリックス樹脂として、酸素バリア性を有する樹脂(酸素バリア性樹脂)を挙げることができる。酸素吸収性樹脂層を、酸素バリア性樹脂であるマトリックス樹脂中に酸素吸収性樹脂組成物が分散された形態とすることによって、容器外部からの容器内部への酸素侵入量を極めて少ないものとすることが可能となり、その結果として、輸液容器内部の酸素をさらに長期に亘って極めて低い濃度に保つことが可能となる。
【0042】
酸素バリア性樹脂は、0.15〜20cc/m・day・atm(20μm、23℃、65%RH)の酸素透過速度を有する樹脂であることが好ましい。即ち、酸素バリア性樹脂の酸素透過度は、20μmの厚さのフィルムについて、23℃、相対湿度65%の条件下で測定したときに、0.15〜20cc/m・day・atmであることが好ましい。酸素バリア性樹脂の具体例としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデンを挙げることができ、これらの中でも、エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いることが特に好ましい。
【0043】
エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量は、特に限定されないが、20〜50モル%であることが好ましく、25〜40モル%であることが特に好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体のビニルエステル部分の鹸化度(ビニルアルコール構造を有する単量体単位部分とビニルエステル構造を有する単量体単位部分との合計に対するビニルアルコール構造を有する単量体単位部分の比率)も特に限定されないが、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、99%以上であることが特に好ましい。なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量やビニルエステル部分の鹸化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0044】
また、エチレン−ビニルアルコール共重合体としては、市販のエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用することも可能であり、一般グレードのエチレン−ビニルアルコール共重合体(例えば、商品名「ソアノールDC3203RB」、日本合成化学社製)を用いても良いが、殺菌処理による輸液容器の不透明化を防止する観点からは、白化防止グレードのエチレン−ビニルアルコール共重合体(例えば、商品名「ソアノールRB1404BJ」、日本合成化学社製)を用いることが好ましい。
【0045】
マトリックス樹脂には、他の成分を配合しても良い。配合されうる他の成分の具体例としては、熱安定剤;紫外線吸収剤;着色剤;顔料;中和剤;フタル酸エステル、グリコールエステルなどの可塑剤;炭酸カルシウム、アルミナ、酸化チタンなどの充填剤;粘着性付与剤(水添石油樹脂、水添テルペン樹脂、ひまし油誘導体、ソルビタン高級脂肪酸エステル、低分子量ポリブテン);界面活性剤;レベリング剤;紫外線吸収剤;光安定剤;脱水剤;ポットライフ延長剤(アセチルアセトン、メタノール、オルト酢酸メチルなど);ハジキ改良剤;を挙げることができる。
【0046】
マトリックス樹脂中に酸素吸収性樹脂組成物を分散させる方法は特に限定されず、公知の手法を採用すれば良いが、工程の簡便さやコストの観点から、溶融混練法が好適に使用される。なお、マトリックス樹脂中に酸素吸収性樹脂組成物を分散させる際に、それぞれの各成分を予め混合しておく必要はなく、個々の成分を一括で、または任意の順で混合して、マトリックス樹脂中に酸素吸収性樹脂組成物が分散した状態とすれば良い。
【0047】
酸素吸収性樹脂組成物をマトリックス樹脂に分散させて酸素吸収性樹脂層を構成する場合において、酸素吸収性樹脂組成物とマトリックス樹脂との配合比は特に限定されないが、酸素吸収性樹脂組成物/マトリックス樹脂の重量比が、5/95〜50/50であることが好ましく、20/80〜40/60であることがより好ましい。酸素吸収性樹脂組成物/マトリックス樹脂の重量比がこの範囲にあると、得られる酸素吸収性樹脂層の容器内部の酸素の侵入を防止する機能が特に良好なものとなる。
【0048】
酸素吸収性樹脂組成物をマトリックス樹脂中に分散させて用いる場合には、分散安定化剤を用いても良い。分散安定化剤の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリエチレンやスチレン−ジエン系ブロック共重合体(スチレン−イソプレン−ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体など)、その水添物などのスチレン系重合体を変性して得られる、極性基を含有する炭化水素系重合体などを示すことができる。
【0049】
マトリックス樹脂中に酸素吸収性樹脂組成物を分散させる際に、溶融混練法を採用する場合に用いる装置は、特に限定されないが、例えば、連続式インテンシブミキサー、(同方向または異方向)ニーディングタイプ二軸押出機、ミキシングロール、コニーダーなどの連続型混練機;高速ミキサー、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、加圧ニーダーなどのバッチ型混練機;KCK社製のKCK混練押出機などの、石臼のような摩砕機構を有する回転円板を使用した装置;一軸押出機に混練部(ダルメージ、CTMなど)を設けたもの;リボンブレンダー、ブラベンダーミキサーなどの簡易型の混練機を挙げることができる。混練温度は、通常50〜300℃の範囲であり、好ましくは170〜240℃の範囲である。
【0050】
本発明の輸液容器は、上述したような酸素吸収性樹脂組成物を含む酸素吸収性樹脂層単層の容器壁で構成されたものであっても良いが、酸素吸収性樹脂層に他の材料の層が積層されてなる多層の容器壁で構成されたものであることが好ましい。輸液容器の容器壁を構成する酸素吸収性層以外の層は、特に限定されないが、ヒートシール性樹脂層(密封材層)、接着剤層、ガスバリア材層、保護層などを例示することができる。
【0051】
多層の容器壁を構成するための層として用いられ得るヒートシール性樹脂層は、ヒートシール性樹脂によって構成され、熱によって溶融して相互に接着する(ヒートシールされる)ことによって、輸液容器に外部と遮断された空間を形成する機能を有する層である。ヒートシール性樹脂の具体例としては、エチレンの単独重合体およびプロピレンなどのα−オレフィンの単独重合体、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、メタロセンポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン;エチレンとα−オレフィンとの共重合体、例えば、エチレン−プロピレン共重合体;α−オレフィンを主体とする、α−オレフィンと酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどとの共重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体などのポリα−オレフィン樹脂;ポリエチレンやポリプロピレンなどのα−オレフィン(共)重合体をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリα−オレフィン樹脂;エチレンとメタクリル酸との共重合体などにNaイオンやZnイオンを作用させたアイオノマー樹脂;これらの混合物;などが挙げられる。
【0052】
ヒートシール性樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤;粘着性付与剤(水添石油樹脂、水添テルペン樹脂、ひまし油誘導体、ソルビタン高級脂肪酸エステル、低分子量ポリブテンなど);帯電防止剤;充填剤;可塑剤(フタル酸エステル、グリコールエステルなど);界面活性剤;レベリング剤;耐熱安定剤;耐候性安定剤;紫外線吸収剤;光安定剤;脱水剤;ポットライフ延長剤(アセチルアセトン、メタノール、オルト酢酸メチルなど);ハジキ改良剤;ブロッキング防止剤;防曇剤;滑剤;補強剤;難燃剤;カップリング剤;発泡剤;離型剤;着色剤;顔料;などを添加することができる。
【0053】
接着剤層は、異なる層の層間に設けられることにより、その層間の密着性を改良する機能を有する層である。接着剤層の材料は、目的とする層間の密着性を改良できるものであれば特に限定されないが、接着性樹脂が好適である。接着性樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体;ポリウレタン系またはポリエステル系の一液型または二液型硬化性接着剤;カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。酸素吸収性樹脂組成物とヒートシール性樹脂層との密着性を改良する接着剤層の材料としては、これらの中でも、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂が特に好適に用いられる。
【0054】
カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸もしくはその無水物(無水マレイン酸など)を共重合成分として含むオレフィン系重合体もしくは共重合体、または不飽和カルボン酸もしくはその無水物をオレフィン系重合体もしくは共重合体にグラフトさせて得られるグラフト共重合体である。カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂の例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)などのポリエチレン;ポリプロピレン、共重合ポリプロピレンなどのポリプロピレン;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステルまたはエチルエステル)共重合体;などを変性したものが挙げられる。
【0055】
多層の容器壁を構成するための層として用いられ得るガスバリア材層は、輸液容器外部からの酸素などの気体の透過を阻止する機能を有する層であり、通常、輸液容器において酸素吸収性樹脂層よりも外側に位置するように配置される。ガスバリア材層の酸素透過度は、加工性やコストが許す限りできるだけ小さくすることが好ましく、具体的には、その膜厚に関係なく100cc/m・atm・day(25℃、90%RH)以下であることが好ましく、50cc/m・atm・day(25℃、90%RH)以下であることが特に好ましい。
【0056】
ガスバリア材層を構成するための材料は、酸素、水蒸気などの気体透過性の低いものであれば、特に限定されないが、樹脂であることが好ましい。ガスバリア材層として用いられる樹脂の具体例としては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;MXDナイロン(ポリメタキシリレンアジパミド)などのポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル樹脂;ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらのガスバリア材層に酸化アルミニウムや酸化シリコンなどの無機酸化物の蒸着を行なうこともできる。これらの樹脂は、ガスバリア性、強度や靭性や剛性などの機械的特性、耐熱性、印刷性、透明性、接着性など、所望の要求特性を勘案して、適宜選択することができる。これらの樹脂は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0057】
ガスバリア材層として用いる樹脂には、熱安定剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;着色剤;顔料;中和剤;フタル酸エステル、グリコールエステルなどの可塑剤;充填剤;界面活性剤;レベリング剤;光安定剤;アルカリ土類金属酸化物などの脱水剤;活性炭やゼオライトなどの脱臭剤;粘着性付与剤(ひまし油誘導体、ソルビタン高級脂肪酸エステル、低分子量ポリブテン);ポットライフ延長剤(アセチルアセトン、メタノール、オルト酢酸メチルなど);ハジキ改良剤;他の樹脂(ポリα−オレフィンなど);などを配合することもできる。また、必要に応じて、ブロッキング防止剤、防曇剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、滑剤、帯電防止剤、補強剤、難燃剤、カップリング剤、発泡剤、離型剤などを添加することができる。
【0058】
多層の容器壁を構成するための層として用いられ得る保護層は、通常、酸素吸収性樹脂層またはガスバリア材層の外側に位置するように配置され、これらの層を熱や外力から保護する機能を有する層である。保護層の材料は特に限定されないが、樹脂であることが好ましい。保護層に用いる樹脂としては、高密度ポリエチレンなどのエチレン重合体;プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体などのプロピレン重合体;ポリアミド6、ポリアミド66などのポリアミド;ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル;などを挙げることができる。
【0059】
本発明の輸液容器を多層の容器壁で構成する場合、その層構成は、共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を含む限りにおいて特に限定されるものではないが、少なくとも酸素吸収性樹脂層およびヒートシール性樹脂層を有するものであることが好ましく、ヒートシール性樹脂層、接着剤層、および酸素吸収性樹脂層がこの順で積層されてなる3層構造を含んでなるものであることがより好ましい。本発明の輸液容器の容器壁として、特に望ましい層構成としては、容器の内側となる層から順に、ヒートシール性樹脂層/接着剤層/酸素吸収性樹脂層/接着剤層/保護層の構成やヒートシール性樹脂層/接着剤層/酸素吸収性樹脂層/接着剤層/ガスバリア材層/接着剤層/保護層の構成を挙げることができる。
【0060】
本発明の輸液容器では、酸素吸収性樹脂層として、共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を用いることにより、鉄粉などの酸素吸収剤や遷移金属の塩などの酸化触媒の配合を必要とすることなく、優れた酸素吸収性能を備える酸素吸収性樹脂層を有する容器壁を設けることができる。したがって、重金属成分を実質的に含有しない酸素吸収性樹脂層を設けることが可能となり、その結果、容器壁を構成する全ての層を重金属成分を実質的に含有しない層のみで構成することが可能となる。したがって、本発明の輸液容器は、その容器壁が、重金属成分を実質的に含有しない層のみで構成されることが好ましい。輸液容器に、金属探知機を用いた金属異物検査を適用することが可能となり、また、安全性の高い輸液容器が得られるからである。なお、「重金属成分を実質的に含有しない」とは、検出限界が0.2μg/gである誘導結合プラズマ発光分光分析装置により、重金属元素が検出されないことを意味する。
【0061】
本発明の輸液容器において、酸素吸収性樹脂層を有してなる容器壁の厚さは、100〜400μmであることが好ましく、200〜300μmであることが特に好ましい。また、この容器壁を構成する、酸素吸収性樹脂層の厚さは20〜100μmであることが好ましく、30〜60μmであることが特に好ましい。ヒートシール性樹脂層の厚さは50〜200μmであることが好ましく、70〜140μmであることが特に好ましい。接着剤層の厚さは3〜25μmであることが好ましく、5〜15μmであることが特に好ましい。
【0062】
本発明の輸液容器を製造する方法は特に限定されないが、所望の容器壁の層構成を有するフィルム状やチューブ状の原反を得て、その原反を成形して輸液容器とする手法が好適である。輸液容器を多層の容器壁で構成する場合には、それぞれの層の単層の原反を得た後これらを積層しても良く、多層の原反を直接成形しても良い。単層の原反は、公知の方法で製造することができる。例えば、各層を構成する樹脂組成物などを溶媒に溶解して得た溶液を概ね平坦な面上に塗布・乾燥する溶液キャスト法によってフィルムを得ることができる。また、例えば、各層を構成する樹脂組成物などを押出し機で溶融混練した後、T−ダイ、サーキュラーダイ(リングダイ)などを通して所定の形状に押出すことにより、T−ダイ法フィルム、ブローンフィルムなどが得られる。押出し機としては、一軸押出し機、二軸押出し機、バンバリーミキサーなどの混練機を使用することができる。Tダイフィルムはこれを二軸延伸することにより、二軸延伸フィルムとすることができる。以上のようにして得られた単層の原反から、押出しコート法や、サンドイッチラミネーション、ドライラミネーションなどによって多層の原反を製造することができる。
【0063】
多層の原反(フィルム状、チューブ状など)の製造には、公知の共押出成形法を用いることができ、例えば材料の種類に応じた数の押出し機を用いて、多層多重ダイを用いる以外は上記と同様にして共押出成形を行なえばよい。共押出成形法としては、共押出ラミネーション法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法などを挙げることができる。チューブ状の原反を得る場合の一例を示せば、水冷式または空冷式インフレーション法により、それぞれの材料を数台の押出機によりそれぞれ溶融加熱し、多層環状ダイから、例えば、190〜210℃の押出温度で押出し、直ちに冷却水などの液状冷媒により急冷固化させることによってチューブ状の原反とすることができる。
【0064】
原反から輸液容器を得る方法も特に限定されず、ヒートシールなどによって、外部と遮断された輸液を収納するための所望の大きさの空間を形成するように原反の接合を行い、必要に応じて口部となる部材などを取り付ければ良い。
【0065】
本発明の輸液容器の形態は、少なくとも一部の容器壁が、共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を有している限りにおいて、特に限定されない。例えば、輸液を収納する空間を1つのみ有する単室の輸液容器であっても良いし、輸液を収納する空間が2つ以上に隔てられた複室の輸液容器であっても良い。複室の輸液容器とする場合には、隔てられた空間を必要に応じて連通させるための機構を設けて、それぞれの空間に収められた輸液を容器内で混合可能な形態とすることもできる。隔てられた空間を必要に応じて連通させるための機構の具体例としては、イージーピールオープン性を有するシール、栓、クリップなどを挙げることができる。また、複室の輸液容器とする場合には、酸素との接触により変質し易い成分を含む輸液製剤を収納する空間のみに酸素吸収性樹脂層を有する容器壁を配しても良いし、全体に酸素吸収性樹脂層を有する容器壁を配しても良い。
【0066】
本発明の輸液容器に収納する輸液製剤は特に限定されないが、容器内部の酸素を長期に亘って極めて低い濃度に保つことができるものであることから、酸素との接触により変質し易い成分を含む輸液製剤を収納するために用いるのが好適である。酸素との接触により変質し易い成分を含む輸液製剤の例としては、システインやトリプトファンなどを含むアミノ酸輸液製剤や、リノール酸などを含む脂肪乳剤を挙げることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部、%、およびppmは、特に断りのない限り、重量基準である。
【0068】
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0069】
〔共役ジエン重合体および共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量(Mw)〕
溶出溶剤としてテトラヒドロフランを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(装置:HLC8020(東ソー社製)、カラム:TSKゲルG2000HXL、G4000HXL及びG5000HXL(東ソー社製)を直列に連結したもの。流速:1.0ml/分、温度40℃、検出器:示差屈折計)により、標準ポリスチレン換算分子量として求めた。
【0070】
〔共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率〕
(i) M.A.Golub and J.Heller,Can.J.Chem.,第41巻,937(1963).および(ii) Y.Tanaka and H.Sato,J.Polym.Sci:Poly.Chem.Ed.,第17巻,3027(1979).の文献に記載された方法を参考にして、プロトンNMR測定により求めた。なお、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、環化反応前の全プロトンピーク面積をSBT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSBU、環化反応後の全プロトンピーク面積をSAT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSAUとすると、環化反応前の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SB)は、式:SB=SBU/SBTで表され、環化反応後の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SA)は、式:SA=SAU/SATで表される。従って、不飽和結合減少率は、式:不飽和結合減少率(%)=100×(SB−SA)/SBにより求められる。
【0071】
〔ガラス転移温度〕
示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、「EXSTAR6000 DSC」)を用いて、窒素気流中、昇温速度10℃/分で測定した。
【0072】
〔酸素濃度〕
容器内部の酸素濃度は、容器内に非破壊酸素測定用センサーチップ(商品名「SP−PSt3−YAU−D5」、タイテック社製)を専用の接着剤を用いて貼り付けて、非破壊酸素濃度計(商品名「FIBOX」、タイテック社製)を用いて測定した。
【0073】
〔重金属成分の有無〕
検出限界が0.2μg/gである誘導結合プラズマ発光分光分析装置(商品名「SPS−5000」、エスアイアイナノテクノロジー社製)を用いて、内部標準検量線法により、試料中の重金属成分の含有量を測定した。なお、測定試料は以下のように作製した。まず、白金るつぼに測定対象(フィルム)2gを秤量した。次に、試料の入った白金るつぼを煙が出なくなるまでヒーターで加熱し、次いで、バーナーで加熱して試料を炭化させた。そして、それぞれの白金るつぼに蓋をして、550℃の電気炉に2時間静置した。放冷後、それぞれの白金るつぼに硝酸0.2mLと超純粋水約6mLを添加し、ヒーターで加熱して灰分を溶解させた。この白金るつぼ内容物をメスフラスコを用いて、10mLに定容して、測定試料とした。なお、同じ型の白金るつぼを2つ用意し、一方には試料をいれることなく、同じ操作を行い、測定の対照とした。
【0074】
〔製造例1〕
攪拌機、温度計、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた耐圧反応器に、10mm角に裁断したポリイソプレン(シス−1,4結合単位含有量67.6%、トランス−1,4結合単位含有量23.8%、3,4−結合単位含有量8.6%、重量平均分子量248,000)300部を、トルエン700部とともに仕込んだ。反応器内を窒素置換した後、85℃に加温して攪拌下でポリイソプレンをトルエンに完全に溶解した後、p−トルエンスルホン酸(トルエン中で、水分量が150ppm以下になるように、還流脱水したもの)2.4部を添加し、温度が85℃を超えないように制御しながら環化反応を行った。4時間反応させた後、炭酸ナトリウム0.83部を含む25%炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応を停止した。次に、85℃の条件下で、イオン交換水300部(1回あたり)を用いて、3回油層成分の洗浄を行うことにより、反応系中の触媒残渣を除去した。そして、得られた溶液からトルエンの一部を留去して、さらに、真空乾燥によってトルエンを除去して、固形状のポリイソプレンの環化物を得た。ポリイソプレンの環化物の重量平均分子量は229,000であり、不飽和結合減少率は61.4%であり、ガラス転移温度は48℃であった。
【0075】
得られた固形状のポリイソプレンの環化物は、単軸混練押出機(40φ、L/D=25、ダイス径3mm×1穴、池貝社製)を用いて、シリンダー1:140℃、シリンダー2:150℃、シリンダー3:160℃、シリンダー4:170℃、ダイス温度170℃、回転数25rpmの混練条件で混練し、ペレタイザーによりペレット化して、ペレット状のポリイソプレンの環化物を得た。
【0076】
〔製造例2〕
製造例1で得たペレット状のポリイソプレンの環化物、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位含有量32%、商品名「ソアノールDC3203RB」、日本合成化学社製)、流動パラフィン(商品名「ハイコール K−350」、カネダ社製)およびエルカ酸(日油社製)を、23.25/70.0/1.75/5.0の重量比で、200℃に設定された二軸同方向回転混練押出機(商品名「ZE40A(2)」、ベルストルフ社製、43φ、L/D=40、スクリュー長1600mm、スクリュー構成:液填強混練用、ダイス:φ3mm×3穴、ストランド冷却:水冷)を用いて混練し、ペレットを得た。このペレットの材料は、エチレン−ビニルアルコール共重合体中に、ポリイソプレンの環化物、流動パラフィンおよびエルカ酸からなる酸素吸収性樹脂組成物が分散した構成を有していた。この材料を試料としてガラス転移温度を測定したところ、この材料中の酸素吸収性樹脂組成物のガラス転移温度は14.7℃であった。
【0077】
〔製造例3〕
用いるエチレン−ビニルアルコール共重合体の種類を、商品名「ソアノールDC3203RB」から、白化防止グレードである商品名「ソアノールRB1404BJ」(エチレン単位含有量32%、日本合成化学社製)に変更したこと以外は、製造例2と同様にして、ペレットを得た。このペレットの材料は、エチレン−ビニルアルコール共重合体中に、ポリイソプレンの環化物、流動パラフィンおよびエルカ酸からなる酸素吸収性樹脂組成物が分散した構成を有していた。この材料を試料としてガラス転移温度を測定したところ、この材料中の酸素吸収性樹脂組成物のガラス転移温度は15.0℃であった。
【0078】
〔実施例1〕
酸素吸収性樹脂層の材料として製造例2で得たペレットを、接着剤層の材料と酸変性ポリα−オレフィン樹脂(商品名「モディックM545」、三菱化学社製)を用い、さらに、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)として商品名「140HK」(宇部丸善ポリエチレン社製)を用いて、インフレーション製膜機により、内側から、LDPE層(ヒートシール性樹脂層)/接着剤層/酸素吸収性樹脂層/接着剤層/LDPE層(保護層)の3種5層の多層構造を有する輸液容器用のチューブ状原反を製造した。それぞれの層の厚さは、90/15/40/15/90μmとした。このチューブ状原反の一部を試料として、重金属成分の有無を測定したところ、重金属成分は検出されなかった。次に、このチューブ状原反を250mmの長さで切断し、一端側の開口部をヒートシールすることにより、袋状の容器を作製した。この容器に溶存酸素量3ppmの水200mLを入れて、内部に空気が入らないようにして、もう一端側の開口部もヒートシールした。この水が入った容器を、115℃、30分間の殺菌処理した後、23℃、相対湿度65%の条件下に静置した。そして、静置開始後、5、10、20、30日後に、容器内部の水の溶存酸素濃度を測定した。この結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
〔実施例2〕
製造例2で得たペレットに代えて、製造例3で得たペレットを酸素吸収性樹脂層の材料として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、輸液容器用のチューブ状原反を製造し、容器内部の水の溶存酸素濃度の測定を行った。この結果を表1に示す。なお、得られたチューブ状原反の一部を試料として、重金属成分の有無を測定したところ、重金属成分は検出されなかった。
【0081】
〔比較例〕
製造例2で得たペレットに代えて、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位含有量32%、商品名「ソアノールDC3203RB」、日本合成化学社製)のみからなるペレットを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、輸液容器用のチューブ状原反を製造し、容器内部の水の溶存酸素濃度の測定を行った。結果を表1に示す。なお、得られたチューブ状原反の一部を試料として、重金属成分の有無を測定したところ、重金属成分は検出されなかった。
【0082】
表1に示される結果から分かるように、酸素吸収性樹脂層を有しない比較例の輸液容器では、容器内部の水の溶存酸素濃度が当初の3ppmから経時的に増大することが確認された。すなわち、比較例の輸液容器に酸素との接触により変質し易い成分を含む輸液製剤を収納すると、輸液製剤中の溶存酸素や容器外部からの侵入する酸素により、輸液製剤の変質が経時的に進行してしまうといえる。一方、共役ジエン重合体環化物(ポリイソプレンの環化物)を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を有する、実施例1や実施例2の輸液容器では、静置後5日後には、容器内部の水の溶存酸素濃度が当初の3ppmから大幅に低下したことが確認された。この溶存酸素濃度の低下は、酸素吸収性樹脂層中の酸素吸収性樹脂組成物により、溶存酸素が吸収されたことにより生じたものと考えられる。また、30日間の静置によっても、溶存酸素濃度の増大は確認されず、低い溶存酸素濃度が維持された。これは、実施例1や実施例2の輸液容器では、容器外部からの酸素の侵入が高度に防止されたためであると考えられる。したがって、本発明の輸液容器では、容器壁中に鉄粉や遷移金属化合物などを含有しなくとも、容器内部の酸素を長期に亘って極めて低い濃度に保つことができるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層または多層の容器壁によって構成されてなる輸液容器であって、容器壁が、共役ジエン重合体環化物を含む酸素吸収性樹脂組成物を含んでなる酸素吸収性樹脂層を有していることを特徴とする輸液容器。
【請求項2】
酸素吸収性樹脂層が、共役ジエン重合体環化物および軟化剤を含む酸素吸収性樹脂組成物をマトリックス樹脂中に分散させてなる層である請求項1に記載の輸液容器。
【請求項3】
容器壁が、重金属成分を実質的に含有しない層のみからなる請求項1または2に記載の輸液容器。
【請求項4】
容器壁が、さらにヒートシール性樹脂層を有する多層の容器壁である請求項1〜3のいずれかに記載の輸液容器。

【公開番号】特開2012−71051(P2012−71051A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219862(P2010−219862)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】