説明

農用作業機

【課題】整地装置の伝動ケースを上方に配置することにより、走行機体の後方から延びている軸伝動手段の角度を小さくし、整地装置の可動範囲を大きくした農用作業機を提供する。
【解決手段】整地装置30に動力を供給する伝動ケース40を上方へ向けて配置すると共に、走行機体1からの動力を軸伝動手段43と、伝動ケース40内に収容されたギヤ、及び左右の伝動部材37、38を介して整地装置30に伝達する。整地装置30では、整地部32、33、34に軸支されたかご形ロータ32a、33a、34aが回動して、田面と接することで整地される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付装置の前方に整地装置を備えた農用作業機に係り、詳しくは整地装置の配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圃場に苗を植え付けるために使用される農業機械として、走行機体の後部に植付装置が取り付けた乗用田植機が実用化されている。この乗用田植機の中で、植付装置の前部に昇降可能に整地装置を備えたものがあり、このものは、苗の植付けに先立ち、整地装置により圃場面を平坦に耕すことで、苗の根付きを良くしている(特許文献1)。
【0003】
上記によれば、植付装置及び整地装置は、走行機体の後部で油圧制御装置による昇降リンク機構を介して昇降自在に連結されており、圃場走行中の走行機体が耕盤面の凹凸上を通過することにより上下移動した場合であっても、植付装置及び整地装置は田面からの高さを一定に維持できるようコントロールされている。
【0004】
また、一般に、植付装置の底部には、圃場面と圧接するフロートが設けられ、フロートの上昇/下降に応じて油圧制御装置の作用により植付装置を昇降させて、苗の植え付け深さを一定に維持している。ここでは、フロートの後端側が軸支され、その先端側を機械的に昇降させることにより、圃場面に対するフロートの傾き角度が調整される。そして、走行機体の前後傾斜角、圃場面の硬い軟かい、植え付け速度等に応じてフロートの傾き角度を油圧制御装置によって調整することで、苗を一定の植え付け深さで安定して植え付け可能としている。
【0005】
【特許文献1】特許第2972038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記油圧制御装置は、植付装置の下部に取付けられたフロートによって田面からの距離を検知し、検知結果に基づき油圧シリンダを伸縮することで昇降リンクを昇降する制御方式がとられている。本制御方式では、田植機の全長を短くするため、できるだけ前方の田面情報を得て、最少の制御量により植付装置を昇降させることが望ましいが、検知用のフロートの前方には整地装置が位置しており、検知用のフロートを前方へ移設するには限界がある。
【0007】
この対策として、整地装置の全体を走行機体側前方へ移設することにより、検知用のフロートを前方へ移設する策も考えられるが、本対策では、走行機体のPTO軸と整地装置までの距離を確保することができず、整地装置へ動力を伝える伝動軸等の動力伝達機構に無理な力が生じる結果となり、動力伝達機構の耐久性に欠ける等の新たな技術的課題を含むものであった。
【0008】
そこで本発明は、整地装置の伝動ケースを上方へ配置し、伝動ケース内に収容されたギヤを介して整地装置に動力伝達される農用作業機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、請求項1に係る本発明は、エンジンを搭載し、該エンジンの動力により走行する走行機体(1)と、
該走行機体に昇降自在に支持された植付装置(20)と、
前記走行機体と前記植付装置との間に配置されかつ前記植付装置に連動して昇降支持された整地装置(30)と、を備え、
前記エンジンからの動力を、前記走行機体の後方から延びている伝動軸(44)及び継手(45)を有する軸伝動手段(43)を介して前記整地装置(30)に伝達してなる農用作業機において、
前記軸伝動手段(43)に連動し、前記整地装置(30)の上方に配置された伝動ケース(40)に収納されたギヤと、
該ギヤと前記整地装置(30)との間に介在する伝動部材(37)と、を備えた、
ことを特徴とする農用作業機にある。
【0010】
請求項2に係る本発明は、前記植付装置(20)は、植付装置本体に懸架されかつ左右方向に並列配置される少なくとも3個のフロート(26、27、28)を有し、これらフロートの中央部のフロートが、前記植付装置の田面からの高さを検知する検知フロート(26)であり、かつ該検知フロートが、他のフロートより前方に延長した長い構成からなり、
前記整地装置(30)は、左右方向に並列配置された少なくとも3個の整地ロータ(32a、33a、34a)を有し、かつ前記検知フロート(26)の前方に位置する中央の整地ロータ(32a)を、他の整地ロータ(33a、34a)より前方に偏位して配置すると共に、前記他の整地ロータを、前記検知フロート前部(26a)と側面視オーバラップするように配置し、
前記中央の整地ロータ(32a)の上方に前記ケース(40)を配置し、かつ該中央の整地ロータに前記ギヤ及び前記伝動部材(37)を介して動力伝達すると共に、該中央の整地ロータの側端から第2の伝動部材(38)を介して前記他の整地ロータ(33a、34a)に動力伝達してなる、
請求項1記載の農用作業機にある。
【0011】
尚、前記した括弧内の符号等は図面を参照するためのものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によると、伝動ケースを整地装置の上方に配置したので、走行機体の後方から延びている軸伝動手段の角度が小さくなり、継手の性能及び耐久性を向上することができると共に、整地装置の可動範囲を大きくして、整地装置の性能を向上することができる。
【0013】
請求項2に係る本発明によると、検知フロートを前方に延長した長い構成とすることができ、検知フロートによる高い検知性能を維持することができるものでありながら、整地装置による整地性能を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の好ましい実施の形態を説明する。図1乃至図4は、本発明の実施の形態を示すものであり、図1及び図2は、それぞれ農用作業機としての乗用田植機を示す平面図と側面図である。乗用田植機は、走行機体1と該走行機体の後方に昇降リンク15を介して昇降自在に連結された植付装置20と、該植付装置に懸架された整地装置30とにより構成される。
【0015】
走行機体1の前方部には農用作業機の動力源となるエンジンが搭載されており、該エンジンはボンネット2により覆われている。ボンネット2の左右側方からはフロントステップ3、3が張出していると共に、ボンネット2の後方には、座席5を備えた運転台6が設けられている。運転台6の前方にはステアリングハンドル7が立設されると共に、運転操作に必要な各種操作レバーは配備されている。また、運転台6の床面は、フロントステップ3から繋がるステップ8によって形成されており、座席5の下方を覆う機体カバー10の左右両側後方には、ステップ8より一段高く平坦に形成された苗供給用ステップ11、11が設けられている。
【0016】
ボンネット2の左右側方である走行機体側部(フロントステップ3の外側位置)には、植付装置20に予備苗を補給するためのコンベヤ12、12が取り付けられている。ここで、田植えに用いられる予備苗は、マット状に植生された箱苗であり、植付装置用として養生田等にて植生された苗が使用される。
【0017】
図2に示す乗用田植機の側面では、走行機体1の左右側方から垂直上方に向かって突設されたステー13を介してコンベヤ12、12が固定されており、コンベヤ12、12は、側面視で略直線状に展開された展開姿勢と、コンベヤの前方部分を後方のコンベヤ上へ折曲げられた折畳み姿勢の2態様を有することができる。本コンベヤ12の上面は、予備苗の補給用として用いられる他、予備苗を載置する面としても使用することもでき、予備苗の載置作業が容易なように前高後低の傾斜姿勢をとっている。コンベヤ12の前端は畦から予備苗を供給し易い高さを有しており、後方は植付装置20の苗載せ台21に近接するように、苗供給用ステップ11の上方近傍に至っている。
【0018】
走行機体1は、エンジン動力により機体側部に取付けられた走行用車輪14F,14Rを駆動して圃場内を自在に走行できる他、機体後部には、作業機である植付装置20及び整地装置30へ動力を伝達するためのPTO出力軸が突設されており、後述する軸伝動手段43を介して各作業機へ伝達することができる。植付装置20及び整地装置30は、走行機体1の後部中央から略並行して軸支されたアッパリンク15a、ロアリンク15b、及び走行機体1の後部上方から軸支された油圧シリンダ15cにより構成される昇降リンク15を介して、昇降自在に連結されている。本昇降リンク15は、後述する制御手段により油圧シリンダ15cを伸縮することで、各作業機を田面から一定の高さに維持している。
【0019】
続いて、植付装置20について説明する。植付装置20は、上部に予備苗を並列して載置することができる苗載せ台21と、下部には、苗載せ台21上に載置された苗を田面へ植え付ける植付部22とを有している。苗載せ台21は田植え条数分に区画されており、また側面視では円弧状に湾曲して、上方に載置された予備苗が重力の作用により植付部22へ自然供給される傾斜を有している。植付部22の下部には植付杆22aが取付けられており、走行機体1よりの動力が駆動軸23及び継手24を介して伝達されて回動することで、それぞれ1株分づつの苗を掻き取りながら田植えが進行される。
【0020】
さらに、植付装置20の最下部には、各植付杆22aの間で田面を圧接する3基のフロート26、27、28が揺動自在に取付けられている。各フロート26、27、28は、田面を均すために前幅が左右方向に膨らみ、かつ側面視で前方の高さが上方へ反り上がったソリ状となっており、田面の凹凸に追従できる形状となっている。
【0021】
中央のフロート26の前端は、他のフロート27、28よりも前方に延長された長さを有しており、また、フロート26の前端部には、検知レバー29がピン結合されて、田面の凹凸によるフロート前端部の上下動を図示しない油圧制御バルブまで伝達する機構となっている。この作用から、中央のフロート26は検知フロートとされている。
【0022】
次に、本発明に係る整地装置30について説明する。フロート26、27、28の前方には、植付装置20から垂下する整地装置30が取付けられており、整地装置30の下部は田面上に接している(図2、図3及び図4参照)。整地装置30は、昇降リンク15と植付装置20との結合部付近で、植付装置20から昇降自在に支持ロッド31を介して取付けられており、不図示の昇降操作レバーによって昇降操作することができる。
【0023】
整地装置30は3分割とされており、検知フロート26の前方に位置して植付装置20と並列に配置された中央整地部32と、中央整地部32の左右後端に繋がり、左右のフロート27、28の前方に位置する左右整地部33、34とにより構成されている。中央整地部32では、多角形の断面を有するかご型ロータ32aがロータリ軸32bを介して右側伝動部材37の前方部と左側伝動部材38(第2の伝動部材)の前方部へ回動自在に取付けられており、かご型ロータ32aの上面は両伝動部材37、38に亘るロータカバー32cによって覆われている。また、かご型ロータ32aの田面と接触する部位には、回動により田面を撹拌しやすいよう、鋸状の歯が形成されている(図4参照)。
【0024】
同様に、左右整地部33、34は、かご型ロータ33a、34aがロータリ軸33b、34bを左右伝動部材37、38の後部に回動自在に取付けられていると共に、各かご型ロータ33a、34aの上面は、ロータカバー33c、34cによって覆われている。
【0025】
これら整地装置30は、中央整地部32の後縁と左右整地部33、34の前縁とが側面視で重複するように配置されており、平面視では凸状とされている(図4参照)。すなわち、左右整地部33、34のロータリ軸33b、34bは同一線上に位置しているのに対して、中央整地部32のロータリ軸32bはロータリ軸33b、34bよりも前方へ偏位している。また、検知フロート26の前端部は、左右整地部33、34の軸線とオーバラップして配置されている。
【0026】
中央整地部32の右側にある伝動部材37の前部からは、上方へ向かい伝動ケース40が突設されており、伝動ケース40の上端は、昇降リンク機構15のロアリンク15bから垂下する支持ステー41により支持されている。伝動ケース40の内部では、不図示のギヤが噛合しており、次述する軸伝動手段により伝達された動力をロータリ軸32bまで伝達している。この、ロータリ軸32bに伝達された動力は伝動部材37内のギヤ及び駆動チェーンを介して右側整地部34のロータリ軸34bまで伝達されて、整地ロータ34aが回動される。
【0027】
一方、整地部32の左側にある伝動部材38(第2の伝動部材)では、伝動ケース40に伝達された動力がロータリ軸32bを伝達し、ロータリ軸32bに取付けられたギヤ及び駆動チェーンを介して第2の伝動部材38後方に支持されたロータリ軸33bを回動する構造となっている(図3参照)。
【0028】
伝動ケース40の上部には、走行機体1の後部に設けられた動力伝達部16に繋がる軸伝動手段43を介して、動力が供給される。軸伝動手段43は、動力伝達部16のPTO軸と繋がっており、全長が伸縮自在な伝動軸44と、揺動して動力を伝達する継手45により構成されている。
【0029】
続いて、以上により構成された農用作業機の作用について説明をする。
【0030】
作業に先立ち、圃場にある農用作業機では、昇降リンク15を操作して植付装置20を下降させるが、昇降リンク15と検知フロート26間による制御機構により、植付装置20の降下に伴い検知フロート26が田面との距離を検知して、植付装置20は田植えに適する高さにて維持される。本状態にて整地装置30の操作レバーを操作し、田面が田植えに適すよう整地装置30の高さを設定する。
【0031】
次に、走行機体1が走行して田植え作業が始まると、植付装置20及び整地装置30には、伝動手段43等を介して走行機体1よりのエンジン動力が供給されて植付作業が進行すると共に、植付装置20の直前では整地装置30により田面の整地が進行する。
【0032】
次に、圃場で植付けを行いながら走行を続ける走行機体1が、耕盤面の凹上を走行することで下方向に移動した場合では、検知フロート26の前端部が田面の傾斜を検知して上方へ持上げられる。すると検知フロートは、前端に取付けられた検知レバー29を介して油圧シリンダ15cを制御する油圧バルブを操作し、油圧シリンダ15cを短縮作動する。これにより、昇降リンク機構15は引上げられて、植付装置20が上昇することとなる。この上昇動作により、植付装置20に取付けられた検知フロート26も上昇するので、検知フロート26は水平状態に復帰される。水平状態に復帰した検知フロート26は、再び油圧バルブを操作して油圧シリンダ15cの動作を停止し、植付装置20の上昇が終了する。以上のように、検知フロート26の傾斜検知による昇降リンク15の制御により、植付装置20は田面から一定の高さ維持できるように制御され続ける。
【0033】
以上、説明したように、本発明では整地装置30を3分割として、中央にある整地部32を前方へ移設すると共に、整地装置30へ動力伝達を行う伝動ケース40を整地装置30の上方へ移設したことにより、走行機体1と繋がる軸伝動手段43を直線的に配向することとした。これにより、軸伝動手段40に無理な力が発生することが無くなり耐久性を向上させると共に、整地装置30の可動範囲を広げることができ、また、田面高さを検知する検知フロート26の前端を前方へ延長することで、植付装置20からより前方の田面情報を得ることができ、昇降リンク15の昇降制御を最適に行うことが可能となる。
【0034】
最後に、上記に示した本発明による実施例は、植付装置及び整地装置を有する農用作業機の最良の形態を一実施例として記載したものであり、本発明の思想は広く圃場にて使用される作業機へ転用可能であることを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】植付装置が連結された農用作業機の平面図である。
【図2】植付装置が連結された農用作業機の側面図である。
【図3】整地装置の断面を拡大した側面図である。
【図4】整地装置の平面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 走行機体
15 昇降リンク
15c 油圧シリンダ
20 植付装置
26 検知フロート
26a 検知フロート先端
27、28 左右フロート
30 整地装置
32 中央整地部
33、34 左右整地部
32a、33a、34a かご型ロータ
32b、33b、34b ロータリ軸
37 伝動部材
38 第2の伝動部材
40 伝動ケース
43 軸伝動手段
44 伝動軸
45 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを搭載し、該エンジンの動力により走行する走行機体と、
該走行機体に昇降自在に支持された植付装置と、
前記走行機体と前記植付装置との間に配置されかつ前記植付装置に連動して昇降支持された整地装置と、を備え、
前記エンジンからの動力を、前記走行機体の後方から延びている伝動軸及び継手を有する軸伝動手段を介して前記整地装置に伝達してなる農用作業機において、
前記軸伝動手段に連動し、前記整地装置の上方に配置された伝動ケースに収納されたギヤと、
該ギヤと前記整地装置との間に介在する伝動部材と、を備えた、
ことを特徴とする農用作業機。
【請求項2】
前記植付装置は、植付装置本体に懸架されかつ左右方向に並列配置される少なくとも3個のフロートを有し、これらフロートの中央部のフロートが、前記植付装置の田面からの高さを検知する検知フロートであり、かつ該検知フロートが、他のフロートより前方に延長した長い構成からなり、
前記整地装置は、左右方向に並列配置された少なくとも3個の整地ロータを有し、かつ前記検知フロートの前方に位置する中央の整地ロータを、他の整地ロータより前方に偏位して配置すると共に、前記他の整地ロータを、前記検知フロート前部と側面視オーバラップするように配置し、
前記中央の整地ロータの上方に前記ケースを配置し、かつ該中央の整地ロータに前記ギヤ及び前記伝動部材を介して動力伝達すると共に、該中央の整地ロータの側端から第2の伝動部材を介して前記他の整地ロータに動力伝達してなる、
請求項1記載の農用作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−166997(P2007−166997A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370194(P2005−370194)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】