説明

輸液装置

【課題】ポンプ、ポンプを制御する電子制御部、およびポンプの動きを機械的に阻止することによりポンプを停止させる機械的停止装置を有する輸液装置を提供する。
【解決手段】ポンプ1、前記ポンプ1を制御する電子制御部8、およびポンプの動きを機械的に阻止することにより前記ポンプ1を停止させる機械的停止装置11、12、13、14を有する輸液装置において、前記停止装置11、12、13、14は、動作中に輸液を継続するために前記制御部8によるリセットを定期的に要求構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプおよびポンプを制御するための電子制御部を有する輸液装置に関する。そのような輸液装置は、患者にインスリンまたはその他の薬剤を投与するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
薬剤の投与量の僅かな違いが患者の健康に大きな影響を与えるために、薬剤投与量の正確性を期することはきわめて重要である。従って、薬剤の投与過多または過少投与から患者を守るために、投与システムには安全装置が組み込まれていなければならない。たとえば輸液装置を用いてインスリンを糖尿病患者に投与する場合、インスリンの投与過多は、低血糖症による合併症を引き起こし、死に至らしめることもあり得る。従って、輸液装置においては、薬剤の投与過多または過少投与を防止する安全装置を設けて投与量を制御することが必要である。
【0003】
投与過多を防止する安全装置は、輸液ポンプの電子制御部に種々の方法で組み込まれている。たとえば、制御部には、故障を検知するためにモータ電流消費をモニタするマイクロプロセッサが設けられ、または閉塞検知のためのセンサなどが用いられている。しかし、たとえば電源からポンプ用モータまでの間が直接短絡するという、制御部そのものの故障は、ポンプ用モータを連続駆動させて、輸液システムに収容されている薬剤全量を短時間の間に投与することにより、深刻な投与過多を引き起こす可能性がある。
【0004】
そのような故障から防護するため、特許文献1は、制御部が故障したとき、ポンプの駆動モータを切り離すように設計されている安全回路システムを輸液装置に設けることを教示している。
【0005】
また、輸液装置の動作上の安全性を向上させるために、ソレノイド式アクチュエータまたはステッピング・モータを用いて輸液ポンプを駆動することが知られている。これにより、制御部が故障した場合に輸液を継続する危険性は大幅に低減されるであろうが、ソレノイド式アクチュエータまたはステッピング・モータは、比較的高価であり、また、DCモータほどエネルギー効率が高くはない。エネルギー消費が大きいということは、大きくて重い電池が必要になるためにきわめて不利であり、輸液装置を小型軽量化しようという一般的な設計目的とは相容れないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0071225号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、携帯用輸液装置の安全性を向上させるための低コストで高エネルギー効率である方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1記載の特徴を備える輸液装置によって達成される。
【0009】
[発明の有利な効果]
本発明による輸液装置は、ポンプの動きを機械的に阻止することによりポンプを停止させる機械的停止装置を有する。そのような機械的停止装置は、電子制御部の故障のためにポンプ用モータに動力が供給され続けている場合にも、輸液を確実に停止するために用いることができる。停止装置は、摩擦によるロックを用いることもできるが、確実にロックを行うことによりポンプの動きを阻止するようになっていることが好ましい。輸液を停止するための特に簡単でありながらも信頼できる方法は、たとえばロック円板により駆動軸を機械的にロックすることによりポンプを停止させる停止装置である。
【0010】
停止装置が輸液を継続するために制御部によるリセットを定期的に要求するように構成されている場合、安全性は大幅に向上する。たとえば機械的停止装置のリセットは、ロック部材を係合位置から動かすことを含む。別の可能な構成としては、反転トランスミッションおよび回転方向を反転させることを定期的に要求する2つの限界停止部を備える停止装置がある。そのような停止装置は、反転トランスミッションの回転方向を反転させることによりリセットされる。
【0011】
輸液を継続するために制御部による定期的なリセットを要求する停止装置は、制御部が故障した場合、故障した制御部は停止装置のリセットを行うことができないために、ポンプの動きは比較的短時間の経過後には確実に停止される。従って、投与過多は、リセット間の時間、即ち最後のリセットから必要なリセットが行なわれないために、停止装置が動作を停止させるまでの時間に輸液できる量に限定される。
【0012】
停止装置を、数秒から数分という一定の時間間隔でリセットしなければならないように構成することは可能である。しかし、簡単であり、よって信頼性と費用効率がより高い構造は、停止装置を、ポンプの駆動軸または他の回転部が予め決められた回転角、たとえば半回転または一回転の回転後にリセットしなければならないように構成することである。定期的にリセットを行うとは、実施中の輸液レートによって種々異なる長さの時間になるが、そのような装置における回転周期またはその分数を意味する。例として、停止装置は、確実にロックするために回転している機械要素、たとえば突起または凹みに係合することによりポンプの動きを阻止する。停止装置は、バネにより付勢されたロック部材を有することが好ましい。バネは、ロック部材を付勢して適切な対応要素、たとえば凹みに確実にロックされるように係合させる。対応要素は、ポンプの駆動軸または他の回転部に固定される。停止装置をリセットするためには、ロック部材との係合を解除しなければならないが、それは、アクチュエータ、たとえば電子制御部によって制御されるソレノイドにより実行される。
【0013】
停止装置は、ポンプの動きを交互に阻止する少なくとも2つのロック部材を有することが好ましい。停止装置のリセットは、ロック係合を解除するためにロック部材の1つを動かすことによって実行されるが、この場合、予め設定された時間の経過後にポンプの動きが阻止されるよう、少なくとも1つの別のロック部材が動作可能になる。例として、ロック要素をリセットするためにアクチュエータが用いられ、この場合、アクチュエータ、たとえば巻き鉄心が2つの位置の間を移動することによって、2つのロック部材のどちらかを常に押圧してロック円板のような回転する機械的ロック要素から離脱させる。従って、ロック係合を解除するために一方のロック部材を動かした場合、他方のロック部材は、最早ロック要素から離脱するように押圧されないために、十分な回転が行なわれるや否やそれに係合する。ロック部材は、容易にロック要素に係合できるようバネにより付勢されている。
【0014】
ポンプは、蠕動ポンプであることが好ましい。蠕動ポンプは、非常に小さい輸液レートにおいても正確な投与が可能である。他の種類のポンプを用いることもできるが、回転式蠕動ポンプがとりわけ好適である。蠕動ポンプは、注入液を輸送する柔軟なチューブに蠕動運動を起こす、少なくとも4つの、好ましくは少なくとも5つの環状に配置された圧縮要素を備えるロータを有することが好ましい。このとき、等間隔に分散配置された圧縮要素の少なくとも1つは、常にチューブを確実に圧縮することにより、それを閉鎖する。従って、ポンプが停止しているとき、液体の流れが生じない。
【0015】
ポンプ用モータは、別の種類のモータを用いることもできるが、効率が高く安価であるために、DCモータであることが好ましい。
【0016】
停止装置は、予め設定された時間内にリセットが行われない場合、モータとの接続を解除するようになっていることが好ましい。たとえば、停止装置は、是正措置が予め設定された時間内に制御部により取られない場合、ポンプの動きを停止させると直ちに、モータとの接続を解除する緩動スイッチを作動させることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による輸液装置の例示としての実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明による輸液装置の例示としての第2の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のさらなる詳細と利点について、例示としての実施形態により、また、添付図面を参照しつつ、以下説明する。実施形態間の同一のおよび対応する構成要素は、同一の参照番号によって示す。
【0019】
図1は、輸液装置の実施形態を模式的に示す。輸液装置は、柔軟なチューブ2に作用して注入液、たとえばインスリンを送り出す蠕動ポンプ1を有する。蠕動ポンプ1は、アーチ形のポンプ・ベッド10により支承された柔軟なチューブ2に蠕動運動を起こす4つを超える、とりわけ5つを超える数の圧縮要素4を備えるロータ3を有する。ロータ3を停止したとき、常に少なくとも1つの圧縮要素4がチューブ2を圧縮してそれを閉鎖するために、チューブ2内の液体の流れは阻止される。図示した実施例において、蠕動ポンプ1のロータ3は、8つの圧縮要素4を有する。
【0020】
蠕動ポンプ1のロータ3は、トランスミッション6と駆動軸7を介してDCモータ5により駆動される。DCモータ5は、センサ9を介してロータ3の回転数、よって輸液レートをモニタする電子制御部8、たとえばマイクロプロセッサにより制御される。
【0021】
図1に示した輸液装置は、機械的にポンプの動きを阻止することによりポンプ1を停止させる機械的停止装置を有する。停止装置は、駆動軸7に結合されたロック円板11およびロック円板11と互いに作用するロック部材12を有する。ロック部材12は、駆動軸7をロックするために、ロック円板11の凹みに係合する。ロック部材12は、バネ13によりロック円板11に向けて付勢されている。
【0022】
ロック部材12がロック円板11と係合したとき駆動軸はロックされるために、輸液を継続するには、制御部8により停止装置のリセットを行なわれなければならない。停止装置のリセットが行なわれたときにだけ、次のポンプ動作が可能になる。
【0023】
図示した実施例において、制御部8は、アクチュエータ14、たとえばソレノイドを用いて停止装置をリセットする。アクチュエータ14は、停止装置をリセットするために、ロック円板11の凹みの中に突出した状態の係合位置からロック部材12を移動させる。
【0024】
ロック円板11が1つだけの凹みを有し、また、停止装置が1つだけのロック部材12を有する場合、そのようなリセットの動作は、駆動軸7の一回転毎に必要である。しかし、ロック部材12の凹みとの係合回数を増やすために、複数のロック部材12および/または複数の凹みを用いることも可能である。図示した実施例においては、停止装置のリセットを駆動軸7の半回転毎に行わなければならないようにするために、ポンプの動きを交互に阻止する2つのロック部材12が、互いに対向する位置に配置されている。
【0025】
図示した実施例においては、ロック部材12が係合する凹みは1つだけである。しかし、複数のロック要素、たとえばロック円板の凹みを用いることも可能である。その場合、停止装置のリセットをより頻繁に行わなければならない。2つのロック部材12を交互に動作させる場合には、ロック要素、たとえば凹みを、ロック部材12が同時に係合できないように配置しなければならない。
【0026】
両方のロック部材12は、同一のアクチュエータ14によりリセットされる。確実にロックした係合を解除するために、ロック部材12の1つを移動させることにより停止装置のリセットを行ったとき、図示した実施例においては、ロック円板の半回転に相当する予め設定された時間の経過後にポンプの動きを阻止することになるよう、少なくとも1つの別のロック部材12が動作可能になる。ロック部材12を動作可能にすることは、アクチュエータ14を移動させることによって行なわれ、一方のロック部材12との係合を解除するためのアクチュエータ14の動きが、回転するロック要素、図示した実施例においてはロック円板11の凹みに係合することができるよう他方のロック部材12を解放する。
【0027】
停止装置は、駆動軸7をロックすることによりポンプ1を停止させるとき無用な動力消費を回避するために、駆動モータ5との接続を切る。駆動モータ5との接続を切る操作は、たとえばロック部材12の動きにより動作するスイッチによって実行される。そのようなスイッチは、駆動モータ7との接続が間違いなく制御部8の故障の場合にだけ、即ち停止装置が予め決められた時間内に、たとえば数秒以内にリセットされない場合にだけ切られるようにするために、ポンプ1の停止後遅れて動作するようになっていることが好ましい。
【0028】
図2は、携帯用輸液装置の別の実施形態を模式的に示す。この装置も、また、駆動軸7を介して制御部8により制御されるDCモータ5駆動の回転式蠕動ポンプ1を有する。図1と図2に示した輸液装置は、ポンプの動きを機械的に阻止することによりポンプを停止させる停止装置が異なっている。
【0029】
図2に示した装置の停止装置は、モータ5を駆動軸7に連結する反転トランスミッション15を有する。反転トランスミッションは、反対方向に回転する2つの平行軸21、22を有する.軸は、軸21に固定された歯車24および軸22に固定された歯車25と噛み合う歯車23を介してモータ5により駆動される。歯車24、25は、反対方向に回転するよう歯車23の対向する側に配置されている。
【0030】
つめ車装置26aが、軸21に取り付けられている。つめ車装置26aは、軸21に対して回転可能な歯車27と相互に作用する。軸21が第1の方向、たとえば図示した実施例においては時計回りに回転するとき、つめ車装置26aは、歯車27を軸21とともに回転させる。しかし、軸21の反対方向、たとえば反時計回りの回転は、歯車27には伝動されない。
【0031】
同様に、つめ車装置26bは、軸22に対して回転可能な歯車28と相互に作用する。しかし、つめ車装置26a、26bは、反対方向には動作可能である。従って、図示した実施例において、つめ車装置26bは、軸22の反時計回りの回転を歯車28に伝動するが、軸22の時計回りの回転は、歯車28に伝動されない。
【0032】
歯車27は歯車28と噛み合い、歯車28は駆動軸に固定された歯車29と噛み合うために、つめ車装置26a、26bは、軸21、22および歯車23の回転方向に拘らず、常に歯車29、よって駆動軸7を確実に同じ方向に回転させる。
【0033】
反転トランスミッションは、駆動軸7を常に同じ向きに駆動する。従って、回転方向を反転させることによって停止装置をリセットしようとした場合にも、駆動軸は回転を続け、それにより、液体を図示した矢印の方向にチューブ2を通して送り出す。
【0034】
図2からわかるように、反転トランスミッション15の歯車24は、ロック機構、たとえばピン18が係合する長孔17を有する。輸液を行っている間、ピン18は、ロック要素として機能する限界停止部、図示した実施例においては長孔17の端部、に達するまでロック構造17に沿って移動する。ピン18が限界停止部に達したとき、ポンプのさらなる動作、即ち歯車24の同一方向へのさらなる回転が、限界停止部に係合するピン18によって阻止されるために輸液は停止される。
【0035】
輸液を継続するためには、制御部8がロック機構をリセットしなければならないが、それは、図示した実施例においてはモータ5の回転方向を反転させることにより行なわれる。回転方向を反転させることにより、ピン18は、長孔の反対側の端部の限界停止部に達するまでロック構造17に沿って後退する。次いで、モータ5の回転方向を再度変えなければならない。
【0036】
反転トランスミッション15は、駆動軸7を常に同じ向きに駆動する。従って、回転方向を反転させることにより停止装置をリセットしたとき、駆動軸は、回転を続けることができるようになり、これにより、液体がチューブ2を通して図示した矢印の方向に送り出される。
【符号の説明】
【0037】
1 ポンプ
2 柔軟なチューブ
3 ロータ
4 圧縮要素
5 DCモータ
7 駆動軸
8 制御部(電子)
9 センサ
10 ポンプ・ベッド
11 ロック円板
12 ロック部材
13 バネ
14 アクチュエータ
15 反転トランスミッション
17 長孔(ロック構造)
18 ピン
21、22 軸
23、24 歯車
26a、26b 機構(つめ車装置)
27、28、29 歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ(1)、前記ポンプ(1)を制御する電子制御部(8)、およびポンプの動きを機械的に阻止することにより前記ポンプ(1)を停止させる機械的停止装置(11、12、13、14、15)を有する輸液装置において、前記停止装置(11、12、13、14、15)は、動作中に輸液を継続するために前記制御部(8)によるリセットを定期的に要求することを特徴とする輸液装置。
【請求項2】
前記ポンプ(1)は、蠕動ポンプ、好ましくは回転式蠕動ポンプであることを特徴とする請求項1記載の輸液装置。
【請求項3】
前記停止装置(11、12、13、14、15)は、確実にロックすることによりポンプの動きを阻止する少なくとも1つのロック部材(12)を有することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の輸液装置。
【請求項4】
前記停止装置(11、12、13、14、15)は、ポンプの動きを交互に阻止する少なくとも2つのロック部材(12)を有することを特徴とする請求項3記載の輸液装置。
【請求項5】
前記停止装置(11、12、13、14、15)は、前記少なくとも1つのロック部材(12)を動かすことにより前記停止装置をリセットするためのアクチュエータ(14)、好ましくはソレノイド(14)を有することを特徴とする請求項3または4記載の輸液装置。
【請求項6】
予め設定された時間の経過後にポンプの動きを阻止することになるよう、確実なロック係合を解除するために前記ロック部材(12)の1つを動かすことによる前記停止装置(11、12、13、14、15)のリセットは、前記ロック部材(12)の別の少なくとも1つを動作可能にすることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の輸液装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つのロック部材(12)は、バネにより付勢されていることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の輸液装置。
【請求項8】
前記停止装置(11、12、13、14、15)は、前記ポンプ(1)の駆動軸(7)をロックすることによりポンプの動きを阻止することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の輸液装置。
【請求項9】
前記停止装置(11、12、13、14)は、ロック円板(11)を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の輸液装置。
【請求項10】
前記停止装置(15)は、反転トランスミッションを有するとともに、回転方向を反転させることによりリセットされることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の輸液装置。
【請求項11】
前記ポンプ用モータ(1)は、DCモータであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の輸液装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−178548(P2009−178548A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−8424(P2009−8424)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】