説明

農業用樹脂組成物及び農業用資材

【課題】ポリエステル系樹脂、特に生分解性を持つ脂肪族ポリエステル系樹脂の防曇剤として優れ、防曇持続性を有し、且つ安全性が高く環境負荷の小さい農業用樹脂組成物及びこれを用いた農業用資材を提供する。
【解決手段】ジオールとジカルボン酸を含んでなる脂肪族ポリエステル系樹脂を主成分とする農業用樹脂組成物において、この脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部当り、HLBが4〜7で構成脂肪酸がC12〜22の飽和脂肪酸を主成分とするトリグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜5質量部含有することを特徴とする農業用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業用樹脂組成物及び農業用資材に関し、詳しくは、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物であって、防曇性に優れた農業用樹脂組成物及び農業用資材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の日常生活の中で、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン或いはポリ塩化ビニルなどのプラスチック製品は、食品包装、建材材料或いは家電製品などの様々な広い分野で利用され、日常の生活には欠かせないものとなっている。
【0003】
プラスチックの一番の特徴としては耐久性が挙げられるが、その使命を終え廃棄物となった場合には、その良好な耐久性がために自然界での分解性に劣り、生物系に影響を及ぼすなど、環境破壊の原因となるマイナスの面を持っている。
【0004】
プラスチックの持つそのような欠点を克服するために注目を集めているのが生分解性プラスチックである。近年の環境問題への問題意識の昂まりによってプラスチック製品のリサイクルが法規化され、リサイクル、リユースと共に環境中で容易に分解される所謂生分解性プラスチックが注目され、官民共にその研究・開発に力を注いでいる。その用途としては特に環境中で使用される農業用資材(例えば、根菜類育成用ハウスに用いるシート、フィルム、その他の成形品など)での利用が期待されている。
【0005】
しかし、一般にプラスチックはもともと水をはじく性質、即ち疎水性であるために、水蒸気があたると水滴になり曇ってしまう。これを防止するために、防曇剤を使用して、フィルム表面を親水性にすることが必要である(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
プラスチックに防曇剤として使用されるものには、塗布型と練り込み型の2種類がある。従来、ポリエステル系の樹脂には、防曇剤として、塗布型のものが使用される場合が多かった。例としては無機質コロイドゲルを主成分とするもの(例えば、特許文献1参照)などがある。しかし、塗布型のものは農業用資材を加工後、防曇剤を塗布する必要があり、製造工程が増え効率が悪い。また、防曇剤の塗布膜がはがれたり、流れたりする場合があり、長期間にわたり安定して防曇性を維持することが難しい。
【0007】
農業用樹脂組成物における練り込み型の防曇剤としては、一般的には非イオン界面活性剤が用いられることが多い。非イオン界面活性剤は透明性の阻害が少ないのが特徴である。例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノパルミテートなどのソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレートなどのグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリエチレングリコールモノステアレートなどのポリエチレングリコール系、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどを付加したものなどが挙げられる。
【0008】
しかし、練り込み型の防曇剤では、ポリエステル系の樹脂においては、効果が発揮されるものはほとんど知られていない。特に、生分解性の樹脂においては、すぐれた練り込み型防曇剤の組成は知られていない(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−86307公報
【特許文献2】特開2001−136847公報
【非特許文献1】「ぬれ技術ハンドブック」株式会社テクノシステム、200 1年10月25日、p415〜427
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリエステル系樹脂、特に生分解性を持つ脂肪族ポリエステル系樹脂の防曇剤として優れ、防曇持続性を有し、且つ安全性が高く環境負荷の小さい農業用樹脂組成物及びこれを用いた農業用資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は以下の構成を有する。
1.ジオールとジカルボン酸を含んでなる脂肪族ポリエステル系樹脂を主成分とする農業用樹脂組成物において、この脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部当り、HLBが4〜7で構成脂肪酸がC12〜22の飽和脂肪酸を主成分とするトリグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜5質量部含有することを特徴とする農業用樹脂組成物。
【0011】
2.ジオールがエチレングリコール、1,4−ブタンジオールのうちの少なくとも1つを含み、ジカルボン酸がコハク酸、アジピン酸のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする前記1に記載の農業用樹脂組成物。
【0012】
3.前記1又は2に記載の農業用樹脂組成物を用いて農業用のフィルム、シート、その他の成形品として成形されたことを特徴とする農業用資材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の特定の防曇剤を、脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部当り0.1〜5重量部含有することにより、環境に優しく防曇性に優れ、特に防曇持続性に優れた柔軟な農業用資材を成形できる農業用樹脂組成物及び農業用資材を供給することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明について、さらに詳しく説明する。
本発明は脂肪族ポリエステル系樹脂を対象とするものである。使用される脂肪族ポリエステル系樹脂はその重合度或いは品質を問わず、公知のジオールとジカルボン酸を含む重合体を制限なくこと使用することができる。使用されるジオール、ジカルボン酸はいずれも複数の種類を用いた共重合体であってもかまわない。また、脂肪族ポリエステル系樹脂の物性を損なわない範囲において、ポリ乳酸、酢酸セルロース、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレートとバリレートの共重合体、キチン、キトサン或いはでん粉など、他の生分解性高分子を配合しても構わない。
【0015】
本発明におけるジオールとしてはエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。ジカルボン酸としてはコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。本発明の性能を阻害しない範囲でリンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの多価カルボン酸およびグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの多価アルコールを重合させてもよい。また、ビスフェノールAなどの芳香族ジオールやイソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を共重合させてもよい。また、乳酸、グリコール酸、蛛|カプロラクトン、3−ヒドロキシブタン酸などのヒドロキシカルボン酸を共重合させてもよい。また、鎖長延長剤としてイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、アゾ化合物、多価金属化合物、多官能リン酸エステル、亜リン酸エステルなどを用いてもよい。
【0016】
脂肪族ポリエステル系樹脂では、生分解性もあるポリエステル樹脂が環境負荷が少なく好ましい。また、ガラス転移温度の低いポリエステルの方が防曇性が発現しやすく好ましい。そのような生分解性樹脂としては、主として1,4−ブタンジオールとコハク酸からなる脂肪族ポリエステルが挙げられる。ジオールにエチレングリコールや1,4−ブタンジオールを含み、ジカルボン酸にコハク酸やアジピン酸を含む脂肪族ポリエステルは生分解性も高く、防曇性も発現しやすく好ましい。
【0017】
本発明に用いられるトリグリセリン脂肪酸エステルは、トリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応などにより得られるものであるが、本発明の要件を満足する限り、その製造方法は特に限定されるものではない。
【0018】
本発明に用いられるトリグリセリン脂肪酸エステルは、トリグリセリンのエステルであり、グリセリンの重合度が3を超える重合度のものは、分子量が大きくなるに従って脂肪族ポリエステル系樹脂との相溶性が悪く、ブリードしてしまい防曇持続性の効果が低減されるため、本発明からは除外される。
【0019】
本発明に使用されるトリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは4〜7のものである。HLBが4より小さい場合にはブリードが多く、HLBが7より大きい場合には脂肪族ポリエステル系樹脂に練りこみ成形後、効果が発現するまでに時間がかかる。なお、HLBは下記式により求められる。
【0020】
HLB=20×(1−S/A)
S:エステルのケン化価
A:脂肪酸の中和価
【0021】
本発明に用いられるトリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は、上記のHLBの範囲内であればどのようなものでも構わないが、モノエステル、ジエステルを主成分とするものが好ましい。
【0022】
以下表1に、トリグリセリンの各種脂肪酸エステルのエステル化度を変化させた場合のHLBを示す。
【0023】
【表1】

【0024】
HLBが4〜7の範囲は、エステルを構成する脂肪酸種によりエステル化度が異なるが、本発明に使用されている構成脂肪酸が炭素数12〜22の飽和脂肪酸では、エステル化度はジからトリの範囲となる。
【0025】
本発明に用いられるトリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数12のラウリン酸から炭素数22のベヘニン酸までの飽和脂肪酸が好ましい。特に炭素数C16〜18のものが防曇持続性の効果の面で好ましい。
【0026】
本発明の農業用樹脂組成物を成形して得られる農業用資材は、農業用ハウスなどの低温から高温の条件で使用される場合が多く、防曇剤としては低温防曇性及び高温防曇性が要求される。また、使用期間も長いもので数年使用されるため、長期持続効果を発現させるためには、防曇剤自体の融点が室温以上のものが一般的に使用される。
【0027】
本発明の農業用樹脂組成物を成形して得られる農業用資材用途では、炭素数12未満の脂肪酸エステルでは望まれる持続防曇性が良好でなく、炭素数C22を超える脂肪酸エステルでは良好な低温防曇性の効果が得られない。
【0028】
本発明において、防曇剤の脂肪族ポリエステル系樹脂に対する配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部、さらに0.2〜3重量部の範囲内が好ましい。かかる範囲を下回るときは本発明が目的とする性能が不十分であり、上回るときは成形品の物性を損ねたり、防曇剤のブリードが見られる。
【0029】
本発明において、脂肪族ポリエステル系樹脂に対し、発明の効果を損なわない範囲で他の防曇剤を併用して用いることができる。他の防曇剤としては特に制限はないが、例えばソルビタン脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルを併用してもよい。
【0030】
本発明における農業用樹脂組成物は通常のプラスチックの成型に用いられる押出機、射出成形機などを用いて押出、射出等の熱成形が可能である。成形温度は110〜200℃が好ましい。ポリマーブレンドを行う場合には二軸押出機の方が好ましい。押出機中で溶融された農業用樹脂組成物は、Tダイ、インフレーションなどによりシート、フィルム、その他の成形品へ成形される。フィルムについては延伸、無延伸のいずれのものでも構わない。また、射出成形機などを用いて射出成形品を成形して、本発明の農業用資材として用いることも出来る。
【0031】
本発明の農業用樹脂組成物をフィルムに成形する場合には、フィルムを多層化(積層化)することにより他の樹脂からなるフィルムに対し、優れた防曇性を付与することが出来る。例えば、ポリ乳酸樹脂に対し、練り込み型防曇剤単独で防曇性を付与することは困難であるが、本発明の樹脂層を中間層に用い、ポリ乳酸層との多層フィルムを作成するとポリ乳酸の特性である生分解性を損なうことなく、防曇性を付与した農業用のフィルムを作成することが出来る。
【0032】
また、これらの農業用樹脂組成物には安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、スリップ剤、防霧剤などが併用されてもよく、これらの添加剤としては、公知のものを特別の制限なく採用することができ、これらは本発明の防曇剤の効果を阻害しない範囲で含有することができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれらに限定されない。
【0034】
本実施例の評価には脂肪族ポリエステル系樹脂を、加水分解による分子量の低下を防止するため、80℃、5時間の加熱乾燥処理を施し水分を除去した後、脂肪族ポリエステル系樹脂に対して、実施例および比較例毎に、下記試験試料の所定量(表3に記載した)を配合し、二軸押出機を用いて140℃で押出ペレットを作成した。このペレットを用い、単軸押出機によりフィルムを作成し、防曇評価を行った。
【0035】
防曇性の評価は下記に示す温度の水を水槽に入れ、評価用の100×100mmの窓付き試験箱に作成したフィルムをかぶせてセロハンテープで止め、下記条件にて防曇性を評価した。
<評価条件>
【0036】
【表2】

【0037】
<防曇性の評価基準>
◎ :水滴なし
○+:極く僅かに水滴あり
○ :一部に水滴あり
○−:大水滴が半面に付着
△+:小水滴があるが大水滴に変わりつつある
△ :小水滴が目立つ
△−:小水滴が多い
× :全面曇り
【0038】
<フィルムのブリード(フィルム製膜後室温放置15日目に評価)>
◎:ブリードなし
×:ブリードあり
【0039】
試験試料
樹脂1 脂肪族ポリエステル系樹脂 昭和高分子社製「ビオノーレ#1001」
樹脂2 脂肪族ポリエステル系樹脂「ビオノーレ#3001」
樹脂3 ポリ乳酸樹脂 三井化学社製「レイシアH−440」
【0040】
防曇剤1 トリグリセリンモノステアレートモノベヘネート(HLB4.9)
トリグリセリン1モルとステアリン酸1モル、ベヘニン酸1モルとをエステル化反応し、トリグリセリンモノステアレートモノベヘネートを得た。
防曇剤2 トリグリセリンモノラウレートモノステアレート(HLB6.0)
トリグリセリン1モルとラウリン酸1モル、ステアリン酸1モルとをエステル化反応し、トリグリセリンモノラウレートモノステアレートを得た。
【0041】
防曇剤3 トリグリセリンジラウレート(HLB6.7)
トリグリセリン1モルとラウリン酸2モルとをエステル化反応し、トリグリセリンジラウレートを得た。
防曇剤4 トリグリセリンジステアレート(HLB5.3)
トリグリセリン1モルとステアリン酸2モルとをエステル化反応し、トリグリセリンジステアレートを得た。
【0042】
防曇剤5 グリセリンモノステアレート(理研ビタミン社製リケマールS−100 HLB4.3)
防曇剤6 ジグリセリンモノオレート(HLB6.9)
ジグリセリン1モルとオレイン酸1モルとをエステル化反応し、ジグリセリン
モノオレートを得た。
【0043】
防曇剤7 ジグリセリンモノラウレート(HLB8.5)
ジグリセリン1モルとラウリン酸1モルとをエステル化反応し、ジグリセリンモノラウレートを得た。
防曇剤8 トリグリセリンテトラステアレート(HLB2.6)
トリグリセリン1モルとステアリン酸4モルとをエステル化反応し、トリグリセリンテトラステアレートを得た。
【0044】
防曇剤9 デカグリセリンモノステアレート(HLB14.5)
デカグリセリン1モルとステアリン酸1モルとをエステル化反応し、デカグリセリンモノステアレートを得た。
防曇剤10 ソルビタンステアレート(理研ビタミン社製リケマールS−300W HLB5.4)
【0045】
防曇剤11 トリグリセリン0.8モルラウレート(HLB10.6)
トリグリセリン1モルとラウリン酸0.8モルとをエステル化反応し、トリグリセリン0.8モルラウレートを得た。
以下の配合にてフィルムを作成した。
【0046】
【表3】

【0047】
評価結果を表4(高温防曇性)及び表5(低温防曇性)に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の防曇剤を添加した脂肪族ポリエステル系樹脂を用いて、農業用資材を成形することにより、環境への負荷が小さい生分解性であり、且つ、低温下においても高温下においても長期に安定した防曇性を有する農業用資材を供給することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオールとジカルボン酸を含んでなる脂肪族ポリエステル系樹脂を主成分とする農業用樹脂組成物において、この脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部当り、HLBが4〜7で構成脂肪酸がC12〜22の飽和脂肪酸を主成分とするトリグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜5質量部含有することを特徴とする農業用樹脂組成物。
【請求項2】
ジオールがエチレングリコール、1,4−ブタンジオールのうちの少なくとも1つを含み、ジカルボン酸がコハク酸、アジピン酸のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の農業用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の農業用樹脂組成物を用いて農業用のフィルム、シート、その他の成形品として成形されたことを特徴とする農業用資材。

【公開番号】特開2006−55029(P2006−55029A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238466(P2004−238466)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】