説明

辛夷抽出物を含む抗肥満剤

【課題】飲食品または医薬品として安全性が高い抗肥満剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、辛夷抽出物を含む抗肥満剤を提供する。本発明はさらに、該抗肥満剤を含有する、体重減少用飲食品組成物および肥満の治療または予防用の医薬品組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、高血圧、耐糖能異常、高脂血症などを合併しやすく、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病、動脈硬化症、脂肪肝、胆石症、腎臓障害などの発症要因であると言われている。肥満の予防または治療に有用な製品が求められている。特に飲食品や医薬品として安全性が高い製品が求められている。
【0003】
辛夷(シンイ、生薬ラテン名Magnoliae Flos)とは、漢方薬の1つであり、モクレン科(Magnoliaceae)のモクレン(Magnolia biondii Pamp.)、シモクレン(M.liliflora Desr.)、ハモクレン(M.denudata Desr.)などの花蕾を乾燥したもの(中国産)、およびモクレン科(Magnoliaceae)のタムシバ(M. salicifolia (Sieb. et Zucc.) Maxim.)、コブシ(M. kobushi De Candolle)などの花蕾を乾燥したもの(和産)をいう。薬効としては、頭痛や頭重、頭冒感、または蓄膿症の症状緩和が知られている。また、辛夷精油にアレルギー性鼻炎への効果があることが報告されている。
【0004】
辛夷精油の抽出方法として、水蒸気蒸留法および超臨界二酸化炭素抽出法が知られている(非特許文献1)。非特許文献2には、ガスクロマトグラフ質量分析計による辛夷精油の化学成分分析の結果が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ZHANG Xら, 「超臨界二酸化炭素抽出及び水蒸気蒸留に得られた辛夷精油の化学的組成の解析(Analysis of the Chemical Constituents of Volatile Oil of "Xinyi" Extracted by Supercritical CO2 Flow and by Steam Distillation)」, Jingxi Huagong(精細化工), 1999年, 16(6)巻, pp.10-12
【非特許文献2】Lu JQら, Zhong Yao Cai., 2008年, 31(11)巻, pp.1649-1651
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、飲食品や医薬品として安全性が高い抗肥満剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、辛夷抽出物を含む抗肥満剤を提供する。
【0008】
本発明はさらに、上記抗肥満剤を含有する、体重減少用飲食品組成物を提供する。
【0009】
本発明はなおさらに、上記抗肥満剤を含有する、肥満の治療または予防用の医薬品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、飲食品や医薬品として安全性が高い抗肥満剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
辛夷抽出物は、辛夷を熱水または水で抽出して得られる。辛夷は、典型的には、モクレン科(Magnoliaceae)のモクレン(Magnolia biondii Pamp.)、シモクレン(M.liliflora Desr.)、ハモクレン(M.denudata Desr.)、タムシバ(M. salicifolia (Sieb. et Zucc.) Maxim.)、コブシ(M. kobushi De Candolle)などの開花直前の蕾を採集し、軸を除き、風通しの良い日陰で十分乾燥させることで調製され得る。辛夷は、市販製品であってもよく、例えば、デルタインターナショナル株式会社より入手可能である。熱水抽出法としては、辛夷をそのままあるいは破砕して熱水に浸漬する方法、あるいは辛夷を蒸気で蒸す方法が挙げられる。熱水の温度は好ましくは40〜100℃、より好ましくは70〜100℃であり、熱水の処理時間は、好ましくは10〜120分、より好ましくは20〜40分である。蒸気で蒸す場合には、沸騰した湯を用いて蒸し、蒸す時間は、好ましくは10〜120分、より好ましくは30〜60分である。水抽出法としては、水あるいは他の成分を加えた水溶液に辛夷をそのままあるいは破砕して浸漬する方法が挙げられる。水の温度は好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜40℃である。抽出後、遠心分離、濾過などの適当な分離手段により沈殿物または不溶性画分を除き、上清または可溶性画分を回収し得る。さらに、上記抽出後の沈殿物または不溶性画分について再度同様の抽出処理を行って、上清または可溶性画分を回収することもできる。
【0012】
辛夷抽出物は、さらに、乾燥手段、粉砕手段などの処理に供してもよい。乾燥法としては、公知の任意の方法が用いられ得るが、例えば、風乾法、加熱乾燥法、スプレードライ法、凍結乾燥法などが挙げられる。辛夷抽出物に、例えば、賦形剤(例えば、デキストリン)を添加したものをスプレードライなどにより乾燥し得る。粉砕法は、例えば、粉砕機や摩砕機を使用して微粉末化または微粒化するなどの手段を含む。
【0013】
辛夷抽出物は、液状または溶媒除去した固形のいずれの形態でも用いられ得る。
【0014】
辛夷抽出物は、抗肥満剤として利用でき、このような抗肥満剤は、飲食品、医薬品、化粧品、石鹸、皮膚塗布剤、点鼻剤、坐剤などに配合され得る。辛夷抽出物は、α−グルコシダーゼ阻害活性およびリパーゼ阻害活性を有し得る。辛夷抽出物は、摂食された脂肪および糖の分解を抑制することにより、それらの体内への吸収を阻害し得る。
【0015】
本発明は、辛夷抽出物または抗肥満剤を含有する、体重減少用の飲食品組成物(例えば、経口用サプリメントのような健康食品)および肥満の抑制または予防用の医薬品組成物もまた提供する。
【0016】
本発明の飲食品組成物は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、マルチトール、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料、保存料などをさらに適宜含有し得る。このような飲食品は、用途に応じて、粉末、顆粒、カプセル、錠、シロップ、懸濁液などの形態に成形され得、飴などにも加工され得る。飲食品組成物(例えば、経口用サプリメント)の製造は、当業者が通常用いる方法によって行われ得る。飲食品組成物への抗肥満剤の配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。本発明の飲食品組成物は、飲食品組成物全量に対して抗肥満剤を、0.1〜100質量%、より好ましくは10〜80質量%(辛夷抽出物基準)で含有し得る。
【0017】
本発明の抗肥満剤または飲食品組成物は、そのまま摂取することができ、水などの溶媒に溶かすまたは懸濁させるなどしても摂取することができ、食事の前後、または食間に経口摂取することができる。また、辛夷あるいは破砕物を水または熱水で抽出して用いることもできる。体重減少あるいは肥満の抑制または予防を目的として飲食品に添加して、飲食することもできる。
【0018】
本発明の抗肥満剤または飲食品組成物が添加される飲食品としては、例えば、在宅用糖尿病食、流動食、病者用食品(糖尿病食調製用組み合わせ食品など)、特定保健用食品、ダイエット食品、あるいは炭水化物を主成分とする飲食品が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な食品形態としては、例えば、米飯製品、麦製品、野菜製品、乳飲料、清涼飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の抗肥満剤または飲食品組成物の飲食品への添加または加工は、当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。ヒト以外への動物、例えば家畜またはペット用の飼料への添加も可能である。
【0019】
本発明の医薬品組成物は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分をさらに適宜含み得る。これらの医薬品組成物は、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液剤などの剤型で経口的あるいは経管的に投与することができる。医薬品組成物の製造は当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。本発明の医薬品組成物の投与量は、肥満の程度、患者の体重、投与形態などに応じて適宜選定することができる。本発明の医薬品組成物は、医薬品組成物全量に対して抗肥満剤を好ましくは20〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%(辛夷抽出物基準)で含有し得る。
【0020】
本発明の医薬品組成物は、そのまま投与することができ、水などの溶媒に溶かすまたは懸濁させるなどしても投与することができる。投与は1日に1回または複数回に分けて行われ得る。
【0021】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
(実施例1:辛夷抽出物の調製)
辛夷(デルタインターナショナル株式会社製)を90℃の熱水中に加熱下で、30分間浸漬することで煮出し、30分後、遠心分離(3000rpm;10分間)し、得られた上清部分を凍結乾燥し、粉末化した(以下、「辛夷熱水抽出物」)。辛夷(デルタインターナショナル株式会社製)を20℃の水中に60分間浸漬し、遠心分離(3000rpm;10分間)し、得られた上清部分を凍結乾燥し、粉末化した(以下、「辛夷水抽出物」)。
【0023】
(実施例2:マウス肥満試験)
マウス肥満試験で用いた材料および手順は以下の通りである:
使用動物:5週齢Jcl:ICRマウス(日本クレア株式会社)
使用飼料:
固形飼料CE-2(日本クレア株式会社)
糖尿病・肥満研究用高脂肪固形飼料Quick Fat(日本クレア株式会社)
水:横浜市水道局の飲料水(自由摂水)
飼育環境
室温:23±2℃
湿度:60±15%
明暗サイクル:明期6:00−18:00
実験:
マウス(各群10匹;合計30匹)を購入後1週間(馴化期間)、固形飼料CE-2を粉砕して供給し、自由摂食させることにより、馴化飼育した。購入後2週目以降(投与期間)は、コントロール群には馴化期間と同様に飼料を供給し、高脂肪群には糖尿病・肥満研究用高脂肪固形飼料Quick Fatを粉砕して供給し、そして高脂肪+辛夷熱水抽出物群に関しては、上記糖尿病・肥満研究用高脂肪飼料の粉砕物に1g/kgの割合で実施例1の辛夷熱水抽出物を十分に混合して供給し、自由摂食させた。体重は、投与期間の開始時(購入後2週目)から8週間にわたって1週間ごとに測定した。
【0024】
体重測定の結果を以下の表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
高脂肪+辛夷熱水抽出物群では、試験終了時には、高脂肪群と比較して、統計学的に有意に体重が減少していた。なお、高脂肪+辛夷熱水抽出物群において、脂肪便などの異常は見られなかった。
【0027】
(実施例3:α−グルコシダーゼ阻害活性試験)
実施例1の辛夷熱水抽出物または辛夷水抽出物100mgを取り、0.02Mリン酸緩衝液1mLに溶解し、被験物質溶液を得た。α-グルコシダーゼ活性についての被験物質の作用を調べるために、以下の組成を有する反応液を調製した:0.4% p-ニトロフェニルα-D-グルコピラノシド(和光純薬株式会社)0.2mL;被験物質溶液0.2mL;および0.5U/mL α-グルコシダーゼ(東洋紡株式会社)0.1mL。ここで、α-グルコシダーゼの1単位(U)は上記の反応液を以下の標準反応条件において基質の非還元性末端側から1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量とする。上記反応液を37℃にて15分間インキュベーションして、酵素反応を進行させた。次いで、反応液に2M Tris溶液(pH 7.0)0.5mLを加えて反応を停止させた。反応停止後の溶液0.02mLに発色試薬(グルコースCIIテストワコー;和光純薬株式会社)3.0mLを加えて混和し、混和液を37℃にて5分間インキュベーションした。この溶液について、分光光度計(日本分光株式会社;V-630BIO)を用いて505nmの吸光度を測定した。測定はすべて3回行い、その平均値で評価を行った。測定の結果、実施例1の辛夷熱水抽出物のIC50 (mg/mL)を求めたところ、5.4mg/mLであった。実施例1の辛夷水抽出物のIC50 (mg/mL)は14mg/mLであった。実施例1の辛夷熱水抽出物ならびに水抽出物はα-グルコシダーゼ阻害活性を有することが分かった。
【0028】
(実施例4:リパーゼ阻害活性試験)
実施例1の辛夷熱水抽出物または辛夷水抽出物100mgを取り、0.02Mリン酸緩衝液1mLに溶解し、被験物質溶液を得た。リパーゼ活性についての被験物質の作用を調べるために、リパーゼ活性測定キット(リパーゼキットS;大日本住友製薬株式会社)を用いた。キットは一部操作を改変して用いた。96ウェルのプラスティックプレートの各ウェルに被験物質溶液40μLを入れ、エステラーゼ阻害液1μLを入れ、撹拌した。次いで、リパーゼ溶液4μLを入れ、撹拌した。コントロールには、0.1M NaClを含む0.1M Tris-HCl(pH7.0)溶液を用いた。次いで、プレートを30℃にて5分間予熱した後、各ウェルに発色液50μLを入れた。次いで、遮光下、基質5μLを被検物質についてのみ入れ、攪拌した。次いで、遮光下、35℃にて20分間インキュベーションし、反応停止液100μLを先に被検物質について入れ、次にコントロールについて入れ、攪拌した。次いで、遮光下、基質5μLをコントロールについてのみ入れ、撹拌した。各ウェルについて、分光光度計(日本分光株式会社;V-630BIO)を用いて505nmの吸光度を測定した。測定はすべて3回行い、その平均値で評価を行った。測定の結果、実施例1の辛夷熱水抽出物のIC50 (mg/mL)を求めたところ、3mg/mLであった。実施例1の辛夷水抽出物のIC50 (mg/mL)は8mg/mLであった。実施例1の辛夷熱水抽出物ならびに水抽出物はリパーゼ阻害活性を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、体重の減少、肥満の予防または治療などに有効であり、副作用のない安全性の高い飲食品、医薬品、化粧品、石鹸、皮膚塗布剤、点鼻剤、坐剤などが好適に提供され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
辛夷抽出物を含む抗肥満剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗肥満剤を含有する、体重減少用飲食品組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の抗肥満剤を含有する、肥満の治療または予防用の医薬品組成物。

【公開番号】特開2011−144135(P2011−144135A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6510(P2010−6510)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(505427573)
【Fターム(参考)】