説明

近赤外蛍光を発する医療具及び医療具位置確認システム

【課題】シャントチューブ等の医療具の位置をX線を使うことなく確認する。
【解決手段】波長が600nm〜1400nmの近赤外光が照射されることにより蛍光を発する発光剤が表面に塗布されるか又は練り込まれた発光可能な医療具1と、この医療具1に向かって上記近赤外光2を照射する光源3と、上記医療具1の発光剤が発する近赤外蛍光を受光するカメラ4と、このカメラ4が撮影した画像5を映し出すモニタ6とを具備してなる医療具位置確認システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光が照射されることにより近赤外蛍光を発する医療具及びこの医療具が発する近赤外蛍光を受光して医療具の位置を確認することができる医療具位置確認システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療従事者には、患者の体内に挿入したり留置したりする医療具(ステント、コイル塞栓子、カテーテルチューブ、注射針、シャントチューブ、ドレーンチューブ、インプラント等)の体内での位置を確認したいという要望がある。例えば、透析など注射針を特定の血管に入れる際に、注射針がはたして確実に目的の血管に入っているのか否かを施術中に確認したいという要望がある。
【0003】
従来、上述した医療具の位置確認は、一般的にはX線を患者に照射し、その透視画像を
観察することによって行われている。
【0004】
また、患者内に挿入されたカテーテルの進行方向や位置を確認するための手段として、カテーテルに光ファイバを取り付ける等してカテーテルを光導波型に構成し、このカテーテルの遠位端を発光させることが提案されている。近赤外光をカテーテルに入射し、遠位端から発する近赤外光を患者の体外から光検出器で検出し、カテーテルの先端の位置を検知しようというものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−528818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療具の位置の確認にX線を使用する方法は、施術している間に術者と患者がX線の被
爆を受け続けるという問題がある。また、X線を透過する樹脂製の医療具には利用し難いという問題がある。
【0007】
また、光導波型カテーテルを用いる方法は、カテーテルの先端等カテーテルのポイントしか検知できず、医療具の全体の位置、向き、姿勢等を検知し難いという問題がある。
【0008】
したがって、本発明は上記不具合を解消することができる医療具およびこの医療具の位置検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用する。
【0010】
なお、本発明の理解を容易にするため図面の参照符号を括弧書きで付するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】
すなわち、請求項1に係る発明は、波長が600nm〜1400nmの近赤外光(2)が照射されることにより近赤外蛍光を発する発光剤が表面に塗布されるか又は練り込まれた近赤外蛍光を発する医療具(1)を採用する。
【0012】
請求項2に記載されるように、請求項1に記載の近赤外蛍光を発する医療具において、医療具(1)の本体がシャントチューブであり、上記発光剤が上記本体の全表面に塗布されるか又は上記本体の全体に練り込まれたものとすることができる。
【0013】
また、請求項3に係る発明は、波長が600nm〜1400nmの近赤外光(2)が照射されることにより近赤外蛍光を発する発光剤が表面に塗布されるか又は練り込まれた発光可能な医療具(1)と、この医療具(1)に向かって上記近赤外光(2)を照射する光源(3)と、上記医療具(1)の発光剤が発する近赤外蛍光を受光するカメラ(4)と、このカメラ(4)が撮影した画像(5)を映し出すモニタ(6)とを具備してなる医療具位置確認システムを採用する。
【0014】
請求項4に記載されるように、請求項3に記載の医療具位置確認システムにおいて、上記医療具(1)の本体がシャントチューブであり、上記発光剤が上記本体の全表面に塗布されるか又は上記本体の全体に練り込まれたものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、医療具(1)の位置を、X線を用いることなく簡易かつ安全に検知することができるので、患者や医療従事者の放射線被曝を回避することができる。また、医療具(1)の全体の位置、向き、姿勢等を簡易かつ正確に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る医療具位置確認システムの説明図である。
【図2】患者の体内に挿入されたシャントチューブの位置を確認している状態を示す説明図である。
【図3】患者の血管内に挿入されたステントの位置を確認している状態を示す説明図である。
【図4】患者の血管内に挿入された注射針の位置を確認している状態を示す説明図である。
【図5】患者の血管内に挿入されたカテーテルの位置を確認している状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
<実施の形態1>
図1及び図2に示すように、この医療具位置確認システムでは、近赤外蛍光を発する医療具1と、この医療具1に向かって近赤外光2を照射する光源3と、上記医療具1の発光剤が発する蛍光を受光するカメラ4と、このカメラ4が撮影した医療具1の画像5を映し出すモニタ6とが用いられる。
【0019】
医療具1は、具体的にはシャントチューブである。このシャントチューブの表面には、波長が600nm〜1400nmの近赤外光2が照射されることにより近赤外蛍光を発する発光剤が塗布される。あるいは、発光剤が医療具1であるシャントチューブの形成材料となる樹脂に予め練り込まれる。
【0020】
発光剤としては、近赤外光の照射により発光する例えばインドシアニングリーンを用いることができる。発光剤はいうまでもなく人体もしくは動物に使用可能な薬剤である。
【0021】
光源3としては、近赤外光2を発するLED等が用いられる。近赤外光2は人体7を比較的透過しやすく、人体7の組織表面下5mm〜20mm程度まで透過可能である。また、近赤外光2は上記発光剤を発光させるのに適した波長域のものがよく、600nm〜1400nmの波長域のものを使用することができる。発光剤がインドシアニングリーンである場合は、波長域は望ましくは700nm〜1100nmである。
【0022】
上記医療具1が組織表面下5mm〜20mmの深さに挿入された人体7の部位に向かって、光源3から近赤外光2が照射されると、上記医療具1が近赤外蛍光を発する。
【0023】
カメラ4は上記医療具1の発光剤が発する近赤外蛍光を受光素子によって受光することにより、上記医療具1の全体を撮像可能である。すなわち、上記医療具1の発光剤が発する近赤外蛍光が人体7の組織を透過し、これをカメラ4が受光し医療具1を撮影する。また、人体7の輪郭等も同時に撮影する。
【0024】
なお、このカメラ4による撮像はモノクロームであってもよいし、カラーであってもよい。また、カメラ4はそのレンズの周りに上記光源3が環状に設けられたものであってもよい。これにより、医療具1をより適正に撮影することが可能となる。
【0025】
モニタ6は、上記カメラ4が撮影した医療具1の画像5を映写面にモノクローム又はカラーで映し出す。術者等の医療従事者はモニタ6に表示される医療具1の画像5を見て、医療具1の人体1内での位置、姿勢、向き等を確認することができる。
【0026】
次に、上記構成の医療具位置確認システムの作用について説明する。
【0027】
(1)図1及び図2に示すように、近赤外蛍光を発する医療具1であるシャントチューブが術者によって患者の体内に挿入される。
【0028】
シャントチューブは、水頭症の治療において患者の皮下を通して腹腔内に髄液を排出するために使用されるもので、患者の頭部7aから腹部7bへと、表皮下5mm〜20mmの深さで通される。
【0029】
(2)医療具1であるシャントチューブが患者の体内に通される間、光源3から上記波長域の近赤外光2が患者に照射される。
【0030】
この光源3から近赤外光2が患者の表皮下の医療具1に当たることによって医療具1の全体が近赤外蛍光を発し、この近赤外蛍光がカメラ4によって受光され、モニタ6によって医療具1の全体画像が表示される。また、人体7の表面で反射する反射光もカメラ4に受光されることにより、人体7の輪郭画像もモニタ6上に医療具1と共に表示される。
【0031】
(3)術者等の医療従事者はモニタ6に表示される医療具1および人体7の画像を見ながら、医療具1の先端の進行方向や医療具1の全体の位置、姿勢、向き等を確認しつつ手術、治療等を行う。
【0032】
これにより、水頭症の患者に施術中、施術後のシャントチューブが皮下のどこを通って腹腔内まで留置したかX線を使用することなくルート確認を行うことができる。
【0033】
<実施の形態2>
図3に示すように、この実施の形態2で用いられる医療具1は、血管8内に挿入されるステントである。
【0034】
この実施の形態2では、脳動脈瘤の開頭手術中、外科的アプローチに血管内アプローチとして発光剤が塗布された又は練り込まれたステントが併用され、または、開胸手術中、外科的アプローチに血管内アプローチとして発光剤が塗布された又は練り込まれたステントが併用されている。
【0035】
この外科手術中、光源3から近赤外光2が患部に向かって体外より照射され、これにより患部内の医療具1から発せられる蛍光がカメラ4で受光され、その結果ステントの全体画像がモニタ6にリアルタイムで映し出される。
【0036】
かくて、外科手術中に、術者等はX線を使用することなく、血管8や臓器表面から医療
具1であるステントの位置、姿勢等を容易に確認しつつ施術することができる。
【0037】
<実施の形態3>
図4に示すように、この実施の形態3で用いられる近赤外蛍光を発する医療具1は、血管8内に挿入される注射針である。
【0038】
この実施の形態3では、医療具1である注射針が患者の静脈に皮膚9の上から穿刺される。この注射針の表面には上記発光剤が塗布されている。
【0039】
この注射針による医療行為の際、光源3から近赤外光2が患部に向かって皮膚9の上から照射され、これにより患者の皮膚下の注射針から発せられる蛍光がカメラ4で受光され、その結果注射針と静脈である血管8の全体画像がモニタ6にリアルタイムで映し出される。この場合、静脈血中の還元型ヘモグロビンが近赤外光のうち、600nm〜800nmの波長成分を吸収するので、静脈はモニタ6上に黒色で映写され、医療具1である注射針はその表面が発する近赤外蛍光色が皮膚外に透過するのでモニタ6上に近赤外蛍光色で映写される。
【0040】
かくて、術者等はX線を使用することなく、患者の皮膚9の上から血管8と注射針の位
置関係を確認しつつ注射針を静脈内に簡易かつ正確に刺入することができる。
【0041】
本発明者等の試験によれば、皮下2cm程度の深部であっても注射針と血管とを視認することが可能であった。
【0042】
<実施の形態4>
図5に示すように、この実施の形態4で用いられる近赤外蛍光を発する医療具1は、血管8内に挿入されるカテーテルである。
【0043】
このカテーテルの表面には上記発光剤が塗布されるか、又はカテーテルの材料中に練り込まれている。
【0044】
開胸手術中、露出した血管8内に、このカテーテルを挿入する際、光源3から近赤外光2が露出した血管8に向かって照射され、これにより患者の血管8内のカテーテルから発せられる蛍光がカメラ4で受光され、その結果カテーテルと血管8の全体画像がモニタ6にリアルタイムで映し出される。この場合、医療具1であるカテーテルはその表面が発する近赤外蛍光色が血管8外に透過するのでモニタ6上に近赤外蛍光色で映写される。
【0045】
この実施の形態4では、血管8は動脈であり、カテーテルが大動脈から頸動脈へと挿入されつつある。この動脈中、符号8aは下行大動脈を示し、符号8bは腕頭動脈を示す。
【0046】
かくて、術者等はX線を使用することなく、患者の血管8の外から血管8内のカテーテ
ルの先端や全体の位置、先端の進行方向等を確認しつつカテーテルを動脈内に簡易かつ正確に挿入することができる。
【0047】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、以下のような形態にも適用可能である。
【0048】
(1)例えば上記実施の形態では水頭症、血管の施術や、シャントチューブ、ステントの使用について説明したが、他の施術、医療具についても本発明を適用可能である。例えば、医療具として、コイル塞栓子、カテーテルチューブ、ドレーンチューブ、インプラントについても適用可能である。
【0049】
(2)また、腹腔鏡手術中に、胆管や膵管にステントを留置する場合に、血管や臓器表面から、X線を使用することなくステントの位置、姿勢、向き等を確認することができ、
静脈にカテーテルを入れる際に、発光剤に適した波長と静脈が吸収しやすい波長の赤外光を一緒に照射しカメラで撮影することによって、静脈と医療具である注射針やカテーテルの位置確認を同時に行い、注射針やカテーテルが正確に静脈に入っているか否かを確認することができる。
【0050】
(3)また、透析針のカニューラの抜去時にカニューラ先端が離断し血管中に取り残されることがあるが、そのような場合であっても、蛍光剤が塗布等されたカニューラであれば、離断したカニューラ先端が皮膚下のどの位置に残留しているかを簡易かつ正確に同定し、非侵襲的な対処が可能となる。
【0051】
(4)人間への医療行為だけでなく、動物医療にも適用可能である。
【0052】
(5)チューブ等を患者の体内に留置後、このチューブ等に発光剤である蛍光試薬を注入、投与することで、X線、電子線等を用いることなくチューブ等を同定可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…医療具
2…近赤外光
3…光源
4…カメラ
5…画像
6…モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が600nm〜1400nmの近赤外光が照射されることにより近赤外蛍光を発する発光剤が表面に塗布されるか又は練り込まれたことを特徴とする近赤外蛍光を発する医療具。
【請求項2】
請求項1に記載の近赤外蛍光を発する医療具において、医療具の本体がシャントチューブであり、上記発光剤が上記本体の全表面に塗布されるか又は上記本体の全体に練り込まれたことを特徴とする近赤外蛍光を発する医療具。
【請求項3】
波長が600nm〜1400nmの近赤外光が照射されることにより近赤外蛍光を発する発光剤が表面に塗布されるか又は練り込まれた発光可能な医療具と、この医療具に向かって上記近赤外光を照射する光源と、上記医療具の発光剤が発する近赤外蛍光を受光するカメラと、このカメラが撮影した画像を映し出すモニタとを具備したことを特徴とする医療具位置確認システム。
【請求項4】
請求項3に記載の医療具位置確認システムにおいて、上記医療具の本体がシャントチューブであり、上記発光剤が上記本体の全表面に塗布されるか又は上記本体の全体に練り込まれたことを特徴とする医療具位置確認システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115535(P2012−115535A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268934(P2010−268934)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】