農薬および添加物のスクリーニング法およびその装置
【課題】 食品や環境試料中の農薬や添加物などの濃度を測定する化学分析法において、高度な分析機器を用いることなく、被検試料中に微量に存在する測定対象化合物を高感度で、迅速かつ簡便に測定しうる選択性に優れたスクリーニング法およびその手法を用いた可搬型測定装置を提供する。
【解決手段】 測定対象化合物に選択性を示す吸着剤が充てんされた小容量のカラムに、被検溶液を通過させ、吸着剤表面に測定対象化合物を吸着・濃縮・固定し、不要成分を洗浄後、測定対象化合物を吸着剤表面に吸着・固定した状態のまま蛍光法あるいは化学発光法により検出を行うことにより食品中に残存あるいは添加された農薬および添加物のスクリーニング(半定量)を行う。
【解決手段】 測定対象化合物に選択性を示す吸着剤が充てんされた小容量のカラムに、被検溶液を通過させ、吸着剤表面に測定対象化合物を吸着・濃縮・固定し、不要成分を洗浄後、測定対象化合物を吸着剤表面に吸着・固定した状態のまま蛍光法あるいは化学発光法により検出を行うことにより食品中に残存あるいは添加された農薬および添加物のスクリーニング(半定量)を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や飼料あるいは環境試料中の農薬や添加物などの濃度を測定する化学分析法において、高度な分析機器を用いることなく、被検試料中に微量に存在する測定対象化合物を高感度で、迅速かつ簡便に測定しうるスクリーニング法およびその手法を用いるための可搬型の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、『食の安全・安心』が叫ばれているにもかかわらず、農薬の混入や高度残留、食品添加物の過剰添加などの問題が後を絶たない。2006年より食品に残留する農薬などに関する制度(ポジティブリスト制度)が施行され、測定すべき検体数の増加と共に、測定対象農薬などの種類も大幅に増加した。食品分析に関する技術や装置は著しく進歩はしているものの、食品中には測定対象化合物以外の夾雑物が高度に存在しているため、これら夾雑物による妨害、干渉が生じ、微量の測定対象化合物を安定して測定することは難しい。そのため、食品分析においては被検試料中の夾雑物を如何に取り除くかが重要な課題となっている。
【0003】
ポジティブリスト制度の施行に伴い、「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品成分である物質の試験法について」が、食安発第0124001号として厚生労働省から平成17年1月24日付で告示(非特許文献1)され、その後、「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品成分である物質の試験法について(一部改正)」が、食安発第1129002号として平成17年11月29日に通知(非特許文献2)されている。ポジティブリスト制度に関わる試験方法は、旧厚生省時代の平成9年4月8日に通知されている「残留農薬迅速分析法の利用について」(平成9年衛化第43号、非特許文献3)が基となっている。衛化第43号に示される試料前処理における主な工程を図1に示すが、食品中に存在する夾雑物を除去するための前処理操作が非常に煩雑であり、この工程に従って分析を行った場合、分析結果が得られるまで数日を必要とする。そのため、増加する検体数に対応できないばかりか、商品の流通サイクルにも適合させることが困難である。さらに、このような精密な機器分析を行うための前処理操作には熟練を要する、有機溶媒や化学薬品を多量に使用するなど、改善すべき多くの課題を抱えている。
【0004】
このような課題に対して、測定対象化合物の抽出方法を変更する、選択的検出器を用いる、高分解能装置を用いるなど、種々の簡便法、迅速法が提案されているが、いずれも前処理工程の一部を省略あるいは簡略化する程度のものであり、測定対象化合物の定性・定量にはガスクロマトグラフ質量分析計や液体クロマトグラフ質量分析計などの高度で高価な分析機器が必要とされる(特許文献1ないし特許文献4)。これらの手法は、精密分析や多成分の一斉分析には有効で、信頼性の高い結果を得ることができる。しかし、専門的な知識を必要とする他、ランニングコストが高く、前処理を含めた分析時間も長いため、膨大な検体数の処理には適してはいない。また、本質的に可搬型の装置ではないため、現場での分析には適しておらず、水際での監視に適応させることができない。
【0005】
上記のような機器分析法における課題に対して、高価な分析機器を用いない安価で簡便な測定方法として赤外分光法とイムノアッセイがある。赤外分光法は、現場分析法としては有効な方法で、簡便で、かつ使用する機器もさほど高価ではない。特許文献5には、農作物の集荷場において使用される、選別器、農薬判定装置の例が開示されている。この方法では、蓄積された赤外吸収スペクトルを基にコンピュータ解析により判定を行っている。しかしながら、赤外分光法は選択性が乏しく、特許文献4にも記されているように、脂質やタンパク質などの吸収も強くあり、これらによる妨害もある。従って、使用する農薬が特定されている場合には有効であると考えられるが、不特定な農薬などのスクリーニングにおいては夾雑物による妨害を無視することができない。
【0006】
一方、イムノアッセイは、抗原抗体反応を利用した分析方法である。一般に、特定の酵素で標識した抗原と試料中の非標識抗原とを、抗体との競合反応をさせ、抗原抗体錯体を沈殿させて非結合型抗原を分離し、抗体と結合した標識抗原量を測定することにより試料中の抗原物質の量を求めるといった方法がとられる。この方法は、特異性が高く、検出感度も高いため、微量分析に利用されている。また操作も簡便で専門的知識も不要であり、測定時間も数時間以内であるため、スクリーニング手法として有効な分析方法である。農薬などの有害物質に適用された例が特許文献6ないし特許文献9に開示されている。残留農薬分析用のイムノアッセイキットは既に幾種類が市販されており、現場分析としても利用されている。しかしながら、適切な抗原の種類が少ないため、測定対象農薬の種類が限定される。特に、低分子量の化合物に関しては適切な抗原が少なく、対応しにくいとされている。そのため、イムノアッセイ法で対応しにくい農薬に関して、新規なスクリーニング方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−155657号公報
【特許文献2】特開2006−242825号公報
【特許文献3】特開2006−78419号公報
【特許文献4】特開2004−340627号公報
【特許文献5】特開2007−101186号公報
【特許文献6】特開2005−194238号公報
【特許文献7】特開2004−333130号公報
【特許文献8】特開2007−68531号公報
【特許文献9】特表2007−531862号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】厚生労働省、食安発第0124001号、平成17年1月24日付通知
【非特許文献2】厚生労働省、食安発第1129002号、平成17年11月29日付通知
【非特許文献3】厚生省、衛化第43号、平成9年4月8日付通知
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、測定対象化合物に選択性を示す吸着剤に被検溶液中の農薬などを抽出・濃縮・固定し、農薬などを吸着剤表面に固定した状態のまま蛍光法あるいは化学発光法により検出を行うといった、簡便かつ迅速で、ランニングコストが低く、環境負荷の小さい農薬および添加物のスクリーニング方法およびその測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、測定対象化合物に対して選択性を示す吸着剤が充てんされた2mL以下の小容量のカラム(一般に、「固相抽出カートリッジ」と呼ばれる)に被検溶液を通過させ、吸着剤表面に被検溶液中の測定対象化合物を吸着・濃縮させた後、測定対象化合物を吸着剤から脱離させることなく、測定対象化合物を吸着剤表面に固定した状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、その発光量から測定対象化合物の濃度を求めることにより、簡便かつ迅速に農薬および添加物のスクリーニングが行えることを見出した。
【0011】
本発明においては、測定対象化合物が、蛍光性あるいは化学発光性の農薬及び添加物として用いられる化合物であり、該測定対象化合物を吸着剤表面に固定させた状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、その発光量から測定対象化合物の濃度を求める。
【0012】
本発明においては、測定対象化合物が、非蛍光性あるいは非化学発光性の農薬及び添加物として用いられる化合物であり、適切な誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物とすることが可能な化合物であれば、同様に吸着剤表面に吸着・固定した状態で測定対象化合物を蛍光あるいは化学発光誘導体化を行った後、生成した誘導体を吸着剤表面に吸着・固定した状態のまま吸着剤から脱離させることなく、蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、その発光量から測定対象化合物の濃度を求める。
【0013】
本発明において用いられる吸着・濃縮用の吸着剤は、疎水官能基とイオン交換基を併せ持つ吸着剤であり、複合された吸着機構により測定対象化合物の選択的吸着・濃縮を行う。
【0014】
また、本発明において用いられる吸着・濃縮用の吸着剤は、親水性相互作用を発現させることが可能な親水性官能基とイオン交換基を併せ持つ吸着剤であり、複合された吸着機構により測定対象化合物の選択的吸着・濃縮を行う。
【0015】
本発明において、小容量のカラムの吸着剤が充てんされる部分は、光透過性、かつ蛍光性あるいは化学発光性のない、あるいは極めて低い材質により構成され、蛍光法あるいは化学発光法によって発光した光が透過するようになっており、また、その形状が円筒状あるいは角形の筒状であり、かつ上下に液の出入り口を有する形状のものである。
【0016】
本発明の農薬および添加物などのスクリーニングを簡便に実施させることを可能とする装置は、1)測定対象化合物を吸着・濃縮する吸着剤を充てんした2mL以下の小容量のカラムを装着することができる試料室と、2)誘導体化試薬および洗浄液を送液するポンプシステムと、3)励起光を照射する光源および光学系、あるいは化学発光試薬を送液するポンプシステムと、4)小容量のカラムからの蛍光あるいは化学発光の発光量を検出する検出器と、5)得られた蛍光あるいは化学発光の光量から測定対象化合物の濃度を計算する演算回路とを具備する、可搬型の農薬および添加物のスクリーニング装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、食品や飼料あるいは環境中の農薬および添加物などを簡便かつ迅速に高感度測定することが可能である。本発明のスクリーニング方法および可搬型のスクリーニング装置を用いることにより、オンサイトで微量の残留農薬や添加物・混入物の測定が可能となるため、流通サイクルに適応した測定が可能となる。本発明のスクリーニング法は、既存の農薬などすべてに適応できるわけではないが、測定対象化合物の構造や官能基毎にグルーピングされた結果が得られるため、多くの農薬や添加物などのスクリーニングに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は食品中の残留農薬迅速分析法の操作フローを示した説明図である。
【図2】図2は小容量のカラム(固相抽出カートリッジ)の構成の一例を示した説明図である。
【図3】図3は小容量のカラム(固相抽出カートリッジ)の異なる構成の一例を示した説明図である。
【図4】図4は本発明のスクリーニング装置における蛍光検出法に用いる試料部および検出部の基本構成を示した説明図である。
【図5】図5は本発明のスクリーニング装置における化学発光検出法に用いる試料部および検出部の基本構成を示した説明図である。
【図6】図6は本発明の方法を用いるための前処理操作フローを示した説明図である。
【図7】図7は本発明のスクリーニング方法を用いるための注射筒を用いた手動前処理操作の一例を示した図である。
【図8】図8は本発明のスクリーニング方法用いるための送液ポンプを用いた前処理操作の一例を示した図である。
【図9】図9は本発明のスクリーニング方法用いるための吸引マニュホールドを用いた前処理操作の一例を示した図である。
【図10】図10は本発明のスクリーニング方法における検出操作フローを示した説明図である。
【図11】図11は蛍光検出を用いる場合の基本操作手順を示した説明図である。
【図12】図12は化学発光検出を用いる場合の基本操作手順を示した説明図である。
【図13】図13は疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いて捕捉させたアミノ酸誘導体を化学発光法により検出した時の化学発光プロファイルを示したものである。
【図14】図14は親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いて捕捉させた抗生物質を蛍光法により検出した時の蛍光プロファイルを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、測定対象化合物に対して選択性を示す吸着剤を充てんした小容量のカラムに予備抽出処理を行った被検溶液を通液し、吸着剤表面に被検溶液中の測定対象化合物を吸着・濃縮させた後、測定対象化合物を吸着剤から脱離させることなく、測定対象化合物を吸着剤表面に固定した状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、発光量から測定対象化合物の濃度を求める、簡便かつ迅速な農薬および添加物のスクリーニング方法である。
【0020】
本発明において、吸着剤で吸着した測定対象化合物は、吸着剤表面に吸着・固定された状態のまま、吸着剤から溶出されることなく、蛍光法あるいは化学発光法により検出される。蛍光法は、測定対象化合物またはその誘導体を光により励起し、基底状態に戻る過程に生じる物質固有の波長の光(蛍光)を検出するものである。一方、化学発光法は、測定対象化合物またはその誘導体を化学反応によって励起させ、基底状態に戻る際に出る発光を検出するものであり、一般に、酸化反応などを利用して励起させることが多い。蛍光法および化学発光法は選択性の高い検出法であるため、夾雑物の影響を受けずに検出することが可能である。また、これらの検出法は発光検出法であり、バックグランドがないところからの発光量を検出するため高感度検出が可能となる。
【0021】
本発明において、直接測定が可能な測定対象化合物は蛍光性あるいは化学発光性の化合物である。一般に、蛍光性化合物であれば、化学発光法で測定可能である。蛍光性を示す農薬および添加物などの例としては、ベノミル、カルベンダジム、チアベンダゾール、フベリダゾールなどのベンゾイミダゾール系防かび剤・殺菌剤のほか、オキソリニック酸、パラコート、オルトフェニルフェノール(OPP)、ジフェニル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ビタミンEなどがあげられる。これらの化合物を測定対象化合物に対して選択的な吸着剤表面に吸着・固定させて、蛍光法あるいは化学発光法により検出することで、抽出と検出の二つの工程で選択性を持たせることができるため、夾雑物の妨害を受けにくい高感度検出が可能となる。
【0022】
また、本発明においては、非蛍光性あるいは非化学発光性の化合物であっても、適切な誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物を生成する化合物であれば検出することが可能である。誘導体化試薬との反応により蛍光性の化合物となる化合物を吸着剤表面に吸着・固定させた後、吸着剤表面に固定させたまま適切な誘導体化試薬を用いて蛍光性化合物に誘導した後、前記と同様に蛍光法あるいは化学発光法により検出する。一般に、蛍光誘導体化は、アミノ基(イミノ基)、チオール基、ヒドロキシル基、カルボニル基などを利用して行われるが、農薬などにはこれらの官能基を有する化合物が多いため、これらの官能基を利用して誘導体化を行う。誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物となるアミノ基(イミノ基)を有する農薬・添加物などの例としては、ジクロラン、アシュラム、イボテン酸、ペンディメタリン、アミノ酸類などがあげられる。また、誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物となるチオール基を有する農薬・添加物などの例としては、L−システインがあげられる。さらに、誘導体化試薬との反応により蛍光性の化合物となるヒドロキシル基を有する農薬・添加物などの例としては、デルフィニン、クロルプロピレート、クロレトン、カルシフェロールなどが、カルボニル基を有する農薬・添加物などの例としては、クロフェナック、ディノベン、MDBA、クロプロップなどがあげられる。
【0023】
誘導体化試薬としては公知のものを使用することができる。誘導体化試薬は、測定対象化合物の特性に応じて選択されるものであるため、特に規定するものではないが、一般には、アミノ基(イミノ基)、チオール基、ヒドロキシル基、カルボニル基などの反応性の高い官能基に反応させる。これらの官能基のうち、アミノ基(イミノ基)を用いて蛍光誘導体化する試薬が多数開発されている。但し、本発明においては、誘導体化後に吸着剤との相互作用が極端に低減してしまうような誘導体を生成する誘導体化試薬を使用することはできない。例えば、疎水性相互作用とイオン交換相互作用を有する吸着剤を用いる場合においては、疎水性あるいはイオン性の極端な低下が生じてしまうと、誘導体化反応中あるいは過剰試薬の洗浄中、さらには化学発光試薬の送液中に吸着剤から脱離してしまい測定することができなくなる。また、有機溶媒にしか溶けない誘導体化試薬を用いると、吸着剤と測定対象化合物との疎水性相互作用が弱まるため、このような誘導体化試薬を用いることはできない。このことは、親水性相互作用とイオン交換相互作用を有する吸着剤を用いる場合においても基本的に同じであり、誘導体化により極性あるいはイオン性の極端な低下が生じてしまうと吸着剤から脱離してしまうため、測定対象化合物を本発明の方法により測定することはできなくなる。
【0024】
本発明において使用されうるアミノ基を利用する誘導体化試薬としては、オルトフタルアルデヒド、フルオレサミン、ダンシルクロリド、ダブシルクロリド、4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン(NBD−F)、4−クロロ−7−ニトロベンゾフラザン(NBD−Cl)、などがあげられる。また、本発明において使用されうるチオール基を利用する誘導体化試薬としては、N−ピロロイソマレイイミド、N−(4−アニリノフェニル)マレイミド、N−(7−ジメチルアミノ−4−メチルクマリニル)マレイミドのようなN−置換マレイミド基を有する試薬があげられる。ヒドロキシル基を利用する誘導体化試薬としては、ピレン−1−カルボニルシアニド、アントラセン−1−カルボニルシアニドのようなカルボニルシアニド基を有する試薬やピレン−1−カルボニルアジドのようなカルボニルアジド基を有する試薬が使用しうる。さらに、本発明において使用されうるカルボニル基を利用する誘導体化試薬としては、ダンシルヒドラジンなどのようなビドラジノ基を有する試薬や2−アミノ−4,5−ジメトキシチオフェノールなどがあげられる。
【0025】
本発明において使用される吸着剤は、いわゆる固相抽出剤と基本的に同じである。固相抽出法は、測定対象化合物と固相となる吸着剤との親和性を利用した物理的抽出法である。旧来より行われてきた有機溶媒への分配を利用する溶媒抽出法(液−液抽出法)に比べ、抽出効率が高い、再現性がよい、安全である、ランニングコストが低いなどといった特長があると共に、環境汚染物質とされるハロゲン系溶媒などを使用することなく、かつ使用する有機溶媒も少量であるといった環境対応手法であるため、近年広く普及してきている。また、溶媒抽出法では水と混和する溶媒(例えば、アルコール類など)を用いて抽出することはできないが、固相抽出剤は不溶性であるため、高極性の吸着剤を用いて水溶液中の有機化合物の抽出が可能である。固相抽出法における抽出機構としては、順相分配、逆相分配、イオン交換、錯形成などが用いられるが、最も広く使用されている抽出機構は逆相分配である。逆相分配用の固相抽出剤としては、シリカゲルにアルキルシラン化合物を用いてアルキル基を導入したアルキル基化学結合型シリカゲルがある。代表的なものとしては、オクタデシル基を導入したオクタデシルシリカ(ODS)がある。また、ポリスチレンゲルやポリメタクリレート系ゲルなどの高分子系の固相抽出剤も広く用いられている。これらの固相抽出剤では、アルキル基や芳香環などとの疎水性相互作用に基づいて被検溶液中の有機化合物の抽出を行う。これらの逆相分配機構を利用した固相抽出剤は、農薬や添加物などの前処理にも広く利用されているが、高極性化合物の抽出においては必ずしも有効であるとはいえない。特にイオン性官能基を有する有機化合物を抽出する場合には、回収率や再現性の低下が問題となっている。
【0026】
本発明においては、固相抽出剤と同様の抽出機能を利用して被検溶液から測定対象化合物を抽出するが、固相抽出法のように、固相抽出剤から溶出させる必要はない。従って、一般的な固相抽出剤よりも測定対象化合物に対する吸着特性の高い吸着剤が用いられる。但し、測定対象化合物を吸着剤表面に吸着・固定したまま誘導体化反応を行う必要もあるため、誘導体化の対象となる官能基を主吸着機構とする吸着・濃縮方法を用いることはできない。誘導体化の対象となる官能基としては、アミノ基(イミノ基)、チオール基、ヒドロキシル基、カルボニル基などであるため、これらの官能基を阻害しない吸着機構を用いる。一般に、アミノ基(イミノ基)に関する誘導体化試薬を適用する場合、アミノ基(イミノ基)を認識するような吸着機構、例えば、陽イオン交換相互作用は好ましくはない。但し、アミノ基(イミノ基)を複数持つ化合物の場合には、すべてのアミノ基(イミノ基)が吸着機構に関与するわけではないため、陽イオン交換相互作用も利用することが可能である。
【0027】
本発明において使用される吸着剤の一つ形態は、疎水官能基とイオン交換基とを併せ持つ吸着剤である。一般に、農薬や添加剤は、疎水性の骨格にイオン交換基や極性基が導入されたものが多い。このような化合物を逆相分配機構だけで抽出した場合、不要な夾雑物を洗浄する工程で溶離してしまう恐れがある。そのため、本発明では複数の相互作用が組み合わされた複合吸着機構により測定対象化合物を保持させる。吸着機構の組み合わせとしては種々可能であるが、最も有効である組み合わせは、疎水性相互作用とイオン交換相互作用との組み合わせである。一般に、イオン性の官能基を有する化合物をイオン交換相互作用によって吸着させると、測定対象化合物の親水性が低下して見掛けの疎水性が増加する。この時、吸着剤中に疎水性相互作用を明確に示す官能基があれば、疎水性相互作用との複合作用によって吸着剤に強く保持させることが可能となる。従って、本発明においては、疎水性相互作用とイオン交換相互作用とを組み合わせた吸着機構を示す吸着剤を用いる。このような組み合わせを用いることにより、測定対象化合物が抽出・吸着された吸着剤を、有機溶媒で洗浄しても、あるいは緩衝液で洗浄しても、測定対象化合物は容易に溶出されることなく吸着剤に固定されたままとなる。疎水性相互作用と組み合わせるイオン交換相互作用としては、陽イオン交換相互作用あるいは陰イオン交換相互作用のいずれも使用することが可能である。農薬や添加物にはアミノ基(イミノ基)を有する化合物が多数あるため、陽イオン交換相互作用が有効ではあるが、誘導体化を考慮すると、アミノ基(イミノ基)が阻害されない吸着機構を用いなければならない。そこで、陰イオン性の官能基であるカルボキシル基、スルホ基、ホスホ基などを利用して陰イオン交換相互作用により吸着を行うことが好ましい。
【0028】
疎水性官能基とイオン交換性官能基とを併せ持つ吸着剤(固相抽出剤)の例としては特表2002-517574号公報に開示されているが、当該特許文献ではジビニルベンゼンの重合体からなる疎水性樹脂の芳香環にクロロメチル基を導入後、アミンと反応させてイオン交換基を導入するものである。本発明においては、測定対象化合物の疎水性官能基とイオン性官能基を認識させて吸着・固定させるものであるため、当該特許文献記載の吸着剤も使用することが可能であると考えられる。しかしながら、イオン性官能基の周囲には多くの水分子が結合しており高い親水性を示すため、吸着剤のイオン交換基は疎水性部位に結合させるよりも、親水性を示す部位に結合させたほうが明確にイオン交換相互作用を発現し、測定対象化合物のイオン性官能基を認識しやすくなる。従って、本発明においては、反応性官能基を有する親水性のビニルモノマーとビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーとをこれらビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒の存在下で、水系懸濁重合法により得られる多孔質の架橋性高分子担体に二次的な反応によりイオン交換基を導入したものを用いる。
【0029】
疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤を作る場合、イオン交換基のために導入するアミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーとビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーとの共重合により、架橋性高分子担体を得ることができる。アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの官能基としては、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基などがあげられる。ハロゲン化アルキル基を有する親水性の反応性モノマーとしては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレートなどがあげられる。エポキシ基を有する親水性の反応性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどがあげられる。これらモノマーと共重合が可能なビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族架橋性モノマーを用いることができる。得られる架橋性高分子担体の疎水性および特性は疎水性の架橋性モノマーの量に依存するが、架橋性の高分子担体が十分な硬度を有する場合には、ビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーの一部をビニル基が1個の疎水性のビニルモノマーに置き換えることができる。ビニル基が1個の疎水性のビニルモノマーとしては、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、オクチルメタクリレート、フェニルメタクリレートなどがあげられる。また、濡れ性や水素結合性などの架橋性高分子担体の物性を改善するために、他のビニルモノマーを添加することも可能である。
【0030】
本発明の疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤において最も重要な点は、疎水性官能基の量と親水性ビニルモノマーに導入されるイオン交換基の量およびそのバランスである。疎水性を示すビニルモノマーの量は、全ビニルモノマーに対して60〜90重量%、好ましくは70〜90重量%である。また、吸着剤としての十分な硬度を確保するためには、ビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーは少なくとも30重量%以上用いる。イオン交換容量はアミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの量とその反応性に依存するものであり、本発明においては最終的に0.1〜1meq/g、好ましくは0.2〜0.8meq/gのイオン交換容量の吸着剤を必要とする。従って、アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの量は全ビニルモノマーに対して40〜10重量%、好ましくは30〜10重量%である。また、架橋性高分子担体の濡れ性や水素結合性を改善のために添加される他のビニルモノマーとしては、水酸基を有するビニルモノマー、アミド基を有するビニルモノマー、シアヌル酸基を有するビニルモノマーなどがあげられるが、これらのビニルモノマーを多量に混合すると吸着剤の疎水性が低下してしまうため、その添加量は全ビニルモノマーに対して10重量%以下で用いる。
【0031】
本発明においては、高い吸着能が要求されるため、十分な比表面積を有する多孔質の高分子担体が必要となる。そのため、ビニルモノマーの共重合時に、ビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒を存在させて共重合を行う。細孔調節剤は生成した高分子を多孔質にすると共に、比表面積を大きくするために必要なものであり、細孔調節剤の種類と量により細孔径および比表面積を調節する。細孔調節剤は、使用するモノマーの物性により適宜選択されるものであるが、一般的に、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸ブチル、フタル酸ジメチルなどのエステル類、アミルアルコール、オクチルアルコールなどの水と混和しにくいアルコール類、オクタン、ドデカンなどのパラフィン類が使用される。これら細孔調節剤の使用量が少なすぎると十分な細孔径および比表面積を得るとことはできない。一方、細孔調節剤の量が多すぎる場合には、細孔径が大きくなり過ぎて比表面積が小さくなると共に機械的強度が低下する、さらには、水系懸濁重合時に粒子が形成されないなどの問題が生じる。従って、重合性モノマー100重量部に対して30〜200重量部、好ましくは80〜200重量部の範囲で使用する。多孔質の架橋性高分子担体の細孔径、比表面積は吸着対象成分や共存成分の特性にも依存するが、本発明においては、非膨潤時の細孔物性として、平均細孔径4〜50nm、比表面積100〜1000m2/gのものを用いるのが好ましい。
【0032】
前記反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体への陰イオン交換基の導入は、導入目的のアミンを、水、アルコール、ジメチルホルムアミドなどあるいはそれらの混合溶媒中に溶解し、反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体を分散させて、攪拌しながら、室温〜80℃で、3〜24時間の反応により陰イオン交換基を導入することができる。導入するアミンに関しては特に規定しないが、その解離性を考慮すると、二級あるいは三級の低分子アミンを用いることが好ましい。例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチル−2−アミノエタノールなどの二級アミン、トリチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチル−2−アミノエタノールなどの三級アミンが用いられる。
【0033】
本発明において使用される吸着剤のもう一つ形態は、親水性相互作用を発現させることが可能な親水性官能基とイオン交換基とを併せ持つ吸着剤である。親水性相互作用とは、吸着剤の親水基と測定対象化合物との間の極性や水素結合に基づく相互作用、吸着剤に保持された水相への分配などに基づく複数の相互作用の総合的な表現である。親水性相互作用はHILIC(ヒリック)と呼ばれ、近年、この保持機構を利用した高速液体クロマトグラフィー用の分離剤が市販されている。これらの分離剤では、極性有機溶媒中に存在する極性化合物を保持・分離することが可能である。この保持機構を利用することで、極性有機溶媒で予備抽出した高極性の測定対象化合物を抽出することが可能である。しかしながら、親水性相互作用を用いて極性の高い測定対象成分保持させる場合、被検溶液中に水が含まれると保持が弱くなるという問題があるため、本発明においてはイオン交換相互作用と組み合わせた吸着機構を用いる。
【0034】
親水性相互作用と組み合わせるイオン交換相互作用としては、陽イオン交換相互作用と陰イオン交換相互作用のいずれも使用することが可能であるが、前述のように、陰イオン交換相互作用のほうが好ましい。親水性化合物に存在するカルボキシル基、スルホ基、ホスホ基などは、親水性相互作用による吸着剤への保持を増強するものであり、かつイオン交換相互作用を明確に発現する官能基であるため、親水性相互作用との複合作用によって吸着剤に強く保持させることが可能である。従って、本発明においては、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用との組み合わせを用いる。
【0035】
親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤は、アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーとビニル基を2個以上のビニル基を2個以上有する親水性の架橋性モノマーとの共重合により、架橋性高分子担体を合成し、この架橋性高分子担体に適切な二級アミンを導入後、導入された三級アンモニウム基に反応し、スルホ基を導入できる化合物を反応させ、水和性の高いベタイン構造を有する吸着剤を製造する。この時、三級アンモニウム基に反応し、スルホ基を導入できる化合物の反応は等量反応ではないため、反応試薬量や反応条件を調節して導入量を制御することで、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤を製造することができる。
【0036】
アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの官能基としては、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基などがあげられる。ハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーとしては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレートなどがあげられる。エポキシ基を有する官能性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどがあげられる。これらモノマーと共重合が可能なビニル基を2個以上有する親水性の架橋性モノマーとしては、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレートなどの多官能メタクリレート系モノマー、エチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレートなどのシアヌル酸骨格を持つ架橋性モノマーなどがあげられる。また、架橋性高分子担体の親水性や水素結合性などの物性を改善するために、第三のビニルモノマーを添加することも可能である。物性改善のためのビニルモノマーとしては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、モルホリノアクリルアミドなどのアミド系モノマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリンメタクリレート、ネオペンチルグリコールメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレートなどのメタクリレートモノマー、さらにはN−ビニルピロリドンなどがあげられる。また、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのように陰イオン交換性を示すビニルモノマーを添加することも可能である。
【0037】
本発明の親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤において、アミンと反応する官能基を有するビニルモノマーの量は、全ビニルモノマーに対して20〜70重量%、好ましくは30〜60重量%であり、十分な硬度を確保するためにビニル基を2個以上有する親水性の架橋性モノマーは少なくとも30重量%以上用いる。また、架橋性高分子担体の親水性や水素結合性などの物性を改善するために添加される他のビニルモノマーは、0〜20重量%で用いるのが好ましい。
【0038】
本発明においては、高い吸着能が要求されるため、十分な比表面積を有する多孔質の高分子担体が必要となる。そのため、ビニルモノマーの共重合時に、ビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒を存在させて共重合を行う。細孔調節剤は、使用するモノマーの物性により適宜選択されるものであるが、一般的に、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸ブチル、フタル酸ジメチルなどのエステル類、アミルアルコール、オクチルアルコールなどの水と混和しにくいアルコール類、オクタン、ドデカンなどのパラフィン類が使用され、重合性モノマー100重量部に対して30〜200重量部、好ましくは80〜200重量部の範囲で使用する。多孔質の架橋性高分子担体の細孔径、比表面積は吸着対象成分や共存成分の特性にも依存するが、本発明においては、非膨潤時の細孔物性として、平均細孔径4〜50nm、比表面積100〜1000m2/gのものを用いるのが好ましい。
【0039】
前記反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体と二級アミンとの反応は、上述した陰イオン交換基の導入と同様の方法により行われる。すなわち、導入目的の二級アミンを、水、アルコール、ジメチルホルムアミドなどあるいはそれらの混合溶媒中に溶解し、反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体を分散させて、攪拌しながら、室温〜80℃で、3〜24時間の反応により三級アンモニウム基を導入することができる。導入する二級アミンに関しては特に規定しないが、その疎水性や反応性を考慮すると、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどのアルキル基が小さい二級アミンを用いるのが好ましい。
【0040】
架橋性高分子担体に導入された三級アンモニウム基へのスルホ基の導入は、以下のいずれかの方法により行われる。
(i)三級アンモニウム基が導入された架橋性高分子担体を適切なアルカリ溶液に分散し、2−ブロモエタンスルホン酸などのハロゲン化アルキルスルホン酸を加え、攪拌しながら、40〜80℃で3〜8時間反応させる。
(ii)三級アンモニウム基が導入された架橋性高分子担体を十分に乾燥後、脱水したアセトンなどの適切な溶媒中に分散し、プロパンスルトンを加えて、攪拌しながら、室温〜50℃で3〜8時間反応させる。
上記の反応により、水和性の高いスルホベタイン基を持つ親水性相互作用を示す吸着剤を合成することができる。この時、このスルホ基を導入する反応は等量反応ではないため、三級アンモニウム基が導入された架橋性高分子担体中に未反応の三級アンモニウム基が残存することとなり、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤得ることができる。尚、スルホ基の導入量、即ち三級アンモニウム基の残存量は、スルホ基の導入反応条件(試薬量、試薬濃度、反応温度など)により調整する。
【0041】
本発明において用いられる吸着剤は、円筒状あるいは角形の筒状の小容量のカラムに充てんされて用いられる。図2に本発明の小容量のカラム1の構造を示す。本発明の吸着剤1aは、下部フリット1eが挿入されているエンプティカラムボディ1bに充てんされ、上部フリット1dを挿入した後、エンプティカラムキャップ1cが挿入されて固定される。エンプティカラムボディ1bは、吸着剤1aに抽出・固定された測定対象化合物からの発光を透過させる必要があるため、光透過性の材質でなければならない。材質そのものは特に限定しないが、使用可能な材質としては、ガラス、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、透明塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フッ素樹脂などを使用することができる。実際には、検出する光の波長や使用溶媒への耐性などを考慮して選択される。光透過性を重視して選択するならば、300nmにおける光線透過率として75%以上であり,全光線透過率が85%以上である材質が好ましく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)が好ましい。また、光透過性の高い材料で下部接続部と一体型でエンプティカラムボディ1bを作製しにくい場合には、図3に示すように、ボディ2b(図3)を分離した形状とし、この部分だけ光透過性の高い材質を用いて作製しても良い。なお、図3において、2a〜2gは図2の1a〜1gに対応し、2hはエンプティカラム下部キャップである。
ここで、「小容量」とは、測定対象化合物を吸着するための吸着剤を充填可能な空間の容積が2mL以下であることを示す。本法では、選択性の高い吸着剤を用いて吸着剤充填ベッドの先端に吸着・濃縮させた後、蛍光あるいは化学発光検出を行うものであるため、測定対象成分が破過せずに確実に吸着できる量の吸着剤が充填できる容積を持つカラムを使用すればよい。吸着剤充填部分の容積が2mLの場合、最大で約1gのポリマー系固相抽出剤を充填可能であるが、これ以上の吸着剤量を用いても吸着に全く関与しない吸着剤が増加するだけである。さらに、カラムの容量が大きくなれば、洗浄液、誘導体化および化学発光試薬の量が多く必要となるなどから、容量は2mL以下にすることが好ましい。先端吸着・濃縮が可能な選択性吸着剤を用いれば、吸着剤量が20〜200mgで検出に必要な量の測定対象化合物を吸着させることが可能である。この範囲で小容量カラムの吸着剤充填部分の容積は、0.05〜0.5mLとなる。
【0042】
本発明は、農薬および添加物を簡便に測定することが可能なスクリーニング方法を提供すると共に、スクリーニングを簡便かつ正確に行うための可搬型のスクリーニング装置も合わせて提供するものである。スクリーニング装置は、1)測定対象化合物を吸着・濃縮する吸着剤を充てんした2mL以下の小容量のカラムを装着することができる試料室と、2)誘導体化試薬および洗浄液を送液するポンプシステムと、3)励起光を照射する光源および光学系、あるいは化学発光試薬を送液するポンプシステムと、4)小容量のカラムからの蛍光あるいは化学発光の光量を検出する検出器と、5)測定対象化合物から発せられた光量から測定対象化合物の濃度を計算する演算回路とを具備する、可搬型の農薬および添加物のスクリーニング装置である。
【0043】
図4および図5に、本発明のスクリーニング装置の試料部および検出部の基本的な構成を示す。図4は蛍光検出法、図5は化学発光検出法における試料部および検出部の構成である。測定対象化合物を吸着剤表面に固定した小容量のカラム1は、図4あるいは図5に示す装置の試料室11にセットされ、それぞれ蛍光法あるいは化学発光法により発光された光量が検出される。測定対象化合物を吸着剤表面に固定した小容量のカラム1は、試料室11の上部コネクタ21および下部コネクタ23の間に挟まれセットされる。小容量のカラム1の上部に光ファイバ33が挿入され、光源31からの光(励起光)が照射される。一般に、蛍光検出における励起光は200〜400nmの光が用いられ、光源ランプとしてはキセノンランプや水銀ランプが用いられている。本発明においては、可搬型の装置であり、取扱いの容易なLEDや水銀ランプを用いるのが望ましい。特に、光源用電源に係わる種々の課題を低減するためには、LEDを用いることが好ましい。しかしながら、LEDは広範囲の光をだしているため、必要に応じて光源31には上下の光をカットするためのカットオフフィルタを装着することもある。励起光の照射と同時にシャッタスイッチ15によりシャッタ14が開かれ、生じた蛍光は励起光カットのためのカットオフフィルタ13を透過し、フォトダイオードあるいはフォトマルチプライアからなり、検出器ホルダ17で保持された検出器16で検出され、検出信号線18を経由して、演算器(図示せず)に送られ濃度に換算される。なお、図中12は受光室、22は接続継ぎ手、32は集光レンズである。化学発光法により検出する場合の装置の構成の一例を図5に示す。化学発光法の場合も機器の構成はほぼ同じであるが、化学発光試薬のみによるバックグラウンド発光を除去するため、カットオフフィルタ13の必要な場合も生じる。また、光励起ではないため、光源31や光ファイバ33は不要であり、その代わり送液ポンプ(図示せず)により試薬導入管34を介して化学発光試薬が送液され、その時の発光量を蛍光法と同様に検出し、濃度に換算する。
【0044】
ここで、本発明におけるスクリーニング方法の具体的な手順を説明する。まず基本的な前処理の操作手順であるが、本法はスクリーニング法であるため、前処理は機器分析法の場合に比べ簡便にすることが可能であると共に、測定現場でも対応可能なレベルに簡便化することができる。本法の基本的前処理操作手順のフローを図6に示す。基本的には、予備抽出→除蛋白→遠心分離→小容量のカラムに負荷の4工程である。必要に応じて予備抽出後に希釈・ろ過、遠心分離後にろ過・液性調整を行う。
【0045】
吸着剤が充てんされた小容量のカラムへの被検溶液の負荷は、図7に示すように、適切な容量を持つ注射筒41などを用いて行うことができる。被検溶液を吸着剤が充てんされた小容量のカラムに通過させることにより測定対象化合物の吸着剤への吸着・固定を行った後、不要な夾雑物の洗浄を行う。洗浄液としては、測定対象化合物が吸着剤から溶出しないものであれば如何なるものも使用することができる。一般に、有機物の除去には、メタノールなどのアルコール類やアセトニトリルを用いることができる。また、塩類が残存する場合には純水を用いて洗浄を行う。但し、親水性相互作用を基本とした抽出機構の場合には、純水100%となると保持させた測定対象化合物が溶出しやすくなるため、アルコール類やアセトニトリルなどの極性有機溶媒と水との混合溶媒を用いる。洗浄液の通液も図7に示すように注射筒41などを用いて行う。これらの試料負荷、洗浄の工程は、図8に示すようなペリスタリスティックポンプなどの適切な試料送液ポンプ42を用いる、あるいは、図9に示すような吸引マニュホールド47を用いて行うことも可能である。なお、図8において、43は試料溶液、44は洗浄溶液、45は配管、46は接続継ぎ手である。図9において、48は減圧ゲージ、49は圧力調整バルブ、50は吸引部継ぎ手、51は受器、52はコック、53はリザーバーである。また、既存の自動抽出装置、自動固相抽出装置などを用いることにより自動化することもできる。
【0046】
本発明においては、小容量のカラムに被検溶液中の測定対象化合物を抽出・濃縮・固定した後、本発明のスクリーニング装置に装着し、蛍光あるいは化学発光検出を行う。基本的な操作手順のフローを図10に示す。測定対象化合物の選択、そして蛍光法あるいは化学発光法の選択に応じてカットオフフィルタの選択を行う。また、測定対象化合物が蛍光性(あるいは化学発光性)かどうかにより、誘導体化反応を行うかどうかの選択を行う。測定対象化合物を蛍光法により検出する場合には小容量のカラムに励起光を照射する、化学発光法により検出する場合には化学発光試薬を通液して発する発光量を検出する。一方、蛍光性(あるいは化学発光性)でない場合には誘導体化試薬を通液して誘導体化を行い、その後、過剰の誘導体化試薬を洗浄後、同様に蛍光あるいは化学発光に基づく発光量を検出する。
【0047】
図11は、誘導体化を必要とする蛍光法によって測定する場合の装置構成を示した図である。測定対象化合物が抽出・濃縮・固定された小容量のカラム1は試料室11の上部コネクタ21および下部コネクタ23の間に挟まれセットされる。小容量のカラム1の上部に試薬導入管34が挿入され、送液ポンプ61により誘導体化試薬62が送液され、小容量のカラム1内で測定対象化合物の誘導体化反応が行われる。誘導体化反応終了後、過剰試薬の洗浄液63に切り替え、送液ポンプ61により送液して、小容量のカラム1内の過剰誘導体化試薬が洗浄される。洗浄終了後、廃液口24を閉じ、液の流出および光の入射を防ぐようにする。その後、小容量のカラム1の上部に試薬導入管34を取り外し、光ファイバ33を装着して、励起光源31からの光を照射すると同時に、シャッタ14を開き、発する蛍光の光量をフォトダイオードあるいはフォトマルチプライアでなる検出器16で検出し、検出された電気信号を演算部(図示せず)に送り、濃度を求める。この時、励起光の妨害がある場合には、カットオフフィルタ13を通して、検出器16に入るようにする。
【0048】
図12は、誘導体化を必要とする化学発光法によって測定する場合の装置構成を示した図である。誘導体化および過剰誘導体化試薬の洗浄の基本操作は蛍光法と同じである。測定対象化合物を誘導体化後、小容量のカラム1に化学発光試薬64を送液ポンプ61で送液すると同時に、シャッタ14を開き、発する化学発光の光量をフォトダイオードあるいはフォトマルチプライアでなる検出器16で検出し、検出された電気信号を演算部(図示せず)に送り、濃度を求める。尚、化学発光法の場合には、検出を行っている間は化学発光試薬64の送液を継続するため、廃液口24は閉じない。
【0049】
以上のように、本発明のスクリーニング法およびスクリーニング装置を用いることで、食品や飼料あるいは環境試料中の農薬および添加剤などを簡便にスクリーニングすることが可能となる。次に実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0050】
疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いたアミノ酸誘導体の化学発光検出
(1)疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を充填した小容量のカラムAの製造
架橋性高分子担体の合成は、水系懸濁重合法により行った。グリシジルメタクリレート30g、N,N−ジメチルアクリルアミド10g、ジビニルベンゼン160g、トルエン170gおよび1−ドデカノール30gの混合溶液に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解した混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液2,000mL中に加え、攪拌機を用いて攪拌羽根を450rpmで回転させ、油層を分散した。その後、分散液(懸濁液)を加温し、80℃で6時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、32〜90μmの架橋性高分子担体80gを得た。得られた架橋性高分子担体70gを、イソプロピルアルコール200mL、水800mLにN,N−ジメチルエチルアミン30gを溶解した溶液中に加え、40℃で6時間反応させて陰イオン交換基を導入した。反応終了後、水、メタノール、水の順で洗浄し、0.1Nの塩酸を用いて対イオンを交換した後、水で十分に洗浄した。その後、メタノールに置換して乾燥させ、疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を得た。この吸着剤の陰イオン交換容量を逆滴定法により求めたところ0.34meq/gであった。また、比表面積および平均細孔径は、それぞれ645m2/gおよび5.2nmであった。下部に接続部を持つ内径6mm、長さ25mmのシクロオレフィンポリマー(COP)製エンプティカラムボディの内部にポリエチレン製フィルタを挿入し、得られた吸着剤100mgを充填し、充填ベッド上部にもポリエチレン製フィルタを挿入し、上部に接続部を取り付け小容量のカラムAを作製した。
【0051】
(2)ダンシル化グリシンの化学発光検出
(1)で作製した小容量のカラムAを用いて、ダンシルグリシンの化学発光検出を試みた。(1)で作製した小容量のカラムAに、水10mL、メタノール10 mL、水10mL、0.1M水酸化ナトリウム水溶液10mL、水10mLの順で通液し、コンディショニングを行った。その後、水で調製した1μg/mLのダンシルグリシン溶液5mLを通液し、小容量のカラムAの吸着剤にダンシルグリシンを吸着させた。その後、小容量のカラムAに水5mLを通液して洗浄を行った。このダンシルグリシンが吸着した小容量のカラムAに、0.05Mのビス(2,4,6−トリクロロフェニル)オキザレート(TCPO)の酢酸エチル溶液0.1mLを加え、さらに30%過酸化水素水を、小容量のカラムAに吸着されたダンシルグリシンの化学発光検出を行った。化学発光に基づく信号が検出された後,再度TCPO混合溶液の注入を行った。得られた化学発光プロファイルを図13に示す。TCPO溶液を注入後、直ちに化学発光が検出され、吸着剤表面で化学発光が生じていることが確認できた。続けてTCPO溶液を注入した場合でも同じ強度の化学発光が検出され、良好な再現性を持って測定できることが確認された。この時、ダンシルグリシン溶液通液時の通過液及び洗浄液の蛍光測定を行ったが、ダンシルグリシンは検出されず、(1)で作製した疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤に強く捕捉されていることが確認された。
【実施例2】
【0052】
親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いた抗生物質の蛍光検出
(3)親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を充填した小容量のカラムBの製造
グリシジルメタクリレート100g、エチレンジメタクリレート80g、N,N−ジメチルアクリルアミド20gおよび酢酸ブチル120gの混合溶液に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解した混合物を、0.2%ポリビニルアルコール水溶液2、000mL中に加え、攪拌機を用いて攪拌羽根を230rpmで回転させ、油層を分散した。その後、分散液(懸濁液)を加温し、70℃で7時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、45〜90μmの架橋性高分子担体75gを得た。得られた架橋性高分子担体70gを、イソプロピルアルコール200mL、水800mLにジメチルアミン溶液(約50%水溶液)40mLを加えた溶液中に入れ、室温で6時間反応させて三級アンモニウム基を導入した。反応終了後、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させた。得られた樹脂粒子10gを、2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム15gを溶解した0.5M水酸化ナトリウム50mL溶液に加え、50℃で6時間重合反応を行った。反応終了後、水、メタノール、水の順で洗浄し、0.1Nの塩酸を用いて対イオンを交換し、水で十分に洗浄した。その後、メタノールに置換した後、乾燥させ、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を得た。この吸着剤のスルホン基量を滴定法により求めたところ0.27mmol/gであった。また、比表面積および平均細孔径は、それぞれ180m2/gおよび12.1nmであった。この吸着剤を、実施例1と同じのエンプティカラムに100mgを充填し、小容量のカラムBを作製した。
【0053】
(4)テトラサイクリン系抗生物質の蛍光検出
(3)で作製した小容量のカラムBを用いて、テトラサイクリンの蛍光検出を試みた。(3)で作製した小容量のカラムBに、水10mL、95%アセトニトリル−水10mLの順で通液し、コンディショニングを行った。その後、95%アセトニトリル−水で調製した0.01mg/mLのテトラサイクリン溶液1mLを通液し、小容量のカラムAの吸着剤にテトラサイクリンを吸着させた。その後、小容量のカラムBに95%アセトニトリル−水5mLを通液して洗浄を行った。このテトラサイクリンが吸着した小容量のカラムBに、LEDの光(波長:360nm)を出す照射し、直角方向からテトラサイクリンの蛍光を検出した。この時、LEDの励起光には400nm以下および600nm以上の光をカットするカットオフフィルタを装着した。また、蛍光側には400nm以下の光をカットするカットオフフィルタを装着し、蛍光を検出した。尚、励起光の照射は、15秒、10秒および10秒とし、同一カラムに3回照射を行った。得られた蛍光プロファイルを図14に示す。励起光照射時間に相当する時間だけ蛍光が検出され、吸着剤表面で蛍光が生じていることが確認できた。続けて励起光を照射した場合でも、同じ強度の蛍光が、照射時間に相当する時間だけ検出された。また、テトラサイクリン溶液通液時の通過液及び洗浄液の蛍光分光光度計を用いて蛍光測定を行ったが、テトラサイクリンは検出されず、(3)で作製した親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤に強く捕捉されていることが確認された。
【0054】
(5)蜂蜜中のテトラサイクリンの検出
(4)の結果を基に蜂蜜中のテトラサイクリンの測定を試みた。蜂蜜5gにアセトニトリル10mLを加え、5分間激しく攪拌し、その後10min間放置した。上澄をとり、(4)と同様の方法で、蜂蜜中に残存するテトラサイクリンを測定した。この時、蜂蜜に1μgのテトラサイクリンを添加した試料も調製し、(4)と同様の方法で添加回収率を調べた。ここで使用した蜂蜜中からはテトラサイクリンは検出されなかったが、添加回収率は75〜100%と良好な結果を与えた。この結果から、被検試料中の夾雑物の影響を受けずに選択的にテトラサイクリンを検出することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、高価で専門的知識が必要な分析機器を用いることなく、簡便かつ迅速な方法で、食品や飼料あるいは環境中の農薬および添加物などを高感度に測定することが可能である。本発明のスクリーニング方法およびスクリーニング装置を用いることにより、オンサイトで微量の残留農薬や添加物・混入物の測定が可能となるため、流通サイクルに適応した分析時間で、多検体を測定するが可能となる。本発明のスクリーニング法は、既存の農薬などすべてに適応できるわけではないが、測定対象化合物の構造や官能基毎にグルーピングされた結果が得られるため、多くの農薬や添加物などのスクリーニングに適用可能である。さらには、既存のイムノアッセイ法との併用により、測定対象化合物の拡大も可能である。また、本発明の測定法はスクリーニング法であるため若干の正誤差を含む可能性があるが、精密分析法の予備試験法と位置付けることができる分析法であり、総合的な分析時間の短縮、コストダウンと共に、食の安全の確保に貢献することができる。
【符号の説明】
【0056】
1: カラム(固相抽出カートリッジ:ボディ一体型)
1a:吸着剤(固相抽出剤)
1b:エンプティカラムボディ(一体型)
1c:エンプティカラムキャップ
1d:上部フリット
1e:下部フリット
1f:上部接続部(溶液入口)
1g:下部接続部(溶液出口)
2: カラム(固相抽出カートリッジ:ボディ独立型)
2a:吸着剤(固相抽出剤)
2b:エンプティカラムボディ(独立型)
2c:エンプティカラム上部キャップ
2d:上部フリット
2e:下部フリット
2f:上部接続部(溶液入口)
2g:下部接続部(溶液出口)
2h:エンプティカラム下部キャップ
11:試料室
12:受光室
13:カットオフフィルタ
14:シャッタ
15:シャッタスイッチ
16:検出器(フォトダイオード、フォトマルチプライア)
17:検出器ホルダ
18:検出信号線
21:上部コネクタ
22:接続継ぎ手
23:下部コネクタ
24:廃液口
31:光源(LEDあるいは水銀ランプ)
32:集光レンズ
33:光ファイバ
34:試薬導入管
41:注射筒
42:試料送液ポンプ
43:試料溶液
44:洗浄液
45:配管
46:接続継ぎ手
47:吸引マニュホールド
48:減圧ゲージ
49:圧力調整バルブ
50:吸引部継ぎ手
51:受器
52:コック
53:リザーバー
61:送液ポンプ
62:誘導体化試薬溶液
63:洗浄液
64:化学発光溶液
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や飼料あるいは環境試料中の農薬や添加物などの濃度を測定する化学分析法において、高度な分析機器を用いることなく、被検試料中に微量に存在する測定対象化合物を高感度で、迅速かつ簡便に測定しうるスクリーニング法およびその手法を用いるための可搬型の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、『食の安全・安心』が叫ばれているにもかかわらず、農薬の混入や高度残留、食品添加物の過剰添加などの問題が後を絶たない。2006年より食品に残留する農薬などに関する制度(ポジティブリスト制度)が施行され、測定すべき検体数の増加と共に、測定対象農薬などの種類も大幅に増加した。食品分析に関する技術や装置は著しく進歩はしているものの、食品中には測定対象化合物以外の夾雑物が高度に存在しているため、これら夾雑物による妨害、干渉が生じ、微量の測定対象化合物を安定して測定することは難しい。そのため、食品分析においては被検試料中の夾雑物を如何に取り除くかが重要な課題となっている。
【0003】
ポジティブリスト制度の施行に伴い、「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品成分である物質の試験法について」が、食安発第0124001号として厚生労働省から平成17年1月24日付で告示(非特許文献1)され、その後、「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品成分である物質の試験法について(一部改正)」が、食安発第1129002号として平成17年11月29日に通知(非特許文献2)されている。ポジティブリスト制度に関わる試験方法は、旧厚生省時代の平成9年4月8日に通知されている「残留農薬迅速分析法の利用について」(平成9年衛化第43号、非特許文献3)が基となっている。衛化第43号に示される試料前処理における主な工程を図1に示すが、食品中に存在する夾雑物を除去するための前処理操作が非常に煩雑であり、この工程に従って分析を行った場合、分析結果が得られるまで数日を必要とする。そのため、増加する検体数に対応できないばかりか、商品の流通サイクルにも適合させることが困難である。さらに、このような精密な機器分析を行うための前処理操作には熟練を要する、有機溶媒や化学薬品を多量に使用するなど、改善すべき多くの課題を抱えている。
【0004】
このような課題に対して、測定対象化合物の抽出方法を変更する、選択的検出器を用いる、高分解能装置を用いるなど、種々の簡便法、迅速法が提案されているが、いずれも前処理工程の一部を省略あるいは簡略化する程度のものであり、測定対象化合物の定性・定量にはガスクロマトグラフ質量分析計や液体クロマトグラフ質量分析計などの高度で高価な分析機器が必要とされる(特許文献1ないし特許文献4)。これらの手法は、精密分析や多成分の一斉分析には有効で、信頼性の高い結果を得ることができる。しかし、専門的な知識を必要とする他、ランニングコストが高く、前処理を含めた分析時間も長いため、膨大な検体数の処理には適してはいない。また、本質的に可搬型の装置ではないため、現場での分析には適しておらず、水際での監視に適応させることができない。
【0005】
上記のような機器分析法における課題に対して、高価な分析機器を用いない安価で簡便な測定方法として赤外分光法とイムノアッセイがある。赤外分光法は、現場分析法としては有効な方法で、簡便で、かつ使用する機器もさほど高価ではない。特許文献5には、農作物の集荷場において使用される、選別器、農薬判定装置の例が開示されている。この方法では、蓄積された赤外吸収スペクトルを基にコンピュータ解析により判定を行っている。しかしながら、赤外分光法は選択性が乏しく、特許文献4にも記されているように、脂質やタンパク質などの吸収も強くあり、これらによる妨害もある。従って、使用する農薬が特定されている場合には有効であると考えられるが、不特定な農薬などのスクリーニングにおいては夾雑物による妨害を無視することができない。
【0006】
一方、イムノアッセイは、抗原抗体反応を利用した分析方法である。一般に、特定の酵素で標識した抗原と試料中の非標識抗原とを、抗体との競合反応をさせ、抗原抗体錯体を沈殿させて非結合型抗原を分離し、抗体と結合した標識抗原量を測定することにより試料中の抗原物質の量を求めるといった方法がとられる。この方法は、特異性が高く、検出感度も高いため、微量分析に利用されている。また操作も簡便で専門的知識も不要であり、測定時間も数時間以内であるため、スクリーニング手法として有効な分析方法である。農薬などの有害物質に適用された例が特許文献6ないし特許文献9に開示されている。残留農薬分析用のイムノアッセイキットは既に幾種類が市販されており、現場分析としても利用されている。しかしながら、適切な抗原の種類が少ないため、測定対象農薬の種類が限定される。特に、低分子量の化合物に関しては適切な抗原が少なく、対応しにくいとされている。そのため、イムノアッセイ法で対応しにくい農薬に関して、新規なスクリーニング方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−155657号公報
【特許文献2】特開2006−242825号公報
【特許文献3】特開2006−78419号公報
【特許文献4】特開2004−340627号公報
【特許文献5】特開2007−101186号公報
【特許文献6】特開2005−194238号公報
【特許文献7】特開2004−333130号公報
【特許文献8】特開2007−68531号公報
【特許文献9】特表2007−531862号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】厚生労働省、食安発第0124001号、平成17年1月24日付通知
【非特許文献2】厚生労働省、食安発第1129002号、平成17年11月29日付通知
【非特許文献3】厚生省、衛化第43号、平成9年4月8日付通知
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、測定対象化合物に選択性を示す吸着剤に被検溶液中の農薬などを抽出・濃縮・固定し、農薬などを吸着剤表面に固定した状態のまま蛍光法あるいは化学発光法により検出を行うといった、簡便かつ迅速で、ランニングコストが低く、環境負荷の小さい農薬および添加物のスクリーニング方法およびその測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、測定対象化合物に対して選択性を示す吸着剤が充てんされた2mL以下の小容量のカラム(一般に、「固相抽出カートリッジ」と呼ばれる)に被検溶液を通過させ、吸着剤表面に被検溶液中の測定対象化合物を吸着・濃縮させた後、測定対象化合物を吸着剤から脱離させることなく、測定対象化合物を吸着剤表面に固定した状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、その発光量から測定対象化合物の濃度を求めることにより、簡便かつ迅速に農薬および添加物のスクリーニングが行えることを見出した。
【0011】
本発明においては、測定対象化合物が、蛍光性あるいは化学発光性の農薬及び添加物として用いられる化合物であり、該測定対象化合物を吸着剤表面に固定させた状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、その発光量から測定対象化合物の濃度を求める。
【0012】
本発明においては、測定対象化合物が、非蛍光性あるいは非化学発光性の農薬及び添加物として用いられる化合物であり、適切な誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物とすることが可能な化合物であれば、同様に吸着剤表面に吸着・固定した状態で測定対象化合物を蛍光あるいは化学発光誘導体化を行った後、生成した誘導体を吸着剤表面に吸着・固定した状態のまま吸着剤から脱離させることなく、蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、その発光量から測定対象化合物の濃度を求める。
【0013】
本発明において用いられる吸着・濃縮用の吸着剤は、疎水官能基とイオン交換基を併せ持つ吸着剤であり、複合された吸着機構により測定対象化合物の選択的吸着・濃縮を行う。
【0014】
また、本発明において用いられる吸着・濃縮用の吸着剤は、親水性相互作用を発現させることが可能な親水性官能基とイオン交換基を併せ持つ吸着剤であり、複合された吸着機構により測定対象化合物の選択的吸着・濃縮を行う。
【0015】
本発明において、小容量のカラムの吸着剤が充てんされる部分は、光透過性、かつ蛍光性あるいは化学発光性のない、あるいは極めて低い材質により構成され、蛍光法あるいは化学発光法によって発光した光が透過するようになっており、また、その形状が円筒状あるいは角形の筒状であり、かつ上下に液の出入り口を有する形状のものである。
【0016】
本発明の農薬および添加物などのスクリーニングを簡便に実施させることを可能とする装置は、1)測定対象化合物を吸着・濃縮する吸着剤を充てんした2mL以下の小容量のカラムを装着することができる試料室と、2)誘導体化試薬および洗浄液を送液するポンプシステムと、3)励起光を照射する光源および光学系、あるいは化学発光試薬を送液するポンプシステムと、4)小容量のカラムからの蛍光あるいは化学発光の発光量を検出する検出器と、5)得られた蛍光あるいは化学発光の光量から測定対象化合物の濃度を計算する演算回路とを具備する、可搬型の農薬および添加物のスクリーニング装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、食品や飼料あるいは環境中の農薬および添加物などを簡便かつ迅速に高感度測定することが可能である。本発明のスクリーニング方法および可搬型のスクリーニング装置を用いることにより、オンサイトで微量の残留農薬や添加物・混入物の測定が可能となるため、流通サイクルに適応した測定が可能となる。本発明のスクリーニング法は、既存の農薬などすべてに適応できるわけではないが、測定対象化合物の構造や官能基毎にグルーピングされた結果が得られるため、多くの農薬や添加物などのスクリーニングに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は食品中の残留農薬迅速分析法の操作フローを示した説明図である。
【図2】図2は小容量のカラム(固相抽出カートリッジ)の構成の一例を示した説明図である。
【図3】図3は小容量のカラム(固相抽出カートリッジ)の異なる構成の一例を示した説明図である。
【図4】図4は本発明のスクリーニング装置における蛍光検出法に用いる試料部および検出部の基本構成を示した説明図である。
【図5】図5は本発明のスクリーニング装置における化学発光検出法に用いる試料部および検出部の基本構成を示した説明図である。
【図6】図6は本発明の方法を用いるための前処理操作フローを示した説明図である。
【図7】図7は本発明のスクリーニング方法を用いるための注射筒を用いた手動前処理操作の一例を示した図である。
【図8】図8は本発明のスクリーニング方法用いるための送液ポンプを用いた前処理操作の一例を示した図である。
【図9】図9は本発明のスクリーニング方法用いるための吸引マニュホールドを用いた前処理操作の一例を示した図である。
【図10】図10は本発明のスクリーニング方法における検出操作フローを示した説明図である。
【図11】図11は蛍光検出を用いる場合の基本操作手順を示した説明図である。
【図12】図12は化学発光検出を用いる場合の基本操作手順を示した説明図である。
【図13】図13は疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いて捕捉させたアミノ酸誘導体を化学発光法により検出した時の化学発光プロファイルを示したものである。
【図14】図14は親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いて捕捉させた抗生物質を蛍光法により検出した時の蛍光プロファイルを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、測定対象化合物に対して選択性を示す吸着剤を充てんした小容量のカラムに予備抽出処理を行った被検溶液を通液し、吸着剤表面に被検溶液中の測定対象化合物を吸着・濃縮させた後、測定対象化合物を吸着剤から脱離させることなく、測定対象化合物を吸着剤表面に固定した状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、発光量から測定対象化合物の濃度を求める、簡便かつ迅速な農薬および添加物のスクリーニング方法である。
【0020】
本発明において、吸着剤で吸着した測定対象化合物は、吸着剤表面に吸着・固定された状態のまま、吸着剤から溶出されることなく、蛍光法あるいは化学発光法により検出される。蛍光法は、測定対象化合物またはその誘導体を光により励起し、基底状態に戻る過程に生じる物質固有の波長の光(蛍光)を検出するものである。一方、化学発光法は、測定対象化合物またはその誘導体を化学反応によって励起させ、基底状態に戻る際に出る発光を検出するものであり、一般に、酸化反応などを利用して励起させることが多い。蛍光法および化学発光法は選択性の高い検出法であるため、夾雑物の影響を受けずに検出することが可能である。また、これらの検出法は発光検出法であり、バックグランドがないところからの発光量を検出するため高感度検出が可能となる。
【0021】
本発明において、直接測定が可能な測定対象化合物は蛍光性あるいは化学発光性の化合物である。一般に、蛍光性化合物であれば、化学発光法で測定可能である。蛍光性を示す農薬および添加物などの例としては、ベノミル、カルベンダジム、チアベンダゾール、フベリダゾールなどのベンゾイミダゾール系防かび剤・殺菌剤のほか、オキソリニック酸、パラコート、オルトフェニルフェノール(OPP)、ジフェニル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ビタミンEなどがあげられる。これらの化合物を測定対象化合物に対して選択的な吸着剤表面に吸着・固定させて、蛍光法あるいは化学発光法により検出することで、抽出と検出の二つの工程で選択性を持たせることができるため、夾雑物の妨害を受けにくい高感度検出が可能となる。
【0022】
また、本発明においては、非蛍光性あるいは非化学発光性の化合物であっても、適切な誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物を生成する化合物であれば検出することが可能である。誘導体化試薬との反応により蛍光性の化合物となる化合物を吸着剤表面に吸着・固定させた後、吸着剤表面に固定させたまま適切な誘導体化試薬を用いて蛍光性化合物に誘導した後、前記と同様に蛍光法あるいは化学発光法により検出する。一般に、蛍光誘導体化は、アミノ基(イミノ基)、チオール基、ヒドロキシル基、カルボニル基などを利用して行われるが、農薬などにはこれらの官能基を有する化合物が多いため、これらの官能基を利用して誘導体化を行う。誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物となるアミノ基(イミノ基)を有する農薬・添加物などの例としては、ジクロラン、アシュラム、イボテン酸、ペンディメタリン、アミノ酸類などがあげられる。また、誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性の化合物となるチオール基を有する農薬・添加物などの例としては、L−システインがあげられる。さらに、誘導体化試薬との反応により蛍光性の化合物となるヒドロキシル基を有する農薬・添加物などの例としては、デルフィニン、クロルプロピレート、クロレトン、カルシフェロールなどが、カルボニル基を有する農薬・添加物などの例としては、クロフェナック、ディノベン、MDBA、クロプロップなどがあげられる。
【0023】
誘導体化試薬としては公知のものを使用することができる。誘導体化試薬は、測定対象化合物の特性に応じて選択されるものであるため、特に規定するものではないが、一般には、アミノ基(イミノ基)、チオール基、ヒドロキシル基、カルボニル基などの反応性の高い官能基に反応させる。これらの官能基のうち、アミノ基(イミノ基)を用いて蛍光誘導体化する試薬が多数開発されている。但し、本発明においては、誘導体化後に吸着剤との相互作用が極端に低減してしまうような誘導体を生成する誘導体化試薬を使用することはできない。例えば、疎水性相互作用とイオン交換相互作用を有する吸着剤を用いる場合においては、疎水性あるいはイオン性の極端な低下が生じてしまうと、誘導体化反応中あるいは過剰試薬の洗浄中、さらには化学発光試薬の送液中に吸着剤から脱離してしまい測定することができなくなる。また、有機溶媒にしか溶けない誘導体化試薬を用いると、吸着剤と測定対象化合物との疎水性相互作用が弱まるため、このような誘導体化試薬を用いることはできない。このことは、親水性相互作用とイオン交換相互作用を有する吸着剤を用いる場合においても基本的に同じであり、誘導体化により極性あるいはイオン性の極端な低下が生じてしまうと吸着剤から脱離してしまうため、測定対象化合物を本発明の方法により測定することはできなくなる。
【0024】
本発明において使用されうるアミノ基を利用する誘導体化試薬としては、オルトフタルアルデヒド、フルオレサミン、ダンシルクロリド、ダブシルクロリド、4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン(NBD−F)、4−クロロ−7−ニトロベンゾフラザン(NBD−Cl)、などがあげられる。また、本発明において使用されうるチオール基を利用する誘導体化試薬としては、N−ピロロイソマレイイミド、N−(4−アニリノフェニル)マレイミド、N−(7−ジメチルアミノ−4−メチルクマリニル)マレイミドのようなN−置換マレイミド基を有する試薬があげられる。ヒドロキシル基を利用する誘導体化試薬としては、ピレン−1−カルボニルシアニド、アントラセン−1−カルボニルシアニドのようなカルボニルシアニド基を有する試薬やピレン−1−カルボニルアジドのようなカルボニルアジド基を有する試薬が使用しうる。さらに、本発明において使用されうるカルボニル基を利用する誘導体化試薬としては、ダンシルヒドラジンなどのようなビドラジノ基を有する試薬や2−アミノ−4,5−ジメトキシチオフェノールなどがあげられる。
【0025】
本発明において使用される吸着剤は、いわゆる固相抽出剤と基本的に同じである。固相抽出法は、測定対象化合物と固相となる吸着剤との親和性を利用した物理的抽出法である。旧来より行われてきた有機溶媒への分配を利用する溶媒抽出法(液−液抽出法)に比べ、抽出効率が高い、再現性がよい、安全である、ランニングコストが低いなどといった特長があると共に、環境汚染物質とされるハロゲン系溶媒などを使用することなく、かつ使用する有機溶媒も少量であるといった環境対応手法であるため、近年広く普及してきている。また、溶媒抽出法では水と混和する溶媒(例えば、アルコール類など)を用いて抽出することはできないが、固相抽出剤は不溶性であるため、高極性の吸着剤を用いて水溶液中の有機化合物の抽出が可能である。固相抽出法における抽出機構としては、順相分配、逆相分配、イオン交換、錯形成などが用いられるが、最も広く使用されている抽出機構は逆相分配である。逆相分配用の固相抽出剤としては、シリカゲルにアルキルシラン化合物を用いてアルキル基を導入したアルキル基化学結合型シリカゲルがある。代表的なものとしては、オクタデシル基を導入したオクタデシルシリカ(ODS)がある。また、ポリスチレンゲルやポリメタクリレート系ゲルなどの高分子系の固相抽出剤も広く用いられている。これらの固相抽出剤では、アルキル基や芳香環などとの疎水性相互作用に基づいて被検溶液中の有機化合物の抽出を行う。これらの逆相分配機構を利用した固相抽出剤は、農薬や添加物などの前処理にも広く利用されているが、高極性化合物の抽出においては必ずしも有効であるとはいえない。特にイオン性官能基を有する有機化合物を抽出する場合には、回収率や再現性の低下が問題となっている。
【0026】
本発明においては、固相抽出剤と同様の抽出機能を利用して被検溶液から測定対象化合物を抽出するが、固相抽出法のように、固相抽出剤から溶出させる必要はない。従って、一般的な固相抽出剤よりも測定対象化合物に対する吸着特性の高い吸着剤が用いられる。但し、測定対象化合物を吸着剤表面に吸着・固定したまま誘導体化反応を行う必要もあるため、誘導体化の対象となる官能基を主吸着機構とする吸着・濃縮方法を用いることはできない。誘導体化の対象となる官能基としては、アミノ基(イミノ基)、チオール基、ヒドロキシル基、カルボニル基などであるため、これらの官能基を阻害しない吸着機構を用いる。一般に、アミノ基(イミノ基)に関する誘導体化試薬を適用する場合、アミノ基(イミノ基)を認識するような吸着機構、例えば、陽イオン交換相互作用は好ましくはない。但し、アミノ基(イミノ基)を複数持つ化合物の場合には、すべてのアミノ基(イミノ基)が吸着機構に関与するわけではないため、陽イオン交換相互作用も利用することが可能である。
【0027】
本発明において使用される吸着剤の一つ形態は、疎水官能基とイオン交換基とを併せ持つ吸着剤である。一般に、農薬や添加剤は、疎水性の骨格にイオン交換基や極性基が導入されたものが多い。このような化合物を逆相分配機構だけで抽出した場合、不要な夾雑物を洗浄する工程で溶離してしまう恐れがある。そのため、本発明では複数の相互作用が組み合わされた複合吸着機構により測定対象化合物を保持させる。吸着機構の組み合わせとしては種々可能であるが、最も有効である組み合わせは、疎水性相互作用とイオン交換相互作用との組み合わせである。一般に、イオン性の官能基を有する化合物をイオン交換相互作用によって吸着させると、測定対象化合物の親水性が低下して見掛けの疎水性が増加する。この時、吸着剤中に疎水性相互作用を明確に示す官能基があれば、疎水性相互作用との複合作用によって吸着剤に強く保持させることが可能となる。従って、本発明においては、疎水性相互作用とイオン交換相互作用とを組み合わせた吸着機構を示す吸着剤を用いる。このような組み合わせを用いることにより、測定対象化合物が抽出・吸着された吸着剤を、有機溶媒で洗浄しても、あるいは緩衝液で洗浄しても、測定対象化合物は容易に溶出されることなく吸着剤に固定されたままとなる。疎水性相互作用と組み合わせるイオン交換相互作用としては、陽イオン交換相互作用あるいは陰イオン交換相互作用のいずれも使用することが可能である。農薬や添加物にはアミノ基(イミノ基)を有する化合物が多数あるため、陽イオン交換相互作用が有効ではあるが、誘導体化を考慮すると、アミノ基(イミノ基)が阻害されない吸着機構を用いなければならない。そこで、陰イオン性の官能基であるカルボキシル基、スルホ基、ホスホ基などを利用して陰イオン交換相互作用により吸着を行うことが好ましい。
【0028】
疎水性官能基とイオン交換性官能基とを併せ持つ吸着剤(固相抽出剤)の例としては特表2002-517574号公報に開示されているが、当該特許文献ではジビニルベンゼンの重合体からなる疎水性樹脂の芳香環にクロロメチル基を導入後、アミンと反応させてイオン交換基を導入するものである。本発明においては、測定対象化合物の疎水性官能基とイオン性官能基を認識させて吸着・固定させるものであるため、当該特許文献記載の吸着剤も使用することが可能であると考えられる。しかしながら、イオン性官能基の周囲には多くの水分子が結合しており高い親水性を示すため、吸着剤のイオン交換基は疎水性部位に結合させるよりも、親水性を示す部位に結合させたほうが明確にイオン交換相互作用を発現し、測定対象化合物のイオン性官能基を認識しやすくなる。従って、本発明においては、反応性官能基を有する親水性のビニルモノマーとビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーとをこれらビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒の存在下で、水系懸濁重合法により得られる多孔質の架橋性高分子担体に二次的な反応によりイオン交換基を導入したものを用いる。
【0029】
疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤を作る場合、イオン交換基のために導入するアミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーとビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーとの共重合により、架橋性高分子担体を得ることができる。アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの官能基としては、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基などがあげられる。ハロゲン化アルキル基を有する親水性の反応性モノマーとしては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレートなどがあげられる。エポキシ基を有する親水性の反応性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどがあげられる。これらモノマーと共重合が可能なビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族架橋性モノマーを用いることができる。得られる架橋性高分子担体の疎水性および特性は疎水性の架橋性モノマーの量に依存するが、架橋性の高分子担体が十分な硬度を有する場合には、ビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーの一部をビニル基が1個の疎水性のビニルモノマーに置き換えることができる。ビニル基が1個の疎水性のビニルモノマーとしては、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、オクチルメタクリレート、フェニルメタクリレートなどがあげられる。また、濡れ性や水素結合性などの架橋性高分子担体の物性を改善するために、他のビニルモノマーを添加することも可能である。
【0030】
本発明の疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤において最も重要な点は、疎水性官能基の量と親水性ビニルモノマーに導入されるイオン交換基の量およびそのバランスである。疎水性を示すビニルモノマーの量は、全ビニルモノマーに対して60〜90重量%、好ましくは70〜90重量%である。また、吸着剤としての十分な硬度を確保するためには、ビニル基を2個以上有する疎水性の架橋性モノマーは少なくとも30重量%以上用いる。イオン交換容量はアミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの量とその反応性に依存するものであり、本発明においては最終的に0.1〜1meq/g、好ましくは0.2〜0.8meq/gのイオン交換容量の吸着剤を必要とする。従って、アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの量は全ビニルモノマーに対して40〜10重量%、好ましくは30〜10重量%である。また、架橋性高分子担体の濡れ性や水素結合性を改善のために添加される他のビニルモノマーとしては、水酸基を有するビニルモノマー、アミド基を有するビニルモノマー、シアヌル酸基を有するビニルモノマーなどがあげられるが、これらのビニルモノマーを多量に混合すると吸着剤の疎水性が低下してしまうため、その添加量は全ビニルモノマーに対して10重量%以下で用いる。
【0031】
本発明においては、高い吸着能が要求されるため、十分な比表面積を有する多孔質の高分子担体が必要となる。そのため、ビニルモノマーの共重合時に、ビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒を存在させて共重合を行う。細孔調節剤は生成した高分子を多孔質にすると共に、比表面積を大きくするために必要なものであり、細孔調節剤の種類と量により細孔径および比表面積を調節する。細孔調節剤は、使用するモノマーの物性により適宜選択されるものであるが、一般的に、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸ブチル、フタル酸ジメチルなどのエステル類、アミルアルコール、オクチルアルコールなどの水と混和しにくいアルコール類、オクタン、ドデカンなどのパラフィン類が使用される。これら細孔調節剤の使用量が少なすぎると十分な細孔径および比表面積を得るとことはできない。一方、細孔調節剤の量が多すぎる場合には、細孔径が大きくなり過ぎて比表面積が小さくなると共に機械的強度が低下する、さらには、水系懸濁重合時に粒子が形成されないなどの問題が生じる。従って、重合性モノマー100重量部に対して30〜200重量部、好ましくは80〜200重量部の範囲で使用する。多孔質の架橋性高分子担体の細孔径、比表面積は吸着対象成分や共存成分の特性にも依存するが、本発明においては、非膨潤時の細孔物性として、平均細孔径4〜50nm、比表面積100〜1000m2/gのものを用いるのが好ましい。
【0032】
前記反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体への陰イオン交換基の導入は、導入目的のアミンを、水、アルコール、ジメチルホルムアミドなどあるいはそれらの混合溶媒中に溶解し、反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体を分散させて、攪拌しながら、室温〜80℃で、3〜24時間の反応により陰イオン交換基を導入することができる。導入するアミンに関しては特に規定しないが、その解離性を考慮すると、二級あるいは三級の低分子アミンを用いることが好ましい。例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチル−2−アミノエタノールなどの二級アミン、トリチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチル−2−アミノエタノールなどの三級アミンが用いられる。
【0033】
本発明において使用される吸着剤のもう一つ形態は、親水性相互作用を発現させることが可能な親水性官能基とイオン交換基とを併せ持つ吸着剤である。親水性相互作用とは、吸着剤の親水基と測定対象化合物との間の極性や水素結合に基づく相互作用、吸着剤に保持された水相への分配などに基づく複数の相互作用の総合的な表現である。親水性相互作用はHILIC(ヒリック)と呼ばれ、近年、この保持機構を利用した高速液体クロマトグラフィー用の分離剤が市販されている。これらの分離剤では、極性有機溶媒中に存在する極性化合物を保持・分離することが可能である。この保持機構を利用することで、極性有機溶媒で予備抽出した高極性の測定対象化合物を抽出することが可能である。しかしながら、親水性相互作用を用いて極性の高い測定対象成分保持させる場合、被検溶液中に水が含まれると保持が弱くなるという問題があるため、本発明においてはイオン交換相互作用と組み合わせた吸着機構を用いる。
【0034】
親水性相互作用と組み合わせるイオン交換相互作用としては、陽イオン交換相互作用と陰イオン交換相互作用のいずれも使用することが可能であるが、前述のように、陰イオン交換相互作用のほうが好ましい。親水性化合物に存在するカルボキシル基、スルホ基、ホスホ基などは、親水性相互作用による吸着剤への保持を増強するものであり、かつイオン交換相互作用を明確に発現する官能基であるため、親水性相互作用との複合作用によって吸着剤に強く保持させることが可能である。従って、本発明においては、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用との組み合わせを用いる。
【0035】
親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤は、アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーとビニル基を2個以上のビニル基を2個以上有する親水性の架橋性モノマーとの共重合により、架橋性高分子担体を合成し、この架橋性高分子担体に適切な二級アミンを導入後、導入された三級アンモニウム基に反応し、スルホ基を導入できる化合物を反応させ、水和性の高いベタイン構造を有する吸着剤を製造する。この時、三級アンモニウム基に反応し、スルホ基を導入できる化合物の反応は等量反応ではないため、反応試薬量や反応条件を調節して導入量を制御することで、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤を製造することができる。
【0036】
アミンと反応する官能基を有する親水性のビニルモノマーの官能基としては、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基などがあげられる。ハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーとしては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレートなどがあげられる。エポキシ基を有する官能性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどがあげられる。これらモノマーと共重合が可能なビニル基を2個以上有する親水性の架橋性モノマーとしては、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレートなどの多官能メタクリレート系モノマー、エチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレートなどのシアヌル酸骨格を持つ架橋性モノマーなどがあげられる。また、架橋性高分子担体の親水性や水素結合性などの物性を改善するために、第三のビニルモノマーを添加することも可能である。物性改善のためのビニルモノマーとしては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、モルホリノアクリルアミドなどのアミド系モノマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリンメタクリレート、ネオペンチルグリコールメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレートなどのメタクリレートモノマー、さらにはN−ビニルピロリドンなどがあげられる。また、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのように陰イオン交換性を示すビニルモノマーを添加することも可能である。
【0037】
本発明の親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤において、アミンと反応する官能基を有するビニルモノマーの量は、全ビニルモノマーに対して20〜70重量%、好ましくは30〜60重量%であり、十分な硬度を確保するためにビニル基を2個以上有する親水性の架橋性モノマーは少なくとも30重量%以上用いる。また、架橋性高分子担体の親水性や水素結合性などの物性を改善するために添加される他のビニルモノマーは、0〜20重量%で用いるのが好ましい。
【0038】
本発明においては、高い吸着能が要求されるため、十分な比表面積を有する多孔質の高分子担体が必要となる。そのため、ビニルモノマーの共重合時に、ビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒を存在させて共重合を行う。細孔調節剤は、使用するモノマーの物性により適宜選択されるものであるが、一般的に、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸ブチル、フタル酸ジメチルなどのエステル類、アミルアルコール、オクチルアルコールなどの水と混和しにくいアルコール類、オクタン、ドデカンなどのパラフィン類が使用され、重合性モノマー100重量部に対して30〜200重量部、好ましくは80〜200重量部の範囲で使用する。多孔質の架橋性高分子担体の細孔径、比表面積は吸着対象成分や共存成分の特性にも依存するが、本発明においては、非膨潤時の細孔物性として、平均細孔径4〜50nm、比表面積100〜1000m2/gのものを用いるのが好ましい。
【0039】
前記反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体と二級アミンとの反応は、上述した陰イオン交換基の導入と同様の方法により行われる。すなわち、導入目的の二級アミンを、水、アルコール、ジメチルホルムアミドなどあるいはそれらの混合溶媒中に溶解し、反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体を分散させて、攪拌しながら、室温〜80℃で、3〜24時間の反応により三級アンモニウム基を導入することができる。導入する二級アミンに関しては特に規定しないが、その疎水性や反応性を考慮すると、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどのアルキル基が小さい二級アミンを用いるのが好ましい。
【0040】
架橋性高分子担体に導入された三級アンモニウム基へのスルホ基の導入は、以下のいずれかの方法により行われる。
(i)三級アンモニウム基が導入された架橋性高分子担体を適切なアルカリ溶液に分散し、2−ブロモエタンスルホン酸などのハロゲン化アルキルスルホン酸を加え、攪拌しながら、40〜80℃で3〜8時間反応させる。
(ii)三級アンモニウム基が導入された架橋性高分子担体を十分に乾燥後、脱水したアセトンなどの適切な溶媒中に分散し、プロパンスルトンを加えて、攪拌しながら、室温〜50℃で3〜8時間反応させる。
上記の反応により、水和性の高いスルホベタイン基を持つ親水性相互作用を示す吸着剤を合成することができる。この時、このスルホ基を導入する反応は等量反応ではないため、三級アンモニウム基が導入された架橋性高分子担体中に未反応の三級アンモニウム基が残存することとなり、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用とを併せ持つ吸着剤得ることができる。尚、スルホ基の導入量、即ち三級アンモニウム基の残存量は、スルホ基の導入反応条件(試薬量、試薬濃度、反応温度など)により調整する。
【0041】
本発明において用いられる吸着剤は、円筒状あるいは角形の筒状の小容量のカラムに充てんされて用いられる。図2に本発明の小容量のカラム1の構造を示す。本発明の吸着剤1aは、下部フリット1eが挿入されているエンプティカラムボディ1bに充てんされ、上部フリット1dを挿入した後、エンプティカラムキャップ1cが挿入されて固定される。エンプティカラムボディ1bは、吸着剤1aに抽出・固定された測定対象化合物からの発光を透過させる必要があるため、光透過性の材質でなければならない。材質そのものは特に限定しないが、使用可能な材質としては、ガラス、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、透明塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フッ素樹脂などを使用することができる。実際には、検出する光の波長や使用溶媒への耐性などを考慮して選択される。光透過性を重視して選択するならば、300nmにおける光線透過率として75%以上であり,全光線透過率が85%以上である材質が好ましく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)が好ましい。また、光透過性の高い材料で下部接続部と一体型でエンプティカラムボディ1bを作製しにくい場合には、図3に示すように、ボディ2b(図3)を分離した形状とし、この部分だけ光透過性の高い材質を用いて作製しても良い。なお、図3において、2a〜2gは図2の1a〜1gに対応し、2hはエンプティカラム下部キャップである。
ここで、「小容量」とは、測定対象化合物を吸着するための吸着剤を充填可能な空間の容積が2mL以下であることを示す。本法では、選択性の高い吸着剤を用いて吸着剤充填ベッドの先端に吸着・濃縮させた後、蛍光あるいは化学発光検出を行うものであるため、測定対象成分が破過せずに確実に吸着できる量の吸着剤が充填できる容積を持つカラムを使用すればよい。吸着剤充填部分の容積が2mLの場合、最大で約1gのポリマー系固相抽出剤を充填可能であるが、これ以上の吸着剤量を用いても吸着に全く関与しない吸着剤が増加するだけである。さらに、カラムの容量が大きくなれば、洗浄液、誘導体化および化学発光試薬の量が多く必要となるなどから、容量は2mL以下にすることが好ましい。先端吸着・濃縮が可能な選択性吸着剤を用いれば、吸着剤量が20〜200mgで検出に必要な量の測定対象化合物を吸着させることが可能である。この範囲で小容量カラムの吸着剤充填部分の容積は、0.05〜0.5mLとなる。
【0042】
本発明は、農薬および添加物を簡便に測定することが可能なスクリーニング方法を提供すると共に、スクリーニングを簡便かつ正確に行うための可搬型のスクリーニング装置も合わせて提供するものである。スクリーニング装置は、1)測定対象化合物を吸着・濃縮する吸着剤を充てんした2mL以下の小容量のカラムを装着することができる試料室と、2)誘導体化試薬および洗浄液を送液するポンプシステムと、3)励起光を照射する光源および光学系、あるいは化学発光試薬を送液するポンプシステムと、4)小容量のカラムからの蛍光あるいは化学発光の光量を検出する検出器と、5)測定対象化合物から発せられた光量から測定対象化合物の濃度を計算する演算回路とを具備する、可搬型の農薬および添加物のスクリーニング装置である。
【0043】
図4および図5に、本発明のスクリーニング装置の試料部および検出部の基本的な構成を示す。図4は蛍光検出法、図5は化学発光検出法における試料部および検出部の構成である。測定対象化合物を吸着剤表面に固定した小容量のカラム1は、図4あるいは図5に示す装置の試料室11にセットされ、それぞれ蛍光法あるいは化学発光法により発光された光量が検出される。測定対象化合物を吸着剤表面に固定した小容量のカラム1は、試料室11の上部コネクタ21および下部コネクタ23の間に挟まれセットされる。小容量のカラム1の上部に光ファイバ33が挿入され、光源31からの光(励起光)が照射される。一般に、蛍光検出における励起光は200〜400nmの光が用いられ、光源ランプとしてはキセノンランプや水銀ランプが用いられている。本発明においては、可搬型の装置であり、取扱いの容易なLEDや水銀ランプを用いるのが望ましい。特に、光源用電源に係わる種々の課題を低減するためには、LEDを用いることが好ましい。しかしながら、LEDは広範囲の光をだしているため、必要に応じて光源31には上下の光をカットするためのカットオフフィルタを装着することもある。励起光の照射と同時にシャッタスイッチ15によりシャッタ14が開かれ、生じた蛍光は励起光カットのためのカットオフフィルタ13を透過し、フォトダイオードあるいはフォトマルチプライアからなり、検出器ホルダ17で保持された検出器16で検出され、検出信号線18を経由して、演算器(図示せず)に送られ濃度に換算される。なお、図中12は受光室、22は接続継ぎ手、32は集光レンズである。化学発光法により検出する場合の装置の構成の一例を図5に示す。化学発光法の場合も機器の構成はほぼ同じであるが、化学発光試薬のみによるバックグラウンド発光を除去するため、カットオフフィルタ13の必要な場合も生じる。また、光励起ではないため、光源31や光ファイバ33は不要であり、その代わり送液ポンプ(図示せず)により試薬導入管34を介して化学発光試薬が送液され、その時の発光量を蛍光法と同様に検出し、濃度に換算する。
【0044】
ここで、本発明におけるスクリーニング方法の具体的な手順を説明する。まず基本的な前処理の操作手順であるが、本法はスクリーニング法であるため、前処理は機器分析法の場合に比べ簡便にすることが可能であると共に、測定現場でも対応可能なレベルに簡便化することができる。本法の基本的前処理操作手順のフローを図6に示す。基本的には、予備抽出→除蛋白→遠心分離→小容量のカラムに負荷の4工程である。必要に応じて予備抽出後に希釈・ろ過、遠心分離後にろ過・液性調整を行う。
【0045】
吸着剤が充てんされた小容量のカラムへの被検溶液の負荷は、図7に示すように、適切な容量を持つ注射筒41などを用いて行うことができる。被検溶液を吸着剤が充てんされた小容量のカラムに通過させることにより測定対象化合物の吸着剤への吸着・固定を行った後、不要な夾雑物の洗浄を行う。洗浄液としては、測定対象化合物が吸着剤から溶出しないものであれば如何なるものも使用することができる。一般に、有機物の除去には、メタノールなどのアルコール類やアセトニトリルを用いることができる。また、塩類が残存する場合には純水を用いて洗浄を行う。但し、親水性相互作用を基本とした抽出機構の場合には、純水100%となると保持させた測定対象化合物が溶出しやすくなるため、アルコール類やアセトニトリルなどの極性有機溶媒と水との混合溶媒を用いる。洗浄液の通液も図7に示すように注射筒41などを用いて行う。これらの試料負荷、洗浄の工程は、図8に示すようなペリスタリスティックポンプなどの適切な試料送液ポンプ42を用いる、あるいは、図9に示すような吸引マニュホールド47を用いて行うことも可能である。なお、図8において、43は試料溶液、44は洗浄溶液、45は配管、46は接続継ぎ手である。図9において、48は減圧ゲージ、49は圧力調整バルブ、50は吸引部継ぎ手、51は受器、52はコック、53はリザーバーである。また、既存の自動抽出装置、自動固相抽出装置などを用いることにより自動化することもできる。
【0046】
本発明においては、小容量のカラムに被検溶液中の測定対象化合物を抽出・濃縮・固定した後、本発明のスクリーニング装置に装着し、蛍光あるいは化学発光検出を行う。基本的な操作手順のフローを図10に示す。測定対象化合物の選択、そして蛍光法あるいは化学発光法の選択に応じてカットオフフィルタの選択を行う。また、測定対象化合物が蛍光性(あるいは化学発光性)かどうかにより、誘導体化反応を行うかどうかの選択を行う。測定対象化合物を蛍光法により検出する場合には小容量のカラムに励起光を照射する、化学発光法により検出する場合には化学発光試薬を通液して発する発光量を検出する。一方、蛍光性(あるいは化学発光性)でない場合には誘導体化試薬を通液して誘導体化を行い、その後、過剰の誘導体化試薬を洗浄後、同様に蛍光あるいは化学発光に基づく発光量を検出する。
【0047】
図11は、誘導体化を必要とする蛍光法によって測定する場合の装置構成を示した図である。測定対象化合物が抽出・濃縮・固定された小容量のカラム1は試料室11の上部コネクタ21および下部コネクタ23の間に挟まれセットされる。小容量のカラム1の上部に試薬導入管34が挿入され、送液ポンプ61により誘導体化試薬62が送液され、小容量のカラム1内で測定対象化合物の誘導体化反応が行われる。誘導体化反応終了後、過剰試薬の洗浄液63に切り替え、送液ポンプ61により送液して、小容量のカラム1内の過剰誘導体化試薬が洗浄される。洗浄終了後、廃液口24を閉じ、液の流出および光の入射を防ぐようにする。その後、小容量のカラム1の上部に試薬導入管34を取り外し、光ファイバ33を装着して、励起光源31からの光を照射すると同時に、シャッタ14を開き、発する蛍光の光量をフォトダイオードあるいはフォトマルチプライアでなる検出器16で検出し、検出された電気信号を演算部(図示せず)に送り、濃度を求める。この時、励起光の妨害がある場合には、カットオフフィルタ13を通して、検出器16に入るようにする。
【0048】
図12は、誘導体化を必要とする化学発光法によって測定する場合の装置構成を示した図である。誘導体化および過剰誘導体化試薬の洗浄の基本操作は蛍光法と同じである。測定対象化合物を誘導体化後、小容量のカラム1に化学発光試薬64を送液ポンプ61で送液すると同時に、シャッタ14を開き、発する化学発光の光量をフォトダイオードあるいはフォトマルチプライアでなる検出器16で検出し、検出された電気信号を演算部(図示せず)に送り、濃度を求める。尚、化学発光法の場合には、検出を行っている間は化学発光試薬64の送液を継続するため、廃液口24は閉じない。
【0049】
以上のように、本発明のスクリーニング法およびスクリーニング装置を用いることで、食品や飼料あるいは環境試料中の農薬および添加剤などを簡便にスクリーニングすることが可能となる。次に実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0050】
疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いたアミノ酸誘導体の化学発光検出
(1)疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を充填した小容量のカラムAの製造
架橋性高分子担体の合成は、水系懸濁重合法により行った。グリシジルメタクリレート30g、N,N−ジメチルアクリルアミド10g、ジビニルベンゼン160g、トルエン170gおよび1−ドデカノール30gの混合溶液に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解した混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液2,000mL中に加え、攪拌機を用いて攪拌羽根を450rpmで回転させ、油層を分散した。その後、分散液(懸濁液)を加温し、80℃で6時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、32〜90μmの架橋性高分子担体80gを得た。得られた架橋性高分子担体70gを、イソプロピルアルコール200mL、水800mLにN,N−ジメチルエチルアミン30gを溶解した溶液中に加え、40℃で6時間反応させて陰イオン交換基を導入した。反応終了後、水、メタノール、水の順で洗浄し、0.1Nの塩酸を用いて対イオンを交換した後、水で十分に洗浄した。その後、メタノールに置換して乾燥させ、疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を得た。この吸着剤の陰イオン交換容量を逆滴定法により求めたところ0.34meq/gであった。また、比表面積および平均細孔径は、それぞれ645m2/gおよび5.2nmであった。下部に接続部を持つ内径6mm、長さ25mmのシクロオレフィンポリマー(COP)製エンプティカラムボディの内部にポリエチレン製フィルタを挿入し、得られた吸着剤100mgを充填し、充填ベッド上部にもポリエチレン製フィルタを挿入し、上部に接続部を取り付け小容量のカラムAを作製した。
【0051】
(2)ダンシル化グリシンの化学発光検出
(1)で作製した小容量のカラムAを用いて、ダンシルグリシンの化学発光検出を試みた。(1)で作製した小容量のカラムAに、水10mL、メタノール10 mL、水10mL、0.1M水酸化ナトリウム水溶液10mL、水10mLの順で通液し、コンディショニングを行った。その後、水で調製した1μg/mLのダンシルグリシン溶液5mLを通液し、小容量のカラムAの吸着剤にダンシルグリシンを吸着させた。その後、小容量のカラムAに水5mLを通液して洗浄を行った。このダンシルグリシンが吸着した小容量のカラムAに、0.05Mのビス(2,4,6−トリクロロフェニル)オキザレート(TCPO)の酢酸エチル溶液0.1mLを加え、さらに30%過酸化水素水を、小容量のカラムAに吸着されたダンシルグリシンの化学発光検出を行った。化学発光に基づく信号が検出された後,再度TCPO混合溶液の注入を行った。得られた化学発光プロファイルを図13に示す。TCPO溶液を注入後、直ちに化学発光が検出され、吸着剤表面で化学発光が生じていることが確認できた。続けてTCPO溶液を注入した場合でも同じ強度の化学発光が検出され、良好な再現性を持って測定できることが確認された。この時、ダンシルグリシン溶液通液時の通過液及び洗浄液の蛍光測定を行ったが、ダンシルグリシンは検出されず、(1)で作製した疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤に強く捕捉されていることが確認された。
【実施例2】
【0052】
親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を用いた抗生物質の蛍光検出
(3)親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を充填した小容量のカラムBの製造
グリシジルメタクリレート100g、エチレンジメタクリレート80g、N,N−ジメチルアクリルアミド20gおよび酢酸ブチル120gの混合溶液に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gを溶解した混合物を、0.2%ポリビニルアルコール水溶液2、000mL中に加え、攪拌機を用いて攪拌羽根を230rpmで回転させ、油層を分散した。その後、分散液(懸濁液)を加温し、70℃で7時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、45〜90μmの架橋性高分子担体75gを得た。得られた架橋性高分子担体70gを、イソプロピルアルコール200mL、水800mLにジメチルアミン溶液(約50%水溶液)40mLを加えた溶液中に入れ、室温で6時間反応させて三級アンモニウム基を導入した。反応終了後、水、メタノールの順で洗浄し、乾燥させた。得られた樹脂粒子10gを、2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム15gを溶解した0.5M水酸化ナトリウム50mL溶液に加え、50℃で6時間重合反応を行った。反応終了後、水、メタノール、水の順で洗浄し、0.1Nの塩酸を用いて対イオンを交換し、水で十分に洗浄した。その後、メタノールに置換した後、乾燥させ、親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤を得た。この吸着剤のスルホン基量を滴定法により求めたところ0.27mmol/gであった。また、比表面積および平均細孔径は、それぞれ180m2/gおよび12.1nmであった。この吸着剤を、実施例1と同じのエンプティカラムに100mgを充填し、小容量のカラムBを作製した。
【0053】
(4)テトラサイクリン系抗生物質の蛍光検出
(3)で作製した小容量のカラムBを用いて、テトラサイクリンの蛍光検出を試みた。(3)で作製した小容量のカラムBに、水10mL、95%アセトニトリル−水10mLの順で通液し、コンディショニングを行った。その後、95%アセトニトリル−水で調製した0.01mg/mLのテトラサイクリン溶液1mLを通液し、小容量のカラムAの吸着剤にテトラサイクリンを吸着させた。その後、小容量のカラムBに95%アセトニトリル−水5mLを通液して洗浄を行った。このテトラサイクリンが吸着した小容量のカラムBに、LEDの光(波長:360nm)を出す照射し、直角方向からテトラサイクリンの蛍光を検出した。この時、LEDの励起光には400nm以下および600nm以上の光をカットするカットオフフィルタを装着した。また、蛍光側には400nm以下の光をカットするカットオフフィルタを装着し、蛍光を検出した。尚、励起光の照射は、15秒、10秒および10秒とし、同一カラムに3回照射を行った。得られた蛍光プロファイルを図14に示す。励起光照射時間に相当する時間だけ蛍光が検出され、吸着剤表面で蛍光が生じていることが確認できた。続けて励起光を照射した場合でも、同じ強度の蛍光が、照射時間に相当する時間だけ検出された。また、テトラサイクリン溶液通液時の通過液及び洗浄液の蛍光分光光度計を用いて蛍光測定を行ったが、テトラサイクリンは検出されず、(3)で作製した親水性相互作用と陰イオン交換相互作用を有する吸着剤に強く捕捉されていることが確認された。
【0054】
(5)蜂蜜中のテトラサイクリンの検出
(4)の結果を基に蜂蜜中のテトラサイクリンの測定を試みた。蜂蜜5gにアセトニトリル10mLを加え、5分間激しく攪拌し、その後10min間放置した。上澄をとり、(4)と同様の方法で、蜂蜜中に残存するテトラサイクリンを測定した。この時、蜂蜜に1μgのテトラサイクリンを添加した試料も調製し、(4)と同様の方法で添加回収率を調べた。ここで使用した蜂蜜中からはテトラサイクリンは検出されなかったが、添加回収率は75〜100%と良好な結果を与えた。この結果から、被検試料中の夾雑物の影響を受けずに選択的にテトラサイクリンを検出することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、高価で専門的知識が必要な分析機器を用いることなく、簡便かつ迅速な方法で、食品や飼料あるいは環境中の農薬および添加物などを高感度に測定することが可能である。本発明のスクリーニング方法およびスクリーニング装置を用いることにより、オンサイトで微量の残留農薬や添加物・混入物の測定が可能となるため、流通サイクルに適応した分析時間で、多検体を測定するが可能となる。本発明のスクリーニング法は、既存の農薬などすべてに適応できるわけではないが、測定対象化合物の構造や官能基毎にグルーピングされた結果が得られるため、多くの農薬や添加物などのスクリーニングに適用可能である。さらには、既存のイムノアッセイ法との併用により、測定対象化合物の拡大も可能である。また、本発明の測定法はスクリーニング法であるため若干の正誤差を含む可能性があるが、精密分析法の予備試験法と位置付けることができる分析法であり、総合的な分析時間の短縮、コストダウンと共に、食の安全の確保に貢献することができる。
【符号の説明】
【0056】
1: カラム(固相抽出カートリッジ:ボディ一体型)
1a:吸着剤(固相抽出剤)
1b:エンプティカラムボディ(一体型)
1c:エンプティカラムキャップ
1d:上部フリット
1e:下部フリット
1f:上部接続部(溶液入口)
1g:下部接続部(溶液出口)
2: カラム(固相抽出カートリッジ:ボディ独立型)
2a:吸着剤(固相抽出剤)
2b:エンプティカラムボディ(独立型)
2c:エンプティカラム上部キャップ
2d:上部フリット
2e:下部フリット
2f:上部接続部(溶液入口)
2g:下部接続部(溶液出口)
2h:エンプティカラム下部キャップ
11:試料室
12:受光室
13:カットオフフィルタ
14:シャッタ
15:シャッタスイッチ
16:検出器(フォトダイオード、フォトマルチプライア)
17:検出器ホルダ
18:検出信号線
21:上部コネクタ
22:接続継ぎ手
23:下部コネクタ
24:廃液口
31:光源(LEDあるいは水銀ランプ)
32:集光レンズ
33:光ファイバ
34:試薬導入管
41:注射筒
42:試料送液ポンプ
43:試料溶液
44:洗浄液
45:配管
46:接続継ぎ手
47:吸引マニュホールド
48:減圧ゲージ
49:圧力調整バルブ
50:吸引部継ぎ手
51:受器
52:コック
53:リザーバー
61:送液ポンプ
62:誘導体化試薬溶液
63:洗浄液
64:化学発光溶液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象化合物を吸着するための吸着剤を充填可能な空間の容積が2mL以下の小容量のカラムに充てんされた吸着剤表面に被検溶液中の測定対象化合物を吸着・濃縮させた後、測定対象化合物を吸着剤から脱離させることなく、測定対象化合物を吸着剤表面に固定した状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、発光量から測定対象化合物の濃度を求めることを特徴とする農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項2】
測定対象化合物が、蛍光性あるいは化学発光性の農薬及び添加物、あるいは、誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性となる農薬及び添加物であることを特徴とする請求項1に記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項3】
非蛍光性または非化学発光性の測定対象化合物を吸着剤表面に吸着・固定した状態で、測定対象化合物に適切な誘導体化試薬との化学反応によって蛍光性あるいは化学発光性化合物に誘導した後、生成した誘導体を吸着剤表面に吸着・固定した状態のまま吸着剤から脱離させることなく、蛍光法あるいは化学発光法により発光させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項4】
前記吸着剤が、疎水性相互作用を発現させることが可能な疎水性官能基と、イオン交換相互作用を発現させることが可能なイオン交換基を併せ持つ吸着剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項5】
前記吸着剤が、親水性相互作用を発現させることが可能な親水性官能基と、イオン交換相互作用を発現させることが可能なイオン交換基を併せ持つ吸着剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項6】
前記小容量のカラムの吸着剤が充てんされる部分が、光透過性材料により構成され、その形状が円筒状あるいは角形の筒状であり、上下に液の出入り口を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項7】
測定対象化合物を吸着・濃縮する吸着剤を充てんした2mL以下の小容量のカラムを装着することが可能な試料室と、小容量のカラムに誘導体化試薬および洗浄液を送液するポンプシステムと、励起光を照射する光源および光学系、あるいは化学発光試薬を送液するポンプシステムと、小容量のカラムからの蛍光あるいは化学発光を検出する検出器と、検出された蛍光あるいは化学発光の光量から測定対象化合物の濃度を計算する演算回路とを具備し、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法を適用させることが可能であり、可搬型に構成されていることを特徴とする農薬および添加物のスクリーニング装置。
【請求項1】
測定対象化合物を吸着するための吸着剤を充填可能な空間の容積が2mL以下の小容量のカラムに充てんされた吸着剤表面に被検溶液中の測定対象化合物を吸着・濃縮させた後、測定対象化合物を吸着剤から脱離させることなく、測定対象化合物を吸着剤表面に固定した状態で蛍光法あるいは化学発光法により発光させ、発光量から測定対象化合物の濃度を求めることを特徴とする農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項2】
測定対象化合物が、蛍光性あるいは化学発光性の農薬及び添加物、あるいは、誘導体化試薬との反応により蛍光性あるいは化学発光性となる農薬及び添加物であることを特徴とする請求項1に記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項3】
非蛍光性または非化学発光性の測定対象化合物を吸着剤表面に吸着・固定した状態で、測定対象化合物に適切な誘導体化試薬との化学反応によって蛍光性あるいは化学発光性化合物に誘導した後、生成した誘導体を吸着剤表面に吸着・固定した状態のまま吸着剤から脱離させることなく、蛍光法あるいは化学発光法により発光させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項4】
前記吸着剤が、疎水性相互作用を発現させることが可能な疎水性官能基と、イオン交換相互作用を発現させることが可能なイオン交換基を併せ持つ吸着剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項5】
前記吸着剤が、親水性相互作用を発現させることが可能な親水性官能基と、イオン交換相互作用を発現させることが可能なイオン交換基を併せ持つ吸着剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項6】
前記小容量のカラムの吸着剤が充てんされる部分が、光透過性材料により構成され、その形状が円筒状あるいは角形の筒状であり、上下に液の出入り口を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法。
【請求項7】
測定対象化合物を吸着・濃縮する吸着剤を充てんした2mL以下の小容量のカラムを装着することが可能な試料室と、小容量のカラムに誘導体化試薬および洗浄液を送液するポンプシステムと、励起光を照射する光源および光学系、あるいは化学発光試薬を送液するポンプシステムと、小容量のカラムからの蛍光あるいは化学発光を検出する検出器と、検出された蛍光あるいは化学発光の光量から測定対象化合物の濃度を計算する演算回路とを具備し、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の農薬および添加物のスクリーニング法を適用させることが可能であり、可搬型に構成されていることを特徴とする農薬および添加物のスクリーニング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−58846(P2011−58846A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206120(P2009−206120)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【Fターム(参考)】
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