説明

農業用ハウスの断熱空間構造

【課題】屋根を上下二層のフィルムで断熱空間層を形成し、この狭い空間に温風を流通させて、上層フィルムの内面に生じた結露を除去し、明け方から太陽光線がハウスの内部に十分に照射させ、ハウス内を速やかに暖めることができると共に、屋根に積もった雪を滑落させてハウスの倒壊を防止するようにした農業用ハウスの断熱空間構造を提供するものである。
【解決手段】鉄骨で形成された屋根フレーム1に、透明なフィルムを上下二層に面状に張り渡して、この上下両フィルム2、3間に断熱空間層4を形成した農業用ハウスにおいて、この断熱空間層4内の軒側にエアーダクト13を設け、ここに暖房機8に接続した温風供給ダクト9の先端を挿着してエアーダクト13から断熱空間層4に温風を供給して加熱し、結露を防止すると共に屋根に積もった雪を滑落させるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスの断熱空間構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にハウス栽培を行なう温室は鉄骨で家形のフレームを組み、ここにたる木状にフィルム固定具を適宜の間隔で取付け、この上を透明なプラスチックフィルムで覆って農業用ハウスを組立てていた。
【0003】
しかしながら寒冷地にある一層だけのフィルムで形成した農業用ハウスでは、暖められた空気が上昇して、外気と接するフィルムから放熱するため暖房効果が低下する問題があった。
【0004】
このため農業用ハウスの天井側にカーテンを設けたり、屋根のフィルムを二層構造として、上層フィルムと下層フィルムとの間に断熱空間層を形成して、ハウス内の断熱効果を高めて省エネルギー化を図った農業用ハウスが普及してきた(特許文献1)。
【0005】
このように農業用ハウスの屋根を二層構造とすることにより、断熱性を高めることはできるが、朝方になって外気が冷えると、上層フィルムの内側の湿度の高い空気が冷やされて、上層フィルムの内面に水滴が凝縮して曇りガラスのようになり、水滴が蒸発するまで午前中は太陽光線が温室の内部に十分に照射せず、ハウス内の温度が上昇しない問題があった。また降雪地帯では屋根に雪が積もると、次第に堆積して、雪の重みにより農業用ハウスが倒壊する問題があった。
【特許文献1】特許第2627761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を改善し、断熱効果を高めると共に、断熱空間層の上層フィルムの内面に付着した水滴を除去して、明け方から太陽光線がハウスの内部に十分に照射し、ハウス内を速やかに暖めることができると共に、屋根に積もった雪を滑落させてハウスの倒壊を防止した農業用ハウスの断熱空間構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1記載の農業用ハウスの断熱空間構造は、鉄骨で形成された屋根フレームに、透明なフィルムを上下二層に面状に張り渡して、この上下両フィルム間に断熱空間層を形成した農業用ハウスにおいて、前記農業用ハウス内に暖房機を設置し、この暖房機の温風供給ダクトの先端を断熱空間層の内部に挿着すると共に、下層フィルムの棟側に排気孔を開孔し、断熱空間層内の軒側に、長手方向に沿って複数の温風吹き出し孔を開孔した筒状の透明フィルムで形成されたエアーダクトを軒に沿って挿着し、このエアーダクトの一端側に前記温風供給ダクトの先端を接続して、エアーダクトから吹き出した温風を断熱空間層内に流通させて、結露を防止すると共に屋根に積もった雪を滑落させるようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2記載の農業用ハウスの断熱空間構造は、鉄骨で形成された屋根フレームに、透明なフィルムを上下二層に面状に張り渡して、この上下両フィルム間に断熱空間層を形成した農業用ハウスにおいて、断熱空間層を構成する下層フィルムの軒側に流入孔を開孔し、棟側に排気孔を開孔し、電熱ヒーター線を挿着したパイプ、もしくは温水が循環するパイプを断熱空間層内の軒側に設けて、断熱空間層を加熱して結露を防止すると共に屋根に積もった雪を滑落させるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の農業用ハウスの断熱空間構造によれば、筒状の透明フィルムで形成されたエアーダクトを断熱空間層の軒側に配置し、暖房機で発生させた温風を温風供給ダクトからエアーダクトを通して、複数の温風吹き出し孔から断熱空間層の内部に吹き出させて、全体に渡って均一に効率的よく加熱して結露を除去し、明け方から太陽光線がハウスの内部に十分に照射し、ハウス内を速やかに暖めることができると共に、屋根に積もった雪を滑落させてハウスの倒壊を防止することができる。
【0010】
本発明に係る請求項2記載の農業用ハウスの断熱空間構造によれば、屋根を上下二層のフィルムで断熱空間層を形成し、この狭い断熱空間層内に、電熱ヒーター線を挿着したパイプ、もしくは温水が循環するパイプを設けて温風を流通させ、上層フィルムの内面に生じた結露を除去してハウス内を速やかに暖めることができると共に、屋根に積もった雪を滑落させてハウスの倒壊を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の実施の一形態を図1ないし図4を参照して詳細に説明する。先ず図1に示すように、チャンネル材などの鉄骨で形成された屋根フレーム1の上に、所定の間隔で図示しないフィルム固定具を取付け、ここに透明なプラスチックで形成された下層フィルム2を面状に張り渡し、更にこの上方に間隔をおいてフィルム固定具を取付け、ここに透明な上層フィルム3を面状に張り渡して、上下二層の両フィルム2、3間に断熱空間層4が形成されている。また柱フレーム5にも透明なフィルム6を壁状に張り渡して内部を囲って農業用ハウス7が形成されている。
【0012】
この農業用ハウス7内には暖房機8が設置され、この温風供給ダクト9は図2に示すように二股に分岐し、その分岐したそれぞれの先端が断熱空間層4を形成する下層フィルム2の軒側に挿着されている。なお前記暖房機8には日の出前からタイマーにより運転時間を制御する制御装置11が設けられている。また断熱空間層4を形成する下層フィルム2の棟側には、ネットで形成した排気孔10が開孔されている。
【0013】
更に断熱空間層4の軒側には、軒に沿って筒状のエアーダクト13が挿着されている。このエアーダクト13は図4(A)に示すように筒状の透明フィルム14で形成され、その長手方向に沿って複数の温風吹き出し孔15を開孔したもので、この一端側に暖房機8の温風供給ダクト9が接続されている。なお下層フィルム2や上層フィルム3、エアーダクト13を形成する筒状のフィルム14は、表面が平滑で、透明性が高く、しかも耐久性に優れた、例えばフッ素系のプラスチックフィルムで形成されている。
【0014】
上記構成の農業用ハウスの断熱空間構造は、屋根が平滑で透明な下層フィルム2と上層フィルム3で断熱空間層4が形成されているので断熱効果が優れている。また下層フィルム2と上層フィルム3で二層に形成されているが、透明なフィルムで、またエアーダクト13も透明な筒状のフィルム14で形成されているので太陽光線の入射が妨げられず、ハウス内を効率よく暖めることができる。
【0015】
また夜間に外気が冷えると、上層フィルム3に接する断熱空間層4の空気が冷やされて、上層フィルム3の内面に水滴が凝縮して曇りガラスのようになる。このため、日の出の1〜2時間前になったら制御装置11により暖房機8を10〜20分、間欠的に運転することにより、温風が温風供給ダクト9からエアーダクト13に送られる。
【0016】
エアーダクト13は、暖房機8を運転する前は、図4(A)に示すように萎んだ状態となっているが、暖房機8を運転すると図4(B)に示すように温風供給ダクト9から温風が供給されて膨らみ、図3に示すように下層フィルム2と上層フィルム3との間に広がって密着し、温風吹き出し孔15から温風が断熱空間層4内に噴出される。温風吹き出し孔15は筒状のフィルム14の長手方向に沿って間隔をおいて開孔されているので、温風がエアーダクト13の軒に沿った端部側まで供給され、断熱空間層4を全体に渡って均一に加熱することができる。吹き出された温風は傾斜した断熱空間層4を上昇し、棟側の下層フィルム2に形成した排気孔10からハウス内に排気されて、内部を暖房する。
【0017】
この結果、屋根を構成する断熱空間層4内を高温の空気が流通し、上層フィルム3の内面に付着していた水滴が蒸発する。この場合、暖房機8は日の出前に短時間だけ間欠的に運転するだけで水滴を除去することができる。このため日の出と共に太陽光がハウス7内に照射され、太陽光線によって効率よく暖めることができる。
【0018】
また大雪注意報などが発令された場合には、制御装置11を設定して連続的に暖房機8を運転することにより、断熱空間層4を常時加熱し、表面が平滑な上層フィルム3の上に積もった雪はその接触面で融けて滑落するので、雪が堆積してその重みによる倒壊を防止することができる。このように、ハウス全体を高温に暖房するのではなく、屋根を構成する狭い断熱空間層4だけを局部的に加熱して結露を除去したり、雪を滑落させれるので使用するエネルギーも僅かである。
【0019】
図5は本発明を連棟ハウスに適用した場合の実施の形態を示すもので、連棟ハウス16の屋根は下層フィルム2と上層フィルム3で断熱空間層4が形成され、その谷部17に、棟方向に沿って金属板で形成された樋18が傾斜して取付けられ、この樋18の上面に温水循環パイプ19が設けられている。この温水循環パイプ19はポンプを介して図示しないボイラーに接続され、温水が循環して樋18を加熱するようになっている。また断熱空間層4、4の軒側の樋18の近傍の上方に、筒状の透明フィルム14で形成されたエアーダクト13が挿着されている。
【0020】
上記構成の農業用ハウスの断熱空間構造は、雪が降ってきたらボイラーを運転して、温水を温水循環パイプ19に循環させると、これと接触している樋18も加熱される。また連棟ハウス16の屋根に積もった雪20は、断熱空間層4を流れる温風によって加熱され、しかも表面が平滑な上層フィルム3で覆われているので滑落する。屋根の側面側に滑り落ちた雪20は問題がないが、谷部17に滑落した雪20は樋18の上に溜まる。
【0021】
この樋18には温水循環パイプ19が配管してあるので、ここに接触した雪20は温水の温度によって融雪され、融けた水は樋18によって排出される。また温水循環パイプ19と樋18では、この近傍だけが加熱されて、積もった雪20の内部に空洞部分が形成されてブリッジ状になる問題がある。このため本発明では断熱空間層4内の谷部17の近傍上方にエアーダクト13が取付けられているので、この温風吹き出し孔15から温風が吹き出して上層フィルム3を内側から加熱する。
【0022】
上層フィルム3が加熱されると、谷部17の上方に溜まった雪20が融かされてシャーベット状となって滑り易くなり樋18側にズレ落ちてくる。この結果、空洞部分が解消されて常時、温水循環パイプ19と樋18に接触した状態となるので、効率よく融雪することができ、雪20の重みによる連棟ハウス16の倒壊を防止することができる。なおこの場合、温水循環パイプ19の代わりに電熱ヒーター線やヒートパイプを用いた構造でも良い。
【0023】
図6および図7は本発明の他の実施の形態を示すもので、断熱空間層4の高さが狭い場合に、電熱ヒーター線23を挿着したパイプ24を、軒側に沿って取付けたものである。また断熱空間層4を構成する下層フィルム2の軒側にはネットで形成された流入孔25が開孔されている。また下層フィルム2の棟側には図1と同様にネットで形成された排気孔10が開孔されている。
【0024】
上記構成の農業用ハウスの断熱空間構造は、電熱ヒーター線23に通電すると、これを挿着したパイプ24が加熱され、この表面全体から放熱する。断熱空間層4の上下には流入孔25と排気孔10が開孔されているので、ハウス内の空気が流入して上昇し、断熱空間層4が全体に渡って加熱される。また電熱ヒーター線23はパイプ24内に挿着されてパイプ表面温度が電熱ヒーターの温度より低くなるので、下層フィルム2に接触しても熱による損傷を防止することができる。
【0025】
このように断熱空間層4が狭い場合には、内径の狭いエアーダクト13を挿着しても、流通抵抗が高く端部側まで温風が供給されないが、電熱ヒーター線23を挿着したパイプ24を挿着することにより、パイプ24の長手方向に沿った表面全体から放熱されるので、断熱空間層全体を効率よく均一に加熱することができる。
【0026】
なお上記説明では、電熱ヒーター線23を挿着したパイプ24を用いた場合について示したが、温水循環パイプ19を挿着した構造でも良い。また排気孔10と流入孔25は、ネット状に形成した場合について示したが、孔だけでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の一形態による断熱空間層を形成した屋根に、エアーダクトを挿着し、暖房機からの温風を循環させる農業用ハウスを示す斜視図である。
【図2】図1の農業用ハウスを示す縦断正面図である。
【図3】図2のエアーダクトに温風を供給している状態を示す農業用ハウスの縦断正面図である。
【図4】(A)は萎んだ状態のエアーダクトを示す斜視図、(B)は温風を供給して膨らんだ状態のエアーダクトを示す斜視図である。
【図5】連棟ハウスの谷部に、温水循環パイプを設けた樋を取付けた状態を示す縦断正面図である。
【図6】本発明の他の実施の形態による断熱空間層に、電熱ヒーター線を内蔵したパイプを挿着した状態を示す農業用ハウスの斜視図である。
【図7】図6の電熱ヒーター線を内蔵したパイプを断熱空間層に挿着した状態を示す縦断正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 屋根フレーム
2 下層フィルム
3 上層フィルム
4 断熱空間層
6 フィルム
7 農業用ハウス
8 暖房機
9 温風供給ダクト
10 排気孔
11 制御装置
13 エアーダクト
14 筒状のフィルム
15 温風吹き出し孔
16 連棟ハウス
17 谷部
18 樋
19 温水循環パイプ
20 雪
23 電熱ヒーター線
24 パイプ
25 流入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨で形成された屋根フレームに、透明なフィルムを上下二層に面状に張り渡して、この上下両フィルム間に断熱空間層を形成した農業用ハウスにおいて、前記農業用ハウス内に暖房機を設置し、この暖房機の温風供給ダクトの先端を断熱空間層の内部に挿着すると共に、下層フィルムの棟側に排気孔を開孔し、断熱空間層内の軒側に、長手方向に沿って複数の温風吹き出し孔を開孔した筒状の透明フィルムで形成されたエアーダクトを軒に沿って挿着し、このエアーダクトの一端側に前記温風供給ダクトの先端を接続して、エアーダクトから吹き出した温風を断熱空間層内に流通させて、結露を防止すると共に屋根に積もった雪を滑落させるようにしたことを特徴とする農業用ハウスの断熱空間構造。
【請求項2】
鉄骨で形成された屋根フレームに、透明なフィルムを上下二層に面状に張り渡して、この上下両フィルム間に断熱空間層を形成した農業用ハウスにおいて、断熱空間層を構成する下層フィルムの軒側に流入孔を開孔し、棟側に排気孔を開孔し、電熱ヒーター線を挿着したパイプ、もしくは温水が循環するパイプを断熱空間層内の軒側に設けて、断熱空間層を加熱して結露を防止すると共に屋根に積もった雪を滑落させるようにしたことを特徴とする農業用ハウスの断熱空間構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−72980(P2008−72980A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257519(P2006−257519)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(592143839)株式会社グリーンシステム (5)
【Fターム(参考)】