説明

近赤外線吸収部材用組成物およびそれを用いた近赤外線吸収部材。

【課題】 近赤外領域を大きく、かつ幅広く吸収するとともに、液晶装置等の製造工程中に近赤外吸収性能を損なうことのない、耐熱性に優れた近赤外線吸収部材用組成物およびそれを用いた近赤外線吸収部材を提供する。
【解決手段】 (A)式(1);
【化1】


(式中、Rは、ジアルキルアミノ基、置換または無置換のモルホリノ基、置換または無置換のピペリジノ基、置換または無置換のピロリジノ基、置換または無置換のチオモルホリノ基、置換または無置換のピペラジノ基等の環状アミノ基、アリール基もしくはアルキル基を示す。Aは、アンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンを示す。)で表される置換ベンゼンジチオールニッケル錯体、(B)多官能(メタ)アクリルモノマー、および(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む近赤外線吸収部材用組成物、およびそれを用いた近赤外線吸収部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収部材用組成物およびそれを用いた近赤外線吸収部材に関する。さらに詳しくは、液晶装置等の近赤外線吸収部材等に好適に使用しうる近赤外線吸収部材用組成物およびそれを用いた近赤外線吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶装置は、一般に、2枚の配向膜を有する透明電極基板を、配向膜を内側にしてスペーサーにより対向保持された2枚の透明電極基板間に、該基板の周囲を密封状態にして液晶を充填した構造を有する。前記2枚の透明電極基板間に電荷を印加して、内部に充填された液晶の特定の部分を配向させることにより、文字、数字、絵等を表示することができる。
【0003】
このような液晶装置の製造方法としては、一般に、(1)ガラス等からなる2枚の各透明基板上に透明電極を形成し、(2)各透明基板の透明電極上に熱硬化性樹脂等で透明配向膜を形成し、(3)次いで両透明基板の一方または両方の配向膜上にスペーサーを散布した後、(4)両透明基板を対向保持した状態でその周囲を熱硬化性樹脂等の密封剤で密封し、(5)最後に両透明基板と密封剤とで形成される空間に液晶を充填する方法が知られている。
【0004】
前記製造方法では、配向膜の材料や密封剤に熱硬化性樹脂を使用するため、これら熱硬化性樹脂を硬化処理する工程が必要となる。この熱硬化性樹脂の硬化処理工程は、作業時間の短縮および該工程で得られる組立部品の強度向上の観点から、一般に、150〜350℃度程度の高温で行われる。
【0005】
一方、近年、液晶装置は、テレビ等を中心に大型化が進んでおり、それに伴って、液晶装置に使用するバックライトの強度も強くなってきている。一般に、バックライトには蛍光管を用いているが、蛍光管はオン−オフ時に近赤外線を発する傾向にあるため、コードレスフォンやリモートコントローラ等の電子機器の誤動作を引き起こす可能性がある。そこで、近赤外線を吸収・カットする方法として、例えば、置換スルホニルベンゼンジチオールニッケル錯体を含む近赤外線吸収色素およびこれを用いた近赤外線吸収材(特許文献1参照)等が提案されている。しかしながら、特許文献1に開示されている近赤外線吸収材は、上記の高温での硬化処理工程の際に、近赤外線吸収色素が劣化してしまい、充分な近赤外線吸収性能を維持できない等の問題があった。
【0006】
そこで、耐熱性を有する近赤外線吸収部材用組成物およびそれを用いた近赤外線吸収部材が望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−288380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、近赤外領域を大きく、かつ幅広く吸収するとともに、液晶装置等の製造工程中に近赤外吸収性能を損なうことのない、耐熱性に優れた近赤外線吸収部材用組成物およびそれを用いた近赤外線吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)式(1);
【0010】
【化1】

(式中、Rは、ジアルキルアミノ基、置換または無置換のモルホリノ基、置換または無置換のピペリジノ基、置換または無置換のピロリジノ基、置換または無置換のチオモルホリノ基、置換または無置換のピペラジノ基等の環状アミノ基、アリール基もしくはアルキル基を示す。Aは、アンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンを示す。)で表される置換ベンゼンジチオールニッケル錯体、(B)多官能(メタ)アクリルモノマー、および(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む近赤外線吸収部材用組成物、およびそれを用いた近赤外線吸収部材に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、近赤外領域を大きく、かつ幅広く吸収するとともに、液晶装置等の製造工程中に近赤外吸収性能を損なうことのない、耐熱性に優れた近赤外線吸収部材用組成物およびそれを用いた近赤外線吸収部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の近赤外線吸収部材用組成物は、(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体、(B)多官能(メタ)アクリルモノマー、および(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含むことを特徴とする。
【0013】
(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体としては、式(1)で表される。
【0014】
【化2】

【0015】
式(1)中、Rは、ジアルキルアミノ基、置換または無置換のモルホリノ基、置換または無置換のピペリジノ基、置換または無置換のピロリジノ基、置換または無置換のチオモルホリノ基、置換または無置換のピペラジノ基等の環状アミノ基、アリール基もしくはアルキル基を示す。
【0016】
前記Rの具体例としては、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−メチルエチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−エチル−iso−プロピルアミノ基、N,N−ジ−iso−プロピルアミノ基、N,N−ジ−n−プロピルアミノ基、N,N−ジ−n−ブチルアミノ基、N,N−ジ−iso−ブチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;モルホリノ基、2−メチルモルホリノ基、3−メチルモルホリノ基、4−メチルモルホリノ基、2−エチルモルホリノ基、4−n−プロピルモルホリノ基、3−n−ブチルモルホリノ基、2,4−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルモルホリノ基、4−フェニルモルホニル基等の置換または無置換のモルホリノ基;ピペリジノ基、2−メチルピペリジノ基、3−メチルピペリジノ基、4−メチルピペリジノ基、2−エチルピペリジノ基、4−n−プロピルピペリジノ基、3−n−ブチルピペリジノ基、2,4−ジメチルピペリジノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基、4−フェニルピペリジノ基等の置換または無置換のピペリジノ基;ピロリジノ基、2−メチルピロリジノ基、3−メチルピロリジノ基、4−メチルピロリジノ基、2−エチルピロリジノ基、4−n−プロピルピロリジノ基、3−n−ブチルピロリジノ基、2,4−ジメチルピロリジノ基、2,5−ジメチルピロリジノ基、4−フェニルピロリジノ基等の置換または無置換のピロリジノ基;チオモルホリノ基、2−メチルチオモルホリノ基、3−メチルチオモルホリノ基、4−メチルチオモルホリノ基、2−エチルチオモルホリノ基、4−n−プロピルチオモルホリノ基、3−n−ブチルチオモルホリノ基、2,4−ジメチルチオモルホリノ基、2,6−ジメチルチオモルホリノ基、4−フェニルチオモルホリノ基等の置換または無置換のチオモルホリノ基;ピペラジノ基、2−メチルピペラジノ基、3−メチルピペラジノ基、4−メチルピペラジノ基、2−エチルピペラジノ基、4−n−プロピルピペラジノ基、3−n−ブチルピペラジノ基、2,4−ジメチルピペラジノ基、2,6−ジメチルピペラジノ基、4−フェニルピペラジノ基、2−ピリミジルピペラジノ基等の置換または無置換のピペラジノ基;フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−n−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−クロロ−4−ブロモフェニル基、4−アミノフェニル基、2,4−ジアミノフェニル基、2,4−ジニトロフェニル基、2−アセチルフェニル基、4−アセチルフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−メチルチオフェニル基、4−メチルチオフェニル基等のアリ−ル基;メチル基、エチル基、iso−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、neo−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基等のアルキル基等が挙げられる。これらの中でも、(B)多官能(メタ)アクリルモノマー、および(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体との相溶性を向上させる観点から、N,N−ジイソブチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基が好適に用いられる。
【0017】
式(1)中、Aは、アンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンを示す。
【0018】
アンモニウムイオンの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム、テトラベンジルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、テトラ−n−デシルアンモニウム、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、1−ドデシルピリジニウム、N−メチルピリジニウム、等が挙げられる。
【0019】
ホスホニウムの具体例としては、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラ−n−ブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラベンジルホスホニウム、トリメチルベンジルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウム、ヘキサデシルトリ−n−ブチルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、n−ブチルトリフェニルホスホニウム等が挙げられる。
【0020】
これらのアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンの中でも、(B)多官能(メタ)アクリルモノマー、および(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体との相溶性を向上させる観点から、テトラ−n−ブチルアンモニウム、テトラ−n−ブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウムが好適に用いられる。
【0021】
これらの(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
これらの(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体の中でも、(B)多官能(メタ)アクリルモノマー、および(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体との相溶性を向上させる観点から、テトラ−n−ブチルアンモニウム ビス[4−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケル、テトラ−n−ブチルアンモニウム ビス[4−(モルホリノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケル、ビス[4−(ピペリジノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケル、テトラ−n−ブチルホスホニウム ビス[4−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケル、テトラフェニルホスホニウム ビス[4−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケル、メチルトリフェニルホスホニウム ビス[4−(モルホリノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケルが好適に用いられる。
【0023】
式(1)で示される(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体は、例えば、特開平9−309886号公報、特開平10−45767号公報に開示されている様に、例えば置換ハロゲノベンゼンと水硫化物とを硫黄および鉄紛の存在下、極性有機溶剤中で反応させ、置換ベンゼンジチオールの鉄錯体を形成させた後、ニッケルのハロゲン化物と反応させ、次にAに該当するアンモニウム塩、ホスホニウム塩と反応させて合成することが出来る。
【0024】
(B)多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、2官能以上の(メタ)アクリル基〔なお、本明細書においては、「アクリ」および「メタクリ」を合わせて「(メタ)アクリ」と表記する。以下同様。〕を有するモノマーであれば特に限定されない。具体例としては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのビス(アクリロイロキシエチル)エーテル、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(B)多官能(メタ)アクリルモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの(B)多官能(メタ)アクリルモノマーの中でも、近赤外線吸収部材用組成物から得られる膜の強度や、耐溶剤性の観点から、3官能以上の(メタ)アクリル基を有するモノマー、とりわけ、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレーが好適に用いられる。
【0025】
(B)多官能(メタ)アクリルモノマーの使用量は、近赤外線吸収部材用組成物から得られる膜の強度や、平滑性の観点から、(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体100質量部に対して通常3〜220質量部が好ましく、20〜180質量部がより好ましい。
【0026】
(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルと不飽和カルボン酸類との共重合体であれば特に限定されない。また、共重合体の形態(ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体)は、特に限定されない。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の置換または無置換アルキルエステル;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、メンチル(メタ)アクリレート、シクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキセニル(メタ)アクリレート、シクロヘプテニル(メタ)アクリレート、シクロオクテニル(メタ)アクリレート、メンタジエニル(メタ)アクリレート、シクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ピナニル(メタ)アクリレート、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデシルオキシエチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルネニル(メタ)アクリレート、ピネニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートおよびジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の脂環式基を有する(メタ)アクリル酸エステル;オリゴエチレングリコールモノアルキル(メタ)アクリレート等の鎖状エーテル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート等の環状エーテル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体および(B)多官能(メタ)アクリルモノマーとの相溶性、ならびに、近赤外線吸収部材用組成物から得られる膜の耐熱性の観点から、(メタ)アクリル酸の無置換または置換アルキルエステル、脂環式基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、とりわけ、メチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好適に用いられる。
【0028】
不飽和カルボン酸類としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸およびそれらの無水物;α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸等が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸類は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸類の中でも、(メタ)アクリル酸が好適に用いられる。
【0029】
また、本発明に用いられる(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体においては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;(メタ)アクリロニトリルおよびα−クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物等が共重合成分として含まれていても良い。
【0030】
これらの(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
これらの(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体の中でも、近赤外線吸収部材用組成物から得られる膜の耐熱性、および相溶性の観点から、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体が好適に用いられる。
【0032】
(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体の使用量は、近赤外線吸収部材用組成物から得られる膜の強度や、平滑性の観点から、(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体100質量部に対して25〜500質量部が好ましく、50〜450質量部がより好ましい。
【0033】
本発明の近赤外線吸収部材用組成物には、基板への塗布性の観点から、溶媒を添加することが好ましい。溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;メチルセロソルブアセテートおよびエチルセロソルブアセテート等のエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、メトキシペンチルアセテート等のアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;3−エトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル等のエステル類;γ−ブチロラクトン等の環状エステル類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、(A)置換ベンゼンジチオール錯体に対する溶解性の観点からメチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノンが好適に用いられる。
【0034】
溶媒の使用量は、(A)置換ベンゼンジチオールニッケル錯体1質量部に対して10〜50質量部が好ましく、15〜25質量部がより好ましい。
【0035】
また、本発明の近赤外線吸収部材用組成物には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、レベリング剤、分散剤等を添加することもできる。
【0036】
本発明の近赤外線吸収部材用組成物は、近赤外領域を大きく、かつ幅広く吸収するとともに、耐熱性に優れているため、液晶装置等の製造工程中に近赤外吸収性能を損なうことのない、種々の近赤外線吸収部材を提供することができる。
【0037】
近赤外線吸収部材用組成物を用いて近赤外線吸収部材を製造する方法としては、例えば、前記近赤外線吸収部材用組成物に光硬化反応に用いられる重合開始剤を添加し、基材に塗布後、加熱乾燥することにより溶剤を除去し、光硬化により硬化させる方法等が挙げられる。
【0038】
光硬化の際に用いられる重合開始剤としては、重合開始剤の反応性、および、近赤外線吸収部材用組成物から得られる膜の強度や、平滑性の観点から、例えば、トリアジン化合物、ケトン化合物(アセトフェノン化合物等)またはその誘導体、ビイミダゾール化合物、オキシム系化合物、多官能チオール化合物等が挙げられる。
【0039】
トリアジン化合物としては、例えば、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−(4−メトキシナフチル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−ピペロニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−(4−メトキシスチリル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−[2−(5−メチルフラン−2−イル)エテニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−[2−(フラン−2−イル)エテニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−[2−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)エテニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0040】
ケトン化合物またはその誘導体としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−(4−メチルベンジル)−2−モルホリノ−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オンのオリゴマー、2−オクタンジオン、1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−2−(O−ベンゾイルオキシム)等が挙げられる。
【0041】
ビイミダゾール化合物としては、例えば、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(2、3−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール〔例えば、特開平9−197118号公報、特開2001−116918号公報参照〕、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ(アルコキシフェニル)ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ(ジアルコキシフェニル)ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ(トリアルコキシフェニル)ビイミダゾール〔例えば、特開平6−75372号公報、特開平6−75373号公報参照〕、4,4’5,5’−位のフェニル基がカルボアルコキシ基により置換されているイミダゾール化合物〔特公昭48−38403号公報参照〕等が挙げられる。
【0042】
オキシム化合物としては、O−アシルオキシム系化合物が挙げられ、その具体例としては、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−ブタン−1,2−ジオン−2−オキシム−O−ベンゾアート、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−オクタン−1,2−ジオン−2−オキシム−O−ベンゾアート、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−オクタン−1−オンオキシム−O−アセタート、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−ブタン−1−オンオキシム−O−アセタート等が挙げられる。
【0043】
多官能チオール化合物は、分子中にチオール基を複数有する化合物であり、特に脂肪族炭素にチオール基が結合する脂肪族多官能チオール化合物が好ましい。脂肪族多官能チオールとしては、例えば、ヘキサンジチーオル、デカンジチオール、1,4−ジメチルメルカプトベンゼン等;ブタンジオールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレ−ト、ブタンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリスヒドロキシエチルトリスチオプロピオネート等の多価ヒドロキシ化合物の多価チオグリコレートまたは多価チオプロピオネート等が挙げられる。
【0044】
これらの重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、本発明の効果を損なわない程度であれば、この分野で通常用いられている重合開始剤等を併用することができ、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系重合開始剤;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系重合開始剤;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等のチオキサントン系重合開始剤;9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン等のアントラセン系重合開始剤;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアントラキノン、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、フェニルグリオキシル酸メチル、チタノセン化合物等が挙げられる。
【0046】
また、重合開始剤は、重合開始助剤と組み合わせて使用することもできる。重合開始助剤を併用した際には、重合開始剤の光に対する反応性が向上し、液晶装置を製造する際の生産性が向上するため、より好ましい。重合開始助剤としては、例えば、アミン系化合物、アルコキシアントラセン系化合物、チオキサントン系化合物等が挙げられ、これら重合性開始助剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
アミン系化合物としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸2−ジメチルアミノエチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル、N,N−ジメチルパラトルイジン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(通称ミヒラーズケトン)、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(エチルメチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0048】
アルコキシアントラセン系化合物としては、例えば、9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン等が挙げられる。
【0049】
チオキサントン系化合物としては、例えば、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等が挙げられる。
【0050】
また、重合開始助剤として、市販のものを用いることもでき、例えば、商品名「EAB−F」(保土谷化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
重合開始剤の量は、近赤外線吸収部材用組成物中の(B)多官能(メタ)アクリルモノマー100質量部に対して、2〜150質量部が好ましく、より好ましくは12〜120質量部である。硬化温度、硬化時間は本発明の近赤外線吸収部材の用途、形状、使用する重合開始剤の種類により異なるため一概には言えないが、一般に、硬化温度は0〜100℃が好ましく、より好ましくは10〜40℃である。硬化時間は0.01〜15分間が好ましく、より好ましくは0.1〜10分間である。
【0052】
近赤外線吸収部材用組成物を塗布する基材としては、ガラス、樹脂等の透明部材が挙げられる。樹脂としては環状オレフィン系共重合体(開環重合、付加重合)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、TAC(トリアセチルセルロース)樹脂、PES(ポリエーテルサルフォン)樹脂、PET樹脂等の透明性の高いものが好ましい。
【0053】
基材への塗布方法としては、通常スピンコート法が用いられるが、バーコート法やスリットコート法、スリット・アンド・スピンコート法等も用いることができる。
【0054】
硬化方法としては、公知の技術を用いることができ、例えば、紫外線、電子線、波長400〜500nmの可視光線等の活性エネルギー線を照射する方法等が挙げられる。紫外線および波長400〜500nmの可視光線の線源(光源)には、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ガリウムランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ等を使用することができる。電子線源には、熱電子放射銃、電解放射銃等を使用することができる。
【0055】
照射する活性エネルギー線量は、5〜2000mJ/cmであることが好ましく、さらには工程上管理しやすいことから50〜1500mJ/cmであることが好ましい。
【0056】
また、硬化の際に、ネガマスクを介して紫外線を照射して露光部を硬化した後、非露光部を現像液に溶解させて現像することで、基材上に近赤外線吸収部材用組成物をパターニングすることもできる。すなわち近赤外線吸収部材をフォトレジストとして使用することができる。現像後は必要に応じて、150〜230℃で10〜60分間程度の後硬化(ポストベーク)を施すこともできる。
【0057】
前記現像液としては、通常、希アルカリ溶液(アルカリ性化合物と界面活性剤を含む水溶液等)を使用する。前記アルカリ性化合物は、無機物および有機物のいずれでもよい。無機アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、燐酸水素二ナトリウム、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二アンモニウム、燐酸二水素アンモニウム、燐酸二水素カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0058】
有機アルカリ性化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
【0059】
これらの無機および有機アルカリ性化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0060】
現像液中のアルカリ性化合物の濃度は、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.03〜5質量%である。
【0061】
また、現像液中の界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤のいずれでもよい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等のポリオキシエチレン誘導体;オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0062】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、オレイルアルコール硫酸エステルナトリウム等の高級アルコール硫酸エステル塩類;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類等が挙げられる。
【0063】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のアミン塩または第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0064】
これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いることも、また2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0065】
現像液中の界面活性剤の濃度は、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜8質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
【実施例】
【0066】
以下、合成例、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0067】
各実施例および比較例で得られた近赤外線吸収部材の評価を、以下の手順により測定した。
【0068】
(1)透過率
得られた近赤外線吸収部材の試験前の透過率を、分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U−4100、測定波長:860nm)により測定した。
【0069】
測定後、近赤外線吸収部材を、200℃に調整した恒温槽(ADVANTEC社製、型番:DRM620DA)内で1時間静置させた。その後、室温まで冷却し、上記と同様の方法により、試験後の透過率を測定した。
【0070】
[合成例1]
4−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−1,2−ジクロロベンゼン66.7g(0.2モル)に、N,N−ジメチルホルムアミド146g、70%水硫化ナトリウム33.6g(0.42モル)を加え、65℃で3時間反応させた。この溶液に鉄粉5.9g(0.11モル)および硫黄末6.7g(0.21モル)を添加し、110℃で6時間反応させた。
【0071】
この反応液を室温まで冷却し、塩化ニッケル(II)6水和物22.9g(0.1モル)を添加して室温で3時間反応させた。更に、反応液にテトラブチルアンモニウムブロマイド32.2g(0.1モル)を添加し、室温で空気を吹き込みながら2時間反応させた。
【0072】
得られた反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、目的とする緑色の置換ベンゼンジチオールニッケル錯体D1〔テトラ−n−ブチルアンモニウム ビス[4−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケル〕を40.5g得た。この錯体の近赤外線領域での最大吸収波長は866nmであり、モル吸光係数は14900であった。
【0073】
[合成例2]
4−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−1,2−ジクロロベンゼン66.7g(0.2モル)に、N,N−ジメチルホルムアミド146g、70%水硫化ナトリウム33.6g(0.42モル)を加え、65℃で3時間反応させた。この溶液に鉄粉5.9g(0.11モル)および硫黄末6.7g(0.21モル)を添加し、110℃で6時間反応させた。
【0074】
この反応液を室温まで冷却し、塩化ニッケル(II)6水和物22.9g(0.1モル)を添加して室温で3時間反応させた。更に、反応液にテトラブチルホスホニウムブロマイド33.9g(0.1モル)を添加し、室温で空気を吹き込みながら2時間反応させた。
【0075】
得られた反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、目的とする緑色の置換ベンゼンジチオールニッケル錯体D2〔テトラ−n−ブチルホスホニウム ビス[4−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−1,2−ベンゼンジチオラート−S,S’]ニッケル〕42.1g得た。この錯体の近赤外線領域での最大吸収波長は867nmであり、モル吸光係数は14400であった。
【0076】
[実施例1]
メチルエチルケトン6g(20質量部)を入れた50mL容のビーカーに、合成例1と同様の方法により得た置換ベンゼンジチオールニッケル錯体D1を0.3g(1質量部)、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(モル比:30/70)0.67g(24質量部)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート0.45g(1.5質量部)を添加し、撹拌により均一に溶解させ、近赤外線吸収部材用組成物を得た。
【0077】
得られた近赤外線吸収部材用組成物に、重合開始剤として2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン0.09g(0.3質量部)を添加し、溶解した。
【0078】
得られた溶液を、スピンコーター(アクティブ株式会社製、型番:ACT−300A)を用いて、ガラス基板上に塗布し、100℃で3分間乾燥することによって緑色塗膜を得た。この塗膜を、UV硬化装置(セン特殊光源株式会社製、型番:HLR100T−1)を用いて大気雰囲気下、露光量1000mJ/cmで光照射し、厚さ2μmの近赤外線吸収部材を得た。
【0079】
得られた近赤外線吸収部材の透過率は、11.3%Tであった。また、200℃、1時間静置後の透過率は、28.6%Tであった。
【0080】
[実施例2]
メチルエチルケトン6g(17.6質量部)を入れた50mL容のビーカーに、合成例1と同様の方法により得た置換ベンゼンジチオールニッケル錯体D2を0.34g(1質量部)、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(モル比:30/70)0.67g(1.97質量部)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート0.45g(1.32質量部)を添加し、撹拌により均一に溶解させ、近赤外線吸収部材用組成物を得た。
【0081】
得られた近赤外線吸収部材用組成物に、重合開始剤として2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン0.09g(0.26質量部)を添加し、溶解した。
【0082】
得られた溶液を、スピンコーター(アクティブ株式会社製、型番:ACT−300A)を用いて、ガラス基板上に塗布し、100℃で3分間乾燥することによって緑色塗膜を得た。この塗膜を、UV硬化装置(セン特殊光源株式会社製、型番:HLR100T−1)を用いて大気雰囲気下、露光量1000mJ/cmで光照射し、厚さ2μmの近赤外線吸収部材を得た。
【0083】
得られた近赤外線吸収部材の透過率は、7.51%Tであった。また、200℃、1時間静置後の透過率は、18.95%Tであった。
【0084】
[比較例1]
メチルエチルケトン6g(20質量部)を入れた50mL容のビーカーに、合成例1と同様の方法により得た置換ベンゼンジチオールニッケル錯体D1を0.3g(1質量部)、ポリメチルメタクリレート0.59g(2.24質量部)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート0.45g(1.5質量部)を添加し、撹拌により均一に溶解させ、近赤外線吸収部材用組成物を得た。
【0085】
得られた近赤外線吸収部材用組成物に、重合開始剤として2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン0.09g(0.3質量部)を添加し、溶解した。
【0086】
得られた溶液を、スピンコーター(アクティブ株式会社製、型番:ACT−300A)を用いて、ガラス基板上に塗布し、100℃で3分間乾燥することによって緑色塗膜を得た。この塗膜をUV硬化装置(セン特殊光源株式会社製、型番:HLR100T−1)を用いて大気雰囲気下、露光量1000mJ/cmで光照射し、厚さ2μmの近赤外線吸収部材を得た。
【0087】
得られた近赤外線吸収部材の透過率は、9.4%Tであった。また、200℃、1時間静置後の透過率は、91.6%Tであった。
【0088】
[比較例2]
メチルエチルケトン6g(24質量部)を入れた50mL容のビーカーに、合成例1と同様の方法により得た置換ベンゼンジチオールニッケル錯体D1を0.25g(1質量部)、ポリメチルメタクリレート0.99g(3.96質量部)を添加し撹拌により均一に溶解させ、近赤外線吸収部材用組成物を得た。
【0089】
得られた溶液を、スピンコーター(アクティブ株式会社製、型番:ACT−300A)を用いて、ガラス基板上に塗布し、100℃で3分間乾燥することによって近赤外線吸収部材を得た。
【0090】
得られた近赤外線吸収部材の透過率は、5.2%Tであった。また、200℃、1時間静置後の透過率は、94.8%Tであった。
【0091】
実施例1〜2の近赤外線吸収部材は、比較例1〜2の近赤外線吸収部材と比較して、熱処理前後で透過率の大きな劣化が見られず、耐熱性および充分な近赤外線吸収能を有することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(1);
【化1】

(式中、Rは、ジアルキルアミノ基、置換または無置換のモルホリノ基、置換または無置換のピペリジノ基、置換または無置換のピロリジノ基、置換または無置換のチオモルホリノ基、置換または無置換のピペラジノ基等の環状アミノ基、アリール基もしくはアルキル基を示す。Aは、アンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンを示す。)で表される置換ベンゼンジチオールニッケル錯体、(B)多官能(メタ)アクリルモノマー、および(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む近赤外線吸収部材用組成物。
【請求項2】
(B)多官能(メタ)アクリルモノマーが、3官能以上の(メタ)アクリル基を有するモノマーである請求項1に記載の近赤外線吸収部材用組成物。
【請求項3】
(C)(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、(メタ)アクリル酸エステルと不飽和カルボン酸類との共重合体である請求項1または2に記載の近赤外線吸収部材用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収部材用組成物を、基板上に塗布し、硬化して得られる近赤外線吸収部材。

【公開番号】特開2010−18735(P2010−18735A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181640(P2008−181640)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】