説明

近傍界ノイズ抑制シート

【課題】 数百MHz乃至数GHzの電磁波ノイズに対して高い吸収能を有する低コストの近傍界ノイズ抑制シートを提供する。
【解決手段】 一方の面に金属薄膜1b,2bが形成された一対のプラスチックフィルム1a,2aを金属薄膜1b,2bを内側にして導電性接着剤3で接着してなり、各金属薄膜1b,2bは磁性金属からなり、かつ接着された一対の金属薄膜1b,2bの表面抵抗が20〜150Ω/□となるように各金属薄膜1b,2bの膜厚が調整されている近傍界ノイズ抑制シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、スマートフォン等の携帯情報端末や、パソコン等の電子機器等に使用するのに好適な近傍界ノイズ抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年携帯通信端末、電子機器等は多機能化及び高性能化に加えて、小型化及び軽量化が求められ、狭小なスペース内に電子部品が高密度に配置されているとともに、高速化も図られている。このため、回路や部品間の電磁波ノイズ、特に高周波ノイズが大きな問題になってきた。このような近傍界の電磁波ノイズを抑制するために、種々のノイズ抑制シートが提案され、実用化されている。
【0003】
このようなノイズ抑制シートの多くは磁性材及び/又は導電材を含有する。例えば、特開2010-153542号(特許文献1)は、基材と、Cu等の金属又はカーボンの粒子、鱗片又は細線を含有する導電性塗工材からなる導電層と、フェライト、センダスト、パーマロイ等の軟磁性材料を含有する磁性塗工材からなる磁性層とを有する電磁波ノイズ抑制シートを開示している。また特開2006-278433号(特許文献2)は、例えばFebal-Cu1-Si12.5-Nb3-Cr1-B12(原子%)の組成を有するアモルファスフレークのような軟磁性体粉末と樹脂からなるカレンダー加工した2枚以上のシートを積層し、さらにカレンダー加工により一体化した複合電磁波ノイズ抑制シートを開示している。しかし、特許文献1及び2に開示のノイズ抑制シートはいずれも十分な近傍界ノイズの吸収能を有しておらず、磁性材及び/又は導電材を樹脂に練り込んでシートに成形しているので薄肉化が困難であり、かつ製造コストが高いという問題がある。
【0004】
特開2006-279912号(特許文献3)は、準マイクロ波帯域で発生する電磁波ノイズに対して、その反射係数(S11)を−10 dB以下に、またノイズ抑制効果(ΔPloss/Pin)を0.5以上にするために、表面抵抗を空間の特性インピーダンスZ(377Ω)と整合する10〜1000Ω/□に制御した近傍界電磁波ノイズ抑制薄膜として、AlO、CoAlO、CoSiO等のスパッタ薄膜を開示している。しかし、この近傍界電磁波ノイズ抑制薄膜の電磁波吸収能は十分でない。
【0005】
特開2008-53383号(特許文献4)は、面方向と厚さ方向で熱伝導率が異なるグラファイトフィルムと、その上に形成されたFe、Co、FeSi、FeNi、FeCo、FeSiAl、FeCrSi、FeBSiC等の軟磁性体、Mn-Zn系、Ba-Fe系、Ni-Zn系等のフェライト、及びカーボン粒子を含有する軟磁性層とからなる放熱特性に優れた電波吸収・シールドフィルムを開示している。しかし、この電波吸収・シールドフィルムの電磁波吸収能も十分ではない。
【0006】
特開2006-93414号(特許文献5)は、ポリエステル等のプラスチック基体(軟磁性金属、カーボン、フェライト等の粉末を含有しても良い)に、物理蒸着法により鉄、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれた少なくとも一種の軟磁性金属を含む厚さ0.005〜0.3μmの伝導ノイズ抑制層を形成した伝導ノイズ抑制体であって、伝導ノイズ抑制層は数オングストローム間隔で軟磁性金属原子が配列された結晶格子を有する部分と、軟磁性金属が存在しないプラスチックだけの非常に小さな部分と、軟磁性金属が結晶化せずプラスチック中に分散している部分とからなる伝導ノイズ抑制体を開示している。しかし、この伝導ノイズ抑制体では伝導ノイズ抑制層は単層であり、膜厚の制御が難しい。そのためほとんどの実施例ではプラスチック基体に軟磁性金属を配合している。また、軟磁性金属を配合していないプラスチック基体を用いた唯一の実施例4では、1 GHzにおけるロス電力比(Ploss/Pin)は0.55と小さかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-153542号公報
【特許文献2】特開2006-278433号公報
【特許文献3】特開2006-279912号公報
【特許文献4】特開2008-53383号公報
【特許文献5】特開2006-93414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、数百MHz乃至数GHzの電磁波ノイズに対して安定して高い吸収能を有する低コストの近傍界ノイズ抑制シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) プラスチックフィルムに形成した金属薄膜の膜厚を表面抵抗が20〜150Ω/□になるように調整すると、近傍界ノイズに対して優れた吸収能を発揮するが、20〜150Ω/□の表面抵抗を有する金属薄膜は非常に薄いので、同じ製造ロットの間でも異なる製造ロットの間でも表面抵抗のバラツキが大きくなるのは避け難いこと、及び(b) このような薄い金属薄膜を有する一対のプラスチックフィルムを、金属薄膜を内側にして導電性接着剤で接着すると、表面抵抗のバラツキが著しく低減し、所望の表面抵抗を有する金属薄膜シートが安定的に得られることを発見し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の近傍界ノイズ抑制シートは、一方の面に金属薄膜が形成された一対のプラスチックフィルムを前記金属薄膜を内側にして導電性接着剤で接着してなり、各金属薄膜は磁性金属からなり、かつ接着された一対の金属薄膜の表面抵抗が20〜150Ω/□となるように各金属薄膜の膜厚が調整されていることを特徴とする。
【0011】
前記磁性金属はNi,Fe,Co又はその合金であるのが好ましく、特にNiであるのが好ましい。両金属薄膜の膜厚は10〜30 nmの範囲内にあるのが好ましい。接着された一対の金属薄膜の表面抵抗は30〜80Ω/□であるのが好ましい。前記金属薄膜は真空蒸着法により形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を有する本発明の近傍界ノイズ抑制シートは、数百MHz乃至数GHzの近傍界ノイズに対して高い吸収能を有するとともに、各金属薄膜が非常に薄いにも係わらず表面抵抗のバラツキが著しく低減されており、もって電磁波吸収能に関して製品間のバラツキが非常に小さいという利点を有する。このような特徴を有する本発明の近傍界ノイズ抑制シートは、携帯電話、スマートフォン等の各種の携帯情報端末や、パソコン等の電子機器における近傍界ノイズの抑制に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の近傍界ノイズ抑制シートを構成する一対のシートを示す断面図である。
【図2】本発明の近傍界ノイズ抑制シートの構造を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の近傍界ノイズ抑制シートを構成するシートの金属薄膜の構造を示す拡大断面図である。
【図4】プラスチックフィルムに形成した金属薄膜の表面抵抗を測定する方法を示す平面図である。
【図5(a)】本発明の近傍界ノイズ抑制シートの金属薄膜の表面抵抗を測定する方法を示す平面図である。
【図5(b)】図5(a) A-A断面図である。
【図6】プラスチックフィルムに蒸着したNi薄膜の表面抵抗と目標膜厚との関係を示すグラフである。
【図7(a)】入射波に対する反射波の電力及び透過波の電力を測定するシステムを示す平面図である。
【図7(b)】図7(a) のシステムを示す部分断面概略図である。
【図8】近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を測定する方法を示す部分断面概略図である。
【図9】近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を測定する方法を示す部分断面概略図である。
【図10】実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートの伝送減衰率を示すグラフである。
【図11】実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートのノイズ吸収率を示すグラフである。
【図12】実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を示すグラフである。
【図13】実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を示すグラフである。
【図14】実施例1及び比較例1及び2の近傍界ノイズ抑制シートのノイズ吸収率を示すグラフである。
【図15】比較例1及び2の近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を示すグラフである。
【図16】比較例1及び2の近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を示すグラフである。
【図17】実施例4及び5の近傍界ノイズ抑制シートの伝送減衰率を示すグラフである。
【図18】実施例4及び5の近傍界ノイズ抑制シートのノイズ吸収率を示すグラフである。
【図19】実施例4及び5の近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を示すグラフである。
【図20】実施例4及び5の近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を示すグラフである。
【図21】実施例6及び比較例3及び4の近傍界ノイズ抑制シートの伝送減衰率を示すグラフである。
【図22】実施例6及び比較例3及び4の近傍界ノイズ抑制シートのノイズ吸収率を示すグラフである。
【図23】実施例6及び比較例3及び4の近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を示すグラフである。
【図24】実施例6及び比較例3及び4の近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を示すグラフである。
【図25】実施例1及び実施例7及び8の近傍界ノイズ抑制シートのノイズ吸収率を示すグラフである。
【図26】実施例7の近傍界ノイズ抑制シートの伝送減衰率、S11及びS21を示すグラフである。
【図27】実施例7の近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を示すグラフである。
【図28】実施例7の近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を示すグラフである。
【図29】実施例8の近傍界ノイズ抑制シートの伝送減衰率、S11及びS21を示すグラフである。
【図30】実施例8の近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を示すグラフである。
【図31】実施例8の近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を示すグラフである。
【図32】比較例5〜7の近傍界ノイズ抑制シートの伝送減衰率を示すグラフである。
【図33】比較例5〜7の近傍界ノイズ抑制シートのノイズ吸収率を示すグラフである。
【図34】比較例5〜7の近傍界ノイズ抑制シートの内部減結合率を示すグラフである。
【図35】比較例5〜7の近傍界ノイズ抑制シートの相互減結合率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0015】
[1] 近傍界ノイズ抑制シートの構成要素
図1及び図2に示すように、本発明の近傍界ノイズ抑制シート10は、一方の面に金属薄膜1bが形成されたプラスチックフィルム1aからなる第一のシート1と、一方の面に金属薄膜2bが形成されたプラスチックフィルム2aからなる第二のシート2とを導電性接着剤3を介して接着してなる。
【0016】
(1) プラスチックフィルム
各プラスチックフィルム1a、2aを形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。プラスチックフィルムの厚さは10〜30μm程度で良い。
【0017】
(2) 金属薄膜
各金属薄膜1b,2bは磁性金属からなる。磁性金属としてはNi,Fe,Co又はその合金が挙げられる。金属薄膜1bは単層でも異なる磁性金属の多層でも良いが、耐食性を考慮してNiの単層とするのが好ましい。金属薄膜はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができるが、真空蒸着法が好ましい。
【0018】
磁性金属からなる薄膜1b,2bが薄くなり、導電性接着剤3を介した積層後で20〜150Ω/□の表面抵抗を有するようになると、高周波数の近傍界ノイズ、具体的には6 GHz以下、特に1〜3 GHzの近傍界ノイズに対する吸収能が著しく高くなることが分った。これは、例えば金属薄膜1bの断面を拡大して示す図3から明らかなように、金属薄膜1bは非常に薄いので全体的に厚さムラがあり、比較的厚い領域1b1と比較的薄い領域(金属薄膜が形成されていない部分も含む。)1b2とを有する。比較的薄い領域1b2は磁気ギャップ及び高抵抗領域として作用し、近傍界ノイズにより金属薄膜1b内を流れる磁束及び電流を減衰させると考えられる。
【0019】
従って、各金属薄膜1b,2bの膜厚は、導電性接着剤3を介した積層後に20〜150Ω/□の表面抵抗を有するように調整する。具体的には、金属薄膜1b,2bの膜厚は10〜30 nmが好ましく、15〜30 nmがより好ましく、20〜30 nmが最も好ましい。各金属薄膜1b,2bの表面抵抗は、図4に示すように直流四端子法で測定する。また積層後の金属薄膜1b,2bの表面抵抗は、図5(a) 及び図5(b) に示すように、一方の試験片TP1を他方の試験片TP2より大きくし、一方の試験片TP1に端子4を設けて、直流四端子法で測定する。
【0020】
しかし、金属薄膜1b,2bは薄くなるにつれて表面抵抗が増大するだけでなく、表面抵抗のバラツキが著しく大きくなる傾向があることが分った。表面抵抗のバラツキは、製品ロット間だけでなく同じ蒸着フィルム製品内にも存在する。このようなバラツキが生じるのは、非常に薄い金属薄膜の製造条件を正確に制御するのが困難であるためと考えられる。例えばNi薄膜の場合、その表面抵抗は目標膜厚に対して表1及び図6に示すように変化する。ここで、目標膜厚は、金属薄膜を形成したプラスチックフィルムの光透過率とプラスチックフィルム自身の光透過率との差から求める。
【表1】

【0021】
(3) 導電性接着剤
一対の金属薄膜1b,2bを接着する導電性接着剤3は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン等をバインダーとし、銀粉、金粉、銅粉、パラジウム粉、ニッケル粉、カーボン粉等の導電性フィラーを配合してなる。代表的な導電性接着剤の体積抵抗率、及びNiと導電性接着剤との接続抵抗は下記表2及び表3に示す通りである。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
[2] 近傍界ノイズ抑制シート
このように、非常に薄い目標膜厚で形成された金属薄膜の表面抵抗は大きくばらつくので、金属薄膜を形成した一枚のプラスチックフィルムで所望の表面抵抗の近傍界ノイズ抑制シートとするのは非常に困難である。表面抵抗のバラツキは近傍界ノイズの吸収能のバラツキを引き起す。鋭意研究の結果、一対の金属薄膜1b,2bを導電性接着剤3を介して接着すると、表面抵抗のバラツキが予想以上に低減することが分った。本発明の近傍界ノイズ抑制シートは、かかる発見に基づき得られたものである。
【0025】
例えば、種々の膜厚を有する一対のNi薄膜を、導電性接着剤として銀ペースト(藤倉化成株式会社製の「ドータイト」)を用いて、固形分基準で1.5 g/m2の塗布量で接着した場合、表面抵抗は表4に示す通りとなる。表4から明らかなように、二枚のNi薄膜を導電性接着剤3を介して接着すると、表面抵抗が低下するだけでなく、そのバラツキが著しく低減するので、所望の吸収能を有する近傍界ノイズ抑制シートを安定的に得られるようになる。
【0026】
【表4】

【0027】
接着した金属薄膜の表面抵抗が20Ω/□未満であると導電性が高すぎ、金属シートに近い挙動を示すので、ノイズ吸収能は低い。一方、接着した金属薄膜の表面抵抗が150Ω/□超になると、表面抵抗が大きすぎ、ノイズ吸収能が不十分になる。接着した金属薄膜の表面抵抗は好ましくは24〜80Ω/□であり、より好ましくは30〜80Ω/□であり、最も好ましくは35〜60Ω/□である。
【0028】
導電性接着剤3の塗布量は、ハンドリング中に両シートが剥離しない限り出来るだけ少ないのが好ましい。具体的には、導電性接着剤の塗布量(固形分基準)は0.5〜5 g/m2が好ましく、1〜2 g/m2がより好ましい。
【0029】
[3] 近傍界ノイズの吸収能の測定
(1) 伝送減衰率の測定
伝送減衰率Rtpは、図7(a) 及び図7(b) に示すように、50ΩのマイクロストリップラインMSL(64.4 mm×4.4 mm)と、マイクロストリップラインMSLを支持する絶縁基板200と、絶縁基板200の下面に接合された接地グランド電極201と、マイクロストリップラインMSLの両端に接続された導電性ピン202,202と、ネットワークアナライザNAと、ネットワークアナライザNAを導電性ピン202,202に接続する同軸ケーブル203,203とで構成されたシステムを用い、マイクロストリップラインMSLにノイズ抑制シートの試験片TPを粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの入射波に対して、反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、下記式:
Rtp=−10×log[10S21/10/(1−10S11/10)]
により求める。
【0030】
(2) ノイズ吸収率の測定
図7(a) 及び図7(b) に示すシステムに入射した電力から反射波S11の電力及び透過波S12の電力を差し引くことにより、電力損失Plossを求め、Plossを入射電力Pinで割ることによりノイズ吸収率Ploss/Pinを求める。
【0031】
(3) 内部減結合率の測定
内部減結合率Rdaは、同じプリント基板内での結合がノイズ抑制シートによりどの程度減衰するかを示すもので、図8に示すように、ネットワークアナライザNAに接続した一対のループアンテナ301,302の近傍にノイズ抑制シートの試験片TPを載置し、0〜6 GHzの高周波信号が一方のループアンテナ301から他方のループアンテナ302に送信されるときの減衰率を測定することにより求める。
【0032】
(4) 相互減結合率
相互減結合率Rdeは、2つのプリント基板間又は部品間での結合がノイズ抑制シートによりどの程度減衰するかを示すもので、図9に示すように、ネットワークアナライザNAに接続した一対のループアンテナ301,302の間にノイズ抑制シートの試験片TPを載置し、0〜6 GHzの高周波信号が一方のループアンテナ301から他方のループアンテナ302に送信されるときの減衰率を測定することにより求める。
【0033】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0034】
実施例1〜3
厚さ16μmのPETフィルム1aに真空蒸着法により下記表5に示す厚さのNi薄膜1bを形成し、第一のシート1を得た。同様に厚さ16μmのPETフィルム2aに下記表5に示す厚さのNi薄膜2bを形成し、第二のシート2を得た。第一及び第二のシート1,2を、Ni薄膜1b,2bを内側にして、導電性接着剤として固形分基準で1.5 g/m2の銀ペースト(藤倉化成株式会社製の「ドータイト」)を用いて接着した。得られた積層シートの任意の5箇所から、近傍界ノイズ抑制シートの試験片TPを切り出した。各試験片TPの表面抵抗を図5(a) 及び図5(b) に示す方法により測定した。表面抵抗の範囲及び平均値を、各Ni薄膜の厚さとともに表5に示す。表5から明らかなように、各実施例の表面抵抗のバラツキは小さかった。
【0035】
【表5】

【0036】
最も平均値に近い表面抵抗を有する試験片TPを図7(a) 及び図7(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、上記[3] の(1) 及び(2) の方法によりそれぞれ伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。さらに図8に示す方法により各試験片TPの内部減結合率Rdaを測定し、図9に示す方法により各試験片TPの相互減結合率Rdeを測定した。伝送減衰率Rtpを図10に示し、ノイズ吸収率Ploss/Pinを図11に示し、内部減結合率Rdaを図12に示し、相互減結合率Rdeを図13に示す。
【0037】
図10から明らかなように、実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートはいずれも良好な伝送減衰率Rtpを有するが、表面抵抗が40Ω/□の実施例1の近傍界ノイズ抑制シートが最も良い伝送減衰率Rtpを示した。ノイズ吸収率Ploss/Pinに関しては、図11から明らかなように、実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートはいずれも良好であり、特に約1 GHzから0.8以上になった。また図12及び図13から明らかなように、実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートはいずれも良好な内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeを示した。これから、実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートは1〜3 GHzの低周波数域を含む広い周波数範囲で優れたノイズ減衰能を有することが分る。
【0038】
比較例1及び2
厚さ200μmの市販のノイズ抑制シートNSS(大同特殊鋼株式会社製の「HyperShield」)(比較例1)、及び厚さ100μmの市販のノイズ抑制シートNSS(NECトーキン株式会社製のバスタレイド)(比較例2)に対して、実施例1と同様にしてノイズ吸収率Ploss/Pin、内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeを求めた。ノイズ吸収率Ploss/Pinを図14に示し、内部減結合率Rdaを図15に示し、相互減結合率Rdeを図16に示す。図14から明らかなように、比較例1及び2のノイズ抑制シートのノイズ吸収率Ploss/Pinは実施例1のものより劣っていた。また図15及び図16から明らかなように、比較例1及び2のノイズ抑制シートの内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeはいずれも劣っていた。
【0039】
実施例4及び5
厚さ16μmのPETフィルム1aに真空蒸着法により下記表6に示す厚さのNi薄膜1bを形成し、第一のシート1を得た。同様に厚さ16μmのPETフィルム2aに下記表6に示す厚さのNi薄膜2bを形成し、第二のシート2を得た。第一及び第二のシート1,2を、Ni薄膜1b,2bを内側にして、実施例1と同じ導電性接着剤を用いて接着した。得られた積層シートの任意の5箇所から、近傍界ノイズ抑制シートの試験片TPを切り出した。各試験片TPの表面抵抗を図5(a) 及び図5(b) に示す方法により測定した。表面抵抗の範囲及び平均値を、各Ni薄膜の厚さとともに表6に示す。表6から明らかなように、各実施例の表面抵抗のバラツキは小さかった。
【0040】
【表6】

【0041】
また実施例1と同じ方法により、伝送減衰率Rtp、ノイズ吸収率Ploss/Pin、内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeを求めた。伝送減衰率Rtpを図17に示し、ノイズ吸収率Ploss/Pinを図18に示し、内部減結合率Rdaを図19に示し、相互減結合率Rdeを図20に示す。図17から明らかなように、表面抵抗が100Ω/□及び150Ω/□の実施例4及び5の近傍界ノイズ抑制シートはいずれも良好な伝送減衰率Rtpを有するが、表面抵抗が40〜81Ω/□の実施例1〜3の近傍界ノイズ抑制シートより劣っていた。図18〜図20から明らかなように、実施例4及び5の近傍界ノイズ抑制シートはいずれも1 GHz付近から0.8以上と高いノイズ吸収率Ploss/Pinを有し、かつ良好な内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeを有していた。これから、実施例4及び5の近傍界ノイズ抑制シートも1〜3 GHzの低周波数域を含む広い周波数範囲で広い優れたノイズ減衰能を有することが分る。
【0042】
実施例6、比較例3及び4
厚さ16μmのPETフィルム1aに真空蒸着法により下記表7に示す厚さのNi薄膜1bを形成し、第一のシート1を得た。同様に厚さ16μmのPETフィルム2aに下記表7に示す厚さのNi薄膜2bを形成し、第二のシート2を得た。第一及び第二のシート1,2を、Ni薄膜1b,2bを内側にして、実施例1と同じ導電性接着剤を用いて接着した。得られた積層シートの任意の5箇所から、近傍界ノイズ抑制シートの試験片TPを切り出した。各試験片TPの表面抵抗を図5(a) 及び図5(b) に示す方法により測定した。表面抵抗の範囲及び平均値を、各Ni薄膜の厚さとともに表7に示す。表7から明らかなように、実施例6の表面抵抗のバラツキは小さかった。比較例3及び4の表面抵抗はほとんどバラツキがなかったが、約4Ω/□と小さかったので、後述の通り近傍界ノイズの吸収能が著しく劣っていた。
【0043】
【表7】

【0044】
また実施例1と同じ方法により、伝送減衰率Rtp、ノイズ吸収率Ploss/Pin、内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeを求めた。伝送減衰率Rtpを図21に示し、ノイズ吸収率Ploss/Pinを図22に示し、内部減結合率Rdaを図23に示し、相互減結合率Rdeを図24に示す。図21から明らかなように、表面抵抗が24Ω/□の実施例6の近傍界ノイズ抑制シートは良好な伝送減衰率Rtpを有するが、表面抵抗が4.5Ω/□の比較例3の近傍界ノイズ抑制シート及び表面抵抗が4.1Ω/□の比較例4の近傍界ノイズ抑制シートの伝送減衰率Rtpは劣っていた。図22から明らかなように、実施例6の近傍界ノイズ抑制シートは1〜3 GHzの低周波数域でも高いノイズ吸収率Ploss/Pinを有していたが、比較例3及び4の近傍界ノイズ抑制シートのノイズ吸収率Ploss/Pinは低かった。また相互減結合率Rdeに関しては、比較例3及び4の近傍界ノイズ抑制シートは実施例6のものより著しく劣っていた。これから、表面抵抗が20Ω/□未満になると、伝送減衰率Rtp、ノイズ吸収率Ploss/Pin及び相互減結合率Rdeのいずれも低下することが分る。
【0045】
実施例7及び8
厚さ16μmのPETフィルム1aに真空蒸着法により下記表8に示す厚さのNi薄膜1bを形成し、第一のシート1を得た。同様に厚さ16μmのPETフィルム2aに下記表6に示す厚さのNi薄膜2bを形成し、第二のシート2を得た。第一及び第二のシート1,2を、Ni薄膜1b,2bを内側にして、実施例1と同じ導電性接着剤を用いて接着した。得られた積層シートの任意の5箇所から、近傍界ノイズ抑制シートの試験片TPを切り出した。各試験片TPの表面抵抗を図5(a) 及び図5(b) に示す方法により測定した。表面抵抗の範囲及び平均値を、各Ni薄膜の厚さとともに表8に示す。表8から明らかなように、各実施例の表面抵抗のバラツキは小さかった。
【0046】
【表8】

【0047】
また実施例1と同じ方法により求めたノイズ吸収率Ploss/Pinを図25に示す。実施例7の伝送減衰率Rtp、内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeをそれぞれ図26〜28に示し、実施例8の伝送減衰率Rtp、内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeをそれぞれ図29〜31に示す。図25から明らかなように、実施例7及び8のノイズ吸収率Ploss/Pinはいずれも実施例1と同程度に良好であり、約1 GHzから0.8以上になった。また図26〜31から明らかなように、実施例7及び8の近傍界ノイズ抑制シートはいずれも良好な伝送減衰率Rtp内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeを有していた。これから、表面抵抗が44Ω/□及び33Ω/□の実施例7及び8の近傍界ノイズ抑制シートも1〜3 GHzの低周波数域を含む広い周波数範囲で広い優れたノイズ減衰能を有することが分る。
【0048】
比較例5〜7
厚さ16μmのPETフィルム1aに真空蒸着法により下記表9に示す厚さのNi薄膜1bを形成し、第一のシート1のみからなる比較例5及び7の近傍界ノイズ抑制シートの試験片TPを作製した。また、厚さ16μmのPETフィルム1aに真空蒸着法により下記表10に示す厚さのNi薄膜1bを形成してなる第一のシート1と、厚さ16μmのPETフィルム2aに下記表9に示す厚さのNi薄膜2bを形成してなる第二のシート2とを、Ni薄膜1b,2bを内側にして、実施例1と同じ導電性接着剤を用いて接着し、比較例6の近傍界ノイズ抑制シートの試験片TPを作製した。各試験片TPの表面抵抗を図5(a) 及び図5(b) に示す方法により測定した。結果を表9に示す。
【0049】
【表9】

【0050】
また実施例1と同じ方法により、伝送減衰率Rtp、ノイズ吸収率Ploss/Pin、内部減結合率Rda及び相互減結合率Rdeを求めた。伝送減衰率Rtpを図32に示し、ノイズ吸収率Ploss/Pinを図33に示し、内部減結合率Rdaを図34に示し、相互減結合率Rdeを図35に示す。図32及び図33から明らかなように、比較例5〜7の近傍界ノイズ抑制シートのいずれも伝送減衰率Rtpが著しく低く、また比較例7のノイズ吸収率Ploss/Pinも低かった。これから、比較例5〜7の近傍界ノイズ抑制シートは伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinに劣ることが分かる。
【符号の説明】
【0051】
10・・・近傍界ノイズ抑制シート
1,2・・・第一及び第二のシート
1a,2a・・・プラスチックフィルム
1b,2b・・・金属薄膜
3・・・導電性接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に金属薄膜が形成された一対のプラスチックフィルムを前記金属薄膜を内側にして導電性接着剤で接着してなり、各金属薄膜は磁性金属からなり、かつ接着された一対の金属薄膜の表面抵抗が20〜150Ω/□となるように各金属薄膜の膜厚が調整されていることを特徴とする近傍界ノイズ抑制シート。
【請求項2】
請求項1に記載の近傍界ノイズ抑制シートにおいて、前記磁性金属がNi,Fe,Co又はその合金であることを特徴とする近傍界ノイズ抑制シート。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の近傍界ノイズ抑制シートにおいて、前記金属薄膜がNiからなることを特徴とする近傍界ノイズ抑制シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の近傍界ノイズ抑制シートにおいて、両金属薄膜の膜厚が10〜30 nmの範囲内にあることを特徴とする近傍界ノイズ抑制シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の近傍界ノイズ抑制シートにおいて、接着された一対の金属薄膜の表面抵抗が30〜80Ω/□であることを特徴とする近傍界ノイズ抑制シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の近傍界ノイズ抑制シートにおいて、前記金属薄膜が真空蒸着法により形成されたものであることを特徴とする近傍界ノイズ抑制シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2012−178476(P2012−178476A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40977(P2011−40977)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】