説明

近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂

【課題】 柔軟性が高く、湿熱時においても密着性良好で、剥がれ、発泡が生じることなく、しかも近赤外線吸収剤を安定に含有することができる近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂を提供する。
【解決手段】 次のモノマー(A)〜(D)
(A)ラウリルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシル メタクリレート 10〜30質量% (B)メタクリル酸 1〜10質量% (C)メチルメタクリレート 50〜88質量% (D)シクロオレフィン環含有モノマー 1〜30質量%を共重合して得られる、Tg−10〜70℃、重量平均分子量20〜50万の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂に関し、更に詳細には、プラズマディスプレイパネルなどの近赤外線を放出するデバイスの表面や、建物のガラスに貼付し、近赤外線を吸収する近赤外線吸収フィルムに使用される近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネルや、液晶パネルを利用した薄型テレビが普及されつつある。このうち、プラズマディスプレイパネルは、大型の薄型テレビに有利に使用されているが、このものは、近赤外線(以下、「NIR」という)を不要輻射として放出するという問題があり、テレビのリモコンなど周辺機器の誤作動を招くという問題があった。
【0003】
このNIRを有効に遮蔽し、可視光のみを透過させるために、近赤外線吸収フィルム(NIRフィルム)が使用されている。このNIRフィルムは、色素等のNIR吸収剤をマトリックス樹脂中に均一分散させ、これを透明プラスチックフィルム上に塗布することによって得られるものであるが、以下のような問題があった。
【0004】
すなわち、NIRフィルムのマトリックス樹脂として、ポリエステル系、メタクリル系等の透明性が高く、かつ染料安定性の高いものを使用した場合、このものはガラス転移点温度(Tg)が高く、柔軟性に劣るため、クラックや基材への密着性(浮き、ハガレ)の問題が生じるという欠点があった。また、機能性フィルムとして多層化する必要があるため、粘着材層をさらに積層する必要があるという問題もあった。
【0005】
一方、柔軟性が高く、粘着剤層の積層不要な低Tgバインダー樹脂を使用し、その粘着剤層にNIR染料を添加することも行われていたが、染料安定性が悪化し、近赤外線吸収能が低下し、樹脂が着色するという問題が生じていた。
【0006】
最近、染料耐久性の良好なバインダー樹脂として、いくつかのものが報告されている。例えば、染料退色が少なく、湿熱時の発泡、白濁、ハガレが抑制されたNIRフィルム用バインダー樹脂として、(メタ)アクリル系モノマーと脂環構造含有モノマーを共重合したものが報告されている(特許文献1)。しかし、本文献の実施例中での染料濃度が低く、その評価温度も60℃と低いため、十分な性能が得られていないものと考えられる。
【0007】
また、特許文献2の実施例には、染料の安定性が高く、基材密着性の良好なNIRフィルム用バインダー樹脂として、(メタ)アクリル系モノマーと脂環構造含有モノマーを共重合したアクリル系ポリマーにMMAホモポリマーをブレンドしたものが記載されている。しかし、本発明者らの確認したところでは、このものも特許文献1と同様、染料の安定性、基材密着性が十分ではないものであった。
【0008】
更に、2−エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸、メチルメタクリレートおよびシクロヘキシルメタクリレートを共重合したNIRフィルム用バインダー樹脂も、特許文献3の合成例1に開示されている。しかし、このものは、数平均分子量が5,800と小さいため、含まれるNIR吸収剤である色素の褪色性を上げる働きは弱いと判断されるものである。
【0009】
更にまた、特許文献4には、NIRフィルム用バインダー樹脂の構成モノマーとして、ラウリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等が例示されている。しかし、このものはフッ素系重合体を必須構成成分として含むものであり、フッ素重合体を含まない場合は、クラック発生や、塗膜の色彩変化などの問題が生じることが、第16頁の表2に示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−182793
【特許文献2】特開2005−239999
【特許文献3】特開2002−249721
【特許文献4】特開2004−115718
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、柔軟性が高く、湿熱時においても密着性良好で、剥がれ、発泡が生じることなく、しかもNIR吸収剤の褪色を防ぎ、安定に含有することができるNIR用バインダー樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、種々のポリマーをブレンドし、その接着性や、各種NIR吸収用染料に対する、特に湿熱条件下での褪色抑制作用を検索していたところ、特定のモノマーを共重合させて得られる(メタ)アクリル系コポリマーは、接着性、柔軟性が優れ、温湿条件下でも基材からの剥がれや、ふくれが発生せず、NIR吸収用染料の褪色防止性にも優れたものであることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、次のモノマー(A)〜(D)
(A)ラウリルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシル
メタクリレート 10〜30質量%
(B)メタクリル酸 1〜10質量%
(C)メチルメタクリレート 50〜88質量%
(D)シクロオレフィン環含有モノマー 1〜30質量%
を共重合して得られる、Tg−10〜70℃、重量平均分子量20万〜50万のNIRフィルム用バインダー樹脂である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のNIRフィルム用バインダー樹脂は、特定のモノマー組成でTgを低くしているため、Tgが比較的低いにも拘わらず、湿熱時においても密着性良好で、剥がれ、発泡が生じないものであり、また、染料の耐退色性も良好なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のNIRフィルム用バインダー樹脂は、次のモノマー(A)〜(D)を常法に従って共重合して得られる、Tg−10〜70℃、重量平均分子量20万〜50万のものである。
(A)ラウリルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシル
メタクリレート 10〜30質量%
(B)メタクリル酸 1〜10質量%
(C)メチルメタクリレート 50〜88質量%
(D)シクロオレフィン環含有モノマー 1〜30質量%
【0016】
上記モノマーのうち、モノマー(A)は、共重合物のTgを下げるととに柔軟性を高める作用を有するものである。このモノマー(A)としては、ラウリルメタクリレートまたは2−エチルヘキシルメタクリレートを単独で使用しても、また、これらを組み合わせて使用してもよい。これらのモノマー(A)を使用することにより、得られる共重合物の柔軟性を向上させながら、基材への密着性を高め、更に染料を安定に保持できるのであり、ここで用いるモノマーを他の近似するモノマー、例えば、2−エチルヘキシルメタクリレートを2−エチルヘキシルアクリレートに代えても同様な効果を得ることはできない。
【0017】
また、モノマー(B)は、共重合物の柔軟性を高めるとともに、例えば、PETのようなフィルム基材との密着性を強める作用を有するものであり、モノマー(C)は、バインダー樹脂の主体となるものである。
【0018】
更に、モノマー(D)であるシクロオレフィン環含有モノマーは、共重合物の極性を上げ、密着性を高める作用を行うものである。このモノマー(D)の例としては、ジシクロペンタニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロドデシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソブチルシクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
本発明の、上記モノマー(A)から(D)により得られる共重合物(以下、「本発明重合物」という)の製造は、既に公知の方法により実施することができる。すなわち、上記した量のモノマー(A)ないし(D)および必要により他の重合性成分を反応器に取った後、光または熱により重合を行うことによって得られる。本発明重合物を得るための重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、分散重合、塊状重合等、公知の重合方法が用いられるが、中でも、溶液重合によることが好ましい。
【0020】
上記方法において使用される反応開始剤としては、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤などの熱重合開始剤やアセトフェノン系開始剤、ベンゾインエーテル系開始剤、ケタール系開始剤などの光重合開始剤を使用することができる。
【0021】
より具体的に熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキシド、ジ−n−オクタノイルパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジベンゾイルパーオキシド(BPO)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルハイドロパーオキシド、ジ−t−ブチルハイドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2'−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2'−アゾビス(N,N'−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート等のアゾ系開始剤などが挙げられる。
【0022】
また、光重合開始剤としては、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α′−ジメチルアセトフェノン、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン系開始剤;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル系開始剤;ベンジルジメチルケタール等のケタール系開始剤;ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ハロゲン化ケトン、アシルホスフェノキシド、アシルホスフェナート等が挙げられる。
【0023】
本発明においては、上記のうちでも油溶性の熱重合開始剤、なかでもアゾ系開始剤を使用することが好ましい。
【0024】
更に、本発明重合物は、発明の効果を阻害しない範囲で架橋させることができる。架橋方法としては、1分子中に2以上の不飽和結合を有する多官能モノマーを共重合する方法、バインダー樹脂中に架橋剤と反応性を有するモノマーを共重合し、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等の架橋剤を添加する方法などがあるが、多量の多官能モノマーや架橋剤を使用すると樹脂の柔軟性が失われたり、樹脂の粘度が高くなり過ぎるおそれがあるため好ましくない。また、架橋剤と反応性を有する官能基や、架橋剤の反応器が近赤外線吸収染料を褪色させるおそれがあるため多量の使用は好ましくない。
【0025】
また、本発明重合物の製造に当たり、必要によりモノマー(A)〜(D)に配合させることのできる重合性成分としては、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、n−ラウリルアクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ(メタ)アクリレート;ブトキシジエチレンギリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシエチレングリコール(メタ)アクリレート;アクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を含有するモノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を含有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマー;酢酸ビニル、アクリロニトリル等が挙げられる。このうち、(A)〜(D)モノマーとの共重合性、相溶性が良好で、近赤外線吸収染料の安定性も良好な、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシ(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0026】
その他のモノマーは、本発明の効果を阻害しない範囲で使用可能であるが、モノマー(A)〜(D)100重量部に対し、0〜10重量部の範囲で使用することが好ましい。なお、上記その他のモノマーのうち、官能基含有モノマーは近赤外線吸収染料の褪色の原因となる場合があり、また、酢酸ビニル、アクリロニトリル等の(A)〜(D)モノマーとの相溶性の悪いモノマーは湿熱時の白化やハガレの原因となる場合もあるため、5重量部以下、さらには1重量部以下の割合で使用することが好ましい。
【0027】
かくして得られる本発明重合物のうち、Tgが−10〜70℃、好ましくは、20〜70℃で、重量平均分子量20万〜50万、好ましくは20万〜40万のものが本発明のNIRフィルム用バインダー樹脂として利用することができる。
【0028】
重合物のTgが、−10℃未満では、染料の褪色が十分に押さえられない場合があり、また、70℃を超える場合は、柔軟性が失われ、クラックを生じる場合があり、NIRフィルム用バインダー樹脂としては好ましくない。また、重量平均分子量が、20万未満では、基材との密着性が悪くなったり、作業性が低下することがあり、一方、50万を超える場合は、粘度が高くなり塗工すじが生じることがあり、共にNIRフィルム用バインダー樹脂としては好ましくない。
【0029】
なお、Tgを前記範囲内のものとするためには、ホモポリマーのTgが比較的高いモノマー(B)〜(D)と、ホモポリマーのTgが比較的低いモノマー(A)を前記使用量範囲内でTgが−10〜70℃になるように共重合すればよく、本発明バインダー樹脂は、モノマー(A)であるラウリルメタクリレート及び/または2−エチルヘキシルメタクリレートを共重合することで、バインダー樹脂に柔軟性、基材密着性を付与しながら、染料を安定に保持することができる。また、重量平均分子量を前記範囲のものとするためには、重合温度、開始剤量、モノマー濃度等を制御すればよい。
【0030】
以上のようにして得られる本発明のNIRフィルム用バインダー樹脂の好ましい構成例の一つを示せば、次の通りである。
【0031】
下記モノマー(a)〜(d)を共重合した、Tg69℃程度、Mw22万程度の高分子。
(a)ラウリルメタクリレート 13質量%
(b)メタクリル酸 1質量%
(c)メチルメタクリレート 76質量%
(d)ジシクロペンタニルメタクリレート 5質量%
シクロヘキシルメタクリレート 5質量%
【0032】
かくして得られる本発明のNIRフィルム用バインダー樹脂は、例えば、これを適当な有機溶媒に溶解ないしは懸濁した後、NIR吸収剤等と混合し、次いで、支持体フィルムに塗工し、乾燥して有機溶媒を除去することにより、NIRフィルムを調製することができる。
【0033】
本発明のバインダー樹脂に混合して使用されるNIR吸収剤としては、800〜1200nmに吸収極大波長を有するNIR吸収染料が挙げられ、具体的には、フタロシアニン系色素、ジインモニウム系色素、ジチオール金属錯体系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラキノン系色素等が挙げられる。中でも、近赤外線吸収性能が高く、可視光領域の透過率の高い、ジインモニウム系染料を使用することが好ましい。ジインモニウム系染料は非常に染料褪色を起こしやすい染料であるが、本発明のバインダー中に分散することで、褪色を抑えることができる。
【0034】
上記のジインモニウム系染料としては、下記式(I)で表される、850〜1200nmに吸収極大波長を有する化合物を使用することが好ましい。
【化1】

(式中、Rは互いに同一もしくは異なって、水素、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、フェニル基もしくはハロゲン化アルキル基を示し、Xは陰イオンを示す。nは1又は2の数である)
【0035】
上記式(I)において、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−iso−プロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−iso−プロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル1−iso−プロピルブチル基、2−メチル−1−iso−プロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられ、
【0036】
また、基Rのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、フリル基、ピリジル基等が挙げられ、ハロゲン化アルキル基としては、フッ化アルキル基、塩化アルキル基、臭化アルキル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、メトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ジメトキシメチル基、ジエトチキシメチル基、ジメトキシエチル基、ジエトキシエチル基等が挙げられる。
【0037】
更に、基Xの陰イオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、プロピル硫酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ベンゼンスルフィン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酢酸イオン、安息香酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、マロン酸イオン、オレイン酸イオン、ステアリン酸イオン、クエン酸イオン、ペンタクロロスズ酸イオン、クロロスルホン酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン等が挙げられ、中でも、トリフルオロメタンスルホン酸イオンなどの、ハロゲン含有陰イオンを使用することが好ましい。
【0038】
また、支持体フィルムとしても特に制約はないが、ポリエステル系、アクリル系、セルロース系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリカーボネート系、フェノール系、ウレタン系等のプラスチックフィルム、またはこれらの任意の2種類以上を貼り合わせたものが挙げられる。好ましくは、耐熱性、柔軟性のバランスが良好なポリエステル系フィルムであり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムである。
【0039】
なお、NIR吸収剤を含むNIRフィルム用バインダー樹脂の、塗工、乾燥後の厚さは、透明度を高く維持するためには、1ないし100μm程度が好ましく、特に、10ないし50μmが好ましい。
【0040】
本発明のNIRフィルム用バインダー樹脂は、特定のモノマー組成を選択することにより、Tgが比較的低いにもかかわらず、湿熱時においても密着性良好で、剥がれ、発泡が生じないものとしたものである。
【0041】
そして、このバインダー樹脂は、染料に良好な耐褪色性を与えるので、これを利用することにより、NIR吸収剤として働く染料の褪色を防止しながら、特に湿熱時における基材からのハガレや発泡のない、優れた密着性を有するNIRフィルムを調製することが可能である。
【実施例】
【0042】
以下、製造例および実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらに何ら制約されるものではない。
【0043】
実 施 例 1
バインダー樹脂の調製
撹拌機、環流冷却管、温度計及び窒素道入管を備えた反応装置に、ラウリルメタクリレート(LMA)17重量部、メタクリル酸(MAA)2重量部、メチルメタクリレート(MMA)61重量部、ジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)20重量部およびトルエン60重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコ内の内容物を79℃に昇温した。次いで、重合開始剤ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を0.6重量部添加し、反応温度を79〜85に保ちながら6.5時間反応させ、重量平均分子量21万のポリマー(バインダー樹脂)を得た。
【0044】
得られたポリマーの固形分100重量部に対して、ジインモニウム系染料(CIR−1085、日本カーリット(株)製)2重量部を添加し、固形分25%に調製した後、50μmPETフィルム上に乾燥厚が10μmになるように塗工し、100℃で5分乾燥させ、NIR吸収フィルムを得た。
【0045】
実 施 例 2
実施例1に準じた製造法により、下記表1に示す組成で、NIR用バインダー樹脂(以下、「NIR用樹脂」ということがある)を調製した。得られた各樹脂について、実施例1と同様にしてNIR吸収フィルムを作製し、下記方法で透過率、密着性および塗工性を調べた。この結果を表2に示す。なお、表中には、実施例1のものも示した。
【0046】
NIR用樹脂組成:
【表1】

【0047】
評 価 方 法 :
< 透過率 >
表1の各樹脂を、PETフィルム(厚さ50μm)上に、乾燥厚が10μmとなるように塗工し、NIRフィルムを調製した。まず、このNIRフィルムの1100nmおよび430nmの透過率を、紫外可視分光光度計UVmini―1240(島津製作所(株))で測定し、初期透過率とした。
【0048】
次いで、各NIRフィルムを、80℃×90%RHで300時間放置した後、再度1100nm、430nmの透過率を、紫外可視分光光度計UV mini―1240(島津製作所(株))で測定し、湿熱後透過率とした。
【0049】
< 密着性 >
樹脂の基材フィルムへの密着性を基盤目テープ法により評価した。まず、表1で得られた樹脂を機材フィルム(03PEEW、帝人フィルム社製)に乾燥厚が25μmになるように塗工し、23℃で24時間乾燥させた。次いで、樹脂塗膜側に幅1mmの傷を基盤目状(100マス)に作った後、基材フィルム側をガラス板に両面テープで固定した。更に、基盤目状の傷の付いた塗膜に市販のテープ(Scotch 3M社製)を密着させ、このテープを90゜剥離(接着面に対し、垂直方向に引っ張り、剥離させる)で剥がしたときの塗膜の剥がれにより密着性を評価した。評価は、剥離が0〜15%未満、15〜35%未満、35〜65%未満および65%以上の4段階で行った。
【0050】
結 果 :
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のNIRフィルム用バインダー樹脂は、柔軟性が良く、湿熱時においても密着性良好で、剥がれ、発泡が生じないものであり、また、NIR吸収剤である染料の耐退色性も良好なものである。
【0052】
従って、本発明のバインダー樹脂を用いて調製されるNIRフィルム等は、PDPディスプレイを始め、NIRを遮蔽する目的のフィルムとして利用価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のモノマー(A)〜(D)
(A)ラウリルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシル
メタクリレート 10〜30質量%
(B)メタクリル酸 1〜10質量%
(C)メチルメタクリレート 50〜88質量%
(D)シクロオレフィン環含有モノマー 1〜30質量%
を共重合して得られる、Tg−10〜70℃、重量平均分子量20万〜50万の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。
【請求項2】
モノマー(D)が、ジシクロペンタニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロドデシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレートおよびイソブチルシクロヘキシルメタクリレートから選ばれたモノマーの一種または二種以上である請求項1記載の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。

【公開番号】特開2008−38069(P2008−38069A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216554(P2006−216554)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】