説明

近視の診断および処置のための方法としての、BICD1遺伝子の遺伝子多型の使用

【課題】近視および/または近視関連合併症を診断する、処置する、予防する、または改善する方法の提供。
【解決手段】近視および/または近視関連合併症を診断する方法としての、BICD1遺伝子の使用。被験体から生物試料を得る段階、および生物試料におけるBICD1遺伝子において少なくとも一つのSNP遺伝子型を決定する段階であって、SNP遺伝子型の存在が、被験体が近視に対して感受性があることを示す段階。SNP遺伝子型は、SNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、およびrs10771923からなる群より選択される。さらに、近視を予防、処置するための材料をスクリーニングする方法、および近視治療物質に対する反応の確率に関して被験体を評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は近視を診断する方法に関し、特にBICD1遺伝子におけるSNP(一塩基多型)遺伝子型を決定することによって近視および/または近視関連合併症を診断する方法に関する。さらに、本発明は、近視および/または近視関連合併症を処置するための材料をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
近眼(nearまたはshort-sightness)とも呼ばれる近視は、調節力が弛緩している場合に平行光線が網膜の前で像の焦点を結ぶ、眼の屈折異常である。近視を有する人は、近くの物体ははっきりと見えるが、遠くの物体はぼやけて見える。近視の場合、眼球が長すぎるか、または角膜が急勾配でありすぎるため、眼の後部の網膜よりむしろ眼内部の硝子体内で像が焦点を結ぶ。
【0003】
近視は世界中で一般的な眼の状態である。この状態の発生率は、集団間、性別間、および年齢の間で広く変化している(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。米国において、近視の発生率は年齢12〜54歳において約25%であると推定された(非特許文献4)。Baltimore Eye Surveyにおいて、近視は、白人(28.1%)と比較して黒人(19.4%)では発生率が低かった(非特許文献5)。強度の近視(本試験において、屈折度数≦-5.0 Dとして定義)は、全ての近視眼の27%〜33%を占め、これは米国における一般集団の1.7%〜2%の発生率に相当する(非特許文献4)。台湾は、近視に関して世界でも最高リスクである地域の一つである。強度の近視に関する-6.0 D未満という定義を用いると、強度の近視はアジアではさらにありふれたものとなる。台湾における近視の割合は、台湾の男子学生において18%であり、女子学生において24%である(非特許文献3)。全体では、シンガポールの若年男性において報告された13.1%よりさらに高い(非特許文献2)。さらに、1995年および2000年に実施された二つの大規模な全国規模の調査(参加人数>10,000人)に基づくと、近視の発生率は台湾において増加している。
【0004】
強度の近視は、網膜剥離、黄斑変性、および緑内障などの、発生の可能性のある失明状態に関連している。米国における就学児の失明の5.6%は近視が原因であると推定されている。近視の光学的矯正には、眼鏡、コンタクトレンズ、角膜矯正、光学的角膜屈折矯正、およびレーザーインサイチュー角膜曲率形成術(LASIK)などの、実質的な手段が必要である。しかしながら、これらの矯正は上述の眼の合併症を予防しない。さらに、コンタクトレンズ(非特許文献6)、角膜矯正(非特許文献7)、および外科的処置(非特許文献8)の使用から生じる合併症もまた、近視の人にさらなるリスクを負わせる。米国において、近視の処置は推定で年間2億5000万ドルの費用がかかる(非特許文献9)。
【0005】
いくつかのリスクが環境要因に帰因することが研究により見いだされたが、双子の研究によって、遺伝率推定値が58〜90%の範囲であることから近視に対する強い遺伝的影響が示された(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13)。家族データを用いると、家族歴は強度の近視の有意な危険因子であったことが報告されている(非特許文献14)。いくつかの研究はまた、類似の知見を証明した(非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19)。しかしながら、いくつかの論文が感受性近視遺伝子の同定を報告しているが、いずれの研究も再現されておらず、したがって、この同定は非常に疑わしい。
【0006】
【非特許文献1】Invest Ophthalmol Vis Sci 1997;38-334-40
【非特許文献2】Optom Vis Sci 2001;78:234-9
【非特許文献3】J Formos Med Assoc 2001;100:684-91
【非特許文献4】Arch Ophthalmol 1983;101:405-7
【非特許文献5】Invest Ophthalmol Vis Sci 1997; 38:334-40
【非特許文献6】Curr Opin Ophthalmol 1998; 9:66-71
【非特許文献7】Cornea 2003;22:262-4
【非特許文献8】J Refract Surg 2003; 19:S247-9
【非特許文献9】Arch Ophthalmol 1994;112:1526-30
【非特許文献10】Invest Ophthalmol Vis Sci 2001;42:1232-6
【非特許文献11】Genet Epidemiol 1988;5:171-81
【非特許文献12】Hum Hered 1991;41:151-6
【非特許文献13】Br J Ophthalmol 2001;85:1470-6
【非特許文献14】Invest Ophthalmol Vis Sci 2004;45:3346-52
【非特許文献15】Optom Vis Sci 1996;73:279-82
【非特許文献16】JAMA 1994;271:1323-7
【非特許文献17】Invest Ophthalmol Vis Sci 2002;43:3633-40
【非特許文献18】Optom Vis Sci 1999;76:387-92
【非特許文献19】Invest Ophthalmol Vis Sci 2004;45:2873-8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、近視および/または近視関連合併症を診断する、処置する、予防する、または改善する方法が、当技術分野において必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の簡単な概要
本発明は、被験体から生物試料を得る段階;および生物試料におけるBICD1遺伝子において少なくとも一つのSNP遺伝子型を決定する段階であって、SNP遺伝子型の存在が、被験体が近視に対して感受性があることを示す段階を含む、被験体における近視および/または近視関連合併症を診断するための方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、BICD1遺伝子を発現する細胞に試験材料を接触させる段階、および対照と比較してBICD1遺伝子の発現を調整する材料を選択する段階を含む、被験体における近視および/または近視関連合併症を処置するための材料をスクリーニングするための方法を提供する。
【0010】
本発明はさらに、開示された方法によって得られる材料の薬学的有効量を被験体に投与する段階を含む、近視および/または近視関連合併症を処置、防止、または改善するための方法を提供する。
【0011】
本発明はさらに、BICD1遺伝子における少なくとも一つのSNP遺伝子型を検出する段階を含む方法であって、SNP遺伝子型の存在が、近視治療薬に対する陽性反応の可能性を示す、近視治療薬に対する反応の可能性に関して被験体を評価する方法を提供する。
【0012】
本発明はさらに、近視の検査方法、近視の検出方法、近視素因の検出方法、近視に関連する遺伝子マーカーの検出方法を提供する。
【0013】
本発明はさらに、BICD1遺伝子における一つまたは複数のSNP遺伝子型を検出するための一つまたは複数の試薬を含む、近視に関する感受性を検出するために試料をアッセイするためのキットを提供する。
【0014】
本発明(1)は、以下の段階を含む、被験体における近視および/または近視関連合併症を診断する方法である:
被験体から生物試料を得る段階;および
生物試料におけるBICD1遺伝子において少なくとも一つのSNP遺伝子型を決定する段階であって、SNP遺伝子型の存在が、被験体が近視に対して感受性があることを示す段階。
本発明(2)は、SNP遺伝子型がSNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、およびrs10771923からなる群より選択される、本発明(1)の方法である。
本発明(3)は、SNP rs10771923におけるGアレル、またはSNP rs1151029におけるTアレルの存在が、近視に対する感受性の増加を示す、本発明(1)の方法である。
本発明(4)は、感受性の増加が、相対リスクが少なくとも1.2であることを特徴とする、本発明(3)の方法である。
本発明(5)は、感受性の増加が、相対リスクが少なくとも1.3であることを特徴とする、本発明(3)の方法である。
本発明(6)は、SNP re7966276におけるAアレルの存在が、近視に対する感受性の減少を示す、本発明(1)の方法である。
本発明(7)は、感受性の減少が、相対リスクが少なくとも0.6であることを特徴とする、本発明(6)の方法である。
本発明(8)は、被験体が哺乳動物である、本発明(1)の方法である。
本発明(9)は、生物試料が血液試料、羊水、脳脊髄液、皮膚由来、筋肉由来、口腔由来、結膜粘膜由来、胎盤由来、または消化管由来の組織試料を含む、本発明(1)の方法である。
本発明(10)は、BICD1遺伝子における一つまたは複数のSNP遺伝子型を検出するための一つまたは複数の試薬、緩衝液、および酵素を含む、近視の感受性を検出するために被験体由来の試料をアッセイするためのキットである。
本発明(11)は、SNP遺伝子型がSNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、およびrs10771923からなる群より選択される、本発明(10)のキットである。
本発明(12)は、一つまたは複数の試薬が、BICD1遺伝子における少なくとも一つのSNP遺伝子型を含む領域に対して完全に相補的である少なくとも一つの隣接ヌクレオチド配列を含む、本発明(10)のキットである。
本発明(13)は、少なくとも一つの制限酵素をさらに含む、本発明(10)のキットである。
本発明(14)は、蛍光または化学発光材料をさらに含む、本発明(10)のキットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、近視および/または近視関連合併症を診断する方法としての、BICD1遺伝子の使用が提供された。
【0016】
[発明の詳細な説明]
詳細な説明を、添付の図面を参照しながら以下の態様に示す。
【0017】
本発明は、添付の図面を参照することによって以下の詳細な説明および実施例を読むことによってさらに完全に理解することができる。
【0018】
発明の詳細な説明
以下の説明は、本発明を実践するための最善であると考えられる様式の説明である。本説明は、本発明の全体的な原理を説明する目的のために成されるものであり、制限的な意味に解釈してはならない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照することにより最も的確に判断される。
【0019】
本発明の一つの局面において、本発明は、被験体から生物試料を得る段階、および生物試料におけるBICD1遺伝子において少なくとも一つのSNP遺伝子型を決定する段階であって、SNP遺伝子型における特定のアレルの存在が、被験体が近視に対して感受性があることを示す段階を含む、被験体における近視および/または近視関連合併症を診断するための新規な方法を提供する。本発明の診断は、SNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、およびrs10771923におけるアレルなどの、BICD1核酸における多型を検出することによって行われる。多型は、BICD1遺伝子によってコードされるポリペプチドにおける違いを引き起こす可能性があるか、または異なる転写活性を引き起こす可能性がある、一ヌクレオチドの変化などの、BICD1配列における変化であり得る。
【0020】
本発明の近視および/または近視関連合併症を診断する方法において、プライマー伸長(PinPointアッセイ、Massextend(商標)、SPC-SBE、またはGOODアッセイ)、ハイブリダイゼーション(TaqManアッセイ、ビーズアレイ、またはSNPチップ)、ライゲーション(コンビナトリアル蛍光エネルギー転移(CFET)タグ)、および酵素による切断(RFLP、Invader(登録商標)アッセイ)、PCR-SSCP(一本鎖高次構造多型)、MRD(ミスマッチ修復検出)、BeadArray(商標)、またはSNPlex(商標)を用いることができる。第一に、核酸(DNA)を含有する生物試料を被験体から採取する。被験体は哺乳動物、好ましくは近視および/または近視関連合併症を有するヒトまたは個体であり得る。被験体の例には、成人、小児、または胎児が含まれるがこれらに限定されるわけではない。生物試料は、血液試料、羊水試料、脳脊髄液試料、または皮膚由来、筋肉由来、口腔もしくは結膜粘膜由来、胎盤由来、消化管由来、もしくは他の臓器由来の組織試料などの、ゲノムDNAを含有する任意の起源から単離または回収することができる。次に、DNA試料を調べて、BICD1遺伝子の多型が存在するか否か、および/またはBICD1遺伝子におけるリスク遺伝子型の存在を決定する。一つの態様において、BICD1遺伝子における多型の存在は、TaqManアッセイによって示されうる。簡単に説明すると、PCRプライマーおよびTaqMan MGBプローブをPrimer Expressバージョン2.0によって設計する。GeneAmp 9700サーマルサイクラーによって96ウェルマイクロプレートにおいて反応を行うことができる。蛍光を、ABI Prism 7500配列検出システムによって測定して、ABI Prism 7500 SDSソフトウェアバージョン1.0によって分析することができる。もう一つの態様において、SNPの存在は、Mutat Res 2005; 573:70-82において記述されるように遺伝子型解析によって決定されうる。遺伝子型解析は、Illumina BeadArray技術(Sentrix(登録商標)アレイマトリクス)[Shen 2005 #135]によって行うことができる。DNAは、アレル特異的オリゴヌクレオチドにアニーリングし、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅する。アレイに基づくハイブリダイゼーションが起こり、遺伝子型解析はCy-3およびCy-5標識プライマーによって行われる。あるいは、市販の遺伝子チップも同様に、BICD1遺伝子におけるSNPの存在を決定するために用いることができる。Affymetrix Gene Chip(登録商標)ヒトマッピング500Kアレイセットには、それぞれが、平均で250,000個(Nspアレイに関して約262,000個およびStyアレイに関して238,000個)のSNPに対して遺伝子型解析を行うことができる二つのアレイが含まれる。ゲノムDNAは製造元の標準的な推奨に従ってハイブリダイズされる。遺伝子型はBRLMMクラスタリングアルゴリズムを用いて決定される。
【0021】
さらに、多型によって制限部位の作製または消失が起こる場合、制限消化を用いてBICD1遺伝子における多型を決定することができる。最初に、被験体由来のゲノムDNAの生物試料においてPCRを用いてBICD1遺伝子を増幅することができる。次に、RFLP分析を行う。関連するDNA断片の消化パターンは、BICD1遺伝子における特定のアレル(または遺伝子型)の有無を示し、したがって近視に対する感受性の有無または近視に対する感受性の減少を示す。別の態様において、配列分析を用いてBICD1遺伝子における多型を決定することができる。PCRまたは他の適当な方法を用いて、遺伝子または核酸、および/または望ましければその隣接配列を増幅することができる。BICD1核酸、または核酸の断片、またはBICD1ゲノムDNA、またはBICD1ゲノムDNAの断片の配列を、標準的な方法を用いて決定する。核酸、核酸断片、ゲノムDNA、またはゲノムDNA断片の配列を、遺伝子の公知の核酸配列と比較する。多型の特定のアレルまたは遺伝子型の存在は、被験体が近視および/または近視関連合併症に対して感受性を有することを示す。
【0022】
BICD1遺伝子に多型が存在するか否かを決定するための多くの方法が存在する。当業者は、使用するために適当な方法およびプロトコールを選択するであろう。これらおよび多くの他の方法は当業者に容易に明らかであると考えられ、本発明の範囲内である同等物であると見なされる。
【0023】
本発明の「近視に対する感受性」という用語は、特定のアレルまたはSNP遺伝子型が存在する場合に、近視のリスクの増加またはリスクの減少のいずれかを指す。本発明の「近視に対する感受性の減少」という用語は、特定の他のアレルまたはSNP遺伝子型が存在する場合に、相対的リスクがそれにしたがって減少したことを示す。本発明の「近視に対する感受性の増加」という用語は、特定の他のアレルまたはSNP遺伝子型が存在する場合に、相対的リスクがそれにしたがって増加したことを示す。一つの態様において、SNP rs10771923におけるGアレル、またはSNP rs1151029におけるTアレルが存在する場合、被験体が近視に対する増加した感受性を有することを示す。感受性の増加は、少なくとも1.2の相対リスクを特徴とする。他のの態様において、SNP re7966276においてAアレルが存在する場合、このことは被験体が近視に対する減少した感受性を有することを示す。感受性の減少は、少なくとも0.6の相対リスクを特徴とする。しかしながら、リスクの増加または減少が医学的に有意であるか否かを明らかにすることは、特異的疾患、マーカー、および環境要因を含む多様な要因に依存する可能性もあると理解される。
【0024】
本発明の別の局面において、本発明は、BICD1遺伝子を発現する細胞に試験材料を接触させる段階、および対照と比較してBICD1遺伝子の発現を調整する材料を選択する段階を含む、近視および/または近視関連合併症を処置するための材料(候補治療物質)をスクリーニングするための方法も提供する。
【0025】
BICD1遺伝子の多型(たとえば、SNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、およびrs10771923)もまた、近視および/または近視関連合併症を処置するための候補治療物質を同定するために用いることができる。この方法は、BICD1遺伝子の発現プロファイルを候補治療物質が変更させるか否かを決定するために、候補治療物質をスクリーニングすることに基づく。たとえば、細胞を、試験材料または試験材料の組み合わせに(連続的または同時に)曝露して、細胞におけるBICD1遺伝子の発現を測定する。試験細胞集団におけるBICD1遺伝子の発現プロファイルを、試験材料に曝露していない参照細胞集団におけるBICD1遺伝子の発現レベルと比較する。試験材料は、これまでに記述されていない化合物でありえるか、または抗近視物質であることが知られていないこれまで公知の化合物でありえる。試験物質の例には、化学化合物、低分子薬剤、糖質、ヌクレオチド、タンパク質、またはペプチド等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。たとえば、材料は低分子干渉RNAであってもよい。一つの態様において、試験材料は、SNP rs10771923、SNP rs1151029、またはSNP rs7966276の効果を通してBICD1遺伝子の発現に影響を及ぼすまたは調整することができ、それによって近視および/または近視関連合併症を予防、低減、および/または処置することができる。
【0026】
本発明のなおもう一つの局面において、本発明はさらに、近視治療物質の薬学的有効量を被験体に投与する段階を含む、近視および/または近視関連合併症を処置、予防、または改善するための方法を提供する。
【0027】
先に詳細に考察したように、BICD1遺伝子の発現レベルまたは活性を制御することによって、近視および/または近視関連合併症の予防、進行が制御されうる。このように、近視および/または近視関連合併症の処置または予防における可能性を秘める標的である候補物質は、BICD1遺伝子の発現レベルおよび/または活性を用いて試験化合物をスクリーニングすることによって同定することができる。
【0028】
本発明のなおもう一つの局面において、本発明はさらに、BICD1遺伝子におけるSNP遺伝子型を検出する段階であって、SNPにおける特定のアレルまたは遺伝子型の存在が近視治療物質に対する陽性反応の確率を示す段階を含む、近視の治療物質に対する反応の確率に関して被験体を評価する方法を提供する。
【0029】
本方法において、BICD1遺伝子に関連する遺伝子マーカーは、近視および/または近視関連合併症に対する感受性に関する個体の評価に関連して先に記述したように評価される。近視に関するリスクの増加に関連するアレルまたはSNP遺伝子型(たとえば、SNP rs10771923におけるGアレル、またはSNP rs1151029におけるTアレル)の存在は、近視治療物質に対する陽性反応の確率を示す。本発明の「陽性反応の確率」という用語は、被験体が、アレルまたはSNPを有しない被験体よりも近視治療物質に対して陽性反応を有する可能性が高く、被験体は近視および/または近視関連合併症のリスクの増加に関連しているという概念を指す。
【0030】
本発明のなおもう一つの局面において、本発明はさらに、BICD1遺伝子において一つまたは複数のSNP遺伝子型を検出するための一つまたは複数の試薬を含む、近視に関する感受性の検出のために被験体由来の生物試料をアッセイするためのキットを提供する。
【0031】
本明細書においてSNP検出試薬の文脈において用いられる「キット」という用語は、多数のSNP検出試薬の組み合わせ、または一つもしくは複数の他の要素もしくは構成要素(たとえば、他の種類の生化学試薬、容器、販売を意図した包装などの包装、SNP検出試薬が付着する物質、電子ハードウェア構成要素等)と組み合わせた一つもしくは複数のSNP検出試薬等を指すことが意図される。したがって、本発明はさらに、包装されたプローブおよびプライマーセット(たとえば、TaqManプローブ/プライマーセット)、核酸分子のアレイ/マイクロアレイ、および一つもしくは複数のプローブ、プライマー、または本発明の一つもしくは複数のSNPを検出するための他の検出試薬を含有するビーズを含むがこれらに限定されるわけではないSNP検出キットを提供する。キットには任意で、様々な電子ハードウェア構成要素が含まれうる;たとえば様々な製造元によって提供されるアレイ(DNAチップ)およびマイクロフルイディックシステム(「ラボオンチップ(lab-on-a-chip)」システム)は、典型的にハードウェア構成要素を含む。他のキット(たとえば、プローブ/プライマーセット)には電子ハードウェア構成要素が含まれないこともあるが、たとえば一つまたは複数の容器に包装された一つまたは複数のSNP検出試薬(任意で他の生化学試薬と共に)を含んでもよい。
【0032】
SNP検出キットは典型的に、一つまたは複数の検出試薬、およびアッセイまたはSNP含有核酸分子の増幅および/もしくは検出などの反応を行うために必要な他の構成要素(たとえば、緩衝液、DNAポリメラーゼまたはリガーゼなどの酵素、デオキシヌクレオチド三リン酸などの鎖伸長ヌクレオチド、およびSanger型DNAシークエンシング反応の場合には、鎖終結ヌクレオチド、陽性対照配列、陰性対照配列等)を含有する。キットはさらに、標的核酸の量を決定するための手段、および量を標準物質と比較するために手段を含有してもよく、関心対象SNP含有核酸分子を検出するためにキットを用いるための説明書を含みうる。一つの態様において、本明細書において開示される一つまたは複数のSNPを検出するための一つまたは複数のアッセイを行うために必要な試薬を含有するキットが提供される。もう一つの態様において、SNP検出キットは、核酸アレイ、またはマイクロフルイディック/ラボオンチップシステムを含む区画化キットの形態である。
【0033】
アレル特異的プローブなどの任意の数のプローブをアレイに組み込むことができ、それぞれのプローブまたはプローブの対は、異なるアレルの位置にハイブリダイズすることが可能である。ポリヌクレオチドプローブは、光照射化学プロセスを用いて、基板上の指定された領域で合成することができる(または、個々に合成して、指定された領域に付着させることができる)。各DNAチップは、たとえばグリッド様パターンに整列されて小型化された(たとえば、ダイム硬貨の大きさまで)、何千から何百万個もの個々の合成ポリヌクレオチドプローブを含有しうる。好ましくは、プローブは規則正しい位置特定可能なアレイにおいて固相支持体に付着する。
【0034】
本発明において、キットには、たとえばBICD1遺伝子において一つまたは複数のSNP遺伝子型を検出するための一つまたは複数の試薬が含まれ、試薬には、SNP遺伝子型を識別して検出するための少なくとも一つの材料または機器、緩衝液、および酵素が含まれる。材料の例には、BICD1遺伝子における少なくとも一つのSNP遺伝子型を含む領域と完全に相補的なヌクレオチド配列、特異的配列を認識するための制限酵素(たとえば、エンドヌクレアーゼ酵素)、標識された配列プライマー、または標識されたアレル特異的プローブが含まれるが、これらに限定されるわけではない。一つの態様において、近視に対する感受性を診断するためのキットは、リスクアレルまたは遺伝子型が近視を有する被験体においてより頻繁に存在する、SNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、および/またはrs10771923を含むBICD1遺伝子における領域の核酸増幅用のプライマーを含みうる。プライマーは、SNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、および/またはrs10771923に隣接する核酸の一部を用いて設計することができる。さらに、アレルの差に関する分析の後、質量分析、蛍光、または化学発光を用いてアレルの差を検出することができる。
【実施例】
【0035】
実施例1:第一段階でのゲノムスキャン
全体で約4000人の被験者を近視試験のために募集した。多様な起源の参加者が得られ、以下が含まれた:(1)軍に徴兵された若い男性、(2)大学の学生、(3)病院職員、および(4)眼科診療所の患者。片目の球面屈折力が≦-6.0 Dでありもう片方の眼の球面屈折力が≦-4.0 Dである個体を、強度の近視として分類した。被験者は、悪いほうの眼の球面屈折力が≧-1.5 Dである場合には対照として定義された。被験者は全員、年齢が17〜45歳であった。参加者は全て中国人の子孫であった。参加者は全員インフォームドコンセントを提出した。試験は、Kaohsiung Medical University, Kaohsiung, Taiwanの施設内審査委員会によって承認された。
【0036】
最初の段階において、Affimetrix Gene Chip(登録商標)ヒトマッピング500Kアレイセットを用いた。これは、それぞれが平均でSNP 250,000個(Nspアレイに関して約262,000個、およびStyアレイに関して238,000個)を遺伝子型解析を行うことが可能な、二つのアレイを含んだ。DNA試料の質を確保するために、DNAは全て、OD 260/280が1.7〜2.0であって、260/230は>1.0であることを必要とした。遺伝子型解析には、約1.5μg(50 ng/μlを30μl)のゲノムDNAが必要であった。遺伝子型解析データを得るためにBRLMMアルゴリズムを用いて画像を分析した。遺伝子型解析において問題を有する可能性があるSNPまたは試料を除去するために、以下の基準を用いた:試料当たりのコールレート(call rate)が少なくとも90%、SNP当たりのコールレートが少なくとも90%、マイナーアレルを有するSNPの出現率が少なくとも1%、およびハーディ-ワインベルク平衡にある遺伝子型(p>0.001)。併せて、SNP 380619個をさらなる分析のために検討した。
【0037】
各SNPと強度の近視状態との間のアレルおよび遺伝子型の関連を調べるために、PLINKプログラム(Am J Hum Genet 2007;81:559-75)を用いて遺伝子型およびアレル頻度を計算し、χ2検定を行った。異なる遺伝モデルにおける遺伝子型の関連を調査するために、遺伝子型データを、優性、劣性、および相加的モデルにコード化した。さらに、傾向試験も行った。共変動(性別および年齢)と共に遺伝効果をロジスティック回帰に含めた。各SNPと屈折の誤差との間の関連を調べるために、線形回帰モデルを適用した。-3 Dより大きい屈折誤差は台湾人集団において一般的であったことから、正常/軽度の近視(≧-3D)および強度の近視(≦-6D)として被験者を二分して、別々の表現型をロジスティック回帰モデルにおいて試験した。ロジスティック回帰分析に関して、屈折力が-3〜-6 Dである被験者は分析に含めなかった。ハプクラスタリング(Hap-clustering)を用いてハプロタイプ分析を行った。
【0038】
Affymetrix 500K SNPチップに関して、平均コールレートは98.7(97.4〜99.5の範囲)であった。初回分析は、最善の10個のSNPが最高のp値=0.0002を有することを示した。この10個のSNPは、第1、2、4、6、12、16、17、および21染色体に存在し、いずれも近位に存在しない。
【0039】
実施例2:第二段階におけるゲノムスキャン
第二段階において、最初に、中心として最善の10個のSNPを用いて、最善の10個のSNPそれぞれの周囲の200 kbのゲノム領域を、本発明者らの候補領域として選択した。その屈折誤差が<-6 Dまたは>-2.5 Dである独立した被験者1536人における追跡精密マッピングのために、全体で384個のタグ付けSNPを選択した。遺伝子型解析は、Illuminaビーズアレイ技術(Sentrix(登録商標)アレイマトリクス)(Mutat Res 2005;573:70-82)によって行った。DNAをアレル特異的オリゴヌクレオチドにアニーリングし、ポリメラーゼ連鎖反応によって増幅した。アレイに基づくハイブリダイゼーションが起こり、遺伝子型解析はCy-3およびCy-5標識プライマーによって達成された。遺伝子型解析のコーリング(calling)の品質を最高にするために、各SNPを30回複製した。
【0040】
第二段階における全体的なコールレートは97.1%であった。最も有意なSNP(rs 7966276)は染色体の12p11に在るBICD1遺伝子に存在し、p値<1.13×10-04であった。BICD1遺伝子における別の3個のSNPも同様に有意であった(SNP rs1151029,p=4.78×10-4;SNP rs2650122、p=3.65×10-2;SNP rs10771923、p=2.70×10-2)。
【0041】
実施例3:第三段階におけるゲノムスキャン
第三段階において、第II段階の結果に基づいて、最も有望なSNPを、TaqMan技術(Applied Biosystems [ABI], Foster City, USA)を用いて遺伝子型解析を行った。簡単に説明すると、PCRプライマーおよびTaqMan MGBプローブをPrimer Expressバージョン2.0を用いて設計した。反応はGeneAmp 9700サーマルサイクラーによって96ウェルマイクロプレートにおいて行った。蛍光をABI Prism 7500配列検出システムによって測定し、ABI Prism 7500 SDSソフトウェアバージョン1.0によって分析した。屈折誤差-6 D〜-1.5 Dを有する被験者を第III段階において用いた。
【0042】
第三段階では、BICD1遺伝子に焦点を当て、被験者3273人におけるSNP rs10771923、被験者3917人におけるSNP rs1151029、および被験者2962人におけるSNP rs7966276を含むより大きいデータセットにおいて三つのSNPに関して異なる遺伝モデルを用いて、遺伝効果を分析した。三つのSNPのアレル頻度を表1に記載する。表2を参照して、最も有意な結果は、二分された表現型(対照としての≧-3 D、および症例としての≦-6 D)から得られ、rs10771923のマイナーGアレルは相加効果を有し(p=0.00088、OR=1.22)、またはrs1151029のマイナーアレルTは優性の有害な効果を有した(p=0.00088、OR=1.3)。SNP rs7966276は、他の二つのSNPと比較すると、あまり有意でない結果を有した。表現型を連続的な形質として処理すると、三つのSNPは、表3に示される異なる有意な結果を示した。図1を参照すると、異なるジオプトリによって分けられるrs1151029のリスクTアレルの頻度が計算されている。x-軸は負のジオプトリ(×100)である。
【0043】
【表1】

MAF:マイナーアレルの頻度
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
本発明は、実施例によっておよび好ましい態様に関して説明してきたが、本発明は開示の態様に限定されないことが理解されるべきである。逆に、様々な改変および類似の取り合わせを包含することが意図される(当業者には明らかである)。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲は、そのような改変および類似の取り合わせを全てを包含するように、最も広い解釈に一致すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】異なるジオプトリによって分けられた、SNP rs1151029のリスクTアレルの頻度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、被験体における近視および/または近視関連合併症を試験する方法:
被検体由来の生物試料におけるBICD1遺伝子において少なくとも一つのSNP遺伝子型を決定する段階であって、SNP遺伝子型の存在が、被験体が近視に対して感受性があることを示す段階。
【請求項2】
SNP遺伝子型がSNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、およびrs10771923からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
SNP rs10771923におけるGアレル、またはSNP rs1151029におけるTアレルの存在が、近視に対する感受性の増加を示す、請求項1記載の方法。
【請求項4】
感受性の増加が、相対リスクが少なくとも1.2であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
感受性の増加が、相対リスクが少なくとも1.3であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
SNP re7966276におけるAアレルの存在が、近視に対する感受性の減少を示す、請求項1記載の方法。
【請求項7】
感受性の減少が、相対リスクが少なくとも0.6であることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
被験体が哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
生物試料が血液試料、羊水、脳脊髄液、皮膚由来、筋肉由来、口腔由来、結膜粘膜由来、胎盤由来、または消化管由来の組織試料を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
BICD1遺伝子における一つまたは複数のSNP遺伝子型を検出するための一つまたは複数の試薬、緩衝液、および酵素を含む、近視の感受性を検出するために被験体由来の試料をアッセイするためのキット。
【請求項11】
SNP遺伝子型がSNP rs7966276、rs1151029、rs2650122、およびrs10771923からなる群より選択される、請求項10記載のキット。
【請求項12】
一つまたは複数の試薬が、BICD1遺伝子における少なくとも一つのSNP遺伝子型を含む領域に対して完全に相補的である少なくとも一つの隣接ヌクレオチド配列を含む、請求項10記載のキット。
【請求項13】
少なくとも一つの制限酵素をさらに含む、請求項10記載のキット。
【請求項14】
蛍光または化学発光材料をさらに含む、請求項10記載のキット。

【図1】
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【公開番号】特開2010−94099(P2010−94099A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269322(P2008−269322)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(505302362)高雄醫學大學 (11)
【Fターム(参考)】