農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップ
【課題】 神経伝達系を阻害する農薬の残留を迅速・簡便・安全且つ安価に検出可能な農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップを提供する。
【解決手段】 農薬によるアセチルコリンエステラーゼの活性阻害のメカニズムを利用し、アセチルコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合溶液をアセチルチオコリンに添加して反応させ、生成されたチオコリンを検出することにより、試料中の農薬を検出する。
【解決手段】 農薬によるアセチルコリンエステラーゼの活性阻害のメカニズムを利用し、アセチルコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合溶液をアセチルチオコリンに添加して反応させ、生成されたチオコリンを検出することにより、試料中の農薬を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品などの試料に残留する農薬を検出する農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数十年、農業においては、世界的な人口増加に伴う食糧の安定供給のため、農薬が大量に使われてきた。しかし、これらの使用により飲料水や食べ物に残留化学物質がみられ、人間にとって有害な影響が出てきている。
【0003】
その中でも、いくつかの農薬、特に有機リン系農薬やカーバメート系農薬は急性の毒性を起こすことが示されており、特に小さな子供にその兆候が見られる。有機リン系などの殺虫剤農薬の長期的影響としては、遅発性神経障害が有名である。これを有機リン誘導遅発(遅延)性神経毒という。急性中毒は神経伝達に関わる酵素であるアセチルコリンエステラーゼを阻害することによって起こり、遅発性神経障害は、有機リン急性中毒の1〜2週間後に現れる四肢の脱力と運動失調、その後の麻痺が特徴である。病理学的には脊髄および抹消神経中の長い軸索の変性がある。また、脳の特定部位の変性も明らかになっている。
【0004】
かかる状況から、残留農薬の検出が可能となる技術の開発は、安全安心な食物や飲料水などの安定供給および汚染被害の予防とその対策のために急務となっており、これまでに様々な農薬検出方法や検出装置が提案されている。農作物中の残留農薬の検出・測定は現在、GasChromatography(GC)、High PerformanceLiquid Chromatography(HPLC)、MassSpectrometer (MS)などの機器分析による方法が広く行われている。これらの方法は高感度であり、正確性が高く、農作物から農薬を抽出するのに同じ方法であれば一度にたくさんの農薬を分析できるという利点がある。
【0005】
また、免疫検定の応用であり、残留農薬の分析にこの免疫学の手法を応用するバイオアッセイ(生物検体法)と呼ばれる測定方法の開発が進んでいる。これによれば、抗原と抗体の反応を利用して、目的とする物質(ここでは農薬)を特定し、その反応の程度から物質の量を測定することができる。これまでは、タンパク質などの分子量の大きな物質は比較的容易に抗体を作製できたが、農薬のように低分子物質や種類によっては金属元素を含む物質の抗体を作製することは難しかった。しかし、近年、このような物質に対する抗体の作製に道が開けたことで,イムノアッセイによる農薬分析が可能になってきた。このイムノアッセイによって分析した場合、機器分析のような高価な分析機器は必要とせず、比較的安価な機器と市販のイムノアッセイ分析キットを用意するだけで済み、ピペット操作に慣れた人であれば1日に50点以上の分析をこなすことが可能である。
【0006】
また、他の分析法としてニトロベンジルピリジン法がある。4−(4−ニトロベンジル)ピリジンは、ヨウ化メチルなどのアルキル化剤の呈色試薬として用いられていたもので、その後、薄層クロマトグラフでの有機リン系農薬の呈色試薬として用いられるようになった方法である。また、硝化細菌を用いたセンサもあり、この方法は硝化細菌が様々な化学物質に対して極めて低い濃度でも阻害を受ける性質を用いて検出する方法である。
【0007】
たとえば、下記非特許文献1には、GC, HPLCでの残留農薬の検出方法が開示されている。
【非特許文献1】J.Sherma,G.Zweig,Anal.Chem.55(1983),p.57R
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、GCや、HPLCや、MSなどの機器分析による農薬検出は、農薬ごとの分析が主体で検査に時間がかかり、対象にする農薬によっては熟練した研究者でも5から10点程度の分析に数日を要することが稀ではない。また、危険な有機溶媒を使用するので空調設備が必要であり、分析装置自体も高価で、さらに装置の維持費、人件費などがかかるので非常に多くのコストがかかってしまう。また、操作が煩雑であり、一つの分析機器で分析できる検体数が少なく、農薬抽出時に高純度の有機溶媒を多量に使うので危険な作業が伴うという問題もある。
【0009】
また、イムノアッセイによる農薬分析では、1農薬に1キット必要であり、また国内で登録されている全ての農薬にイムノアッセイ分析キットが用意されているわけではない。さらに、これらの分析キットは使用期限が短く、異なる作物では分析が困難な場合もあり、交差反応性があるなどの欠点を持ち、こちらの方法も生産の過程で安全を確認する手法とはなりえていない。
【0010】
また、ニトロベンジルピリジン法は、100℃で加温できる装置が必要であることや目視的に判断するために、エーテルを必要とする、プロポパスなど、微量では発色しないものがあるなどの欠点がある。硝化細菌を用いた方法は、装置が大型で高価であるという欠点がある。
【0011】
このように、現在用いられている方法では多くの問題があり、各現場で利用されるに至っていない。食の安全の観点からは、同時に多数の農薬について残留を簡易にスクリーニングすると同時に、最も人体に対する害が懸念されている、神経伝達系を阻害する農薬の残留を迅速、簡便、安全且つ安価に検出する検出手法の開発が強く望まれている。
【0012】
そこで本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、神経伝達系を阻害する農薬の残留を、迅速・簡便・安全且つ安価に検出可能な農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、前述の目的を達成するために長期にわたり検討を重ねてきた。その結果、神経伝達系を阻害する農薬の残留を迅速、簡便、安全且つ安価に検出するためには、農薬によるアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの活性阻害のメカニズムを利用することが有効であるとの知見を得るに至った。
【0014】
ここで、理解のために、神経伝達系のメカニズムを説明する。図1は神経伝達系のメカニズムを説明する説明図である。
【0015】
ヒトを含めて哺乳類では個々の筋繊維(筋細胞)は1本の運動神経線維によって支配されている。この運動神経終末端と筋細胞が接触している部位は神経筋接合部あるいは終板とよばれ、直径約20μmの円盤状の形態を示す。神経終末端にはCa2+を選択的に透過させるCa2+チャンネルが密に存在する。神経終末端に活動電位が到達するとその脱分極によりCa2+チャンネルが開き(Ca2+に対する透過性が上昇すること)、その濃度勾配によりCa2+が終末端に流入しアセチルコリンが放出される。この伝達物質の放出機構の詳細は不明であるが、その放出は神経終末端内のCa2+濃度に依存する。放出されたアセチルコリンは約50nmの神経−筋間隙を攪拌し、筋細胞膜表面に存在するアセチルコリンレセプターと結合し、アセチルコリンレセプターチャンネルが開く。このレセプターチャンネルは陽イオン(Na+、K+、Ca2+)に対して透過性を示し、その結果、筋細胞の神経筋接合部は脱分極を示す。この脱分極は終板電位とよばれる。筋細胞が脱分極すると、神経線維の場合と同様に、Na+に対する透過性が高まり活動電位が発生し、この興奮は筋細胞全長に伝導し筋が収縮する。正常条件下では、運動神経終末から放出されるアセチルコリンが存続する限り筋細胞に脱分極が維持されるはずである。しかし、終板電位は約1msecをピークにしてその後、減少する。これは神経終末端から放出されたアセチルコリンが神経筋接合部に存在するアセチルコリンエステラーゼによってコリンと酢酸に急速に分解されるからである。分解産物のコリンは運動神経終末端に取り込まれ、再びアセチルコリンの合成に参与し、伝達物質として放出される。
【0016】
つぎに、農薬による神経伝達系阻害のメカニズムを説明する。アセチルコリンの放出とそのレセプターの応答は正常の神経−筋伝達に必須であるから、これらの異常は当然、筋活動の障害の原因となる。有機リン系やカーバメート系農薬などの神経伝達系を阻害する農薬は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と不可逆的に結合する。そのため、これらの農薬は、神経シナプスにおいて、アセチルコリンを分解するAChEの働きを阻害し、アセチルコリンが過剰となる。その結果、正常な神経伝達が行われず、様々な中毒を引き起こす。これは、コリンエステラーゼを酵素とする場合も同様である。
【0017】
本発明は、この神経伝達系疎外のメカニズムに基づいて完成されたものであり、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼが有機リン系、カーバメート系農薬などの神経系阻害農薬によって阻害されて酵素活性を失うことを利用して、農薬を検出するものである。図2は、本発明の検出原理を説明する説明図である。アセチルコリンエステラーゼはアセチルチオコリンと酵素反応してチオコリンを生成する。一方、神経系阻害農薬は、アセチルコリンエステラーゼと不可逆的に結合して働きを阻害する。そこで、試料とアセチルコリンエステラーゼとを混合し、その混合液をアセチルチオコリンに添加し、生成されるチオコリンを検出する。試料中に存在する農薬の量に応じて、アセチルコリンエステラーゼの活性が阻害され、生成されるチオコリンの量が変化する。生成されるチオコリンを検出することにより、間接的に試料中の農薬を検出する。チオコリンの量を測定することにより、試料中の農薬を定量的に検出することも可能である。コリンエステラーゼを酵素とする場合についても同様である。
【0018】
チオコリンを検出する手段としては、様々なものが考えられるが、例えばチオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤が挙げられる。発色剤としては、5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoic acid(DTNB)が好適である。DTNBはチオコリンと反応すると黄色色素を形成する。試料中の農薬の濃度に応じて、生成されるチオコリンの量が変化し、チオコリンの量に応じて黄色色素が形成され、発色の程度によりチオコリンの量を測定することができる。試料中に農薬がある場合は不可逆的に農薬がアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと複合体を形成し、反応が進まずに発色しない。逆に、農薬がない(もしくは量が少ない)場合は阻害されずに発色する。
【0019】
本発明は、上記検出原理に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明に係る農薬検出方法は、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合溶液をアセチルチオコリンに添加して反応させ、生成されたチオコリンを検出することを特徴とする。
【0020】
アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料とを混合すると、試料中に存在する有機リン系やカーバメート系農薬などの神経伝達系を阻害する農薬とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼが不可逆的に結合し、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの活性が阻害される。その混合液をアセチルチオコリンに添加すると、農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとが酵素反応してチオコリンが生成される。すなわち、試料中の農薬の濃度に応じて生成されるチオコリンの量が変化する。生成されたチオコリンを検出することにより、間接的に試料中の農薬を検出することが可能となる。本発明によれば、農薬の種類によって個別に分析する必要もなく、有機リン系農薬およびカーバメート系農薬といった神経伝達系を阻害する農薬を幅広く検出することが可能である。いずれの工程も簡易且つ迅速に行うことが可能であり、危険な要素も含まれていないため安全性も高い。大規模な装置や高価な溶媒なども不要であり、低コストで検出することが可能である。
【0021】
前記アセチルチオコリンは基体に固定されていることが好ましい。この発明によれば、アセチルチオコリンは基体に固定されているため、取り扱いが容易である。この固定状態としては、液状としたアセチルチオコリンを基体に滴下して乾燥固定しても良いし、液体状又はジェル状又はポリマー状としたアセチルチオコリンを基体に設けられた収納スペースに収納固定するものであっても良い。
【0022】
前記チオコリンの検出は、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤を用いることが好ましい。この発明によれば、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤を用いることにより、目視による確認が可能となる。
【0023】
前記発色剤又は発光剤はアセチルチオコリンと混合されて前記基体に固定されていることが好ましい。この発明によれば、基体に固定された発色剤又は発光剤とアセチルチオコリンに、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合液を添加するという単一の操作で、チオコリンの生成の工程と発色又は発光の工程が連続して行われる。
【0024】
前記混合液を前記アセチルチオコリンに添加した後に水分を蒸発させることが好ましい。ここで、水分の蒸発は、わずかな蒸発でも良く、完全な蒸発(乾燥)でも良い。この発明によれば、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合液を、アセチルチオコリンに添加した後に乾燥しやすい状態にして、水分を蒸発させると、酵素反応が速やかに停止し、農薬を速やかに検出することができる。
【0025】
前記アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料との混合に際し、試料に対するアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの混合量を調整することが好ましい。この発明によれば、試料に対するアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの混合量を調整することにより、農薬の検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができる。
【0026】
また、本発明の農薬検出キットは、基体に固定されたアセチルチオコリンと、容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと、チオコリンを検出可能な検出手段とを備えることが好ましい。
【0027】
試料と容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとを混合すると、試料中の農薬とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとが不可逆的に結合し、試料中の農薬濃度に応じてアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの活性が阻害される。その混合液をアセチルチオコリンが固定された基体に滴下すると、農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとの酵素反応によりチオコリンが生成される。生成されたチオコリンを検出手段により検出することにより、間接的に農薬を検出することができる。
【0028】
前記検出手段は、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤であることが好ましい。発色剤又は発光剤を用いることにより、目視による確認が可能となる。
【0029】
前記発色剤又は発光剤は、アセチルチオコリンと混合されて基体に固定されていることが好ましい。この発明によれば、発色剤又は発光剤がアセチルチオコリンと混合されて基体に固定されているため、取り扱いが容易である。基体に固定された発色剤又は発光剤とアセチルチオコリンに、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合液を添加するという単一の操作で、チオコリンの生成の工程と発色又は発光の工程が連続して行われる。
【0030】
前記固定は乾燥固定であることが好ましい。この発明によれば、添加した混合液が乾燥しやすく、乾燥により酵素反応が停止するため、速やかに農薬を検出することができる。
【0031】
前記容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼは添加量が調整可能であることが好ましい。この発明によれば、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合に際して、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの添加量を調整することができ、検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができる。
【0032】
本発明の農薬検出ストリップは、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域と、アセチルチオコリンが固定化された領域とを備える。
【0033】
この発明によれば、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域に試料を含浸させると、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとが混合し、試料中に有機リン系やカーバメート系農薬などの神経伝達系を阻害する農薬が含まれる場合はアセチルコリンエステラーゼ(酵素)又はコリンエステラーゼが不可逆的に結合し、結合が進行しながら混合溶液がアセチルチオコリンが固定化された領域に到達する。アセチルチオコリンが固定化された領域では、農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとが酵素反応してチオコリンが生成される。すなわち、試料中の農薬の濃度に応じてアセチルチオコリンが固定化された領域にて生成されるチオコリンの量が変化し、このチオコリンの量を検出することにより、試料中の農薬を検出することが可能となる。アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域に試薬を含浸させるだけで、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと農薬との結合と、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとの酵素反応が一つのストリップ上で行われるため、簡単且つ迅速に検出することが可能であり、危険な要素も含まれていないため安全性も高い。大規模な装置や効果な溶媒なども不要であり、低コストで検出可能である。
【0034】
また、本発明の農薬検出ストリップは、前記アセチルチオコリンが固定化された領域には、さらにチオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤が固定されていることが好ましい。この発明によれば、アセチルチオコリンが固定化された領域で生成されたチオコリンと発色剤又は発光剤とが反応して発色又は発光するため、ストリップ上で目視による確認が可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップによれば、農薬によるアセチルコリンエステラーゼの活性阻害を利用し、アセチルチオコリンとアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの酵素反応により生成されるチオコリンを検出することにより、試料に含まれる農薬を検出することができることから、分析等の複雑で危険な作業や大規模な設備などが不要であり、迅速、簡便、安全、且つ、安価に検出することが可能である。
【0036】
チオコリンの検出手段として発色剤や発光剤を用いれば、目視による確認が可能となる。混合液を前記アセチルチオコリンに添加した後に乾燥させることにより、酵素反応を停止させ、発色状態や発光状態の確認ができ、農薬を速やかに検出することができる。
【0037】
前記アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料との混合に際し、試料に対するアセチルコリンエステラーゼの混合量を調整すれば、農薬の検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができる。農薬検査では、試料中の農薬濃度が閾値以上であるか未満であるかを検査する場合が多い。農薬の検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することで、発色や発光の有無等により試料中の農薬濃度が閾値以下であるか未満であるかがわかり、判断が容易となる。
【0038】
また、本発明の農薬検出キットや農薬検出ストリップは、大規模な部材や高価な溶媒なども不要な簡単な構成であり、小型化及び低コスト化を図ることができる。また、検出作業や結果の判断も簡単であり、危険な作業も不要である。
【0039】
これらの利点から、本発明の農薬検出方法や農薬検出キットや農薬検出ストリップを広く普及させることが可能であり、市場における様々な段階で、最も人体に対する害が懸念されている神経伝達系を阻害する農薬の検出を行うことにより、安全性の確保および汚染被害の予防とその対策を強化することができる。
【0040】
また、本発明の農薬検出方法や農薬検出キットや農薬検出ストリップを一次スクリーニングに使用すると、より効果的である。すなわち、試料を、まず本発明の農薬検出方法や農薬検出キットや農薬検出ストリップを用いて簡易、迅速、且つ安価な検査を行い、農薬が検出されたものに関しては、従来の分析により高精度な検査を行う。未検出のものは、そのまま出荷する。これにより、食物の検査を簡易、迅速、且つ、安価に行いつつも精度を維持することが可能であり、食物の効率的な農薬検査、及び、安全な食物の安定供給に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明に係る農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップについて詳細に説明する。本実施の形態では、アセチルコリンエステラーゼを酵素として用いる場合を例として説明するが、コリンエステラーゼを酵素として用いる場合についても同様である。
【0042】
本発明の農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップにより検出可能な農薬は、有機リン系農薬およびカーバメート系農薬といった神経伝達系を阻害する農薬である。たとえば、米に含まれる神経伝達系阻害農薬としては、下記のものがある。有機リン系農薬としては、Diazinon、Malathion、Parathion 、Ethoprophos、Etrimfos、Chlorpyrifos、Chlorfenvinphos、Terbufos、Fenitrothion、Fenthion、Phenthoate、Butamifosなどが挙げられる。カーバメート系農薬としては、Aldicarb、Isoprocarb、Esprocarb、Oxamyl、Carbaryl、Thiobencarb、Pyributicarb、Fenobucarb、Propamocarb、Bendiocarb、Methiocarbなどが挙げられる。
【0043】
<農薬検出方法>
まず、本発明の農薬検出方法について説明する。本発明の農薬検出方法では、アセチルコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合溶液をアセチルチオコリンに添加して酵素反応させ、酵素反応の結果として生成されたチオコリンを検出することにより、間接的に試料中の農薬を検出するものである。
【0044】
ここで、試料とは、農薬による汚染の可能性のある様々なものをいい、例えば、食物や飲料水などである。食物としては、例えば、リンゴやミカンなどの果実や、野菜・穀物などの農作物や、冷凍食品やフリーズ食品などの加工後の食品、飲料水としては水道水や清涼飲料がある。試料はこれらに限定されることはなく、本発明は様々なものに広く適用可能である。
【0045】
先ず、前処理として、試料を本発明により検査可能な状態とする。試料がリンゴやミカンなどの多水分のものである場合は、果汁などの状態で成分を抽出して、これを試料とする。また、試料が米などの水分の乏しいものである場合は、ミキサーで細かく砕き、ヘキサン、メタノール等に粉砕した米を溶かして成分の抽出を行った後、溶媒を気化してとばし、バッファーを用いて再度溶かして抽出液を調製し、これを試料とする。
【0046】
つぎに、前処理済の溶液状の試料とアセチルコリンエステラーゼとを混合して混合液Aを調整し、所定時間放置する。試料中に、神経伝達系を阻害する農薬が含まれる場合は、農薬とアセチルコリンエステラーゼとが不可逆的に結合し、アセチルコリンエステラーゼの活性が阻害される。試料に含まれる農薬の濃度に応じて、阻害されるアセチルコリンエステラーゼの量が変動する。
【0047】
つぎに、所定時間放置した農薬とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを所定量だけアセチルチオコリンに添加する。農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼがアセチルチオコリンと酵素反応し、チオコリンを生成する。農薬と結合したアセチルコリンエステラーゼは不活性であり酵素反応はおこさない。その結果、生成されるチオコリンの量が試料中の農薬濃度を反映することとなり、農薬濃度が高いとチオコリンの量は少なくなり、農薬濃度が低いとチオコリンの量は多くなる。
【0048】
つぎに、生成されたチオコリンを検出する。チオコリンを検出することにより試料中の農薬を検出することが可能となる。
【0049】
チオコリンの検出には、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤を用いることが好ましい。発色剤又は発光剤を用いることにより、目視による確認が可能となる。発色剤としては、DTNB(5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoic acid)を用いることが好ましい。チオコリンが生成された反応液とDTNBとを混合すると、黄色色素(5‘−Mercapoto−2−nitrobenzoic
acid)を形成し、黄色を発色する。チオコリンの量が多いほど発色の程度は強くなり、発色の程度を目視で確認するだけで簡単にチオコリンの量、すなわち、農薬の濃度がわかる。
【0050】
チオコリンの検出は、農薬とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aをアセチルチオコリンに添加した後、別途、発色剤や発光剤等によりチオコリンを検出しても良い。また、予めアセチルチオコリンと発色剤や発光剤等の検出手段を混合しておき、そこに、農薬とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを添加しても良く、これによれば、混合液を添加するという単一の操作で、酵素反応からチオコリン検出(DTNBの場合は黄色色素の形成)が連続して行われる。
【0051】
また、アセチルチオコリン、又は、アセチルコリンと検出手段(DTNBなど)は、ろ紙などの上に乾燥固定することが好ましい。これにより、混合液Aと混合して酵素反応させたときに、反応液が蒸発しやすくなる。反応液が蒸発していくと酵素反応が停止し、それ以上、酵素反応が進まないため、発色状態を維持させることができる。アセチルチオコリンがろ紙などに乾燥固定されている場合は、酵素反応が停止し、発色状態が維持されるため、速やかに検査を行うことができる。
【0052】
また、農薬検査では、試料中の農薬濃度が閾値以上であるか未満であるかを検査する場合が多い。試料とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを作る際に、試料に対するアセチルコリンエステラーゼの混合量を調整することにより、検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することが可能となる。アセチルコリンエステラーゼの混合量に応じて、試料中の農薬により活性が阻害されるアセチルコリンエステラーゼの量が変動する。試料中のある濃度の農薬と、混合したアセチルコリンエステラーゼとが過不足無く複合体を形成すると、その農薬濃度を閾値として、閾値以上の農薬濃度ではチオコリンが生成されず、閾値未満の農薬濃度では農薬濃度に応じてチオコリンが生成される。チオコリンが検出されたか否か(すなわち、発色したか否か)を確認するだけで、農薬濃度が閾値以上か未満かの判断を容易に行うことができる。
【0053】
<農薬検出キット>
つぎに、本発明の農薬検出キットKについて説明する。図3(a)は農薬検出キットKの平面図であり、(b)は基体1の分解斜視図である。農薬検出キットKは、基体1に固定されたアセチルチオコリンと、容器2に収納されたアセチルコリンエステラーゼと、チオコリンを検出可能な検出手段3とを備える。
【0054】
基体1は、中央部分に凹部を有するプラスチック等の樹脂製の容器1aと、凹部に配置されるろ紙などの吸収体1bとを備えるチップ状の基体である。その構造は、図3(b)に示すように、容器1aの凹部に吸収体1bが嵌め込まれ、吸収体1cはオーリング1cで容器1aに固定されている。吸収体1bはオーリング1cを外して取替え可能であり、吸収体1bを取り替えるだけで再利用可能となっている。吸収体1には、アセチルチオコリンが乾燥固定されている。乾燥固定とは、まず、吸収体1にアセチルチオコリンを滴下し、乾燥させることにより成分を吸収体1に固定した状態である。基体1は、容器1aの凹部内の反応液が蒸発しやすい形状をしていることが好ましく、本実施の形態では凹部が上向きに大きく開口している。
【0055】
容器2は、プラスチック等の樹脂製あり、その容器2中にはアセチルコリンエステラーゼが収納されている。その容器2には取り出し口が設けられており、アセチルコリンエステラーゼを所望の量だけ取り出して試料と混合可能となっている。
【0056】
検出手段3は、チオコリンを検出する機能を備え、チオコリンに反応してシグナルを発するものであれば良く、例えば、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤や発光剤などが挙げられる。本実施の形態ではチオコリンと反応して黄色色素を形成し、チオコリンの量に合わせて発色の程度が変化するDTNBを用いた。この検出手段(DTNB)3は、アセチルチオコリンと混合されて基体1のろ紙に乾燥固定されており、アセチルチオコリンと一体化されている。
【0057】
この農薬検出キットKは、下記のように使用される。まず、前処理として試料の溶液を準備し、これを試料とする。これは、上記農薬検出方法にて説明したものと同様である。
【0058】
つぎに、溶液上の試料と容器2に収納されたアセチルコリンエステラーゼを混合し、混合液Aを作る。試料中に農薬が含まれている場合は、アセチルコリンエステラーゼと結合して複合体を形成し、農薬の濃度に応じてアセチルコリンエステラーゼの活性が阻害される。
【0059】
つぎに、その混合液Aを、基体1のアセチルチオコリンと検出手段3が乾燥固定された吸収体1bに滴下する。混合液Aに農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼが存在する場合は、吸収体1に固定されたアセチルチオコリンと酵素反応し、チオコリンが生成される。吸収体1に固定された検出手段(DTNB)は、生成されたチオコリンと反応し、黄色色素を形成して発色する。チオコリンの量に応じて発色するため、発色の程度を目視により確認すれば、チオコリンの量を判断できる。すなわち、試料中の農薬濃度が高い場合は発色の程度が弱く、農薬濃度が低い場合は発色の程度が強い。この発色の状態を目視により確認することで、試料中の農薬濃度を確認することができる。
【0060】
なお、アセチルチオコリンは基体1に乾燥固定されているため、アセチルチオコリンと混合液Aとの反応液が蒸発しやすくなっている。反応液が蒸発すると酵素反応が停止し、それ以上、酵素反応が進まないため、発色状態を維持させることができ、速やかに検査を行うことができる。この点は、上記農薬検出方法と同様である。
【0061】
また、検出手段(DTNB)3は、基体1に乾燥固定することなく、別途、個別の容器に収納した状態としても良い。図4は、他の実施の形態の農薬検出キットKの平面図である。基体1には、アセチルコリンエステラーゼのみが乾燥固定されている。この基体1に混合溶液Aを滴下した後に、個別に収納された検出手段(DTNB)3を基体1の吸収体1bに滴下する。これにより、基体1に乾燥固定されたアセチルチオコリンと混合溶液Aとが反応して生成されるチオコリンに、滴下された検出手段(DTNB)3が反応し、チオコリンの量に応じた程度で黄色発色する。
【0062】
また、試料とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを作る際に、試料に対するアセチルコリンエステラーゼの混合量を調整することにより、検出感度を調整することが可能となる点は、上記農薬検出方法と同様である。
【0063】
また、本実施の形態では、アセチルチオコリンは基体1に乾燥固定されているが、例えば、基体1に収納スペースを設けて、液状、ジェル状、ポリマー状などのアセチルチオコリンを収納スペースに収納することにより固定しても良い。
【0064】
<農薬検出ストリップ>
つぎに、本発明の農薬検出ストリップSについて説明する。図5は農薬検出ストリップSの斜視図である。農薬検出ストリップSは短冊形状であり、アセチルコリンエステラーゼを保持する領域である含浸部10と、アセチルチオコリン及び発色剤が固定化された領域である検出部11とを備える。本実施の形態では、短冊形状の支持体12に各部10,11の機能を果たす部材を取り付けて構成されている。農薬検出ストリップSの上流側には含浸部10が設けられており、含浸部10から間隔Hを設けて下流側に検出部11が設けられている。なお、支持体12との間に含浸部10を挟むようにサンプルパッド13を備え、検出部11よりも下流側には吸収パッド14を備える。
【0065】
支持体12としては、この種のイムノクロマトグラフィー法に用いられるメンブレンを制限無く使用することができ、例えばニトロセルロース等を用いることができる。本実施の形態では短冊形状のニトロセルロースを用いる。
【0066】
含浸部10は、アセチルコリンエステラーゼを移動(展開)可能な状態で保持している。本実施の形態では、短冊形状に成形したグラスウールにアセチルコリンエステラーゼを含む溶液を含浸させて保持させたものを用いている。グラスウールの上面にはサンプルパッド(例えば吸水性に優れたニトロセルロース等)13を配置し、支持体12とサンプルパッド13の間に配置される含浸部10に試料が保持されやすい構成として反応時間を確保している。また、含浸部10は比較的に吸着能の低いグラスウールとすることにより、アセチルコリンエステラーゼ等の検出部11方向への移動(展開)がスムーズに行われるようにしている。含浸部10の部材としては、これに限定されるものではなく、例えばガラス繊維不織布やセルロース類布、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類なども使用可能である。
【0067】
検出部11には、アセチルチオコリン、及び、チオコリンと反応して発色する発色剤が固定化されている。検出部11の部材は、アセチルチオコリンと発色剤とが固定可能であればよく、本実施の形態では、短冊形状のニトロセルロースを用いている。その他、ナイロン、PVDFを用いることも可能である。支持体12の所定位置にアセチルチオコリンや発色剤を直接固相化してもよい。また、発色剤に代えて、チオコリンと反応して発光する発光剤を用いても良い。
【0068】
含浸部10と検出部11との間には間隔Hが設けられている。含浸部10に保持されているアセチルコリンエステラーゼと含浸部10に含浸された試料とは、検出部11に到達するまで反応が進行するため、間隔Hは、その反応時間を調整する役割を果たしている。したがって、間隔Hは所望の反応時間に応じた距離とすることが好ましい。
【0069】
吸収パッド14は、吸水性に優れたニトロセルロース等であり、上流側から下流側への試料溶液等の移動(展開)を促進したり、余剰の試料溶液等を吸収したりする。
【0070】
この農薬検出ストリップSは、支持体12の一端に試料を吸収させ、毛細管現象を利用して横方向に試料を展開させていくイムノクロマトグラフィー法による試験に利用される。まず、前処理として試料の溶液を準備し、これを試料とする。これは、上記農薬検出方法にて説明したものと同様である。
【0071】
つぎに、溶液状の試料を農薬検出ストリップSの含浸部10に含浸させる。含浸部10に保持されているアセチルコリンエステラーゼと、含浸させた試料とが混合され、試料中に農薬が含まれている場合は、アセチルコリンエステラーゼと結合して複合体を形成し、農薬の濃度に応じてアセチルコリンエステラーゼの活性が阻害される。
【0072】
含浸された試料やアセチルコリンエステラーゼ等は、農薬検出ストリップS上で上流から下流方向に展開され、検出部11に到達する。展開の間も農薬とアセチルコリンエステラーゼとの反応が進行しており、間隔Hにより、検出部11に到達した時点では反応が適度に進行した状態となる。このとき、吸収パッド14の吸収力により含浸部10から検出部11に向かって展開する作用が働き、より確実に試料等が検出部11に到達する。また、到達後の余分な試料等は吸収パッド14に吸収される。
【0073】
検出部11に到達した試料中に農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼが存在する場合は、検出部11に固定されたアセチルチオコリンと酵素反応し、チオコリンが生成される。さらに、検出部11に固定された発色剤は、生成されたチオコリンと反応し、色素を形成して発色する。発色剤はチオコリンの量に応じた強度で発色するため、発色の程度を目視により確認すれば、チオコリンの量を判断できる。すなわち、試料中の農薬濃度が低い場合は発色の程度が強く、農薬濃度が高い場合は発色の程度が弱い。この発色の状態を目視により確認することで、試料中の農薬濃度を確認することができる。発光剤が固定化されている場合は発光の程度を確認すればよい。
【0074】
なお、検出部11には、アセチルチオコリンのみを固定し、別途準備されているチオコリン測定手段により測定しても良い。ただし、本実施の形態のように、検出部11に発色剤や発光剤が固定されているほうが、検出部11に試料が到達すると発色又は発光により目視により結果を確認できるため、検出作業を簡単且つ速やかに行うことができる。
【0075】
以上のように、本発明の農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップは、反応時間や作業時間が短時間で、分析等の煩雑で危険な作業や、大型で高価な装置も不要である。農薬の種類ごとに専用の分析等も不要であるため、本発明の農薬検出方法や農薬検出キットだけで神経伝達系阻害農薬を広く検出可能である。したがって、迅速、簡便、安全、且つ、安価に試料中の農薬を検出することができる。チオコリンの量に応じてシグナルが変化する検出手段を用いれば、定量的な検出も可能であり、例えばDTNBなどの発色剤や発光剤等を用いれば、検出結果を目視により簡単に確認することができる。
【0076】
また、農薬検査は、試料に閾値以上の農薬濃度であるか否かについて検査する場合が一般的である。本発明の農薬検出方法及び農薬検出キットによれば、試料と混合するアセチルコリンエステラーゼの量を調整することにより、検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができ、検出されたか否かを確認するだけで、農薬濃度が閾値以上か未満かの判断を容易に行うことができる。
【0077】
以上の利点から、本発明の農薬検出方法及び農薬検出キットは、広く普及が可能であり、食物の製造、出荷、販売、購入などの様々な場面で利用可能である。これにより、安全安心な食物の安定供給が図られ、且つ、汚染被害の予防と対策を強化するこができる。
【実施例】
【0078】
<実験1>農薬検出キットの製作
以下では、検出する農薬に有機リン系農薬であるダイアジノンを例として、本発明の農薬検出キットを製作した。ダイアジノンの規制値は0.1ppmと規定されていることから、農薬検出キットは0.1ppm以上の場合にダイアジノンを検出可能となるように、下記の実験の結果に基づいて製作を行った。
【0079】
まず、96穴プレートで迅速に反応が進むアセチルコリンエステラーゼの検討を行い、次に有機リン系農薬であるダイアジノンオクソン体(図6)を用いて、今回用いる反応系が残留農薬を十分に検出できる感度を持つか検討した。そして、残留農薬規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。これらの結果を元にチップ状の基体上に固定化するDTNB、アセチルチオコリン、アセチルコリンエステラーゼの条件等を検討した。
【0080】
(1−1)試料および装置
酵素活性測定には、Acetyl cholinesterasefrom
bovineserum(和光純薬工業)、Acetylcholinesterasefromelectric
eel(SIGMA)、Acetylthiocholinechloride(SIGMA)、5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoicacid(DTNB,DOJINDO)、Diazinon oxon standard(和光純薬工業)を用いた。チップ状の基体の中央凹部に搭載するメンブレンとしてFilter paper 1(ADVANTEC)を用いた。
【0081】
PBSのpH調整はガラス電極式水素イオン濃度指示計SS002号(堀場製作所)で行った。96穴プレートは、96穴マイクロプレート(NUNKイムノモジュール)を用い、Multi−spectrophotometer(大日本製薬)で吸光度を測定した。ガラス電極式水素イオン濃度指示計SS002号(堀場製作所)、チップ状の基体での吸光度はダイオード型光電光度計(バイオメディア)で測定した。
【0082】
(1−2)アセチルコリンエステラーゼの反応特性
有機リン系農薬であるダイアジノンは中性下では安定であるが、アルカリ性ではゆっくりと加水分解され、また酸性条件下ではより速やかに加水分解されてしまうので全ての試料は50mMのPBS(pH7)で調製を行った。また全ての反応は室温(25℃)で行った。
【0083】
(1−2−1)アセチルコリンエステラーゼの検討
使用するアセチルコリンエステラーゼの種類の検討を行った。検討対象は、ウシ血清由来のものと、電気ウナギ由来のものの2種類である。各々の種類について、0.9U/mlと0.45U/mlの濃度のアセチルコリンエステラーゼを準備し、各種類・各濃度のアセチルコリンエステラーゼを用いて、アセチルコリンエステラーゼ(40μl)と、0.43μmol/mlのアセチルコリン(Acetylthiocholine ATCh)(40μl)と、10μmol/mlのDTNB(8μl)と、pH7のPBS(200μl)を混ぜ、室温で反応させ、Multi−spectrophotometerを用いて経時的に吸光度(λ=410nm)を測定した。図7にその結果を示す。実験の結果、ウシ血清由来のものが、反応速度が速かったため、本実施の形態ではウシ血清由来のアセチルコリンエステラーゼを酵素として用いることとした。
【0084】
(1−2−2)ウシ血清由来アセチルコリンエステラーゼの阻害における反応特性
今回、農薬検出キットを作製するにあたり、有機リン系農薬の一種であるダイアジノンを用いた。0.9U/mlウシ血清由来AChE40μlとダイアジノンオクソン体(25ppm〜0.05 ppt)40μlを混ぜ2分間静置し、Acheの酵素活性を阻害してから0.43μmol/mlのATCh40μlと10μmol/mlのDTNBを8μlと50mMのPBSを200μl混ぜて反応させ、10分後の吸光度(λ=410nm)を測定した。
【0085】
0.9 U/mlのウシ血清由来AChE40μlとダイアジノンオクソン体(5〜0.025 ppb)40μlを混ぜ(2〜60分)静置し、AChEの酵素活性を阻害してから0.43μmol/mlのATCh40μlと10μmol/mlのDTNBを8μlと50mMのPBSを160μl混ぜて反応させ、10分後の吸光度(λ=410nm)を測定した。今回用いた反応系が食品中の残留農薬を検出できる感度があるか検討した。
【0086】
AChEと阻害剤である有機リン系農薬であるダイアジノンオクソン体とを反応させ酵素‐阻害剤複合体を形成させた後に、基質ATChと発色剤DTNBを加えて残存酵素活性を測定した。今回の反応系では5ppbのダイアジノンオクソン体が測定できることがわかった(図8)。
【0087】
次に酵素と阻害剤の複合体形成反応時間を変え、残存酵素活性を測定してみた結果、形成時間が10分で0.5ppbまで測定可能となり、20分で0.25ppb、60分で0.1ppbまで測定可能であることがわかった(図9)。今回の結果よりダイアジノンの残留規制値を検出できる十分な感度があることがわかった。
【0088】
(1−2−3)反応条件最適化
有機リン系農薬であるダイアジノンを用いて検出を行った。そして、食物中のダイアジノンの残留規制値(0.1ppm)に合わせて、発色をコントロールできる反応系(ダイアジノン濃度が0.1ppm以上で発色し、0.2ppm以下で発色しない反応系)を検討した。
【0089】
ATCh、DTNB、ダイアジノンの添加量を一定にし、2.4U/mlのAChEの量を変えて発色の検討を行った。具体的には、2.4U/mlのウシ血清由来AChE (30、60、70μl)とダイアジノン溶液(1〜0.001 ppm、5μl)を混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから0.43μMのATCh(40μl)と10μMのDTNB(8μl)とPBSを混ぜて反応させ、経時的に吸光度(l=410nm)を測定した。
【0090】
その結果を図10に示す。AChEの量を30、60、70μlとかえて発色を測定すると、2.4U/mlのAChEを70μl加えたときに、ダイアジノン濃度0.1ppm以下で発色し、0.2ppm以上の時に発色しない反応系を製作することができた。
【0091】
(1−3)農薬検出キットの製作
(1−3−1)メンブレンへのDTNBの固定化量の検討
上記反応条件の最適化の結果を基に、メンブレンへのDTNBとATChの固定化の最適化を検討した。
メンブレンに10μmol/mlのDTNBを8,20,50μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行った。2.4U/mlのウシ血清由来AChE70μlと0.43μmol/mlのATCh30μlを混ぜ反応させ、メンブレンに滴下し、ダイオード型光電光度計を用いて経時的に吸光度を測定した。メンブレンに固定化するDTNBの量を検討した。
【0092】
上記結果よりメンブレンに8μlの10μmol/mlのDTNBを固定化した。しかし、メンブレン上にDTNBを滴下すると溶液が広がって固定化されるので発色が薄くなることが考えられる。よって、多めに20、50μlをメンブレンに固定化し3つの発色を比較し固定化量の検討を行った。メンブレン上で反応させ発色を見ても3つともほぼ変わらず、またバックグラウンドもそれぞれ変わらない(図11)。よってメンブレン上に固定化する10μmol/mlのDTNBの量を8μlとした。
【0093】
(1−3−2)DTNB固定化メンブレンでの最適AChE量の検討
メンブレンに10μmol/mlのDTNBを8μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行った。2.4U/mlのウシ血清由来AChE(70,80,100,120μl)とダイアジノンオクソン体(1〜0.001 ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから0.43μmol/mlのATCh30μlを混ぜ反応させ、メンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。AChEの量を変えて、ダイアジノンの食品中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0094】
上記結果より10μmol/mlのDTNBを8μl固定化したチップ状の基体を用いて、AChE量を変えてメンブレン上で反応させ、発色を観察した。上記(1−2−3)の結果よりAChE70μlを滴下したがダイアジノン濃度0.1ppmではほぼ発色は見られなかった。よってAChEの量が70μlではダイアジノンオクソン体とほとんどが複合体を形成してしまい酵素活性が残っていないと考えられる。そこで反応させるAChEの量を増やしていき0.1ppmで発色する反応系を検討した。ダイアジノンオクソン体と反応させるAChE量を80、100、120μlと増やしていくと120μlの時にダイアジノン濃度0.1ppmで発色し、0.2ppmで発色を抑えることができた(図12)。
【0095】
(1−3−3)メンブレンへのATCh固定化濃度の検討
メンブレンに10μMのDTNBを8μlと(0.43、1.0、2.0、3.0、4.3μmol/ml)ATCh30 μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行った。2.4U/mlのウシ血清由来AChE100μlをメンブレンに滴下し、経時的に吸光度を測定した。ATCh濃度を変化させ、最適な固定化濃度の検討を行った。
【0096】
上記結果よりメンブレンに8μlの10μmol/mlのDTNBを固定化した。また、上記結果よりメンブレンに0.43μmol/mlのATCh30μlを滴下し固定化した。しかし、メンブレン上にATChを滴下すると溶液が広がって固定化されるので発色が薄くなることが考えられる。また、室温で自然乾燥させるのでATChが変性することも考えられる。よって、濃度を濃くした(1.0、2.0、3.0、4.3μmol/ml)ATCh30μlもメンブレンに固定化し、発色を比較して固定化濃度の検討を行った。ATChの濃度が0.43μmol/mlは反応させても発色は薄く、濃度が濃くなるに連れて発色が濃くなっているが、ATChが3.0,4.0μmol/mlではバックグラウンドの値も高くなってきている(図13,図14)。よって反応させてある程度の発色が得られ、またバックグラウンドが発色しない2.0μmol/mlをATCh固定化濃度とした。
【0097】
(1−3−4)農薬検出キットの作製(最適AChE量の検討)
メンブレンに10μmol/mlのDTNBを8μlと2.0μmol/mlのATChを30μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行って農薬検出キットを製作した。そして、この農薬検出キットを用いて、ダイアジノンの規制値に合わせて発色をコントロールできるような反応系の構築を検討した。
【0098】
ATChとDTNB、ダイアジノンを一定にし、2.4U/mlのAChEの添加量を変えて、ダイアジノンの食品中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。具体的には、2.4U/mlのウシ血清由来AChE(80、100、120 μl)とダイアジノン溶液(1〜0.001 ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、メンブレンに100μl(AChEの量が80 μlの時は85 μl滴下)滴下し、経時的に吸光度を測定した。
【0099】
図15に、その結果を示す。AChEの量を80、100、120μlと増やしていくとダイアジノン濃度0.1ppmでの発色も増していった。AChE120μlの時に0.2ppm以下との発色の違いが目で見てもよくわかった。
【0100】
以上から、ウシ血清由来AChEと阻害剤である有機リン系農薬としてダイアジノンオクソン体を反応させ酵素‐阻害剤複合体を形成させた後に、ATChとDTNBを加えて残存酵素活性の測定を行った。今回行った反応系では0.1ppbまで測定できることがわかり、ダイアジノンの残留規制値を検出できる十分な感度があることがわかった。
【0101】
ダイアジノンの残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系の検討を行った。2.4U/mlのAChE70μlとダイアジノンオクソン体5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、そこに0.43μmol/mlのATChを30μlと10μmol/mのDTNBを8μlとPBS160μlを混ぜ、反応させることによって残留規制値に合わせて発色をコントロールすることができた。
【0102】
上記知見を基に、メンブレンに固定化するDTNBとATChの条件検討を行った結果、10μml/mlのDTNBを8μlで2.0μmol/mlのATCh30μlを固定化し、一晩室温で乾燥させたものを農薬検出キットとして用いた。ここで作製した農薬検出キットを用いてダイアジノンの残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系の検討を行った。2.4U/mlのAChEを120μlとダイアジノンオクソン体5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから反応させることによって残留規制値に合わせて発色をコントロールすることができた。
【0103】
本実施例において、メンブレン上で反応物質を固定化した農薬検出キットを用いて、有機リン系農薬であるダイアジノンの阻害を用いて発色を評価した。この結果は、残留農薬の規制値に合わせて発色をコントロールすることができた。よって、ここで作製した農薬検出キットを用いて実際の食品サンプルから農薬検出を行った。
【0104】
<実験2>食品からの農薬検出の検討
上記知見を基に、食品中の成分がAChEに与える影響を検討し、実際の食品にダイアジノンオクソン体を添加し農薬検出キットで検出できるか、また残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0105】
(2−1)試料および装置
食品サンプルとして、Minute Maidリンゴジュース 濃縮還元果汁100% (日本コカコーラ)、Minute Maidオレンジジュース 濃縮還元果汁100%(日本コカコーラ)を用いた。食品からダイアジノンを抽出するために、ヘキサン (和光純薬工業)、塩化ナトリウム (和光純薬工業)、アセトン (和光純薬工業)を用いた。食品サンプルのpH調整のために、ガラス電極式水素イオン濃度計SS974号(堀場製作所)を用いた。その他は第2章で用いた試薬・装置と同じものを使用した。
【0106】
(2−2)食品中の農薬の検出
上記実験1により製作された農薬検出キットを用いて、食品中の農薬の検出を行った。
【0107】
(2−2−1)リンゴジュース中の農薬検出
(2−2−1−1)リンゴジュースによるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討
製作した農薬検出キットを用いてリンゴジュース中の成分によるAChEの阻害について検討した。まず、リンゴジュースのpHを測定し、pHを7に調整した。2.4U/mlのAChE120μlとリンゴジュース5μlを混ぜ5分静置し、この混合溶液をメンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。
【0108】
作製した農薬検出キットを用いて本発明の農薬検出方法を実施し、リンゴジュースを直接測定した。リンゴジュースそのもののpHは3.75であった。これをpH7に調節して測定に用いた。pH3.75とpH7のどちらも残存酵素活性がほぼ0%であった(図16)。このことより、リンゴジュースの成分中にAChEを阻害する成分があると考えられる。
【0109】
(2−2−1−2)有機溶媒抽出溶液によるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討およびリンゴジュース中のダイアジノン検出
pH7に調整したリンゴジュース100μlにヘキサン100μlと5%塩化ナトリウム水溶液100μlを加え、1分ほど振とうさせた後、水層と有機層を分け、水層の方にさらにヘキサン50μlを加えて1分振とうした。すべての有機層を集め、窒素ガスで全てのヘキサンを飛ばしたところに50mMのPBS(pH7)を100μl加えた溶液をリンゴジュース抽出溶液とした。この溶液がAChEを阻害するか検討した。また、ヘキサンによってどれくらいのダイアジノンが抽出されているかGC−MSで測定して回収率を求めた。リンゴジュースにダイアジノン濃度が0.01〜1ppmになるように加えて、さきほどの抽出方法でダイアジノンオクソン体を抽出した。GC−MSによって測定する時はヘキサンにダイアジノンオクソン体を溶かしたままの状態で測定に用いた。
【0110】
pH7に調整したリンゴジュースをヘキサンによって抽出し、その抽出溶液がAChEを阻害するか検討した。AChE(120〜170μl)と抽出溶液5μlを混ぜ、反応させチップ状の基体に滴下した結果、残留酵素活性はほぼ100%であり阻害は見られなかった(図17,図18,図19)。よってダイアジノンは疎水性であるので有機溶媒によって抽出され、またリンゴジュース中のAChEを阻害する成分は抽出溶液には含まれていないので今回抽出した溶液は残留農薬の測定に用いることができると考えられる。また、ヘキサンによってどれくらいのダイアジノンが抽出されているかGC−MSを用いて回収率を求めた。まず、ダイアジノンオクソン体におけるピーク面積と保持時間に対する検量線を求めた(図20)。次にリンゴジュースから抽出した溶液を測定しピーク面積を求め、さきほど求めた検量線からダイアジノンオクソン体の回収率を求めた結果85%であった(図21)。
【0111】
次に、リンゴジュースにダイアジノン濃度が0.01〜1ppmになるように加えて、さきほどの抽出方法でダイアジノンオクソン体を抽出し、残留農薬検出に用いた。2.4U/mlのAChE(120〜170μl)とリンゴジュース抽出溶液(ダイアジノン濃度 1〜0.001ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、メンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。ダイアジノンのリンゴ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0112】
ダイアジノン(0.01〜1ppm)を添加したリンゴジュースをヘキサンで抽出した溶液を残留農薬検出に用い、AChEの量を変えて、ダイアジノンのリンゴ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。ダイアジノンオクソン体と反応させるAChEの量を120、140、150、160μlと増やしていくとダイアジノン濃度0.1ppmでの発色も増していった。AChEが160μlの時にダイアジノン濃度0.1ppmと0.2ppm以上との発色の違いが目で見てもよくわかった。AChEの量が170μlの時にはダイアジノン濃度が0.2ppmでも発色してしまい酵素量が多すぎる(図17,図18,図19)。よってリンゴの場合はAChEの量が160μlの時が最適であると考えられる。
【0113】
(2−2−2)オレンジジュース中の農薬検出
(2−2−2−1)オレンジジュースによるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討およびオレンジジュース中のダイアジノン検出
作製した農薬検出キットを用いてオレンジジュース中の成分によるAChEの阻害について検討した。オレンジジュースのpHを測定し、pHを7に調整した。2.4U/mlのAChEを120μlとオレンジジュース5μlを混ぜ5分静置し、この混合溶液をメンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。
【0114】
次に、オレンジジュースにダイアジノン濃度が0.01〜1ppmになるように加えて抽出せずにそのまま検出を行った。2.4U/mlのAChE(120〜160μl)とオレンジジュース(ダイアジノン濃度
1〜0.001 ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、メンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。AChEの量を変えて、ダイアジノンのオレンジ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0115】
上記実施例の農薬検出キットを用いて本発明の農薬検出方法を実施し、オレンジジュースを直接測定した。オレンジジュースそのもののpHは3.94であった。これをpH7に調節して測定に用いた。pH3.94と7のどちらも残存酵素活性は100%を超えていた(図22,図23,図24)。このことより、オレンジジュースの場合は抽出することなく直接残留農薬の測定ができることがわかった。
【0116】
よって、ダイアジノン(0.01〜1ppm)を添加したオレンジジュースを残留農薬検出に用い、AChEの量を変えて、ダイアジノンのオレンジ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。ダイアジノンオクソン体と反応させるAChEの量を120、130、140、150、160μlと増やしていくとダイアジノン濃度0.1ppmでの発色も増していった。AChE160μlの時にダイアジノン濃度0.1ppmと0.2ppm以上との発色の違いが目で見てもよくわかった(図22,図23,図24)。よってオレンジの場合はAChEの量が160μlの時が最適であると考えられる。また、上記実施例における農薬検出キット作製の時にはAChE量は120μlであったが今回の最適量は160μlとPBSにダイアジノンを添加し測定したときと比較してAChEの量が増えている。これはオレンジジュース中の成分が基質であるATChに影響を与えてチオコリンに分解されにくくなったり、またチオコリンと発色剤であるDTNBがオレンジジュース中の成分によって反応しにくくなったり等の要因が考えられ、AChEの量が増えたのだと考えられる。
【0117】
以上の結果から、本発明の農薬検出キットを用いて本発明の農薬検出方法を実施することにより、有機リン系農薬を食品から検出でき、しかも食品によっては抽出することなく実サンプルのまま測定できる簡易一次スクリーニングツールであることが示された。なお、カーバメート系農薬についても、ほぼ同様の結果が得られ、有効であることが確認された。
【0118】
<実験3>農薬検出ストリップの製作
農薬検出ストリップを製作するにあたり、反応時間と農薬濃度を異ならせ、反応時間によりアセチルコリンエステラーゼが各濃度の農薬によって阻害される程度を調べた。実験には、有機リン系農薬であるダイアジノン、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)(WAKO,2.4U/ml)、発色剤としてチオコリンの濃度に応じて青色に変色するDTNB(5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoic acid)(DOJINDO)、塩化アセチルチオコリン(Sigma)を用いた。
【0119】
まず、ダイアジノンオクソン体40μlを0ppbから5ppbまで段階的に変化させながら、0.9U/mlのウシ血清由来のAChE40μlと混合させた。それぞれについて、2分、5分、10分、20分、30分、60分静置して反応時間を異ならせ、AChEの酵素活性を阻害した。その後、それぞれに対して、0.43μmol/mlのATCh40μlと10mmol/mlのDTNB8μlと50mMのPBS160μlを混ぜて反応させ、10分後の吸光度(λ=410nm)を測定した。その結果を図25に示す。
【0120】
上記実験の結果から、反応時間が進むにつれて、ダイアジノンオクソン体とAChEの結合が促進されて酵素活性が阻害され、低い吸光度を示す。このことから、低濃度の農薬についても、十分な反応時間をとることにより、測定可能であることがわかる。残留農薬の有無といった定性的検査の場合は、反応時間を十分にとることにより、信頼性を高めることが可能である。したがって、定性的検査を目的とする場合は、農薬検出ストリップの含浸部と検出部との距離を十分にとることが望ましい。
【0121】
また、反応時間が短時間(2分から10分)の時点では、比較的に高濃度(5ppbから0.25ppb)のダイアジノンオクソン体について吸光度にばらつきがあり、反応時間が長時間(20分から60分)の時点では、比較的に低濃度(0.1ppbから0.0025ppb)のダイアジノンオクソン体について吸光度にばらつきがあり、反応時間によって判断できる濃度が異なることがわかる。以上のことから、ダイアジノンオクソン体とアセチルコリンエステラーゼとの反応時間を調整することにより、所望の濃度の農薬を検出することが可能となる。したがって、定量的検査を目的とする場合は、農薬検出ストリップの含浸部と検出部との距離を検出したい農薬濃度によって調整することが望ましい。
【0122】
上記の実験の結果に基づいて農薬検出ストリップを製作した。支持体は、幅4mm,長さ55mmの短冊状のニトロセルロースを用いた。含浸部は、幅4mm,長さ8mmのグラスウールに2.4U/mlのAChEを100μl滴下乾燥させて保持させ、支持体の一端側に取り付けた。そのグラスウールの上面に幅4mm,長さ16mmのサンプルパッドを配置し、グラスウールがサンプルパッドと支持体の間に挟持される状態とした。検出部は、幅4mm,長さ5mmの短冊状のニトロセルロースにアセチルチオコリン、及び、チオコリンと反応して青色発色する発色剤を乾燥固定し、これを含浸部から18mmの間隔を設けて取り付けた。含浸部と検出部との間に設けた間隔18mmにより、反応時間として約2分を確保した。さらに、支持体の他端側には、検出部と一部重なるように吸収パッドを取り付けた。
【0123】
上記製作した農薬検出ストリップを用いて農薬検出方法を実施した。まず、試料としてダイアジノンオクソン体が5ppmのPBS (リン酸緩衝液)400μlを準備し、製作した農薬検出ストリップBの含浸部に含浸させて展開させた。また、比較のために農薬を含まない試料PBS400μlを、製作した農薬検出ストリップAの含浸部に含浸させて展開させた。展開開始から7分後の状態を図26に示す。農薬を含まない資料を含浸させた農薬検出ストリップAの検出部は青く変色し始めた。農薬を含む資料を含浸させた農薬検出ストリップBは、色の変化はまったく認められなかった。本実施例の農薬検出ストリップBでは5ppmの濃度のダイアジノンオクソン体が検出可能であることがわかる。
【0124】
本発明の農薬検出ストリップは、上記実施例に限定されることはなく、含浸部に固定するAChEの量、阻害させる時間(すなわち含浸部から検出部までの距離)を調節することによって、様々な濃度の農薬の検出が可能となる。低濃度の農薬も検出可能であり、例えば食物中の低濃度の残留農薬を検出することにより、簡単な検査で食品の安全性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】神経伝達系のメカニズムを説明する説明図
【図2】本発明の農薬検出原理を説明する説明図
【図3】(a)は本実施の形態の農薬検出キットの平面図であり、(b)は基体の分解斜視図
【図4】他の実施の形態の農薬検出キットの平面図
【図5】本実施の形態の農薬検出ストリップの斜視図
【図6】有機リン系農薬であるダイアジノンオクソン体の構造式
【図7】2種類のアセチルコリンエステラーゼの検討結果をグラフ化した図
【図8】色々なダイアジノン濃度を用いたときのAChEの残存活性をグラフ化した図
【図9】AChEとダイアジノンの阻害反応時間を変化させたときの残存酵素活性をグラフ化した図
【図10】反応条件の最適化の結果をグラフ化した図
【図11】DTNB固定化量の検討結果を示す図
【図12】DTNBを固定化したチップ状の基体でのAChEの検討結果を示す図
【図13】ATCh固定化量の検討結果をグラフ化した図
【図14】ATCh固定化量の検討結果を示す写真
【図15】最適なAChE量の検討結果を示す図
【図16】リンゴジュースによるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討結果を示す図
【図17】リンゴ抽出液中のダイアジノン検出結果を示す図(リンゴ抽出液がAChEに与える影響)
【図18】リンゴ抽出液中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の経時変化のグラフ)
【図19】リンゴ抽出液中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の様子を表す写真)
【図20】ダイアジノンオクソン体の検量線
【図21】ダイアジノン抽出溶液のピーク面積を示すグラフ
【図22】オレンジ中のダイアジノン検出結果を示す図(リンゴ抽出液がAChEに与える影響)
【図23】オレンジ中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の経時変化のグラフ)
【図24】オレンジ中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の様子を表す写真)
【図25】反応時間によりアセチルコリンエステラーゼが各濃度の農薬によって阻害される程度を調べた結果を示すグラフ
【図26】本実施例の農薬検出ストリップを用いて農薬検出方法を実施した結果を示す写真
【符号の説明】
【0126】
K 農薬検出キット
1 基体
1a 容器
1b 吸収体
1c オーリング
2 容器
3 検出手段
S 農薬検出ストリップ
10 含浸部
11 検出部
12 支持体
13 サンプルパッド
14 吸収パッド
H 含浸部と検出部との間に設けられる間隔
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品などの試料に残留する農薬を検出する農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数十年、農業においては、世界的な人口増加に伴う食糧の安定供給のため、農薬が大量に使われてきた。しかし、これらの使用により飲料水や食べ物に残留化学物質がみられ、人間にとって有害な影響が出てきている。
【0003】
その中でも、いくつかの農薬、特に有機リン系農薬やカーバメート系農薬は急性の毒性を起こすことが示されており、特に小さな子供にその兆候が見られる。有機リン系などの殺虫剤農薬の長期的影響としては、遅発性神経障害が有名である。これを有機リン誘導遅発(遅延)性神経毒という。急性中毒は神経伝達に関わる酵素であるアセチルコリンエステラーゼを阻害することによって起こり、遅発性神経障害は、有機リン急性中毒の1〜2週間後に現れる四肢の脱力と運動失調、その後の麻痺が特徴である。病理学的には脊髄および抹消神経中の長い軸索の変性がある。また、脳の特定部位の変性も明らかになっている。
【0004】
かかる状況から、残留農薬の検出が可能となる技術の開発は、安全安心な食物や飲料水などの安定供給および汚染被害の予防とその対策のために急務となっており、これまでに様々な農薬検出方法や検出装置が提案されている。農作物中の残留農薬の検出・測定は現在、GasChromatography(GC)、High PerformanceLiquid Chromatography(HPLC)、MassSpectrometer (MS)などの機器分析による方法が広く行われている。これらの方法は高感度であり、正確性が高く、農作物から農薬を抽出するのに同じ方法であれば一度にたくさんの農薬を分析できるという利点がある。
【0005】
また、免疫検定の応用であり、残留農薬の分析にこの免疫学の手法を応用するバイオアッセイ(生物検体法)と呼ばれる測定方法の開発が進んでいる。これによれば、抗原と抗体の反応を利用して、目的とする物質(ここでは農薬)を特定し、その反応の程度から物質の量を測定することができる。これまでは、タンパク質などの分子量の大きな物質は比較的容易に抗体を作製できたが、農薬のように低分子物質や種類によっては金属元素を含む物質の抗体を作製することは難しかった。しかし、近年、このような物質に対する抗体の作製に道が開けたことで,イムノアッセイによる農薬分析が可能になってきた。このイムノアッセイによって分析した場合、機器分析のような高価な分析機器は必要とせず、比較的安価な機器と市販のイムノアッセイ分析キットを用意するだけで済み、ピペット操作に慣れた人であれば1日に50点以上の分析をこなすことが可能である。
【0006】
また、他の分析法としてニトロベンジルピリジン法がある。4−(4−ニトロベンジル)ピリジンは、ヨウ化メチルなどのアルキル化剤の呈色試薬として用いられていたもので、その後、薄層クロマトグラフでの有機リン系農薬の呈色試薬として用いられるようになった方法である。また、硝化細菌を用いたセンサもあり、この方法は硝化細菌が様々な化学物質に対して極めて低い濃度でも阻害を受ける性質を用いて検出する方法である。
【0007】
たとえば、下記非特許文献1には、GC, HPLCでの残留農薬の検出方法が開示されている。
【非特許文献1】J.Sherma,G.Zweig,Anal.Chem.55(1983),p.57R
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、GCや、HPLCや、MSなどの機器分析による農薬検出は、農薬ごとの分析が主体で検査に時間がかかり、対象にする農薬によっては熟練した研究者でも5から10点程度の分析に数日を要することが稀ではない。また、危険な有機溶媒を使用するので空調設備が必要であり、分析装置自体も高価で、さらに装置の維持費、人件費などがかかるので非常に多くのコストがかかってしまう。また、操作が煩雑であり、一つの分析機器で分析できる検体数が少なく、農薬抽出時に高純度の有機溶媒を多量に使うので危険な作業が伴うという問題もある。
【0009】
また、イムノアッセイによる農薬分析では、1農薬に1キット必要であり、また国内で登録されている全ての農薬にイムノアッセイ分析キットが用意されているわけではない。さらに、これらの分析キットは使用期限が短く、異なる作物では分析が困難な場合もあり、交差反応性があるなどの欠点を持ち、こちらの方法も生産の過程で安全を確認する手法とはなりえていない。
【0010】
また、ニトロベンジルピリジン法は、100℃で加温できる装置が必要であることや目視的に判断するために、エーテルを必要とする、プロポパスなど、微量では発色しないものがあるなどの欠点がある。硝化細菌を用いた方法は、装置が大型で高価であるという欠点がある。
【0011】
このように、現在用いられている方法では多くの問題があり、各現場で利用されるに至っていない。食の安全の観点からは、同時に多数の農薬について残留を簡易にスクリーニングすると同時に、最も人体に対する害が懸念されている、神経伝達系を阻害する農薬の残留を迅速、簡便、安全且つ安価に検出する検出手法の開発が強く望まれている。
【0012】
そこで本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、神経伝達系を阻害する農薬の残留を、迅速・簡便・安全且つ安価に検出可能な農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、前述の目的を達成するために長期にわたり検討を重ねてきた。その結果、神経伝達系を阻害する農薬の残留を迅速、簡便、安全且つ安価に検出するためには、農薬によるアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの活性阻害のメカニズムを利用することが有効であるとの知見を得るに至った。
【0014】
ここで、理解のために、神経伝達系のメカニズムを説明する。図1は神経伝達系のメカニズムを説明する説明図である。
【0015】
ヒトを含めて哺乳類では個々の筋繊維(筋細胞)は1本の運動神経線維によって支配されている。この運動神経終末端と筋細胞が接触している部位は神経筋接合部あるいは終板とよばれ、直径約20μmの円盤状の形態を示す。神経終末端にはCa2+を選択的に透過させるCa2+チャンネルが密に存在する。神経終末端に活動電位が到達するとその脱分極によりCa2+チャンネルが開き(Ca2+に対する透過性が上昇すること)、その濃度勾配によりCa2+が終末端に流入しアセチルコリンが放出される。この伝達物質の放出機構の詳細は不明であるが、その放出は神経終末端内のCa2+濃度に依存する。放出されたアセチルコリンは約50nmの神経−筋間隙を攪拌し、筋細胞膜表面に存在するアセチルコリンレセプターと結合し、アセチルコリンレセプターチャンネルが開く。このレセプターチャンネルは陽イオン(Na+、K+、Ca2+)に対して透過性を示し、その結果、筋細胞の神経筋接合部は脱分極を示す。この脱分極は終板電位とよばれる。筋細胞が脱分極すると、神経線維の場合と同様に、Na+に対する透過性が高まり活動電位が発生し、この興奮は筋細胞全長に伝導し筋が収縮する。正常条件下では、運動神経終末から放出されるアセチルコリンが存続する限り筋細胞に脱分極が維持されるはずである。しかし、終板電位は約1msecをピークにしてその後、減少する。これは神経終末端から放出されたアセチルコリンが神経筋接合部に存在するアセチルコリンエステラーゼによってコリンと酢酸に急速に分解されるからである。分解産物のコリンは運動神経終末端に取り込まれ、再びアセチルコリンの合成に参与し、伝達物質として放出される。
【0016】
つぎに、農薬による神経伝達系阻害のメカニズムを説明する。アセチルコリンの放出とそのレセプターの応答は正常の神経−筋伝達に必須であるから、これらの異常は当然、筋活動の障害の原因となる。有機リン系やカーバメート系農薬などの神経伝達系を阻害する農薬は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と不可逆的に結合する。そのため、これらの農薬は、神経シナプスにおいて、アセチルコリンを分解するAChEの働きを阻害し、アセチルコリンが過剰となる。その結果、正常な神経伝達が行われず、様々な中毒を引き起こす。これは、コリンエステラーゼを酵素とする場合も同様である。
【0017】
本発明は、この神経伝達系疎外のメカニズムに基づいて完成されたものであり、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼが有機リン系、カーバメート系農薬などの神経系阻害農薬によって阻害されて酵素活性を失うことを利用して、農薬を検出するものである。図2は、本発明の検出原理を説明する説明図である。アセチルコリンエステラーゼはアセチルチオコリンと酵素反応してチオコリンを生成する。一方、神経系阻害農薬は、アセチルコリンエステラーゼと不可逆的に結合して働きを阻害する。そこで、試料とアセチルコリンエステラーゼとを混合し、その混合液をアセチルチオコリンに添加し、生成されるチオコリンを検出する。試料中に存在する農薬の量に応じて、アセチルコリンエステラーゼの活性が阻害され、生成されるチオコリンの量が変化する。生成されるチオコリンを検出することにより、間接的に試料中の農薬を検出する。チオコリンの量を測定することにより、試料中の農薬を定量的に検出することも可能である。コリンエステラーゼを酵素とする場合についても同様である。
【0018】
チオコリンを検出する手段としては、様々なものが考えられるが、例えばチオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤が挙げられる。発色剤としては、5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoic acid(DTNB)が好適である。DTNBはチオコリンと反応すると黄色色素を形成する。試料中の農薬の濃度に応じて、生成されるチオコリンの量が変化し、チオコリンの量に応じて黄色色素が形成され、発色の程度によりチオコリンの量を測定することができる。試料中に農薬がある場合は不可逆的に農薬がアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと複合体を形成し、反応が進まずに発色しない。逆に、農薬がない(もしくは量が少ない)場合は阻害されずに発色する。
【0019】
本発明は、上記検出原理に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明に係る農薬検出方法は、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合溶液をアセチルチオコリンに添加して反応させ、生成されたチオコリンを検出することを特徴とする。
【0020】
アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料とを混合すると、試料中に存在する有機リン系やカーバメート系農薬などの神経伝達系を阻害する農薬とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼが不可逆的に結合し、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの活性が阻害される。その混合液をアセチルチオコリンに添加すると、農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとが酵素反応してチオコリンが生成される。すなわち、試料中の農薬の濃度に応じて生成されるチオコリンの量が変化する。生成されたチオコリンを検出することにより、間接的に試料中の農薬を検出することが可能となる。本発明によれば、農薬の種類によって個別に分析する必要もなく、有機リン系農薬およびカーバメート系農薬といった神経伝達系を阻害する農薬を幅広く検出することが可能である。いずれの工程も簡易且つ迅速に行うことが可能であり、危険な要素も含まれていないため安全性も高い。大規模な装置や高価な溶媒なども不要であり、低コストで検出することが可能である。
【0021】
前記アセチルチオコリンは基体に固定されていることが好ましい。この発明によれば、アセチルチオコリンは基体に固定されているため、取り扱いが容易である。この固定状態としては、液状としたアセチルチオコリンを基体に滴下して乾燥固定しても良いし、液体状又はジェル状又はポリマー状としたアセチルチオコリンを基体に設けられた収納スペースに収納固定するものであっても良い。
【0022】
前記チオコリンの検出は、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤を用いることが好ましい。この発明によれば、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤を用いることにより、目視による確認が可能となる。
【0023】
前記発色剤又は発光剤はアセチルチオコリンと混合されて前記基体に固定されていることが好ましい。この発明によれば、基体に固定された発色剤又は発光剤とアセチルチオコリンに、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合液を添加するという単一の操作で、チオコリンの生成の工程と発色又は発光の工程が連続して行われる。
【0024】
前記混合液を前記アセチルチオコリンに添加した後に水分を蒸発させることが好ましい。ここで、水分の蒸発は、わずかな蒸発でも良く、完全な蒸発(乾燥)でも良い。この発明によれば、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合液を、アセチルチオコリンに添加した後に乾燥しやすい状態にして、水分を蒸発させると、酵素反応が速やかに停止し、農薬を速やかに検出することができる。
【0025】
前記アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料との混合に際し、試料に対するアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの混合量を調整することが好ましい。この発明によれば、試料に対するアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの混合量を調整することにより、農薬の検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができる。
【0026】
また、本発明の農薬検出キットは、基体に固定されたアセチルチオコリンと、容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと、チオコリンを検出可能な検出手段とを備えることが好ましい。
【0027】
試料と容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとを混合すると、試料中の農薬とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとが不可逆的に結合し、試料中の農薬濃度に応じてアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの活性が阻害される。その混合液をアセチルチオコリンが固定された基体に滴下すると、農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとの酵素反応によりチオコリンが生成される。生成されたチオコリンを検出手段により検出することにより、間接的に農薬を検出することができる。
【0028】
前記検出手段は、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤であることが好ましい。発色剤又は発光剤を用いることにより、目視による確認が可能となる。
【0029】
前記発色剤又は発光剤は、アセチルチオコリンと混合されて基体に固定されていることが好ましい。この発明によれば、発色剤又は発光剤がアセチルチオコリンと混合されて基体に固定されているため、取り扱いが容易である。基体に固定された発色剤又は発光剤とアセチルチオコリンに、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合液を添加するという単一の操作で、チオコリンの生成の工程と発色又は発光の工程が連続して行われる。
【0030】
前記固定は乾燥固定であることが好ましい。この発明によれば、添加した混合液が乾燥しやすく、乾燥により酵素反応が停止するため、速やかに農薬を検出することができる。
【0031】
前記容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼは添加量が調整可能であることが好ましい。この発明によれば、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの混合に際して、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼの添加量を調整することができ、検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができる。
【0032】
本発明の農薬検出ストリップは、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域と、アセチルチオコリンが固定化された領域とを備える。
【0033】
この発明によれば、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域に試料を含浸させると、試料とアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとが混合し、試料中に有機リン系やカーバメート系農薬などの神経伝達系を阻害する農薬が含まれる場合はアセチルコリンエステラーゼ(酵素)又はコリンエステラーゼが不可逆的に結合し、結合が進行しながら混合溶液がアセチルチオコリンが固定化された領域に到達する。アセチルチオコリンが固定化された領域では、農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとが酵素反応してチオコリンが生成される。すなわち、試料中の農薬の濃度に応じてアセチルチオコリンが固定化された領域にて生成されるチオコリンの量が変化し、このチオコリンの量を検出することにより、試料中の農薬を検出することが可能となる。アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域に試薬を含浸させるだけで、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと農薬との結合と、アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとアセチルチオコリンとの酵素反応が一つのストリップ上で行われるため、簡単且つ迅速に検出することが可能であり、危険な要素も含まれていないため安全性も高い。大規模な装置や効果な溶媒なども不要であり、低コストで検出可能である。
【0034】
また、本発明の農薬検出ストリップは、前記アセチルチオコリンが固定化された領域には、さらにチオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤が固定されていることが好ましい。この発明によれば、アセチルチオコリンが固定化された領域で生成されたチオコリンと発色剤又は発光剤とが反応して発色又は発光するため、ストリップ上で目視による確認が可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップによれば、農薬によるアセチルコリンエステラーゼの活性阻害を利用し、アセチルチオコリンとアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼとの酵素反応により生成されるチオコリンを検出することにより、試料に含まれる農薬を検出することができることから、分析等の複雑で危険な作業や大規模な設備などが不要であり、迅速、簡便、安全、且つ、安価に検出することが可能である。
【0036】
チオコリンの検出手段として発色剤や発光剤を用いれば、目視による確認が可能となる。混合液を前記アセチルチオコリンに添加した後に乾燥させることにより、酵素反応を停止させ、発色状態や発光状態の確認ができ、農薬を速やかに検出することができる。
【0037】
前記アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料との混合に際し、試料に対するアセチルコリンエステラーゼの混合量を調整すれば、農薬の検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができる。農薬検査では、試料中の農薬濃度が閾値以上であるか未満であるかを検査する場合が多い。農薬の検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することで、発色や発光の有無等により試料中の農薬濃度が閾値以下であるか未満であるかがわかり、判断が容易となる。
【0038】
また、本発明の農薬検出キットや農薬検出ストリップは、大規模な部材や高価な溶媒なども不要な簡単な構成であり、小型化及び低コスト化を図ることができる。また、検出作業や結果の判断も簡単であり、危険な作業も不要である。
【0039】
これらの利点から、本発明の農薬検出方法や農薬検出キットや農薬検出ストリップを広く普及させることが可能であり、市場における様々な段階で、最も人体に対する害が懸念されている神経伝達系を阻害する農薬の検出を行うことにより、安全性の確保および汚染被害の予防とその対策を強化することができる。
【0040】
また、本発明の農薬検出方法や農薬検出キットや農薬検出ストリップを一次スクリーニングに使用すると、より効果的である。すなわち、試料を、まず本発明の農薬検出方法や農薬検出キットや農薬検出ストリップを用いて簡易、迅速、且つ安価な検査を行い、農薬が検出されたものに関しては、従来の分析により高精度な検査を行う。未検出のものは、そのまま出荷する。これにより、食物の検査を簡易、迅速、且つ、安価に行いつつも精度を維持することが可能であり、食物の効率的な農薬検査、及び、安全な食物の安定供給に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明に係る農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップについて詳細に説明する。本実施の形態では、アセチルコリンエステラーゼを酵素として用いる場合を例として説明するが、コリンエステラーゼを酵素として用いる場合についても同様である。
【0042】
本発明の農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップにより検出可能な農薬は、有機リン系農薬およびカーバメート系農薬といった神経伝達系を阻害する農薬である。たとえば、米に含まれる神経伝達系阻害農薬としては、下記のものがある。有機リン系農薬としては、Diazinon、Malathion、Parathion 、Ethoprophos、Etrimfos、Chlorpyrifos、Chlorfenvinphos、Terbufos、Fenitrothion、Fenthion、Phenthoate、Butamifosなどが挙げられる。カーバメート系農薬としては、Aldicarb、Isoprocarb、Esprocarb、Oxamyl、Carbaryl、Thiobencarb、Pyributicarb、Fenobucarb、Propamocarb、Bendiocarb、Methiocarbなどが挙げられる。
【0043】
<農薬検出方法>
まず、本発明の農薬検出方法について説明する。本発明の農薬検出方法では、アセチルコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合溶液をアセチルチオコリンに添加して酵素反応させ、酵素反応の結果として生成されたチオコリンを検出することにより、間接的に試料中の農薬を検出するものである。
【0044】
ここで、試料とは、農薬による汚染の可能性のある様々なものをいい、例えば、食物や飲料水などである。食物としては、例えば、リンゴやミカンなどの果実や、野菜・穀物などの農作物や、冷凍食品やフリーズ食品などの加工後の食品、飲料水としては水道水や清涼飲料がある。試料はこれらに限定されることはなく、本発明は様々なものに広く適用可能である。
【0045】
先ず、前処理として、試料を本発明により検査可能な状態とする。試料がリンゴやミカンなどの多水分のものである場合は、果汁などの状態で成分を抽出して、これを試料とする。また、試料が米などの水分の乏しいものである場合は、ミキサーで細かく砕き、ヘキサン、メタノール等に粉砕した米を溶かして成分の抽出を行った後、溶媒を気化してとばし、バッファーを用いて再度溶かして抽出液を調製し、これを試料とする。
【0046】
つぎに、前処理済の溶液状の試料とアセチルコリンエステラーゼとを混合して混合液Aを調整し、所定時間放置する。試料中に、神経伝達系を阻害する農薬が含まれる場合は、農薬とアセチルコリンエステラーゼとが不可逆的に結合し、アセチルコリンエステラーゼの活性が阻害される。試料に含まれる農薬の濃度に応じて、阻害されるアセチルコリンエステラーゼの量が変動する。
【0047】
つぎに、所定時間放置した農薬とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを所定量だけアセチルチオコリンに添加する。農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼがアセチルチオコリンと酵素反応し、チオコリンを生成する。農薬と結合したアセチルコリンエステラーゼは不活性であり酵素反応はおこさない。その結果、生成されるチオコリンの量が試料中の農薬濃度を反映することとなり、農薬濃度が高いとチオコリンの量は少なくなり、農薬濃度が低いとチオコリンの量は多くなる。
【0048】
つぎに、生成されたチオコリンを検出する。チオコリンを検出することにより試料中の農薬を検出することが可能となる。
【0049】
チオコリンの検出には、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤を用いることが好ましい。発色剤又は発光剤を用いることにより、目視による確認が可能となる。発色剤としては、DTNB(5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoic acid)を用いることが好ましい。チオコリンが生成された反応液とDTNBとを混合すると、黄色色素(5‘−Mercapoto−2−nitrobenzoic
acid)を形成し、黄色を発色する。チオコリンの量が多いほど発色の程度は強くなり、発色の程度を目視で確認するだけで簡単にチオコリンの量、すなわち、農薬の濃度がわかる。
【0050】
チオコリンの検出は、農薬とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aをアセチルチオコリンに添加した後、別途、発色剤や発光剤等によりチオコリンを検出しても良い。また、予めアセチルチオコリンと発色剤や発光剤等の検出手段を混合しておき、そこに、農薬とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを添加しても良く、これによれば、混合液を添加するという単一の操作で、酵素反応からチオコリン検出(DTNBの場合は黄色色素の形成)が連続して行われる。
【0051】
また、アセチルチオコリン、又は、アセチルコリンと検出手段(DTNBなど)は、ろ紙などの上に乾燥固定することが好ましい。これにより、混合液Aと混合して酵素反応させたときに、反応液が蒸発しやすくなる。反応液が蒸発していくと酵素反応が停止し、それ以上、酵素反応が進まないため、発色状態を維持させることができる。アセチルチオコリンがろ紙などに乾燥固定されている場合は、酵素反応が停止し、発色状態が維持されるため、速やかに検査を行うことができる。
【0052】
また、農薬検査では、試料中の農薬濃度が閾値以上であるか未満であるかを検査する場合が多い。試料とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを作る際に、試料に対するアセチルコリンエステラーゼの混合量を調整することにより、検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することが可能となる。アセチルコリンエステラーゼの混合量に応じて、試料中の農薬により活性が阻害されるアセチルコリンエステラーゼの量が変動する。試料中のある濃度の農薬と、混合したアセチルコリンエステラーゼとが過不足無く複合体を形成すると、その農薬濃度を閾値として、閾値以上の農薬濃度ではチオコリンが生成されず、閾値未満の農薬濃度では農薬濃度に応じてチオコリンが生成される。チオコリンが検出されたか否か(すなわち、発色したか否か)を確認するだけで、農薬濃度が閾値以上か未満かの判断を容易に行うことができる。
【0053】
<農薬検出キット>
つぎに、本発明の農薬検出キットKについて説明する。図3(a)は農薬検出キットKの平面図であり、(b)は基体1の分解斜視図である。農薬検出キットKは、基体1に固定されたアセチルチオコリンと、容器2に収納されたアセチルコリンエステラーゼと、チオコリンを検出可能な検出手段3とを備える。
【0054】
基体1は、中央部分に凹部を有するプラスチック等の樹脂製の容器1aと、凹部に配置されるろ紙などの吸収体1bとを備えるチップ状の基体である。その構造は、図3(b)に示すように、容器1aの凹部に吸収体1bが嵌め込まれ、吸収体1cはオーリング1cで容器1aに固定されている。吸収体1bはオーリング1cを外して取替え可能であり、吸収体1bを取り替えるだけで再利用可能となっている。吸収体1には、アセチルチオコリンが乾燥固定されている。乾燥固定とは、まず、吸収体1にアセチルチオコリンを滴下し、乾燥させることにより成分を吸収体1に固定した状態である。基体1は、容器1aの凹部内の反応液が蒸発しやすい形状をしていることが好ましく、本実施の形態では凹部が上向きに大きく開口している。
【0055】
容器2は、プラスチック等の樹脂製あり、その容器2中にはアセチルコリンエステラーゼが収納されている。その容器2には取り出し口が設けられており、アセチルコリンエステラーゼを所望の量だけ取り出して試料と混合可能となっている。
【0056】
検出手段3は、チオコリンを検出する機能を備え、チオコリンに反応してシグナルを発するものであれば良く、例えば、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤や発光剤などが挙げられる。本実施の形態ではチオコリンと反応して黄色色素を形成し、チオコリンの量に合わせて発色の程度が変化するDTNBを用いた。この検出手段(DTNB)3は、アセチルチオコリンと混合されて基体1のろ紙に乾燥固定されており、アセチルチオコリンと一体化されている。
【0057】
この農薬検出キットKは、下記のように使用される。まず、前処理として試料の溶液を準備し、これを試料とする。これは、上記農薬検出方法にて説明したものと同様である。
【0058】
つぎに、溶液上の試料と容器2に収納されたアセチルコリンエステラーゼを混合し、混合液Aを作る。試料中に農薬が含まれている場合は、アセチルコリンエステラーゼと結合して複合体を形成し、農薬の濃度に応じてアセチルコリンエステラーゼの活性が阻害される。
【0059】
つぎに、その混合液Aを、基体1のアセチルチオコリンと検出手段3が乾燥固定された吸収体1bに滴下する。混合液Aに農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼが存在する場合は、吸収体1に固定されたアセチルチオコリンと酵素反応し、チオコリンが生成される。吸収体1に固定された検出手段(DTNB)は、生成されたチオコリンと反応し、黄色色素を形成して発色する。チオコリンの量に応じて発色するため、発色の程度を目視により確認すれば、チオコリンの量を判断できる。すなわち、試料中の農薬濃度が高い場合は発色の程度が弱く、農薬濃度が低い場合は発色の程度が強い。この発色の状態を目視により確認することで、試料中の農薬濃度を確認することができる。
【0060】
なお、アセチルチオコリンは基体1に乾燥固定されているため、アセチルチオコリンと混合液Aとの反応液が蒸発しやすくなっている。反応液が蒸発すると酵素反応が停止し、それ以上、酵素反応が進まないため、発色状態を維持させることができ、速やかに検査を行うことができる。この点は、上記農薬検出方法と同様である。
【0061】
また、検出手段(DTNB)3は、基体1に乾燥固定することなく、別途、個別の容器に収納した状態としても良い。図4は、他の実施の形態の農薬検出キットKの平面図である。基体1には、アセチルコリンエステラーゼのみが乾燥固定されている。この基体1に混合溶液Aを滴下した後に、個別に収納された検出手段(DTNB)3を基体1の吸収体1bに滴下する。これにより、基体1に乾燥固定されたアセチルチオコリンと混合溶液Aとが反応して生成されるチオコリンに、滴下された検出手段(DTNB)3が反応し、チオコリンの量に応じた程度で黄色発色する。
【0062】
また、試料とアセチルコリンエステラーゼとの混合液Aを作る際に、試料に対するアセチルコリンエステラーゼの混合量を調整することにより、検出感度を調整することが可能となる点は、上記農薬検出方法と同様である。
【0063】
また、本実施の形態では、アセチルチオコリンは基体1に乾燥固定されているが、例えば、基体1に収納スペースを設けて、液状、ジェル状、ポリマー状などのアセチルチオコリンを収納スペースに収納することにより固定しても良い。
【0064】
<農薬検出ストリップ>
つぎに、本発明の農薬検出ストリップSについて説明する。図5は農薬検出ストリップSの斜視図である。農薬検出ストリップSは短冊形状であり、アセチルコリンエステラーゼを保持する領域である含浸部10と、アセチルチオコリン及び発色剤が固定化された領域である検出部11とを備える。本実施の形態では、短冊形状の支持体12に各部10,11の機能を果たす部材を取り付けて構成されている。農薬検出ストリップSの上流側には含浸部10が設けられており、含浸部10から間隔Hを設けて下流側に検出部11が設けられている。なお、支持体12との間に含浸部10を挟むようにサンプルパッド13を備え、検出部11よりも下流側には吸収パッド14を備える。
【0065】
支持体12としては、この種のイムノクロマトグラフィー法に用いられるメンブレンを制限無く使用することができ、例えばニトロセルロース等を用いることができる。本実施の形態では短冊形状のニトロセルロースを用いる。
【0066】
含浸部10は、アセチルコリンエステラーゼを移動(展開)可能な状態で保持している。本実施の形態では、短冊形状に成形したグラスウールにアセチルコリンエステラーゼを含む溶液を含浸させて保持させたものを用いている。グラスウールの上面にはサンプルパッド(例えば吸水性に優れたニトロセルロース等)13を配置し、支持体12とサンプルパッド13の間に配置される含浸部10に試料が保持されやすい構成として反応時間を確保している。また、含浸部10は比較的に吸着能の低いグラスウールとすることにより、アセチルコリンエステラーゼ等の検出部11方向への移動(展開)がスムーズに行われるようにしている。含浸部10の部材としては、これに限定されるものではなく、例えばガラス繊維不織布やセルロース類布、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類なども使用可能である。
【0067】
検出部11には、アセチルチオコリン、及び、チオコリンと反応して発色する発色剤が固定化されている。検出部11の部材は、アセチルチオコリンと発色剤とが固定可能であればよく、本実施の形態では、短冊形状のニトロセルロースを用いている。その他、ナイロン、PVDFを用いることも可能である。支持体12の所定位置にアセチルチオコリンや発色剤を直接固相化してもよい。また、発色剤に代えて、チオコリンと反応して発光する発光剤を用いても良い。
【0068】
含浸部10と検出部11との間には間隔Hが設けられている。含浸部10に保持されているアセチルコリンエステラーゼと含浸部10に含浸された試料とは、検出部11に到達するまで反応が進行するため、間隔Hは、その反応時間を調整する役割を果たしている。したがって、間隔Hは所望の反応時間に応じた距離とすることが好ましい。
【0069】
吸収パッド14は、吸水性に優れたニトロセルロース等であり、上流側から下流側への試料溶液等の移動(展開)を促進したり、余剰の試料溶液等を吸収したりする。
【0070】
この農薬検出ストリップSは、支持体12の一端に試料を吸収させ、毛細管現象を利用して横方向に試料を展開させていくイムノクロマトグラフィー法による試験に利用される。まず、前処理として試料の溶液を準備し、これを試料とする。これは、上記農薬検出方法にて説明したものと同様である。
【0071】
つぎに、溶液状の試料を農薬検出ストリップSの含浸部10に含浸させる。含浸部10に保持されているアセチルコリンエステラーゼと、含浸させた試料とが混合され、試料中に農薬が含まれている場合は、アセチルコリンエステラーゼと結合して複合体を形成し、農薬の濃度に応じてアセチルコリンエステラーゼの活性が阻害される。
【0072】
含浸された試料やアセチルコリンエステラーゼ等は、農薬検出ストリップS上で上流から下流方向に展開され、検出部11に到達する。展開の間も農薬とアセチルコリンエステラーゼとの反応が進行しており、間隔Hにより、検出部11に到達した時点では反応が適度に進行した状態となる。このとき、吸収パッド14の吸収力により含浸部10から検出部11に向かって展開する作用が働き、より確実に試料等が検出部11に到達する。また、到達後の余分な試料等は吸収パッド14に吸収される。
【0073】
検出部11に到達した試料中に農薬と非結合のアセチルコリンエステラーゼが存在する場合は、検出部11に固定されたアセチルチオコリンと酵素反応し、チオコリンが生成される。さらに、検出部11に固定された発色剤は、生成されたチオコリンと反応し、色素を形成して発色する。発色剤はチオコリンの量に応じた強度で発色するため、発色の程度を目視により確認すれば、チオコリンの量を判断できる。すなわち、試料中の農薬濃度が低い場合は発色の程度が強く、農薬濃度が高い場合は発色の程度が弱い。この発色の状態を目視により確認することで、試料中の農薬濃度を確認することができる。発光剤が固定化されている場合は発光の程度を確認すればよい。
【0074】
なお、検出部11には、アセチルチオコリンのみを固定し、別途準備されているチオコリン測定手段により測定しても良い。ただし、本実施の形態のように、検出部11に発色剤や発光剤が固定されているほうが、検出部11に試料が到達すると発色又は発光により目視により結果を確認できるため、検出作業を簡単且つ速やかに行うことができる。
【0075】
以上のように、本発明の農薬検出方法、農薬検出キット、及び、農薬検出ストリップは、反応時間や作業時間が短時間で、分析等の煩雑で危険な作業や、大型で高価な装置も不要である。農薬の種類ごとに専用の分析等も不要であるため、本発明の農薬検出方法や農薬検出キットだけで神経伝達系阻害農薬を広く検出可能である。したがって、迅速、簡便、安全、且つ、安価に試料中の農薬を検出することができる。チオコリンの量に応じてシグナルが変化する検出手段を用いれば、定量的な検出も可能であり、例えばDTNBなどの発色剤や発光剤等を用いれば、検出結果を目視により簡単に確認することができる。
【0076】
また、農薬検査は、試料に閾値以上の農薬濃度であるか否かについて検査する場合が一般的である。本発明の農薬検出方法及び農薬検出キットによれば、試料と混合するアセチルコリンエステラーゼの量を調整することにより、検出感度(検出可能な農薬濃度の閾値)を調整することができ、検出されたか否かを確認するだけで、農薬濃度が閾値以上か未満かの判断を容易に行うことができる。
【0077】
以上の利点から、本発明の農薬検出方法及び農薬検出キットは、広く普及が可能であり、食物の製造、出荷、販売、購入などの様々な場面で利用可能である。これにより、安全安心な食物の安定供給が図られ、且つ、汚染被害の予防と対策を強化するこができる。
【実施例】
【0078】
<実験1>農薬検出キットの製作
以下では、検出する農薬に有機リン系農薬であるダイアジノンを例として、本発明の農薬検出キットを製作した。ダイアジノンの規制値は0.1ppmと規定されていることから、農薬検出キットは0.1ppm以上の場合にダイアジノンを検出可能となるように、下記の実験の結果に基づいて製作を行った。
【0079】
まず、96穴プレートで迅速に反応が進むアセチルコリンエステラーゼの検討を行い、次に有機リン系農薬であるダイアジノンオクソン体(図6)を用いて、今回用いる反応系が残留農薬を十分に検出できる感度を持つか検討した。そして、残留農薬規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。これらの結果を元にチップ状の基体上に固定化するDTNB、アセチルチオコリン、アセチルコリンエステラーゼの条件等を検討した。
【0080】
(1−1)試料および装置
酵素活性測定には、Acetyl cholinesterasefrom
bovineserum(和光純薬工業)、Acetylcholinesterasefromelectric
eel(SIGMA)、Acetylthiocholinechloride(SIGMA)、5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoicacid(DTNB,DOJINDO)、Diazinon oxon standard(和光純薬工業)を用いた。チップ状の基体の中央凹部に搭載するメンブレンとしてFilter paper 1(ADVANTEC)を用いた。
【0081】
PBSのpH調整はガラス電極式水素イオン濃度指示計SS002号(堀場製作所)で行った。96穴プレートは、96穴マイクロプレート(NUNKイムノモジュール)を用い、Multi−spectrophotometer(大日本製薬)で吸光度を測定した。ガラス電極式水素イオン濃度指示計SS002号(堀場製作所)、チップ状の基体での吸光度はダイオード型光電光度計(バイオメディア)で測定した。
【0082】
(1−2)アセチルコリンエステラーゼの反応特性
有機リン系農薬であるダイアジノンは中性下では安定であるが、アルカリ性ではゆっくりと加水分解され、また酸性条件下ではより速やかに加水分解されてしまうので全ての試料は50mMのPBS(pH7)で調製を行った。また全ての反応は室温(25℃)で行った。
【0083】
(1−2−1)アセチルコリンエステラーゼの検討
使用するアセチルコリンエステラーゼの種類の検討を行った。検討対象は、ウシ血清由来のものと、電気ウナギ由来のものの2種類である。各々の種類について、0.9U/mlと0.45U/mlの濃度のアセチルコリンエステラーゼを準備し、各種類・各濃度のアセチルコリンエステラーゼを用いて、アセチルコリンエステラーゼ(40μl)と、0.43μmol/mlのアセチルコリン(Acetylthiocholine ATCh)(40μl)と、10μmol/mlのDTNB(8μl)と、pH7のPBS(200μl)を混ぜ、室温で反応させ、Multi−spectrophotometerを用いて経時的に吸光度(λ=410nm)を測定した。図7にその結果を示す。実験の結果、ウシ血清由来のものが、反応速度が速かったため、本実施の形態ではウシ血清由来のアセチルコリンエステラーゼを酵素として用いることとした。
【0084】
(1−2−2)ウシ血清由来アセチルコリンエステラーゼの阻害における反応特性
今回、農薬検出キットを作製するにあたり、有機リン系農薬の一種であるダイアジノンを用いた。0.9U/mlウシ血清由来AChE40μlとダイアジノンオクソン体(25ppm〜0.05 ppt)40μlを混ぜ2分間静置し、Acheの酵素活性を阻害してから0.43μmol/mlのATCh40μlと10μmol/mlのDTNBを8μlと50mMのPBSを200μl混ぜて反応させ、10分後の吸光度(λ=410nm)を測定した。
【0085】
0.9 U/mlのウシ血清由来AChE40μlとダイアジノンオクソン体(5〜0.025 ppb)40μlを混ぜ(2〜60分)静置し、AChEの酵素活性を阻害してから0.43μmol/mlのATCh40μlと10μmol/mlのDTNBを8μlと50mMのPBSを160μl混ぜて反応させ、10分後の吸光度(λ=410nm)を測定した。今回用いた反応系が食品中の残留農薬を検出できる感度があるか検討した。
【0086】
AChEと阻害剤である有機リン系農薬であるダイアジノンオクソン体とを反応させ酵素‐阻害剤複合体を形成させた後に、基質ATChと発色剤DTNBを加えて残存酵素活性を測定した。今回の反応系では5ppbのダイアジノンオクソン体が測定できることがわかった(図8)。
【0087】
次に酵素と阻害剤の複合体形成反応時間を変え、残存酵素活性を測定してみた結果、形成時間が10分で0.5ppbまで測定可能となり、20分で0.25ppb、60分で0.1ppbまで測定可能であることがわかった(図9)。今回の結果よりダイアジノンの残留規制値を検出できる十分な感度があることがわかった。
【0088】
(1−2−3)反応条件最適化
有機リン系農薬であるダイアジノンを用いて検出を行った。そして、食物中のダイアジノンの残留規制値(0.1ppm)に合わせて、発色をコントロールできる反応系(ダイアジノン濃度が0.1ppm以上で発色し、0.2ppm以下で発色しない反応系)を検討した。
【0089】
ATCh、DTNB、ダイアジノンの添加量を一定にし、2.4U/mlのAChEの量を変えて発色の検討を行った。具体的には、2.4U/mlのウシ血清由来AChE (30、60、70μl)とダイアジノン溶液(1〜0.001 ppm、5μl)を混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから0.43μMのATCh(40μl)と10μMのDTNB(8μl)とPBSを混ぜて反応させ、経時的に吸光度(l=410nm)を測定した。
【0090】
その結果を図10に示す。AChEの量を30、60、70μlとかえて発色を測定すると、2.4U/mlのAChEを70μl加えたときに、ダイアジノン濃度0.1ppm以下で発色し、0.2ppm以上の時に発色しない反応系を製作することができた。
【0091】
(1−3)農薬検出キットの製作
(1−3−1)メンブレンへのDTNBの固定化量の検討
上記反応条件の最適化の結果を基に、メンブレンへのDTNBとATChの固定化の最適化を検討した。
メンブレンに10μmol/mlのDTNBを8,20,50μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行った。2.4U/mlのウシ血清由来AChE70μlと0.43μmol/mlのATCh30μlを混ぜ反応させ、メンブレンに滴下し、ダイオード型光電光度計を用いて経時的に吸光度を測定した。メンブレンに固定化するDTNBの量を検討した。
【0092】
上記結果よりメンブレンに8μlの10μmol/mlのDTNBを固定化した。しかし、メンブレン上にDTNBを滴下すると溶液が広がって固定化されるので発色が薄くなることが考えられる。よって、多めに20、50μlをメンブレンに固定化し3つの発色を比較し固定化量の検討を行った。メンブレン上で反応させ発色を見ても3つともほぼ変わらず、またバックグラウンドもそれぞれ変わらない(図11)。よってメンブレン上に固定化する10μmol/mlのDTNBの量を8μlとした。
【0093】
(1−3−2)DTNB固定化メンブレンでの最適AChE量の検討
メンブレンに10μmol/mlのDTNBを8μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行った。2.4U/mlのウシ血清由来AChE(70,80,100,120μl)とダイアジノンオクソン体(1〜0.001 ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから0.43μmol/mlのATCh30μlを混ぜ反応させ、メンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。AChEの量を変えて、ダイアジノンの食品中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0094】
上記結果より10μmol/mlのDTNBを8μl固定化したチップ状の基体を用いて、AChE量を変えてメンブレン上で反応させ、発色を観察した。上記(1−2−3)の結果よりAChE70μlを滴下したがダイアジノン濃度0.1ppmではほぼ発色は見られなかった。よってAChEの量が70μlではダイアジノンオクソン体とほとんどが複合体を形成してしまい酵素活性が残っていないと考えられる。そこで反応させるAChEの量を増やしていき0.1ppmで発色する反応系を検討した。ダイアジノンオクソン体と反応させるAChE量を80、100、120μlと増やしていくと120μlの時にダイアジノン濃度0.1ppmで発色し、0.2ppmで発色を抑えることができた(図12)。
【0095】
(1−3−3)メンブレンへのATCh固定化濃度の検討
メンブレンに10μMのDTNBを8μlと(0.43、1.0、2.0、3.0、4.3μmol/ml)ATCh30 μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行った。2.4U/mlのウシ血清由来AChE100μlをメンブレンに滴下し、経時的に吸光度を測定した。ATCh濃度を変化させ、最適な固定化濃度の検討を行った。
【0096】
上記結果よりメンブレンに8μlの10μmol/mlのDTNBを固定化した。また、上記結果よりメンブレンに0.43μmol/mlのATCh30μlを滴下し固定化した。しかし、メンブレン上にATChを滴下すると溶液が広がって固定化されるので発色が薄くなることが考えられる。また、室温で自然乾燥させるのでATChが変性することも考えられる。よって、濃度を濃くした(1.0、2.0、3.0、4.3μmol/ml)ATCh30μlもメンブレンに固定化し、発色を比較して固定化濃度の検討を行った。ATChの濃度が0.43μmol/mlは反応させても発色は薄く、濃度が濃くなるに連れて発色が濃くなっているが、ATChが3.0,4.0μmol/mlではバックグラウンドの値も高くなってきている(図13,図14)。よって反応させてある程度の発色が得られ、またバックグラウンドが発色しない2.0μmol/mlをATCh固定化濃度とした。
【0097】
(1−3−4)農薬検出キットの作製(最適AChE量の検討)
メンブレンに10μmol/mlのDTNBを8μlと2.0μmol/mlのATChを30μl滴下し、一晩自然乾燥し固定化を行って農薬検出キットを製作した。そして、この農薬検出キットを用いて、ダイアジノンの規制値に合わせて発色をコントロールできるような反応系の構築を検討した。
【0098】
ATChとDTNB、ダイアジノンを一定にし、2.4U/mlのAChEの添加量を変えて、ダイアジノンの食品中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。具体的には、2.4U/mlのウシ血清由来AChE(80、100、120 μl)とダイアジノン溶液(1〜0.001 ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、メンブレンに100μl(AChEの量が80 μlの時は85 μl滴下)滴下し、経時的に吸光度を測定した。
【0099】
図15に、その結果を示す。AChEの量を80、100、120μlと増やしていくとダイアジノン濃度0.1ppmでの発色も増していった。AChE120μlの時に0.2ppm以下との発色の違いが目で見てもよくわかった。
【0100】
以上から、ウシ血清由来AChEと阻害剤である有機リン系農薬としてダイアジノンオクソン体を反応させ酵素‐阻害剤複合体を形成させた後に、ATChとDTNBを加えて残存酵素活性の測定を行った。今回行った反応系では0.1ppbまで測定できることがわかり、ダイアジノンの残留規制値を検出できる十分な感度があることがわかった。
【0101】
ダイアジノンの残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系の検討を行った。2.4U/mlのAChE70μlとダイアジノンオクソン体5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、そこに0.43μmol/mlのATChを30μlと10μmol/mのDTNBを8μlとPBS160μlを混ぜ、反応させることによって残留規制値に合わせて発色をコントロールすることができた。
【0102】
上記知見を基に、メンブレンに固定化するDTNBとATChの条件検討を行った結果、10μml/mlのDTNBを8μlで2.0μmol/mlのATCh30μlを固定化し、一晩室温で乾燥させたものを農薬検出キットとして用いた。ここで作製した農薬検出キットを用いてダイアジノンの残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系の検討を行った。2.4U/mlのAChEを120μlとダイアジノンオクソン体5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから反応させることによって残留規制値に合わせて発色をコントロールすることができた。
【0103】
本実施例において、メンブレン上で反応物質を固定化した農薬検出キットを用いて、有機リン系農薬であるダイアジノンの阻害を用いて発色を評価した。この結果は、残留農薬の規制値に合わせて発色をコントロールすることができた。よって、ここで作製した農薬検出キットを用いて実際の食品サンプルから農薬検出を行った。
【0104】
<実験2>食品からの農薬検出の検討
上記知見を基に、食品中の成分がAChEに与える影響を検討し、実際の食品にダイアジノンオクソン体を添加し農薬検出キットで検出できるか、また残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0105】
(2−1)試料および装置
食品サンプルとして、Minute Maidリンゴジュース 濃縮還元果汁100% (日本コカコーラ)、Minute Maidオレンジジュース 濃縮還元果汁100%(日本コカコーラ)を用いた。食品からダイアジノンを抽出するために、ヘキサン (和光純薬工業)、塩化ナトリウム (和光純薬工業)、アセトン (和光純薬工業)を用いた。食品サンプルのpH調整のために、ガラス電極式水素イオン濃度計SS974号(堀場製作所)を用いた。その他は第2章で用いた試薬・装置と同じものを使用した。
【0106】
(2−2)食品中の農薬の検出
上記実験1により製作された農薬検出キットを用いて、食品中の農薬の検出を行った。
【0107】
(2−2−1)リンゴジュース中の農薬検出
(2−2−1−1)リンゴジュースによるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討
製作した農薬検出キットを用いてリンゴジュース中の成分によるAChEの阻害について検討した。まず、リンゴジュースのpHを測定し、pHを7に調整した。2.4U/mlのAChE120μlとリンゴジュース5μlを混ぜ5分静置し、この混合溶液をメンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。
【0108】
作製した農薬検出キットを用いて本発明の農薬検出方法を実施し、リンゴジュースを直接測定した。リンゴジュースそのもののpHは3.75であった。これをpH7に調節して測定に用いた。pH3.75とpH7のどちらも残存酵素活性がほぼ0%であった(図16)。このことより、リンゴジュースの成分中にAChEを阻害する成分があると考えられる。
【0109】
(2−2−1−2)有機溶媒抽出溶液によるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討およびリンゴジュース中のダイアジノン検出
pH7に調整したリンゴジュース100μlにヘキサン100μlと5%塩化ナトリウム水溶液100μlを加え、1分ほど振とうさせた後、水層と有機層を分け、水層の方にさらにヘキサン50μlを加えて1分振とうした。すべての有機層を集め、窒素ガスで全てのヘキサンを飛ばしたところに50mMのPBS(pH7)を100μl加えた溶液をリンゴジュース抽出溶液とした。この溶液がAChEを阻害するか検討した。また、ヘキサンによってどれくらいのダイアジノンが抽出されているかGC−MSで測定して回収率を求めた。リンゴジュースにダイアジノン濃度が0.01〜1ppmになるように加えて、さきほどの抽出方法でダイアジノンオクソン体を抽出した。GC−MSによって測定する時はヘキサンにダイアジノンオクソン体を溶かしたままの状態で測定に用いた。
【0110】
pH7に調整したリンゴジュースをヘキサンによって抽出し、その抽出溶液がAChEを阻害するか検討した。AChE(120〜170μl)と抽出溶液5μlを混ぜ、反応させチップ状の基体に滴下した結果、残留酵素活性はほぼ100%であり阻害は見られなかった(図17,図18,図19)。よってダイアジノンは疎水性であるので有機溶媒によって抽出され、またリンゴジュース中のAChEを阻害する成分は抽出溶液には含まれていないので今回抽出した溶液は残留農薬の測定に用いることができると考えられる。また、ヘキサンによってどれくらいのダイアジノンが抽出されているかGC−MSを用いて回収率を求めた。まず、ダイアジノンオクソン体におけるピーク面積と保持時間に対する検量線を求めた(図20)。次にリンゴジュースから抽出した溶液を測定しピーク面積を求め、さきほど求めた検量線からダイアジノンオクソン体の回収率を求めた結果85%であった(図21)。
【0111】
次に、リンゴジュースにダイアジノン濃度が0.01〜1ppmになるように加えて、さきほどの抽出方法でダイアジノンオクソン体を抽出し、残留農薬検出に用いた。2.4U/mlのAChE(120〜170μl)とリンゴジュース抽出溶液(ダイアジノン濃度 1〜0.001ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、メンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。ダイアジノンのリンゴ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0112】
ダイアジノン(0.01〜1ppm)を添加したリンゴジュースをヘキサンで抽出した溶液を残留農薬検出に用い、AChEの量を変えて、ダイアジノンのリンゴ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。ダイアジノンオクソン体と反応させるAChEの量を120、140、150、160μlと増やしていくとダイアジノン濃度0.1ppmでの発色も増していった。AChEが160μlの時にダイアジノン濃度0.1ppmと0.2ppm以上との発色の違いが目で見てもよくわかった。AChEの量が170μlの時にはダイアジノン濃度が0.2ppmでも発色してしまい酵素量が多すぎる(図17,図18,図19)。よってリンゴの場合はAChEの量が160μlの時が最適であると考えられる。
【0113】
(2−2−2)オレンジジュース中の農薬検出
(2−2−2−1)オレンジジュースによるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討およびオレンジジュース中のダイアジノン検出
作製した農薬検出キットを用いてオレンジジュース中の成分によるAChEの阻害について検討した。オレンジジュースのpHを測定し、pHを7に調整した。2.4U/mlのAChEを120μlとオレンジジュース5μlを混ぜ5分静置し、この混合溶液をメンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。
【0114】
次に、オレンジジュースにダイアジノン濃度が0.01〜1ppmになるように加えて抽出せずにそのまま検出を行った。2.4U/mlのAChE(120〜160μl)とオレンジジュース(ダイアジノン濃度
1〜0.001 ppm)5μlを混ぜ5分静置し、AChEの酵素活性を阻害してから、メンブレンに100μl滴下し、経時的に吸光度を測定した。AChEの量を変えて、ダイアジノンのオレンジ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。
【0115】
上記実施例の農薬検出キットを用いて本発明の農薬検出方法を実施し、オレンジジュースを直接測定した。オレンジジュースそのもののpHは3.94であった。これをpH7に調節して測定に用いた。pH3.94と7のどちらも残存酵素活性は100%を超えていた(図22,図23,図24)。このことより、オレンジジュースの場合は抽出することなく直接残留農薬の測定ができることがわかった。
【0116】
よって、ダイアジノン(0.01〜1ppm)を添加したオレンジジュースを残留農薬検出に用い、AChEの量を変えて、ダイアジノンのオレンジ中の残留規制値に合わせて発色をコントロールできる反応系を検討した。ダイアジノンオクソン体と反応させるAChEの量を120、130、140、150、160μlと増やしていくとダイアジノン濃度0.1ppmでの発色も増していった。AChE160μlの時にダイアジノン濃度0.1ppmと0.2ppm以上との発色の違いが目で見てもよくわかった(図22,図23,図24)。よってオレンジの場合はAChEの量が160μlの時が最適であると考えられる。また、上記実施例における農薬検出キット作製の時にはAChE量は120μlであったが今回の最適量は160μlとPBSにダイアジノンを添加し測定したときと比較してAChEの量が増えている。これはオレンジジュース中の成分が基質であるATChに影響を与えてチオコリンに分解されにくくなったり、またチオコリンと発色剤であるDTNBがオレンジジュース中の成分によって反応しにくくなったり等の要因が考えられ、AChEの量が増えたのだと考えられる。
【0117】
以上の結果から、本発明の農薬検出キットを用いて本発明の農薬検出方法を実施することにより、有機リン系農薬を食品から検出でき、しかも食品によっては抽出することなく実サンプルのまま測定できる簡易一次スクリーニングツールであることが示された。なお、カーバメート系農薬についても、ほぼ同様の結果が得られ、有効であることが確認された。
【0118】
<実験3>農薬検出ストリップの製作
農薬検出ストリップを製作するにあたり、反応時間と農薬濃度を異ならせ、反応時間によりアセチルコリンエステラーゼが各濃度の農薬によって阻害される程度を調べた。実験には、有機リン系農薬であるダイアジノン、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)(WAKO,2.4U/ml)、発色剤としてチオコリンの濃度に応じて青色に変色するDTNB(5,5‘−dithiobis−2−nitrobenzoic acid)(DOJINDO)、塩化アセチルチオコリン(Sigma)を用いた。
【0119】
まず、ダイアジノンオクソン体40μlを0ppbから5ppbまで段階的に変化させながら、0.9U/mlのウシ血清由来のAChE40μlと混合させた。それぞれについて、2分、5分、10分、20分、30分、60分静置して反応時間を異ならせ、AChEの酵素活性を阻害した。その後、それぞれに対して、0.43μmol/mlのATCh40μlと10mmol/mlのDTNB8μlと50mMのPBS160μlを混ぜて反応させ、10分後の吸光度(λ=410nm)を測定した。その結果を図25に示す。
【0120】
上記実験の結果から、反応時間が進むにつれて、ダイアジノンオクソン体とAChEの結合が促進されて酵素活性が阻害され、低い吸光度を示す。このことから、低濃度の農薬についても、十分な反応時間をとることにより、測定可能であることがわかる。残留農薬の有無といった定性的検査の場合は、反応時間を十分にとることにより、信頼性を高めることが可能である。したがって、定性的検査を目的とする場合は、農薬検出ストリップの含浸部と検出部との距離を十分にとることが望ましい。
【0121】
また、反応時間が短時間(2分から10分)の時点では、比較的に高濃度(5ppbから0.25ppb)のダイアジノンオクソン体について吸光度にばらつきがあり、反応時間が長時間(20分から60分)の時点では、比較的に低濃度(0.1ppbから0.0025ppb)のダイアジノンオクソン体について吸光度にばらつきがあり、反応時間によって判断できる濃度が異なることがわかる。以上のことから、ダイアジノンオクソン体とアセチルコリンエステラーゼとの反応時間を調整することにより、所望の濃度の農薬を検出することが可能となる。したがって、定量的検査を目的とする場合は、農薬検出ストリップの含浸部と検出部との距離を検出したい農薬濃度によって調整することが望ましい。
【0122】
上記の実験の結果に基づいて農薬検出ストリップを製作した。支持体は、幅4mm,長さ55mmの短冊状のニトロセルロースを用いた。含浸部は、幅4mm,長さ8mmのグラスウールに2.4U/mlのAChEを100μl滴下乾燥させて保持させ、支持体の一端側に取り付けた。そのグラスウールの上面に幅4mm,長さ16mmのサンプルパッドを配置し、グラスウールがサンプルパッドと支持体の間に挟持される状態とした。検出部は、幅4mm,長さ5mmの短冊状のニトロセルロースにアセチルチオコリン、及び、チオコリンと反応して青色発色する発色剤を乾燥固定し、これを含浸部から18mmの間隔を設けて取り付けた。含浸部と検出部との間に設けた間隔18mmにより、反応時間として約2分を確保した。さらに、支持体の他端側には、検出部と一部重なるように吸収パッドを取り付けた。
【0123】
上記製作した農薬検出ストリップを用いて農薬検出方法を実施した。まず、試料としてダイアジノンオクソン体が5ppmのPBS (リン酸緩衝液)400μlを準備し、製作した農薬検出ストリップBの含浸部に含浸させて展開させた。また、比較のために農薬を含まない試料PBS400μlを、製作した農薬検出ストリップAの含浸部に含浸させて展開させた。展開開始から7分後の状態を図26に示す。農薬を含まない資料を含浸させた農薬検出ストリップAの検出部は青く変色し始めた。農薬を含む資料を含浸させた農薬検出ストリップBは、色の変化はまったく認められなかった。本実施例の農薬検出ストリップBでは5ppmの濃度のダイアジノンオクソン体が検出可能であることがわかる。
【0124】
本発明の農薬検出ストリップは、上記実施例に限定されることはなく、含浸部に固定するAChEの量、阻害させる時間(すなわち含浸部から検出部までの距離)を調節することによって、様々な濃度の農薬の検出が可能となる。低濃度の農薬も検出可能であり、例えば食物中の低濃度の残留農薬を検出することにより、簡単な検査で食品の安全性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】神経伝達系のメカニズムを説明する説明図
【図2】本発明の農薬検出原理を説明する説明図
【図3】(a)は本実施の形態の農薬検出キットの平面図であり、(b)は基体の分解斜視図
【図4】他の実施の形態の農薬検出キットの平面図
【図5】本実施の形態の農薬検出ストリップの斜視図
【図6】有機リン系農薬であるダイアジノンオクソン体の構造式
【図7】2種類のアセチルコリンエステラーゼの検討結果をグラフ化した図
【図8】色々なダイアジノン濃度を用いたときのAChEの残存活性をグラフ化した図
【図9】AChEとダイアジノンの阻害反応時間を変化させたときの残存酵素活性をグラフ化した図
【図10】反応条件の最適化の結果をグラフ化した図
【図11】DTNB固定化量の検討結果を示す図
【図12】DTNBを固定化したチップ状の基体でのAChEの検討結果を示す図
【図13】ATCh固定化量の検討結果をグラフ化した図
【図14】ATCh固定化量の検討結果を示す写真
【図15】最適なAChE量の検討結果を示す図
【図16】リンゴジュースによるアセチルコリンエステラーゼ阻害の検討結果を示す図
【図17】リンゴ抽出液中のダイアジノン検出結果を示す図(リンゴ抽出液がAChEに与える影響)
【図18】リンゴ抽出液中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の経時変化のグラフ)
【図19】リンゴ抽出液中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の様子を表す写真)
【図20】ダイアジノンオクソン体の検量線
【図21】ダイアジノン抽出溶液のピーク面積を示すグラフ
【図22】オレンジ中のダイアジノン検出結果を示す図(リンゴ抽出液がAChEに与える影響)
【図23】オレンジ中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の経時変化のグラフ)
【図24】オレンジ中のダイアジノン検出結果を示す図(ダイアジノン検出におけるチップ状基体の発色の様子を表す写真)
【図25】反応時間によりアセチルコリンエステラーゼが各濃度の農薬によって阻害される程度を調べた結果を示すグラフ
【図26】本実施例の農薬検出ストリップを用いて農薬検出方法を実施した結果を示す写真
【符号の説明】
【0126】
K 農薬検出キット
1 基体
1a 容器
1b 吸収体
1c オーリング
2 容器
3 検出手段
S 農薬検出ストリップ
10 含浸部
11 検出部
12 支持体
13 サンプルパッド
14 吸収パッド
H 含浸部と検出部との間に設けられる間隔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合液をアセチルチオコリンに添加して反応させ、生成されたチオコリンを検出することを特徴とする農薬検出方法。
【請求項2】
前記アセチルチオコリンは基体に固定されていることを特徴とする請求項1記載の農薬検出方法。
【請求項3】
前記チオコリンの検出は、チオコリンと反応して発色する発色剤又は発光する発光剤を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の農薬検出方法。
【請求項4】
前記発色剤又は発光剤はアセチルチオコリンと混合されて前記基体に固定されていることを特徴とする請求項3記載の農薬検出方法。
【請求項5】
前記混合液を前記アセチルチオコリンに添加した後に蒸発させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の農薬検出方法。
【請求項6】
前記アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料との混合に際し、試料に対するアセチルチオコリンの混合量を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の農薬検出方法。
【請求項7】
基体に固定されたアセチルチオコリンと、容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと、チオコリンを検出可能な検出手段とを備えることを特徴とする農薬検出キット。
【請求項8】
前記検出手段は、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤であることを特徴とする請求項7記載の農薬検出キット。
【請求項9】
前記発色剤又は発光剤は、アセチルチオコリンと混合されて基体に固定されていることを特徴とする請求項8記載の農薬検出キット。
【請求項10】
前記固定は乾燥固定であることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の農薬検出キット。
【請求項11】
前記容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼは添加量が調整可能であることを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の農薬検出キット。
【請求項12】
アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域と、アセチルチオコリンが固定化された領域とを備える農薬検出ストリップ。
【請求項13】
前記アセチルチオコリンが固定化された領域に、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤が固定化されていることを特徴とする請求項12に記載の農薬検出ストリップ。
【請求項1】
アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料とを混合し、当該混合液をアセチルチオコリンに添加して反応させ、生成されたチオコリンを検出することを特徴とする農薬検出方法。
【請求項2】
前記アセチルチオコリンは基体に固定されていることを特徴とする請求項1記載の農薬検出方法。
【請求項3】
前記チオコリンの検出は、チオコリンと反応して発色する発色剤又は発光する発光剤を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の農薬検出方法。
【請求項4】
前記発色剤又は発光剤はアセチルチオコリンと混合されて前記基体に固定されていることを特徴とする請求項3記載の農薬検出方法。
【請求項5】
前記混合液を前記アセチルチオコリンに添加した後に蒸発させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の農薬検出方法。
【請求項6】
前記アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと試料との混合に際し、試料に対するアセチルチオコリンの混合量を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の農薬検出方法。
【請求項7】
基体に固定されたアセチルチオコリンと、容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼと、チオコリンを検出可能な検出手段とを備えることを特徴とする農薬検出キット。
【請求項8】
前記検出手段は、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤であることを特徴とする請求項7記載の農薬検出キット。
【請求項9】
前記発色剤又は発光剤は、アセチルチオコリンと混合されて基体に固定されていることを特徴とする請求項8記載の農薬検出キット。
【請求項10】
前記固定は乾燥固定であることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の農薬検出キット。
【請求項11】
前記容器に収納されたアセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼは添加量が調整可能であることを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の農薬検出キット。
【請求項12】
アセチルコリンエステラーゼ又はコリンエステラーゼを保持する領域と、アセチルチオコリンが固定化された領域とを備える農薬検出ストリップ。
【請求項13】
前記アセチルチオコリンが固定化された領域に、チオコリンと反応して発色又は発光する発色剤又は発光剤が固定化されていることを特徴とする請求項12に記載の農薬検出ストリップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
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【図4】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図21】
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【図23】
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【図25】
【図26】
【公開番号】特開2007−68531(P2007−68531A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30229(P2006−30229)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月14日から16日 北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科主催の「平成16年度 修士論文研究発表」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月26日から29日 社団法人日本化学会主催の「日本化学会 第85春季年会(2005)」において文書をもって発表
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月14日から16日 北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科主催の「平成16年度 修士論文研究発表」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月26日から29日 社団法人日本化学会主催の「日本化学会 第85春季年会(2005)」において文書をもって発表
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】
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