説明

農作物の保存方法

【課題】収穫した葉菜類や果菜類等の農作物を変性させずに酵素を失活させ、長期に鮮度を保持しえる農作物の保存方法を提供する。
【解決手段】収穫した農作物1Bを洗浄のうえ水漬し、而してマグネトロン放射3Aによりその内部温度を70乃至80℃に励起加熱せしめてブランチング3を施し、低温保存する農作物の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は葉菜類や果菜類等の農作物を収穫後に、その外形や基質及び成分等を変化させることなく酵素を失活せしめて、長期に亘る保存を可能とする、農作物の保存方法に存する。
【背景技術】
【0002】
農作物は、その品種と栽培方法及び栽培地並びに気候条件等により、略同時季に収穫され且通常においては近隣の青果市場に搬入されるものであって、この収穫搬入された農作物の価格は当該市場における需給関係により決定されるものであるから、多量に搬入されると限りなく生産価格が低落し、著しい場合には搬入費用にもならず廃棄する事態すら招来される。
これがため流通の方法や契約栽培等の改善もなされているものの、市場における農作物の価格が需給関係により決定されるうえからは、収穫搬入量を調整し需給のバランスを取る必要があり、これがためには促成栽培若しくは抑制栽培か或いは収穫農作物を高品質で且長期に保存させる方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、促成栽培や抑制栽培は保温や保冷はもとより通風等も可能なよう栽培施設費用も高価となるばかりかその維持管理費用も高額となり、可成りの需給差による生産者価格の十分な上昇が見込まれぬと収支もおぼつかない。反面多量に収穫された農作物を低温保存により保存性を付与せしめ需給関係を調整のうえ生産者価格の維持を図ることが試みられているが、野菜や果物等は品種と且保冷条件とによりその保存期間も見掛上からは著しく異なるものであって、因みに一般的に公表されている野菜類や果物類の保存期間としては表1の如くである。
【0004】
【表1】

【0005】
しかしながら外形上では保形性が保持されてなるものの、かかる保冷条件ではある程度の呼吸作用の抑制や酵素作用の抑制はなされるものの、特に生体内部の酵素による合成分解置換作用の働きにより、艶や色、香り等の劣化とともに水分蒸散等による基質の粗弱化も促進されて品質面からは劣悪化した物となり、結局価格の低減により供給せざるを得ない実情にある。
これがためには酵素の有効な失活が望まれるものの、該酵素の失活は通常加工食品の加工に先立つブランチングと称される如き熱容量の大きな熱水中に食材を浸漬し、実質的に70乃至80℃の加熱を施すものである。
【0006】
これがためには葉菜類や果菜類の酵素の失活が望まれるものの、該酵素の失活には通常加工食品の加工に先立つブランチングと称される如き熱容量の大きな熱水中に食材を浸漬し、実質的に70乃至80℃の加熱を施す手段は生鮮な葉菜類や果菜類には採用できない。
【0006】
ところで葉菜類や果菜類等は、分裂組織と永久組織に加えて多量の水分や養分が含有されてなるため熱伝導性が極めて悪く、その組織内部の酵素に対して実質70乃至80℃の加熱を付与し酵素の失活をなすには、微細薄肉状に切断し熱透過性を高めたり若しくは実質的なブランチング温度に比べてかなり高温度によるブランチングが不可欠となる。
そして加工食品においては、ブランチングの後直ちにカットや摩砕、混練、成形等がなされるため、高温度のブランチングによる艶や色、香り等の劣悪化に加え基質の脆弱化でも使用に供しえる。
【0007】
反面収穫された葉菜類や果菜類を、長期に保存させて需給関係を調整させるにはその外形や基質を可能な限り劣悪化並びに脆弱化させずに酵素を失活せしめて長期保存を図らねばならない。
これがため発明者等は数多の研究を重ねた結果、収穫された葉菜類や果菜類では少なくとも略93乃至95重量%程度の水分が含有されており、且マグネトロンによる放射電磁波は有機質でもその内部まで容易に透過し、而も含有水分の水分子を共振惹起せしめて内部発熱が可能なこと、並びに電磁波放射による内部発熱の調整も放射せしめる葉菜類や果菜類の容量により容易に可能であること、及び放射すべき葉菜類や果菜類の基質内には略93乃至95重量%割合程度の水分が含有されてなるから、通常の葉菜類や果菜類の如くその外表面が乾いている状態でのマグネトロンの放射では表皮面が過剰加熱されるため、一旦水漬させたうえ、電磁波放射させることにより全体に亘って均等なブランチングがなされることを究明し本発明に至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は収穫した葉菜類や果菜類等の農作物の含有されてなる酵素を、その香りや色並びに基質を変性させることなく簡便且均等に失活せしめて、長期に亘り鮮度を保持しえる農作物の保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために本発明が採用した技術手段は、収穫した葉菜類や果菜類等の農作物を一旦洗浄して汚着物を除去のうえ、少なくとも農作物の外表面の水分率が93%以上となるよう水漬して濡らしたうえ、マグネトロン電磁波の放射内を移送せしめて、農作物の内部及び外表面とを70乃至80℃に短時且均等に加熱させて酵素を失活させたうえ低温保管し、以って長期に亘り鮮度を保持させる農作物の保存方法に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述の如き構成からなるものであって、収穫した葉菜類や果菜類等の農作物を一旦洗浄して汚着物を除去するため衛生的で、且マグネトロンの電磁波も透過し易くなる。そして農作物の含有水分率に近い水分率を以ってその外表面を濡したうえマグネトロン放射をなすことにより内部と外表面とが70乃至80℃に短時に透過加熱されて、艶や香り、色素或いは基質も変性されることなく酵素が均等に失活され、呼吸作用や基質内の合成、分解、置換作用も殆ど抑制され、而も低温保管されるため付着細菌や微生物の繁殖もなく極めて長期に亘って鮮度が保持され、市場価格を勘案しつつ出荷が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
小松菜やホウレン草等、比較的薄肉の葉菜類を収穫後水洗洗浄して汚着物を除去したうえ水漬して、その外表面の水分率を93%以上に濡したうえマグネトロンの放射内を移送させて、その内部及び外表面とを70乃至80℃に加熱させて酵素を失活させ、而して低温保管する。
【実施例1】
【0012】
以下に本発明実施例を図とともに詳細に説明すれば図1は本発明農作物の保存方法のフロー図であり、図2は洗浄1の説明図であって、該洗浄1は所要の収納容量を有し且望ましくはその全体が回転しえる洗浄槽1A内には、洗浄すべき葉菜類や果菜類等の農作物1Bが収納されるとともに、その一方側からは洗浄のための洗浄水1Cが供給されるもので、該洗浄水1Cは通常水道水が使用されるが、水利の面からは井戸水や河川水等も使用が可能で、当然にかかる井戸水や河川水の使用に際しては適宜の殺菌剤の混合使用がなされる。
【0013】
加えて該回転可能な洗浄槽1Aの適宜水位レベルには、洗浄槽1A内の洗浄水の回転流動により農作物1Bに付着する汚着物が先脱された汚水を、排出させる排水孔1Dが設けられてなり、洗浄作業中は洗浄水1Cの供給と且汚着物が先脱された汚水が逐次排水孔1Dよりオーバーフローさせて外部排水がなされるもので、かかる洗浄1において所要の洗浄がなされた農作物1Bは水漬2がなされる。
【0014】
この水漬2は、本発明が農作物1Bの酵素を失活させて長期保存を図るもので、これがためには農作物1Bの内部及び外部に亘ってマグネトロン3Aの放射電磁波を、短時に均等且効率良く透過させて、実質的に略70乃至80℃となるよう農作物内の水分を励起発熱させるものである。反面かかるマグネトロン3Aの放射に際して、葉菜類や果菜類等の農作物1Bは、その種類によっても厚さや大きさ形状或いは嵩等を異にし、且その含有水分率も種類によって異なるものであるが、概ね93乃至95重量%程度とされている。
【0015】
ところで一般的には農作物1Bは洗浄水1Cにより洗浄1がなされたるうえは、該洗浄された農作物1Bの外表面の水分が蒸散し乾燥されることから、農作物1Bの内部と外表面とでは大きな水分率差異が発生する。
従ってかかる内部と外表面との水分率差の大きな農作物1Bを、同一放射エネルギーのマグネトロン3Aで放射すると農作物1Bの内部の水分率が高い部分では多くの水分子が失活温度にまで励起発熱されるものの、その外表面の水分率の少ない部分では放射エネルギーによる過熱障害が発生し、鮮度保持以前の農作物1Bの損傷の問題が発生する。
【0016】
これがためには洗浄1により汚着物が洗脱された農作物1Bを、マグネトロン3Bの放射により酵素失活を図る即ちブランチング3を施すうえからは、成可く農作物1Bの内部水分率に近い水分率を以って外表面を濡らす必要上から水漬2がなされる。
この水漬2は洗浄1により汚着物が洗脱された農作物1Bが実質的に水漬2されることであれば良く、具体的には図3に示す如く所要の内容積を有する水漬槽2Aに、農作物1Bを収納させ且水漬水2Bを農作物1B全体が水漬される程度に給水させてやれば良い。
【0017】
かくして水漬2がなされた農作物1Bは、その内部に混在する酵素を失活させるブランチング3が施される。このブランチング3は葉菜類や果菜類等その品種や厚さ、大きさ、形状或いは嵩等の異なる農作物1Bの内部に短時に均等且効率良くマグネトロン3Aの電磁波を放射透過せしめて、その内部に含有されてなる水分及び外表面に濡れとして付着している水分の水分子を惹起発熱せしめて酵素の失活を図るものであるが、酵素の失活には実質的に70乃至80℃に励起発熱させることで十分なブランチング3が実現しえるが、かかる場合の励起発熱温度が70℃以下では酵素の失活が十分になされず、反面励起発熱温度が80℃以上の高温になると、内部水分の急激な外部蒸散や基質の軟弱化が招来されて艶や張り等も滅失されて新鮮さが著しく減失されてしまう。
【0018】
従ってかかるブランチング3に際してのマグネトロン3Aの放射容量と放射強度及び放射時間は、当然にブランチング3する農作物1Bの種類や厚さ大きさ、形状、嵩等により適宜に調整することが望まれる。
このブランチング3の具体的方法が図4に例示されてなるものであって、該図4の方法においては洗浄1され水漬2された農作物1Bはベルトコンベア3Bの一側より該ベルトコンベア3B上に展開載置させたうえ、該ベルトコンベア3Bの移送速度により順次移送される。
【0019】
そしてベルトコンベア3Bで移送される農作物1Bは、移送中においてその上面に配設され所要の放射容量と放射強度及び放射範囲に電磁波が放射可能なように設けられたマグネトロン3Aにより放射がなされブランチング3が施される。
かかる場合に、マグネトロン3Aの放射容量として電力量換算で、500乃至600Wのものでは、その放射強度即ちマグネトロン3Aから放射される電磁波と移送される農作物1Bとの放射距離は略50乃至80cm程度で放射させることが、過剰放射による過熱障害を防止するうえで望まれる。
加えて放射される農作物1は、それぞれにその品種による水分率や厚さ、大きさ、形状或いは嵩を異にすることから、それぞれの具体的農作物1Bによっても放射条件も異なるもので、例えば葉菜類の小松菜の如く葉や茎の薄いものでは、マグネトロン3Aの放射容量が500Wで放射強度として50cmの放射距離では、略20乃至25秒間で放射されるような移送速度で移送させれば良い。
【0020】
当然に配設されるマグネトロン3Aは、農作物1Bを移送させるためのベルトコンベア3Bの幅と移送速度とによりブランチング3の能力が決定されるものであるから、ブランチング3の能力に対応してベルトコンベア3Bの幅や移送速度が決定されるとともに、マグネトロン3Aの配設数も決定されることとなる。
そしてマグネトロン3Aの使用に際しては、放射される電磁波が外部に発散されぬような遮断壁3Cを設けることも肝要である。
【0021】
かくしてベルトコンベア3B上に展開載置され移送されて所要のブランチング3が施された農作物1Bは、収納保管具4Bに収納されたうえ通常においては低温倉庫内に保冷保管4される。かかる場合の保冷温度は品種にもより異なるが、通常は0.6乃至10℃が好適である。
しかしながら前記ブランチング3が施された農作物1Bでも、呼吸作用や酵素作用がまったく阻止されるものでは無いから、長期に亘る保管中には依然としてエチレンガス等が排出されるものであるから、該低温保管中においても該排出されるエチレンガス等を吸着しえる素材、例えば木材やダンボール材或いは木粉や竹粉等の成形板材等が挙げられる。
加えて葉菜類や果菜類等ブランチング3が施された農作物1Bでも、品種による水分率を初め厚さや大きさ、形状、嵩等も異にする物であるから、過剰ブランチング3を抑制する処理においても十分なブランチング3処理のなされぬものも多発し、保存期間中の呼吸作用により排出されるエチレンガス等による過熱の促進危険が存在する。
これがためには、図5に示す如く前記ガス吸着性素材を用いて開閉自在に密閉しえる密閉蓋4Aを有する収納保存箱4Bに収納のうえ保冷保存4させることが望まれる。
【0022】
以下に本発明による保存試験結果について述べれば、試験に用いた試料としては東京都江戸川区一色地先のハウス栽培により育成収穫された小松菜を用いたもので、その原初の平均含水率が94.2%の小松菜を15分間流水洗浄したうえ、更に10分間水漬した状態に置いた。
次いでマグネトロンの放射容量が500Wで、その放射強度として50cmの放射距離で且放射時間として20秒間放射させたものを試料1とし、30秒間放射させたものを試料2とし無放射の物を対照とした。
保存試験方法は、縦60cm横90cm深さ15cmのアルミ製開口保存箱に収納のうえ、その温度が0.6℃に保存された保冷倉庫内の保存棚に配置のうえ、保管期間毎の含水率変化と外形変化をもって判定したもので、結果は表1の通りである。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
多量の連続的処理には、ベルトコンベア上にマグネトロンを配置させることが望まれるが、バッチ方式としては1台のマグネトロンでもブランチング処理がなしえる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 本発明のフロー図である。
【図2】 洗浄の説明図である。
【図3】 水漬の説明図である。
【図4】 ブランチング方法の説明図である。
【図5】 密閉蓋を有する収納保存箱の説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 洗浄
1A 洗浄槽
1B 農作物
1C 洗浄水
1D 排水孔
2 水漬
2A 水漬槽
2B 水漬水
3 ブランチング
3A マグネトロン
3B ベルトコンベア
3C 遮断壁
4 保冷保存
4A 密閉蓋
4B 収納保存箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫した葉菜類や果菜類等の農作物を流水で洗浄し、更に該農作物の外表面の水分率が少なくとも93%以上になるよう水漬のうえ、マグネトロン電磁波の放射内を移送せしめて、その内部温度が70乃至80℃に加熱されるよう水分子を励起発熱させて、全体の酵素を均等に失活させたうえ、低温保管することを特徴とする農作物の保存方法。
【請求項2】
マグネトロン1基の放射容量が500乃至600Wである場合のマグネトロン電磁波放射強度の目安となる農作物までの放射距離が50乃至80cmである、請求項1記載の農作物の保存方法。
【請求項3】
低温保管温度が0.6乃至10℃である、請求項1若しくは請求項2記載の農作物の保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−206040(P2011−206040A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92608(P2010−92608)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(510103543)
【出願人】(510103554)
【出願人】(510103565)
【出願人】(510103576)
【出願人】(510103587)
【出願人】(510103679)
【Fターム(参考)】